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[CEDEC 2015]Oculus的なVRだけがVRじゃない。日本Androidの会が提案する「お手軽VRのススメ」
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印刷2015/08/29 00:00

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[CEDEC 2015]Oculus的なVRだけがVRじゃない。日本Androidの会が提案する「お手軽VRのススメ」

伊達康司氏(日本Androidの会 金沢支部・VR部)
画像集 No.002のサムネイル画像 / [CEDEC 2015]Oculus的なVRだけがVRじゃない。日本Androidの会が提案する「お手軽VRのススメ」
 CEDEC 2015では,Androidアプリの開発者やユーザーによる団体「日本Androidの会」が,いくつかのセッションや展示を行っている。本稿では,同会によるセッションの中から,「汎用スマホ利用VRゴーグルって,やっぱダメですかね?」と題するショートセッションをレポートしてみたい。ショートセッションとはいえ,VRを普及させるために何が必要なのかという興味深い提案が行われたので,それを紹介してみたい。
 セッションを担当したのは,日本Androidの会 金沢支部でVRの普及活動に携わる伊達康司氏。伊達氏は,組み込みLinuxなどに取り組んできたエンジニアで,その筋にはわりと知られた人物である。


VRに対して異なるスタンスをとるOculus VRとGoogle


Gartnerのハブサイクル。ある技術が人々に受け入れられるでにたどる典型的な道筋を表した曲線だ
画像集 No.003のサムネイル画像 / [CEDEC 2015]Oculus的なVRだけがVRじゃない。日本Androidの会が提案する「お手軽VRのススメ」
 伊達氏はまず,VRの現状分析から講演をスタートした。
 氏は,世界的なコンサルティング会社であるGartnerが提唱する「ハブサイクル」と呼ばれるグラフを提示する。ハブサイクルとは,ある新技術が受け入れられていくまでにたどる,人々の受容度をグラフ化したものと考えればいい。
 といっても別に難しい話ではない。新たな技術が生まれて注目が集まると,一気に人々の関心が高まるものの,「なんだこんなものか」と幻滅されて,一旦はブームが去る。だが,本当に使える技術はそれでも成熟を続けて,徐々に当たり前のものとして,人々に受容されていくということを,曲線グラフで示したものだ。

 では,VRは,今どのあたりにいるのだろうか。Gartnerが2015年に示した,ハブサイクルにおけるVRの位置付けによると,ブームが去った後,徐々に坂道を登っているところにいるとされている。

Gartnerによる2015年時点でのハブサイクルにおけるVRのポジション(左)。右写真は,近年話題の技術をハブサイクルにプロットしたもの。IoTはこれから落ちるところ,3Dプリントはまさに今,落ち込んでいるところに位置づけられていたりするのが面白い
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 このGartnerの分析に違和感を感じた人もいるだろう。ゲームにおいては,2016年がVR元年といわれるくらいで,まさに今,ピークに向かって進もうとしているところというイメージもあるからだ。伊達氏もそう感じているようで,,「私の感覚では今このあたりにいるのではないか」と示したのが,下のスライド。まさにVRはピークにいるという分析である。

伊達氏の感覚では,VRはまさにいまピークにあるという
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 市場におけるVRのポジションで,こうした齟齬が出てくる理由は単純な話で,VRというのは,実のところ目新しいものではないからだ。伊達氏がその例として示したのが,VRの父ともいわれるMorton Helling氏が1960年に特許を取った,Telesphere Mask」というVRゴーグルである。

1960年に,アメリカで特許が取得されたTelesphere Mask(左)。不格好なことを除くと,現代のVRゴーグルとほぼ同じアイデアにもとづいている
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 特許が取られたのは1960年だが,1957年頃にはすでに製品が存在していたそうである。また,1962年には,Helling氏による「Sensorama」という,アップライト筐体のアーケードゲーム機のようなVR体験マシンが存在していたそうだ。Sensoramaは立体視ができるだけでなく,「風が吹いたり振動したり,匂いまでした」(伊達氏)というから,いまのVRよりも一歩先に進んだマシンだったのだ……というのは言い過ぎか。

1962年ごろに実在したVRアーケードマシン「Sensorama」。風が吹いたり匂いまでしたそうだが,もっぱらアダルトコンテンツで利用されたらしい
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10年毎に繰り返されるVRブーム。ただし,「2000年台にはなかったようです」と伊達氏
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 伊達氏によると,1960年代を端緒として,VRブームはおよそ10年ごとに繰り返されてきたという。先のGartnerによる分析は,そんな過去のブームもひっくるめての分析と考えれば,理解できるかもしれない。

 このようにブームを繰り返してきたVRに対して,Oculus VRは非常に慎重なスタンスで望んでいる。「VRは牡蠣のようなもの」というのは,Oculus VR日本チームの「GOROMan」こと近藤義仁氏の言葉だが,VRで一度気持ち悪い思いをすると,二度と体験したくなくなるという意味だ。実際,Oculus VRのスタンスは一貫しており,Game Developer Conference 2015の講演で,同社CTOを務めるJohn Carmack氏が,「ここで不完全なものを出すとVRがまた暗黒面に落ちる」と述べていたそうだ。
 Oculus VRとしては,VRブームが人々から嫌われて一過性に終わってしまわないために,可能な限り完全なものを出そうとしているのは確かだろう。

