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4Gamerのキーボードレビューをプロゲーマーのdelave氏が新たに担当。まずは既存のキースイッチを一斉テストのうえ,レビュー方針を大いに語る
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印刷2018/05/19 00:00

テストレポート

4Gamerのキーボードレビューをプロゲーマーのdelave氏が新たに担当。まずは既存のキースイッチを一斉テストのうえ,レビュー方針を大いに語る

筆者近影
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 皆さま初めまして。あるいは,日本のFPSシーンのどこかで耳にした機会がありましたら望外の喜びです。delave(ディレイブ)と申します。

 昨今では,PCにおけるFPSおよびTPSジャンルの流行を受けて,「よりストイックにこれらのゲームをプレイするためのゲームデバイス」の需要が高まっているように感じます。しかし,そうしたデバイスの良し悪しをどのように判断し,自身が何を使っていくのか決定するのは,簡単なことではありません。
 どのブランドもどの製品も,それぞれに特徴があり相性があり,ときには明確な性能差があるからです。

 今回私は4Gamerでキーボードのレビューを行っていくことになりました。そこで,まずは自己紹介の代わりに,私が8年ほど最前線で培ってきたいちゲーマーの経験からなるそれらの評価,ひいては選び方をお伝えしたいと考えています。ゲーマー向けデバイス群を構成する1ジャンルについての理解を深めていただければ幸いです。

delave氏の履歴
 2010年,プロゲームチーム「Vault」に所属し,FPS「クロスファイア」で活動。2016年からはプロゲームチーム「DeToNator」に所属し,FPSタイトル「Overwatch」に活動の場を移す。これまでFPSタイトルで9度の国内公式大会優勝,10度の国際大会出場経験がある。

■主な戦績
  • 2010年:E-StarsSeoul 2010 日本代表(準優勝),CFTL'2010 Final 優勝,World e-Sports MASTERS 日本代表(ベスト6)
  • 2011年:CrosFire日韓戦 日本代表
  • 2012年:CROSS FIRE CHAMPIONSHIP 2012 Season5 優勝&MVP
  • 2013年:CrossFire Stars Season1 日本代表,CrossFire Pro-League Asian Cup 日本代表
  • 2014年:World Cyber Arena 2014 日本代表
  • 2016年:JCG Master 2016 Summer Finals 優勝,オーバーウォッチ ワールドカップ 日本代表,Overwatch APAC Premier 日本代表,YouTube Gaming APAC Invitational 日本代表
  • 2017年:Overwatch Pacific Championship 2017 日本代表


「キーボードにこだわらない」ことのもったいなさ


 ゲーマー向けデバイスといえば,思いつくのはマウス,マウスパッド,ヘッドセット,そしてキーボードだ。これらはゲームをプレイするにあたってなくてはならないものであり,その性能もゲーム用に特化したものが多い。
 ただ,そのなかでもキーボードはしばしば,最も重要度が低いものとされる。製品の差別化が乏しいという認識からだ。実際にコアなFPSゲーマーなどは,オフライン環境で行われる試合へ臨むにあたって,かさばるキーボードだけは携帯しないということがままある。

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 これは非常にもったいない判断だと思う。

 キーボードの性能と特徴は,それらを数字化することは確かに難しいものの,決して無視できない影響をもたらしてきた。それこそ「Fortnite」(PC / PlayStation 4 / Xbox One / Android / iOS)のような,撃ち合いと同時に足場を建築し,相手より先んじて有利なポジションを確保したプレイヤーが勝ちやすいゲームでは,キーボードの操作性を決して軽視できない。
 瞬間的な,細かい操作。それが相手よりわずかに正確だったり高速だったりするだけで,相手よりも高所を確保してから一方的に撃ち下ろし,その他の点では同等の技術を持つプレイヤーに対して一方的に勝利できることだってある。

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 あるいは「Overwatch」(PC / PlayStation 4 / Xbox One)のような,個人の操作するキャラクターの有するアビリティが戦況を左右するようなタイトルだと,1つのタイプミスでタイミングを喪失し,決定打を失い,後に試合の勝敗を決定付けた最大の要因と見なされることも少なくない。

 本稿でお伝えしようと考えているのは,そういった存在であるキーボードをこれからレビューしていくにあたって,どのように筆者が評価していこうと考えているかである。
 ゲーマーは,「ゲームの技術」という,体系化されていない不確かなものを上達させようという興味を,もう少しだけ自分の周りの物に向けてみるべきではないだろうか。


筆者はキーボードのどこを見ているのか


 筆者がキーボードをチェックするときに注視する重要な要素は以下の4点だ。

  1. キースイッチの特性
  2. 設計の特徴
  3. キーボードをカスタマイズする機能や拡張性
  4. 魅力的なデザイン

 一見,漠然としていると思うかもしれない。順に,それぞれどういう意味かなのか紹介していこう。


1.キースイッチの特性


 これはキーを打鍵したときの感触を決めるもので,「キーの入力速度」と「タイプミスを防止する安定性」に直結する,最も重要な要素と言える。

 瞬間的な判断力が必要とされる近年流行のゲームではとくにそうだが,ほとんど直感的にキャラクターを操作に行うにあたり,最も不安定で,そのときどきのパフォーマンスに影響を及ぼすのは,実際にキーを押下する人間の指の動きだ。
 そのため,器用さや緊張しがちなメンタルなど,個人差の出やすい部分をどのように補正・矯正し,あるいはどのように長所を活かすのかという試みが,キースイッチの仕組みには入っている。

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 分かりやすい例としては,キー荷重(=キーを押下するときに必要な重さ)の軽重でキーの入力速度と安定性は影響を受ける点が挙げられよう。
 指を乗せただけでスイッチがオンになる(=打鍵が入る)ような軽いキースイッチは,キーの入力を速くする手助けとなる。一方,しっかり押下しなければ入力の入らないキースイッチは,意図しない指の接触による押下,いわゆる“誤爆”を防止し,また,押下するまでにタイプミスでないか判断する猶予を生んでくれる。

