インタビュー
“ゲームファンに信頼されるゲーム会社”を目指して。角川ゲームス 安田善巳社長が「LOLLIPOP CHAINSAW」に賭ける意気込みと,同社の未来を語る
既存のゲームと異なる“一撃多殺”を標榜する
須田作品の新境地を切り開くゲームコアメカニクス
4Gamer:
LOLLIPOP CHAINSAWに関わる三社の,具体的な役割分担を教えてください。
基本的にはGhMが開発したものを,角川ゲームスがブラッシュアップしていく形でした。そしてWBIEがユーザーテストを繰り返し行い,GhMと角川ゲームスにフィードバックするという流れです。
開発現場では,角川ゲームスの設樂(昌宏プロデューサー)がコンセプトワークしたものを,GhMの池田ディレクターが仕様書に落とし込み,調整を繰り返しながらゲームコアメカニクスを作り込んでいきました。ある程度できたところで,私や須田さんがチェックするというスタイルでしたね。
それ以外の部分は,GhMの得意とするところですから,須田さんにお任せしていました。
4Gamer:
安田社長ご自身も,開発途中のバージョンに触っていたんですか?
安田氏:
ええ。思いつきで判断を下すわけにはいきませんから,死ぬほどやり込みました。そうそう,須田さんといえば,私がいくつかアイデアを出すと,必ず1個は採用してくれるんです。それで「思ったようになっていますか?」と聞いてきたりと,本当にうまい営業をするんです(笑)。
ともあれ,このプロジェクトには,私自身も,かなりの時間を割きました。
4Gamer:
よろしければ,今だから話せるような開発上のエピソードなども,教えてください。
安田氏:
そうですねぇ……。実はチアリーディングアクションをうまく実現できず,危機的な状況になったことがあります。そのときは,3か月間ほど,私も現場のミーティングに参加しました。
最終的にはプロデューサーの設樂と池田ディレクター,そして現場のスタッフが本当に頑張ってくれて,問題を解決したんです。そのときは須田さんも懐の深さを発揮していました。
4Gamer:
ひょっとすると,開発スケジュールが当初の予定より伸びたのは……。
安田氏:
そうです。この問題で,開発期間を半年延ばしました。しかし,その甲斐はありましたし,むしろ当初の予定を短く見積もりすぎたんじゃないか,と反省しています(笑)。
4Gamer:
そのあたりの見極めは難しいですよね。長めに見積もりすぎると,開発のゴーサインが出せなくなりかねないですし。
それでは,ほぼ完成した段階となった現在,ゲームとしての手応えはいかがですか?
安田氏:
我々が勝負どころだと思って作った部分には,自信を持っています。もちろんゲームですから,すべての皆さんを満足させるのは,難しいところですけれども,幅広いゲームファンの皆さんに楽しんでいただけるゲームに仕上がったと思っています。
例えばアクションゲームがそんなに得意でない方であっても,短いプレイ時間であっても「ガチャ押しでスーパープレイを連発できる」というところを楽しめる出来になっていますから。
ただ,私達が地べたを這う思いで苦労した部分は,やはりある程度やり込んでいただかないと実感していただけないかもしれません。
4Gamer:
実際,どの部分に苦労したんでしょう?
安田氏:
LOLLIPOP CHAINSAWでは,「一撃多殺」──つまり,“1対多数”のアクロバティックなアクションをゲームのメインに盛り込むアプローチをしました。ただ,世の中には,すでに一騎当千タイプと呼ばれるゲームが一大ジャンルを確立していますので,それとも異なるプレイフィールにしよう,と。
とはいえ,ただ難度を上げてやり応え感を出すのもまた違いますから,ここでも議論を重ねました。その中から生まれたのが「スパークルハンティング」システムです。
4Gamer:
それは,どんなシステムなんですか?
