レビュー
「GeForce GTX 960M」搭載のゲーマー向けノートPCを動かしてみた
MSI GE62 2QD Apache
日本時間2015年3月12日20:00,NVIDIAはノートPC向けGPU新製品「GeForce GTX 960M」(以下,GTX 960M)の情報を明らかにした。公式な発表はないので,いわゆるサイレントローンチということになる。
4Gamerでは,GTX 960M搭載のMSI製ゲーマー向けノートPC「GE62 2QD Apache」(型番:GE62 2QD-023JP)を,MSIの日本法人であるエムエスアイコンピュータージャパンから入手できたので,その実力に迫ってみたい。
GTX 960MはGM107ベースの公算大
Maxwell版GTX 860Mのリネームか?
GTX 860MというGPUには,CUDA Core数が1152基のKepler版と,640基の第1世代Maxwell版があるのだが,GTX 960MのCUDA Core数も後者と同じ640基。さらに言うと本GPUでは,32基のCUDA Coreが,スケジューラやロード/ストアユニット,超越関数ユニットとセットになってパーティションを構成する点,そして,そのパーティションが4基集まって演算ユニットたる「Maxwell Streaming Multiprocessor」(以下,SMM)となり,さらに,そのSMMが5基で1基の「Graphics Processing Clusters」を成す点も同じだ。
付け加えるなら,GTX 960Mの動作クロックも,GTX 860Mとほとんど同じだ。GTX 860Mのブーストクロックは公開されていないが,基本的に同じ仕様という理解でいいのではなかろうか。
表1は,GTX 960Mと第1世代Maxwell版GTX 860M,そしてGTX 960と,GM107コアを採用する「GeForce GTX 750」(以下,GTX 750)の主なスペックを並べたものだが,GTX 960Mが,「GM206」コア採用のGTX 960に対していい勝負ができるかというと,テスト前に何だが,かなり厳しそうだ。
目を引くポイントとやや残念なポイントが
同居するGE62 2QD Apache
GE62 2QD Apacheは,MSIのゲーマー向け製品ブランド「G Series」に属する新製品として登場した,15.6インチ,解像度1920×1080ドットの液晶パネルを搭載するノートPCだ。国内ラインナップには,別途,4K(3840×2160ドット)解像度の液晶パネル搭載する上位モデル「GE62 2QF Apache Pro 4K」(型番:GE62 2QF 4K-068JP)も用意されている。
液晶パネルの駆動方式は公開されていないが,かなり斜めから見ても大幅な偽色などは発生しないので,おそらくIPSパネルではないかと思われる。斜めからだと色ムラがやや目立つので,それほど高品位なパネルではなさそうだが,正対する限り,違和感はない。ノングレア(非光沢)で映り込みの心配がないことも手伝って,ゲームをプレイしていて見栄えが気になる心配はまずもって無用ではなかろうか。
ただし,この「キーボードカバーが筐体と一体化している」ことは,必ずしも好ましい結果を生んでいるわけではない。GTX 980M搭載の上位モデル「GT72 2QE Dominator Pro」がそうだったように,英語キー配列が前提の筐体設計で,無理矢理日本語配列を実現しているためか,一部の配列がおかしなことになっているのだ。
SteelSeries製キーボードモジュールは基本的にアイソレートタイプなのだが,[無変換][Space][半角]キー,[]][Enter]キー,[¥][Back Space]キーはそれぞれ半分一体化したような感じになってしまっており,とくに[Back Space]キーが“誤爆”しやすかった。この点は要改善のポイントとして指摘しておきたい。
なお,キーボード全体を3ブロックに分けて,プリインストールのSteelSeries製統合ソフトウェア「SteelSeries Engine 3」から,発光色をカスタマイズできるのはこれまでどおり。同ソフトウェアを使えば,全キーに対して,ソフトウェアキーマクロを含むカスタマイズを行える点も従来どおりだ。
なお,キー自体はNキーロールオーバーでなく,同時押し対応も片手で足りる程度だった。
スピーカーがDynaudio International製のものというのも従来のG SeriesノートPCと変わらないが,サウンド設定用ソフトウェアは,G Seriesで定番のCreative Technology製から,A-Voluteの「Nahimic」に変わっていた。
その理由をMSIは明言していないのだが,ゲーム中にホットキーでサウンド設定を変更できたり,GE62 2QD Apacheに6か月分の有償ライセンスが付属しているゲーム配信ソフト「XSplit Gamecaster」と連携し,「XSplit Gamecaster用サウンド入出力設定」を自動的に適用できたりするので,Nahamicのほうがより有用という判断なのかもしれない。
これは,[Fn]+[F7]キーで,GPUとCPUを温度などの制約なしに動作できる「Sport」と,GPU温度を89℃以下に保ちつつ高い性能を狙う「Comfort」,GPUとCPUの温度を85℃以下に保ち,さらにCPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」も無効にする「Green」の3モードを,順繰りに切り替えられる機能。これもホットキーで一発変更できるわけである。
