本連載「身近なところにゲーミフィケーション」では,ゲーミフィケーションを活用した製品やサービスなどを,岸本好弘氏とともに紹介していく。
今回取り上げるのは,ドリーマーズギルドが展開する小学生向けプログラミングスクール「コードアドベンチャー」だ。
「すべての子どもにプログラミング教育を」という理念で活動するこのスクールでは,生徒が楽しみながら学んだり,講師が楽しみながら指導したりできるよう,ゲーミフィケーションを取り入れている。
そうしたコードアドベンチャーの活動について,ドリーマーズギルド 代表の宮城島崇之氏に話を聞いた。
![]() |
令和世代の子どもたちに向けて採用した「Minecraft」とYouTuber
コードアドベンチャーは,「Minecraft Education」(教育版「Minecraft」)を使った教材を採用し,ゲーミフィケーションを実現しているプログラミングスクールだ。
このスクールは,2020年度から小学校のプログラミング教育が必修化されたことを受けてスタートし,以降全国各都市にフランチャイズ展開している。
宮城島氏:
小学校で必修化されたことにより,それまで限られた人だけが持つ特別な技術だったプログラミングを,義務教育として学ばなければならない時代になりました。
また,介護士や保育士といったような,以前はITやPCとは無縁だと思われていた職業であっても,さまざまなデータを記録・活用しながら業務を進める形になりつつあります。
つまり,どのような職業に就くにしても,基本的なPCの構造やプログラムがどのように動いているのかなどを,何となくであっても理解しておく必要があるわけです。
プログラミングをすべての小学生に学ばせるにあたり,宮城島氏は2つの工夫を施した。1つは,上記のとおり「Minecraft」を採用したことだ。採用の理由は,大半の小学生が知っているタイトルだからである。
![]() |
宮城島氏:
今のお子さんたちはレコメンド慣れしているので,TikTokでもYouTubeでも自分の好きなものしか見ない。そして,その好きなものからの情報取得率がものすごく高い傾向にあります。
したがってプログラミングも,彼らが知っているものを切り口にして情報を与えないと,なかなか学んでもらえません。その課題を,大多数のお子さんが知っている「Minecraft」という既存IPを使うことにより解消したわけです。
岸本氏:
私が授業を担当している高校1年生も,今年から全員がα世代(2010年生まれ以降)になりました。昨年と比べて急に何かが変わったわけではありませんが,「生徒の身近なことや,興味のあることをきっかけに授業を展開すること」を,以前にも増して意識しています。
もう1つの工夫は,YouTuberであるいぬたぬきさんの起用である。いぬたぬきさんは,東京工業大学(当時)出身でゲームエンジニアを志していたが,方向性を少し変えてYouTubeで動画投稿を始めた人物だ。
宮城島氏:
彼がプログラミングの教材を作りたいと言ってくれたので,一緒にやらせてもらうことになりました。やはり今のお子さんは,YouTuberへの憧れや親近感がすごいんですよね。
また,“偉い人”よりも,“近い人”の話をよく聞く傾向にあります。たとえば学校の先生よりも,親御さんの話を聞きます。就職活動でも,親と相談してどこに入社するかを決める。近ければ近い存在であるほど話を聞くんです。それでは親御さんの次に近い存在は誰かといったら,YouTuberだなと思ったんです。
岸本氏:
親御さんの次がYouTuberなんですね。
私も,生徒たちから「クラスメイトみたいな先生」と言われるような距離感を意識しています。そちらのほうが,話が伝わりやすいからです。実際には51歳差なんですが(笑)。
コードアドベンチャーの体験会では,子どもたちが「Minecraft Education」の「MakeCode」を実際に用いてプログラミングを行い,「いぬたぬき研究所」に隠された宝物を手に入れるため,仕掛けを解いていくことになる。
最初は講師がヒントや手順を教えて手助けするが,研究所内のある部屋に到達したとき,宮城島氏は子どもに向けて以下のように説明するそうだ。それは,同席している保護者への殺し文句でもある。
![]() |
宮城島氏:
授業中に「今までみたいに,先生が言ったことをそのままやることは大事。ただそれだけだと,言われたことしかできない大人になってしまうよ」という話をするようにしています。
