テストレポート
「GeForce GTX TITAN」の3-way SLI動作レポート。7860×1440ドットで3Dゲームが動き,消費電力が大台に達する世界へようこそ
日本市場では12万〜13万5000円程度という価格設定で販売が始まったため,特殊でニッチな製品と評価せざるを得ないが,その絶対性能に惹かれる人はいるだろう。
そんなレビュー記事の最後で紹介したとおり,4Gamerでは今回,GTX TITANカードを単体ではなく,3-way SLI構成で搭載したドスパラ製ゲーマー向けPC「GALLERIA Titan ZX 3way」として入手している。先の記事では,スケジュールの都合もあり,GTX TITANというGPUの性能そのものに焦点を当てたが,今回は,そのとき“宿題”となっていた,SLI構成時のテスト結果を,スコアやムービーなどでまとめてお伝えしてみたい。
GALLERIA Titan ZX 3wayを使って
GTX TITANの3/2-wayをGTX 690のQuadと比較
GTX TITANの製品概要は発表時の解説記事,シングルGPU仕様となるグラフィックスカード単体の性能や,競合製品との比較はレビュー記事のとおり。両記事で語った内容は繰り返さないので,未読という人は,先に一度,目を通してもらえればと思う。
「GeForce GTX TITAN」登場。500円玉より大きなモンスターGPUの“性能以外”を徹底解説
「GeForce GTX TITAN」レビュー。999ドルの超巨大GPUは速いのか?
ただ,筐体内部で目を引くのは,むしろ,上面×3,底面×1,前面×2,背面×1,グラフィックスカード後部(※3.5インチベイのシャーシ部)に×1と,計8基もの140mm角ファンが搭載されていることのほうかもしれない。なぜこれだけのファンが搭載されているのかについては後ほど考察したいと思う。
ちなみに,採用されているフルタワーPCケースは,In Win Development製の「Grone」。サイズは245(W)×593(D)×562(H)mmとかなり大きく,重量もケースだけで10.88kgあるので,文句なしにヘビー級だ。ただ,そのおかげで,3枚のGTX TITANカードを搭載してなお十分なスペースがあり,かつ,5インチベイ×3,3.5インチベイ×8と拡張性も十分にある。
GALLERIA Titan ZX 3way側では,標準となる3-way SLI構成のほか,2-way SLI,そしてシングルカード(以下,グラフ中では「1-way」と表記)構成でもテストを実行することにした。これにより,3枚,2枚,1枚差しでスコアにどのような傾向が出るかを比較可能だ。
比較対象として用意したのは,2枚の「GeForce GTX 690」(以下,GTX 690)カードで,2枚によるQuad SLI構成と,事実上の2-way SLI動作となるシングルカード構成を,GALLERIA Titan ZX 3wayからGTX TITANを取り外し,代わりに差すことで実現する。これにより,グラフィックスカード以外のハードウェア構成を統一した状態で比較しようというわけである。
3DMarkでは,「Fire Strike」とその「Extreme」プリセットをそのまま――つまり,解像度は1920×1080ドット――2回実行し,高いほうの値をスコアをとして採用するというのも,レビュー記事から変わっていない。
用いたドライバは,GTX TITANが「GeForce 314.09 Driver」で,GTX 690が「GeForce 314.07 Driver」。Release 313世代(313〜315)のドライバとしては共通ながら,バージョンが微妙に揃わないのは,GTX TITANのレビュー記事と同じ理由による。
なお,テストにあたっては,CPUの自動クロックアップ機能「Intel Turbo Boost Technology」の効果に違いが生じるのを防ぐため,同機能をマザーボードのUEFI(≒BIOS)から無効化しているが,これもレビュー記事と同じだ。
3-way SLIでGTX 690のQuad SLI以上の性能を発揮
スコアの安定度も高いが,CPUが足枷になる場面も
順にテスト結果を見て行こう。グラフ1は「3DMark 11」(Version 1.0.3)から,「Performance」と「Extreme」,両プリセットでの総合スコアをまとめたものになる。その下にはスコアの詳細も表2としてまとめたが,ハイエンド環境の指標となるExtremeプリセットで,グラフ中「GTX TITAN 3-way」となるGTX TITANの3-way SLI構成は,シングルカード比で約145%高いスコアを示した。グラフ中「GTX 690 Quad」としたGTX 690のQuad SLI構成と比べても約12%高い。
