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[レビュー]「D-topia」がどこか不穏なのは,管理社会が魅力的に見えてしまうから。かわいいに溢れた楽園で「幸せ」を考える
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印刷2026/07/15 11:26

レビュー

[レビュー]「D-topia」がどこか不穏なのは,管理社会が魅力的に見えてしまうから。かわいいに溢れた楽園で「幸せ」を考える

 人間は思いのほか簡単に,環境に慣れてしまう生き物だ。決まった時間に起き,仕事をこなし,ささやかな楽しみを享受する。その繰り返しが心地よく過ごせるなら,さほど多くのものは望まないもの。
 「D-topia」に漂う不穏さは,その「飼いならされる」過程を,プレイヤー自身に体験させるところにある。

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 2026年7月14日にAnnapurna Interactiveよりリリースされた「D-topia」(PC / Nintendo Switch 2 / PS5 / Xbox Series X|S / Nintendo Switch)は,京都を拠点とする日本のインディーゲームスタジオ・Marumittu Gamesが手掛けるパズルアドベンチャー。本稿では基本的なゲーム内容を伝えるとともに,「かわいい」と「まったり」と「不穏」が同居する世界と,そこに込められた問いを追っていく。

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繰り返しの日常が妙に心地いい


 本作の舞台は,人工知能によって“最大多数の最大幸福”が追求される居住区「D-トピア」。プレイヤーは新任の施設整備士として,都市機能を維持しながら,住人たちの悩みや問題に向き合っていくことになる。

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 ……と,あらすじだけを見るとSF的な香りが強いが,そこで描かれる暮らしには,私たちの日常に通じるところがある。チリひとつない清潔な街並みで,ゆったりしたテンポの生活を送りながら,食事をとり,仕事に向かう。ゲームとしても生活シムのような手触りがあり,ゆったりしたテンポのなかで独特の雰囲気をもつかわいいキャラクターたちとの会話を楽しめる。施設整備士としてなにかと「頼りにされる」のも,プレイヤーの自己肯定感をくすぐるうまいやり方だ。

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 朝起きて,作業着に着替えて,思い出したときだけサボテンに水をやり,朝食をとって出勤。D-トピアでの1日はこんなサイクルの繰り返しだ。仕事場であるファクトリーでは,数字の書かれたブロックを指定された位置に動かすパズルや,グリッドを一筆書きのようにたどるパズルが日課として与えられる。

極度に抽象化されているが,一応のD-トピアの維持に役立つ仕事らしい
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 このパズルは「解くのにチャレンジする」というよりも,解法に気づいてスイスイ解く感覚を味わいやすい作り。説明がほぼない(とはいえヘルプ機能で確認することは可能)ので一見なんのことやら,となるのだが,とりあえず動かしてみているうちに解法が見つかったりする。
 手順の巻き戻しや,一手目からのやり直しもスムーズにできるし,どうしても解けなかった場合はスキップしてもいい。そしてノルマ分を終えたあとは「残業」を選び,より歯応えのあるパズルを遊んだり,追加報酬を稼ぐ自由まである。

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 稼いだお金では,食べ物やホームを飾るあれやこれやを買い集めることができる。労働で達成感を得て,家の中がどんどん豊かさで満たされる。「健全な資本主義」的な生活ループが「習慣」として体に馴染んでいくような感覚だ。

 ――その「馴染む」ことこそが「不穏」の最たるものでもあるのだが。

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 なにしろ本作の主人公は,シローという名前があるにも関わらず,管理ロボットたちからは「No.046」(シローの語呂合わせか?)と番号で呼ばれている。大半の人々も「住人」としか表示されない。それでも住人の多くは,このD-トピアで暮らせることを一種のステータスだと捉えて,満足げな様子ですらある。

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 なお,主要な登場人物たちは好感度が高まったあと,バーチャルな茶室に招待し,特別な会話を楽しむことができる。好感度を上げるには自分が思ったそのままではなく,相手がほしいであろう答えを選ぶ優しさが必要だ。
 単なる処世術といえば処世術なのだが,ここもまた「まったり」と「かわいさ」と「不穏」が同居している部分のひとつかもしれない。

