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西川善司の3DGE:新世代クラウドゲームプラットフォーム「シンラ・システム」の開発キットが公開に
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印刷2015/04/28 22:17

連載

西川善司の3DGE:新世代クラウドゲームプラットフォーム「シンラ・システム」の開発キットが公開に

シンラ・テクノロジー プレジデント,和田洋一氏
画像集 No.001のサムネイル画像 / 西川善司の3DGE:新世代クラウドゲームプラットフォーム「シンラ・システム」の開発キットが公開に
 2015年4月23日,クラウドゲーム技術開発スタジオのシンラ・テクノロジーは,スクウェア・エニックス本社において,同社が開発し実用化を目指す新世代クラウドゲームプラットフォーム「シンラ・システム」の開発キットを発表し,その技術的概要を解説するセミナー「第3回クラウドゲーム開発者会議 2015 東京」を開催した。

 セミナーの最初に登壇した同社プレジデントの和田洋一氏は,「プラットフォームの成功はソフトウェアあって初めて成り立つ。しかし,そのソフトウェアは,そのプラットフォームの浸透や成長がなければ盛り上がらない。これは『鶏と卵』の関係であるといえるが,我々はこの『鶏と卵』の関係を始めるための最初のフェーズに到達した。シンラ・システムは,まったく新しいソフトウェアプラットフォームであるがゆえに,ソフトウェア開発者と密な関係を築き上げつつ,また,一体となってこのプラットフォームを進化させていく必要がある」……と,開催にあたってのコメントを述べた。

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シンラ・システムとは?〜ゲーム機の性能の固定化から解放されたゲームプラットフォーム


 近年のコンピュータネットワークのインフラ整備と充実に伴い,ゲームプラットフォームの概念に「クラウドゲーム」が台頭した。
 クラウドゲームとは,一言でいえば,インターネットの向こう側に置いた高性能コンピュータ,すなわちクラウド側でゲームを動かすシステムのことだ。具体的には,クラウド側で動いているゲームの映像をインターネットを通じてビデオストリームとして配信し,プレイヤー側はその映像を見てコントローラなどを操作し,その入力情報を再びインターネットでクラウド側に戻してゲーム処理を進める……といった流れの処理系となる。

 SCEのPlayStation Now,ブロードメディアのGクラスタなどのクラウドゲームサービスは,既存のPlayStationなどのゲーム機,あるいはWindows PCの仮想マシンをクラウド上で動かすタイプのモノで,いわば,実機としても存在するプラットフォームをインターネット上に仮想マシンとして実装したシステムである。
 乱暴に言えば,そうしたクラウドゲームサービスは,プレイヤーがその実機とそのゲームソフトディスクなどを持っている場合には,わざわざクラウドを利用する必然性はない……ということができる。

 シンラ・システムは,クラウドゲームプラットフォームの一種ではあるが,既存のクラウドゲームサービス形態から概念を一歩推し進め,「既存のゲームプラットフォームの規格にとらわれない」クラウドゲームサービスを実現するものとして開発が進められている。

 「既存のゲームプラットフォームの規格にとらわれない」とはどういうことか。
 分かりやすく言えば,「シンラ・システムでは,そのゲームが必要なハードウェア性能をクラウド側で自在に構成することができる」ということなのである。
 例えば,非常に大規模でグラフィックスが凄いハイエンド仕様なゲームを開発しようと思い立ったとする。普通に考えれば,ハイエンドPCか,あるいはPS4やXbox One上で動くように開発することになるだろう。ただし,PS4,Xbox Oneは,今や絶対性能的にはハイエンドPCにまったく及ばないので,ゲーム開発者は妥協してゲームを開発する必要がある。
 かといって,超高性能な数十万円相当のハイエンドPC上でのみ動くゲームを開発してしまったら,ごくわずかなプレイヤーにしかプレイしてもらえず,採算的に失敗する可能性が濃厚だ。