その後に「自分で何が問題なのかを見つけて,それを自分で解決する。それができないと,立派な大人とは言えないと先生は思うんだ」と続けるんです。お子さんたちはポカーンとしているんですが,保護者の皆さんは,頷いてくださるんですね。
岸本氏:
知識だけではAIに絶対勝てない時代になりました。そんな時代を生きる子どもたちに必要なのは,「問題発見力」だと私も思っています。
ゲームの中で,自分なりの攻略法を見つける。あるいは,ときにはバグすら発見してしまう。そうした体験が,これからはますます大事になるのではないでしょうか。
極端に勉強を嫌う子どもの存在が,ゲーミフィケーションの活用につながった
宮城島氏は名古屋大学理学部を卒業しており,学生時代に勉強に対する苦手意識はそこまで大きくなかったという。岸本氏によると,そうした人材がゲーミフィケーションを応用した教育で子どもに何かを教えようとするケースはそう多くないという。
なぜなら,何かに頼らずとも自分自身で学びに向かうことができる人材は,それができない子どもの気持ちを理解することが難しいからだ。
岸本氏:
ゲーミフィケーションは,ざっくり言うと「人間は楽しくないとやらないよね」という考え方に基づいた手法なんです。たとえば大人が,勉強の大事さをいかに説いても子どもにはなかなか伝わらない。だから勉強したくなるような道を用意して,励まして達成感を与えながらそこに向かわせるしかない。
私自身もちょっとできない子どもでしたし,今でも何か自分が始めて挫折したときに「人はここでつまずいて嫌になるんだ」と考えるからこそ,楽しくする工夫をするんです。宮城島さんは,自ら進んで学べる人なのにゲーミフィケーションにたどり着いたのが,不思議なんです。
宮城島氏が,ゲーミフィケーションの考えにたどり着いたのは,自身のお子さんが勉強することを極端に嫌がったことが理由だという。
嫌がることを無理やりやらせようとするのは非常に良くないことだと考え,最初はご子息でもできるような教材を作るために,岸本氏が提唱するゲーミフィケーション6要素のうち「称賛の演出」に着目したのだという。
![]() |
たとえば,生徒がプログラミングでコードを作る課題のチェックシートには,1つの課題につき,褒めるポイントを4つ設けている。
まず課題をクリアしたこと自体を褒める。ここまでは,多くの先生たちも言っていることかもしれないが,宮城島氏はそこで終わらない。次にクリアしたとき,先生を呼んだことを褒める。そして,コード作成のために参考動画を見ていることを褒める。最後に,参考動画のとおりのコードに仕上がっていたら褒める。これほどに褒めるのには理由があると宮城島氏は語る。
宮城島氏:
なぜここまで褒めるのか疑問に思うかもしれませんが,このくらいやらないと褒めたことにならないんです。
日本の教育の悪いところは,褒めないことだと私は思っています。正解が分かるのが当たり前で,正解できない人が悪い。それでは子どもたちは勉強したくなくなりますよね。
保護者の皆さんやコードアドベンチャーの講師には,いかに褒めることが大切かを説明して,いろんな観点から生徒を褒めてあげてくださいと常に伝えています。
岸本氏:
人間って,どうしても悪いところには自然と目が行くんですよね。危険を察知して生き残るための,本能的な性質でもあるので。
だからこそ,「良いところを意識して見つける」「できたことにフォーカスする」というのは,教育の中で本当に大事なんだと思います。
ただ,現状ではプログラミングを学んだことのない保護者が大半のため,どこを褒めればいいのか戸惑うことがほとんどだそうだ。宮城島氏も,どうすれば生徒の成果を保護者にアピールできるか頭を悩ませた。そこで導入したのが,LINEを使用した「ステージクリアバッジ大作戦」という施策だ。
![]() |
宮城島氏:
まず保護者にコードアドベンチャーのLINEアカウントを友だち登録してもらいます。教室では,課題をクリアすると生徒に合言葉を教えます。その合言葉を保護者がLINEに入力すると,ステージクリアバッジがもらえ,生徒がそのステージでできるようになったことを動画として見られます。
それにより,保護者も生徒が何をできるようになったのか分かり褒めてあげられる。このように,プログラミング教室が抱える課題をいかにして解決するかを日々考えています。
岸本氏:
宮城島さんは,ゲームやYouTubeなど,他分野で機能している仕組みを,「子どもたちが学びたくなる体験」に翻訳できる人なんだと思います。それが,コードアドベンチャーの強さなんでしょうね。