 器用さに自信があり,ほとんど緊張しないゲーマーからすると,前者の軽いキースイッチが魅力的に見えるだろう。一方,器用さに自信がなく,どのような状況でもミスをしたくないゲーマーにとっては後者の重いキースイッチのほうが望ましいはずだ。

 キースイッチの特性が最も重要だと言った理由は,このように,ゲーマーのキーボード選びを左右する,直接的で強い影響力をキースイッチの特性が有しているためである。

Cherry MX(※写真はCherry MX Red RGB)
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 ただし,キー荷重だけで善し悪しや向き不向きを語れるわけではない。
 メカニカルキースイッチは耐久性と安定性に優れるという通説もあり,ゲーマー向けキーボードの多くはメカニカルキースイッチを採用している。メカニカルキースイッチの代名詞的存在は「Cherry MX」だが,近年は独自のメカニカルキースイッチを開発,採用するブランドも多い。

 そのほかにも,静電容量無接点方式や光学式,あるいはゲーマー向けにはあまり適さないとされてきたメンブレンタイプのスイッチを採用しつつ,ゲーマー向けにカスタマイズしたものも多く出てきている。
 これら多彩な「スイッチ」の特徴を把握することは,ゲーマー向けキーボードを評価するに当たって避けられないと言える。

 ……どうやって? という話は後段で述べたい。


2.設計の特徴


シリンドリカルステップスカルプチャの例
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 キーボードの実務的な部分の設計も重要な要素だ。
 たとえば,キーの配置が階段状になっている(ステップスカルプチャ)か,階段状のうえに,手前から奥へ向かって緩やかに湾曲している(シリンドリカルステップスカルプチャ)か,平らになっている(フラット)かといった違いがある。細かいところではキートップの表面に細工や特殊なコーティングがあるかといった違いもあるだろう。

 よりコアなゲーマーがオフライン環境で重要な試合を行ったりする機会に,普段と同様にパフォーマンスを発揮するための,環境を選ばない携帯性や,耐久性を担保する工夫も必要になってくる。
 それは単純なサイズであったり,ゲーム中にキーの位置が変わらない(=キーボードが不用意に動かない)ようにするための重量や滑り止めだったり,USBケーブルが断線しないよう保護してあったりといった工夫だ。

 また,キーボードは使用者によって,置き方に個性が見られる。この点も設計を評価するうえでは無視できない。

 コアなゲーマーの多くは,ディスプレイと並行するようにキーボードを置くことが多いが,「逆ハの字」を作るように角度をつけて置く人も多い。これは,狭い机の上でゲームをプレイするときにマウスを動かすスペースをできる限り広く取るためであったり,単純に片手でキーボードの一部分を操作する場合は角度を付けて操作しやすくするためだったりする。
 レアなケースでは,「ロシアンスタイル」と呼ばれる,膝の上に置いてプレイする人もいるが,このように,意外とキーボードの置き方には個性が出るのだ。

さまざまなキーボード利用スタイル。一般的なのは左上のタイプだが,右上の逆ハの字,左下のハの字,そして右下のロシアンスタイルもある。なぜロシアンスタイルかというと,世界的なQuakerであるロシア人プレイヤー・Cooller選手がこの使い方を好み,それを冗談交じりで「ロシアンスタイル」と呼んだことが起源だと言われている
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 今紹介したような置き方,喩(たと)えるならマウスで言う「握り方」の違いにどれだけ対応できるかも,キーボードを選ぶうえでは考慮すべきだろう。
 具体的には,キーボードの手前側はなるべく切り詰めてあるべきで,パームレスト(リストレスト)がある場合は,少なくとも着脱可能であったほうがいい。そう聞くと「パームレスト自体には打鍵の疲労軽減効果もあるはずだから,そうも言い切れないのでは?」と思うかもしれないが,少なくとも競技シーンでパームレストを使うケースはほぼない。
 海外の大規模な国際大会などでは配信で選手達の手元スペースを映すこともあるので,機会があればぜひチェックしてほしいが,パームレストを使っている選手は(皆無とは言わないけれども)ほぼゼロだ。筆者が実際に国内や国際大会に出た経験でも,選手が使っていた覚えはない。

Logitech G/Logicool Gの欧米市場向けキーボード「G513 RGB Mechanical Gaming Keyboard」には標準でパームレストが付属する
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 Logicool G(日本以外ではLogitech G)いわく,欧米市場ではゲーマー向けキーボードにおけるパームレストのニーズが大きいとのこと(関連記事)。ではなぜ世界的に競技シーンではパームレストが使われないのだろう?
 考えられる理由として最も大きなものは,少なくともゲームプレイにおいて期待できるほどの効果がないという点だ。というのも,たいていの場合「パームレストがないこと」が原因となって手首に疲労を覚えるより前に,集中力が切れるか,マウスを動かす利き腕のほうが疲れるのである。
 キータイプが重要なゲームであったとしても,必要とされるのは短時間での高速な打鍵など,瞬発力を要するものなので,先に疲れるのは手首ではなく指の筋肉のほうだ。

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 最近流行のフローティングデザインなど,キーの配置が高くなっているケースでパームレストを使うのは合理的な選択だが,仮にパームレストなしで,手首をやや持ち上げる格好でプレイしたとしても,ゲームプレイが困難になるほど疲労が激増するわけではなく,むしろ,初めから手首を持ち上げている格好になるため,指を下ろして打鍵する動作に必要な力が少なくなり,短期的には打鍵が速くなるとすら言える。

 以上のことから,長時間の打鍵時に疲労軽減の効果を発揮するパームレストの設計思想は,文字を打ち続ける用途には有効と思われるものの,コアなゲーム用途ではただ「手首を載せておくと心地がよい」程度のグッズにすぎないと筆者は考えている。
 いずれにせよ,分離できないパームレストなど,キーボードの形状で配置や撃ち方を矯正させるデザインの製品は,よほど優れたコンセプトに基づくものでない限り避けるべきだ。