 シンラ・システムでは,ハイエンドPCと同等,あるいはそれをさらに超えた性能のコンピュータ(シンラでは「スーパーコンピュータクラス」と説明している)上で動かせるゲームを作ることができ,それをクラウドゲームの形で提供する……ことを提案しているのだ。

 また,クラウドシステムなら,5年〜7年という据え置き型ゲーム機のライフタイムに縛られる心配がなく,同じ端末で常に最新のゲームを楽しむことができる。プレイヤーは「ゲーム機を買い替える」必要がなくなるのだ。それこそ,新作ゲームが出てくるたびに,以前よりもさらに高性能なハードウェア(サーバー)で動作するものになっている……ような連続的なゲームプラットフォームの性能強化も可能になるのだ。


シンラ・システム向け開発キットCCDKとは?


中嶋謙互氏。中嶋氏はオンラインゲームゲーム技術研究分野では著名なエンジニアで(※元コミュニティーエンジンCEOとしても知られる),著作「オンラインゲームを支える技術」はCEDEC 2011の著述賞を受賞した実績がある
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 シンラ・システム向けのソフトウェア開発キット(SDK)の概要については,シンラ・テクノロジーのエンジニアを務める中嶋謙互氏が解説した。中嶋氏は,シンラ・テクノロジーにおいては,後に登壇する岩崎哲史氏らと共に,シンラ・システム開発の中核を担う,アーキテクト的な人物の一人である。
 今回発表されたSDKの名称は「Community Cloud Development Kit」(略称CCDK)になる。

 今回公開されたのはVer.0.1で実質的にはβ版に相当するようなものとなる。
 CCDK Ver.0.1は,ソフトウェア開発者向けの情報共有サービス上の「シンラ・CCDK」(https://github.com/ShinraTech/CCDK)に5月15日に公開が予定されており,自由にClone(複製),Fork(独自仕様拡張などを目的とした複製)が可能な形で提供される見込みだ。

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 公開されるVer.0.1では,シンラ・システムで動作するゲームの制作と,そのテストプレイが可能だが,インターネットの向こう側にある実際のシンラ・システム(クラウド)を使うことはできない。つまり,動作検証を行うには,任意のネットワーク上(例えばLAN)で仮想的なシンラ・システム(サーバーマシン)をセットアップし,さらにクライアント側(プレイヤー側)のマシンもセットアップする必要がある(クライアントマシンをサーバーマシンで兼任させて1台のマシンだけでテストすることも可能ではある)。

 とはいえ,実際のシンラ・システム上で動作可能なゲームパッケージをビルドすることが可能であり,仮想的なシンラ・システムでこれを動かして,クライアント側にリアルタイムH.264エンコーディングされた映像のストリーミングを配信させる実験は行える。なので,開発したゲームがクラウドゲームとしてなり立つのかと行った,基本的な検証は行えることになる。

 中嶋氏はCCDKの特徴として「安く・早く・安心して」の三つのキーワートを掲げていた。

CCDKの特徴を表す安く・早く・安心して」の三つのキーワート
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 「安く」はCCDKはもちろんのこと,開発に必要なツール類はすべて無償で入手できる……ということを表している。
 現状のCCDKは「Windows上で動作するゲームを開発すれば,それを容易にクラウドゲーム対応にするための機能ライブラリ」の形態になっている。Windowsでは開発統合環境「Visual Studio」の無料エディション「VisualStudio Express」や「VisualStudio Community」も存在するため,いま利用しているWindowsPC環境でそのままシンラ・プラットフォーム向けのゲーム開発を開始できる(※ただしVisualStudio Communityには個人ないし年商1億円未満の企業のみ利用可などの制約あり)。「安く」は追加の設備投資なしにすぐに開発を行える……ということを言っている。

 「早く」は,時間を掛けずにシンラ・システム向けのゲーム開発が行えるということを表している。
 シンラ・システム向けのゲーム開発は,基本的にWindows PC向けのPCゲーム開発知識があれば,CCDKの最低限の仕様を理解するだけで行える。また,Windows環境下で動作する既存のミドルウェア群,ゲームエンジン群も使えるので,スピーディに開発が進められるのだ。

