業界動向
Access Accepted第508回:「Pokémon GO」フィーバーに見るARゲームの躍進
普段はゲームと縁のない一般メディアやテレビでも大きく取り上げられ,社会現象とも呼べるフィーバーぶりを見せている「Pokémon GO」。その核になっているAR(Augmented Reality=拡張現実)技術は,ゲーム以外での活用も期待されている成長分野だ。今回は「Pokémon GO」でメインストリーム化を果たした,ARというコンセプトについて紹介したい。
社会現象を引き起こしたのは,VRではなくARだった
2016年7月6日に北米などの一部地域でサービスが始まった「Pokémon GO」(iOS/Android)は,8月1日に1億ダウンロードを達成し,8月5日までの1か月間で2億ドルの収益を得たと報道されている。任天堂の数あるIPの中,スマホ向けタイトルとして初めて投入された同作は,まさにモンスター級の人気ぶりを見せ,中国などでサービスが行われていないにもかかわらず,“2016年最大のヒット作”になることはほぼ間違いない状況だ。
不安定なサーバーやトラッキングといった問題が指摘されてはいるが,セッティングページに「0.33.0」というナンバリングが施されていることからも分かるように,今後もアップデートが繰り返されていくだろう。実際,8月8日に行われたアップデートでは,車やバイクなど,一定のスピードで移動している場合に警告が出たり,トラッキングシステムにアートワークが加えられたりなど,いくつもの変更が見られた(関連記事)。
「すべての利用者に平等」というサービス論的な観点からは,例えば地方でポケストップが少ないなどの不平等さも指摘されているが,Free-to-Playタイトルということもあり,長期的なサービスとしての成長を期待していくべきだろう。
スマートフォンのカメラ機能を使って現実世界にCGを投影し,GPSの位置情報を利用して何かを探したり,目的の場所に行くというタイプのゲームは,「Pokémon GO」のデベロッパであるNianticの「Ingress」を始め,5〜6年も前から何作も登場しており,システムそのものはとくに目新しいというわけではない。
しかし,「トイレから顔をのぞかせるディグダ」とか「ニャースと格闘するペットの犬」といった面白写真や,ポケモンと仲間達の楽しそうなセルフィー,そして観光名所での記念写真的なショットがSNSで拡散。プレイヤーの口コミと一般メディアへの露出により,ユーザー数は爆発的に増加した。
「Pokémon GO」は,商業的な成功だけでなく,今まであまり注目されていなかったAR(Augmented Reality=拡張現実)というジャンルを一気にメジャー化させてしまったと筆者は感じている。「VR元年」とも言われる今年は,VR(Virtual Reality=仮想現実)タイトルが次々にリリースされているものの,ゲーム世界がユーザーのヘッドマウントディスプレイの中で完結し,その面白さや素晴らしさが他人には分かりにくい。対してARゲームは,誰にとっても分かりやすく,魅力を伝えやすい。
E3 2016に合わせて配信された「Nintendo Treehouse: Live」ではそれほど大きな話題を獲得できなかった印象で,任天堂も当初は「Pokémon GO」をどのようにマーケティングしていくべきか迷っていたように思えるが,ローンチ以降は,ARの持つそうしたメリットに助けられ,燎原の火のように一気に広がっていった。
位置情報に頼るARゲームにはインフラの限界も
最近,「モノのインターネット」(IoT=Internet of Things)という言葉をよく聞くが,「Pokémon GO」のベースとなったAR技術はIoTでも重要になっている。例えば,欧米の配車サービス「UBER」(ウーバー)では,近づいてきた車の位置をGPSで探知し,車種をスマホのカメラで認識することにより,その車が利用者が呼んだものであるのかどうかを確認するというサービスを実験中だ。
そこには,2014年の調査として,静的目標の50〜100mの範囲で位置情報に基づく広告を表示するサービスでは,全体の3分の1程度しか正確な表示を行えなかったことが挙げられている。さらに,GPS衛星などのハードウェアが利用の拡大に追いついておらず,カーナビを始めとしたさまざまなサービスが運用されて利用者が増えるにつれ,その正確さが低下することも指摘されている。「Pokémon GO」がリリースされて以降,一度に2000万〜3000万人ものアクティブユーザーが位置情報を使うようになっているわけで,現在見られるトラッキング精度の不備は,それが理由の1つなのかもしれない。
「Pokémon GO」では,スマホの位置情報をマップに置かれた無数の静的データ,つまりポケモンとインタラクトさせており,プレイヤーが一定の距離に近づくとポケモンがポップアップする。ゲームが進化すれば新たなフィーチャーなども導入されそうだが,上記のようなインフラの限界もあり,現段階では「Pokémon GO」のゲームシステムが大きく変化する可能性は低い。
視点を変えれば,これはポケモンというIPの高い価値から類似タイトルの追随を許さず,ARタイトルの唯一無二の存在として長期にわたって遊ばれることになりそうだ。
GPS衛星やサーバーだけでなく,例えば位置情報の精度がプログラム的に向上するとか,より良いセンサーが登場するといった技術面での向上はまだ考えられる。「Pokémon GO」にしても,歩き回ってポケモンを探す以外の,さらにゲームに深みを増す要素が増えていくはずだ。
ポケットモンスターには721体のポケモンが存在する。つまり,現在の「Pokémon GO」ではまだその20%ほどしか登場していないことになる。これからも,スマホ片手に多くの人が世界中を歩き回ることになるのは間違いない。
著者紹介:奥谷海人
4Gamer海外特派員。サンフランシスコ在住のゲームジャーナリストで,本連載「奥谷海人のAccess Accepted」は,2004年の開始以来,4Gamerで最も長く続く連載記事。欧米ゲーム業界に知り合いも多く,またゲームイベントの取材などを通じて,欧米ゲーム業界の“今”をウォッチし続けている。
来週8月22日の「奥谷海人のAccess Accepted」は,著者取材のためお休みします。次回掲載は8月29日を予定しています。
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Pokémon GO
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(C)2017 Niantic, Inc. (C)2017 Pokémon. (C)1995-2017 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
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