インタビュー
[インタビュー]社長のボヤキ 番外編 ブシロードの木谷社長をお迎えしてボヤく,三者三様に社長がやっていること―――「本当に思ってることって,やっぱり言えないわけじゃないですか」
それに気をよくしたのか,突如「ゲストを呼びましょう」と言い出したのが,Yostarの李社長です。いやいや待ってよ,あれ何気に結構危ないこと言ってるし,こんな雑談に付き合ってレピュテーションリスクを背負ってくれる社長なんているわけないでしょう? と思ってたんですが,いました。
カードゲーム界隈やプロレス界隈では,その名を知らぬ人はいない,ブシロードの木谷社長です。しかも,「こういう連載があってですね」「はい了解」という,ノータイムレスポンス。
大変ありがたいと思いつつ,Yostarと4Gamerにとっては,会社としても,経営者としても,まるっきり格の違う大先輩であるわけで,そもそも木谷さんが何かをしゃべって僕らはそれを理解できるんだろうか,ブシロードから見たら僕らなんてサークルみたいなものじゃないだろうか,そんな状態で一体何を話せばいいんだろうか,と悩みながら,ブシロードのある中野坂上に……。
4Gamer編集長兼社長Kazuhisa(以下,Kazuhisa):
本日はお時間いただきましてありがとうございます。
これそもそもの企画は,僕と李さんという中小企業の社長が2人でダラダラとクダ巻いてしゃべってるだけの話だったんですけど,なぜか急にゲストをお呼びしようという話になり……。
ブシロード 代表取締役社長 木谷高明氏(以下,木谷氏):
いやいやちょっと待って。もう中小企業じゃないでしょう?
Kazuhisa:
あぁ,李さんは違いますね確かに。
Yostar 代表取締役社長 李 衡達氏(以下,李氏):
いやいや,零細企業ですよ。
木谷氏:
ふふふ。
Kazuhisa:
ちゃんと人数で決めようよ(笑)。
木谷氏:
今何人くらいいらっしゃるんですか,社員は。
李氏:
今は……200人ちょっとです。
木谷氏:
もう事実上「中小企業」ではないですよね。あと売上も結構あるだろうしね。
Kazuhisa:
ですよね。
李氏:
いやいや,企業がやってることと,会社の年数とか文化で決めましょうよ。
Kazuhisa:
そろそろ中小企業を脱却したほうでいいですよ。うちは小さい企業だけど。
李氏:
でも50人いるじゃない。
木谷氏:
50人いらっしゃるんですか。
Kazuhisa:
はい。最初は2人だったんですけど,そこからゆっくりと増え続けて50人です。
木谷氏:
メディアって,ネームバリューの割には社員数が少ない場合がありますよね。例えばラジオ局とかね,すごい少ない。
Kazuhisa:
確かにすごく小人数でやってるとこありますよね。
木谷氏:
普通にみんなが知ってる名前の局でも,30人くらいしかいなかったりするよね。
Kazuhisa:
僕が外注がちょっと苦手で何でも中に抱え込みたがるので,そんなこんなで50人くらいに。
李氏:
いやそれいいと思いますよ。
Kazuhisa:
クオリティコントロールはしやすいんだけどね。
李氏:
すごく分かります。
Kazuhisa:
まぁでも50人くらいになると頭打ち感がありますね。これ以上は難しいな,と。
木谷さんは2回創業して,2回IPOして,しかもこの大きさにしてるのすごいと思います。
※1994年に株式会社ブロッコリーを設立し,同社は2001年にJASDAQに上場した。2007年は株式会社ブシロードを立ち上げ,2019年に東証グロース上場
木谷氏:
いやいや,それ何度も言ってるんですけど,1回目が失敗したから2回目があるんですよ。
Kazuhisa:
いやでも2度は普通にすごいし,しかもエンタメですし。
木谷氏:
まあ,そうですね。
Kazuhisa:
製造業とかよりも先が読みづらいといいますか。
木谷氏:
まあでも1回目うまくいった人は,結構うまくいくんですよ。
Kazuhisa:
そういうものなんですか?
木谷氏:
あとまぁ,飲み会とかでの鉄板ネタの笑い話ですけど,上場は2回ですけど結婚は1回ですっていう。
(全員笑)
Kazuhisa:
そういう(笑)。
木谷氏:
あーでもこれはカットしたほうがいいのかな。
李氏:
最近はいろいろ厳しいですからねえ。
Kazuhisa:
たまに,一体どこに気を遣っているのか分からないNGワードとかもあるけど。
李氏:
つまんないですよね。
Kazuhisa:
なにかというと,すごく叩かれるしね。不寛容の嵐。
木谷氏:
やたら叩かれますよね。
Kazuhisa:
木谷さんは,なんか炎上しがちですよね。
木谷氏:
炎上はまあ,そんなには気にしてないですけどね。
李氏:
僕もです。炎上が怖かったらそもそもできない仕事だし。
Kazuhisa:
まぁそれはそうか……。
でもお二方ともIPを持ってるので,ちょっとメディアとは違うかも?
YostarはIPを持ってると誤解されがちですし,実際ブシロードさんのカードゲームに許諾も出してますけど,あくまでも代理の身分ですよ。
木谷氏:
でもIPホルダーであっても,100%全部そのIPを保有してるというタイトルもそんなにないかと。
Kazuhisa:
なるほど。
木谷氏:
出版社だって出版権しかなかったりするしね。出版権と窓口の権利があるだけだったり。
Kazuhisa:
確かにそうですね。
木谷氏:
まぁあと必ず「原作者」という人がいるわけですから,完全にそのIPを100%持ってるパターンは意外と少ないんじゃないかな。
Kazuhisa:
この間別件でバンナムの人と話してて,タイトルとか作品を嫌いになることがあっても,普通はIPを嫌いにならないですよ,という話をしていて。
関連記事:[インタビュー]アプリの分析をしてその結果をゲームに反映させてみたら,売上が20倍になったんです。バンダイナムコネクサスが語る,データ分析によって「出来ること」とその重要性【PR】
木谷氏:
ん? どういう意味?
Kazuhisa:
例えば,このIPがコミカライズされたのはあんま好きじゃないとか,そのIPで作られた映画は好きじゃないとか。
木谷氏:
あーそういうことか。
Kazuhisa:
そのIPを使ったゲームはイマイチだったねということがあっても,そのIPは嫌いにならない。だからそこをちゃんと大事にしないとダメなんですよねという話をしていて,個人的にはなるほどなと思いました。
李氏:
(クスクス)
Kazuhisa:
え,ちょっと。何で笑ってるの(笑)。
その理屈はちょっと分かんない。
Kazuhisa:
あれ,ダメ?
李氏:
うん全然分かんない。
Kazuhisa:
僕は個人的にはちょっと納得したんだけどなぁ。
李氏:
確かに納得できる部分もありますけど,単純に……自分の思い込みをエゴ的に解釈してるだけでは?
木谷氏:
ところでそれは「原作が一番大事」ということなんですかね。
Kazuhisa:
いや……たぶん「原作」というよりは,「世界」ですかね? そのIPが持つ世界観みたいなものなのかな,と僕は解釈しました。
李氏:
つまり,ガンダムは好きだけどGガン(機動武闘伝Gガンダム)が嫌いとか,そういう感じ?
Kazuhisa:
たぶん。
木谷氏:
あーなるほど,そういうことですか。
Kazuhisa:
例えば僕だったら,スター・ウォーズのアニメは全部イマイチだなぁ,と思ったり。
李氏:
っていう感じですね。
Kazuhisa:
なるほどな,とその時思いました。
李氏:
でも重要なのはプラットフォームだよね。
このご時世は,やっぱりプラットフォームなんですよ。コンテンツよりプラットフォームの方がパワーがデカいんですから。Apple StoreとかGoogle Playとか。
Kazuhisa:
なるほど,そっち。
李氏:
何かしらのプラットフォームに依存しながら,我々はコンテンツビジネスをやってるわけで,最近そういうことをずっと考えてます。
木谷氏:
確かにそうだし,結局はIPなのかプラットフォームなのか,どっちかだと思いますけどね。両方持ってれば一番強いんですけど。だからなるべく自社のサービスもプラットフォーム化していかなきゃダメなんですよね。少なくとも,プラットフォームに近い方向に持っていかなきゃいけない。
Kazuhisa:
そういう話であれば,ブシロードさんの横展開はパッと見には謎な方向ですよね。プロレスとか。
木谷氏:
そうですね。横展開ではありますけど,どんどん横に広がっていっちゃってる感じで。
Kazuhisa:
近しいものからちょっとずつ広げていくのがセオリーかなと思ったら,まるっきり違うものが出てきたので。まぁユーザー層は,実はそんなに変わらないのかもしれませんけど。
木谷氏:
あれを説明するときは「プロレスもキャラクターコンテンツだから」って言いましたね。
李氏:
ふふふ。
Kazuhisa:
事実,今そのように運営してますよね。
木谷氏:
プロレスって,過去映像に結構価値があるんですよ。新日本プロレスワールドとかはサブスクがあって,例えば30年前の試合を1試合丸ごと観たりするんです。ほかのスポーツって,たぶん30年前の日本シリーズを観たりしないじゃないですか。名勝負とか名シーンは観ますけど,1試合丸ごと観たりはたぶんしないんですよね。
Kazuhisa:
なるほど,確かに。
木谷氏:
だからそこは,やっぱりプロレス自体がキャラクターコンテンツなんですよ。
Kazuhisa:
確かにそういう視点で見るなら,ブシロードの事業として違和感ないですね。
でもどのタイミングで,なぜそれをやろうと決断したんですか?
木谷氏:
なぜ,ってもう何年前の話よ(笑)。
Kazuhisa:
ええと,12年前です(笑)。
木谷氏:
決断したのが12年前ですよね。なぜって,んー……。
李氏:
単に好きだから?
