インタビュー
プレイヤー層の拡大と融和を狙う「ソウルキャリバーV」。開発チーム「Project Soul」の面々が目指す,家庭用格闘ゲームのあるべき姿とは
クリエイションとダウンロードコンテンツのこれから
では「ケフェウス堂」の話が出たところで。すでにさまざまなコスチュームの配信が開始されているケフェウス堂ですが,バランス調整とは別の意味で,タイトルアップデートの目玉だと思います。これは今後,どういったコンセプトで配信が行われるのでしょうか。
夛湖氏:
ゲームディスクに収録されているのは,ほとんどがSCVの世界観に即したパーツでしたが,「ケフェウス堂」ではそこからちょっと外れたネタに走ったものも含め,本作を“もっと楽しみたい”人のためのキャラクタークリエイション用パーツの配信を考えています。
4Gamer:
なるほど。具体的にいうと,先ほども話に出たスクール水着やブルマですね。
夛湖氏:
あとは制服とかメイド服とか。世界観的にはちょっと変……でも正直ほしいでしょ? というようなものを(笑)。それから鉄拳シリーズとのコラボした,鉄拳キャラクターのコスチュームとか。
4Gamer:
人気の高いエリュシオンの衣装など,既存キャラの衣装も配信されてますね。そういえば,過去作に登場したキャラクターのコスチュームも配信されるとうかがったんですが。
夛湖氏:
そこは……皆さんの声次第なんですよ。
4Gamer:
というと?
夛湖氏:
我々としても,ぜひやりたいところなんですが,実はこれが簡単じゃないんです。「ポリゴンデータなんだからそのまま持ってくればいいじゃない」と考える人も多いかもしれませんが,本作はシェーダーレベルで大幅な書き換えを行っている都合上,前作であるソウルキャリバーIVからのデータでも,一手間以上に手を加える必要があります。
4Gamer:
確かに本作のグラフィックスの進歩は,目覚ましいものがあります。
夛湖氏:
はい。かといって,価格をあげることはしたくない。バンダイナムコゲームスのDLCというと,皆さんから色々なご意見をいただくこともあるんですが,価格的にもこれなら納得という出し方をしたかった。あとはもう,DLCを買ってくださるお客様の母数次第,というのが正直なところなんです。
4Gamer:
クリエイションパーツは,今後どの程度のペースでの配信を予定しているのでしょうか。
夛湖氏:
現時点でいつまで出し続けられるかはハッキリと答えられませんが,少なくとも当面は,最低でもひと月に2回ぐらいのペースで配信していく予定です。
※編注:インタビューの収録は3月に行ったため,ここでの予定はその時点のものです。
4Gamer:
なるほど,今後の配信を楽しみにしたいと思います。ところで,「ケフェウス堂」ではクリエイションパーツ以外のもの,例えばボイスデータなどを配信することはできないんですか?
夛湖氏:
SCVは,シリーズ中でもかなり拡張性を考えて設計しているので,原理的には可能です。ただボイスはデータが大きいですし,新たに収録するとなるとまた別の問題があるので,現実的にはなかなか難しいかもしれません。
4Gamer:
ああ,なるほど。カタログ式なので購入しない人も含めて,全員がダウンロードしなくてはいけないわけですからね。メーカー側としてはそこに回線代もかかるわけで,価格的にも限界がある。
夛湖氏:
DLCとはちょっと外れる話になりますが,調整パッチにも同じようなことが言えますね。パッチは,料理でいえば「できあがったものの味が薄いから塩かけよう」みたいなものだと思います。だから,そこに新しい素材を加えて味を調えましょうというのは,難しくて限界があります。
夛湖氏:
オンラインのパッチ配信は,そもそもオフラインで遊んでいるプレイヤーには届かない,という問題もあります。とはいえオンラインでバリバリ遊んでいる,最前線のプレイヤーをないがしろにはしたくない。もっとも意見を言ってくれるのは,彼らなんですから。
小田嶋氏:
あ,俺は追加BGMがほしいです。
夛湖氏:
はい,もちろん前向きに検討させていただきます(笑)。
ソウルキャリバーシリーズが描く「壮大な野望」
4Gamer:
では最後に,ソウルキャリバーシリーズのこれからについてお聞かせください。
夛湖氏:
今回は対戦ツールとしての要素を突き詰めることを優先しましたが,クリエイションのソーシャル性を高める,というのは今後の課題の一つですね。オンライン対戦,あるいは対戦ロビーであるグローバルコロッセオなどは,今回ある程度それが実現できたと思うので。
4Gamer:
おお,それはつまりクリエイションキャラクターの共有機能……とか?