 「安心して」は,動作検証やβテストを実践するにあたっても,確実なバージョン管理とデータの流出などを防止できる……ということを表している。
 これはシンラ・システム……というよりは,クラウドゲームの特徴ともいえるのだが,ゲームプログラムの実行部分や各種データはすべてサーバー側にあり,一方,一般プレイヤー側にはシンプルなゲームクライアント(映像表示や入力を実践する処理系)しか配布されず,プレイヤーが受信するのは映像ストリームだけだ。つまり,バージョンアップはサーバー側のゲームプログラムだけを更新するだけで済み,プレイヤーはゲーム実行コア部分には事実上アクセスができないので,不正プレイヤーによるゲームプログラムの解析を原理的に回避できる。そして,テストが終わったあとは,クラウド上にあるβ版を消せば,この世から完全に抹消もできることになる。プレイヤーの手元にはゲームクライアントが残るだけだ。


CCDKは「1:1」型および「N:N」型のゲーム開発に対応〜「1:N」型も夏までにはサポート予定


 CCDKで開発できるゲーム形態は「1:1」型,「N:N」型の二つで,「1:N」型はVer.0.1ではサポートされず,将来対応予定となっているという。
 いきなり「1:1」「N:N」「1:N」という用語が出てきたので意味を理解できなかった人も多いはずだ。それもそのはず。これらはシンラ・システム独自な用語なのだ。当然ながら解説が必要だろう。

シンラ・システムがサポートするゲームタイプには「1:1」「1:N」「N:N」がある。ただし,最初CCDK Ver.0.1では「1:1」「N:N」のみがサポートされる
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 「1:1」型……というのは,既存のクラウドゲームサービスに近いものを連想すると分かりやすい。1台の仮想ゲームマシン上に一つのゲームを動かしてこれを1プレイヤーに提供するものになる。仮にサーバー内では何台もの仮想ゲームマシンが走っていても,プレイヤー側から見るとクライアント1台が1台のゲームマシンを占有しているような状態となる。
 「N:N」型はMMOタイプのゲームをクラウドゲームサービスで提供するものと考えると理解しやすい。
 MMO(Massively Multiplayer Online)タイプのゲームとは,MMORPGに代表される,巨大なゲーム世界を管理するサーバーに各プレイヤーがゲームクライアントで接続してプレイする方式のゲームシステムのことだ。MMOタイプのゲームはオンラインゲームの典型だが,シンラ・システムでMMOを実装する際,その実装形態は独特なものになる。
 現在のMMOタイプゲームの実装形態は,ゲーム世界管理サーバーだけがネットワークの向こう側……すなわちクラウド側に存在し,ゲームクライアントシステムはプレイヤー手元のPCで動かすのが一般的だ。なので,プレイヤー手持ちのPC上で動いているゲームクライアントがそのサーバーにアクセスし,データを取得し,プレイヤーが見ることになるゲームのグラフィックスを手元のPC側で描画する。
 シンラ・システムにおける「N:N」型では,ゲーム世界を管理するサーバーはもろちんクラウド上で動作し,さらに,ゲームクライアントもクラウド側で動作させる実装になる。
 この実装形態のメリットは,既存のMMOゲームの設計様式を踏襲しながらも,これまでは不確定要素の多いインターネット経由でしか実装できなかった,複数のプレイヤー分のゲームクライアントシステムとの同期,ゲーム世界への更新を,クラウド側の超高速ネットワーク内で完結できる点にある。
 例え話になるが,これまでのMMOタイプのゲームでは,プレイヤー1が魔法弾を放ったとしたら,その魔法弾の発生位置は,不確定要素の多いインターネットを通じてゲーム世界サーバー側に伝達され,その後,その情報がインターネットを通じて他プレイヤーにも配信されて初めて,プレイヤー1の魔法弾が可視化される。
 シンラ・システムでは,そうした複雑な双方向通信によるゲーム世界とゲームクライアントの更新・同期をクラウドシステム内の超高速なインターナルネットワーク内で実装できるので,ネットワークのプログラミングモデルは随分とシンプルなものにできるのである。

