レビュー
我らのプロフェット隊長が,パワーアップして帰ってきた
クライシス 3
クライシスシリーズの最新作がついに登場
2013年3月7日にエレクトロニック・アーツから発売された「クライシス 3」(PC/PlayStation 3/Xbox 360)は,2007年に発売された「クライシス」,そして2011年に発売された「クライシス 2」に続く,クライシスシリーズの最新作であり,クライシス三部作の完結編だ。
最新作に使用されているゲームエンジンは,デベロッパのCrytekが独自に開発した「CryENGINE 3」だが,オリジナルの「CryENGINE」はNVIDIAの技術デモとして制作されていたもので,のちにCrytekの処女作となる「ファークライ」に採用されて有名になった。もともとはPC向けのゲームエンジンだったが,CryENGINE 3からはマルチプラットフォーム対応になり,同エンジンを採用したクライシス 2ではPC版のほか,PlayStation 3版とXbox 360版が発売されている(2011年には,クライシスのコンシューマ機版もリリースされている)。現在,欧米タイトルのゲームエンジンとしては,Epic Gamesの「Unreal Engine」が一人勝ち状態だが,CryENGINE 3を採用するメーカーも徐々に増えているようだ。
「クライシス 3」公式サイト
ちなみに,CrytekがパブリッシャをUbisoft EntertainmentからElectronic Artsに変えたことにより,ファークライの商標権を持つUbisoftは独自でファークライシリーズの続編を開発することになり,クライシス 3とほぼ同時期に「ファークライ 3」をリリースし,筆者が命名するところの「クライ対決」が発生した。欧米ゲーム業界って,面白いですね。
というわけで,ここでそのクライシス 3のPlayStation 3版レビューをお届けしたい。ハイテク戦闘服である「ナノスーツ」をがっちり着込んだプレイヤーが,人間離れした活躍を見せる本作は,どんな感じに仕上がっているのだろうか。
ニューヨークを舞台に繰り広げられる三つ巴の戦い
冒頭にも書いたように,クライシス 3はシリーズ三部作の完結編だ。バナナがたくさん採れることで有名なリンシャン島で,北朝鮮人民軍およびエイリアンとの三つ巴の戦いを繰り広げたクライシス。復活したエイリアンがニューヨークを襲い,悪の企業クライネットの民間軍事会社「C.E.L.L.」なんかも出てきて,にわかに陰謀っぽくなったクライシス 2を経て,今回はクライシス 2終了後の世界が描かれることになる。ゲーム中,何度か見晴らしのいい場所に立ってニューヨークの状況を見ることになるのだが,クライシス 2からそれなりの時間が経過しており,マンハッタンはコンクリートジャングルならぬ,木々が生い茂る本物のジャングルになっている。
ファークライ,クライシスと,ジャングルを舞台にした作品を作ってきたCrytekは,クライシス 2でちょっと浮気したけど,再びジャングルに帰ってきたわけだ。
主人公は,クライシスでラプターチームの指揮官を務めたプロフェット隊長。前作冒頭であんなことになっちゃったのに,どうしてプロフェットが主人公になれるのか,という疑問もあるはずだが,クライシスでエイリアンにさらわれたのに無事に帰ってきて,「ははは,オレがあんなことでやられると思ったか」で多数のプレイヤーの疑問をないことにしたプロフェット隊長だけに,あまり気にしなくてもいいだろう。シングルプレイを進めていけば,だんだん分かってくるし。
ゲームは,C.E.L.L.に捕まったそんなプロフェットを,同じく元ラプターチーム隊員のサイコが救出する場面から始まる。プロフェットが拘束されている間,地球侵略を仕かけてきたエイリアン「セフ」はC.E.L.L.によってほぼ抑えこまれているが,サイコに助け出されたプロフェットは,その状況に懐疑的だ。彼によると,エイリアンの親玉ともいえる“アルファセフ”が存在しているのだが,サイコを含めたプロフェットの周囲は信じてくれず,目下のところ,何かを企んでいるらしきC.E.L.L.に意識を向けている。
……というのがゲームのおおざっぱな流れだ。ゲーム序盤はエイリアンの存在感は薄く,プロフェットを含むレジスタンス対C.E.L.L.という構図になるが,物語が進むにつれ,エイリアンの存在感が増し,レジスタンスと対エイリアン対C.E.L.L.といった状況になり,やがて最大の脅威であるエイリアンとの戦闘がメインになっていく。キャンペーンモードのエンディングでは筆者の想像を超える展開が見られたので,シリーズファンならストーリーにもぜひ注目してほしい。
