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シリーズ最新作となる「Europa Universalis IV」はどんな内容になるのか。新たに明らかになった変更点を紹介し,その姿を探る
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印刷2013/01/12 00:00

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シリーズ最新作となる「Europa Universalis IV」はどんな内容になるのか。新たに明らかになった変更点を紹介し,その姿を探る

 Paradox Interactiveが新作「Europa Universalis IV」(以下,EU4)の制作を発表して半年が経とうとしており,公式フォーラムではすでに10以上の開発レポートが公開されている。4Gamerでもそのうちのいくつかを紹介しているが,ここでは,これまでに発表されたレポートを改めて紹介しつつ,Paradox Interactiveの看板ともいえるこのシリーズが,どのように変化しようとしているのかを考察してみたい。

「Europa Universalis IV」公式サイト

「Europa Universalis IV」開発レポート



君主の能力はより決定的なファクターに


 中世後期から近代初期にかけての時代は,数多くの名君――ときには暗君――によって彩られた。Europa Universalisシリーズはこの事実を踏まえ,統治者の能力がゲーム展開に大きな影響を与える要素になっている。前作,前々作においては,君主の外交能力は領土拡大のスピードを大きく左右したし,軍事能力の高い統治者の下では軍隊の改革も容易だった。
 EU4では,ここからさらにもう一歩踏み込んでおり,プレイヤーは常に支配者のステータスを意識せざるを得なくなる。というのも,EU4では各国の支配者が持つ行政,外交,軍事の3つのステータスが毎月蓄積され,プレイヤーはこれを消費して国家を運営していくというシステムになっているのだ。
 従来からあった資金やマンパワーという重要な国家資源に「君主の能力」が加わるわけで,「将軍を雇う」「国策を変える」などといった重要事項はこれなしには実行できなくなる。

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 この変化について,Europa UniversalisシリーズのゲームデザイナーであるJohan Andersson氏は,「『戦略』とは,結局のところ限られたリソースの使用方法であり,ストラテジーゲームのデザインにとって重要なのは,プレイヤーをいかに制約するかの,さじ加減なのだ」とコメントしている。10年以上にわたってParadox Interactive社の開発陣を牽引してきた同氏ならではの発言といえるが,これに限らず,EU4の開発レポートは単なるゲーム内容の紹介だけでなく,「なぜ,このゲームシステムにしたのか」「過去の作品から変化を加えた/加えなかったのはなぜか」といった,いわば開発者視点での語りが見られ,興味深い。

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イングランド国王ヘンリー6世の宮廷。彼のように能力値の低い君主の統治下では,あらゆる改革が困難になってしまう
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技術ウィンドウ。元首の能力はテクノロジーの開発にも影響を与える

 Europa Universalisのプレイヤーにとってはおなじみの商人,外交官,宣教師,植民者など,特殊任務の担当官にも手が加えられており,従来作のように月ごとに一定数が増加していくわけではなく,例えば商人ならば君主制国家で2人,ヴェネツィアのような重商共和国ならば3人というように,あらかじめ定まった数のユニットを各地へ派遣するものへ変更されている。「Crusader Kings II」をプレイした人ならば,同作の「評議会システム」とおおむね同じ,といえば分かってもらえるのではないだろうか。


従来のあり方から一変した経済システム


 開発レポートを読む限り,前作からのゲームシステムの変化は,経済関連の分野が最も大きそうだ。シリーズの経験者以外にとっては,なんのこっちゃという話も多いかもしれないが,とりあえず説明してみよう。
 まず,Europa Universalisシリーズにおける各勢力の収入は,月別と年頭の2種類に分かれ,このうち年頭の収入が国家財政にとって大きなウェイトを占めていた。これに対し,EU4では月ごとの収支決算に統一される。情勢の変化でどう転ぶか分からない年頭の収入をあてにする必要がなくなるため,収入の見通しを立てるうえでは喜ばしい変更点といえるだろう。

借金を返済するコマンドが追加されているのがお分かりになるだろうか。EU4では借金を効率的に行うことも重要になってくるという
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 支出と収入の内訳にも細かく手が加えられているが,前作からの大きな違いとしては,「殖民や改宗の派遣費用,技術革新や安定度の回復のためのコストは基本的にタダ」という点が挙げられる。「Europa Universalis III」(以下,EU3)までは,これらの費用が月ごとの支出の大半を占めていたが,EU4では,あらかじめ貯めておいた君主のステータスや,それぞれの分野の担当官など,資金以外のリソースを消費することでこれらの任務を実行できるようになる。限られた収入でやりくりしなければならない小国にとって,ありがたい変化といえそうだ。