宮城島氏がゲーミフィケーション6要素の中で重視しているのは,やはり「称賛の演出」とのことで,過去に岸本氏から教わった「ゲームは単純作業の繰り返しが多い。演出やリザルトを即座に見せることでプレイヤーを褒めて,自らやっている感覚にさせ,次もまたやりたいと思わせる」という言葉が強く記憶に残っているという。
宮城島氏:
たとえばコマンドRPGのレベル上げは単純作業ですが,退屈にさせないような演出が施されています。内容自体ではなく,その内容に対してどんな演出をするかをきちんと考えるということであれば何にでも応用できそうだなと思ったんです。
チェックシートを使って講師が生徒を褒め,合言葉を使って保護者の皆さんがまた褒める。それによって,生徒に自分からやろうという気持ちを抱かせるんです。
教材を作るときのコンセプトは,「『コロコロコミック』の付録のような感じ」で,あえてゴチャゴチャしたデザインにして,文字を書き込んで隙間を埋めたり,何が描かれているのか確認したりしたくなるようにしているそうだ。そうした背景には,漫画やアニメ,映画,ゲームと一通り通過してきたことがあるという。
![]() |
宮城島氏:
私が子どものころプレイして,一番衝撃を受けたのは「クロノ・トリガー」でした。このタイトルは中世や古代,未来とさまざまな時代を冒険するんですが,中世であえて手に入れなかった宝箱の中身が,未来に行ったときに進化して最強の武器になったりするんです。「そんな仕組み,よく考えつくな」とワクワクしました。
岸本氏:
一口に「ゲームが好き」と言っても,楽しみ方は何通りかあるんですよね。普通にゲームを遊ぶという楽しみ方もあれば,「こうやって作られているのか」と考える楽しみ方もあるわけです。宮城島さんはそうした別の分野で生かされている仕組みをいろいろなところに応用できる人なんだと思います。
「楽しいから,勉強したくなる」ような環境づくりを怠ってきた教育業界
コードアドベンチャーで「Minecraft」を採用したことにより,ゲームがどのように作られているのかについて,より深く考えるようになったという宮城島氏は,いかに教育業界が怠慢だったかが見えてきたと語る。
宮城島氏:
教育業界のこれまでの50年間は,生徒など学習者がやりたくないことを無理やりやらせることに寄りすぎていた期間だったと感じます。学習者が自ら学びたくなる環境づくりへの努力が,十分ではなかったのではないかと。
ゲームであれば,チュートリアルや演出,あるいは色味1つであっても,1秒でも長く遊んでもらおうという努力がうかがえます。教育は,「将来必要だから」「お前自身のためだ」と強制的にやらせることができるんです。教育関係者が教育業界しか見ないのはすごくもったいないというか,ほかの業界で何が行われているのか知ることは,本当に大切だと思いますね。
宮城島氏は,勉強は本来,ゲームと同じ文化や教養の軸にあるはずで「楽しいからやる。楽しくなければやらなくていいもの」であると語る。
教育業界が怠ってきたのは「楽しいから,子どもたちが勉強したくなる環境」を作る努力であり,そのために進化が見られなかったと指摘する。
![]() |
宮城島氏:
今だったら,「たまたまニュースで見たイラクについて調べてみたら,中東情勢のことが分かった」といったように,理解できて楽しくなるといったこともあるはずなんですよね。学校にはいろんな先生がいますから,コミュニケーションを取れば楽しくなる機会なんてたくさんあるはずなんです。
岸本氏:
人間は,大人になってからもどんどん知りたいことが出てくる動物なんです。ほかの動物は,子どものころに狩りのやり方などを学ぶけれど,大人になってからはそんなに学ぶことはない。
苦手なことは最低限学んで,それ以上無理に続ける必要はないですが,好きなことや興味のあることであれば,どんどん学び続けることが大切だと私は思っています。だからこそ,小中学生の段階で「勉強は嫌なものだ」と感じてしまう子どもが生まれるのは,とてももったいないことだと思うんです。
プログラミングは,習字やピアノといった習い事と同じように,教養の1つであると宮城島氏は捉えている。
将来ピアニストになってほしくて,子どもにピアノを習わせる保護者はほとんどいない。一方でプログラミングは勉強の1つとして捉えられているので,成果を求められることが多いという。
その考え方は,ドリーマーズギルドが小中学生を対象として開催している「プログラミング教育EXPO コンテスト」にも表れている。
宮城島氏:
「全員がプログラミングを楽しいと思えるようなコンテスト」がないと,多くの人が「もっとプログラミングをやろう」とは思いません。そこでコンテストのあり方自体を変えようと企画したのが,プログラミング教育EXPOです。