木谷氏:
半分はそうですね,あとは「何とかしてあげたいな」とか「煽れば絶対盛り上がるだろうな」とか。
Kazuhisa:
勝ち筋というか。
木谷氏:
中身が面白いのに評価されてないな,と思ってました。まぁ半分は「好き」だからなんですけど。
李氏:
でもそこ大事ですよね。情熱がないとなかなかむずいですよね。最初は情熱なんです。
Kazuhisa:
うん,それは同意。
李氏:
最初は情熱です。軌道は……軌道に乗せたら,うんざりかもしれないですね。
(全員笑)
Kazuhisa:
それ書いていいやつ?(笑)
李氏:
うん……全然いいんじゃないですか。前のときも散々言ったし。
Kazuhisa:
スタートダッシュは楽しいんだよね。
李氏:
そう。エモーショナルで,情熱だけで何とかなる時期なんですよ。
木谷氏:
あとそこは,やっぱり年齢もありますよね。今だとちょっともう,新しいことはだんだんやりづらくなってますけどね。
Kazuhisa:
それありますよね。
木谷氏:
それはね,あんまり未来まで責任持てないからですよ。でもなんていうか,たとえば10年かかることはやりづらいけど,3年くらいのことならいくらでもやりますね。3年で結論が出るようなこと。
Kazuhisa:
今割と何でも結論出るのが早いですし。
木谷氏:
そう。だから助かります。
Kazuhisa:
木谷さんは,何かを始めるのも撤退するのも早いですし。
木谷氏:
(笑)
Kazuhisa:
決定がすごく早いというか。
木谷氏:
うん,それはそうですね。
李氏:
損切りなんかは,早い方がいいですし。
木谷氏:
そこは僕一生懸命やってましたよ。「見切り千両」※ってことわざがありますし。
※相場における格言のようなもので,「見切り千両,損切り万両」などと言う。含み損を抱えた株式などで損失の少ないうちに見切りを付けることには「千両の価値」があり,損を覚悟で売買することには「万両の価値」があるという意味。
判断を下すこと事態は簡単なんですけど,コンテンツビジネスなので,ユーザーと向き合っていくことも大切なんですよ。そこをどう納得してもらうかが,着地点として一番むずいところですね。
“打ち切り”はアニメでもゲームでも普通にあることなんですけど,変な言い方ですけど,どう言い訳をすれば納得してもらえるかを考えるのが,一番苦しいところですね。
Kazuhisa:
あぁなるほど……。「コンテンツからの撤退」というのはそういうことですもんね。僕らが連載をやめるのとは,ちょっと意味が違う。
木谷氏:
そうですね。情報は,情報そのものに感情移入しているわけじゃないですからね。
Kazuhisa:
そうですね。
李氏:
心の葛藤が発生しますからねえ。
データは数字を見れば分かりますし,それはそれでいいんですけど,アナログの良さってやっぱりあると思うんですよ
Kazuhisa:
ところで今日は木谷さんとお会いできるということで,社長として一番大事な仕事って何ですか,と聞きたくて。そこはもう完全に哲学とポリシーが出るところなので。
木谷氏:
それ難しいですよね。
Kazuhisa:
とても難しいです。
木谷氏:
本当に思ってることって,やっぱり言えないわけじゃないですか。
Kazuhisa:
……すごく分かります。
李氏:
おお!(驚き)
(全員笑)
Kazuhisa:
なにその反応(笑)。
木谷氏:
おほほ。
李氏:
いや,ものすごく共感してる。
だから,本音でもあり,建前でもあり,みたいなこと。
Kazuhisa:
はい。
木谷氏:
そういうことですよね,言えることって。
Kazuhisa:
まぁ確かにそうかもしれません。
木谷氏:
うーん……最近ではだんだんグローバルになってきてるんで,僕はやっぱり,グローバルでいろんな会社と戦ってるのが楽しいですね。
Kazuhisa:
「fun」の意味での「楽しい」ですか?
木谷氏:
うん,楽しい。いやほら気を抜いてダラダラしたら死んじゃうところとか,やっぱりいいですよね。生きてる感があります。
李氏:
やばいですね……。客観的な認識が全く同じです!
Kazuhisa:
ほうほう。
李氏:
でも接するポジティブさが全然違います。
(全員笑)
Kazuhisa:
まぁでも僕ら,そんなにポジティブには生きていけないでしょう?
李氏:
そう。基本的にはお互い大体同じこと言ってるじゃないですか。もうこの業界こうか(↑)こうか(↓)。でもそこを,木谷さんは楽しんでる状況なわけです。僕は嫌なんです。
木谷氏:
嫌なんですか?
李氏:
少なくとも楽しんではいないですね。
Kazuhisa:
木谷さんの気持ちがちょっと分からない,的な?
木谷氏:
僕だってもちろん辛いですよ。でも楽しい時もあるじゃないですか。
李氏:
まあ……まれに?
(全員笑)
木谷氏:
僕はカードゲームをやってるからかもしれないけど,自分のところの製品が遊ばれている姿っていうのが結構見えやすいんですよね。
Kazuhisa:
そうですね。
木谷氏:
電車で隣に座ってる人が自分のとこのゲームやってる,みたいなこともあると思いますが,カードゲームって,例えばカードゲーム祭をビッグサイトでやったら,1万人以上のお客様が来てくれるわけじゃないですか。「この事業やっててよかったな」ということを,なんというか……。
Kazuhisa:
受け取りやすい?
木谷氏:
うん,そうですね,受け取りやすいんです。日本全国どこに行っても遊んでもらえてるし,もちろん扱ってくれるお店もある。そこがいいんですよね。
データは数字を見れば分かりますし,それはそれでいいんですけど,アナログの良さってやっぱりあると思うんですよ。
李氏:
全く同じことを思ってます!
Kazuhisa:
以前も李さんとそんな話をしたよね。オフラインイベントしばらくできなかったけど,できるようになって超嬉しいみたいな。
李氏:
大体,我々に至ってはカードなんていういいものもないですし! PCのモニター越しで数字と戦ってるわけで,感情移入しにくいんですよね,やっぱり。
Kazuhisa:
「向こうにはお客様がいる」というのは分かっていてもなかなかね。
李氏:
そう,ユーザーのリアクションも見れないですし。もちろん,Twitter(現X)のつぶやきとか2ちゃんねるとかも見ますけど,ネガティブな内容も目立ちやすいから,さらにヤバくなっちゃうんですよ!
Kazuhisa:
ドロドロしたものが溜まっていくってやつね(笑)。超ポジティブなTwitterとか,超ポジティブな匿名掲示板とか,なんかあんまり想像できないし。
李氏:
いやー,想像できないですね。
木谷氏:
そう。結局最後はリアルが一番「よく分かる」んだよね。
2023年は,3月そして5月と,香港と台北で内覧会をしたんです。金曜日と土曜日にやって,金曜日は店舗さん中心に来てもらって,夕方からは一般ユーザーの人も来てもらって。で,土曜日は大会中心にやって。
Kazuhisa:
結構大がかりですね。
木谷氏:
そうですね。展示もあって,基本はカードゲームの大会イベントで,来てる人数自体は500人とか1000人とかそんなレベルなんですけど,香港のときは75店舗くらいの店長が来てくれて。
Kazuhisa:
え,そんなに。
木谷氏:
中国本土からも35店舗くらい来てくれて,香港の店舗さんは40店舗くらい。もうずっと写真を頼まれるんですよ。
Kazuhisa:
木谷さんがですか?
木谷氏:
そう(笑)。僕がちょっと歩くと列がパーって20人分くらいできて,写真撮ったら挨拶タイムで,実はこういうものでして……って。一般のお客さんかなと思ったらみんなショップの経営者さんだったりして(笑)。台北の時も,50組くらいと写真撮りましたね。香港は100組以上,120組くらい撮ったと思うんです。
Kazuhisa:
そういうのって,ほかのとこでもあるんですか? ヨーロッパとか。
木谷氏:
ヨーロッパはまだそんなに行ってないかな。これから行くんですけど。
Kazuhisa:
じゃあアメリカとか。
木谷氏:
そんなにないでしょうね。やっぱりアジアの特徴でしょうね。
Kazuhisa:
写真,そんなに撮られるのか……。
李氏:
自社イベントの時は結構撮られますよ。コスプレイヤーより人気ですよ自分(笑)。
セントルイスの1/1胸像も展示されていた「アズレン 6th Anniversary Fes.」会場レポート。4年振りのお祭りに,指揮官たちは大盛り上がり
2023年9月9日と10日に,Yostarのスマホアプリ「アズールレーン」の6周年を記念したイベント「アズールレーン 6th Anniversary Fes.」が開催された。メイン会場は,東京・千代田区にあるベルサール秋葉原で,近くの秋葉原UDXには,同作の痛車も展示されていた。
木谷氏:
写真とかサインは,東アジアの人は日本以上に好きかもしれない。
Kazuhisa:
そうなんですね。
木谷氏:
コロナ明けで,久しくそういうイベントがなかったからというのもあるかもしれない。だからどっちかというとBtoB中心に,お店さん中心にアプローチしたんです。
Kazuhisa:
でもそんな感じでBtoCみたいに(笑)。
木谷氏:
うん,BtoCみたいな状態で。でも,その人たちが広げてくれてるっていうことがあるんでね。
Kazuhisa:
熱量があって,楽しいですよね。
木谷氏:
ええ。ありがたいですね。
今年は6か所ということで,これから9月にマレーシアでやって,10月にタイでやって,11月はシンガポールのAFAの隣のホール今借りようとしてます。それで12月に韓国。
2023年3月より、香港、台北、バンコク、クアラルンプール、シンガポール、ソウルのアジア6都市で国際展示会『2023 BUSHIROAD EXPO ASIA』を行うことを発表いたしました。https://t.co/h65bvOQfx7
— ブシロード公式 (@bushi_PR) February 15, 2023
本年、ブシロードは世界にエンターテインメントを届けられるよう、海外展開も強化して参ります。
Kazuhisa:
それでアジアほぼ制覇?
木谷氏:
アジア6か所だから,そうかも? あと「Shadowverse EVOLVE」っていうカードゲームがあるんですけど,あれの英語版が今年6月末に発売になるんですよね。それの講習会が発売から2か月にわたって,全世界の300店舗ぐらい,シンガポールとアメリカと日本の社員で行って講習をするんですよ。
Kazuhisa:
聞いてるだけで大変そうです……。
木谷氏:
僕は7月26日から8月10日まで,僕の息子連れて(笑)。
僕はもう教えられないから,息子が英語でティーチングをしてくれてもっぱら運転係。たぶん3000kmくらい運転すると思います。ロンドンからグラスゴーまで行って,スコットランドまでグルっと回って。
Kazuhisa:
それはめっちゃ楽しそうです(笑)。
木谷氏:
そうそう(笑)。僕は運転手。あとは店舗の店長と「商売どうですか?」って話をしたり。
Kazuhisa:
でもかなりの弾丸ツアー?