 交易システムについては,一から作り直されており,「Europa Universalis II」(以下,EU2)やEU3のように世界各地の交易中心地に商人を派遣して,独占的な市場支配を目指す形ではなくなった。プレイヤーがポルトガルやヴェネツィアのような商業国家として振舞うためには,世界中に張り巡らされた交易ルートに商人や交易船を派遣したり,交易ルートの中心に近い州を支配したりする必要が生まれたようだ。

 ヴェネツィア―アレクサンドリアのような一つ一つの交易ルートは固定されているものの,ゲームの進展に伴って,例えば喜望峰経由でのインド交易ルートや,新大陸との交易ルートなどが誕生するらしく,こうした交易ルートの変化を通じて,長期にわたる経済活動の違いを表現しようという意図があると思われる。交易ルートによる経済システムは,EU2以来,ファンからの根強い要望があった点であり,今回の変更はユーザーの声に応じた結果といえるだろう。

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ジブラルタルを経由して,複数の交易ルートが交差している
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このジブラルタルの利権をめぐって,各国はしのぎを削ることになる。近隣国だけではなく,リエージュのような北欧の小国もこの争いに参加できるのだ


イベントや国策,宗教を通じて
それぞれの国のプレイはより個性的に


 EU2とEU3の大きな違いは,各国固有の史実イベントの有無にあった。EU2では(とくに歴史上の大国において)数多くのイベントが発生し,プレイヤーは避けられない栄枯盛衰をあらかじめ予測し,国家を運営する手腕が求められていた。
 一方のEU3は,基本的に歴史イベントを廃したデザインになっており,プレイの醍醐味は地政学的な制約を受けながら,その場その場でどう対応するかを選択していくことにあったといえる。もちろん,EU3にも各国の個性とでもいうべき独自イベントやミッション,政策なども存在していたが,それらは味付け程度に留まっており,EU2でのいくつかの歴史イベントのように「選択を間違えればゲームオーバー」あるいは「理不尽な反乱発生率と反乱軍の数に,数十年にわたって苦しめられる」というようなものではなかった。

ポーランド=リトアニアの「共和国」もゲーム中に出現する。周辺諸国によって分割され消滅した史実を回避できるだろうか
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 こうした経緯をふまえ,EU4ではそれぞれの国の違いをどう表現することになるのだろうか。
 まず,開発レポートで挙げられているのが「国策」だ。EU3で初登場した国策は,EU4にも数を増して登場するが,特定の国家がこれらの国策のうちの7つを揃えると,大きなボーナスが得られるシステムになっており,これによってフランスやイングランド,スペイン,ロシアといった近世に台頭した大国の重要性が表現される。さらに,これらの大国にはスタート時からそれぞれ異なった「伝統」が設定されており,この点でも国ごとの差異化が図られている。例えばイングランドには,固有の伝統として貿易効率と海軍士気のボーナスが用意されているほか,海軍と行政機構関連の国策を7つ選択することで,排他的な交易が可能になるという。
 また,ロシア独自の要素としては,陸軍系と内政系の国策の組み合わせにより,人的資源が2倍になるというものがあり,もともとこの国が持っているマンパワーと歩兵コストの低さにより,まさに「兵士が畑でとれる」国家を創り出すことが可能になるはずだ。
 開発日誌ではこの他にも,スペイン,スウェーデン,ミラノ公国などが「ユニークな国家」として紹介されている。

独自の伝統により,スウェーデンは傭兵を安く雇用でき,さらに歩兵の戦闘力が上昇する
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 さらにEU2を思い出させる要素として,動的歴史イベント(Dynamic Historical Events)が挙げられる。これはEU2のように,一つの出来事が次々とつながっていく連鎖式のイベントで,歴史上の重要事件を再現するために用意されている。ただし,発生条件を満たしたからといって,必ずしも100%起きるわけではないという点で,Paradoxのゲームにこれまで見られた歴史イベントとは性格が異なる。