なお,GE62 2QD Apacheの外部接続インタフェースは,すべてが本体の両側面に用意されている。左が1000BASE-T LAN,HDMI(1.4a,Type A),Mini DisplayPort各1系統と,USB 3.0×3,3.5mmミニピン×2(マイク入力およびヘッドフォン出力)で,右がDVDスーパーマルチドライブとUSB 2.0,カードリーダー,ACアダプター接続端子が各1だ。1000BASE-T LANは,Killer Networking製LANコントローラ「Killer E2200」によるものとなっている(※別途実現されるIEEE 802.11ac準拠の無線LAN機能はIntel製コントローラによる)。
底面を開けただけで保証外というのが残念
シングルチャネルメモリアクセスはもっと残念
しかも,さらに残念なのは,GE62 2QD Apacheの基本構成だと,メインメモリが容量8GBモジュール1枚のシングルチャネルアクセスになっていることだ。G Seriesを扱っているPCショップの多くは,購入時のカスタマイズに対応しているので,購入するにあたっては忘れずアップグレードしておきたいところである。というかエムエスアイコンピュータージャパンには,こういう,メモリ性能が重要になるゲーマー向けノートPCとして解せない初期仕様の改善を求めたい。
そのほか,GE62 2QD Apacheの主なスペックは表2のとおり。「GeForce 345.05 Driver」は,GE62 2QD Apacheにプリインストールされていたグラフィックスドライバである。
デスクトップ向けGTX 960やGTX 750と比較
ドライバとメモリ周りを統一していないことに注意
テスト環境の構築に入ろう。
今回,テスト対象としてはまず,デスクトップPC向けの「GeForce GTX 960」(以下,GTX 960)を用意した。GTX 960Mが,GTX 960に対してどの程度の性能を発揮するかを見るためである。
また,同じ(?)GM107コア採用のGPUから,GTX 750も用意し,こちらとも比較してみたい。
なお,今回用意したGTX 960搭載カード「GV-N960WF2OC-2GD」およびGTX 750搭載カード「GV-N75OC-1GI」は,いずれもGIGA-BYTE TECHNOLOGYによってメーカーレベルでのクロック引き上げがなされていたため,テストにあたっては,MSIのオーバークロックツール「Afterburner」(Version 4.1.0)を用い,リファレンス相当にまで動作クロックを引き下げている。
GE62 2QD Apacheのテストで利用したグラフィックスドライバは前段で紹介したとおりのGeForce 345.05 Driverだが,このバージョンはNVIDIAから公開されていないため,デスクトップPC環境ではテスト時の最新版となる比較用の「GeForce 347.52 Driver」を用いているので,この点はご注意を。
また,前述のとおり,GE62 2QD Apacheの標準構成だとメモリはシングルチャネルアクセスなのだが,「ゲーマー向けデスクトップPCでシングルチャネル構成」というのはあまりにも非現実的であることから,今回は容量4GBモジュール2枚で,容量だけGE62 2QD Apacheと揃えてある。こちらもあらかじめお断りしておきたい。
そのほかテスト対象となるデスクトップPCのスペックは表3のとおりだ。
テスト方法は4Gamerのベンチマークレギュレーション16.0準拠。テスト解像度は,GE62 2QD Apacheのネイティブ解像度である1920×1080ドットと,アスペクト比16:9でその一段下となる1600×900ドットを選択した。
テストに用いたSHIFTの動作モードは,最も高い性能を期待できるSportだ。
GTX 960Mの実力はGTX 960の6割程度か
i7-4770T+GTX 750といい勝負
以下,比較対象のデスクトップPCは,CPU名とGPU名を組み合わせた「i7-4770T+GTX 750」「i7-4770T+GTX 960」で表記することを宣言しつつ,テスト結果を順に見ていこう。
グラフ1は「3DMark」(Version 1.4.828)の総合スコアをまとめたものだ。GE62 2QD Apacheのスコアは,i7-4770T+GTX 960の57〜60%程度。CPUと,何よりメモリアクセス仕様が異なっているので,仮にそのあたりが同条件であればもう少しスコアは縮まるかもしれないが,ざっくりと「GTX 960Mのポテンシャルは,GTX 960の6割程度」とは言えるのではなかろうか。予想されていたことではあるが,GTX 980に対するGTX 980Mのような,性能面での感動はない。
ただ,対i7-4770T+GTX 750だと,Fire Strikeで約10%,Fire Strike Extremeで約56%高いスコアを示しているのも押さえておきたい。デスクトップPCにおけるエントリーミドルクラスGPU程度の3D性能ポテンシャルはあるわけだ。
グラフ2,3は「Battlefield 4」(以下,BF4)の結果だが,GE62 2QD Apacheのスコアはi7-4770T+GTX 960の55〜58%程度なので,3DMarkと同等の結果だといえるだろう。一方,i7-4770T+GTX 750に対しては106〜109%程度なので,3DMarkでいうと,よりメモリ負荷の高いFire Strike(Extreme)のスコアに近い結果が出ている印象だ。