「VRは牡蠣のようなもの」。一度気持ち悪い思いをすると,二度と体験したなくなるので,できるだけ完全なものを出したいというのがOculus VRの一貫したスタンスだ
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 だが,完全なものを出そうとするあまり,高額になりすぎれば普及を阻害するのではないか,という意見もあるだろう。実際,Oculus VRが2016年第1四半期に発売する予定のVRヘッドマウントディスプレイ(以下,VR HMD)「Rift」は,PCと合わせて1500ドルほどを目指しているという。日本円にすると18〜19万円ほどにもなるので,ちょっとVRを試してみたい程度の人が買えるものではない。
 「価格が高すぎてVRを体験できる人が限られてしまうと,またVRは暗黒面へと落ちていくのでは」と伊達氏は主張する。「牡蠣にあたっても,おいしいからまた食べたいという人はいますよね?」と伊達氏がいうように,多少不完全なものであっても多くの人が体験することこそ,VRを普及させる原動力になるのではないか,というわけである。


Androidの会が提案する「カジュアルVR」


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 誰もが気軽に体験できるVR機器はいくつかあるが,なかでも有名なのは,Googleのダンボール製VRゴーグル「Cardboard」だろう。ダンボールで作ったゴーグルにスマートフォンをはめ込んで使うVRゴーグルで,CEDEC 2015会場でも,GoogleがCardboardを配っていた。
 スマートフォンには,動きを検出するためのジャイロセンサーや地磁気センサー,3Dグラフィックスを描画するためのGPUといった,VR HMDを実現するための要素技術が詰まっている。もちろん,Cardboardのようなスマートフォン転用型のカジュアルなVR機器は,Oculus VRが目指す「完全なVR」にはほど遠いものだ。フレームレートは低く,表示遅延もそれなりに大きい。
 だが,伊達氏は,スマートフォンは今後も,急激な進歩を続けると指摘する。「2015年末から,次世代のSoC(System-on-a-Chip)を使ったスマートフォンが登場する。64bit化されてバスが高速になり,GPUの性能も格段に向上する」(伊達氏)。性能面のギャップは,急速に縮まるだろうというわけだ。

伊達氏は,スマートフォンの性能向上要素を列挙して(左),遠からずVRにも対応できるレベルになると予想する。ソフトウェア開発環境も整いつつあり(左),Unityのようなマルチプラットフォーム化も可能なゲームエンジンも利用できる
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 そうはいっても,ダンボール製VRゴーグルはさすがに厳しいと感じる人は多いだろう。伊達氏も,使っているうちにぼろぼろになる耐久性のなさや,視度,視差の調節機能がないといった,Cardboardの問題点を指摘する。
 だが,Cardboardよりも実用的な簡易VR製品も登場している。伊達氏がその1つとして紹介したのが,日本のタオソフトウェアが開発した「TaoVisor」(関連リンク)である。

TaoVisorの実物
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 クラウドファインディングによる資金調達で商品化を実現したTaoVisorは,Cardboardの仕組みをベースにしてはいるが,ボディはプラスチックでできているので,耐久性もそれなりにある。なにより,レンズを動かす機能があるので視度,視差調節が可能であり,Cardboardよりも格段に実用的だ。

スマートフォンをはめ込んで利用する仕組みは,Cardboardと変わらない(左)。しかし,内側にあるタブでレンズを動かせるので(右),適切な視度,視差に調節できるのが大きな違いだ
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 また,伊達氏が,タブレット端末と100円ショップにある材料で作ったという,自作のVRゴーグルも披露された。目の保護用として100円ショップで売られていたゴーグルを流用したそうだ。筆者も短時間体験してみたが,かなりスムーズに映像が見えていた。こうした簡単なものでも,VRを体験する道具としては,たしかに役に立ちそうに思える。

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100円ショップにある材料で伊達氏が自作したVRゴーグル。タブレット端末をはめ込んで使うのだが,体験してみると,意外にも映像はシャープだった
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 安価で高機能なTaoVisorや自作VRゴーグルのようなもので,まずはVRを楽しんでみようというのが,伊達氏とAndroidの会の主張というわけだ。手軽に体験する機会を増やすことによって,VRが普及の臨界点を超えるのではないかと伊達氏は考えているという。

 筆者の意見としては,完全なVR体験を目指すOculus VRのスタンスと,伊達氏が推すカジュアルなVR体験は,対立するものではないだろう。それぞれがVRをドライブすることで,車輪の両輪のようにVRの普及を加速させることが,理想ではないかと考えている。VRゲームの現状を考えても,ハイエンドPCを使うOculus VRと,スマートフォンで楽しむカジュアルなVRは両立しやすいだろう。
 どちらが後か先かはともかくとして,双方でVRを盛り上げていくことで,VRがさらに盛り上がっていくことを期待したい。

CEDEC 2015 公式Webサイト


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