また,グラフ中「GTX TITAN 2-way」とした2-way SLI構成が,GTX 690のシングルカードに対して約49%高いスコアを示している点も見逃せないところだ。
「なんで突然スコアの詳細を表で示したの?」と思うかもしれないが,その理由は,グラフ2および表3で示した新世代3DMarkのスコアと比較してもらうためだ。
グラフ2を見ると分かるが,GTX TITANの3-way SLIとGTX 690のQuad SLIは大きくスコアを落とした。Fire Strikeのデフォルト設定では揃ってGTX TITANシングルカードの後塵を拝しているのだから,これは問題だろう。
なぜこういうスコアになってしまっているのかを見るために用意したのが表3で,GTX TITANの3-way SLI構成とGTX 690のQuad SLI構成は,グラフィックス描画とCPUベースの物理シミュレーションを同時に行う「Combined Test」でスコアを大きく落としている。GTX TITANの3-way SLIでいえば,5.68というスコアは2-way SLI比でわずか25%だ。3枚以上のSLI構成時に,GPU間の調停と,物理シミュレーションとの間に,何らかの問題が出ているのではなかろうか。
もちろん,今後のグラフィックスドライバアップデートで修正される可能性はあるのだが,それでも「3基以上のGPUを用いたマルチGPU構成には依然としてリスクがある」ことをあらためて確認させられたとは言えるだろう。
なお,Fire Strike(Extreme)でGTX 690のQuad SLIが極端に低いスコアしか示せないのは別の理由によるものだが,これについては後述したい。
実際のゲームではどういう挙動になるのだろうか。グラフ3は「Far Cry 3」のテスト結果をまとめたものとなる。GTX TITANの間でスコアを比較すると,3-way SLIではシングルカード比で119〜137%程度,2-way SLIではシングルカード比で66〜83%程度高いスコアを示した。ざっくりまとめるなら,カードが1枚増えると,スコアは最大70%高くなる,といったところか。
ちなみにGTX TITANの3-way SLI構成が示した,「『標準設定』時の平均41.6fps」というのは,ベンチマークレギュレーション13.0で「快適にプレイできるレベル」とした水準(=平均40fps)を超えている。「高負荷設定」時の平均30.9fpsは,同レギュレーションでひとまずの合格点とした水準(=平均30fps)を超えるレベルだ。今回用意したテスト環境で,Far Cry 3のグラフィックス設定を最大にした場合,7680×1440ドット解像度で満足にプレイできるのはGTX TITANの3-way SLI構成だけというわけである。
ところで,3DMarkと同じように,より描画負荷の高いテスト条件でGTX 690のQuad SLIがスコアを大きく落としている件だが,GTX 690でも同様の結果になっていることからすると,ドライバの問題というよりは,GTX 690のメモリインタフェースが256bitで,結果としてGPU 1基あたりのメモリバス帯域幅がGTX TITANの288.38GB/s比で約67%の192.26GB/sに留まるのが影響していると見るのが妥当ではなかろうか。あまりにもグラフィックスメモリ負荷が高くなりすぎてしまい,GTX 690では,SLIどころの騒ぎではなくなっているのだと思われる。
その点では,GTX TITANのほうが,よりハイエンドPC向けのメモリスペックになっていると言えるわけだ。
続いてグラフ4は「Battlefield 3」のテスト結果である。ここだと「低負荷設定」(≒標準設定)時は,Far Cry 3と比べて描画負荷が低いためか,上位の3テスト条件では大きなスコア差がつかなくなっているが,それでもGTX TITANの2-way SLIは,GTX 690に対して約35%,GTX TITANのシングルカードに対して約62%高いスコアを示した。
一方の高負荷設定だと,GTX 690の2条件はまったくスコアが出ない。それに対してGTX TITANは,3-way SLIがシングルカード比で約117%,2-way SLIでも同約69%と,安定的にスコアを伸ばした。全体の傾向としては,Far Cry 3と似ているといったところか。