複雑だったナノスーツ操作も簡略化
さて,クライシスシリーズの中で最も重要なのが,主人公が着ているナノスーツだ。これは,人工筋肉付きの防弾服といった感じのハイテクスーツで,シリーズ第1弾をプレイしたときは簡単に脱いだり着たりできるものだと思っていたが,クライシス 2あたりから,使用者と深い部分で結合する物語の中核をなす要素としてクローズアップされてきた。どうやら,家に帰ってナノスーツをそのへんに脱いで風呂に入り,あとで妻に怒られるというようなことは起きないらしい。
アクション的には,このナノスーツの人間離れした驚異のパワーのおかげで,高いところに飛び移ったり,敵の銃弾を跳ね返したり,透明になって敵の目をごまかしたりと,クライシスシリーズならではの戦いが堪能できることになる。従来作では,機能が複数用意されており,それらを状況に応じて使い分ける必要があったが,本作では,「マキシマムアーマー」と「クローク」の2本立てになっており,ナノスーツビギナーでも使いやすくなった。
「セントラルパーク動物園」から逃げだしたのだろうか,鹿がいたりする。ニューヨークに詳しい人ほど楽しめそうだが,筆者はあまり詳しくない |
ナノスーツの機能「クローク」を使えば,光学迷彩で身を隠すことができ,敵から視認されずに移動が可能。ただし,動くとエネルギー消費が激しくなる |
前作同様,ナノスーツのアップグレードもできるが,倒したエイリアンからナノカタリストを集めるというスタイルから,マップ上に置かれた「ナノスーツアップグレードモジュール」を拾って使うという形に変更されている。
ナノスーツの機能の中でもとくに役立つのが「バイザー」だ。バイザーを下げることで,マップにいる敵やアイテム,アップグレードモジュールの位置などをマーキングすることができ,一度マーキングした対象は,バイザーを上げた状態でも表示され続けるので便利だ。ただし,バイザーを下げた状態では発砲できない。
本作では,例えば背の高い草が生い茂っていたり,樹木が視界を遮っていたりと,ハイレベルすぎるグラフィックスが憎い! という状況に陥りやすいので,敵の位置を確実に把握するためにもバイザーは多用することになるだろう。またバイザーを使って敵の地雷やタレットをハッキングすることもでき,ミニゲームをこなしてハッキングに成功すると,敵のタレットが寝返って敵を攻撃してくれるので,こちらが手を下さずとも相手の数を大きく減らせるのだ。
本作では,敵の数が多い場所ほどタレットも多めに配置されている印象で,ハッキングのためのミニゲームにはまず失敗しないということもあり,ちょっとぬるく感じてしまうこともあった。ゲームに慣れてくれば,ハッキングしばりをかけてもいいかもしれないというほど便利なわけだ。
自分のプレイスタイルに応じてモジュールをアンロック。複数のナノスーツアップグレードキットが必要なモジュールもある |
タレットをハッキングしている写真。6角形の玉が<>に入ったタイミングでボタンを押していけばいいのだ。慎重にいこう |
武器のカスタマイズも簡単
シリーズ従来作同様,武器のカスタマイズは本作でも健在。例えばハンドガンの照準をアイアンサイトからレーザーサイトに変更したり,弾薬を軽量弾から炸裂弾に変えたりできる。アサルトライフルなら,フォアグリップを装着して銃身をブレにくくする,スナイパーライフルならサイレンサーを装着して銃声を抑えるといったことが可能だ。ボタン一発でカスタマイズ画面が表示されるので,状況に応じてパーツを変更し,効果的に敵を排除しよう。
筆者もさまざまなカスタムを試してみたが,たいていの場合敵がこちらに気づくと増援を呼ぶため,隠密行動が重要になり,必然的にサイレンサーを装着するケースが多かった。サイレンサーの効果は絶大で,逆に言うと,いろいろあってもサイレンサー一択という感じになってしまったのもまた事実。プレイスタイルによりけりだろうが,もうちょっとドラスティックなカスタマイズができても良かったかもしれない。
オンラインで世界を相手に戦う,白熱のマルチプレイ
