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意外なところにゲーム人 第5回:医療の世界でゲームのテクノロジーを活用! Holoeyes CEO 谷口直嗣氏
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印刷2019/11/06 12:00

連載

意外なところにゲーム人 第5回:医療の世界でゲームのテクノロジーを活用! Holoeyes CEO 谷口直嗣氏

画像集 No.014のサムネイル画像 / 意外なところにゲーム人 第5回:医療の世界でゲームのテクノロジーを活用! Holoeyes CEO 谷口直嗣氏

 かつてナムコやコーエー(いずれも当時)でゲーム開発に携わり,現在はゲーミフィケーションデザイナーとして活躍している岸本好弘
 氏とともに,ゲーム作りのノウハウをゲーム以外の分野で活用している人を取材していく連載「意外なところにゲーム人」。

 連載第5回に登場いただくのは,Holoeyes Co-Founder 代表取締役 CEO/CTO 谷口直嗣氏である。Holoeyesでは,患者のCTスキャンデータから3Dモデルを作り出し,VR/MRデバイスを用いて立体的に臓器や患部を把握可能にする医療サービス「HoloeyesXR」を提供している。今回は谷口氏に,自身がゲーム開発に関わるようになったきっかけや,なぜVRを医療サービスに使おうと考えたのか,そして今後の展望などを語ってもらった。

Holoeyes Co-Founder 代表取締役 CEO/CTO 谷口直嗣
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HoloeyesXRの3Dモデル(提供:亀岡市立病院 脊椎センター長 成田 渉氏)
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流体力学を学んだことがゲーム業界に関わるきっかけに


 谷口氏は学生時代,横浜国立大学建設工学科船舶海洋工学コースにて,構造力学や流体力学などを研究していたという。しかし造船業にあまり将来性を感じなかったことから,1992年の卒業後は日本総合研究所に入社し,クレジットカードのシステムを開発する部署に配属された。

谷口氏:
 大学を卒業するにあたり,船を作ってもあまり儲からないだろうと考えたんです。それで日本総研に就職したんですが,クレジットカードのシステム開発がつまらなくて……(笑)。1年半ほど務めた頃,雑誌の求人広告に載っていたCGスタジオのナブラに面接を受けに行ったんです。ナブラには,流体力学を学んでいたことがきっかけで採用されました。

岸本氏:
 最初,造船とゲームが結びつかなかったのですが,今の話を聞くと「なるほど」と思いました。

 今でこそ,個人でクオリティの高いCGを制作するケースも珍しくないが,1990年代前半はまだ機材やツールが高価で,CG制作会社も数えるほどしかなかったという。谷口氏はナブラにて,メッシュ分割のツールや流体シミュレーションのプログラム,画像処理プログラムなど,主に社内ツールの研究開発に携わっていたとのこと。
 そんな中,谷口氏は同僚が携わるゲーム開発プロジェクトに誘われ,ナブラを辞めてフリーランスとしてゲーム業界に関わるようになった。そのゲームが,ニンテンドーゲームキューブ用ソフト「動物番長」である。

 「動物番長」に100種類以上登場するドーブツ(動物)達のキャラクターデザインやエディットにあたり,谷口氏は3DCGソフト「Houdini」を採用する。用意した一連のルールに沿ってたくさんのモデルを作っていくプロシージャルモデリングを使ったプラグインを開発し,大量のキャラクターデザインおよびアニメーション制作を可能にした。

動物番長に登場するさまざまなドーブツたち(画像は公式サイトをキャプチャしたもの)
画像集 No.004のサムネイル画像 / 意外なところにゲーム人 第5回:医療の世界でゲームのテクノロジーを活用! Holoeyes CEO 谷口直嗣氏

谷口氏:
 「動物番長」は,任天堂とリクルートが設立したマリーガルマネジメントにて,ファンド形式で出資を募ったプロジェクトでした。当時は並行して10前後のプロジェクトが動いており,例えば飯田和敏さんの「巨人のドシン」や大宮ソフトさんの「カルドセプト」などがありましたね。
 もともとNINTENDO64用ソフトとして企画されたのですが,「スーパーマリオクラブ」(任天堂の品質管理部門。現マリオクラブ)の評価が芳しくなかったんです。おそらく百獣の王を目指して,ほかのドーブツを捕食したり,交尾で子孫を残したりという大人向けの世界観が,子ども達に合わなかったんでしょう。
 開発期間は2〜3年だったんですが,初期にはエグゼクティブプロデューサーとしてポケモンの石原恒和さんが,終盤には遠藤雅伸さんも関わっていました。

岸本氏:
 1994年にPlayStationが発売されてから,コンシューマーゲーム業界は任天堂一強から任天堂 vs ソニーの時代へと変わりました。任天堂も数多くの優良なソフトを必要としていろいろな試みをしていた時期でしたね。