左と中央は着脱式パームレストの例。取り外せるならパームレストは付属していても問題ない。問題があるとすると,取り外せないケースだ(右)。短ければいいかというとそうでもなく,手前に伸びているだけでけっこう邪魔である
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3.キーボードをカスタマイズする機能や拡張性


 [Fn]キーとの組み合わせによるショートカット機能,ソフトウェアべースのカスタマイズ機能も重要だ。
 近年のゲーマー向けキーボードだと高い水準で充実しているものが多いが,たとえばゲーム中のタイプミスによって日本語入力に対応していないゲームの動作に支障をきたしたり,デスクトップ画面に戻されたりするのを避けるための,[半角/全角]キーや[Windows]キーの無効化機能が代表例だろう。

[Fn]キーは右[Alt]キーの代わりに用意されることが多い
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多機能を謳うゲーマー向けキーボードだと,[Windows]キーなどの有効/無効を切り換えるための操作系を単独のボタンやキーとして持つケースも多い
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 ただ,それ以上の機能や拡張性について言えば,ゲームを競技として捉えているユーザーにとって必須のものはほとんどない。
 [半角/全角]キーと[Windows]キーの無効化機能は致命的なミスを防ぐために用意されるべきだが,少なくとも筆者の経験からすると,ゲームプレイを上達させる過程で他の機能を用いたことはない。

 これは,「単純に不要」という話だけでなく,昨今の競技シーン,つまりオフライン環境で開催される大会などのレギュレーションとも関係がある。
 競技シーンでは基本的に,大会運営が事前に許可したソフトウェア以外をPCへインストールすることが許されない。そのためキーボードの機能を拡張するような外部ソフトウェアを利用できないケースが多い。
 その目的はもちろんアンチチート(=チート対策)だが,要するに,持ち込んだゲーマー向けデバイスを現地でカスタマイズできる保証はないということだ。また,万が一OKが出たとしても,大会では時間が常に逼迫しているため,貴重なウォーミングアップの時間をカスタマイズで失うのは避けたかったりする。

 一部のキーボードでは設定内容を本体内蔵のフラッシュメモリへ保存できるが,現場で不具合が生じたときに対応できないのは不安がある。デバイスエラーを避けるというのは当然の意識なので,最初から「フラッシュメモリへ設定内容を保存して,現場で呼び出す」ことに頼るのは危険というのは,理解してもらえる考え方ではないかと思う。[Fn]キーとの組み合わせなど,キーボード本体側のキー操作で設定できるものを除いて,基本的に使うべきではない。

 では,[Fn]キーを用いたショートカット以外は何もかも無意味かと言えば,必ずしもそうではない。たとえば東プレのREALFORCEシリーズで一部が対応する「APC」(Actuation Point Changer,アクチュエーションポイントチェンジャー)機能が,意味のある機能の代表例だ。

APCでキーのアクチュエーションポイントを変更しているところ。スクリーンショットで示しているとおりキーごとに設定できるので,自由度は高い。シンプルで直感的に操作できるソフトウェアの使い勝手も上々
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 APCは,キーを押し込んだとき,キーが反応する高さである作用点(=アクチュエーションポイント)を変更できる機能で,キーを浅く押下して入力速度を速めたり,逆にキーを深く押下してミスの防止を意図したりと,自分の好みに合わせてアクチュエーションポイント調整を行えるようになっている。
 気が利いているのは,設定したアクチュエーションポイントに合わせてキーストロークの長さを調整できるキースペーサーも用意されていること。これは明らかに従来的な考えから一歩踏み出した拡張性で,素晴らしいアイデアだ。

左に見える,キーの周囲をくり貫いたような格好のシートがREALFORCEのキースペーサーだ。2mm厚と3mm厚の二種類が標準で付属する。構造上,キースペーサーを取り付けるにはほとんどのキーを取り外さねばならないので手間はかかるが,キーストロークを好みの長さに調整できる魅力は大きい
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 従来,ゲーマー向けキーボードの機能と拡張性は,「自分好みにキーボードを装飾する」といった,ゲーマーの感性を刺激する方向に注力していたように思う。
 しかしながら,よりストイックなゲーマーにとっては,自分の求める仕様にキーボードを調整できる機能や拡張性こそが最も必要とされるものだろう。基本的には必須かつ最小限の機能をこそ求めたいが,それ以外では,ゲームプレイに実際の影響があり,かつ大会で使える機能や拡張性の有無と実用性をとくに評価すべきだと考えている。


4.魅力的なデザイン


 決して無視できない要素に,キーボードの仕様や見栄えといった広義での「ハードウェア設計」が挙げられる。
 ストイックにプレイするコアゲーマーは性能だけを基準にキーボードを選ぶべきだが,カジュアルにゲームを遊ぶとき,多くの「コアゲーマー向け要素」はほとんど意味をなさなくなり,キーボードを評価する観点はドラスティックに切り替わる。その意味で本項目は独立していると言えるかもしれない。

 前項までに述べた内容と反するので注意してほしいが,ここで重要になるのは「ストレスのなさ」,そして「使用者のモチベーションを高める何か」だ。
 ストレスのなさとは,読んで字のごとく,なるべくストレスを感じないデザインのことである。

英語配列(左)と日本語配列(右)の違い。[Space]キーで顕著だが,それ以外にも細かく違いがある
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 ストレスは「特定のゲームタイトルをプレイするときにこそ役立つものの,その他の場面では不便に感じたりする」などといった,キーボードを使う状況によって感じる変化によって生まれる。たとえば,そのキーボードが日本語配列か英語配列かというのは,人によっては重要な違いになるだろう。
 一般的には,英語配列のほうがゲーム向きであると言われる。日本語配列と比べてキーの数が少ないため,使用頻度の高い[Space]キーの長さを広く取れるだけでなく,“誤爆”によってゲームプレイに致命的な問題をもたらしかねない[半角/全角]キーが物理的に存在しないというメリットもあるからだ。