具体的には応募数に対して2〜3割の入賞者を出す,入賞作品のパネルを作って記念撮影ができるようにする,保護者の前で褒めるといった形で頑張ったこと自体がなるべく自己肯定感につながるように工夫しました。
岸本氏:
入賞した子どもたちは,自分の作品のパネルを持ってすごく嬉しそうに壇上に上がるんです。一緒に来ている親御さんが,「こっち向いて」と写真を撮っている光景もよかったですね。
子どもたちが勉強を含め何かを嫌ったり苦手になったりする理由の1つとして,宮城島氏は「誰かとの比較」を挙げる。
しかしゲームの場合は,対戦ゲームのような競争・競技の要素を持つジャンルなどを除けば,誰かと比較されることなくコンテンツに向き合うことが可能だ。
![]() |
宮城島氏:
たとえばゲームのストーリーをプレイするだけだったら,自分のペースで進めることができます。
ただ「今日はこのボスを倒すまでやりなさい。できなければ居残りです」となったら,できない自分を自覚して「自分はゲームが苦手なんだ」と思ってしまう子も出てくるでしょう。そういった苦手意識を作らない仕組みが大事なんですよね。
実際,対戦ゲームにおけるチーム戦には,勝敗に対するメンバー各自の責任や貢献度を曖昧にする意味合いもある。
確かに,ランキングの上位を目指すのであれば他責思考を捨て,チームが一丸となって研鑽を積む必要がある。しかし,そこそこのランクで楽しめればいいという人たちにとって,チーム戦は,比較的続けやすい仕組みと言えるのだ。
宮城島氏:
競争が軸にある対戦ゲームでさえ,続けやすい仕組みがあるわけです。また「どうぶつの森」のようにコツコツやることが楽しいゲームの存在も,対戦ゲームの競争についていけない子たちにとって,ある種の救済になっていると言えます。勉強にも,そういった救済の仕組みがあるはずだし,それを提示してあげるのが私たちの役割なんです。
ただ現状は,競争原理の中でしかやる気が出ないのに,勉強ができないという子が救われていないんですよね。そういった子を救済できる仕組みを作れないかと日々考えています。
子どもに共感できる講師を育成するための「コーチカード」
コードアドベンチャーでは,生徒に対する講師のアプローチにも配慮している。講師を務めようとする大学生のほとんどには,「教えたい」という欲求があるわけだが,宮城島氏は「それだけではダメだ」と持論を述べる。
宮城島氏:
生徒に何かを教えることはすごく気持ちいいんです。ただ,それでは生徒には響かずにうまくいかないことが多いです。一方で,教えるということを止めさせると先生たちのモチベーションが下がってしまいます。
実際に私が授業を見学したときも,「ここをチェックしてください」と指示したところを,チェックしているだけということが本当に多い。笑顔や笑い声のような明るい雰囲気がまったくなかったんです。
宮城島氏は,先生と生徒とのコミュニケーションを活性化するべく,講師それぞれに「コーチカード」を作成した。このカードは,言わば名刺のようなもので,講師の名前と生成AIで作成した似顔絵,そして得意なもの・苦手なもの計5項目で構成されたレーダーチャートが記載されている。
講師は,生徒に挨拶されたらカードとともに「ドロップアイテム」を渡し,生徒は別途用意された台紙にシールを貼っていく。シールを3つ貼った台紙はお菓子と交換できるという仕組みもあるが,生徒はカード収集自体を楽しんでいたという。
![]() |
宮城島氏:
授業の構造自体をゲーム化したのはもちろんですが,先生もゲーム感覚で取り組めることを重視しました。
「挨拶してカードを渡す。渡したカードの数が,あなたたちの先生としての仕事量に比例します」というところまで単純化して指示しないと,私が考える先生の姿にならないんですよね。逆に,そこまで分かりやすい目標と評価基準を与えると,今の大学生はしっかり先生の仕事をしてくれます。
ある意味,子ども騙しではありますけれども,スコアが更新されたり,実績が解除されたりすれば嬉しいじゃないですか。そうやって積み重ねてやっていくのが,コードアドベンチャーのやり方なんです。
コーチカードは講師それぞれの人物像がある程度分かるようになっているわけだが,それはコードアドベンチャーを始めるにあたり,「Minecraft」やYouTuberを起用したこととつながっている。
つまり,自分に近しいと思うものから情報を得る傾向にある今の子どもが,カードに記載された項目を読むことにより,講師を親近感のある存在として認知するようになるというわけである。
岸本氏:
昔は先生のほうが自分の親より偉くて近づきがたい存在だったし,今思えば先生もそういう役割を演じていた感があります。でもこういうエピソードを聞くと,今は得意なことや好きなこと,あるいは苦手なことなどを示して「同じ仲間なんだよ」というスタンスに持っていったほうが,子どもも先生の言うことに耳を傾けてくれるようになっているのかなと思いますね。
宮城島氏:
旧世代の人間は知識の量で序列が決まると考えがちですが,今だとそこはあまり関係ないんですよね。今のお子さんにとって一番人気があるのは,「教えてくれる先生」ではなく,「できたことを褒めてくれる先生」「できないことを一緒に悲しんでくれる先生」なんです。お子さんに共感できることがすごく大事なんですね。
宮城島氏は,講師たちに「生徒を褒める」ことを徹底してほしいと語る。それはゲームがそうなっているからだ。たとえばゲーム中に出てくる敵を撃ったときのエフェクト,ステージをクリアしたときのリザルト画面も,プレイヤーの行動に対する称賛のフィードバックである。
![]() |
岸本氏:
実を言うと,人を褒めることって難しいんですよね。普段から他人を褒めていない人に「褒めてみて」と言ってもなかなかできない。他人のダメなところはすぐ目に付くけれど,いいところはあまり目に付かないということもあるし,そもそも褒めるフレーズを知らないんです。それを大学生のうちに学べるのは,すごくいいことだと思います。
宮城島氏:
コードアドベンチャーの教材の対象は,放っておいても自分から宿題をやるような子ではなく,帰宅したらまずゲームをやるようなお子さんです。そういう子を「よくやった」と持ち上げて何とか課題をこなしてもらって,保護者の方にも「よくできたね」と言っていただく。そのための教材なんです。だから,先生にもゲームのようにお子さんを褒めてもらおうと。
今の子どもたちが学ぶべきことは,「AIとどのように付き合っていけばいいのか」
コードアドベンチャーには初級・中級・上級クラス,実際にゲーム作りにチャレンジする応用講座,テキストベースのプログラミングを学ぶJavaScript講座といったカリキュラムが用意されており,最上位のAIプログラミング講座ではAIと対話しつつ,ゲームを作っていく。
宮城島氏:
生成AIが台頭してきてから,AIと対話するようなコンテンツを最終的なカリキュラムにしようと考えました。プログラミングの技術を高めることに関しては,専門学校や大学で学べますし,教材もたくさんありますから,コードアドベンチャーが受け持つところではない。
「今のお子さんが学ぶべきもの」という軸をずらさずに考えると,プログラミング技術よりもAI概論,AIの基礎を理解してもらえる講座が望ましいと思いました。
もちろん,コードアドベンチャーのカリキュラムは引き続きプログラミング教育がベースとなる。
昨今では多くの人がAIを活用可能で,AIにプログラミングさせることもできるため,「本当に子どもがプログラミングを学ぶ必要があるのか」という疑問を抱く保護者も少なからずいるそうだ。
![]() |
宮城島氏:
「AIがあるからプログラミングを学ぶ必要があるのか」という問いは,「電子レンジがあるから料理はしなくてもいいかどうか」という議論と同じだと考えています。
電子レンジがあると簡単に作れる料理が増えるし,品数が増えれば食卓が華やかになる。でも,「何を作りたいか」を考えるのは人間です。料理のことを知らなければ,電子レンジも上手に使えません。AIもうまく使うことによって生活が豊かになるものであり,プログラミングが要らなくなる,ひいては誰かの職業を奪うようなものではないと捉えています。
そうした現状を踏まえ,コードアドベンチャーのAIを学ぶカリキュラムは,「AIがどんなものかを理解し,生活するうえでの便利なツールとしての付き合い方を学ぶ」といった段階にあえて留めているという。
その背景には,「現在の子どもたちは今後,高度な倫理観を持って人生を歩んでいかなければならない」という宮城島氏の持論がある。
宮城島氏:
今後は,人間とAIの双方と同じくらいコミュニケーションを取ることになると予想しています。そうなると,それぞれと接するときのコミュニケーションの取り方を整理する必要が生じます。
人間には人格や人権がありますから,AIに接するときの感覚を,そのまま人間相手に持ち込んではいけない。そういった高度な倫理観で,今後は生きていかなければなりません。
我々“旧人類”はAIが普及する前にある程度倫理観を形成していますから,人間とAIを別物だと認識できます。しかし,AIネイティブのお子さんは,そうではない可能性があります。だからなるべく早い段階でAIに触れさせて,AIがどんなものなのかを理解させる必要があると思っています。