スパークルハンティングは一度の攻撃で複数のゾンビにとどめを刺せるアクションで,プレイが上達するほど連発できるようになります。おそらく,その上達の過程では,どれだけスパークルハンティングを出せるかというのがプレイの指標となるでしょう。そこでストーリーの攻略とは別の成果として,ゾンビを倒したときに2種類のメダルが出るようにしました。
通常のゾンビメダルは,体力回復アイテムや,特殊な技や能力アップアイテムを購入するのに使います。一方,スパークルハンティングを決めると出現するプラチナゾンビメダルは,ジュリエットのコスチュームなどの収集アイテムを入手するために使うものなんです。
4Gamer:
つまりコスチュームをコンプリートするためには,うまくプレイしてスパークルハンティングを数多く繰り出す必要があるわけですか。
安田氏:
そういうことですね。本当にうまくなると,ほぼノンストップでスパークルハンティングを出せるようになります。
またプラチナゾンビメダルは,一撃でゾンビを3体倒すと1枚出ますが,一撃で6体倒せば6枚出るといったように,少しインフレ気味の設定にしています。
4Gamer:
なるほど,自分の周りにゾンビを集めてから一気に倒せばそれだけメダルも多く手に入るという,ハイリスクハイリターンな仕様なんですね。
安田氏:
はい。実際に遊んだ方からどう評価されるのか,怖くもあり,楽しみでもありといったところです。
また,ステージごとにスコアアタック,タイムアタック,メダルアタックの三つのランキングモードを設けており,世界中のプレイヤーと順位を競うこともできます。
4Gamer:
そのうえで,須田作品らしさもきっちり保っているんですよね。
安田氏:
そこは須田さんの作品ですからね(笑)。ジュリエットのボーイフレンドであるニックの生首を使ったアクションなど,須田さんは“ピリ辛エッセンス”と表現していましたが,どう考えてもおバカだろう,と(笑)。
4Gamer:
ゾンビの身体にニックの頭を乗せて,ジュリエットが応援したり(笑)。
安田氏:
ほかにもサッカーのようにニックの頭をボールの代わりに蹴るとか,緩急自在のアクションが出せます。滑っているようで思わず笑ってしまう須田作品独特のセンスですから,ぜひ期待してください。
体験会は,ゲームの出来に対する自信と,
「売る努力をしたい」という思いで開催
4Gamer:
全国各都市で,LOLLIPOP CHAINSAWの体験会を予定しているそうですね。体験会に参加する人には,どんな部分に注目してほしいですか?
安田氏:
ガチャ押しでも飽きずにきちんと楽しめるのと同時に,ゲームとしての奥行きがしっかりしている点です。
あとは少し私の思いを申し上げますと,今,ゲームコンテンツやゲームビジネスの有り様には,さまざまなスタイルが存在しています。まさに,各社が自分たちの腕の見せどころを発揮する――フリースタイルの時代が到来していますね。
そんな時代であるからこそ思うのは,ゲームに携わる人間として一番幸せなのは「ゲームファンから信頼されること」ではないかということです。
4Gamer:
おっしゃるとおりだと思いますが,理想と現実はなかなか……。
安田氏:
ええ,いきなり信頼してもらえることはまずありません。私達のことで言えば,“角川”という社名だけでゲームというよりも,アニメやライトノベルといった固定概念を持たれるゲームファンも多くいらっしゃいます。
ただ,逆境の中にこそ飛躍するチャンスがあると信じています。実は今の角川ゲームスは,ゲーム開発もプロモーションもすべて手作りでやっています。ですから,大手のゲームメーカーさんのように数多くのタイトルを同時に発売することができません。
これは力不足が大きな理由ではありますが,一方では,一つ一つのタイトルを大切にしていきたいという思いがあります。そのために,実際にプラットフォーマーさんにゲームを触っていただいて,厳しい評価を受ける場合には,角川ゲームスとして納得のいく品質やユーザービリティになるまで改善することを,地道にやっています。また社内でも,直接開発には携わらないスタッフにもゲームを触ってもらい,率直な意見を募っています。
もちろん,力不足の面もありますので,「なんだこの程度か」とゲームファンの皆さんからお叱りを受けることもあると思いますが,大切なことを見失わないようにと,いつも自戒しています。そうやって皆さんに鍛えられながら,一歩一歩成長していきたいですね。
4Gamer:
とにかく地道に,少しずつ積み上げていこうという姿勢なんですね。
安田氏:
ええ。今回のLOLLIPOP CHAINSAWの体験会も同じ思いでやります。たとえあまりユーザーの皆さんがいらっしゃらなかったとしても,少しでも知っていただく,信頼していただくための努力を積み重ねていきたいです。
先日,セガの名越(稔洋)さんが同じようなことをおっしゃっていたとお聞きして,大変感銘を受けました。
4Gamer:
それは体験してもらえれば,LOLLIPOP CHAINSAWの良さが伝わるだろうという自信があるからこそ,ですよね。
安田氏:
そうですね。須田作品にはクセがあるという理由で敬遠される方にも,この作品はぜひ体験していただきたいです。
4Gamer:
逆に須田作品ファンに向けたアピールポイントはありますか?
須田さんの素敵なところは,クールに表現すると,非情なまでの合理性を追求できることです。須田さんは,自分がいいと思うものであれば,それまでに彼自身が積み上げたものやプライドを全部捨てるくらいの覚悟で,もの作りに取り組む気概を持つクリエイターです。恐らく須田さんは,自然体であらゆるものを吸収しながら,自分を革新していける天性の才覚を持っているんだと思います。
そういう意味で,LOLLIPOP CHAINSAWは間違いなく須田さんの作ったゲームです。須田さんの新境地を,彼自身がきちんと形にしたゲームですから,これまでのファンの方にもぜひ遊んでいただきたいです。
4Gamer:
分かりました。そのほか,体験会以外に特別なプロモーションを考えていますか?
