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「ハースストーン」のトッププレイヤーが自らの戦術を赤裸々に解説。「イリダン党選手権」で準優勝を収めたTredsred選手による大会レポート
このイベントで目玉として行われたのが,224名の出場選手が日本一を目指して戦う,「イリダン党選手権」決勝大会である。プレイヤーならご存じだと思うので結果から述べると,決勝戦はTredsred選手対tibolt選手のマッチで,3-1のスコアでtibolt選手が見事優勝となった。
今回は少し趣向を変えて,この大会をTredsred選手自身に振り返ってもらった。最新拡張パック「灰に舞う降魔の狩人」のリリースから3日後という慌ただしい環境で,トッププレイヤーがどのように思考し戦術を立てて大型大会を戦い抜いたのか。普段のラダー戦とはアプローチも大きく違っているので,ハースストーンのプレイヤーは一読してほしい。
「デーモンハンター生誕祭」配信アーカイブ
「イリダン党選手権」決勝戦の模様(2:33:20〜)
4Gamer読者の皆さん,こんにちは。Tredsredです。
今回は4Gamer編集部から依頼を受けて,「イリダン党選手権」に挑んだ際の準備や試合内容を中心に振り返ってみたいと思います。
「イリダン党選手権」予選大会に向けての準備
今回のレギュレーションは4Hero,1BANのコンクエスト形式であるため,4種類のデッキを準備する必要があった。新拡張パック「灰に舞う降魔の狩人」のリリースから3日後に予選大会が行われるという強行スケジュールだったため,準備期間が短く,いつも以上に時間との戦いだった。
この準備期間に関してだが,拡張パックがリリースされてから最初の2日間は,全ヒーローを軽く触りながら強そうなヒーローを探しつつ,新しいカードに慣れるようにした。
その時点でデーモンハンター,ドルイド,ウォーロックはかなり強いと感じており,予選大会のデッキとして採用することを決定。おそらくこの判断は他の多くの選手も同様で,残りの1ヒーローを何にするかが,他選手との差が付くポイントになると思えた。
予選大会前日の4月10日には,別の公式大会であるマスターズツアーに向けてのオンライン予選が行われており,この結果を参考に最後の1デッキを決めることにした。そして色々なデッキを見たところ,注目すべきは秘策ローグだと思えた。
多くのプレイヤーは有名なプロ選手のデッキを参考にしがちだが,個人的にはそれはすべきではないと考えている。なぜならばプレイングが上手な選手は,仮にデッキパワーが低くても勝つことがあるからだ。
“強いデッキ”を探すコツは,「弱いカードが入っているのに勝てている」や「プレイが下手なのに勝てている」などの違和感に着目することだと思う。
そうして予選大会向けに完成させたのが,テンポデーモンハンター,スペルドルイド,秘策ローグ,ガラクロンドウォーロックという構成である。大会から1か月弱が経ったいま見ても,それなりに強いと思うので,当時は期間の短さの割にかなり良い準備ができたと思う。
「イリダン党選手権」予選大会を迎えた感想
予選大会における各デッキの試合展開を事前に予想したときは,ガラクロンドウォーロック,テンポデーモンハンター,スペルドルイドの3強は楽に抜けられて,最後の秘策ローグをどうやって通すかが勝負になると考えていた。そのため予選大会の序盤戦では,ローグが最も苦手とするドルイドをBANしていた。
予選大会の出場中は「自分のデッキが強いなぁ」と終始感じており,デッキパワーに牽引された試合展開が多かったと思う。
実は予選大会の前日は夜遅くまで準備をしており,体調が万全ではなかった。初戦の配信台で手札枚数を数え間違えるなどの初歩的なミスもあったが,ドルイド以外のデッキが楽に勝てていたこともあり,なんとか5-0で抜けることが出来た。
翌日の2日目はしっかり睡眠を取ることができたため,負ける気がせずリラックスして対戦に挑めた。初日の結果と合わせてスイスラウンドのトーナメントを8-0を終え,その後のプレイオフでも勝利でき,全勝で決勝大会に進出という満足のいく結果を収められた。
決勝大会に向けての準備
予選大会から決勝大会までは2週間の期間があったため,どういった準備を行うべきかを考えた。
当時の反省から,大会においてはジャンケンの“手の出し方”よりも,“チョキでグーに勝つ方法”を考えるほうが有益だと感じており,xenon選手個人への対策は考えないようにした。
次に,予選大会が終了してから決勝大会までの間にカードバランス調整が行われるなど,環境が変化していること。なかでも「生贄の契約」の弱体化によって,ガラクロンドウォーロックが対デーモンハンターの役割を担えなくなったのは大きい。また,新たに台頭したテンポウォリアーは現在最強のデッキである。
これらの環境の変化を受けて決勝大会では,予選大会で強かったデーモンハンターとローグに,テンポウォリアーを追加。そして最後の1デッキを探すことにした。
テンポウォリアーは現環境で最強といえるので,決勝大会ではお互いにBANすることが予想される。また,“ローグとデーモンハンターが強い”も共通認識だと思われ,他選手も採用する可能性が高い。そのため最後のひとつは,ローグとデーモンハンターに対し有利に戦えるデッキを選ぶべきだと考えた。
候補として考えたのは,フェイスハンター,ズーウォーロック,スペルドルイドである。これらのデッキの相性は以下のとおりだ。
・フェイスハンター:ローグに有利,デーモンハンターに五分
・ズーウォーロック:ローグに有利,デーモンハンターに不利
・スペルドルイド:ローグに有利,デーモンハンターに不利
そして,これらの3デッキは“すくみ関係”になっていて,フェイスハンター → ズーウォーロック → スペルドルイド → フェイスハンターの順に強い。