なお,GTX 690のQuad SLIで高負荷設定時のスコアが「N/A」となっているのは,何度試してもアプリケーションが強制終了してしまったためである。
公式の高解像度テクスチャパックを導入することで,グラフィックスメモリ負荷を大きく高めてはあるものの,ハイエンドGPUにとっては決して“重い”タイトルではない「The Elder Scrolls V: Skyrim」(以下,Skyrim)。それを,7680×1440ドットといった超高解像度で実行するとどうなるのかを見た結果がグラフ5で,やはりというかなんというか,標準設定だと,テスト対象の5条件で,スコアに大きな違いは生じなかった。
高負荷設定だと,まずGTX 690のQuad SLIとGTX 690がスコアを大きく落とし,とくに後者はGTX TITANのシングルカードに置いて行かれるのが目を引くが,一方でGTX TITANなら2-way SLIの標準設定,3-way SLIなら高負荷設定でも,CPUボトルネックによるスコアの頭打ちが生じてしまう。GTX TITANのマルチGPU構成をとった場合,Skyrimをプレイするにあたって組み合わせるCPUは,i7-3970Xですら性能が足りていないというわけだ。
先のレビュー記事では「マルチGPUでのスコアが伸びにくい」と紹介した「F1 2012」だが,それでもGTX TITANでは2-way SLI構成でシングルカードから26〜48%程度のスコア向上率を示した(グラフ6)。GTX 690のQuad SLIがGTX 690比で19〜32%程度のスコア向上率に留まっていることを考えると,GTX TITANのほうが素直にスコアを伸ばしているといえるだろう。
ただ,ここでもCPUボトルネックが原因でスコアの頭打ちが生じる。F1 2012の場合,平均80fpsも出ていればプレイにはまったく支障はないのだが,GTX TITANの3-way SLIでより高いフレームレート値を得たいのであれば,より高い性能のCPUを組み合わせる――というか現実的にはいまのところオーバークロックしかない――必要がありそうだ。
なんだかんだで3画面は圧巻
やはり自動車モノとの相性が抜群
上の性能検証時は,液晶パネルの実解像度である2560×1440ドットを純粋に横方向へ3倍した(=3枚並べた)7680×1440ドットを採用したが,実際にNVIDIA Surround(2D)による3画面平面視を行うときには,ベゼルのところにも「描かれていないピクセル」が存在するとして描画処理を行うことで,マルチディスプレイをより自然な印象で見ることのできる機能,俗にいうベゼルコレクションを行うのが一般的だろうということで,実際にNVIDIAコントロールパネルから調整した。最終的には8034×1440ドット表示に設定を追い込んであるので,この点は,あらかじめお断りしておきたい。
なお,当然のことながら,下に示したスクリーンショットをクリックして拡大表示させた場合,その解像度は8034×1440ドット(※アスペクト比計算の誤差か,厳密には8032×1440ドット)となる。拡大画像のファイルサイズは1枚あたり1MBを超えているので,その点はご注意のほどを。
で,実際にどれくらいの動きが得られているのか。今回はBF3およびSkyrimという「ハイエンド環境の合格点にはちょっと足りない平均フレームレート」の例と,F1 2012という「スコア上,不安のないフレームレート」の例を下にそれぞれ用意してみたが,BF3とSkyrimでも,だいたいプレイできているのが分かると思う。
一般的なゲーム環境と異なり,「グラフィックス設定を少し落とせばもっと高いフレームレートが得られる」というわけではなく,自己責任でCPUのオーバークロックなりなんなりを試みない限り,横8000ドット級の解像度でこれ以上快適にプレイできる保証がないのは残念だが,それでも,そこそこプレイアブルな状態で動作しているというのはインパクトが大きい。ベンチマークモードと実プレイ時でフレームレートの違いが大きくないF1 2012ではベンチマークモードのデモ走行を撮影しているが,ご覧のとおり,なんの問題もないレベルである。
GTX TITAN 3-way SLIシステムの消費電力は大台超え
Temperature TargetによりGPU Boostの効果は小さい