 さて,三つめ,CCDK Ver.0.1では未サポートの「1:N」型は,一つの仮想ゲームマシンで一つのゲームを動かし,これを複数プレイヤーから個別視点(個別画面)でプレイできるようなタイプのゲームを指す。ゲーム世界処理は単一のゲームプログラムで実装され,その世界に接続している複数プレイヤー分の視界を提供し,それぞれのプレイヤーからのゲーム操作を受け付けるような形態だ。
 1:Nは,N:Nのゲームクライアント部分を統合したイメージだが,実際にできることはほぼ同等といえる。N:Nがオンラインゲームをクラウド化するのに適した手法なのに対して,1:Nは,1:1的なPCゲームを,簡単な改造・カスタマイズだけで,手軽にプチMMO的な遊び方のできるものに拡張できるというメリットがある。

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CCDKの構造


 中嶋氏によれば,「CCDKの実体はシンラ・システムの最小エミュレータである『MCS』(Minimal Cloud Set)とサンプルコードやドキュメントで構成される」という。

CCDKに含まれるソースコード,バイナリ(実行可能プログラム),ドキュメント群。VCEというのは,中嶋氏がコミュニティーエンジン時代に開発していたオンラインゲームエンジン
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 ところで,このMCSとはどんなものなのだろうか。
 結論から言うと,MCSとは,事実上のCCDKのコアモジュールに相当するものになる。
 今,Windows上で動作するゲームがあったとして,そのゲームを,CCDKに含まれるMCSを介して動作するようにカスタマイズ(改造)すると,シンラ・システムで動作できるようになる……というようなイメージだ。
 MCSは,エミュレータということだが,なにをエミュレートしているのか。それは主に二つあると中嶋氏は解説する。

MCSとはCCDKのコアであり,シンラ・システムでの動作をエミュレーションするモジュールである
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 本来,シンラ・システムでは,ゲーム進行やシミュレーション処理を司るゲームロジック部分と,グラフィックス描画部分はそれぞれ別のマシンで実行が分担される構成になっている。ゲームロジックから発注されたグラフィックス描画は,レンダリングサーバーが受注して描画を行う仕組みなのだ。

シンラ・システムのリモートレンダリングの動作概念図
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 しかし,MCSでは,この描画をリモートレンダリングに発注すると見せかけて実は,ゲームロジックが動作しているマシン自身に搭載されているGPU側でレンダリングしてしまっている。つまり,ゲームロジック側はリモートレンダリングするためのAPIは呼ぶが,その実行は実際にリモートレンダリングはされず,そのマシン単体で完結してしまう実装になっているのだ。エミュレーションとはそういう意味なのである。
 そして本来のシンラ・システムでは,描画された映像のビデオストリーム生成(ビデオエンコード処理)をもGPU側で行う実装になるのだが,MCSではこれをCPUで実装したH.264エンコードエンジンで実践しているとのことである。これも,ある種,シンラ・システムのエミュレーションということになっているのである。中嶋氏は「機能自体はエミュレーションされるが,パフォーマンス面では実際のシンラ・システムとは異なってくる……という点に留意いただきたい」と述べていた。

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本来のシンラ・システムのブロックダイアグラム
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MCSのブロックダイアグラム。MCSとはプレイヤー側(ゲームクライアント側)から見れば「インターネットの向こう側にあるクラウドシステムを1台のPCでエミュレーションしてしまうもの」と喩えることができる

 MCSは,フェイクっぽいエミュレーションばかりではなく,本来のシンラ・システムが行うような機能も実装されている。それは,ゲームクライアント側とのTCP/IP通信部分だ。
 実際に,TCP/IPネットワーク上に,ゲーム映像のビデオストリーム配信路と,ゲームクライアント側からのコントローラ入力用の通信路が確立されており,ゲームを実行しているWindows PCとは別の,ネットワーク上の別のPCにゲームクライアントを走らせての,LANベースのクラウドゲーム環境の模擬テストは行えるのだ。