過剰繁殖の件があるのでスペルドルイドは除外し,フェイスハンターとズーウォーロックの2つまでは絞り込めたが,ここから先が難しかった。スペルドルイドは予選大会でも多く使われていたデッキなので,「フェイスハンターを持ち込んでスペルドルイドに負けたら嫌だなぁ。ズーウォーロックにしようかなぁ」など,かなり悩んだ。
最終的には,上述したようにジャンケンの“手の出し方”を考えるのは不毛であるため,対デーモンハンターの相性だけを見据えてフェイスハンターを選んだ。
決勝大会用のデッキを決めた後は,これらの練度を高める必要がある。とくにコンクエスト形式の大会では,BANされた以外の総てのデッキで勝たねばならない。そのためには強いデッキで勝つ以上に,最も弱いデッキでも勝てるようにすることが非常に重要だ。
実際にフェイスハンターを出す状況を掘り下げると,対ローグ戦におけるデッキの相性はかなり有利なので,勝てる可能性が高いだろう。しかし対デーモンハンター戦における相性は五分に近く,プレイヤーの練度が勝敗を分けそうである。そのため決勝大会までの期間中は,フェイスハンター対デーモンハンター戦の練習に多くの時間を費やした。
決勝大会を迎えた感想
決勝大会当日,各選手のデッキリストが発表された。
・筆者(Tredsred):
テンポウォリアー,テンポデーモンハンター,秘策ローグ,フェイスハンター
・xenon選手:
テンポウォリアー,テンポデーモンハンター,ハイランダーローグ,ハイランダーハンター
・tibolt選手:
テンポウォリアー,テンポデーモンハンター,ハイランダーメイジ,スペルドルイド
・Willbell選手:
テンポウォリアー,テンポデーモンハンター,秘策ローグ,ハイランダーハンター
※各選手が持ち込んだデッキの詳細は,ハースストーン公式サイト内のイベントレポートを参照
これらのデッキリストを見た印象だが,各選手がテンポウォリアーとテンポデーモンハンターを持ち込んでいたのは予想通り。そのうえで,残りのデッキ同士による相性が勝敗を左右すると思えた。
xenon選手とWillbell選手はハイランダーハンターを持ち込んでいるが,これに対しては筆者のフェイスハンターが有利に戦える。この2選手とのマッチアップは,こちらが微有利に進められると思えた。tibolt選手に関しては,スペルドルイドが嫌だなぁと思ったが,もう一方のハイランダーメイジに対しては有利なので,相殺して五分くらいだろう。
個人的には,テンポウォリアーとテンポデーモンハンターの他に,「スペルドルイド,ガラクロンドプリースト」のような構成を持ち込む選手がいたら嫌だなぁとドキドキしていたので,その点では一安心だった。
準決勝のxenon選手との試合は配信が行われなかったので解説すると,お互いにテンポウォリアーをBANするという予想通りの展開。そして筆者の秘策ローグがテンポデーモンハンターを,同じくテンポデーモンハンターがハイランダーローグを倒し,2-0とリード。筆者が最後に残したデッキはフェイスハンターだ。
3戦目はフェイスハンター対ハイランダーローグで,筆者はこれを落とし少し動揺してしまった。しかし,続く4戦目のフェイスハンター対テンポデーモンハンターでは勝利。3-1のスコアで決勝戦に進出できた。
筆者は決勝大会に向けてフェイスハンター対テンポデーモンハンターのマッチアップを集中して練習していたので,その成果が感じられて嬉しかった。
決勝戦におけるtibolt選手との試合内容は,現在も配信アーカイブが公開されているので,概要に関しては「こちら」で確認してほしい。
初戦のテンポデーモンハンターミラーは運良く勝利できたが,2戦目の秘策ローグ対テンポデーモンハンターで負けてしまい,次第に雲行きが怪しくなった。
続く3戦目はフェイスハンター対スペルドルイドで,上述したとおり,このマッチアップは相性が悪い。ある意味順当に敗北してしまうも,この試合の時点では,まだ集中力が持続していた。
そして4戦目のフェイスハンター対ハイランダーメイジだが,2ターン目に筆者が「群れの戦術」を使用したところが良くなかった。いま振り返ると,仮にこのターンで「クズ拾いの工夫」を出していれば,恐らくこの試合は勝っていたため,勝敗に関わる大きなミスをしたことになる。
いったいなぜ,この局面で群れの戦術を使用したのかは,フェイスハンターの練度不足,「偉大なるゼフリス」を出されたイライラ,後がないというプレッシャー,4戦目で集中力が切れていたあたりが要因なのだろう。
決勝戦は筆者のミスで敗退という非常に悔しい結果であった。いったいどうやったらミスを無くせるか,しばらくのあいだ考えさせられた。
事前に練習したフェイスハンター対テンポデーモンハンターで勝って,練習していなかったフェイスハンター対ハイランダーメイジで負けたのは事実であり,当然でもある。目的を見据えたうえでの練習が大切ということは確かだ。
次の機会では悔いを残さず最後まで良いプレイを行えるように,これから一層努力を続けていきたい。
Tredsred選手による大会レポートは以上である。
個人的には,決勝戦を観戦しながら「ウォーグレイヴでミニオンを処理しないの? ……そう来たか!」「招来からアラキアかよ〜!」と素直に興奮していたのだが,当事者である選手は試合はもちろん,それよりも前からさまざまな戦術を考えていることが,あらためてよく分かるレポート内容だったといえよう。
このような大型大会では,普段のラダー戦とはまったく違う考え方が求められる。そしてアプローチこそ違えど,中級者以上のプレイヤーにとって,これはこれで非常に興味深いはずだ。日本のハースストーンが今後もっと盛り上がるために,さまざまな大会が開催されることに期待したい。
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(C)2017 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.
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