クライシスシリーズは「Call of Duty」シリーズなどと比べて,マルチプレイがメチャクチャ盛り上っていることで知られたシリーズではない。Crytekもその点は承知しており,「Crysis Wars」などを投入して,いろいろテコ入れをしてきた。その甲斐あってか,クライシス 2あたりからマルチプレイが次第に認知されつつあるという印象だ。
最新作であるクライシス 3には,実に11種類のマルチプレイモードが用意されているが,その中でも筆者がもっぱら楽しんでいるのが,「チームデスマッチ」「ハンター」「クラッシュサイト」の3つだ。
FPSファンには説明不要だろうが,チームデスマッチとは,プレイヤーが2つのチームに分かれ,相手チームに所属するプレイヤーを倒してポイントを稼ぐというもの。規定のポイントに達するか,終了時に相手チームよりも多くのポイントを獲得しているチームが勝利というもの。みんな大好きチーデスだ。
ハンターは本作で初登場したモードで,プレイヤーが,C.E.L.L.側10人とハンター側2人(PC版の場合,14人vs.2人)に分かれて戦う非対称のデスマッチだ。ハンターは,クロークモードが常時オンのナノスーツを装着しプレデターボウを持つ。C.E.L.L.側は通常武器となるが,目的はどちらも敵を倒し,ラウンドの最後まで生き残ることだ。特徴的なのは,C.E.L.L.のプレイヤーがハンターに倒されると,そのプレイヤーは次にハンターとしてリスポーンすることだ。
つまり,C.E.L.L.側でプレイすると,場合によっては一人,また一人と仲間がいなくなり,そのぶん敵が強力になっていくというハンパない緊張感が味わえ,アドレナリン大放出間違いなし。これを数ラウンド繰り返すわけだが,もう一つ面白いのは,これが一見するとチームデスマッチでありながら,スコアでランキングされる個人戦だということだ。たとえ味方チームが生き残ってもオレ様最下位,ということが起きるので,ハンターに見つからないようにコソコソ逃げ回っていてもダメなわけだ。
クラッシュサイトは,一ひねりしたチーム対抗の拠点防御戦だ。エイリアンのドロップポッドを保持することでチームにポイントが入る仕組みで,所定のポイントに到達するか,タイムアップ時に相手よりスコアの多いチームが勝利となる。ここで重要なのが,ドロップポッドが定期的にランダムな場所に投下されるということだろう。そのため,制圧すべきポイントがどんどん変わっていき,戦いはスピーディなものになる。
本作では,大ジャンプから地上の敵を攻撃する「エアストンプ」がモジュールの追加なしで使えるようになったため,ドロップポッドを防衛しようとしているプレイヤーを上から奇襲するのが個人的にとにかく楽しい。くくく,ヤツめ,気づいてないな。
マルチプレイで使用出来る武器は,バラエティ豊かだ。最初は基本的な武器しか使用できないが,対戦結果によって得られる経験値でプレイヤーがレベルアップし,武器がアンロックされていく。これは最近のFPSでは一般的になっている。多くの読者にとってもおなじみのものだろう。武器に装着できるアタッチメントは,特定の武器を使い続けることで武器のレベルが上がり,アンロックされていく。時間はちょっとかかるが,扱いやすく武器をカスタマイズしておきたいところだ。ちなみに筆者は,マルチプレイではもっぱらショットガン突撃野郎。オレのそばに来ると危ないぜ。距離が離れていると弱いけど。
「クライシス3」で,あなたもぜひナノスーツ野郎になろう
というような不満もあるものの,それを差し引いても面白いタイトルであることは間違いなく,筆者も毎日のように楽しんでいる。リアルなスクワッドベースの現代戦FPSに比べ,ナノスーツを使った人間離れした戦いはイマジネーションを刺激されるし,強力兵器を使った無双チックなプレイも魅力的だ。さらに,上記のようにユニークなマルチプレイモードも用意されており,ぶっ飛んだところは少ないものの,ドイツ的な(?)カッチリとしたタイトルになっていると思う。筆者は夜な夜なオンラインに出没しているので,諸君も機会があればぜひ筆者と戦おう!
「クライシス 3」公式サイト
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(C)2011 Electronic Arts Inc. Trademarks belong to their respective owners. All rights reserved.
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