 ただし,日本市場で圧倒的に支持されているのは日本語配列である。日本語キー配列に慣れたユーザーにとって,ゲームのためだけに英語キー配列へ乗り換えるのはあまりお勧めできない。ストイックにゲームだけのことを考えるなら英語配列ももちろんアリだが,それ以外のことを考えると,大多数の人にとって日本語配列のほうがストレスのない設計となるだろう。

 RPG系タイトルとのんびりと長時間プレイするということであれば,先ほど「競技シーンで使うことはまずない」と断言したパームレストの併用も,「手にかかるストレスを軽減させる」という目的から,もちろん選択肢に入ってくると思われる。文字の打鍵がメインで,ゲームは息抜きにプレイするといったタイプの人にとっても,やはりパームレストは重要なアイテムになるはずだ。

 文字の打鍵関連でもう少し細かい例を挙げてみると,文字の打鍵に特化したキーボードの中にはキーごとに荷重を変えた,いわゆる変荷重仕様を採用しているものがある。小指や薬指といった,力を入れにくい指を使って押下するキーの荷重を軽くすることで,文字入力のしやすさを向上させているのだ。
 もしあなたが文字入力のしやすさのほうにより重きを置いているのであれば,当然こういった変荷重のキースイッチを採用するキーボードを選んだほうが,時間比率的にストレスを低減できると思われる。

 前項までに述べた内容とは異なる観点になるというのは,こういう理由である。

 また,カジュアルにゲームを遊ぶというのは,「細かいことにこだわらない」ということも意味する。それこそ,キーの荷重なんていままで考えたこともなかったという人からすれば,そもそも荷重に関するストレスなど存在しないと言っていい。大事なのは,自分のゲームとの付き合い方を認識したうえで,キーボードのどういった細部にストレスを感じるかを押さえておくことである。

 もう1つの,モチベーションを高める何かというのは,キーボードのどういった細部に魅力を感じるかという意味にほぼ等しい。
 やり方が多少手間で不便だったとしても,LEDイルミネーションの設定に細かな変化を与えられるほうが,ゲームへのモチベーションは高まるという人はいるだろう。
 その人にとっては,必要最低限の機能に絞ったキーボードよりも,細かくライティングを設定できるキーボードのほうが愛着が湧き,結果としてゲームをプレイする時間が増えて,実力の向上につながるということも十分にあり得る。

RazerやMionixなど,一貫したコンセプトとデザインを貫いているブランドは,洗練された印象を与え,「それを手元においてゲームをプレイしたい」という気持ちを強くしてくれる
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 そうなると当然,キーボード側で十分なLEDイルミネーション機能があること,そしてそれをカスタマイズできる外部ツールがどれくらい充実していてかつ使いやすいかという部分も評価の対象ということになるわけだ。

設定用のアプリケーションが直感的に操作しやすいインタフェースを有していることも,カジュアルにゲームを遊ぶときに望ましい配慮だ。自分でキーボードをカスタマイズすると言っても,どこを設定すればいいのかぱっと見て分かりにくければ,途中でモチベーションを失ってしまうだろう
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Cherry MX Blue
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 キースイッチの分野にも,「Cherry MX Blue」およびその互換スイッチ(以下,青軸スイッチ)という,モチベーションを高める存在がある。
 青軸スイッチの持つ「いかにもメカニカル」な大きいクリック音は,ボイスチャットを利用するコアなゲーマーにとって,マイクに入るノイズとなったりするなど妨げになることもある。しかし,青軸スイッチの押下感は唯一無二――同じ「クリック感のあるスイッチ」である「Cherry MX Brown」や「Cherry MX Gray」およびその互換スイッチとも大きく異なる――のものであり,タイプする必要がないときでも無意味に押下したくなる,打ち心地の良いものだ。

 なので,他のキースイッチのほうがストイックかつ優位という評価が世界的に定まっていても,あえて青軸スイッチを選択する余地がここに出てくる。その人にとっては青軸スイッチを搭載することこそがキーボードを使う理由になり,ゲームプレイに熱が入るからだ。

 ゲームを上達するために,ストレスのない環境や,ゲームをプレイするためのモチベーションは大切な要素である。それらを重視し,ときには自分の感性に素直になってみるのも,キーボードを評価するうえで必要なことだと言えるだろう。


キースイッチの性能はいかにして評価すべきか


 ひととおりキーボードの評価軸をお伝えしたところで,先ほど後述するとした,「キースイッチの性能をどのように評価するか」という話に戻る。

 キーボードの,とくにキースイッチの評価というのは難しい。というのも,どのキーにどのような性能的な特徴があり,そして何に対してどのように優れているのかという点で,情報が曖昧だからだ。

Logitechとオムロン スイッチアンドデバイスが共同開発した「Romer-G」スイッチは,Cherry MX比で25%高速に入力できると謳われている
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 独自のメカニカルキースイッチを採用したブランドは,製品のアピールするとき,明示するしないはさておき,メカニカルキースイッチの代名詞的存在であるCherry MXを比較対象として自らの優位性を謳うことが多い。たとえば,Cherry MXのアクチュエーションポイントが2mmのところ,自社製品は1.5mmなので,「最大25%,高速に入力できるようになった」という具合だ。
 結果として他社のユニークなキースイッチとの比較はなされず,新しいキーボードが登場したとしても,ユーザーはその性能を横断的に比較しづらい状態にある。

 しかし私達が本当に知りたいのは,実際の競技に即した特徴の違いであって,「Cherry MXと比べてアクチュエーションポイントが25%短い」ことではなく,「短く,最大25%高速に入力できることが何をもたらすのか」のほうなのだ。

 では,それをどうやって知るのか。今回筆者と4Gamer,そして先のキーボードレビュー担当であるライター米田 聡氏は協力して,新世代のキーボードテストツール「4Gamer Keyboard Checker Ver.2」(β1)を開発し,これを使ってキースイッチの入力性能を比較検証することにした。
 以下,技術的な解説は米田氏にお願いしたので,参考にしてほしい。