木谷氏:
そうなんですよ。店舗は15店舗ぐらいなんですけど,あとは取引先に行ったりするのと,この際だからいろいろ行きたいとこあるじゃないですか。全部回ってくる感じですね。
ビートルズ博物館も行くし,あと息子が行きたかったのは,彼歴史を勉強してるんだけど「ハドリアヌスの長城」ってイギリスの真ん中ぐらいにあるんですよね。ローマの最前線ですよね。
※イギリスの北部にあるローマ帝国時代の城壁跡となる「ハドリアヌスの長城」(Wikipedia)
Kazuhisa:
あ,そんな真ん中へんなんですね。知らなかった。
エジンバラ城も行くし,そこにウイスキー博物館があるらしいですよ。それも行きたいです(笑)。
Kazuhisa:
運転手なのに!(笑)
木谷氏:
うんそう(笑)。
……自分で言ってて思いますけど,3分の1くらい夏休みのような感じですね。
李氏:
いいですね,楽しそう。
Kazuhisa:
時給の高い運転手だなあ。
(全員笑)
Kazuhisa:
まぁでも真面目な話,コンテンツ屋さんは,インプットを入れておかないとアウトプットにつながらないですもんね。
木谷氏:
うん,そこはそうですね。
なのでほかのグループは,アニメエキスポ行って,そのあとアメリカのショップ行くとかね。あとオタコン(オタク・コンベンション)行ってそのあとアメリカのショップ行くのと,8月にジェンコン(Gen Con)っていうアナログゲームのイベントあるじゃないですか。
Kazuhisa:
ありますね。
木谷氏:
その後アメリカをクルクル回ったり。それ以外は,オーストラリアと,インドネシアの一部と,あとカナダとメキシコとかですかね。
Kazuhisa:
……それ,何人ぐらいが一緒に動くんですか?
木谷氏:
8チームぐらいあるから……30人いないくらいですかね。25人ぐらい。3週間ぐらい帰ってこない人もいますよ。
Kazuhisa:
聞いてる感じ,そういう人いそうです。
木谷氏:
日本からも10人ぐらい行きますから,合計30人ぐらいですかね。担当者が英語で面接したんですけど,意外といるなってびっくりしました。
Kazuhisa:
あ,それ立候補なんですか?
木谷氏:
日本からの人間は,そうです。立候補させました。だから,全然関係ない部署の人間も行きます。
Kazuhisa:
モチベーション高いですねえ。
木谷氏:
条件は3つ。英語力と,カードゲームのルールが分かってて教えられることと,車の運転(笑)。まぁ2つできればなんとかなるか?
Kazuhisa:
アメリカ移動なら運転手は大事ですからね!
木谷氏:
次の街の店舗まで300kmです,みたいな。
Kazuhisa:
ですです。
木谷氏:
まぁ海外に関してはもう,習うより慣れろっていう感じで。
Kazuhisa:
行ったほうがいいですよね。
木谷氏:
なるべく多くの社員に行ってほしいですね
Kazuhisa:
ニュースメディアだと「海外取材=きつい」なので,なんか罰ゲームか何かみたいな扱いになってるけど,もったいないですよね。会社のカネで行けるときに行くべきなのに。
木谷氏:
そうなんですか?
Kazuhisa:
視察とかではないので,朝から夕方までずっと会場で取材して,ホテルに帰ってひたすら夜中まで原稿書いて,また朝起きて会場にいって……。
木谷氏:
ああ……。そうか,それが大変なんですね。
李氏:
コロナが解禁されたから,もう行ったり来たりできるようになったじゃないですか。
なもんで,みんな超行くんですよ。どこへでも行くんですよ。上海とか深センとか,韓国とか,バリバリ行きますね。3年間溜まった鬱憤が解き放たれて(笑)。
木谷氏:
ふふふ。
Kazuhisa:
まぁ確かに(笑)。
あとやっぱり,オンライン越しのミーティングって,情熱が100%出し切れないんですよね。
Kazuhisa:
あぁそれはあるよね。いまだにちょっと馴染めない。
李氏:
まあなんか,淡々と論理的なことを述べるだけなんだよね。コンテンツビジネス業界では,情熱の殴り合いみたいなもの必要になってくるパターンが多々あるので,やっぱり面と向かって怒鳴って喧嘩するのは大事だなと思いますよ。
Kazuhisa:
オンラインミーティングって,なんであんなにどうでもいい感じになっちゃうんだろうね。
李氏:
みんな淡々とやるだけですからね。
Kazuhisa:
木谷さんもあんまり好きではなさそうですよね,オンラインミーティング。
木谷氏:
うん,そうですね。でもいいとこもあるじゃないですか。
Kazuhisa:
例えば?
木谷氏:
定例会みたいになっているアニメの委員会とか,出資している先の取締役会とか。
Kazuhisa:
あぁ(笑)。そうですね,役会なんかは決議事項ないならオンラインでいいですよね。
木谷氏:
まぁ,何回かに一回はアナログにして,しっかり議論したりして。
あとはまあオンラインにはもう1個いいところがあって,全く発言する可能性ゼロの人はもう,耳だけ聞いてるとかね。
Kazuhisa:
あーなるほど。
木谷氏:
自分の仕事しながら聴いてて,まぁ要するにラジオ聴いてるようなもんですよ。それでいいと思うんです。自分に関係あることだったらピクってくると思うんですよね。
だから会議で発言を一切しない人は,別に参加しなくてもいいと思うんですよね。小人数でしっかりと議論を含めたほうがいい。だから逆に,オンライン会議のおかげでメリハリがつくようになったんじゃないかなと思う。全く発言もしない人ばっかり,20人も30人も詰め込んだような会議ってあったじゃないですか。
Kazuhisa:
ありましたねえ……。確かにそういうのなくなりましたね。
木谷氏:
うん。だからメリハリがついてすごく良かったな,という風に思ってます。
なんでもオンライン会議に変えるんじゃなくて,オンラインをうまく併用してやればいいと思うよ。アナログな会議でもオンライン部分作ってもいいと思うし。
Kazuhisa:
ウチも役会はほとんどオンラインでやるようになりました。超楽ちん。
李氏:
それいいですよ。だってだるいじゃないですか。
Kazuhisa:
まぁそうだよねえ。
李氏:
他人の話してることはつまらないし,無関係だし。
Kazuhisa:
いや,李さんが無関係なことは役会で話さないでしょう?(笑)
李氏:
いやいや無関係! というかあんまり関心がない。
Kazuhisa:
あぁ,確かに「え,そこ気になるの?」みたいなことあるよね。
李氏:
分かるー。
木谷氏:
親会社からのツッコミがあるんですか?
Kazuhisa:
ありますね。僕が説明しなきゃと思っているポイントと違うことがよくツッコまれるので,「あれ?そこなの?」って思うことあります。
木谷氏:
でも親会社は基本は収益じゃないですか。
Kazuhisa:
はい。大体Excelシートの右下の数値が議論の元ですよね。一回,右下は合ってたけど手前の数字が全然違うことがあって,全然突っ込まれませんでした。本当に右下しか見ないんですね。
(一同笑)
李氏:
それは一般的だし,僕はそれでいいと思いますよ。
Kazuhisa:
つまり李さんのとこは一般的ではない?
李氏:
ゲームの運営会議を頻繁にやっている影響で,我々の場合は,役会をやる頻度は少ないんですけど,そこで数字は見ないんですよ。具体的な運営の施策とかに口出してくるので,そこは勘弁してほしい。どういう検討をしたうえで,いろいろなことがあってここまで妥協をして,こういう結論になった……みたいなプロセスは全然知らないわけじゃないですか。
Kazuhisa:
それはそうですね。
李氏:
結論に文句言うだけなので,それだけは勘弁してほしいね。不健全ですから。
Kazuhisa:
そういう文句を言う会議だと思われてるのでは。
李氏:
生産性がなさすぎじゃないですか。
Kazuhisa:
まあねえ。
木谷氏:
うちって取締役会が非常に議論が活発というか,社外取締役でガンガン言う人が結構多いんですよ。
Kazuhisa:
それはそれで楽しそうです。
木谷氏:
でもそうするとどうなるかというと,例えばさっき撤退が早いって話したじゃないですか。その撤退がさらに早くなるんです。
そういうのも,割り切れるんだったらいいですよね。僕も本当に「社長だけ」の役割だったら,そういうのはバッサリできますし。でもそのあとのプロセスとか課題とか,そういうのを全部社員に丸投げするんだったら,ちょっとどうかなぁ,と。
Kazuhisa:
心情的にはよく分かる。
木谷氏:
でもね,昔なら一発で決議事項に持っていくような案件でも,一回検討事項として挙げるようになったんですよね。そこで,一回揉まれるんですよ。それで,そのときに「なるほど」みたいな意見もあるわけじゃないですか。それを反映させてもう一回ちゃんと練り直して,決議事項で挙げるようになっているんですよね。
Kazuhisa:
ということは,役会での議題が2か月越しとかになるんですね。
木谷氏:
そういうのもありますね。
より精度は高まる……高まるというか,いきなり決議事項の時に突っ込まれても,通すしかないものってあるじゃないですか。通すこと前提に上がっているもの。
Kazuhisa:
すごくありますね。
木谷氏:
そうすると,意見を言っている側からすると,いや言ってる方もそれを聞いてる方も「どうせこれ変わらないのに意見を言ってもしゃあないな」となってしまう。調整のしようもない,みたいな。だから先に言うようにしたら,ちゃんと意見を言って,反映して少し直されたものが出るようになったんです。
Kazuhisa:
すごく健全に動いてます。
木谷氏:
かなり健全ですね。だから,結構議論を伴ってますし。
Kazuhisa:
議論がある役会はいいですね。
木谷氏:
もちろん,普通の執行役員とかはあんまり言わないですよ。自分の報告のとき以外はね。でも取締役と名が付く人は,そこで議論になるんです。議論にならなくても,知見がありそうな人に「これどうなんですかね」と聞くこともよくあります。
Kazuhisa:
言い方がアレなんですけど,ちゃんと自分ごととして考えてるわけですね。
木谷氏:
うん,そうですね。
みんな楽しそうだから,一言もしゃべらずに終わる人あんまりいないですよ。
Kazuhisa:
それはそれで大変そうだけどいいなぁ。
李氏:
うちなんか1回ですよ。
Kazuhisa:
年1?
