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  • 発売日:2013/07/13
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任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
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印刷2013/07/13 00:00

インタビュー

任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」

Wii Uは期待に応えられるように

この夏から挽回していきたい


4Gamer:
 ちょっと話は逸れるんですが,先ほど話題に出たTVのHD化の件も含め,どんなゲームを作るかを考えるとき,AV環境の進化のようなものも念頭に置いているんですか?

画像集#020のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
宮本氏:
 ものすごく,というわけじゃないですが,一般家庭に新しいものがいつ入るかは大事なポイントだと思って見ています。
 そうそう,かつてマリオが,アメリカのキャラクター人気調査でミッキーマウスを抜いたことがあるんですね。当時は,マリオってどちらかというとイロモノみたいなところがあって,それを面白がってくれたんだと思うんですけど,「ミッキーマウスを抜いてどう思うか?」みたいな取材を受けたことがあるんです。
 ついつい,「いやぁ嬉しいです」みたいに言ってしまいそうになったんですけど……あの頃のミッキーマウスは40歳とかそれぐらいで,マリオはまだ3歳とか4歳とか,それぐらいだったんです。

4Gamer:
 まだ生まれたてみたいなものですよね。

宮本氏:
 そこに思い当たったとき,ミッキーマウスがアニメーションと共に育っていったキャラクターならば,マリオはデジタルと共に育とうと決めたんです。

4Gamer:
 デジタルと共に,ですか。

宮本氏:
 はい。なので,デジタルの新しい技術が家庭に浸透しはじめたら,マリオを一本作ろうと決めています。マリオってクラシックなように見えて,家庭用の最先端の技術に飛びついているんですよ。3Dに最初に乗るのはマリオって決めていて,ゲーム業界でも一番に3Dに乗っかってやろうと思っていましたし。
 アメリカでも,マリオはそうやってデジタルと共に成長してきて,いつも時代の先端のほうにいるという理解はしてもらっているようです。

4Gamer:
 確かに思い当たる節はあります。
 マリオが新しい技術を紹介する役割を担っているというか。

宮本氏:
 もっとも,例えば3DSが出ますとなったときに,裸眼立体視に対応したゲームを作るのが一番いい答えかは分からないです。
 ただ,ゲームを作るうえで最も大事なことは,インタフェースや再生の環境が共通でそろっていることだと思うんですよ。例えば,3DS用にゲームを作るデベロッパにとっては,どの3DSであれ,裸眼立体視が保証されていると。
 かといって,3DS用に作るからには必ず裸眼立体視を重視したゲームにしなければならないかというと,そうではなくて。単に3DSで作る人は,それを自由に使えるっていうことなんですよね。

4Gamer:
 究極的には,それを使わないのも自由である,と。

宮本氏:
 ええ。Wii UもGamePadを必ず生かさないといけないというほどのことではないんですけど,GamePadが全部に付いているので,自由に使ってください,と。それに,インターネットにほとんどの機械がつながっているということを前提にしていってもいい時期になっているのかな……とかね。
 ほかのゲーム機ではオプションを買わないといけなかったりすることもありますが,“お客さんの環境が異なっているかもしれない”ということを心配せずに,ゲームを作ることができるのが大事だと思っているんです。

4Gamer:
 おっしゃることはよく分かります。ただ……。

宮本氏: 
 ええ。だから任天堂はWii Uを頑張って売らないとダメですよね(笑)。
 Wii UはWebブラウザも二画面ですし,単純にYouTubeを見るだけでも便利なんですけど,そこは使ってもらわないと理解してもらえないですし。まだまだシステムも高速化しないとダメですし。

4Gamer:
 現時点でWii Uは,販売台数がなかなか振るわない状態が続いていますよね。

宮本氏:
 ええ。何より大きいのは,遊べるゲームが十分出そろっていなかったということでしょうね。そこは反省すべきところです。

4Gamer:
 それは何が原因なんでしょう?

