インタビュー
プレイヤー層の拡大と融和を狙う「ソウルキャリバーV」。開発チーム「Project Soul」の面々が目指す,家庭用格闘ゲームのあるべき姿とは
日本と海外,反響の違い
ではここからは切り口を変えて,発売後のプレイヤーの反響についてお話をうかがっていきたいと思います。4Gamerに寄せられた読者レビューなどを見ていると,先ほども上がっていたように,ライト層とマニア層でかなり評価が分かれているような印象を受けるのですが,この辺りはいかがでしょうか。
夛湖氏:
日本では,どちらかというとキャラクターゲームとして受け止められている印象は確かにあります。対戦を楽しむ層と,そうではない層がハッキリ分かれてしまっているんですね。
4Gamer:
本作はオフライン要素が少なめ――というかオンライン対戦に特化した作りになっていますよね。シリーズファンの目から見ると,その辺りに不満を感じている人が多いのではないかと思うのですが。
夛湖氏:
オフライン要素についてのご意見は,しっかり受け止めています。ただ,これは幾つかの選択肢の中から,あえて選んだ道でもあるんです。対戦ツールとして確たるものを作らねばならないという命題が僕等にはあって,限られたリソースの中で,それを優先しました。
小田嶋氏:
それにオンライン対戦は,今となってはどうしても外せない要素なんです。対戦ツールとして,オンラインが充実していないゲームなんて,もう有り得ないので。
夛湖氏:
オンライン対戦にまつわる技術というのは,どこまで改良を重ねられるか,という時間との闘いでもあります。SCVはネットコードをいちから見直したことで,比較的レベルの高いオンライン機能を実現できました。今後はこれを元に,シリーズを重ねつつバージョンアップしていけるはずです。
その元となる基礎を今固めておかなければ,ほかの対戦ゲームの進化に,ソウルキャリバーだけが置いて行かれることになりかねない。どうしてもそれだけは避けたかったんです。
4Gamer:
確かに本作のオンライン対戦は,「グローバルコロッセオ」のロビー機能や,ボイスチャットのみならずテキストチャットにまで対応していることを含め,格闘ゲームのみならず,対戦ゲーム全体を見回しても,秀逸な出来だと思います。
小田嶋氏:
ボイスチャットは海外では一般的ですけど,日本人にとっては,やっぱりちょっと恥ずかしい部分もあるじゃないですか。あとこれはお蔵入りになってしまったんですが,プレイヤーマッチの観戦機能も,最初は某動画投稿サイトみたいに,対戦画面にテキストチャットが流れる仕様を考えていたんです。
4Gamer:
あ,それは面白いですね。なぜお蔵入りに?
小田嶋氏:
観戦中は同期が取れていないので,観戦者の書き込みと,実際の対戦状況に1秒ぐらいの時差ができてしまうんです。勝敗の決まりそうなシーンで「うわ〜!」って書き込んでも,対戦してる人にとっては,それが流れてくるのが次のラウンドの頭になってしまったり。
4Gamer:
同期が難しかったと。対戦中のプレイヤーにも見えるとすると,それは確かに残念ですね。
小田嶋氏:
もちろん表示のオン/オフは付けるつもりだったんですけど。でもやっぱり流せるようにしたかった。もったいなかったですね。
4Gamer:
続編ではぜひとも欲しいところです。本来の話に戻りますが,日本での評価に続いて,海外での評価はどうだったのかを教えてください。ソウルキャリバーシリーズは,海外でも人気だとお聞きしていますが。
夛湖氏:
人気ですね。前作ではスター・ウォーズからのコラボキャラクターを登場させて,国内では驚かれましたが,海外ではそれも当然と受けとめられるくらい人気が高い。
4Gamer:
スター・ウォーズとのコラボには確かに驚きましたね。海外でとくに人気がある理由って,どこにあるんだと思われますか。
夛湖氏:
まず海外では,日本ほど多様な格闘ゲームが出ているわけではないということ。その中で,グラフィックスや世界観の面で,これほど傑出したものはないということ。この二つですね。
4Gamer:
なるほど。では新作であるSCVは,そんな期待を背負うなか,どう受け止められたのでしょうか。
夛湖氏:
アメリカ圏では,武器格闘というジャンルで,かつトーナメントに耐えうるタイトルと評価されています。一方フランスやイギリス,ドイツなどのヨーロッパ圏からは,トーナメントに耐えるのは当然として,さらに本作ならではの世界観を,もう少し見せてほしかった,という声をよく聞きます。
4Gamer:
日本での受け取られ方とは,やはり違いがありますね。
夛湖氏:
日本だと,もっとクリエイションパーツのバリエーションが欲しいとか,なんであのキャラクターを消しちゃったの? という声が大きいですね。
小田嶋氏:
海外では,意外とそういう意見はないんですよね。そんなことよりも,トーナメントに耐えうる格闘ゲームであるべきだ,と。そうそう,海外でのキャリバー人気と言えば,僕が初めてアメリカに行ったときの話なんですけど。
4Gamer:
ええ。
小田嶋氏:
海外のゲーム開発者の集まりに参加して,外国人の方に「お前は何のゲーム作ってるんだ?」と聞かれたんです。それで「ソウルキャリバーだよ」って名刺を見せたら,周りの皆が集まってきてしまって,すごく驚きました。
4Gamer:
海外では,それほどまでにソウルキャリバーというIPは大きい,と。
小田嶋氏:
もう全然空気が違うんです。日本でそんな扱いを受けることって,まずないじゃないですか。
4Gamer:
日本と海外の国民性の違いもありそうですが,それでも面白いですね。ちなみに小田嶋さんは,その時はどのような話を?