夛湖氏:
例えばそういうものも考えられるかもしれません。
4Gamer:
それはすごく欲しいですね。他社タイトルですがForzaシリーズのように,ゲーム内ポイントでトレードできると,すごく盛り上がると思います。
小田嶋氏:
クリエイションキャラクターに自分が育てたCPUのアルゴリズムを載せ,自分の子分として使役できるようなのもいいですよね。それもCPUアルゴリズムをフローチャート式でプログラムできたり,それを自分の代理として乱入できるようにしたりとか面白いかも。
4Gamer:
CPUを育てることで,ゲームシステムやキャラクターについて,より深く理解できる仕組みになっていると,なお素晴らしいですね。
小田嶋氏:
プレイヤー自身も学習していける仕組みはいいですね。あとクリエイション機能で言えば,レシピを表示する機能や設定項目にコピー機能や左右反転機能も,プレイヤーからの要望として聞きますね。
4Gamer:
自分はレシピのメモを取りながら作ってました。本作はアイテムが豊富なこともあって,膨大な設定項目がありますからね。
新田氏:
カラーや柄を同じ数字で揃えるのもキツいから,コピーが欲しいという声が上がっているのかも。ツールとして見たクリエイションについては,今後に向けてアイデアがどんどん出てきます。
小田嶋氏:
やりたいよね。
新田氏:
それは間違いない。それに,さっき夛湖はかなり実現できたと言いましたが,オンライン対戦周りでも,僕はまだまだやりたいことがいっぱいあるんです。
4Gamer:
「グローバルコロッセオで段位戦ができればいいのに」っていう話は良く聞きますね。そうしたら,もう完全に修羅の集まるゲームセンターですけど(笑)。
小田嶋氏:
あとグローバルコロッセオの大会枠はエキシビション用にして,「誰もがそこで行われている対戦を観戦できる場所」にすれば面白いかも。
4Gamer:
それからランクマッチのシステムも,もう少し気軽に再戦できたらいいなと。
小田嶋氏:
例えば,初見の相手と一回限りの対戦じゃなく,負けた後に,「こいつ!」って言いながら連戦できるのはどうかな。……負けた方が再戦を希望できるような(笑)。
4Gamer:
そのあたりは,確かにちょっと不自由な印象ですね。
小田嶋氏:
今回かなり良いものが作れたと思っていたけど,実際に運用されている様子を見ると,どんどんやりたいことが出てきますね。でも今回で下地はかなりできたので,次はそのあたりを詰めていきたいです。
夛湖氏:
SCVでは色々と新しいことをやったつもりですが,皆さんからの「あれが欲しい」や「これが足りない」というご意見は,全部チェックはしています。そしてその先に見える完成図は,我々の考えていた壮大な野望に近いものだという確信がある。
4Gamer:
次はそれを形にして行く番だと。
夛湖氏:
ええ,絵空事で終わってしまっては何の意味もないですから。形のあるものとして実現したいですね。
4Gamer:
続編にも期待させていただきます。本日はありがとうございました。
国内の格闘ゲームシーンにおいて,ソウルキャリバーシリーズは必ずしもメインストリームとはいえないタイトルである。しかし建前などは抜きにして,筆者はこのゲームが大好きなのだ。それはゲームシステムや技の一つ一つに,開発者の想いや苦悩を感じ取れるからにほかならない。本稿によって,一人でも多くの人にそれが伝わり,そしてキャリバープレイヤーが増えてくれれば,筆者としてもこんなにうれしいことはない。
