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[TGS 2006#53]Unreal Engine 3は次世代ゲームを支えるか?
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印刷2006/09/24 23:59

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[TGS 2006#53]Unreal Engine 3は次世代ゲームを支えるか?

 TGS Forumの締めくくりに,PCおよび次世代ゲーム機の次世代ミドルウェアとして期待されているUnreal Engine 3についての講演が行われた。
 Unreal Engine 3は,次世代機のポテンシャルを手軽に引き出すミドルウェアとして期待されている。Unreal Engine 3の制作元であるEpic Gamesから,Vice President Business DevelopmentのJay Wilbur氏とChief Exective Officer(CEO)のTim Sweeney氏が来日,Unreal Engine 3について解説してくれた。なお,当初予定されていたEpic Games社長のMichael Capps氏の都合が合わず,同社CEOであるTim Sweeney氏が急遽登壇の運びとなったようだ。Tim Sweeney氏といえば,id SoftwareのJohn Carmack(ジョン・カーマック)氏と並ぶ,業界最高のカリスマプログラマの一人である。Unreal Engineシリーズの産みの親でもあり,Unreal Engine 3についても,世界一詳しい人物であることは想像に難くない。

Epic Games Vice President Business Development Jay Wilbur氏
■次世代ゲーム開発のリスクに取り組む

 さて,まずJay Wilbur氏の講演である。かつてはid Softwareで辣腕を揮っていた(もともとはジョン・カーマック氏のルームメイトだったらしい)ビジネススペシャリストだ。演目こそ「次世代ゲーム開発のリスクに取り組む」とおとなしめだが,内容はなかなか過激だ。氏はいきなり,

  7人のチームで12か月以内にゲームを作れ。
  75万本以上売れるタイトルを開発しないと会社がつぶれる。

といわれたときに,どのような対処ができるだろうか? 通常「不可能」な,こういった要求を達成するための手法がある,と説き起こす。
 いわゆる次世代機(Xbox 360含む)用ゲームの開発では,ゲームの内容がどんどん高度化してきている。以前の約2倍のコンテンツを詰め込むことが要求され,技術的にも高度になっているにもかかわらず,ゲームパッケージの単価は低落傾向にある。

 旧世代機
  開発費用 200万〜600万ドル
  パッケージ価格 70ドル程度
 次世代機
  開発費用 800万〜2000万ドル
  パッケージ価格 50ドル程度

 旧世代機の開発でも,2億円から7億円はかかっていたらしい(実際のところはよく分からないが)。それが次世代機ではさらに跳ね上がっている。金額はともかく,全体に開発コストが跳ね上がる傾向にあるのは間違いないだろう。Jay Wilbur氏は,次世代機のゲームを開発するには,だいたい1200万ドル(約14億円)が必要であるとし,単価4500円程度のゲームでは約30万本は売らないと元が採れないことを示した。
 では,実際にゲームって何本くらい売れているものかを調べると,ほとんどのタイトルは20万本を下回るくらいしか売れていないことが分かる。全体の約4%のゲームだけがヒットし,ほかはよくてトントンといった感じだ。このままでは大多数の作品は作るだけ赤字になってしまうだろう。この数字は全米のPS2,Xbox市場のものだと思われるので,ここで想定している,価格が約35%下げられたゲームパッケージに直接適用するのはフェアではないが,普及度の違う次世代機では,ゲームビジネスはさらにリスキーになってくることも考えられる。まともな感覚の経営者であれば,手を出せないところだろう。次世代機用のソフト開発にかかってくるリスクをいかに低減するかが,この講演の骨子である。



Unreal Tournament 2004と2007の比較。2000ポリゴン程度だった乗り物は6000ポリゴンになり,さらにノーマルマッピングで350万ポリゴン分のディテールを持っている
 ゲーム開発の効率を上げる方法として,Jay Wilbur氏は2種類の手法を提示する。これはEpic Games自体の方法論でもある。
 そもそもEpic Gamesの社員数は80人だが,現在Unreal Engine 3自体をはじめ複数の開発が進んでいる。これまでも,Unrealは18人,Unreal Tournamentは21人,現在制作中のGears of Warは30人体制で開発されている。ゲームの規模はどんどん大きくなってきており,これは一般的なゲームの半分の人員でしかない。
 
