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[TGS 2021]RPGの魅力と可能性とは。「ファイナルファンタジー」の生みの親・坂口博信氏と,シリーズ最新作を手がける吉田直樹氏の対談をレポート
この番組では「ファイナルファンタジー」の生みの親である坂口博信氏と,「ファイナルファンタジーXIV」(以下,FFXIV)プロデューサー兼ディレクターであり,開発中のシリーズ最新作「ファイナルファンタジーXVI」(以下,FFXVI)のプロデューサーも務めている吉田直樹氏が,RPGの魅力と可能性について対談した。
坂口氏と吉田氏が初めて会ったのは,FFXIVが2013年に“新生”と銘打ってリニューアルした前後だったという。吉田氏は2010年12月にFFXIVのプロデューサー兼ディレクターに就任し,同タイトルの立て直しを図っていたが,全力を尽くしてやれるところまでやってから坂口氏に挨拶したいという思いがあったそうだ。また坂口氏は,初対面の吉田氏から「FFはどうしたら良いですか」と質問され,「あなたのゲームだから,好きにしたら良い」と答えたというエピソードを披露した。
坂口博信氏の最新作「FANTASIAN」について
対談の最初のテーマは,お互いのゲームの印象について。吉田氏が坂口氏の最新作「FANTASIAN」について開発者の視点からさまざまな質問を投げかけ,それに坂口氏が回答していった。
そのやり取りによると,フィールドをジオラマで作った理由は,坂口氏が昔からジオラマが好きで,ゲームのグラフィックスが高精細になった今なら写真を素材に使えると考えたからだという。また,ゲームのテーマである「混沌と秩序」を,手作りで混沌としたアナログと,秩序立っているデジタルで見立てるという考えもあったそうだ。
ただ,フィールドをジオラマで作るのはやはり大変だったとのこと。そもそもジオラマは時間の経過によって崩れていき,写真を撮り直そうとすると別の風景になっていることもあったというエピソードが披露された。
ジオラマの制作を作家に依頼するにあたり,開発チームが用意したのは数枚のコンセプトアートとマップだけ。実際に出来上がったジオラマが,用意していたシナリオと食い違っていた場合には,シナリオのほうを変更するなどして対応していったという。例えば,かなりセリフが詰め込まれているシーンなのに,ジオラマには歩く距離がほとんどないケースでは,セリフのやり取りをほかのシーンに移すといったことをやっていたそうだ。
「FANTASIAN」の独特な画作りは,エフェクトや撮影時のライティングだけでなく,ジオラマ自体に仕込んであるLED電球も一役買っているとのこと。そうしたLED電球の使用は,開発チームが依頼したものではなく,ジオラマの作家が独自にやっていたという。それを聞いた吉田氏は,「どんなフィルターを使えば,スマートフォンの画面でこんな表現ができるのか」と疑問に思っていたことを明かした。
「FANTASIAN」の大きな特徴の1つである,エンカウントした敵を異次元に吹き飛ばしてストックしておき,あとからまとめて戦う「ディメンジョン・システム」は,ジオラマのフィールドを歩いているときにバトルが発生するのは邪魔でしかないと坂口氏が考えたからだそう。
また,もう1つの特徴である「エイミング」は,当初は物理計算を使っていたが全然面白くならず,そこから変更を加えていって製品版の形になったこと,バトル自体もエイミングとの相性からターン制になり,結果として戦略性の高いものになったことも明かされた。
こんな風に「FANTASIAN」は,まず作ってみて,実際にプレイして感じたことをさらに形にしていく,スクラップアンドビルドのスタイルで開発が進められたとのことで,坂口氏は「自分の作り方の良くないところ」「プログラマーが大変」と語った。なお本作の開発期間は,シナリオ執筆開始から数えておよそ3年だったという。
吉田直樹氏の手がけるFFXIV,そして最新作のFFXVIについて
一方,坂口氏は最近FFXIVをプレイし始めたとのこと。かつて「EverQuest」にハマって抜け出せなくなった経験のある坂口氏は,すでにFFXIVにもハマりかけているそうだ。また,「ヒカセン」がプレイヤー自身を指す「光の戦士」の略称であることが分からず,当初は戸惑っていたことや,自身のキャラクターにはいつも体が一番小さい種族を選ぶことが明かされた。
FFXIVをプレイするにあたって坂口氏が師事を仰いだのは,同タイトルのシナリオを手がける松野泰己氏。オンライン会議システムで坂口氏のプレイ画面を共有し,松野氏からさまざまな手ほどきを受けているという。
そんな坂口氏だが,久しぶりのMMORPGはやはり楽しいとのこと。ほかのプレイヤーとのやり取りが楽しいのもそうだが,とくにFFXIVは昔のMMORPGと異なり,ゲームに入っていくための導入部がよく考えて作られていると語った。
そうやって遊びやすくなっている反面,FFXIVはルールが複雑になっていると坂口氏は指摘した。
その言葉を受けて,吉田氏は「『Ultima Online』や『EverQuest』が持っていた混沌さは個人的に嫌いではないが,今は誰もがそこに時間をかけられる時代ではない」とし,「最初から全部オープンにするのではなく,クエストを進めていたらいつの間にか……というデザインにしておかないといけない」と説明。「いつものFFと同じ感覚で,ストーリーを進めればプレイできることをコンセプトにしている」と続けた。