「1:N」型ゲームの可能性を示した「The Living World」デモ


手前の後ろ姿の人物が岩崎哲史氏(シニア・バイス・プレジデント),奥側がファビアン・ニノルズ氏(パートナーシップ技術チーム主任)。岩崎氏は筆者位置からは常に後ろ姿になってしまっていたのでこういう写真になってしまった。申し訳ない
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 セミナー後半では,ファビアン・ニノルズ氏(パートナーシップ技術チーム主任)と岩崎哲史氏(シニア・バイス・プレジデント)が登壇して,夏頃までにCCDKに組み込まれる予定とされる「1:N」型ゲームの可能性を見た目に分かりやすい形で示した技術デモを公開し,その仕様概要について解説した。


 以下が,その技術デモの動画になる。


 このデモで描かれているゲーム世界は,実に32km×32km相当の広さで,アメリカのダラス市よりも広いとのこと。32kmというと,音速(マッハ1)で飛んでも1分半は飛び続けられる広さである。
 この広大な空間には100万本の樹木が植えられており,1万6000体の子龍キャラが,それぞれのAIインスタンスを与えられ自律行動にて飛び回っている。ゲームコントローラを使うことで16000体中の1体1体に視点を切り替えて,プレイヤー本位なゲーム世界飛行を楽しむことにも対応している。

地形の変形,湖面に巨大な波を巻き起こしたりといったシミュレーションはゲーム実行側マシンのGeForce GTX TITAN BLACK上でGPGPU処理される。なお,樹木はSpeedTreeでモデリング,配置されており,物理エンジンはオープンソースのフリー物理エンジンのBullet Physicsを採用したとのこと
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このデモではダラス市よりも大きい規模のゲーム世界を構築して動かしている
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ゲーム世界に植えられた樹木の数は100万本
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1万6000体の子龍はそれぞれが個別AIで動いている
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 このデモが動作しているマシンのスペックも明らかにされた。10Gbpsの伝送速度を持つネットワーク(ファイバーチャネル)で直結された2台のWindowsベースのPC(ワークステーション)上で動作しているという。
 1台目のPCはシンラ・システムでいうところのリモートレンダリングサーバーマシンに相当するもので,CPUにIntelの16コア/32スレッドのXeon(E5-2698 v3だと思われる)を2基搭載した32コア/64スレッド構成,GPUに4枚のGeForce GTX 980を搭載している。1機あたりのGPUは,このデモの16人視点分の画面を描画し(全4GPUで64人視点分にまで対応),これをH.264エンコーディングしてビデオストリームとして出力している。
 2台目のPCは,ゲームプログラム本体を動かしているマシンだ。CPU仕様はレンダリングマシンと同一,GPUには1枚のGeForce GTX TITAN BLACKを搭載する。こちらのGPUは,GPGPUによる物理シミュレーション専用で活用しており,グラフィックス描画には貢献していない。なお,ゲーム映像の描画は,CCDK Ver.0.1とは違い,実際に,前出のレンダリングサーバーに対してリモートレンダリングの形で描画を発注している。

セミナー会場では実際に4機のゲームクライアントで,子龍16000体中の4体を選んで操作することができた。4画面(左奥のプロジェクタ画面も含む)は,広大な単一ゲーム世界における4体の子龍からの視界である
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ゲームプログラム実行側のマシン
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リモートレンダリング用マシン

 ところで,「ゲームロジック実行側のPCの仕様がややオーバースペックなのでは?」と思った人もいるかもしれない。いや,意外にそうでもないのだ。というのも,一人用のゲームであれば確かに,一人分の視界で見えている範囲内のゲーム世界の更新やシミュレーションだけをやり,見えていないところをサボってしまってもいいが,このデモでは思い思いに飛んでいる子龍16000体のいずれの個別視点にも切り替えることができるため,そうした手抜きは許されないのだ。
 前出の動画中でもあるように,あるプレイヤーが操っている子龍が火山を隆起させたり,巨大な津波を起こした場合,その事象が子龍の視界外で起きたとしても,その火山の隆起や津波の影響はゲーム世界にちゃんとリアルタイムで反映されなければならない。当たり前だ。広大な世界を持つということは,同時多発的に起こる事象の処理やその事象の結果をその広大なゲーム世界に反映させるということであり,自ずと,かなりの演算パワーが必要なのである。
 前述した通り,この「1:N」型ゲームは,原理的にはマリオカートのようなシステムなわけだが,MMOに近い規模のことを単一のウルトラハイスペックシステム(2マシンで構成されているが)で実現できているのがホットトピックなのである。確かにこうしたことを,既存のゲームプラットフォームでやるのは難しい。