 さて,そういう不可能なはずのことを実践しているJay Wilbur氏が述べる2種の手法とは,一つはアウトソーシング,そしてもう一つが,買ったほうがよい技術は外部から買うことである。つまり,「外注しろ,ミドルウェアを使え」ということになる。ミドルウェアであるUnreal Engine 3を売り込む男なら当然のセリフではあるのだが,Unreal Engine 3で使われているAGEIA PhysXテクノロジーやフェイシャルアニメーションエンジンはEpic Gamesが開発したものではなく,外部の技術によるものである。また,Epic Gamesは積極的に外注を使っている。

Epic Gamesの外注先であるStreamline Studiosの作成したアートワーク例
  ここでまた重要な主張がなされるのだが,「外注によってクオリティが落ちるということはない」という。要は,外注先を正しく選ぶのが重要ということだ。よほど厳選しているのだろうが,Epic Gamesのお眼鏡にかなう在野のソフトハウスも存在するということである。また,人件費を安く上げるなら,外注先は中国がよいとしている。Epic Gamesでは,すでにEpic Games Chinaを設立し,ベテランのプロダクトマネージャを派遣して監督に当たっているらしい。中国ならば,日本や欧米と比較して人件費が半分以下で済む。中国などにソフトウェア外注を行うというのは,コスト削減で誰もが考える手法の一つだろうが,中国法人を立ち上げたのは,単に丸投げするのではなく,クオリティコントロールや機密保持などを実現するところまで考えておく必要があるということだろう。



 次に,ミドルウェアの採用についてだが,自社開発のメリットとデメリット,ミドルウェア導入のメリットとデメリットを挙げて比較している。

作ったほうがよいか,買ったほうがよいか。それぞれのメリット,デメリットをまとめている

 いろいろと考えどころはあるが,結局のところ,

  次世代機での技術開発には多大なコストと時間がかかる

という点はいかんともしがたい。Unreal Engine 3の開発には1200人月以上の労力と数百万ドルの費用がかかっているという。同等な表現力を持つものを作ろうとしたら,どうしても同じくらい費用と労力がかかるだろう。
 次世代ゲーム機用作品の開発には,(PCゲームではそう違わないのだが)プレイステーション2など旧世代のゲームの開発と比べると技術的に隔世の感がある。High-Definition Dynamic Range Rendering(HDRレンダリング)とか物理演算,ノーマルマップなど,あれこれをいきなり要求される。ディスプレースメントマッピングを使いたいと思っても,そのマッピングデータの作り方すら分からない人も多いだろうと思われる。
 お金をかけずに開発することは,もちろん不可能ではない。しかし,顧客の期待するレベルに達していないゲームで,各社が総力を挙げて開発してきたゲームと伍して売り上げを出すことは,さらに困難だといわざるをえない。ミドルウェアなどの採用は,もはや必然ともいえる。
 あえてUnreal Engine 3を使いなさいとはいわぬものの,ミドルウェアを使って生産性を上げることの重要性を強調していた。



Epic Games CEO Tim Sweeney氏。Unreal Engine 3のチーフアーキテクトでもある
■ツール指向の次世代ミドルウェア

 続くTim Sweeney氏の講演では,実際にUnreal Engine 3の各種ツールを使用して,機能紹介やEpic Gemesの開発プロセスの紹介が行われた。

 氏によれば,ゲームを効率的に作成する秘訣はツールだという。多くのゲームエンジンと比べたとき,Unreal Engine系の特徴は,機能の多くがビジュアルなツール仕立てになっているところにある。
 Tim Weeney氏が最初に作ったゲームとして知られるZZTは,テキスト画面を使ったアクションアドベンチャーだった。ネットで探せば現在でもダウンロードしてプレイ可能である(最近のマシンでは最低速設定にしてもプレイは相当難しいとは思うが)。このゲームは,オブジェクト指向のスクリプト言語で実装されたもので,リアルタイムアクションゲームの要素やパズルゲームの要素も盛り込まれており,最初からゲームエディタが組み込まれていることも特徴的であった。

Tim Sweeney氏が初めて作ったゲームZZT。一人ですべて作業し6か月ほどかかったという。右はエディット画面


Unreal Engine 3を使ったUnreal Tournament 2007のデモプレイ映像の一部。ダウンロードは「こちら」から(7.8MB:15秒,MPEG-1)
 講演ではまず,Unreal Tournament 2007のデモプレイが映示され,Unreal Engine 3を使うとどのようなことができるのかが示された(ダウンロードは「こちら」)。
 Unreal Tournament 2007では32プレイヤーまでの同時プレイをサポートしていること,乗り物などはPhysXを使った動きであることなどが解説された。ちなみに,Unreal Tournament 2007は,2007年後半に各機種同時リリースの予定だそうだ。
 