性能と合わせて気になるのは,その消費電力だ。TDP(Thermal Design Power,熱設計消費電力。最新の“NVIDIA語”では最大消費電力とほぼ同義)が250WのGTX TITANカードを3枚搭載する(うえ,GALLERIA Titan ZX 3wayではTDP 150Wのi7-3970Xが組み合わされている)ので,消費電力がかなり強烈なものになるであろうことは容易に想像できるが,具体的にはどの程度だろうか。レビュー記事から引き続き,ログの取得が可能なワットチェッカー「Watts up? PRO」を用いてシステム全体の消費電力を比較してみたい。
ここでは,OSの起動後30分放置した時点を「アイドル時」,各アプリケーションベンチマークを実行したとき,最も高い消費電力値を記録した時点を,タイトルごとの実行時としている。
その結果をまとめたものがグラフ7となるが,GTX TITANの3-way SLIでは,とうとうシステム全体で1000Wの大台を突破する場面が見られるようになった。当たり前の話ではあるが,3枚差しでスコアがきっちり伸びるアプリケーションほど,高い消費電力値を記録している。GTX 690のQuad SLI時でもシステム全体の消費電力は最大800Wに留まっていることを考えると,そのインパクトは非常に大きいと言わざるを得ない。
GALLERIA Titan ZX 3wayでは定格1350Wの電源ユニットを搭載しているので,問題のないレベルではあるが,仮に自作で3-way SLIシステムを組みたいという場合は,電源ユニット選びをかなり慎重に行う必要がありそうだ。
次に,3DMark 11の30分間連続実行時を「高負荷時」として,アイドル時ともども,TechPowerUp製のGPU情報表示ツール「GPU-Z」(Version 0.6.2)からGPU温度を追った結果をグラフ8に示す。いずれもアイドル時は30℃前後,高負荷時は80℃前後と大差なかった。
要するにこの結果は「温度を基準としたGPU動作クロック制御が効いている」ことを意味するわけだが,実際にGPU-Zで3-way SLI構成時のGPUコアクロック推移を,3DMark 11ループ実行中から連続した240秒間を抜き出してみると,ベースクロックである837MHzで動作し,GPU Boost 2.0による自動クロックアップが効いていない場面がしばしば見られた(グラフ9)。
この理由はTemperature Targetに求めることができる。というのも,GTX TITANを3-way SLI構成で運用した場合,1枚差しのときと比べてGPU温度が上昇しやすくなり,すぐ,初期設定の78℃にまで達してしまうのだ。GTX TITANの3-way SLIでは,安全なGPU温度と消費電力を確保しようと標準のTemparature Target設定のまま使う場合,シングルカード時と比べてGPU Boost 2.0の恩恵はかなり小さくなるというわけである。
序盤で後述するとしたGALLERIA Titan ZX 3wayの「うるさいケースファン」の話をすると,おそらくあれだけの数のケースファンを搭載してきているのは,厳しい条件のなかで,できる限りGPU温度を低く保って,GPU Boost 2.0を活用しようとしたためなのだろう。うるさく感じられるほどファンを搭載することで,多少なりともGPU Boost 2.0を利用できるようになっている,と逆説的に述べることはできるかもしれない。
もちろん,だからといってTemparature Targetの値をいたずらに上げても,CPUボトルネックでフレームレートは上がらず,消費電力とGPU温度だけ上がる可能性がある。ベンチマーカーでもない限り,Temperature Targetは標準設定のまま利用するほうが賢明ではなかろうか。
ニッチ中のニッチであることに疑いの余地はないが
誰も見たことのない地平には至れる
一方,GTX TITANの3-way SLIを本気で使っていこうと考えた場合,CPU性能はi7-3970Xですら不足している。しかし,CPU性能を上げるべくオーバークロックを前提としてしまうと,今度は電源ユニット容量の限界が見えてきてしまうわけで,このあたりは大変に悩ましい。
というわけで,もうなんというか,これぞニッチの中のニッチ向け製品だ。ほとんどの人には勧められないが,これが刺さる人は誰が何を言っても買うのだろう。GTX TITANの3-way SLI構成というのは,そういう存在である。
ドスパラのGALLERIA Titan ZX 3way販売ページ
NVIDIAのGeForce GTX TITAN製品情報ページ
キーワード
Copyright(C)2013 NVIDIA Corporation