安田氏:
ええ,いろいろ考えています。先日のPAX Eastでは公式コスプレイヤーのジェシカが,セクシー過ぎて会場から退場させられたなんて話もありましたが(笑),日本ではもうちょっと可愛らしい感じでいこうかと。
「ゲームの未来」を提示すべく,
今後はゲームを応用したコンテンツ展開も視野に
4Gamer:
それでは,LOLLIPOP CHAINSAW以降の角川ゲームスの展開についても教えてください。先日,角川ゲームスがパブリッシングするとアナウンスのあった,GhMの「KILLER is DEAD」(PlayStation 3/Xbox 360)についても聞かせていただきたいのですが……。
安田氏:
今のところ,発表している以上の話は難しいですねぇ。
経緯をお話ししますと,須田さんが私に企画を提案してこられたのが,2009年の年末で,LOLLIPOP CHAINSAWの開発が軌道に乗ったあとでした。KILLER is DEADもLOLLIPOP CHAINSAW同様,小規模のチームでプロトタイプを作りながら開発を進めてきたタイトルで,開発はこれから佳境を迎えますが,感触としては非常にいいゲームになりそうです。こちらも期待してください。
4Gamer:
楽しみにしています。
ところで角川ゲームスでは,GhMとの共同開発タイトルのようなオリジナルタイトルだけでなく,角川グループ内のコンテンツのゲーム化なども並行して扱っていくことになると思うんですが,それらのバランスについてはどうお考えですか?
安田氏:
角川ゲームスの角川グループ内における役割は,プラットフォーマーさんとの連携を強化すること,そして流通営業を一体化,拡大強化することにあり,すでに成果も出て来ています。
例えば,初年度の角川ゲームスタイトルの取り扱いは8万本でしたが,2011年度は約65万本でしたから,この3年間で8倍以上になりました。ゲーム事業部門の取り組みとしては,少しずつですが結果を出せているといえます。
4Gamer:
最初の取り組みは成功であった,と。
安田氏:
そうですね。こうなってくると,次のステージをどう構築するかという新たな課題が出て来ます。グループ内でもゲームに対する期待値は高まっていますし,それに角川ゲームスがどう答えを出していけるのか,いつも頭を悩ませています。
それからもう一つ。世界的潮流として,電子書籍の世界では,従来の書籍を電子化したアーカイブコンテンツとは異なる「ダイナミックコンテンツ」の制作が始まっています。これは明らかにゲームのノウハウを応用していくことになります。将来的には電子書籍とゲームを融合させた「スマートノベル」のようなものが登場し,従来の業界の垣根が思いのほか早く取り払われていくかもしれません。
4Gamer:
ゲームそのものだけでなく,ゲームのノウハウを応用したコンテンツをも視野に入れているんですね。
安田氏:
ええ。そして私個人のささやかな野望を述べるなら,皆さんに私達の抱いている「ゲームの未来」像の片鱗をお見せしたいですね。そういうことを考えていると,角川グループの中で扱っている出版,ゲーム,映画,アニメなどの垣根がなくなっていくことを実感します。
4Gamer:
では,従来型のゲーム事業における,当面の目標も教えてください。
安田氏:
繰り返しになりますが,「たくさんのゲームファンに信頼されるゲーム会社」になることです。そのためには基本に忠実に,とにかく真面目に品質のいいものをしっかりと作ってお届けすることこそが,最も大切である,そう思う会社であり続けたいと思います。
4Gamer:
分かりました。その安田社長の思いが,まずはLOLLIPOP CHAINSAWを通じて多くの人に届くことを願っています。本日はお忙しいところありがとうございました。
ご存知の読者も多いと思うが,安田氏は,かつてテクモ(現コーエーテクモゲームス)の代表取締役を務めた人物である。そのため,ゲームビジネスに精通しているばかりでなく,ゲームに対しても相当に厳しい目を持っている。LOLLIPOP CHAINSAWは,その安田氏が時間を割いて逐一内容をチェックし,自信を持って世に問うタイトルということで,アクションゲームとしての完成度には非常に期待が高まるところだ。
その一方で,安田氏自身が須田氏のファンということで,須田作品独特のテイストを損なうことのない仕上がりになっているだろうと予想できることも,GhMファンにとっては嬉しいところだろう。
このインタビューを読んで,LOLLIPOP CHAINSAWに興味を持った人は,ぜひ全国各都市で開催される体験会にて,その真価を確認してほしい。
「LOLLIPOP CHAINSAW」公式サイト
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(C)KADOKAWA GAMES / GRASSHOPPER MANUFACTURE
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(C)GRASSHOPPER MANUFACTURE INC. / Published by KADOKAWA GAMES
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