木谷氏:
え,年1回なの?
Kazuhisa:
株主総会の間違いじゃなくて?
李氏:
ううん。役会は年1。運営会議は頻繁にやってますが。
Kazuhisa:
いやそれ,ちょっとどうなってるの?
(全員笑)
李氏:
こっちのことなんて,どうせ分かってないんだから。
木谷氏:
年1だと,さらに分からなくなるよね(笑)。
Kazuhisa:
いやまったくおっしゃる通りです。
李氏:
なるべく突っ込まないでほしい気持ちがあるわけじゃないですか。だから最低限のことは共有しますけど,指図すんなみたいな気持ちがちょっと強すぎて。
(一同笑)
木谷氏:
それはほかの役員に,ということですか。
李氏:
ほかの役員というか,まぁでも4人しかないんですし。
Kazuhisa:
え,偶数なの?
李氏:
そう偶数。
Kazuhisa:
2−2に分かれたらどうするの?
李氏:
評決なんてないですから。
Kazuhisa:
なんと(笑)。
李氏:
正解のない業界なので,我々の判断は正しいと思ってやってますし,親会社のセンスだって良い。どっちに振れてもいいっていう背景があるんですよ。まぁ,だいたい親会社のいいなりになるわけですからね,最終的に。絶対そうなるんだから,5人でも4人でもいいんです。
Kazuhisa:
ワイルドだなぁ。
李氏:
いや適当です(笑)。
木谷氏:
資本は100%親会社?
李氏:
そうです。日本にいるのは2人だけなので,結局逆らうかどうか……いや逆らう気はないんですけど,面倒臭いんですよ。指図すんな,という気持ちだけが強い。
Kazuhisa:
なんも言わないでほしい,と。
李氏:
そう! そんでたぶんね,そういう僕の意図を向こうは察してるわけですよ。
なので僕に話しかけてこないで,若いスタッフのところに行って「最近どう?」「こういう案件はどう?」って。
Kazuhisa:
あぁ……(笑)。
李氏:
勘弁してくださいホント。とりあえず僕に聞いてほしい,さすがに迷惑なので。
Kazuhisa:
聞かれたらちゃんと教えるの?
李氏:
教えますよ。教えますけど,その結論にたどり着くまでの説明にはややこしい部分が多いんですから,そこは省略させてほしいな,くらいの希望はあります。
Kazuhisa:
でもそこ省略したら,分かんないじゃん?
李氏:
だからものすごく気になる案件は,最初から最後まで根掘り葉掘りちゃんと全部言うんですが,気まぐれな上司いるじゃないですか。今日はこういう情報を引っ張りたい,とか思ってる。
木谷氏:
ふふふ。
Kazuhisa:
なんか微笑んでいる(笑)。
李氏:
今日は若い人のところにいって情報を引き出すぞ! みたいな。
Kazuhisa:
テンション高い上司ね。
李氏:
そうそうそうそう!
Kazuhisa:
取り扱い注意。
李氏:
去年はまともにコミュニケーションしたのは2回くらいかな。
Kazuhisa:
それでなんとかなっちゃうのね。
木谷氏:
でもそうか,数字で管理できるところはかなり管理できてるから,だいたい分かる感じなんですね。各ゲームのデータは全部提供してるんですよね。
李氏:
もちろんしてます。全体として赤字を出してないからいいですけど,赤字出したら絶対こういう風には甘やかされないですから。
Kazuhisa:
僕らの責務はまずそこだからねー。
李氏:
黒字出してるから,まあお前のやり方で好きにやれ,とそういう感じですね基本的には。
木谷氏:
4Gamerはなんか役会関係で困ってます?
Kazuhisa:
うーん,以前にも李さんとちょっと話したんですけど,海外取材とかですかね。
例えばGDCに取材行きます,となると,なんやかんやでコストが150から200万円くらいかかるんです。いまだともっとですね。でも「いくら売り上げるの?」と聞かれても「ゼロ円です」としか答えようがない。でも儲からないですけど,メディアとしてやらないとならないことなので……。
木谷氏:
儲かるとかそういうのじゃないですからねえ。
Kazuhisa:
TGSの出展なんかも同じ感じですね。あれも相当お金かかるので。
李氏:
まぁ親会社の気持ちは分かるけどね(笑)。
Kazuhisa:
え,なんでそこ急に裏切ってるの(笑)。
やっぱりたまには経営者としての顔だけじゃなくて,リーダーの熱さって見せるべきだと思うんですよ
Kazuhisa:
そういえば,木谷さんも理解されないことってありますか。
会社を動かしてて,これはこうだと思ってるけどほかの役員が理解しないとか納得しないとか。
木谷氏:
うーん,まあありますよね。今朝もありましたし。
Kazuhisa:
今朝!
李氏:
タイムリーすぎた質問。
木谷氏:
今朝のはズレですよ,認識のズレ。
Kazuhisa:
致命傷では……なさそう?
木谷氏:
広い意味では致命傷……かな? どこまで先を見てるかという。
今年のブシロードカードゲーム祭は,2日間で1万5千人が来てくれたんですよ。去年はまあ6500人くらいだったので,どちらかと言うと大成功ですよねこれ。
Kazuhisa:
はい。
木谷氏:
1日目と2日目は箱のサイズが違ったんですけど,2日目のファイトスペースって,要するにイスと机ですよね。イスの数が7000あったんですよ。そこで6000人くらいが同時にカードゲームやってたわけですよ。これすごいことじゃないですか? それをちゃんと運営できたんですよ,時間の遅れもなしに。世界最大だと思うんですよ,この数って。
Kazuhisa:
なるほど,確かに数字で聞くとすごい。
木谷氏:
スタッフは,まずそのことを喜ばないとならないんです。来場者も増えて皆さんに楽しんでもらったし,この規模で運営できた! ということを。自分たちはよくやったんだ,と。
でも,細かい運営のミスが目に付いちゃうんですよね,スタッフって。
Kazuhisa:
あぁ,すごくありがちですね。
なので来年はどうするという話になったときに,僕は「ブシロードカードゲーム祭」から「ブシロード」を取りたいと。国内のインディーでカードゲームを作っているところとか,海外のカードゲームを作っているところとか,そういうのを全部入れてオープンプラットフォームにしていくんだと。
Kazuhisa:
そういう方向に舵を切るんですね。
木谷氏:
なので,例えばサプライメーカーがいてもいいでしょうし,個人でスリーブ作りましたみたいな,そういうのも出展していく方向にしたい。プラットフォームとしてもっと大きくしたいなと。
ただ,それが何を意味するところで,何のためにそうしていくのかということを理解している人間が,やっぱりいないわけですよ。
Kazuhisa:
それは本質的な部分の話ですか?
木谷氏:
そう。今年から英語と中国語の案内も作っていて,Webサイトも英語とか中国語の案内も作っているんですよね。それでどんどんグローバルから,とくに東アジアから,人が来るようになってほしいわけですよ。
でもそういうことに対する日本の会社のイメージって,単純に「海外の売り上げが増えた」くらいのものなんですよね。
ブシロードカードゲーム祭2023
Kazuhisa:
いまだにそういう部分ありますよね。
木谷氏:
そう。いまだにそうだし,例えば日本のエンタメの会社で,本社の役員レベルの人間が海外に駐在してる会社ってたぶんないわけですよ,いまだに。
Kazuhisa:
あれ,そうなんですか?
木谷氏:
ないです。仮に日本人だったとしても,現地法人の社長が現地で採用したりしてます。逆に,外国人でどんどん偉くなっていってる会社もあんまりないですよね,日本のエンタメの会社って。まぁウチもそうなんですけど。だからまぁ非常に遅れているというか,なんというか。
Kazuhisa:
カードゲーム祭に関しても,なんかそういう「単なる売り上げ先」みたいなイメージなんですか?
木谷氏:
いや,テーマを決めたいとか言うので「それってどういうもの? 副題みたいなもの?」と聞いたら「発表会でも副題作ったりしますし,その方向に向かっていくっていう決めというか」みたいな話をするので,なんかフェスみたいなものに勘違いしているのかなと思って。テーマを作ったら,オープンプラットフォームとは完全に逆の方向でしょう?
Kazuhisa:
そうですね,ベクトルが固定されちゃいますし。
木谷氏:
それで話してて,もうなんか合わなくて。いやお前ら分かってんのかよ,と。だんだんブチ切れてくるんですよね。
Kazuhisa:
お気持ちは察します。
木谷氏:
だんだんブチ切れてきて,1992年には,日本に20歳の人口が200万人以上いたんだよ,と。でも今の20歳の人口は115万だよと。
Kazuhisa:
その話になりますよねやっぱり。
木谷氏:
そう。2040年には77万まで減るってことは,もう決まりきってるんだよ。国内だけ見てたら,もうどんどんイスが減っていくイス取りゲームでしかなくて,あんたたちが生きてる間は,一生ずっと減っていくイスしか見られないんだよ,って。
だから,外に攻めていったり,外のお客さんに入ってもらったり,そうするしか生き残る道はないだろうと。
Kazuhisa:
「グローバル化」の意味を,単に海外支社を作ることとか英語版を作ることみたいな,矮小化しちゃってる感じ結構多いですよね。
木谷氏:
分かってないんですよ。「海外で売り上げが上がった!」っていうレベルなんです。
Kazuhisa:
スタッフの課題感が,そこから抜け出せなかったと。
木谷氏:
まあでも,それはそうだろうなとは思いますよ。
もう未来はみんな分かってるんですよ,本当は。分かってるけど,目を背けてるだけなんですよ。
Kazuhisa:
うーん,そうなんですかね……。そっちのほうがダメじゃないですか?