 Unreal Editorを使えば,さまざまなパラメータを自在に変更し,すぐに実際のゲーム画面が確認できる。マテリアルエディタやパーティクルエディタ,ゲームの動作を決めるスクリプトエディタなどが次々と紹介される。面白いのは,ムービーシーンをUnreal Engine 3でレンダリングするための専用エディタもあることだ。Unreal Engine 3はゲーム用だけでなく,産業シミュレーション用やCGアニメーション制作用ツールとしても売り込みが行われているのだ。
 さて,これらのツールが扱う要素は,多分にプログラマブルな要素を含んでおり,物体の質感一つ変えるにしても,実際にはシェーダプログラミングが必要になる。Unreal Engine 3では,それらをビジュアルな形で提供しており,図形同士を線で結んでいったりするなど,テキストベースではないプログラミング環境が提供されている。
 画面を見るとなにやら,奇怪な図形が画面に収まりきらないくらいの規模で(自在にズーム可能)複雑に絡み合っており,本当に使いやすいのかどうかは疑問が残る。ただ,テキストベースではデザイナーが拒否反応を起こすことが多いが,このようなインタフェースだと受け入れられるらしく,このような形になったようだ。プログラマではなく,デザイナーをターゲットとして全体のインタフェースが設計されているというのは,Unreal Engine 3を理解するために重要なポイントである。ゲーム制作の作業の大部分はなんらかのデータの作成であり,そういった部分からプログラマの必要性をカットし,デザイナーレベルで作業できるようにしているのだ。内部の理屈をまったく理解していなくても,手軽にいろいろなことが試せるというのは重要なことであろう。

上:Unreal Editorの画面。光源を増やしたりオブジェクトを選択したりしているところ
下:マテリアルエディタとパーティクルエディタ。使用するマッピング情報などを線でつないで質感をプログラミングできる。右のパーティクルエディタは色成分ごとに分散を変えたり,ベジエカープで放射を細かく調整できる


本文とは関係ないが,Tim Sweeney氏の自室。後ろにあるカラフルな物体は凧だ。机の上にはノートPC2台とPC用ディスプレイが見える
■Unreal Engine 3は日本向きでない?

 最後にパネルディスカッションが行われた。話は前後するが,セッションの開始時に説明された,このセッションの意図を,パネルディスカッションの論点整理も兼ねて簡単に紹介しておこう。

日本の開発者の求めるツールとして,使えるのか?
プレイステーション3への対応状況はどうなのか? マルチコアについてはどう考えているのか?
問題点が存在するとすればどこなのか?
ほかの企業はどのように導入してきたのか


 これは暗に,日本ではUnreal Engine 3の展開がうまくいっていないことを示唆している。すでに説明したように,Unreal Engine 3は次世代ゲームで要求される機能を使いやすく提供してくれているはずのツールなのだが,いったいどうしたことだろうか?
 Unreal Engine 3はプレイステーション3用の開発ツールとして採用されているので,プレイステーション3では使用したゲームタイトルも多く出てくることだろう。当然,日本企業でもテストしているはずなわけだが,どうもあまり受けはよくないらしいのだ。なにやら,日本企業がこれまで培ってきた開発スタイルと相容れないのだそうだ。
 パネルディスカッションでは,そのあたりの原因と対策についての質問がされていた。
 日本では従来からの開発ラインにUnreal Engine 3を取り込んだものの,十分なパフォーマンスが引き出せていないケースが多いという。Jay Wilbur氏によれば,新しいものに対応していくには変化が必要だとして,日本側の開発体制に問題があることを匂わせた。
 日本のゲーム開発では,そのゲーム専用にプログラム開発が行われていた。これまでの家庭用ゲームやアーケードゲームは,そのゲームに最適化されたプログラムで構成されているのだが,今後はもっと汎用性を意識して開発すべきだという。Epic Gamesでは,専用にチューンされたものと比べてパフォーマンスで劣ることに問題があるとは考えていないという。
 開発スタイルの違いというか,もっと広い意味での意識の違いかもしれないが,ハードの性能が限定されていることや生産性なども考えると,意外に根の深い問題なのかもしれない。