また坂口氏は,FFXIVにほかのFFシリーズの要素が続々と出てくることも楽しんでいるという。それに対して吉田氏が「もう1つのコンセプトとして,FFのテーマパークを掲げた」と説明し,「シリーズが35年続いてきた中,プレイヤーにはそれぞれ好きなナンバリングがある一方で,知らないナンバリングもある。『III』を好きな人が熱く語っているのを聞いて,知らなかった人が興味を持つような場にしたくて,いろんな人に協力を仰いでいる」と語った。
話題は,FFXVIにも及んだ。坂口氏は公開されたトレイラーについて,「本格的なファンタジーに持っていくのかな」「そうなるとシナリオはハードで,人間の本質的なところに突っ込んでいくのかなという期待がありつつ,そこに行くのは大変だろうなとも思う」と,感想を述べていた。
すでに本作のシナリオが完成していることは,吉田氏自身が先日明かしたとおり。坂口氏は,ヨコオタロウ氏が「シナリオを書きたい」と名乗りを上げたことに言及し,「僕も書きたい」「小さいクエストでいいから書かせてよ」と発言すると,吉田氏は「今はサイドクエストを作っている。3Dモデルもほぼ完成し,いくつかのブラッシュアップをしている段階」と,FFXVIがかなり完成に近づいていることを示唆した。
吉田氏が「FFXIVのシナリオなら……」と話を振ると,坂口氏は「XIVは松野がやってるから。ヨコオさんなら勝てるという意味じゃないけど,シナリオで松野に勝てる気がしない。それに松野と勝負すると,プレイを教えてもらえなくなる」と笑っていた。
そのほかにも,坂口氏がFFXIVかFFXVIの衣装デザインがしたいと発言。「シナリオでは松野やヨコオさんとの勝負になってしまうから」と話していた。
ちなみに吉田氏によると,FFXVIの開発は当初は少人数で進め,「これを作る」と決めてから大規模開発に移行していったとのこと。少人数の段階では,アクションのスクラップアンドビルドなども試みたという。
RPGの魅力と可能性,そして今後の課題とは
RPGを作り続けている理由を問われた坂口氏は,自身が空想好きな子どもであったことを明かし,自分の考えた世界やルールをゲームとして具現化できるのが楽しくてやっていると回答。また開発中,坂口氏自身が考えもつかないアイデアをスタッフが出してきたときに「僕のためにありがとう」と感じるそうで,そうしたチームワークも続ける理由になっているという。
それを受けた吉田氏は,坂口氏がチームに号令をかけたときの熱の入り方はほかのときと全然違ったという逸話が,スクウェア・エニックスの社内に残っていることを明かした。
吉田氏がRPGを作っている理由は,10代前半の頃にプレイした「ドラゴンクエスト」シリーズやFFシリーズの影響が大きいとのこと。「指輪物語」などのファンタジー小説が好きだった吉田氏は,ゲームでもこれだけのストーリーを表現できるのかと思い,ゲーム開発を志すようになったという。とくにゲームは能動的に体験できるという,映画などのほかのエンターテイメントにはない部分が魅力になっているとも話していた。
今はアクションRPGやターン制RPGなど,RPGと言っても一括りにはできないほどバリエーションがあることも話題に上がった。坂口氏は,スキルツリーのような少しずつやれることが増えていくシステマチックな部分が,アナログ的な部分であるストーリーや世界観と噛み合った結果,さまざまな形のRPGとして進化していったのではないかと語った。
また吉田氏も,今やRPGと呼ばれるタイトルの共通点は成長や育成の要素くらいしかないと指摘。さらにFFXVIにも,スキルツリーのようなものがあることを明かした。
さらに坂口氏がFFXIVを引き合いに出し,「MMORPGだから,自分もほかのプレイヤーも立場は同じ。でもストーリーで誘導されているから,『オレが光の戦士』だと思わせる。システマチックなゲームに物語性を持ち込み,自然にそう思わせるのはうまいと思った」と感想を述べると,吉田氏は「それは坂口さん達のゲームから教えてもらったこと」と回答。プレイヤーが常に「オレが主人公。オレが最強」と感情移入できるよう意識していると話し,例としてFFXIVでプレイヤーが飛空挺に乗って旅立つとき,皆が送り出してくれる演出を挙げた。
RPGの可能性を問われた坂口氏はARとの連動を挙げ,例えばFFXIVプレイヤーがARでミニオンを連れ歩くことができれば楽しいと語ると,吉田氏はARの研究を進めていることを明かした。またFFXIVのVR対応へのリクエストも寄せられているという。
一方,吉田氏はグラフィックスの高精細化に伴うリソースコストの上昇を今後の課題として挙げた。さらに,グラフィックスがリアルに近づくことにより“嘘”を描けなくなり,世界を救う大冒険が作りにくくなっていることも指摘。FFシリーズのファンは,とある国のとある街で起きる事件のような物語は望んでいないとして,今後どう解決していくかきちんと考えなければならないと語った。
そうした課題の解決策として,昨今ではAIでオープンワールドの広大な世界を作り出すという手法も存在するが,坂口氏は手助けにはなっても,根本的な解決には至らないと語る。吉田氏も「世の中にある自然の大部分に,イベントが存在しているわけがない。広い世界を作っても遊びが足りなくなるだけ」とし,「『FANTASIAN』にはジオラマ1つ1つに世界があり,物語を感じられる。それは作っている人のクリエイティブがあるから。ツールで広大な世界を作ったとしても,果たして同じ感覚を得られるのか」と疑問を口にした。
対談の最後には,坂口氏から「『FANTASIAN』で引退だと考えていたが,次のお話も沸いてきているので,近いうちに何か作り出せたらいいなと思っている」との発言も。ぜひ続報が聞けることに期待したい。
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