岸本氏:
ほぼリアルの世界しかなかった,私の時代とは違って,今の若者たちを見ていると,リアルとオンラインでの人との関わり方を,あまり区別していないことに気づきます。むしろ,オンラインで過ごしている時間のほうが長いこともある。だからこそ,そこにリテラシーがないと,トラブルも起こりやすいのだと思います。
そして宮城島さんの話すように,これからは人間とAIの双方と,同じくらいコミュニケーションする時代がやってくる。倫理観やリテラシー教育は,ますます大事になってくるでしょうし,それを教えられる人は,まだ限られているのかもしれません。教えられないから「AIは禁止」にする,という方向にだけはならないでほしいですね。
宮城島氏が,プログラミングよりもAIについて教えることに重点を置くようになったことには,「考えるという行為自体が,論理的思考を育てる」という考え方があるという。それは,論理学や科学的方法論のように関連する分野内の話に限らないそうだ。
宮城島氏:
極論,文学作品について考えることも論理性を育てることにつながると考えています。情報が溢れている世界で,何が正しくて何を信じればいいのか,お子さんは自分で考えて判断できるようにならないといけません。
対話しているのが人間かAIかにかかわらず,リテラシーや論理性がないと相手が言っていることが正しいか判断できません。だから論理的に考える力を身につけてほしいんです。
最後にコードアドベンチャーを含めた宮城島氏の一連の取り組みについて,今後の展望を聞いてみた。
![]() |
宮城島氏:
まだ企画段階ではあるのですが,コードアドベンチャーとは別に「Roblox Studio」を教材にしたカリキュラムを作ろうと考えています。
「Roblox」には,課金システムやコミュニケーション機能があり,利用の仕方によってはトラブルにつながる可能性があります。したがって,「ゲームに対するリテラシーを高めよう」という事業の一環として考えています。
宮城島氏は,今,子どもが犯罪に巻き込まれるリスクがある場所の1つとして,ゲームに関するSNSが挙げられます。大人には,そんなリテラシーがないから,お子さんが何に巻き込まれているのか分からない。大人も,ゲームとSNSに対する知見を高める必要があるわけです。
また,2025年度に開始したカリキュラムではあるが,「Minecraft」を使った「マネークラフトアドベンチャー」では,子どもに向けた金融教育に取り組んでいる。
宮城島氏:
全10回の授業のうち,最後の回が「詐欺に遭わないために」というテーマなんです。「お金とは何か」というところから始め,労働と雇用,貯蓄と投資などを学び,最後に詐欺に遭わないための授業をし,お子さんにリテラシーを身につけてもらいます。
今,「Roblox」というと「危険だ」と危惧する人と「儲かるから夢がある」という人に大きく二分されていますし,金融に関してもさまざまな見解がありますが,それはあまり先のない議論だと捉えています。
そうではなく,皆さんと一緒に学びながら,次の世代のお子さんに何をどう託していくのかという文脈で,これからもゲームについて考えていきたいですね。
岸本氏:
最初のほうでもお話ししましたが,私のような“ちょっとできない子ども”だった人間が,「楽しく学ぼう」と考えるのは,自分でもよく分かるんです。ですが今回お話を聞いていて,宮城島さんのように,自分からどんどん学べる優秀な方が,なぜそこまで「楽しく学ぶ」にこだわるのかが,少し分かった気がしました。
宮城島さんは,子どもたちを本当によく観察していて「どうすれば行動したくなるのか」「どうすれば続けたくなるのか」を考え,MinecraftやYouTuberといった他業界の仕組みも柔軟に取り入れている。そこにあるのは,徹底した「子どもファースト」の視点なんだと感じました。
また,これからの子どもたちは,次から次へと新しいものとの付き合い方を学ばなければならない時代を生きていきます。だからこそ一番大事なのは,「教養を身につけるために勉強する」ということなんだと思います。勉強そのものがゴールなのではなく,人生や社会を豊かに生きるために学ぶ。そして,新しいテクノロジーやサービスに対しても,「どう付き合うべきか」を考えられることが大切なんだと思います。宮城島さんのやるべきことは,まだまだたくさんありそうですね。私も微力ながら,協力させていただきたいと思っています。


