 次に谷口氏はSo-netの依頼を受け,キャラクターになりきって遊ぶチャットシステムの企画開発に携わる。そのシステムとは,ユーザーがテキストを打ち込むと自動的にキャラクターの口調に変換されるというもの。谷口氏によると,発案者はオンラインゲームなどで男性が女性になりきって遊ぶ,いわゆるネカマプレイをヒントにしていたそうだ。

 また「動物番長」プロジェクトで,伊藤ガビン氏や松浦雅也氏らサブカルチャー界隈の人材と知り合った谷口氏は,その縁でXbox用ソフト「戦場の出前持ち」プロジェクトにも携わる。
 このプロジェクトで谷口氏は,漫画家・映像作家のタナカカツキ氏がデザインした主人公の頬を,バネのシミュレーションと頂点シェーダーを使ってプルプルゆらす仕組みを作ったり,シェーダーを使って時間がゆっくりになるときのエフェクトを作ったりしたそうだ。しかし残念ながら本作はマスターアップしたにもかかわらず,事情によりリリースされなかった。

谷口氏:
 こうして振り返ると私自身,メインストリームのゲームには,ほとんど関わっていないんですよね(笑)。唯一の例外が,Xbox 360のローンチ時に出た「天外魔境 ZIRIA〜遥かなるジパング〜」で,このときはシェーダーを開発しました。
 あとは松浦雅也さん率いる七音社の人達と一緒に,私自身が企画したゲームのプロトタイプを作ったこともあります。それはビルを登っていくゲームなんですが,日本橋の空きビルを借り,外壁に投影してプレイするといった試みをやったこともありますね。

 さらに谷口氏は,七音社のスタッフとともにWii用のダンスゲームの開発プロジェクトにも取り組んだという。このプロジェクトでは,企画に加えて自ら振り付けも行ったそうだが,こちらも紆余曲折がありマスターアップまで漕ぎ着けたにもかかわらず,リリースされなかったとのこと。

谷口氏:
 実は中学,高校とヘビメタバンドをやっていたので,もともと音楽にはこだわりがあったんです。大学時代はジャズ研に入り,ジャズに加えソウルミュージックやラテン音楽も聴くようになりました。さらにサンバチームに入ってパーカッションを担当するようになり,ついでにダンスも覚えたんです。ずっとダンスとゲームを組み合わせたいと考えていましたね。

岸本氏:
 音楽だったり,ダンスだったり,趣味であってもいろんな経験がゲーム作りに役立つという良い例ですね。

 そうこうするうちに,世間はスマートフォンの時代に入っていく。2010年前後,「セカイカメラ」で一世を風靡した頓智ドットからオファーを受け,同社に入社した谷口氏は「セカイカメラ」の中で遊ぶゲームや,3Dプログラムの開発に携わっていたという。
 続いて,知人から「未来のクルマのUIを作る」というトヨタのプロジェクトに誘われ,頓智ドットを辞めて,再びフリーランスに戻ったとのこと。なおトヨタのプロジェクトでは,C++のオープンソースツールキット「openFrameworks」を使っていたそうで,谷口氏は「徐々に3Dのフレームワークが出てきた頃だった」と振り返っていた。

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ゲームエンジンを応用することで変わったアニメの表現


 多岐に渡るプロジェクトに関わってきた谷口氏だが,参加するかどうかの基本的な選択基準は,3Dのプログラミングが絡むかどうかとのこと。
 例えば谷口氏は,いくつかのアニメ作品の制作に携わっている。そこにはアニメプロデューサーが考えた,従来のCGソフトを使うよりも,昨今の性能の高いゲームエンジンを使って3DCGをレンダリングしたほうが制作が早くなるのではないか,ひいてはアニメの表現が大きく変わるのではないか,というアイデアがあったそうだ。

 そののち谷口氏は,アニメ「正解するカド」にて羽田空港上に出現した巨大な立方体「カド」を表現するために,Unityのシェーダーを使った3Dフラクタルモデルを作る仕組みを開発した。この仕組みを使わない従来の手法では,レンダリングに時間がかかりすぎ,テレビシリーズのアニメ制作だと,カドの表現はまず実現不可能だったという。
 また同様の仕組みは,アニメ「魔法つかいプリキュア!」のエンディング制作にも採用された。

谷口氏:
 最初はポリゴン・ピクチュアズのスタッフと話をする中で,アニメ「亜人」でUnityを使ってレンダリングしてみようということになったんです。ただ,プロジェクトが始まる前で,「亜人」のアセットがほとんどなかったため,まずは同じポリゴン・ピクチュアズのアニメ「シドニアの騎士」のアセットを使って,映像を再現してみましょうと。
 それで私がシェーダーや,Unityでレンダリングして映像に落とし込む仕組みなどを作りました。結果はそれなりだったのですが,映像のパイプラインに乗せるにはまだ大変だということで,実用化には至りませんでした。