木谷氏:
その未来を信じたくないですもん。日本人みんなそうですよ。
Kazuhisa:
でも絶対そうなるのは分かりきってるじゃないですか。
木谷氏:
そう,人口推移は一番確実ですよね。その通りにしかならないですし,間違えようがないし,たぶんズレない。それをひっくり返すには,一人当たりの生産性を相当大きくするしかないですよね。
李氏:
マーケットとして,日本は中途半端にでかいんですよね。
Kazuhisa:
そうなんですよねえ。
李氏:
小さくはないので,逆にそこまでのハングリー精神も出てこないですし。
Kazuhisa:
それが韓国と違うところだよね。いきなり世界を目指す会社はそんなに多くない。
李氏:
そうなんですよ。まぁ我々中国企業も,外を目指しますけどね。
木谷氏:
中国企業がすごく外に積極的に出ようとするのって,例えばスマホゲームで言うならばもうレッドオーシャン化しちゃってて,そういうことを含めたなんらかの"危機感"を常に背中に背負いながらやってるからだと思うんですよね。
Kazuhisa:
しかしさっきの社員とのズレの話なんですけど,木谷さんはそのへんで何か気をつけていることってありますか? 4Gamer程度の会社でも,やっぱり社員とは目線が合わないわけですよ。理解してもらえないのはたぶんに僕の責任だろうけど,やっぱりどうにかしたいとも思うんです。
木谷氏:
それは……まぁそんなもんですよ。
李氏:
うん,そんなもんです。
木谷氏:
いやでも,もちろんそうじゃない人だっていますよ。うちの場合何人かいます。何人かがいれば十分じゃないですか。
Kazuhisa:
分かってもらえないと困ることってありません?
李氏:
社長は孤独ですから。
Kazuhisa:
いや,そうなんだけど(笑)。我慢して済む孤独なら我慢するんだけど,我慢しただけじゃ済まないことってあるじゃない?
李氏:
でも正直,自分の思惑通りに動かせる人って,そんなに会社にいるわけないじゃないですか。
Kazuhisa:
そりゃそうだけども。
李氏:
もうどこかで線引きするしかないと思いますけどね。
木谷氏:
でもたまに,そういう風に熱く語ったり,あった方がいいと思うんですよね。なんでもないことでいつも熱く言ってたらただのバカですけど(笑)。
Kazuhisa:
まぁ(笑)。
木谷氏:
お前らこれ分かんなくていいのかよぉ! みたいなテーマがあるときは,熱くなるべきだと思う。そういうのは冷静に言っても仕方ないし。やっぱりたまには経営者としての顔だけじゃなくて,リーダーの熱さって見せるべきだと思うんですよ。でもその熱さを見せるには,見せるだけの材料がなきゃダメなわけですけど。
Kazuhisa:
キモに銘じます……。
木谷氏:
そういう意味ではいいテーマだった。今日は朝からいいテーマが出たな,と。
で,人口の話に戻りますけど,人口ってだらだらと減っていくわけじゃないですか。例えば,去年生まれた人は77万人しかいないわけです。この影響は,今この瞬間のエンタメマーケットには全く出ないわけで,これあとから来るんですよね。10年後,20年後,どんどん影響が出てきます。だから,今問題視する人はいない,影響が出るころには,僕たちもう会社にいないわけじゃないですか。
Kazuhisa:
そうなんですか?(笑)
木谷氏:
いやいや(笑)。いたら83歳ですよ。それはもう老害でしかないから,絶対にないですね。だからまぁそのしぼんでいくエンタメ業界についても,本当は自分は逃げ切れるんです。
Kazuhisa:
またそんな,政治家みたいなことをおっしゃって。
木谷氏:
逃げ切れるけど,逃げ切るつもりはないっていう話ですね。だからこそ,熱くならないといけない。でもつまり,本当は若い人の方が熱くならないとおかしいんですけどね。
李氏:
分かる!
(一同笑)
Kazuhisa:
なんか急に入ってきた(笑)。
李氏:
分かるー。
Kazuhisa:
いやいや李さん一番若いんだから,この中で。
李氏:
IT業界にとってはもう十分老人ですから。
木谷氏:
李さん今いくつ?
李氏:
今年37歳です。
木谷氏:
37歳かぁ。確かに「IT業界」っていう切り口だと,ちょっとそうかもしれないですね。でも老人ではないと思うけど(笑)。
李氏:
40歳過ぎたら,もうゲームユーザーが求めるものが分からなくなっちゃう可能性あるし。
それで,そういう感覚やセンスをなくしたら,そもそもこの業界は商売できないわけで,相当やばいです。その前に何とかしないといけないですね。
Kazuhisa:
なるほど。
木谷氏:
そういう話で言うと,うちのビジネスの中で僕が分かるのは実はプロレスだけなんですよ。ユーザー目線と,現場目線と,経営者目線が,100%完全に全部一致するのは,プロレスだけです。そこはもう100%の自信があります(笑)。
たまにズレがあったとしても,それって分かりやすいんですよね。SNSとか会場の雰囲気とかでキャッチしやすいから修正もしやすい。でもまあカードゲームだって,80%ぐらい分かってると思う。
Kazuhisa:
そ,そんなに。
木谷氏:
7割8割わかってると思う。やっぱりそれは,お店を回ってるから培われる。
それも東京で秋葉原のお店回ってるとかそういう話じゃなくて,九州なんかもこないだ大分以外全部回ったり。そういうとこに行かないと,現実が分からないんですよ。秋葉原だけ見てても,そこはもう例外だったりするし。もちろん秋葉原も大事ですよ。でも地方の中核都市を回ることも大事ですねカードゲームの場合は。
李氏:
中野の方がいいですよ,今。我々オタクにとって雰囲気がいい。
木谷氏:
ふふふ。中野は秋葉原になり損ねた街ですよ。
再開発がちょっと遅かったですよね,もうちょっと早くやっていれば!
Kazuhisa:
それにしてもカードゲームが「80%分かる」ってけっこうすごいですよね。
木谷氏:
もちろんプレイするわけじゃないです。あくまでも感覚的なものです。開発とかにも少し口を出したりするのも,カードゲームなんで。立ち上げる時にルールを提案して,それが採用されたりとかね。
Kazuhisa:
それはどういうモチベーションなんですか?
木谷氏:
これはモチベーションじゃないんですよね。
もうマニアがね……放っておくと,マニアなものを出しちゃうんですよ。
Kazuhisa:
あぁ……(笑)。
木谷氏:
例えば,もう国内の商品展開は終わっちゃったんですけど「バディファイト」(フューチャーカード バディファイト)っていうカードゲームがあって,僕はその1ターン目2ターン目が無駄に見えて仕方がなかったんですよ。カードゲームって,場を整えるのに2,3ターン使うじゃないですか。それってコストが溜まらないからですよね。だから最初から2コスト置いておけばいいじゃん,とか。
Kazuhisa:
シンプルかつ明確です。
木谷氏:
自分の1ターン目に3コスト目を置いて,いきなり3コストのモンスターが出せるわけです。それはもう採用です。試合展開が速くなるし,基本的にそれは速くなる方向が賛成なんですよ。
あとこの間提案したのが,これは今まあまあウケてテストを繰り返してるんですけど,「ヴァンガード」(カードファイト!! ヴァンガード)でテキストを一切無視してっていう(笑)。
Kazuhisa:
というと。
木谷氏:
パワーとトリガーと完全ガード。この3つだけで良くなるんですよ。
で,これがなぜかというと老眼だから,もう老眼にはカードゲームできないですよね。老眼って大体40代から始まるんだけど,日本人の平均年齢が,国民平均で49歳になってるわけだから,数字上はもう日本人の6割以上が老眼なんだぞ,と。
Kazuhisa:
異様な説得力があります(笑)。ていうか確かに,ヴァンガードのテキスト読むのは結構キツいです。
でも数字とトリガーと完全ガードだけだったら,文字を読まなくていいんで。これで成り立つかやってみようよって言ったら,成り立ったんですよ。カードゲーム祭で60人でトーナメントやったんですよ,僕も参加して。僕は2回戦で負けたけど,僕に勝った人が優勝しましたから,実質僕が準優勝だろみたいな(笑)。
Kazuhisa:
なんでそこで変な理屈が(笑)。
木谷氏:
それでこの話をチェーン店の社長とかにしたら,それだったら僕もできますね,って。チェーン店の社長を集めてトーナメントやりましょうよとか。みんなやっぱり老眼になってるからね。
Kazuhisa:
いやでも本当に,見えないですよね……。
木谷氏:
そうそう! そうでしょう?(笑) カードゲームを扱ってるのにカードゲームができないって,やっぱりイヤなんですよ。でもやろうと思ったら,いちいちメガネこうやって外したり……。
Kazuhisa:
フレバーテキストなんかも,フォントサイズの小さいことといったら。
李氏:
フォントもややこしいの使うんだよね。
木谷氏:
まぁこういうのって,現場からは絶対出てこないんですよね。
Kazuhisa:
それはスタッフがマニア化してるということですか?
