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Access Accepted第497回:ゲームで斜視が治った! VRデバイスの未来的可能性
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印刷2016/05/09 12:00

連載

Access Accepted第497回:ゲームで斜視が治った! VRデバイスの未来的可能性


 世界の2〜3%の人が,片目の視線が目標に向いていない「斜視」という症状に悩まされているという。そんな中,ふとした思い付きからOculus VRの「Rift」で斜視矯正プログラムを開発し,数か月の試行錯誤の末に,自分の斜視を直してしまった人が現れた。今回は,そんなVRデバイスの可能性を感じさせる話を,開発者の奮闘を元に紹介したい。


VRは全世界の2〜3%の人々の人生を変えるかもしれない


 ゴールデンウィーク直前の北米時間2016年4月27日〜29日,シリコンバレーの中心であるカリフォルニア州サンノゼにおいて,「Silicon Valley Virtual Reality Conference & Expo」(以下,SVVR 2016)というイベントが開催された。AR/VR(代替/仮想現実)を専門とする業界向けのイベントだが,参加費を払えば一般入場も可能だった。規模は小ぶりで,参加者はおそらく1000人に満たないほどだったが,ゲームよりはビジネス,教育,医療,開発,さらにはアダルト関連に至る広いテーマについてのセッションや展示が行われていた。

Access Accepted第497回:ゲームで斜視が治った! VRデバイスの未来的可能性
 ゲーマー的な視点からは,それほど新しい情報があったわけではなく,VR産業の拡大予想が下方修正されたというニュースが直前に出てくるなど,どこか「期待とは違った」という雰囲気が漂っていたのは,4月28日に掲載された筆者のレポートなどからも感じていただけるだろう。それでもAR/VRの可能性に目を輝かせていた開発者が多く参加していたことも疑いなく,彼らの活躍には今後も注目していくべきだ。

 Oculus VRの「Rift」がKickstarterにアップされる以前の2011年,いち早くVR情報専門サイト「Road to VR」をオープンしていたベン・ラング(Ben Lang)氏は,SVVR 2016の2日めに行われた基調講演で,「最初の数年,VR産業はゲームなどのエンターテイメント市場によって牽引されていくだろう」と述べており,これは,「Rift」など上位のVRヘッドマウントディスプレイを動かすことができるハイエンドPCを所有するのが主としてゲーマーであることなどを考えると,納得できる話だ。
 その後,現在のハイエンドPCがミドルからローエンドになるにつれ,多くの人が触れられるようになり,例えば図書館のような公共施設や医療現場,学校などでも取り入れられていくとも述べている。その段階で,ゲーム以外のジャンルにもスポットライトが当たることになり,もしかすると,我々の予想もつかないVRの使用法が登場するかもしれない。

SVVR 2016で講演するVivid Visionのジェームス・ブラハ氏。数年前まで悩んでいた斜視を,自分達で作ったVRゲームで矯正することに成功した
Access Accepted第497回:ゲームで斜視が治った! VRデバイスの未来的可能性

 それを感じさせるセッションが,イベント3日めに行われた。3日めの午後ともなれば,ショーフロアも閉じられ,セッションはほぼ終了,筆者もそろそろ退散しようかと考えていた時間帯だ。筆者のいたカンファレンスルームで壇上に立ったジェームス・ブラハ(James Blaha)氏は,30歳くらいの青年で,セッションのタイトルは「Rewiring the Brain: How VR Changed My Life」(脳をまたつなげ合わせる:VRがいかに私の人生を変えたか)という,なにやらキャッチーなものだったので,興味をひかれた筆者は,そのまま居残って話を聞くことにしたのだ。
 結果としては正解。そのセッションは,VRの可能性という意味では,深く考えさせられるものであった。ブラハ氏は,悩んでいた自分の「斜視」を,VRで治してしまったと述べたのだ。


発想の原点は,映画「アバター」と生物学者の言葉


 「斜視」とは,片目が目標を向いたとき,もう一方の視線がそちらに向かず,左右や上下にずれているといった状態を指す。遺伝や筋肉の未発達などが理由に挙がっているが,原因ははっきりとは分かっておらず,世界の2〜3%の人に見られる,割とありふれた症状でもある。両眼の視差による遠近感の把握や立体視が困難になり,疲労やめまいを覚えたり,脳が情報の混乱を抑制するため,どちらかの視力を自ら低下させるようなことも起きる。

乳児の目が開き,周囲の状況を認識できる2〜3か月の時点で斜視であるかどうかが分かる。世界の2〜3%の人が大なり小なり斜視だと診断されるという。画像は,ブラハ氏の幼少の頃のもの
Access Accepted第497回:ゲームで斜視が治った! VRデバイスの未来的可能性