4Gamer Keyboard Checker Ver.2の解説(text by 米田 聡)


 キーボードによってキー操作の速さや効率と行ったものがどの程度変わるのかを客観的に調べるのはとても難しい。
 理由はいくつもあるが,最大のものは「そもそも人間が操作するハードウェアの『使い心地』を数値化すること自体が困難」というのがある。キーボードの場合,たとえばその日の体調や気分によって操作の効率が変わってしまう……というのは経験的に読者も感じていることだろう。

 なので,単純にタイプの速度やミスの発生数を調べても,対象のキーボードが本当にいいから好成績を残しているのか,たまたま本人の体調が良いのか,その区別は簡単ではない。
 ということもあって4Gamerではこれまで,ストローク量やアクチュエーションポイント,同時押し/ロールオーバー数といったスペックを中心にキーボードのレビューをお届けしてきたわけだが,今回,delave氏というプロゲーマーにキーボードレビューを引き継いでもらうにあたって,「サンプルを多く取ることで『体調や気分といったプレイヤーの不定要因』を可能な限り排除し,キーボードの善し悪しを見極めるためのツール」を作ることにした。プロが多くのサンプルを取れば,一定レベルで安定したデータを取得できるだろうというのがその理由で,その結果となるのが今回紹介する4Gamer Keyboard Checker Ver.2である。

4Gamer Keyboard Checker Ver.2は,4Gamerが2012年に公開した「4Gamer Keyboard Checker」とはまったく関連性のないツールなので,その点はご注意を。第2世代のキーボードチェックツールということで,Ver.2を名乗っているだけである
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 といっても,機能的には非常にシンプルで,「画面上に表示されたキーを被験者が押し,表示からキーが押されるまでの時間とミスの数をCSVファイルに記録する」という,一種のキータイプ練習ツールのようなものだ。


 一般的なキータイプ練習ツールと決定的に異なるのは,delave氏が実際に複数のFPSをそれぞれ長時間プレイし,そのとき得られたヒートマップ(※ここでは「どのキーがどの程度押されたかを示したグラフのこと)を基に,出現するキーとその頻度を設定してある点だろう。
 具体的には,[W/A/S/D]キーとその周辺のキーしか出ないようになっており,また[W/A/S/D]キーの出現頻度が最も高く,それ以外のキーはヒートマップに応じて頻度を下げている。

ヒートマップの取得には「Logicoolゲームソフトウェア」の分析機能を用いた。「[W/A/S/D]キーを除くと,プレイで主に使うキーがそれぞれ異なる」条件で,今回は前出したOverwatchとFortniteのほか,「PLAYERUNKNOWN’S BATTLEGROUNDS」,「BATTALION 1944」をピックアップし,delave氏にプレイしてもらった。最終的には4タイトル分を総合したヒートマップをデータとして採用した次第だ
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 また,タイプミスの判定は画面上に表示されているキーの周辺が押された場合に限定した。たとえば画面上に「E」と表示されていた場合,[W/3/4/R/D/S]キーを押したときにだけミスと判定することになる。
 その理由は,「ゲーマー向けキーボードの評価で重要なのは,被験者のミスそのものではなく,キーボードが理由で発生したと推測できるミス」だからだ。たとえば画面に「E」と表示されているときに[Q]キーを押してしまうのは純粋に被験者が「ミスった」だけなので,キーボードの評価には不要な情報というわけである。

 さて,4Gamer Keyboard Checker Ver.2だが,制作には「SDL」(Simple DirectMedia Layer)を使っている。SDLは主に2Dゲーム向けとなるオープンソースのライブラリだ。
 単純なツールなので,作るだけなら別の言語やライブラリでも作れるが,SDLはゲーム用だけに表示などのオーバーヘッドが少なく,複数キーの同時押下も問題なく取得できるというメリットがある。また,SDLはゲーム用はマルチプラットフォーム対応なので,1つのコードでWindowsだけでなくmacOSやAndroid,Linuxなどに展開できる利点もある。
 現在のところβ1で,ユーザーインタフェースも未整備なので未公開とするが,近い将来,ソースを含めて公開する予定だ。


開発の意図


 米田氏による技術解説を踏まえつつ,筆者(=delave)としての4Gamer Keyboard Checker Ver.2開発意図と,テスト方法を紹介していきたい。

[W/A/S/D]キーに通常設定される移動キーは,実際のプレイ中にアルファベットを意識することがないため,直感的にタイプできるよう,ツール内では「↑/←/↓/→」に表示を入れ替えている
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 まず,1回の計測時間は2分。最終決定ではないが,少なくとも本稿執筆時点では,キーボードあたり15回の試行を行って,「キーの入力が入るまでの所要時間」と「ミスの数」の平均値を求めることができる。
 キーボードあたりの平均ストローク数は3959.681818回。[W/A/S/D]という移動キーの出現頻度を高くしてあるため,FPSタイトルをプレイしているときのように,指のニュートラルポジションは必然的に[W/A/S/D]キー付近に強制されるため,実際にFPSタイトルをプレイしたときに近い挙動のなかで,十分なタイプテストが可能だと考えている,

 ミス判定法は,試行錯誤の結果,米田氏も書いているように,表示されたキーの周囲にあるキーをタイプしたときのみ判定することにした。これにより一般的なキータイプ練習ツール特有の,「直前に表示されたキーを反射的にもう一度押下してしまった」といったようなミスを排除する仕様になっている。

 テスターは筆者一人なので,他者が同じツールを使っても同じスコアを再現できる可能性は低いが,同一人物が複数のキーボードをテストし,キーボードごとのスコアを比較することにより,キースイッチ,ひいてはキーボードの特徴を,中長期的に明らかにできるのではないかと考えている。


テストから探るキースイッチの特性〜メカニカルは遅くて信頼性が高い!?