 Unreal Engine 3では,ソースコードが提供され,それぞれの開発環境に合わせてエンジン自体を改造して使っていけるのだが,そういったことをした場合,エンジン本体のアップデートがあると対応が難しいのではないかという指摘もなされた。それに対してTim Sweeney氏は,Unreal Engine 3はそのような対応も行っているが,特殊な環境に適合させるにしても,通常,必要な改造部分は全体の5%以下で済むという。開発ラインに合わせてUnreal Engine 3のパイプラインを変更するべきではなく,Unreal Engine 3で想定されている流れで開発すべきだと,やんわりと牽制した形だ。
 また,FPSしか作れないエンジンだという誤解もあるという。NC softなどはリネージュIIでUnreal Engine 2を使用しているわけだが,導入時の障害はなかったのかとか,どのようにしたのかなどといった質問も出てきた。回答としては,汎用的に作られているので,用途に制約要素はないという。加えて韓国や中国では,ゲーム開発の歴史が浅く,開発スタイルも確立されていないので逆にUnreal Engine 3のスタイルに馴染みやすいようだという。
 
 ところでTim Sweeney氏は,マルチコアCPUについて,ずっと批判的なことで知られていた。現在はPCをはじめ,プレイステーション3,Xbox 360,Wiiと軒並みマルチコアCPUになってしまっていることに対してコメントを求められると,Tim氏は「以前はCPUのクロックは18か月で倍になっていたんだけど,ここ数年は上昇が止まっている。マルチスレッドで開発すると開発コストが約2倍かかって,さらに十分なパフォーマンスを得るには5倍のコストがかかるんだけど……(意訳)」云々と,半ば諦め気味にも思えるが,とにかく高いパフォーマンスを得る方法ということで,本人の言によれば「非常にポジティブ」になっているようだ。プレイステーション3の開発はとにかく難しいといわれているようだが,Epic Gamesではすでにかなりの成果を挙げているとのこと。

 また,デザイナーが作ったスクリプトのデバッグ作業などを,プログラマがサポートするのは大変ではないのかといった質問もあった。複雑なスクリプトも作れるのはいいが,プログラムの経験がない人の場合,ときとしてプログラマが驚くようなキテレツなものを作ってしまう可能性もある。デザイナーがスクリプトを書けるとはいっても,デザイナーはプログラミングの専門家ではない。意図通りに動かないことも頻発するだろう。スクリプトとはいえ,プログラミングとはそういうものである。確かに見慣れない図形に書かれたスクリプトをデバッグさせられるプログラマもかわいそうな気はする。これに対しては,シンプルな部分だけデザイナーに任せて,重要な部分はプログラマが作るべきだろうということだった。分担部分をしっかり管理すれば大きな問題は発生しないという。

スクリプトはこのように図を使って作成される


エディットしたデータは,このようにすぐに実際のゲームとしてプレイ可能。エディットした場所からすぐにゲームを始める「ここからスタート」機能もある。PS3などへのコンバートは数秒でOkとのこと
 昨今ではユーザー参加型のコンテンツが話題ということで,Modコミュニティについても質問がなされた。
 もちろん,今後リリースされるUnreal Tournament 2007でもMODツールが提供される。MODによってゲームの寿命は延長され,人材の育成もできる。現にEpic Games社員の3割はMODコミュニティからやってきたのだそうだ。
 SCEはプレイステーション3をオープンなプラットフォームとして開放する予定だという。これにより,MODなどを通じてユーザーレベルの開発者コミュニティが出てくるのは素晴らしいことだと語った。
 PCベースで,プレイステーション3用のMODツールが公開されるのかという質問も出たが,とくにプレイステーション3版専用のツールを出すことはないようだ。PC用のMODがほぼそのまま使えるはずなので,コンバートすればよいとのこと。おそらくプログラムサイズの制限などは加わるのだろうが,プレイステーション3でも,そのようにして開発したMODが使用できるようになる点は,請け合っていた。
 
 最後にTim Sweeney氏に,何がツールを作るモチベーションになっているのかという質問がなされた。それに対しては,ツールを作るとアーティストが思いもよらぬ使い方で素晴らしい仕事をしてくることがある。それが氏には興味深いとのこと。また,ツールの作成自体がエキサイティングだと語っていた。

 日本におけるUnreal Engine 3の展開は,必ずしも順風満帆というわけではないようだが,今後さまざまなゲームを通して我々の前に姿を表すのは間違いないところだ。MOD SDKではUnreal Engine 3のツールが広く公開されるということなので,そちらのほうも楽しみではある。今後の展開に期待しよう。(aueki)

  • 関連タイトル:

    Unreal Engine

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    アンリアル トーナメント 3 英語版 日本語マニュアル付き

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