画像集#021のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
宮本氏:
 ピクミン3や「Wii Fit U」は,本来,1月〜3月ぐらいに出るはずのラインナップだったんですよ。
 去年の今頃もそういうつもりで作っていたんですが,正直なところ,HDでシェーダを使うというあたりで割と手こずりました。今は一通り使えるようになってきたので,これからは挽回していけると思うんですけどね。それと,ハードウェアの開発自体も遅れたんです。これが遅れると,開発環境の整備も遅れ,ゲームの制作にも影響が出る,と。
 ハードが世に出てからゲームを制作するのであれば,さほど影響は出ないはずなんですが,ハードと同時進行しているゲームにはどうしたって影響が出てきてしまうんですね。

4Gamer:
 なるほど。

宮本氏:
 それと,ピクミンに関しては,1のときもそうだったんですけど,組み上げてみないと分からない部分があるんですね。これだけの原理でちゃんと面白かったら遊びになる。でも,面白くなかったら遊びにはならないな,と。結果的に1は面白かったから,商品になりました。ピクミン3も,どんな遊びになるのかは,組み上げてみないと分からない部分があったんです。

4Gamer:
 GamePadという新しい機器にも対応していますし。

宮本氏:
 だからこそ,自分達でも少し遊んだうえで,きっちり仕上げたいという思いがありました。だから2月に間に合わないとなったとき,4月頃に出そうかなとも思ったんですが,この際,時間をとってきちっと仕上げようということにしました。
 ちょうど,夏からWii U用のラインナップを潤沢に並べていこう考えていたというのもありましたしね。

4Gamer:
 となると,夏以降のラインナップの先陣を切る役割を,ピクミン3が担っているわけですね。

宮本氏:
 ええ。このあとは,「レゴ シティ アンダーカバー」「The Wonderful 101」があります。さらに今後は「スーパーマリオ 3Dワールド」「ドンキーコング トロピカルフリーズ」「マリオカート8」などを用意しています。
 なので,そろそろWii Uは買いですよ! ということでね。この夏から数字を挽回したいと思っているんです。プレミアムセットもshiroを選べるようになりましたし。

4Gamer:
 プレミアムセットのshiroが欲しいという声は,発売当初からありましたよね。

宮本氏:
 本当は最初からkuroもshiroも用意したかったんです。でも,最初に生産できる量を考えると,どちらかに絞る必要があったんですよ。アメリカ市場は,kuroを欲しがりますしね。

画像集#024のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
レゴ シティ アンダーカバー
roperties used with permission. All Rights Reserved. Wii U is a trademark of Nintendo.
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The Wonderful 101
スーパーマリオ 3Dワールド
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画像集#026のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」 画像集#025のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
マリオカート8


「ストーリー」「ミッション」「ビンゴバトル」

三つのモードが同じぐらいのボリュームに


4Gamer:
 Wii Uはリビングに置かれるものというイメージがあるんですが,ピクミン3は,自室にこもってこつこつ遊びたくなるような作品だと思うんです。そのあたりは,いかがでしょう?

画像集#027のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
宮本氏:
 なるほど……。でもね,ピクミン3は家族で見ても面白いと思いますよ。見てるだけでも楽しめるものになっているんじゃないかなって。見ていると後ろから口を挟みたくもなりますし,兄弟でTV画面担当とGamePad担当みたいに分業することもできるでしょうし。

4Gamer:
 ああ,なんかそれは想像するとほんわかしますね。

宮本氏:
 それによく,「ゲームばっかりして,勉強しないで……」なんて言われますけど,ピクミン3は遊んでいると頭が良くなるんじゃないかと思えるところがあちこちにあるんですよ。
 テストの点数は上がらないかもしれないですが,基本的に数えるゲームで,だいたい10〜20ぐらいを頻繁に数えることになるので,数字をイメージするトレーニングになりますから。それに,マネージメントのアイデアを考える練習にもなりますし。ぜひとも親子で遊んでほしいと思うんです。
 それでも家族の了解を得られないようであれば,最悪TVを消してGamePadだけでも遊べるようにはしてあります(笑)。

4Gamer:
 宮本さんの各所での発言を見聞きする限り,GamePadだけで遊べるという機能のプライオリティが,妙に低いように感じるんですが(笑)。

宮本氏:
 ピクミン3はそうですね。スタッフによると,GamePadだけで遊んだときには独特の味わいがあって面白いそうなんですが,あえて不自由を楽しんでいるみたいなところがありますから(笑)。やっぱり両方の画面を使うほうが快適です。 
 でも……バーチャルコンソールのゲームなんかだと,大型のゲームボーイアドバンスを持っているみたいな気分になれるんで,GamePadだけで遊ぶとすごく楽しいですよ。スーパーファミコンの頃にこれが欲しかったと思う人は,きっと多い気がするんです。リビングのTVの主導権争いから逃れられますしね。