続いてグラフ4,5は,「Crysis 3」のスコアをまとめたものである。
ここで注目したいのは,「高負荷設定」の1920×1080ドットで,GE62 2QD Apacheは,i7-4770T+GTX 960の約47%にスコアが落ち込み,i7-4770T+GTX 750の逆転も許してしまっている。GTX 960MとGTX 750では,GPUの規模で前者が勝り,動作クロックやグラフィックスメモリ周りの仕様もほとんど変わらないことからすると,ここでGE62 2QD Apacheがi7-4770T+GTX 750よりスコアが低い理由は,おそらくメインメモリの帯域幅が低いからということになりそうだ。
「BioShock Infinite」の結果となるグラフでも,シングルチャネルメモリアクセスの影響は見て取れる。全体のスコア傾向は3DMarkのFire StrikeやBF4と同じなのだが,i7-4770T+GTX 750には肉薄されているからだ。
「Dragon Age: Inquisition」(以下, Inquisition)のテスト結果がグラフ8,9だ。ここでGE62 2QD Apacheのスコアは,i7-4770T+GTX 960の50〜54%程度。i7-4770T+GTX 750に対しては103〜108%程度というスコアを示した。Inquisitionが採用しているゲームエンジンが,BF4のそれの改良版ということもあり,スコア傾向もよく似た印象である。
「ファイナルファンタジーXIV: 新生エオルゼア」の公式ベンチマークテスト(以下,新生FFXIVベンチ キャラ編)におけるテスト結果がグラフ10,11で,ここでもGE62 2QD Apacheは,メインメモリ周りが制約と思われるスコアの頭打ちが生じ,i7-4770T+GTX 750に対して91〜97%程度というところに留まった。ただ,対i7-4770T+GTX 960だと56〜62%なので,おおむね妥当なラインにあるともいえる。
「最高品質」の解像度1600×900ドットで,スクウェア・エニックスが示す指標の最高ランクである「非常に快適」のスコア7000を上回り,1920×1020ドットでも上から2番の指標「かなり快適」に収まっているので,エントリーミドルクラスとしては合格点が与えられるのではないだろうか。
グラフ12,13は「GRID Autosports」の結果だ。ここでのテスト傾向も,ほかのタイトルとおおむね同じような感じになっている。GE62 2QD Apacheのスコアはi7-4770T+GTX 960とほぼ互角で,対i7-4770T+GTX 960の55〜61%程度だ。
ノートPCらしく消費電力は低め
i7-4770T+GTX 750から5〜22W低いスコア
テストにあたっては,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時とした。なお,GE62 2QD Apacheではバッテリーパックを(簡単には)取り外せないため,取り付けたままテストしている。
さて,その結果はグラフ14のとおり。GE62 2QD Apacheで,アイドル時の消費電力がダントツに低いのは,相手がデスクトップPCなので,当たり前といったところだが,各アプリケーション実行時に,液晶パネルという大きなハンデを抱えながら,i7-4770T+GTX 750より5〜22W低いスコアにまとまっているのは立派だ。
テスト開始時点の最新版GPU-Zだと残念ながらGPU温度を取得できなかったため,今回はCPU温度だけの計測になるが,3DMarkの30分間連続実行時点を「高負荷時」として,アイドル時ともども,「HWMonitor Pro」(Version 1.22)で取得した結果がグラフ15だ。
なお,GE62 2QD Apacheには,冷却ファンの回転数を一時的に100%とする機能が用意されているので,必要な場合はそちらも併用するといいかもしれない。
GTX 960M自体に見るべきものはないが,
GE62 2QD Apacheの完成度はまずまずか
以上のテストから,GTX 960Mは,GTX 960比での性能は6割(もしくは6割弱)といったことが分かった。GTX 750との力関係からしても,GTX 860Mとの間に大きな性能差はないものと考えられる。GTX 960Mという,さも期待できそうなGPU名が“無駄遣い”されたのはとても残念だ。
ちなみにNVIDIAは,GTX 960Mと同時に,「GeForce GTX 950M」「GeForce 940M」という製品もサイレントローンチしている。原稿執筆時点で両GPUの詳細なスペックは明らかになっていないのだが,サイレントローンチである以上,画期的な新製品ということは考えづらい。「NVIDIA,2015年春のリネーム祭り」ということになりそうな気配で,そろそろシールを集めるとロゴ入りのお皿がもらえるキャンペーンでもやった方がいいのではと思う。
弱点は,ブランドさえ気にしなければ「GeForce GTX 970M」搭載ノートPCが購入できてしまう19万円という価格と,ちょっとしたカスタマイズでも,エンドユーザーが自分でやろうと思ったらメーカー保証が失われること,この2点だろう。後者は,せめてデュアルチャネルメモリアクセスを採用するなど,不満の少ない基本仕様を採用してくれれば,多少なりともいい方向にも向かうはずなのだが。
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