 例えば従来のCGソフトを使ってVTuberのようなことをやろうとすると,1日に動画を1つアップすることすら難しいです。しかしゲームエンジンを使えば,リアルタイムで再生している映像をキャプチャして編集を加えるだけですから,毎日のように動画をアップできます。そういった変化がアニメの世界でも起きるのではないかと考えて,アニメのプロジェクトに参加していました。

岸本氏:
 Unityなどのゲームエンジンの進化により,今では学生が大学に入ってプログラミングを学び,少し経ったら3Dゲームらしきものを作れるようになっています。以前のゲーム開発を知っている私のような人間からすると信じられないようなことになっています。

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ゲームとHoloeyesXRの開発は「作りながら考える」という点で同じ


 現在は医療サービス「HoloeyesXR」を提供している谷口氏だが,医療の分野に関心を持ったのは,小学館から「家庭の医学」のデジタルデータを使った新サービスの企画を依頼されたことにあったという。
 医療サービスについて調べていく中,谷口氏は医師・杉本真樹氏(現・Holoeyes取締役兼COO)のインタビュー記事とめぐり会う。その内容は,「8K映像やKinectのようなモーションセンサーなど,最新のテクノロジーが医療を変えていく」といったもので,「気が合いそうだな」と思った谷口氏はさっそく杉本氏にコンタクトを取ったそうだ。

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谷口氏:
 初めて出会った2014年当時,杉本はCTスキャンの画像を3DプリンタのSTLデータに変換し,臓器などの模型を作っていたんです。STLデータはポリゴンのデータなので,彼から教えてもらい,私もさっそくCTスキャンのデータから頭蓋骨の3Dモデルを作ってみました。さらに少し変換したらUnityでもそのデータが使えたので,手元にあったOculus Rift DK1を使って,VRで頭蓋骨の中を覗いたら面白いだろうと考えたんです。

岸本氏:
 模型を作るのは時間がかかりそうですが,UnityとVRでやるならすぐに作れて見れますね。さらに中にも入れる。

 谷口氏は,Oculus Rift DK1を所有していたことから分かるとおり,VRにはかなり早い段階で注目していたという。そこにはゲームやエンターテイメントに限らず,さまざまな分野で3D技術を活用できるのではないかという考えがあったそうだ。
 また医療サービスに注目したのは,杉本氏との出会いに加え,手術支援ロボット「ダ・ヴィンチ」(da Vinci)を実際に操作する機会を得たことも大きかったと語る。自身がゲームのUIを開発してきたことを踏まえてダ・ヴィンチを見ると,医師が対象を立体的に捉えられるようにするため,操作性が非常に優れていることに気づいたという。

da Vinci Xi(インテュイティブサージカル公式サイトより)
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 ダ・ヴィンチは対象を立体的に表現するために,人間の左右の目それぞれに異なる画像を見せているのだが,その仕組みはOculus Riftも同じだ。またダヴィンチは3億円と非常に高価だが,Oculus RiftとPCの組み合わせであれば20〜30万円で必要十分な環境が整う。
 この価格差であればビジネスとして成立するのではないかと考えた谷口氏は,2016年に共同設立者である医師の杉本氏とHoloeyesを設立,HoloeyesXRのサービスを開始したのである。

谷口氏:
 現在HoloeyesXRは,手術前の打ち合わせやシミュレーション,患者さんへの説明に活用されています。また手術中,Microsoft HoloLensやMagic Leapを使い,患者さんの身体の表面に体内の様子をホログラムで投影したりもできます。
 HoloeyesXRは,主に脳や肝臓,膵臓,背骨などの手術に使われていますね。患部の周囲には血管や神経,リンパ管などが交差していますから,VRやMRで立体的に把握することは極めて重要です。手術は基本的に一発勝負ですから,事前にしっかりとシミュレーションしてイメージしておきたいという医師が多いですね。

岸本氏:
 外科手術は失敗が許されません。ゲームのようにリトライはできない。しかし,事前シミュレーションなら何度でも繰り返しできる。そこにゲームの分かりやすさ,見やすさの技術を活用しているんですね。