木谷氏:
というより,開発からすると自分たちの仕事が否定されてる話じゃないですか。テキスト要らない,って言うんだから。
Kazuhisa:
まあ確かにそうですね。
木谷氏:
自己否定がみんなできないんですよ。
今みたいに変化が激しい革新の時代は,常に自己否定しながら,直したり新しいものを作って進んでいかないと,あっという間に古くなっちゃいますからね。
Kazuhisa:
まあ記事なんかもそうですけど,自己否定してくれないこと多いですよね。これでいいんだろうかとか,これで合ってるんだろうとか。
李氏:
単に慣性で言われたことだけやり続けてるんじゃないですか。
Kazuhisa:
惰性か……。
木谷氏:
何も考えなくて楽ですからね。
Kazuhisa:
思考停止って楽ですもんね。
李氏:
ホント楽です。
木谷氏:
来週末から始まるバンドリ(バンドリ! BanG Dream!)の新しいアニメ「BanG Dream! It's MyGO!!!!!」があるんですけど,今日あたりから広告が目立ってるんです。それに最初は僕,まったく関わらなかったんですよ。関わらないよ,と言って実際にそうしたんですけど。
このアニメ,6月29日に1話から3話を一挙90分で流すんですよ。これはもう観てもらうしかないじゃないですか。3話で観ないと面白くないし,僕も自分で観て,2話を見終わった後で早く3話が観たいと思ったし。
Kazuhisa:
はい。
木谷氏:
でもそれのキャッチフレーズが,最初からずっと違和感があったんです。「迷子でもいい,迷子でも進め。」っていうやつなんですけど,「MyGO!!!!!」と「迷子」をかけてるんですよ。で「迷子でも進め」と。
なんか違和感あるなとずっと思ってたんですけど,そうだ,迷子だったら動いちゃいけないんだ,と。
Kazuhisa:
普通はそうですね。
木谷氏:
親は子供に「迷子になったら動いちゃダメよ」とか「その場にいなさい」って言うじゃないですか。親は来た道を辿って子供を探すので,動いちゃダメなんですよ。だから「迷子でも進め」は,間違ったキャッチフレーズなんです。
それで夏のライブは「迷うことに迷わない」っていうやつ。これはいい。すっごくいい。でも「に」を「を」に変えたほうがいいかもしれないな,って言って「迷うことを迷わない」になりました。これいいと思いません?
Kazuhisa:
いいと思います。時代にも合ってる。
木谷氏:
そう。迷って当たり前なんですよ,今の時代。迷って当たり前なんだから,迷うということを肯定的に認めることはすごく大事。これは若い人だけじゃなくて,いい歳したサラリーマンで転職しようかどうかって迷ってる人だっていっぱいいると思う。
だから,迷っていいんだよと。迷うことは悪いことじゃないんだよ,という感じで,それをキャッチフレーズにしようと。
Kazuhisa:
迷うことをあまり許容しない,社会通念みたいなものがありますよね。
木谷氏:
昔からそうですよね。でも昔よりはいいんじゃないですかね,今のほうが。昔は,決めた道一本を真っ直ぐ進め,みたいなところがあったじゃないですか。
Kazuhisa:
昔は「何かを決めるため」の情報があんまりなかったですから。
木谷氏:
環境が変わらないならそれでいいと思うんですけど,いまみたいにこんなに環境が変わるのなら,あっという間にいろんなものが古くなっていくんだから,全然迷っていいと思うんですよ。
Kazuhisa:
いまの若い子……っていう言い方ちょっとアレなんですけど,若い子は選択肢が多すぎてちょっと可哀想だなと思うこともたまにあります。
李氏:
たぶん当事者はそうでもないんじゃないかな。
Kazuhisa:
本当に?
李氏:
そういうのを試行錯誤して,勉強しながらどの道を進めるのを考えているんであれば,別に問題ないよね。
木谷氏:
一部の人は,すごい勉強もしてるし努力もしてるし。それをやることが得だと分かってるわけですねきっと。
Kazuhisa:
いやもちろんそういう人はそれでいいんだけどさ,みんながみんなそうじゃないでしょう?
李氏:
もうちょっと極論までいくと,勉強しないというのも選択肢の一つだとは思いますし,賢いと思う。というかそうなりたい(笑)。
木谷氏:
昔は,努力しないイコール貧乏だったわけじゃないですか。でも今は,努力しなくても貧乏じゃないわけで,だからまぁそこは……。
Kazuhisa:
まぁそうですね。
木谷氏:
でも今の方が,努力したら差がつきますよね,昔よりはるかに。
Kazuhisa:
そこは絶対そうですね。
木谷氏:
差がつくし,今の方が,元からスペック高い人が有利なんですよね。
Kazuhisa:
それもそのとおりなんですよね……。より差が広がっていくだけ。
木谷氏:
アナログだと運の要素とかも高くなるんだけど,デジタルの方が実力が出やすいですからね。それもどうしたもんかなと思いますけど。
まあでも大体の場合,平和な時代が続いたら,格差って広がるんですよ。いつの時代も。
今自分が20歳だったら,40年前と今のどっちを選ぶかって,絶対今を選びますよ
僕学生時代……もう40年以上前ですけど,家賃2万円のボロアパートに住んでたんですよ。トイレ共同で,風呂は近くの銭湯に行くしかないという。
で,今の家はそこそこ大きい家なんですけど,その40年以上前のボロアパートから数十メートルしか離れてないんですよ。たぶん4,50メートルくらい。
Kazuhisa:
なんかそれもすごいです。
木谷氏:
アパートから坂を下りて行くと池の周りにでかい家がいっぱいあるんですよ。絶対将来この中の一つを買ってやろうと思ってたんです,あのころ。池の周りではないけど,近いところを買えました。
別にそれが目標っていうわけではないんですよ。「こういう家を買えるくらいの立場の人間になりたいな」と思って,一つのシンボルとして自分に打ち込んでたという話なんですけど,思ってたことは実現するんだなと思いましたね。
Kazuhisa:
有言実行すごいです。
木谷氏:
そう。これからは,普通にやってたら大変になると思うけど,昔はみんな「未来は明るい」と思ってたんじゃないかな,40年前は。
Kazuhisa:
うん,まぁそうですね確かに。
木谷氏:
まあでも両方の状態を知ってて,今自分が20歳だったらどっちを選ぶかって,絶対今を選びますよ。嫌ですよ,またトイレ共同なんて。
(一同笑)
木谷氏:
あと銭湯(笑)。それと固定電話しかなくて,その固定電話すら高かったです。
Kazuhisa:
ダイヤル電話懐かしいですねー。
木谷氏:
まぁ話を戻すと,今の若い人は十分満足してるんだと思うんです。
Kazuhisa:
そこは同意します。
木谷氏:
例えば将来お金に困ることをなんとなく分かってたとしても,なんかうまくいくんじゃない? うまい方に転がるんじゃない? という感じで楽観論に行きますからね(笑)。
Kazuhisa:
僕も含めた昔の世代は割とそんな感じですけど,今はそれダメなやつでは(笑)。
木谷氏:
いやいや,みんなそうだと思いますよ。
そうじゃないと少子化をここまでほっとかないじゃないですか。もうかれこれ40年くらいほったらかしですよ。1980年代くらいから,いや70年代くらいから今の状況は見えてたわけなのに。
どこの国でもそうですよ。
Kazuhisa:
中国も?
李氏:
東南アジアとかも。
中国は,農村部は結構まだ出生数ありますけど,都市部だけで見るとねえ……。日本だといま出生率は1.2か3くらい?
木谷氏:
1.26まで下がっちゃったんですよね。※
※2022年人口動態統計月報年計(概数)によると,女性1人あたりの子供の数を示した「合計特殊出生率」は1.26で,2005年と並び過去最低。(日本経済新聞)
李氏:
たぶん自分の地元の上海も、なかなか厳しい感じじゃないかな。ただ,周りの同級生や友人たちは頑張ってますけど。
木谷氏:
今50歳までに1回も結婚しない人の率は,女性で14%くらい,男性が24%くらいです。10ポイント違うじゃないですか。50年前って何ポイントだったと思います?
Kazuhisa:
50年前は,結婚してない人ほとんどいなさそうです。
木谷氏:
1970年くらいの時点で,これもうびっくりの数字なんです。女性は3.4%で,男性が1.6%です。
Kazuhisa:
1.6!
木谷氏:
つまり,男はほぼ全員結婚できてたんですよ,50年前は。
Kazuhisa:
お見合い文化ですか?
木谷氏:
お見合いと職場結婚の2つですね。僕最初にいた会社,50%が職場結婚でしたよ,男は。
Kazuhisa:
いまそういうこと言うとアレなんですけど,あの頃はそのための女の子を雇ってたようなところがあるじゃないですか,会社も。
木谷氏:
はいはい,そうですね。女性の総合職ってなかったからね。だから結婚するために会社に入ってました,女性は。
李氏:
へえ(笑)。
Kazuhisa:
でもそういう時代でしたね,確かに。
李氏:
まぁ価値観も変わりますから。
昔は,結婚すること自体が人生の一つのどでかい通過点で,ゴールは死ぬこと,みたいな。今は別にそういうのないですし(笑)。
木谷氏:
なんか,ストーリーがある恋愛をして結婚する人って,今も昔も30%から40%くらいしかいないらしいですよ。
Kazuhisa:
そこは変わらないんですね。ということはお見合い文化もなくなったので……。
木谷氏:
そう。
まあマッチングアプリとかあるけど,もうちょっとなんか安心して使えるようになれば,そこも少しプラスに働いていくんだと思うんですけどね。
李氏:
これは言うのもなんなんですが,我々のようなコンテンツビジネスが,こういう風潮というか,こういう事例をプッシュしてるわけですよ。
Kazuhisa:
まぁそうだろうね(笑)。
李氏:
ぼっちでも豊かなメンタルの生活ができますし,エンタメでいろんなコンテンツに囲まれて,結婚しなくても,子供がいなくても,ものすごくハッピーに生きやすい時代になったわけですよ。
Kazuhisa:
つまりYostarのせいだな。
木谷氏:
まあでもそれは,ニワトリが先か卵が先か分からん話で,おひとりさまが増えたからそういう需要が生まれたのか,そういったものが生まれたからおひとりさまが増えたのか,どっちなのかちょっと分からないよね。
Kazuhisa:
日本だけじゃないですしね,これ。
木谷氏:
人口が増えすぎたから,減る方向に働いてるんだと思いますね。
Kazuhisa:
いま80億でしたっけ。※
※2022年11月の国連調査によると,世界の総人口が80億人を突破した模様。(United Nations)
木谷氏:
20年前には60億って言ってましたからね。
Kazuhisa:
僕が学校で習ったときは45億でしたよ。そりゃ確かに増えすぎ感あります。地球のキャパはどうなってるんだろう。
李氏:
いや,まだ余裕っすよ。テクノロジーの発展が素晴らしいですから大丈夫ですよ。
Kazuhisa:
サウジアラビアみたいに都市を三層構造にして,3倍住めるようにする……とか?