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偽りの景色の裏側「ブロックサイド」


 そしてこのD-トピアには,施設整備士たちにしか見えないレイヤー「ブロックサイド」というものがある。
 
じつは長期航行中の宇宙船内という設定。他にもF-トピアやZ-トピアなど,さまざまな領域があるらしい
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 D-トピアの住人たちが見ている世界は,システムによって最適化された「見せかけの姿」にすぎない。施設整備士は視覚システムを切り替えることで,「本当の世界」側で行動し,視覚ブロックされたアイテムを見たり,整備用のコントロールパネルを操作したりできる。
 ブロックサイトでは,それまでの白亜の美しい町並みが,一瞬で薄暗いメカニカルな空間へ姿を変え,そこかしこにネズミたちが顔を見せる。一度こちら側の光景を見てしまうと,それまでと同じ気持ちでは街を眺められなくなってしまう。そういえば昨日食べたお寿司,あれはなんの肉でできていたのだろうか……。

ちなみに死んだ人間は有機資源として「食事以外」にリサイクルされているらしい。ひと安心?
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 「見たくないものは見えない世界」。開発元のMarumittu Gamesはインタビューなどで,この設定が現代のSNSの状況に影響を受けたものだと明かしている。アルゴリズムによって快適なタイムラインが生み出され,不快なものはミュートとブロックで視界から消える──。数年前の旧Twitter時代から今も続く“最適化"を,都市まるごとのスケールで表現しているわけだ。

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 そのほか,影響を受けた作品として挙げられているのが,ユヴァル・ノア・ハラリ著「ホモ・デウス」と,NetflixのSFドラマ「ブラック・ミラー」。ここでは詳しくは説明しないが,興味をもった人はぜひどんな内容か調べてみてほしい。もちろん,あくまで「かわいい」「まったり」に惹かれたという人は,調べないほうが純粋に本作を楽しめるかと思う。


不自由な楽園とは,そう悪い場所ではない?


 最後に,少しだけ意地の悪い話をしたい。
  古典的なディストピア作品では,「自由か,管理か」と問われたとき,読者が自由を選ぶように物語が組み立てられてきた。オーウェルの「1984」の世界に住みたい人はいないだろう。
 だが「D-topia」が提示する社会は,それなりに,いや,かなり魅力的なものだ。午前中の労働時間,そして管理と選別さえ受け入れれば,健康的な暮らしとほどよい達成感が保証されているのだから。

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 いくら仕事に誠実に取り組もうと,為替と物価高と税に生活の余裕を削られ,副業や投資も視野に入れる必要がある2026年の日常と比べたとき,正直,そう悪いものには見えなくないだろうか。
 本作の企画段階では,テクノロジーによって変化した人間の幸福感と,その怖さを描く意図もあったように思えるのだが,筆者は「データによる管理社会」そのものではなく,「その管理社会が少し魅力的に見えてしまった2026年の自分」にこそ怖さを感じてしまった。

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 だからこそ,物語のなかでの選択が大きな意味をもってくる。人々の悩みを解決し,信頼を得て,彼らの幸せを願うこと。それは本当に「救い」になるのか。かえって「最大多数の最大幸福」の歪さを受け入れさせる結果になっていないだろうか。
 良かれと思った選択が,なにかのきっかけにより,ガラリと意味が変わってしまいかねない……。本作の物語は穏やかなようで,同時にそんな緊迫感も孕んでいる。
 
作中で重要な決断を行うときは「脳内会議」というモードが始まる。これはYES / NO式のチャートのような要領で,決断の材料を整理していくもの。なんとなくではなく,よく考えて決断できる
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 しかし筆者は,この二重の楽しみ方,受け取り方が成立するよう作られていることこそが本作の良さだとも思う。「かわいい」の裏に何かが引っかかるものがある作品のほうが,時を経たあと,何かの拍子に「意味」が伝わることだってあるはずだ。

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 発売後,SNSやレビュー欄に並ぶプレイヤーの評価は「かわいい」か,それとも「ヤバい」か。それ自体が,本作の作者が仕掛けた脳内会議,いや問いかけへの回答になる気がしている。答え合わせを楽しみに待ちたい。

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