 というわけで本題だ。今回は4Gamer Keyboard Checker Ver.2を使い,代表的なキースイッチ17製品を採用するゲーマー向けキーボードを比較していきたいと思う。
 それにあたってあらかじめお断りしておくと,今回用意したキーボードはあくまでもキースイッチの特性を比較するためのもので,個別のキーボードの優劣を語るものではない。その点はくれぐれも注意してほしい。

 それを踏まえて,まずは17製品を以下,簡単に紹介しておこう。キースイッチごとにまとめているので,キーボードブランドや製品名のアルファベット順といった形にはなっていない。

■HyperX Alloy FPS Mechanical Gaming Keyboard

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 「Cherry MX Red」搭載キーボード代表として用意した,Kingston Technology製のシンプルな英語フルキーボード。キーストローク4mm,アクチュエーションポイント2mm,キー荷重45g±15gで,押下時のクリック感はない。
 本稿では以下「HyperX Alloy FPS」と呼ぶ(※4Gamerレビュー記事)。

■K95 RGB PLATINUM Mechanical Gaming Keyboard - Cherry MX Speed - Black

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 1.2mmと非常に浅いアクチュエーションポイントが特徴の「Cherry MX Speed」(もしくは「Cherry MX Speed RGB」)キースイッチを採用するCorsair製キーボード。最新世代の“Cherry軸”採用キーボードとしてチョイスした次第だ。キーストローク3.4mm,アクチュエーションポイント1.2mm,キー荷重45g±15g,押下時のクリック感はない。
 本稿では以下「K95 RGB PLATINUM」と呼ぶ(※4Gamer紹介記事)。

■SKILLER MECH SGK1

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 Cherry MX互換キースイッチで知られるKaihua Electronics(ブランド名「Kailh」)。その「Blue Switch」を採用する,Sharkoon Technologies製キーボードだ。キーストロークは(未公開だがKaihua Electronics標準であれば)4mm,アクチュエーションポイント1.9mm,キー荷重50gで,押下時に強いクリック感がある。「Cherry MX Blue」と比べるとアクチュエーションポイントは0.1mm短い。

■CERBERUS MECH RGB

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 Kaihua Electronics製の「Red Switch」を採用したASUSTeK Computer製キーボード。キーストロークは(未公開だがKaihua Electronics標準であれば)4mm,アクチュエーションポイント1.9mm,キー荷重50gで,押下時のクリック感はない。

Kaihua Electronics製キースイッチ。ほとんどがCherry MXスイッチの互換品で,色と打鍵感の対応も同様だ。誤解を避けるために述べておくと,Cherry MXスイッチの特許は切れているので,互換品を開発することに問題はない
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■Razer BlackWidow Tournament Edition Chroma

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 Razer独自のメカニカルキースイッチ「Razer Green switch」を搭載するキーボード。Kaihua Electronics製「Blue switch」のカスタムモデルだと考えられる。キーストローク4mm,アクチュエーションポイント1.9±0.4mm,キー荷重50gで,押下時に強いクリック感がある。
 本稿では以下「BlackWidow TEC」と呼ぶ(※4Gamer紹介記事)。

■Razer BlackWidow Ultimate Stealth 2016

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 Razer独自のメカニカルキースイッチで,Kaihua Electronics製「Red Switch」のカスタムモデルと思しき「Razer Orange switch」を採用するモデルだ。キーストローク4mm,アクチュエーションポイント1.9±0.4mm,キー荷重45gで,押下時のクリック感はない。
 本稿では以下「BlackWidow US2016」と呼ぶ(※4Gamer紹介記事

■Apex M800 Customizable Mechanical Gaming Keyboard

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 Kailh製スイッチをベースに開発されたと思われるSteelSeries独自メカニカルキースイッチ「QS1」を採用した製品で,フラットかつ背の低いキートップが外観上の特徴だ。キーストローク3mm,アクチュエーションポイント1.5mm,キー荷重45gで,押下時のクリック感はない(※4Gamerレビュー記事)。

■G810 Orion Spectrum RGB Gaming Keyboard

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 Logitech(日本ではロジクール)と日本のオムロン スイッチアンドデバイスが共同開発した独自のメカニカルキースイッチ「Romer-G Tactile」を採用する,すっきりした外観のキーボードだ。キーストロークは3.2mm(※関連記事),アクチュエーションポイントも1.5mm±0.4mmと浅め。キー荷重は45.0±20g,押下時にクリック感がある。
 本稿では以下「G810」と呼ぶ(※4Gamerレビュー記事)。

■G613 LIGHTSPEED Wireless Mechanical Gaming Keyboard

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 ゲーマー向けとしては珍しいワイヤレスモデル。Romer-G Tactileを採用する点ではG810と同じだが,ワイヤレスによる入力性能の違いを見るためテスト対象に加えている。
 本稿では以下「G613」と呼ぶ(※4Gamer紹介記事)。

■EDGE 201

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 HORI独自のキースイッチ「EDGE-K01」を採用した,フラットなキー配列のキーボード。キーストローク3mm,アクチュエーションポイント1.5mm,キー荷重55±20gで,押下時のクリック感はない(※4Gamerレビュー記事)。

■CELERITAS II

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 Wooting製光学キースイッチ「Flaretech Switch」を採用しつつ,バネ圧などを独自に調整したBenQ ZOWIE製キーボード。キーストローク4mm,アクチュエーションポイント2〜4mm,キー荷重55gで,押下時のクリック感はない(※4Gamerレビュー記事)。

■REALFORCE TKL SA(R2TLSA-JP3-BK)

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 東プレ製静電容量無接点方式スイッチ採用のテンキーレスモデル。ストローク4mmで,付属の2mm圧もしくは3mmキースペーサーを利用することにより,ストロークの調整が可能。さらに,APC機能によりアクチュエーションポイントは1.5/2.2/3mmから選択できるようにもなっている。キー荷重は30gと非常に軽く,押下時にクリック感はない。
 本稿では以下「R2TLSA-JP3-BK」と呼ぶ(※4Gamer紹介記事)。

■REALFORCE TKL(R2TL-JPV-IV)