小田嶋氏:
「間違ってもトーナメントに耐えられないゲームを作るんじゃねえぞ」って,釘を刺されましたね(笑)。どうも向こうでは,日本とは情報の伝わり方が違うみたいなんです。雑誌やネットの情報よりも,トーナメントで種目として選ばれているならやってみよう,という消費のされ方があるみたいで。
4Gamer:
では日本のように,オフライン要素が少ないという意見も出てこないわけですか。
夛湖氏:
いや,そのご意見は海外からもいただいています。でも方向性が微妙に違うんですよ。しっかりとした調査はまだこれからですが,日本のプレイヤーはコンテンツのボリュームを気にしているのに対し,海外はコンテンツの“質”に対して意見をいただくことが多い。
4Gamer:
質というと?
夛湖氏:
現状では世界観がよく分からないから,もっとバックボーンの説明を充実させて欲しいとか,そういう表現になるんです。コンテンツの量ではなく,深さを求めているとでもいいますか。
4Gamer:
ちょっと分かってきた気がします。技の来歴にまつわる設定とかも,キャリバーシリーズはすごく凝ってますよね。でもそういう楽しみ方って,日本だとやっぱりコア寄りなスタイルなのかも。
ちょっと脱線するんですが,本作はキャラクターボイスにかなり手が込んでいますよね。体力が減ったときに声が変わったり,吐息が出たりとか。
新田氏:
実は過去作でも,体力が減ってくると声のピッチが上がってうわずるっていうシステムはあったんです。すごく地味でしたけど。
4Gamer:
え! そうなんですか。
新田氏:
今回はそれをもう少し分かりやすくしようということで,やっと気が付いてもらえた感じです(笑)。
小田嶋氏:
誰にでも分かるように作らないと,コストをかける意味がないですから。……おかげでパトロクロスなんかはもう(笑)。実はあのキャラクターには,性格の参考にしたモデルの人物がいるんです。だから,ほかのキャラクターよりも人間臭くなったのかもしれない。
新田氏:
声優のKENNさんの演技も素晴らしかったですね。サンプルボイスを聞いた時点で,満場一致の人選でした。
小田嶋氏:
KENNさんの慌てふためいたときの台詞がね,「どうやったらこんな上っ面だけな声を出せるんだ」って(笑)。
4Gamer:
あの負け犬感はすごいですよね(笑)。パトロクロスは,体力減少後のボイスによって強烈な個性を勝ち得ている気がします。
新田氏:
ほかにも相手が技を空振りしている最中に技を出す――いわゆる差し込みのときにボイスが変わったり,当たればフィニッシュになる体力状況で下段を出したときにボイスが変わったりするキャラクターもいます。
4Gamer:
差し込みに関してはミツルギが分かりやすいですよね。一旦下がってから攻撃するBで相手の技を避けたときに「当たるかよ!」って言いますから。あとセルバンテスの「トドメだ!」とか。レジェンダリーソウルズのCPUに, or Kでよく削り殺されたので,そこで気付いたという。
新田氏:
それですね。あとパトロクロスの「やはりな!」「浅はかだぞ」とかは,僕のお気に入りです。ジークフリートも差し込みでBを入れると「今だ!」って言いますね。
小田嶋氏:
……あれ相当ビキッっとするんだよね。「今だ!」じゃねえよ! って(笑)。
(一同笑)
4Gamer:
レイシャもA+Bは空中ヒット時だけ,「おっしゃれ〜♪」って言うじゃないですか。「何がおしゃれやねん!」ってずっと思ってたんです。いや,開発者の方々もイライラしながらプレイしていたんですね(笑)。
小田嶋氏:
レイシャは,「やってる方は気持ちいい,だけど相手はイライラする」というのがコンセプトなんです。声優さんを選ぶときも,「どのサンプルが一番相手をイラっとさせられるか」という点で協議を重ねました(笑)。
4Gamer:
レイシャと言えば横に避けながら「注意!」って言うB+K,あれもヤバイです。……どこをどう見ても交通整理じゃないですか。16世紀末にそんな仕事ないでしょ!