4Gamer:
 TVのサイズに合わせて作られたゲームを,TVを使わずに寝っ転がって遊んだりできるというのは,魅力的ですよね。

宮本氏:
 でしょう?
 そうそう,ピクミン3だと「ビンゴバトル」モードなんかは,リビングで熱いと思います。ゲームに参加できるのは2人までですが,何が起こっているかは周りで見ている人のほうがよく分かったりするんで,やってる人が指示や野次を受けながら遊ぶようなことになるでしょうし。

画像集#028のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」

4Gamer:
 確かに見ている人も参加できそうな余地はありますね。

宮本氏:
 ピクミン3は,一人でストーリーやミッションに取り組んでも面白いし,誰かとビンゴバトルで対戦しても面白いし,それぞれのモードのどれが主ということもなく,それぞれのシチュエーションによって生きている感じがするんですよ。
 作っているときはあくまでもストーリーモードが中心で,ミッションモードはストーリーモードのおまけであり,ビンゴバトルモードはピクミン2の対戦モードのアレンジ版として用意した感じだったんですけど,出来上がったものを見ると,その三つが同じボリュームのメニューのような気がするんですよね。
 ビンゴバトルモードには専門ディレクターがいて,「そんなに人が必要なのか?」なんて言っていたんですけど,今は「いて良かった」と思うぐらい充実していますし。

4Gamer:
 遊びごたえもバッチリということなんですね。
 ……対戦で思い出したんですが,オンライン対戦に対応する予定などはなかったんですか?

宮本氏:
 それは諦めました。実現しようとなると,ほかのところがいろいろ犠牲になるのが明らかでしたからね。
 とくにアメリカなんかでは,オンライン対戦が用意されていないとダメだぐらいに言われるんですけど,それがなくても面白いものになっていますから。

4Gamer:
 ストーリーモードが終わったら,あとはマルチプレイ以外に楽しみがない……というわけではありませんしね。

宮本氏:
 ええ。このゲームに限らず任天堂が大事にしている姿勢なんですが,贅沢を言えば,発売から3年経っても売れ続けているというのが理想なんです。最低でも発売から1年後にも売れるものを作ることを基本にしています。それで,任天堂のゲームをバックナンバーのように全部そろえて遊んでほしいぐらいに思っているんですね。
 でもそのためには,買って3週間で遊び終わって,以降はもう二度と遊ばないというようなゲームではダメなんです。ピクミン3では,そこはきちんと実現できたという手応えがあるんですね。
 ただその先,どこまで遊び続けられるかということについては,ネットワークサービスのことも考えていきたいと思っています。

画像集#035のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」

4Gamer:
 あ,マルチプレイには対応していないにせよ,ネットワークを利用した何かの構想自体はあるんですか。

宮本氏:
 ええ。とりあえずは,Miiverseで情報を公開できるといったぐらいですが,これからお客さんがどう遊んでくれるかを見つつ,いろいろと準備しています。
 それからこのゲームって,今までのゲームの中で一番,ほかの人のプレイ動画が面白いゲームだと思うんですよ。その動画と同じことができなくても,自分では気付かなかった技を知ることができるだけでも,けっこう楽しめるんです。僕もデバッガーにスーパープレイビデオを作ってもらって見ているんですけど,作ってる側が気付いていない技をいろいろと見付けてくれるんですよね。
 なので何らかの形で,プレイ動画を見てもらう遊びなんかもやっていきたいと思っています。

4Gamer:
 どんな形になるのか,楽しみにしています。


まずは興味を持ってもらうため

短編アニメ版「ピクミン」も制作中


4Gamer:
 今回,ミッションモードもビンゴバトルモードも,比較的短時間で終わるように設定されている気がするんですが,その狙いを教えていただけますか?

画像集#030のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
宮本氏:
 まあ,今の人達の生活に合わせた時間ですよね。だいたい6分から,長くても15分はかからないぐらいにしているんですが,単にプレイ時間を短くするということより,気軽に遊べるものにしたかったんです。
 ちょっと遊ぶだけで,20〜30分は平気でかかるとなると,重く感じる人が多いと思うんですよね。気軽に遊び始めたら,時間を忘れてのめりこんでしまった……というのが理想なので。

4Gamer:
 重いと思ってしまうと,そもそも遊び始めないですからね。

宮本氏:
 そうなんですよね。よく,最近の人はゲームで遊ぶ時間がないみたいに言われますけど,本当はゲームを始めようとする余裕がないということであって,ゲームをする時間そのものがないわけじゃないと思うんです。
 軽いゲームを1回だけやろうと思って,気が付いたら朝まで続けちゃったみたいな話は,今でもたくさんあるじゃないですか。だから,できるだけそういう風に作りたいという意識はあります。