まぁでも話戻すんですが,確かに今の若い人にはこの影響が分からないですよね。あと15年くらいしないと。
木谷氏:
分かんないですね。しかも,何かが起こるのは分かるけど,今はまだどういう影響が出るかは分からない。もちろん影響の傾向は分かりますけど。例えば間違いなく学校はこんなにいらないです。大学なんかもそう。
Kazuhisa:
まぁあれは本当に多すぎな気はしますね。なんでこんなに必要なんだろう。
デジタルじゃ考えなくていいところまで,最近は考えてる。開発とかマーケティング以外に,製造と流通と為替とか(笑)
木谷氏:
ところで僕残り30分なんだけど,なんかもう少し夢のある話もした方がいいんじゃない?(笑)
李氏:
夢のある話は,あんまりYostarのイメージじゃないですね。
Kazuhisa:
夢を売るビジネスじゃなかったの。今そんな話したばっかりじゃん。
(全員笑)
李氏:
僕らこれやるたんびに,ネガティブなことばかり喋ってるけどね。
Kazuhisa:
まあ確かに。でも夢は与えたほうがいいですよ。コンテンツ屋さんとして。
考えることの基本は同じです。ユーザーの喜びとか,将来の心配とか。
そういうことをもちろん考えるんですが,深く考えても行動にはシフトしていかないですね。なぜかというと,十数年後にこの会社はたぶんないんじゃないかな。
木谷氏:
ふふふ。
Kazuhisa:
十数年はまぁ確かに微妙。
李氏:
会社が残る保証なんてどこにもない感じなんだし。
Kazuhisa:
僕だって同じこと23年やるとは思わなかったよ,最初。
李氏:
だからね,こういう不確かなことのために自分を完全燃焼するほど,人生を捨てる気はないんですよ。
Kazuhisa:
なるほどそれは分かる。じゃあ李さんの言う「確かなこと」って例えばなに?
李氏:
確かなこと……。
Kazuhisa:
李さんが自分を完全燃焼させてもいいと思うこと。
李氏:
子育て。
Kazuhisa:
なるほど。
李氏:
企業を育てるか子供を育てるか,どっちか選ばなければいけないんだったら,僕は無条件で家庭に戻ります。
木谷氏:
まあ当然そうするべきだよね。
Kazuhisa:
木谷さんなんかは,結構お忙しかったんじゃないですか,創業時とか。
木谷氏:
もちろんそうですけど,子供とは結構接してますよ。まぁ欲張りですけど,両方目指すべきだと思うね。仕事も家庭も。
Kazuhisa:
現場で陣頭指揮を取って,家にあんまり帰らないイメージです。
木谷氏:
いやいや! 必ず家に帰りますよ。
Kazuhisa:
素晴らしい。
木谷氏:
もちろん遅かったりしますけど。
李氏:
いやいや,デキる経営者はみんな家に帰るんですよ。だから僕も帰ります。
(一同笑)
李氏:
でも世の中の有名な経営者は,だいたい家族を大事にするイメージしません?
Kazuhisa:
僕が社会に出た当時,よく話に出てくる「有名な経営者」って,スティーブ・ジョブズとか西和彦とか,ビル・ゲイツとか孫正義とか。IT業界だからかもしれないけど,何かがおかしい素敵な人達で,みんな仕事……というか「やりたいこと」を優先させてるイメージ。
李氏:
中国の有名な企業家は,結構家庭円満の感じがする。ジャック・マーとか,ポニー・マーとか。※
※ジャック・マーは元アリババ社長で,ポニー・マーはTencentの社長。
木谷氏:
日本でも家庭円満じゃないとね。やっぱり最終的には家庭円満じゃないと,いい仕事できないと思うね。
李氏:
なんだかんだ言って家族のサポートがないと,経営者になるって勇気がいる選択肢じゃないですか。僕は実際に奧さんに言って,30歳手前でYostarの社長になるわけですけど,「1回わがまま言ってもいい?」って言ったら,彼女丸の内のOLでまあまあ稼いでますし「失敗してもとりあえず2年くらいは食べていけるよ大丈夫」みたいな,寛大な心をもらったからやったわけですよ。
Kazuhisa:
でもさ,思い出したよ李さん。僕たちは本質的には,社長になりたくてなったわけじゃないでしょ? でも木谷さんはなりたかった人だから。
木谷氏:
まぁそうですね(笑)。
Kazuhisa:
そもそものスタート地点がちょっとだけ違う気がします。
李氏:
まぁ確かに僕もやらされたタイプです。
そもそも僕が社長になる予定はなかったんですよ。ただ,立ち上げメンバーを見渡してみると,新卒の大学生とか,思い込みの激しいオタクとか(笑)。でも僕は,オタクの中でも割と常識人寄りのオタクなんで。
Kazuhisa:
自分で言うのかぁ(笑)。
でもスタッフは思い込みが激しいのね。なんか分かるし,そうじゃないとそれはそれでちょっと困るよね。
李氏:
そうですよ。だから皆さん,それぞれ異なるポジションで,最前線で戦ってくれてるわけですよ。
ただ,彼らの中の誰かが経営者になったら,たぶん悲惨な状況になってると思いますよ。会社がどこかのタイミングで空中分解すると思う。
(一同笑)
Kazuhisa:
まぁたまにあるよね,そういう会社。
李氏:
そうそう。だから僕は,自分で言うのもなんだけど,この決定に一応ホッとしました。ちょっと怖かったし。
Kazuhisa:
あぁ自分で「はいはい!」って挙手したわけではない?
李氏:
自薦みたいな感じ。
木谷氏:
これからどんなところ伸ばすんですか,Yostarは。
李氏:
Yostarはですね……面接のときも,皆さんによく聞かれるんです。これからどうされますか。将来の夢はなんですか。組織はどういう風に育てていきますか。
正直ぼんやりしたイメージもないし,そもそもそこまで具体的に考えてないんですよね。先ほど木谷さんおっしゃったように,この業界は10年後のことなんて正直見えないですから。
Kazuhisa:
ほんとそうだよね。
李氏:
とりあえず,3年後とか5年後まで生き続けるためにはどこまでやらなければいけないか,と。最初はそもそも,ここまで成長できる会社だと思わなかったんですね。制度とか組織の設計を,なんにも考えてないわけです。せいぜい30人から50人かなと(笑)。
木谷氏:
アハハハ!
李氏:
多分MAX50人くらいが上限だろうと考えたわけですよ。なので,会社として完璧に設計されている感じがなくて,結構穴だらけというか,人に任せてる部分が多すぎるというか。
今後は,こういうところをより普通の会社っぽく,まぁ再構築とまでは言いませんが,ちゃんとした会社の骨格に補強しなければいけないですね。
Kazuhisa:
そこで問題になるのが会社のカラーなんだよね。
李氏:
そう! エンターテイメントコンテンツの会社ですから,いきなりものすごく普通っぽい会社になったらガラッと企業の文化が変わって,ユーザーから見るとつまんなくなっちゃう可能性が……。だからそこの線引きがどこまでいけるか,あとどこまでの時間をかけて努力するかが,かなり難題になると思います。
Kazuhisa:
規模は違えど通った道だから,分かる。
李氏:
でもウチは結論としては「やってない」んですよね。結構な数の会社さんが,でかい組織を目指したくて,ドでかい会社のリソースマネージメントとかのシステムを導入して,ドでかいコンサルティング会社の話を聞いて,会社を一から設計し直すわけですよ。
で,まぁだいたい悲劇になっちゃうわけです。うまくいってる事例を,僕は見たことないです。
木谷氏:
まあ,外部に考えてもらってる時点でダメですよね。
李氏:
そうなんですよね。結局大事な問題を丸投げして,自分の会社の事を分かってないんですから。
Kazuhisa:
でも組織のフレームワーク作るのって難しいよね。
木谷氏:
大きくしない,という選択肢もありますよ。
それはありですよね。とくに日本の会社さんは,そういう選択肢をする会社さんも多いじゃないですか。古き良き日本企業というか。既存のユーザー様に,良いものを提供し続ける。これ以上拡大はしない。
Kazuhisa:
職人気質というか。
李氏:
我々が中国の大学で勉強したときは,こういう日本企業さんが「良いケーススタディ」として紹介されるわけです。ただ,ここはソシャゲの業界なので,もう一回言いますけど,こうか(↑)こうか(↓)。こう(↑)を目指してるわけじゃないけど,(↓)これだけは避けないと。つまりこれ(↑)を目指すしかないんです。
結局一本道なので,大きくしないという選択肢はないと思いますね。
木谷氏:
なるほど。
Kazuhisa:
システムは相互に全部くっつけとかないと,大変なことになるよ後からやると。
李氏:
そうなんですよ……。
Kazuhisa:
説明するのも大変だし。全く理解してもらえないことも多い。
李氏:
制度とかシステム導入とか自分で考えるのはいいんですけど,あくまでもリーダーもしくは経営者の自己満足になる可能性がありますよね。現場がこういうものは要らないとか,こういう制度は複雑だからイヤだとか,そういう可能性もあるわけなので,皆さんの声を聞きながら考えたり。
Kazuhisa:
それはいいんだけど,会社法とか労働基準法は「要らない」とか「複雑だからイヤ」とかは許さないわけじゃない?
李氏:
それはそうなんですけど。でもまぁそれは最低限のことじゃないですか。
Kazuhisa:
その“最低限”がすごく面倒くさいんだけどね……。
李氏:
それは言っちゃダメですよ!(笑)
(一同笑)
李氏:
まぁどの道つき合わなければいけないとは思うんですけど,ウチはブシロードさんと違って上場してないわけですよ。すると,いいことも悪いこともあって,正直あんまり改革のモチベーションが大きくないですね。ただ,危機感はずっと持ってますけど。
Kazuhisa:
絶対にいますぐやらなきゃいけない,というわけでもないしね。
李氏:
しかも外部から圧力かからないですから。
Kazuhisa:
いいなぁ。
李氏:
いいな,って(笑)。
木谷氏:
うふふふ。
Kazuhisa:
あれはどうなっておりますか,これはどうなっておりますか,とまぁ毎度毎度……。まぁのらくらしてる僕も悪いんだけど。
李氏:
お茶を濁して?