 開発レポートでは,いくつかの具体例が挙げられているが,例えばイングランドでは,固有の歴史イベントとして「薔薇戦争」が発生する。これは15世紀の君主に後継者がいない場合に発生し,イングランドのプレイヤーはヨーク家とランカスター家のどちらを次の王朝にするかの選択を迫られることになるのだが,どちらを選ぶにせよ,100年戦争の痛手も癒えぬままイングランドは内戦に突入するわけだ。17世紀のピューリタン革命もこうした動的歴史イベントの候補らしい。

 またロシアには,1550年から1650年にかけてツァーリの座をめぐる内乱が発生したという史実を反映した連鎖イベント,「苦難の時代」が設定されている。このイベントが起きると,隣国にもロシアの王位継承戦争に介入するチャンスが生まれるため,ロシアでプレイしたときだけでなく,スウェーデンやポーランド=リトアニアなどの周辺諸国にとっても重要なものになりそうだ。
 ちなみに,開発レポートに挙げられた史実イベントの例は,プレイヤーに挑戦を迫るような内容が多いが,例えばピョートル大帝の西ヨーロッパ巡察のように,行うことで国家を発展させるタイプのイベントも用意されているので,安心してほしいとのことだ。

モスクワ大公国がロシア統一の本命であるとはいえ,ほかの勢力にもチャンスはあるようだ
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 各国が信奉する「宗教」も,それぞれの文化圏の違いを出す上で大きな要素となるが,開発レポートでは主にキリスト教とイスラム教諸宗派について言及されている。EU3では,カトリック諸国が枢機卿を買収することで,教皇の後ろ盾になって影響力を行使できたが,EU4ではこれに加えて正教やスンニ派,シーア派にも独自のギミックが追加される。
 興味深いのは,宗教を手厚く保護することで得られるメリットが,どの宗派を見てもおおむね軍隊の士気ボーナスといった軍事面にあること。必要以上に宗教に力を注ぐと,経済や技術の面で,他国に遅れをとることになってしまいそうだ。

ミラノのような中堅の国にも,独自のイベントが用意されている。共和政体の不安定さも再現されるという
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 以上見てきたように,EU4は「EU3で新しいゲームエンジンに移行した際,取捨選択したEU2的な要素をもう一度見つめなおした作品」になるようだ。とくに,EU2での史実イベントを,EU3風の抽象性を加味したうえで再度取り上げようとしている姿勢からは,開発者が歴史ストラテジーゲームにおいて「if歴史の可能性」「史実の必然性」とのバランスを模索していることがうかがえる。


「Europa Universalis IV」が目指すものとは


 歴史ストラテジーゲームのファンとは,自分の手で歴史を作り出したいという欲望と,たとえ不利になると分かっていても,あえて史実の展開を追体験したいという,本来矛盾する願望を同時に得ようとする欲張りな人々だ。このうち,歴史を変える楽しみは,主にプレイヤーのスキル選択や,ゲーム中のランダムイベントへの対応などによってもたらされ,史実の流れはゲーム開始時のセッティングやプレイ中に生じる歴史イベントなどによって表現される。

 ゲームデザインにおいてこの両者のバランスは,プレイヤーの満足度に大きく影響する重要な要素といえる。というのも,ランダム性やif要素などの可能性の部分に依存しすぎると「歴史ゲームを遊んでいる」という感覚が薄れ,逆に史実どおりの展開を厳格になぞるだけではゲームを遊んでいる気分にはならないからだ。やっかいなことに,このバランス調整に完全な正解は存在しないため,ゲームごとに両者の関係は異なってくる。

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 例えば,国産の歴史ストラテジーの代表ともいえる「信長の野望」シリーズは,伝統的に,プレイヤーに史実どおりの展開を強いるより,新たな歴史を生み出す可能性に重きを置いている。同シリーズにおいて実際の歴史を(細かい点で,議論の余地はあるにせよ)忠実に反映している部分は,史実に沿った能力値を持ち,史実に沿って生まれては死んでいく武将達であり,大名家の初期配置や史実イベントなどについては「攻略不可能な勢力を歴史どおりに多数作るより,簡略化してでも,ゲームに登場するすべての大名家にチャンスを与えよう」という意識が強いように思う。
 同シリーズの優れた点は,このコンセプトを徹底したうえで,ゲームとしての破綻がないところであり,難度設定やグラフィックスを含めた総合点で,完成度は非常に高い。
 そもそも16世紀の日本が「ちょっとしたボタンの掛け違いで,信長,秀吉,家康と続く統一政権はありえなかったかもしれない」と我々に思わせる流動的な時代であることも,if展開を許容するゲームデザインがうまくはまった理由だろう(言いかえれば,信長の野望シリーズは,こうした歴史観の再生産を助けているともいえる)。