余談だが,今回のインタビュー後,筆者は小田嶋氏,新田氏のお二方と,オンラインで対戦をする機会を得たのだが,両者の腕前はそれこそ玄人はだしで,そんじょそこらのプレイヤー以上に,本作をやり込んでいるようだった。
それゆえに,このゲームバランスがあるのだなと,ゲームに関わる者としてあらためて尊敬の念を抱いたものだが,同時に対戦中にはついついお互いのプレイに罵声が飛び交う始末。いち格闘ゲームプレイヤーとして,とても楽しかったのが印象に残っている。
本文中でも語られたように,本作で描かれた「壮大な野望」は,未だ道半ばである。だがそんな「Project Soul」なればこそ,それを夢物語で終わらせず,格闘ゲームの未来を我々に見せてくれるのではないか,と夢想せずにはいられない。本作,そしてキャリバーシリーズの今後の展開に,より一層の期待を抱きつつ,今日もオンライン対戦に明け暮れる毎日である。
■(おまけ)ライター,ハメコ。がどーしても気になったこと
4Gamer:
ところでデビル仁流派の隠し技に通称「鬼キャン」※があるじゃないですか。よりにもよって,なんであの技を入れちゃったんですか。
「鉄拳」シリーズからのゲスト出演ともいえるデビル仁流派。ちなみに仁ではなくデビル仁にしたのは,ビームが撃ちたかったから,とのこと
※鬼キャン……アーケード版「鉄拳3」に存在したバグ技。仁の鬼八門(LPRP)の初段が当たる前にとRPを入力しておき,初段がヒットした瞬間にと某かのボタンを入力すると,初段ヒット後すぐに前ダッシュへ移行する,というもの。入力受け付けが1フレームということもあり,手入力で達成するのはかなり難しい。なお,PlayStation 2版「鉄拳5」に収録された「鉄拳3」には,意図的にこの仕様が残されている。
小田嶋氏:
ええっと,昔行きつけだったゲーセンに,夜な夜な鬼キャンを練習している人がいて。で,その人が「俺はやった! 鬼キャン×8をビデオに収めた!」って物凄い喜び様で言い出したんですよ。
4Gamer:
それ,どう考えても町田のビートライブ※ですよね? しかもその人,今の「鉄拳」開発チームにいますよね?
※町田ビートライブ……東京都町田市に存在したゲームセンター(現在は店舗移転の為に閉店)。旧称を「町田アテナ」といい,「アテナ杯」や「ビートライブカップ」など,とくにバーチャファイターシリーズのシーンをけん引してきた歴史を持つ。
小田嶋氏:
ここでは仮に“ナカツ”と呼んでおきますが,その彼の家でそのビデオを見せてもらったんです。そのときは変なジャブを8回連続で決めてるだけじゃん,って思ったんだけど,それを今回デビル仁を作ってるときにふと思い出して。気が付いたら「俺は今ここで鬼キャンを作らねばならない!」という気持ちになってたんです。でも普通にできるようにしたらマズいから,ブレイブエッジにしておきました(笑)。
4Gamer:
……なんかだんだんインタビューじゃなく,ゲーセン閉店後の深夜のファミレスみたいになってきましたけど,手入力で8回連続鬼キャンを出すのは,相当に難しいですよね。あとSCVの鬼キャン,技表にも載ってないし。
小田嶋氏:
あ,それはわざとです。昔の人が触ったときに,「やっぱりそうだよね,技表には載らないよね」って懐かしんでくれればいいなって。じゃ,あとはファミレス行って語りましょうか(笑)。
SCVでの鬼キャンは,AbA+B+Kを入力すると,Aがヒットした瞬間にステップへ移行するというもの。この後素速くBまで繰り出せば,初段のヒット時には連続ヒットになるほか,空中コンボの中継としても強力だ
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