 ブラハ氏の場合は,生まれついての寄り目で,斜視であることは生後数か月の段階で診断されたそうだ。治療は,長い場合は1日8時間ほど,片目にパッチを当てて目の筋肉をトレーニングしたり,ディスプレイを覗き込んで(あまり面白くない)テストを延々と続けるといったもので,学校でイジメられるということもあって,非常に辛い幼少期を送ったという。
 ブラハ氏によれば,これらの治療を受けて斜視を克服できるのは全体の50%に満たず,9歳を迎えた時点で改善されない場合,諦めるしかない。ブラハ氏も,斜視が改善しないまま治療を終えた1人だった。

 遠近感の獲得が難しいため球技などの運動もできず,3D映画を友人と楽しむこともままならないまま成人したブラハ氏に転機が訪れたのは,デジタル3D映像によって世界的にヒットした映画「アバター」が公開された2009年のことだった。
 3Dグラフィックスとカメラの問題で,あるシーンで振動のような現象が起き,それを解決することがなかなかできなかったと「アバター」のアーティストがインタビューで語っていたのをテレビで見た彼は,画面に映るそのシーンの不備とその理由を簡単に見破ることができた。そして漠然と「ひょっとして,立体を感知しにくいという不利が,3Dグラフィックスの制作に活用できるのではないか」と考えたという。

これまで,9歳前の子供達に行われてきた斜視矯正プログラムの中には,PC向けのゲームソフトもあったが,子供達が長時間続けるには,あまりにもつまらなすぎた
Access Accepted第497回:ゲームで斜視が治った! VRデバイスの未来的可能性

 そのしばらくあとで,ブラハ氏はインターネットの無料講義で神経生物学者のスーザン・バリー(Susan Barry)博士の話を聞く機会を得た。博士は「脳は,長期間にわたって柔軟さを維持する。たとえ年齢を重ねていても,調整力を持ち続ける」と語り,これを聞いたブラハ氏は,9歳で諦めた斜視の矯正治療は大人になってからもできるのではないか,それには3Dグラフィックスが利用できるのではないかと思い至る。
 そして,Oculus VRが開発キット「DK1」をリリースした2013年,そのためのスタジオVivid Visionを設立して大学の専門家やゲームプログラマーを集め,自らをテスト材料にした治療プログラムの開発に取りかかったのだ。


9歳までに治らなければそのまま……だったハズなのに


 2015年始めに完成した「Vivid Vision」は,左右の眼に異なるイメージを送り,視線の歪みを楽しく矯正することを可能にしたという。実際に効果があったかどうかは,ブラハ氏の写真を見れば明らかだろう。斜視は手術によって治療することもできるが,症状によっては一度の手術でも治らない場合があるという。
 かくして,「9歳までに治らなければ,一生変わらない」と言われてきた斜視を,彼は27歳にして治してしまったのだ。テストを繰り返し,ゲーム内のキューブがついに立体的に見えたとき,ブラハ氏は生まれて初めて,まるでキューブの角が自分に当たるような感覚を味わったという。


 このゲームが実際にどのような仕組みになっているのかについては,具体的な説明がなかったため筆者には分からないが,2つの目に映るイメージをジェスチャーやコントローラで操作したり,イメージの明暗を徐々に調整することで,斜視と弱視の治療に高い成果を見せたとのことだ。
 「Vivid Vision」は,ジェスチャー用のセンサー機器とともに100ドル程度で発売される予定だが,斜視といってもその程度や症状はさまざまであり,今のところ個人でプレイするのではなく,医師に相談して使用するのが望ましいとブラハ氏は述べる。そのためには,医師のVRに対する理解も必須だと彼は力説し,セッションを終了した。

 医療現場でゲームが活用されるという試みについては,本連載の494回「医療現場で成果を発揮するゲーム」でも取り上げた。しかし,今回の「Vivid Vision」は,VR対応のヘッドマウントディスプレイという製品を利用した治療法を開発したという点で,医学的にも非常に大きな成果だと思われる。
 「外から見ていても,その面白さが伝わりにくい」VRゲームだが,使い方によっては想像もできないような可能性を見せてくれる。斜視に悩む全世界の人々の人生を好転させるゲームだなんて,驚くほど素晴らしい話ではないか。

ブラハ氏は,より多くの人々に開発した「Vivid Vision」を使ってもらいたいと言う。ただし,医師が処方箋を出すような形で利用されていくことが望ましいとのこと


著者紹介:奥谷海人
 4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
  • 関連タイトル:

    Rift

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