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 一方のParadox作品は,「避けようがない歴史の必然性」の演出に長けている。例えば,ミクロな部分では「ダンツィヒか,戦争か」といった,各勢力の「宿命」として設定された史実イベントであり,マクロな部分では,数十年から百年という単位で広がっていく各国間の技術格差だ。
 Europa Universalisシリーズもこの傾向に違いはなく,15世紀から19世紀にかけての400年という長い期間を通してプレイヤーが見るのは,「ルネサンスと宗教改革を経た西ヨーロッパ諸国が,世界に進出していく歴史」であり,ゲームがここから逸脱することはない。
 すなわち,非ヨーロッパ諸国が西洋文明を受容して彼らのように振舞うことはできるが,ヨーロッパ諸国の発展が途中で大きく停滞したり,アジア圏が飛躍的な成長を遂げたりするような(「シヴィライゼーション」シリーズではごく普通に起きる)事態は想定されていない。プレイヤーが期待するのも,こうしたヨーロッパの飛躍を前提としたうえで,国家戦略の複雑さをシミュレートするゲームデザインだろう。

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 だが,前作のEU3ではこの「西洋の優位」というマクロな部分での歴史の不可避性こそ演出できていたものの,新エンジンでの第一作ということもあってか,各国の抽象性は高かった。極端な話,EU3におけるオーストリアとスペインの違いは,国の位置する場所の差でしかなかったのだ。

 もっとも,これはこれで,「国家の盛衰や,その戦略にとって何よりも重要なのは地政学的条件であり,勤勉さや勇敢さなど,近世から近代にかけて盛んに喧伝された民族的特質は幻想に過ぎない」という歴史に対する開発者のスタンスが見えて面白いともいえるが,反面,国やプレイスタイルを変えて何度も遊びたいかと問われれば返答に窮する部分もあった。
 EU4ではこの点を勘案し,史実イベントを多数追加すると同時に特定の国に個性を与えることで,EU2と同様にミクロなレベルでの歴史の必然性を強調し,ゲームとしての面白さについても設計し直している。もちろん,この方法にもリスクがあり,一歩間違えば勢力間のバランスが崩れてゲームにならなくなる危険性をはらむうえ,行き過ぎた各国の差異化は「ゲーム的」という印象を過度に与えかねない。このあたりの調整を開発者がどのようにしていくのかが,現段階で大いに注目されるところだ。

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 EU4には,以上述べてきた大きな変更点以外にも,細かいが同シリーズのプレイヤーにとって注目に値する違いが数多く存在する。
 例えば,Paradox Interactive社の作品(いわゆるパラドゲー)で重要な役割を担っていた政策スライダーは,EU3で新たに追加された国策と役割が重複するためか,廃止される予定であり,また,パラドゲーの古参プレイヤーになじみ深い,安易な世界征服を防ぐ働きをしていたBBR(悪評点)もEU4では不採用となるようだ。

 さらに,EU3の拡張キットで追加されてきた要素についても見直しが行われており,「Europa Universalis III: Heir to the Throne」で追加された行政官や文化伝統,「Europa Universalis III: Divine Wind」に登場した幕府システムもなくなるという。これについては,日本人プレイヤーとして喜ぶべきか悲しむべきか反応に困るところだが,開発者のほかのコメントを見る限り,EU4での日本は単一の国に戻るわけではないようだ。

 以上,これまでに公開された開発レポートをまとめてみたが,発売までにはさらにさまざまな情報が出てくると思われ,上に書いたことも,もしかするとまた修正されるかもしれない。EUウォッチャーとしてはそのあたりもまた面白さの一つなのだが,機会があれば,引き続き情報をお届けしたい。

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「Europa Universalis IV」公式サイト

※掲載したスクリーンショットは,開発中のものです
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    Europa Universalis IV

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