4Gamer:
 近頃,据え置きゲーム機は電源を入れてから起動するまで,起動してからゲームを始めるまでが長いというのがネックになりがちで……。

宮本氏:
 そこでWii Uなんですけど,なかなか分かってもらえないんですよね(笑)。
 例えばWii Fit Uだと,GamePadだけでかなりのことができます。じっくりトレーニングをしようというときにだけ,TVをつければいいという風に作っているんです。電力の問題なんかもあるんですけど,本当はレジューム状態でずっと置いておいて,触ったらポンって,GamePadだけがまず立ち上がるようになれば,あるべきWii Uの姿に近付くと思うんです。
 Wii Uは,家に帰ってきたとき真っ先に立ち上げるポータルにしたいと思って設計していて,その機能はだいぶ整ってきましたし,これからの家庭に一台あると絶対にいい機械だと思っているんですが,それを説得するよりは,面白いゲームを作るほうが先ですから,今,一生懸命取り組んでいます。

4Gamer:
 その一つがピクミン3ということだとは思うんですが,触ってみないと良さが理解できないものは,このご時世,苦戦しがちな印象があります。

宮本氏:
 そうなんですよねぇ……。触ってもらえば良さが分かるものを,いかに触ってもらうか,興味を持ってもらうかは,とても難しい問題だと思います。

画像集#036のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」

4Gamer:
 ええ。触ってもらう前に,まず興味を持ってもらわないことには……。

宮本氏:
 そこで今,ゲームだけでは見せられない部分を,きちんと形にしようということで,実験的にピクミンのアニメーションを作っているんです。実はこの2年ぐらい,僕はゲームよりアニメーションのピクミンに時間をかけているぐらいで(笑)。それでピクミンそのものに,まずは愛着を持ってもらいたいんですよね。実は去年のE3で僕の回りにピクミンをいっぱい出したのも,アニメを作る過程でできた素材を使ったものなんですよ。
 実は,去年の12月からTOHOシネマズの劇場で,映画が始まる前に出るロゴのところにピクミンが出ているんです。3D眼鏡をかけてくださいという案内のときにも,チャッピーが走り回っています。これもそういう取り組みの一つなんです。

4Gamer:
 ゲームを作るのと同時に,そういった企画も進行していたんですね。アニメ自体は,いつ頃,公開されるのでしょうか?

宮本氏:
 どうやって公開しようかな? と考えているところです。何にせよ,今年はまだまだピクミンに力を入れていきますよ。


自分が関わっていることが一番面白い

それがゲームというインタラクティブメディアの魅力


4Gamer:
 もちろん遊ぶ人にもよりますが,ピクミンには,ゲームの楽しさが集約されているような気すらするんです。

宮本氏:
 はい。ピクミンでは,「あ,ゲームってこういうところが面白いんですよね」と言ってもらえることを目指しているところがあって,それはある意味,クラシックなスタイルを守っていることでもあるんです。それは古くさいという意味ではなくて,原点がちゃんと分かるという意味で。

4Gamer:
 原点……?

画像集#029のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
宮本氏:
 ここ数年強調していることなんですが,それは結局,作っている人と遊んでいる人の共感だと思うんですね。
 そのためには,遊ぶ人がそのゲームを受け入れられるかどうか,何かが理解できるか,ということなんですよ。
 ピクミンでいうと,目の前で起こっていることが何を意味しているのかが,見ているだけで割と分かる。ここをちゃんとやっていくと,遊びの原理も分かるようになるし,どういう考え方をすればいいのかも分かるようになる。その考えが自然に理解できると,作り手との共感,信頼関係が生まれます。
 その流れで,自分で考え始めると,ゲームって面白くなってくると思うんです。

4Gamer:
 ただ画面の指示どおりにボタンを押すだけではなくて,自分で考えたことがゲームに受け入れられると,遊び手としては嬉しいものです。

宮本氏:
 そうでしょう。でも演出系のゲームというのは,何かを押し付けたりとか,語りで遊び手を説得していく形をとりがちですよね。ゲームというインタラクティブなメディアなのに,映画的なメディア,受動的なメディアとしての比重が大きくなってしまっているように思うんです。それも悪くはないんですが,僕らはもっと能動的な遊びを作っていきたいですし,そのためには,シンプルな構造で何が起こっているのかが分かって,プレイヤーが自分で考えられるようなものを作りたいんです。
 ピクミン3では,グラフィックスは豪華になりましたが,シンプルに詰まっているので,実際に遊んだ人に「アクションゲームってこういうことが面白いんですね」と言ってもらえたら理想的ですね。

