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【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?
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印刷2016/06/04 12:00

連載

【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?

Jerry Chu /  香港出身,現在は日本の大学院で勉強中

画像集 No.010のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?

Jerry Chu「ゲームを知る掘る語る」

Twitter:@akemi_cyan


「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?


 「働く」と「遊ぶ」は対照的である,と考える人は多い。
 働くとは報酬を得るために,誰かの役に立つ仕事をすることである。それに対して,遊ぶとは娯楽であり,無報酬で誰かの役に立つこともない。なるほど,確かに対照的に見える。
 だが,筆者は「働く」と「遊ぶ」は必ずしも正反対ではないと思っている。実際,私達はゲームを遊びながら仕事を体験してきたし,仕事をゲーム感覚にしてきたのではないだろうか。

イラスト提供:いらすとや
画像集 No.006のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き? 画像集 No.005のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?

 「牧場物語」や「ザ・コンビニ」「アイドルマスター」といった実在の職業をシミュレートするゲームはともかくとして,ファンタジー世界をテーマとするゲームでも,プレイヤーが仕事をやらされることはしばしばある。
 「NO MORE HEROES」の主人公は殺し屋(これも仕事か)だが,普段は芝刈りやゴミ拾いのようなアルバイトをしなければならない。高校生達の華々しい学園生活を描く「ペルソナ4」では,主人公は封筒貼りや翻訳などのアルバイトによって給料を得る。「Grand Theft Auto」シリーズでも,タクシードライバーや株取引などで地道に金を稼げる(自動車泥棒や銀行強盗は犯罪だ)。私達はアルバイトや就職する前に,ゲームで働くことを十分に体験してきたのである。

「Grand Theft Auto V」
画像集 No.001のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?

 2008年,イギリスのコラムニストであるSteven Poole氏「ゲームと仕事は類似している」と指摘した。「新しい武器やスキルを購入するために,金や経験値,スキルポイントを『稼ぐ』という様式がゲームでは常態化している。箱庭で好き勝手に暴れるのが『Grand Theft Auto IV』のようなオープンワールド型ゲームの持ち味なのに,実際にはNPCの指示に従ってミッションをクリアしなくてはならない。我々は作業の連続である現実から離れるためにゲームをしているのに,昨今のゲームは好きなように遊ぶ自由をプレイヤーから奪い,煩わしい作業を押し付けている」と,Steven Poole氏は嘆いているのだ。

 つまり,ゲームとはもともと「遊び」だったはずだが,経験値と(仮想の)お金を稼ぐために作業するという仕事同然の流れが,いつの間にか当然のようになっている。この傾向はとくにRPGにおいて顕著だ。

 「Bloodborne」はヴィクトリア風のダークファンタジー世界を舞台にしているが,プレイヤーが最も足を踏み入れるのは華麗な大聖堂でも夕暮れに染まる街でもなく,陰惨で窮屈な教室棟ではなかっただろうか。そこに現れる敵は弱いわりに得られる経験値(「血の遺志」)が多いからだ。
 手強いボスに遭遇して挫折を味わうたびに,何度も教室棟を訪れて経験値を稼いだ。弱い敵との戦闘は作業的で,あまり楽しいとは思わなかったが,稼いだ経験値でキャラクターを強化するときには達成感があった。
 RPGのプレイヤーは経験値を効率よく稼ぐために,弱い敵を狩り続けるようなことを厭わない。「報酬を得るために働く」という点で仕事と共通しているが,地道で単調な作業にもプレイヤーを熱中させられるのがゲームの不思議なところだ。

「Bloodborne」
画像集 No.008のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?

 2010年にアメリカで提唱された「ゲーミフィケーション(gamification)」はご存じだろう。「明確なゴールがある」「プレイヤーの行動の成果がはっきり示される」「ほかのプレイヤーと競争できる」といったゲームデザインの仕組みを仕事に取り込み,モチベーションを向上させる手法である。仕事をゲームの形にする,と言い換えてもいい。

 たとえば,2007年にリリースされた「Chore Wars」は,日常の家事をRPG感覚で楽しめるサービスだ。プレイヤーは毎日の家事や雑用をこなして申告することで,ゲーム内の経験値やお金を獲得していく。それによってアバターを強化したり,ほかのプレイヤーと競ったりできる。
 ふだん私達は家事を面倒で煩わしいものだと捉えるが,これがゲーム感覚になれば,やる気が湧いてくるというわけだ。ほかのプレイヤーに勝つべく,家族の誰よりも先んじて掃除する人だっているらしい。まさに仕事をゲーム化(gamify)する手法である。

 この「Chore War」はアメリカのゲームデザイナーであるJane McGonigal氏の著書「Reality is Broken」でも取り上げられており,「仕事のゲーム化」の好例とされている。

「Chore Wars」
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画像集 No.007のサムネイル画像 / 【Jerry Chu】「働く」のと「遊ぶ」のと,どちらが好き?

 「働く」の反対は「遊ぶ」なのかもしれないが,仕事はゲームにでき,ゲームは仕事を内包している。両者は非常に類似しているのだ。
 結局のところ,「働く」と「遊ぶ」を分ける決定的な要因は,その内容ではなく,やっている人の気持ちではないだろうか。遊びやゲームと銘打っていてもつまらなければ作業にように感じられ,逆に仕事でも楽しくやっていればゲーム感覚となる。「住めば都」に倣って「楽しめば遊び(ゲーム)」と言えよう。

■■Jerry Chu■■
香港の引きこもりゲーマー。中学の頃は「真・三國無双」や「デビルメイクライ」などをやり込み,最近は主に洋ゲーをプレイしている。なるべく商業論を避け,文化的な視点からゲームを論じていきたい。現在はゲームプログラマーを目指して勉強中。
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