小田嶋氏:
ボイスに関しては,「ソウルキャリバーシリーズのキャラクターは,他の格闘ゲームよりも高い完成度であるべき」といった目標があって,そういったところを守るためにやっている部分もありますね。人によっては一生気付かないところなんだけど(笑)。
新田氏:
ただ,今回くらいコストをかけてやれば,ちゃんと気付いてもらえるんだな,というのは強く思いましたね。
4Gamer:
フィードバックが多かったと。
小田嶋氏:
ヨーロッパの大会に行ったときに,ファンの人から「パトロクロス,最高だよ!」と言われて,「何が?」と聞いたら,「キャラの性格だよ! 声変わるしさぁ,なんてうざったいキャラなんだ!」と(笑)。
4Gamer:
海外の人にもあのウザさは伝わるんですね(笑)。
小田嶋氏:
パトロクロスって,“日本人が考える半熟ヒーロー像“なんです。だから海外の人にはウケないかも,と思ったんだけど,そんなことはなかったという。
4Gamer:
ええと,では海外事情のほうに話を戻しまして。別の質問になるんですが,格闘ゲームがほぼ日本でしか作られていないのって,何故だと思われますか。これは格闘ゲームのインタビューで,このところ定番の質問ではあるんですが,鉄拳の原田さんも,アークシステムワークスの森Pも,カプコンの小野Pも,皆さん口を揃えて「日本人しか作れない」とおっしゃっていたんですよ。
小田嶋氏:
その質問,実は海外の記者にも聞かれたことがあるんです。で,僕も「(日本人にしか)作れない」と答えましたね。
4Gamer:
その理由は?
小田嶋氏:
2つあります。まずこれまでに作られた駄作の数です。日本と海外で比較すると,日本の方が圧倒的に駄作の数が多い。失敗例がたくさんあるので,それがすごく参考になるんです。
4Gamer:
バッドノウハウの量が違う,と。
小田嶋氏:
あとは日本人の方が,対戦格闘ゲームにおけるわびさびというか,さじ加減を分かっているから。例えば,2D格闘ゲームだったら「弾を撃たれたらどうしようもない」キャラクターっていますよね。でも弾を持たない相手に対してはめっぽう強い。そんな風にキャラクターがものすごく尖っているキャラクターを,日本人は良しとしてしまう。
4Gamer:
良しとしたうえで,全体のバランスを取っていくと。
小田嶋氏:
さっきも言ったスター・ウォーズのキャラクターを登場させたときのことなんですけど,海外のスタッフが「このキャラクターは動きが速くてパワーもあって,ジャンプもできてワープもできる。あれもこれもできるようにしなきゃ」って言うんです。僕は「全部できてしまうと,つまんないですよ?」と返したんですけれど,「うん? よく分からないんだが」って顔をされて(笑)。
新田氏:
そこは国ごとのヒーロー像の違いなのかな,と思います。誰しもヒーローには憧れると思いますが,日本と海外ではその対象が大きく違うんですよ。中でもアメリカ人は完全無欠な姿に憧れるみたいなんですが,僕ら日本人は不完全なものが何かを乗り越えていく姿に憧れるじゃないですか。
その違いが,1vs.1のゲームを作るスキルやセンスに如実に現れてくるんだろう……と,僕は思います。
4Gamer:
ああ,それはあるかもしれない。なんか海外って,みんなビーム技とワープ技が大好きですよね。
新田氏:
そう。各キャラクターに得手不得手があって,そこが格闘ゲームの面白さじゃないですか。性能にデコボコがあったうえでの平等性というか。でもとくにアメリカの文化では,どうもそれが理解しにくみたいで。
小田嶋氏:
それはあるね。あっちの格闘ゲームを見ていると,格ゲー的に“死んでる”キャラクターは,もう完全に死んでるんだ。で,強いヤツはなんでもできちゃう。だから同じ土俵で戦えないんですよ。
新田氏:
向き不向きの問題なんですけどね。ヨーロッパは分からないですけど,少なくともアメリカでは,1vs.1より「主人公vs.そのほか」のゲームを作った方が面白くなるはずですよ。
4Gamer:
ヒーロー像の違い,確かにありそうな気がします。そういえば日本でいう「萌え」の感覚は,海外でも通じるんですか? 先日実装された「ケフェウス堂」では,体操服やメイド服などの,いわゆる萌え系のコスチュームが登場していますよね。
夛湖氏:
これが結構通じるんです。唯一通じないのがブルマとスクール水着ですね。これはもう日本限定です(笑)。
小田嶋氏:
あ,でもフランス人の一部には何故か通じますよ。イギリスの大会でもコスプレしてきている人がいたので,まったく通じないわけじゃないのかも。
夛湖氏:
それはごく一部だと思うけど。でもそのごく一部の人の萌えセンスは,日本人とほとんど同一みたいですね(笑)。
キーワード
(C) 2012 NAMCO BANDAI Games Inc. (C) 2012 Ubisoft Entertainment. All Rights Reserved. Assassin’s Creed, Ubisoft, and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the U.S. and/or other countries.
(C) 2011 NAMCO BANDAI Games Inc.