画像集#032のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」

4Gamer:
 ピクミン3を遊んでいると,何に対してなのか分からないんですけど,なぜか感情移入できてしまうんですよ。その対象は決して主人公達ではないし,ピクミンでもないんですが。

宮本氏:
 それはつまり,そこに自分がいるっていうことですよね。任天堂というか,僕が作るゲームはそれを目指しているんです。
 マリオも,主人公はマリオじゃなくて自分。ゼルダに至っては,主人公はリンクなのに「ゼルダの伝説」というタイトルですし,ピクミン3も主人公はチャーリー達なのに「ピクミン3」というタイトルです。

4Gamer:
 主人公の名前がゲームのタイトルにかすりもしていないという。

宮本氏:
 そうなんです。どれも,そこに自分がいれば,主人公達の影は薄くていいんですよ。
 ゼルダを好きだと言ってくれている人も,自分が冒険している感じがいいと思ってくれる人が,一番強い思い入れを持ってくれています。

4Gamer:
 気持ちがリンクに乗り移るんですよね。

宮本氏:
 でも,ピクミンはその中でもかなり特殊かもしれないですね。
 主人公は記号化していて,けっこういい加減な走り方をしていたりもするんですけど,世界全体を自分が眺めている中での記号だから,あまりそういうことは関係なくて。その一方で,ピクミンの存在だけは妙にリアルなんですよね。そこがけっこう大事なところだと思っています。

4Gamer:
 ピクミンが死ぬと悲しかったり,チャッピーが出てきてイヤだなと思うのは,完璧に自分自身なんですよね。感情移入した主人公達が思っていることではなくて。

画像集#031のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」

宮本氏:
 主人公はカーソルなので(笑)。

4Gamer:
 決して自分の分身ではないし,かといってチャーリー達を使役しているわけでもなく。それでいて,ピクミンを使役している実感はあるという。すごく不思議な気分になるゲームだと思います。

画像集#033のサムネイル/任天堂の宮本 茂氏に聞く,「ピクミン3」の魅力――「インタラクティブメディアは,“自分”が関わっていることが一番面白い」
宮本氏:
 そこがインタラクティブメディアの魅力だって思ってほしいんですよ。自分が関わっていることが一番面白いんだ,という。
 どうしてもストーリーが主体になると,この先にどういう展開になるのかということを言われがちなんですけど,例えば「ドラゴンクエスト」にしてもクリアして涙が出るのは,40時間も時間を使った自分がいるからというところがあって。そういう良さは残していきたいですよね。

4Gamer:
 自分が介在しない物語そのものに感動したいのであれば,ゲームを選ばなくたって構わないですし。

宮本氏:
 そう。涙を引き出されるようなデモを見ることに時間を使ったわけではなくて,自分が苦労して費やした時間があるからこそ涙が流れるというようなことが,インタラクティブメディアの一番大きな魅力だと思うんです。僕らは,それをずっと追い求めていますから。

4Gamer:
 今後も引き続き,楽しませていただけることを期待しています。
 それでは最後に,4Gamerの読者に向けてメッセージをお願いします。

宮本氏:
 どうしても任天堂って,カジュアルユーザー向きのものを作っていて,ゲームを好きな人達を無視しているように思われがちなんですけど,作っているのはゲームが好きな人達です。
 ピクミン3はとくに,ゲームが好きな人達に向けてもかなり本気で作りましたから,ぜひとも遊んでみてください。もちろんカジュアルユーザーも楽しめるというバランスのものになっていますので,皆さんが実際に遊んだうえで,普段4Gamerを読まないような人達にも勧めてみてください(笑)。

4Gamer:
 ありがとうございます。
 やっぱり,カジュアルユーザーのほうばかりを向いているのでは? みたいな声は届いていたんですね(笑)。

宮本氏:
 ……まあ僕らも板挟みですからね。作る度に「こんなに難しいゲームにしやがって」とか「ゲームって難しいんでしょ?」って言われるし,一方で,「こんなぬるいものを作りやがって」とも言われるし。板挟みっていうか,あちこちから挟まれていて(笑)。
 でも今回,それを全部挽回してやろうという思いで作って,出来上がったものも手応えがあるので,本当に遊んでもらいたいんですよ。1のときから可愛い歌で宣伝はしましたけど,遊んでみると骨太なゲームでしたし,それを究極の形まで持って行けたと思っていますから。

4Gamer:
 発売後の反応が楽しみですね。
 本日はありがとうございました。

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