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 東プレ製静電容量無接点方式スイッチ採用のテンキーレスモデル。キーストローク,アクチュエーションポイントとも未公開で,キー荷重はキーによって35/45/55gいずれかの設定となっている,テキストタイプ向けの製品だ。本稿では以下「R2TL-JPV-IV」と呼ぶ(※4Gamer紹介記事)。

■Razer Ornata

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 Razerが「Mecha-Membrane」(メカ・メンブレン)と呼ぶ,メンブレンスイッチに「Chery MX Blue風のクリック感」を付与したスイッチを採用するキーボード。メンブレンのカスタムモデルとしてチョイスした。
 ストローク,アクチュエーションポイント,キー荷重は未公開で,Chery MX Blue風なので,当然のことながら押下時に強いクリック感がある(※4Gamer紹介記事)。

■BFKB88PC WH

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 パンタグラフ式メンブレンスイッチを採用した珍しいキーボード。ビット・トレード・ワン製だ。ストロークは2.2mmで,未公開のアクチュエーションポイントはキーストロークとほぼ同じ。キー荷重は60g±20gとなる。押下時のクリック感はないものの,ほぼ底打ちするので硬い打鍵感がある(※4Gamerレビュー記事)。

■BFKB109UP1

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 キースイッチにプランジャー(支柱)を組み込むことにより,打鍵感を安定させているメンブレンキーボード。キーストロークおよびアクチュエーションポイントは未公開で,キー荷重60g±20gとなり,メンブレンスイッチなので押下時にクリック感はない。ビット・トレード・ワン製だ(※4Gamer短評)。

■K297

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 4Gamer編集部の倉庫に転がっていた,どこにでもあるメンブレンキーボード。写真を見て分かるように使い古しである。メーカー名不明で,もちろん詳細なスペックも分からないが,メンブレンスイッチなので押下時のクリック感はない。


非常に面白いデータが得られたテスト結果


 というわけでテスト結果を見ていこう。グラフ1は平均遅延をもとめたものだ。グラフの色はおおまかにキースイッチの種類を示しており,青がメカニカルキースイッチ,赤が光学キースイッチ,橙が静電容量無接点方式,緑がメンブレンスイッチを示す。
 光学キースイッチを採用するCELERITAS IIはUSB接続だけでなくPS/2接続にも対応するため,グラフバーが2本になっていることと,R2TLSA-JP3-BKではAPCでアクチュエーションポイントを3段階に切り換えられるため,テスト結果はまず(1.5mm)(2.2mm)(3mm)の3つになり,さらにキースペーサーを状態(1.5mm+KS3mm)(2.2mm+KS2mm)の2パターンも追加しているので,その点は注意してほしい。

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 一見して分かるのは,静電容量無接点方式の入力遅延が短いことだ。それ以外だとざっくりメンブレン,光学,メカニカルの順になっている。とくに興味深いのはゲーマー向けの印象が薄いメンブレンスイッチ採用製品の入力速度が相対的に優れていることだろう。

Cherry MX Speed RGB
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 近年のメカニカルキースイッチは,アクチュエーションポイントの短いものを採用し,入力速度の向上を図っているわけだが,アクチュエーションポイント1.2mmのCherry MX Speed RGBを搭載するK95 RGB PLATINUMは確かに結果を出しているので,「入力速度を向上させるためにアクチュエーションポイントを浅くする」というのは正しい試みのように思える。
 ただ,2番手はアクチュエーションポイントが1.9mmのCERBERUS RGB REDで,その次に同1.5mmのRomer-G採用キーボード,1.9mmのSKILLER MECH SGK1,1.5mmのApex M800……といった具合なので,アクチュエーションポイントの浅いものが上位に集まる傾向こそあるものの,決定的な要因とまでは言えないことも見てとれよう。

Razer独自のキースイッチは相対的に遅かった
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 メカニカルキースイッチでは相対的に青軸系が遅く,Razerオリジナルキースイッチは赤軸系も遅いことなども踏まえるに,それぞれのキースイッチ固有の特徴がここに出ているのだと思う。
 今回のテストでは,各キーボードのアクチュエーションポイントを活かすため,なるべく浅いストロークを意識してタイプしている。そのため,キースイッチの打鍵感が「スムーズに操作できるか否か」の違いを生んでいる印象もある。

 もう1つ,横並びで比較していて気付いたのは,入力速度を求めるのであれば,アクチュエーションポイントギリギリで浅くキーを押下する技術が求められるということだ。
 その補助として,各キースイッチではクリック感や,押し込んだときのリニアな反発感で対応するのだが,これらとアクチュエーションポイント感のバランスが悪いと,せっかく短いアクチュエーションポイントを持っていてもメリットとして活かすことができない。

Apex M800が搭載するKaihua Electronics製カスタムスイッチ(上)と,EDGE 201が搭載するHORI独自スイッチ(下)
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 たとえばK95 RGB PLATINUMのCherry MX Speed RGBは,ちょうどアクチュエーションポイントのあたりで押下したキーの戻りを強く感じるのだが,それによってキーの指離れが良くなり,結果キーを底打ちすることはほとんどなかった。
 一方,Apex M800のQS1はアクチュエーションポイント付近での反発力が弱い。そのため,3mmと短いキーストロークが裏目に出て底打ちしてしまいやすく,キーの指離れが悪く感じた。EDGE 201が採用しているEDGE-K01も,アクチュエーションポイントを指の感触でつかみにくいという点でQS1と同様である。

 ただ,ここで注意しなければならないのは,キーを底打ちすること自体は問題ではないということである。パンタグラフ方式のスイッチを採用しているBFKB88PC WHは,キーストロークの長さとアクチュエーションポイントの位置がほとんど同じで,打鍵時に底打ちする前提となっている。これがアクチュエーションポイントを超えてストロークをする無駄を排除しており,重いキー荷重とあいまって,弾かれるような強い反発力,キー離れの良さを実現しているからだ。

 続いては平均ミスである。結果はグラフ2にまとめたとおり。一言でまとめるなら「平均遅延のグラフを上下逆にしたような感じ」だが,下位製品で平均ミスが飛躍的に増大している点に注目してほしい。