火山を隆起させたところ。当然,これはゲーム世界にリアルタイムに反映されるので,すべての子龍の視界から確認できる
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大規模な水面波動シミュレーション。複数の子龍が単一のゲーム世界の湖面に対してインタラクトすると,それらがすべてリアルタイムにシミュレーションされて,ゲーム世界に反映される。当然,水面に触れていない子龍からも水面の様子は正確な波動シミュレーションが適用された情景として見える
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デモでは,1万6000体中,最大64体分の視界を画面分割で楽しめるモードも搭載されていた
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CCDK,今後のロードマップ


 今回のセミナーでは,今後のCCDKのロードマップについても明らかにされた。
 まず,CCDK Ver.0.1は,前述したようにGithub上で5月15日からリリースされる。
 そして,Ver.0.1ではサポートされなかった「1:N」型ゲームへの対応版は6月頃の発表を予定しているとのこと。
 その後,Ver.0.1ではエミュレーションベースでの実装となっているシンラ・システム利用テストを,実際にインターネット上のシンラ・システムで行える仕組みを7月から提供する計画だという。

 なお,CCDKの開発動向情報の提供や基本サポートはFacebookの「CCDKグループ」(http://tinyurl.com/ShinraCCDK)で行われる見込み。こちらは4月下旬時点ですでに閲覧可能となっていたので,興味のある人は参加しておくといいだろう。

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CCDKのロードマップ

 また,ゲームタイトルの商用化に向けての開発を,ゲームスタジオ側でちゃんと進めていけるように,「開発タイトルの商品化までの手順」も今回明らかにされている。
 前述してきたような,MCSによるエミュレーションクラウドベースの開発が一段落したあとには,実際に,インターネット側にあるシンラ・システムのテストサーバーを使っての動作検証が行えるようにする。これが,開始されるのは前述したとおり,7月からということになる。
 このテストに際しては,悪意のあるプログラムなどがシンラ・システム上で動作させられることを防止するための「一次審査」が適用される。なお,CCDKを使った独自環境での開発とテスト,そしてこの一次審査とテストサーバーを使った動作検証までは無料で行えることが明言された。
 そしてテストサーバーでの動作検証が終わったあとは,一般プレイヤー向けの提供に向けた最終審査(二次審査)が行われる。これは,「ゲーム内容の本格的なチェック」のほかに,「シンラ・システムに過剰な負荷を掛けないか」などの負荷検証も行われる。

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シンラ・システムを使ったクラウドゲームサービス,商品化までの流れ。商品化までには2回の審査がある。1回めは実際のシンラ・システムを使った動作テストの前,2回めは商品化前の最終チェックだ

 なお,実際にシンラ・システム向けのゲームを開発したとして,ゲーム開発元はシンラ・システムにどれくらいシステム利用料を払えばいいのか……,それらのタイトルをどういった料金体系でプレイヤーに提供していくのか……,シンラ・テクノロジー側の利益配当割合はいくらか……など,具体的なビジネス面については今回のセミナーでは明言が避けられた。今後,しかるべき時期に発表するとのことである。
 今年,6月に開催されるE3では,また,大きな発表があると予告されている。新世代クラウドゲームプラットフォームであり,次世代ハイエンドゲームの本命形態となるかもしれないシンラ・システムに今後も期待しよう。

「シンラ・システム」公式サイト

  • 関連タイトル:

    シンラ・システム

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