Kazuhisa:
濁し続けて早1年。
木谷氏:
4Gamerさんは親会社が一つになった方がいいですよね。
Kazuhisa:
うん,そこはそうですね。
木谷氏:
それぞれの親会社の理解が違う場合もあるでしょうし。
片方が前向きだなと思っても,片方はなんでそれをやるの,となっちゃうのはありそうだと思います。
Kazuhisa:
社内制度を作るときに意外とその状態になりますね。
木谷氏:
4Gamerは新規事業とかやらないんですか?
Kazuhisa:
動画とか音楽は始めましたけど,もう1つくらい柱が欲しいですね確かに。
メディアというものの扱われ方とか存在意義が,昔とは丸っきり変わっているので,このビジネスをこの先もやっていくのは難しいだろうし,何か新しい柱を作っておかないと。でも,実質メディア1つがそのまま会社になっただけの組織なので,20人くらいかなーと思ってたんですけど,なぜか50人になってしまって……。
李氏:
20が50なら全然マシですよ。ウチなんか想定の4,5倍になってる。
Kazuhisa:
それは増えすぎ(笑)。
李氏:
もうその件については考えてないです(笑)。
木谷氏:
でも50人の飯食わせるのは大変ですよね。いやホントに大変ですよ。
Kazuhisa:
思ってたよりは胃が痛いですね。幸いキャッシュもそれなりにあるので,さすがに明日会社がなくなったりはしないでしょうけど,この先何かあったらなぁ……という。
でもブシロードだって,もっと大きくなるんですよね。
木谷氏:
んー。
Kazuhisa:
あれ?(笑)
木谷氏:
売上で1000億という目標を掲げてますから,またここから倍にしないといけないっていう話なんですけどね。どうやったらなるんですかね(笑)。
あとウチは,結論としてカードゲームで伸ばすしかないんですよ。なんだかんだで一周回って,カードゲームにもっと力を入れるべきだなと思ってます。
李氏:
カードゲームって最近旬ですし。
Kazuhisa:
しかし,カードゲームにしても音楽にしてもプロレスにしても,全部リアルが絡んでるのが面白いですよね。
木谷氏:
うん,そうですね。プロレスは小さいですけども,新日本は世界で3番目の団体なんですよ。WWE,AEW,新日本プロレスなんです。スターダムは,女子プロレス団体としては売り上げ小さくて,今期でやっと15億くらい。でも世界でナンバーワンですよ。
この業界順位が高いのって,やっぱりいいなと僕は思ってるんですよね。業界自体のパイが大きくなったらとんでもない大きさになる。だからカードゲームもグローバルなランキングで言うと,たぶんですけど4位か5位なんですよね。マジック(M:tG)のWizards※があって,あとポケモンがあって。ポケカだけで1000億くらいかな。
※「マジック:ザ・ギャザリング」を制作した米ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社
Kazuhisa:
遊戯王は?
木谷氏:
遊戯王は,たぶん海外全部合わせて300から400億くらいかな? 次がまあ,うちかバンダイ。バンダイさんのほうが大きいかもしれないですけど,ちょっと分かんないです。同じくらいだと思うんですけど。つまり,グローバルで4位か5位じゃないですかね。
Kazuhisa:
ほかにもビジネスはいろいろありますよね。
木谷氏:
出版もちょっとやってるんですけど,さすがにシェア0.001%とかそういう感じだと思いますよ。紙の出版全体のマーケットで言ったら。あとデジタルゲームのランキングでも相当下だと思うんですよね。
だからやっぱり,戦えそうなところでは戦っておいて,アナログとの相性がいいものはやっておいて。だから音楽コンテンツとか力入れてるんです。
結局は「今順位が高いもの」をもっと伸ばすべきだという結論になりました。だから僕の中では,ブシロードのビジネスはカードゲームかノンカードゲームの2種類にしか分かれてないんですよ。
Kazuhisa:
なるほど,そういう意識なんですね。
木谷氏:
という風にすべきかなと思って。
Kazuhisa:
リアルのカードゲームのビジネスは,いわゆる「IT」とは違ういろんなポイントがありそうですね。
木谷氏:
そうですね。デジタルじゃ考えなくていいとこまで最近考えなきゃいけなくなってます。
例えば製造だと,製造ラインというのが結構大変だったり,あとはこれからドライバー不足になると物流コストもすごい上がるはずなんですよね。でもこれは,カードゲーム以上にほかのおもちゃとかのほうが大変かもしれない。
Kazuhisa:
カードゲームと違ってパッケージが大きいですもんね。ボードゲームとかもそうか。
木谷氏:
最近はそういうとこも課題としてありますね。
だから,すごく無駄なことやってるわけですよ。埼玉の工場で作ったものを,同じ埼玉のウチの倉庫に入れて,そこから大阪の問屋に送って,その大阪の問屋から都内のショップに送ったりするわけです。これ無駄じゃないですか,どう考えても(笑)。
Kazuhisa:
聞くと無駄の極みですけど,ある程度今は仕方ないことなんですよね?
木谷氏:
もうちょっと整理しなきゃいけないなと思ってて,それもかなりいろいろ計画はしてます。
Kazuhisa:
そういうのは普通のゲーム会社さんとは悩みが全然違いますね。
木谷氏:
例えばバンダイさんって,製造にものすごい力入れてるんですよ。ガンプラ工場って,ほぼ無人※らしいですよ。人がいなくてもどんどん出来ていくって,こんなに強いものないですよ(笑)。
※BANDAI SPIRITSガンプラ工場新館建つ 生産能力1.4倍に引き上げ(日経クロステック)
Kazuhisa:
すごいなぁ。ちょっとシュールでいいですね。
木谷氏:
アメリカのおもちゃ会社なんかも,10年前はほぼ中国生産だったんですけど,今ほぼゼロですね。結構メキシコに工場が作られてます。レゴとかもメキシコ。
李氏:
最近はメキシコとベトナムが結構熱いですね。
木谷氏:
だから,考えなきゃいけないことが,ものすごく増えてます。昔は,製造とか流通のことなんてそんなに考えなくてよかったと思うんですよ。そういうのにプラスして為替の問題も出てきたから,開発とかマーケティング以外に,製造と流通と為替を毎日考えてる(笑)。
Kazuhisa:
社長の存在価値ありますね(笑)。
木谷氏:
そうですね,割と当たってるし?
ブシロードは,米ドルいっぱい持ってるんですよ。シンガポールの売り上げを国内にロイヤリティとして送ってくるときも,数年前から「円に変えるな」って言ってあって。ドルのまま置いとけ,と。
そこで貯まった分が結構あるんですよ,米ドルが。今は定期預金1年定期で5%くらい付くじゃないですか,米ドルって。その貯まった分を回すだけでもなかなか。
李氏:
3か月で5%ですよ。
木谷氏:
1年でも5%くらいありますよ。
李氏:
まあでもリスクはありますね。日銀がいつどういうタイミングで手を出すか分からないし。
木谷氏:
ドルで稼いだやつをドルで取っておくには,リスクないんですよね。
李氏:
それはあくまでもプラスアルファのものですよね。そこから「本気」を出そうとしたら大抵こけます。
Kazuhisa:
そういう会社あるよね確かに。
李氏:
本業以外に,たまたま金融で儲かる会社さんがいるわけですよ。で,そういうイージーマネーを見て「じゃあそっちにシフトしましょう」って。昔の○○さんの不動産みたいな。
Kazuhisa:
最近でも○○さんとか。
木谷氏:
それ大損出してましたよね。
李氏:
まぁあくまでもプラスアルファで儲かったらラッキー,ぐらいの感じがいいですよ。
Kazuhisa:
……あ,そろそろ30分が経っちゃうので,締めに入りますね。
最後に,木谷さんのこのあとの野望を聞いておきたいです。
木谷氏:
野望……野望?(笑)
Kazuhisa:
はい。数字じゃない野望がいいです。
木谷氏:
数字じゃない野望なら,それはもう原点に立ち返って「カードゲームで世界一を目指す」ってやつですね。
Kazuhisa:
ぶれないんですね,そこは。
木谷氏:
いや一回ぶれたわけですよ,いろんなとこに。
Kazuhisa:
あ,それもそうか。
木谷氏:
だから,看板がかかってるのか,かかってないのか,分からない状態になっちゃって。
Kazuhisa:
それいつごろですか?
木谷氏:
まあ2017年……バンドリ!が当たったから,なおさらそうなっちゃったんですよね。
李氏:
なんとなく想像はつきます。
木谷氏:
やっぱり柱って何本も欲しいんですよ。柱をいくつか立てようとするのは悪いことじゃし,そうすべきだと思うんです。
でも大きな柱が一本のほうが,本当は安定するんでしょうね。だから,もちろんほかも頑張りますよ。頑張るんだけど,やっぱりメインはカードゲームで,それで世界一を目指す,と。まあずいぶん遠いですけどね。
Kazuhisa:
でもさっきの話だと,結構いい位置につけてませんか。
木谷氏:
順位的なものとパイ的なものはずいぶん違うわけです。ただうちがほかと違うところは,僕はこれ言ってもいいと思うんだけど,世界で一番カードゲームをたくさん立ち上げてるんですよね。
Kazuhisa:
なるほど,言われてみればそうかもしれません。
でかい規模までいってるのって,例えばマジックが1993年です。ポケカは1997年くらいじゃないですかね。それで遊戯王が1998年。上位勢って,全部もう20年以上前にできたやつなんですよ。
Kazuhisa:
あぁもうそんなに経つんですね。
木谷氏:
なので,やっぱり結構立ち上げられるというのは,一つの差別化だと思いますね。カードゲームの元祖を作ったといってもいいWizardsですら,マジックとデュエルマスターズしか残ってないわけです。カードゲームの立ち上げと継続って,それくらい難しいんですよね。
Kazuhisa:
しかもデュエルマスターズだって,マジックのスタッフがやったわけですからね。
木谷氏:
そうなんですよね。
もちろんアプリゲームの立ち上げも難しいと思うんですけど,カードゲームの立ち上げは,そこに加えてアナログな面展開が必要なんですよね。だからコストよりも手間がかかる。
Kazuhisa:
そう簡単にはマネできないんですよねえ。
木谷氏:
できないですね。
Kazuhisa:
では木谷さんの「世界一」への挑戦をこっそり物陰から見守っております。今日はありがとうございました!
――2023年6月19日収録
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