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 感覚的には,ミスの数が多いキーボードでも,それこそ「[C]と[V]を打ち誤る」といった致命的なミスはそうそう出なかったのだが,入力速度の高いキースイッチほど,「[W]キーを押下して,次に押下すべきキーが[D]のとき[W]キーを押下している時間が長かったのかどうか,[D]キーを押下するまでに[W]キーが2回押下されたとカウントされる」といった,同じキーが複数回入力されるミスが多くなり,結果として最終的なミスの数の増大につながった。

 実際にプレイするゲームタイトルの仕様によっては無視できる類のミスかもしれないが,こと安定性という観点では,今回のテストでミスの少なかったキースイッチに間違いなく軍配が上がるだろう。
 その意味で,安定性という観点では文句なしにメカニカルキースイッチが優れていると言っていい。これはクセがない打鍵感とも言えるわけで,さすが,ゲーマー向けキーボードにおける代表的なキースイッチといったところである。

 ただ,ここで押さえておきたいのは,入力速度でメカニカルキースイッチ最速だったK95 RGB PLATINUMがミスの数では最下位になっていること。入力速度の向上を目的とした「メカニカルキースイッチにおけるアクチュエーションポイントの調整」が,ともすればメカニカルキースイッチの持つ安定性という利点を失わせかねないことである。
 安定性という最大の特徴を保ったまま,安易にアクチュエーションポイントを浅くすることなく,いかにして入力速度の向上を目指していくかというのが,これからのメカニカルキースイッチにおける課題になるのではなかろうか。

CELERITAS IIが搭載する,カスタム版Flairtech Switch
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 そうしたトレードオフの状態を脱却する試みとして,光学キースイッチを採用したCELERITAS IIが一歩踏み出している点も興味深い。
 メカニカルキースイッチのチャタリングを避けるために,光学キースイッチFlaretech Switchを採用したCELERITAS IIは,バネ圧の最適化にこだわったリニアな押下感のためか,速度性能はメカニカルキースイッチ搭載モデルの最速クラスで,また平均ミスの少なさも優秀な結果となっており,高いレベルでバランスを保てている印象がある。

 なお,そのCELERITAS IIだが,PS/2接続での結果は,USB接続に対して明らかに優れていると感じられるものではなかった。わざわざUSB接続の利便性を捨ててまで選ぶべきかというと,筆者は疑問だ。

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 メンブレン系のスイッチは,平均ミスの数は相応に多いが,速度性能も高いので,ゲーマー向けモデルであれば十分選択肢に入ってくると言えそうである。とくにパンタグラフ式のBFKB88PC WHは,入力速度でいえば静電容量無接点方式に食い込むほどの結果を示している。入力速度と安定性の両立を目指す試みの余地があるという意味で,メンブレンはまだ大いに可能性があるのではなかろうか。総じて製造コストが低く,店頭価格が安価になりやすいという点でも,今後に期待したいスイッチだと言える。

静電容量無接点方式の“軸”周り
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 最後に静電容量無接点方式だが,「入力速度が高く,安定性に乏しい」というのは,メカニカルキースイッチの特性をひっくり返したようなものなので,メカニカルキースイッチからの乗り換えに失敗する人が後を絶たない一方,戻って来られないほどのめり込む人がいるのも分かるという感じだった。
 自身の器用さに自信があり,そうそうタイプミスをしないというゲーマーからすれば,静電容量無接点方式は最良の選択肢となる可能性がある。また,REALFORCEに関して言えば,APC機能やキースペーサーなど,拡張性によって個々人の好みに調整も可能な点もプラス材料となるだろう。


これからのキーボードレビューに乞うご期待


 以上,キースイッチを比較してみると,「特徴の違いは明らかに存在し,十分に比較しながら評価できる」と感じられた。今回の結果を踏まえ,今後の筆者によるキーボードレビューではスイッチの所属するカテゴリーを基準に,それに対してどうかという観点から評価してみたいと考えている。

 たとえばメカニカルキースイッチを採用キーボードを評価するなら,入力速度の性能はメカニカルキースイッチカテゴリーにおける平均遅延のスコアを参照する。この場合,最高値が448.113msで,最低値は484.367ms,平均値は466.379msなので,入力速度を重視するコンセプトのメカニカルキースイッチ採用モデルは,少なくともこの平均値より速くあるのが望ましいということになるはずだ。
 仮に期待されるスコアが得られない場合,当該製品の構造的な問題がどこかにあるはずで,コンセプトどおりの性能を発揮できない理由を考察していくという方向性で記事を展開していくことになるだろう。

 キータイプの安定性では,平均ミスの数値を参照していくわけだ。メカニカルキースイッチ搭載モデルであれば,当然,ミスの数は少ないであろうことを期待しながらテストして,実際の結果を照らし合わせることになる。

 新しいキースイッチを採用したモデルが出てくれば,それまでの結果からどれに近しい特徴を持っているのか,あるいは何と正反対の特徴なのかといった部分を考察しながら,入力速度と安定性のバランスを見ていくことになるはずだ。

 順調にデータが集まっていけば,同時期に世に出ている他ブランドのキーボードと比較することで,相対的なキースイッチの評価が可能になり,ゲーマーが自身に合ったキーボードを選択していく判断材料となるに違いない。


 最後に,レビューの方針をあらためてお伝えしておこう。
 筆者のキーボードレビューでは,入力速度と安定性にフォーカスしたキースイッチ性能測定を軸に据えつつ,設計の特徴とカスタマイズ機能,拡張性,デザインといった観点を交えながら,ときには客観的に,ときにはいちゲーマーとして評価していきたいと考えている。

 キースイッチのテスト段でも触れたとおり,ゲーマー向けキーボードの性能にはまだ伸びしろがあると筆者は思う。そうした可能性に光を当てることで,読者がゲーマー向けキーボードに興味を持ち,やがては自分の好みのキーボードを自らの意志で探すようになってもらえるのであれば幸いだ。

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