 HoloeyesXRの基本的なサービスの流れは,まず病院などのユーザーが患者のCTスキャンのデータをSTLデータなどのポリゴンデータに変換し,それをHoloeyesXRサーバーにアップロードすると,VR/MRデバイス用にHoloeyesが開発したアプリ用のデータが自動生成されるというもの。あとはユーザーがそのデータをダウンロードして,それぞれの目的に沿って使うというわけである。
 なおCTスキャンのデータをポリゴンデータに変換するための時間は,簡単な構造のものだと5分程度,複雑なものでも2時間程度で,さらにサーバーにアップしたデータからアプリが自動生成されるまでの時間は10分程度とのことで,緊急を要する手術にも対応している。
 また将来的には,東京と大阪など離れた場所にいる医師が,それぞれVR/MRデバイスをネットにつなぎ,オンラインで打ち合わせなどができるサービスを提供する予定もあるそうだ。


谷口氏:
 ゲームのUIデザインやインタラクションデザインを手がけてきたことが,HoloeyesXRのアプリやサービスの開発に活きていると感じます。またOculus RiftなどのVRデバイス自体,ゲームやエンターテイメント向けに作られたものですから,HoloeyesXRのUIも何となくゲームの流儀に沿ったものになっています。
 またゲームの開発は「作りながら考える」という部分も多いんですが,HoloeyesXRの開発も同じですね。例えばゲームのプログラマーの場合,まず企画者のアイデアがあり,それに沿って実装してプレイして当初の意図どおりにできているか確かめていきます。その確認時に,少しパラメータをいじっているとすごく面白くなる瞬間があるんです。HoloeyesXRの開発にも,そういうことがありますね。

岸本氏:
 谷口さんのおっしゃったことは,数多くいる世の中のプログラマーの中でもゲームのプログラマーならではなんです。というのも一般的なプログラマーは,仕様どおりにプログラムを組むのが仕事ですから。
 でも谷口さんがおっしゃるように,ゲームのプログラマーはリアルタイムで面白いことを探したり,作りながら考えたりしています。逆に言えば,その過程に面白さを見出す人が目指すんでしょうね。
 ただ,ゲームのプログラマーは,そうした自分の才能が特別なものであることに気づいていない人が多いんです。もったいないことです。


ジャズの演奏のように,他者が新しい遊びや使い方を見出せる余白を残しておく


 谷口氏には,「ゲームとはプレイヤーに超能力を体験させるもの」という持論があるのだという。例えばモーションセンサーを使ったテニスゲームでは,比較的簡単にボールをラケットで打つことができるけれども,リアルのテニスではそううまくはいかない。つまり,ゲーム側で当たり判定を大きくしたり,飛距離を調整したりしてプレイヤーの能力をリアルよりも上げているというわけである。

谷口氏:
 リアルの自分を超えた能力を体験できるからこそ,ゲームは楽しい。自分なりにゲームの要素を分解して,要素同士の組み合わせや掛け合わせが楽しさにつながっていくという分析ができて,最終的にコードに仕上げられる人が,ゲームのプログラマーなんだと思いますね。
 また,10個のパラメータを使ってゲームの難度を調整するのは,組み合わせが膨大になり大変です。できるだけ少ない数,可能なら1つのパラメータで調整できることが望ましい。そういったパラメータの持たせ方や選び方に,ゲームのプログラマーとしてのセンスに表れるんじゃないでしょうか。


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 加えて谷口氏は,ゲームにしろツールにしろ,プレイヤーやユーザーが新しい遊びや使い方を発見できるような作りにしておいたほうがいいとも考えているという。例えばエフェクト用のCGツールを開発したときには,デザイナーが想定を超える値のパラメータを入力することにより,谷口氏の想像を遥かに上回る表現を生み出したそうだ。

谷口氏:
 HoloeyesXRも,ユーザーである医師達が次々に新しい使い方を見出しています。脳動脈瘤の手術では,太ももの血管から管を入れて小さなコイルを詰めていくのですが,その脳動脈瘤の形をMRデバイスに投影してガイドワイヤーを成形していくという事例がありました。私達はそれほど医療に詳しいわけではないので,脳動脈瘤の手術については知らなかったのですが,こんな使い方があるのかと驚きました。
 今,私の子どもが「フォートナイト」にハマっているんですが,あのゲームもいろんな遊び方ができます。助けたり助けられたり,エモートでやりとりしたりと,相手を倒す以外の遊びがあるんです。またフレンドだけで集まり,「逃走中」のような遊びをやっている動画を観たこともあります。そういった余白があると,サービスやゲームとして面白いですよね。

岸本氏:
 谷口氏は元々ゲームは好きですが,ヘビーユーザーというほどではなかったそうです。今は自身の子どものプレイを眺めている方が多いそうです。

 そうした自身の考え方について,谷口氏はジャズの影響があると捉えている。ジャズという音楽には,セッションを通じて自分だけではできないことを他者から引き出す要素があるからだ。それはゲームやHoloeyesXRも同じで,作り手である谷口氏が想像もしていなかった遊びや使い方を見出すプレイヤーやユーザーがいるからこそ,どんどん面白くなったり発展したりしていくのである。

 谷口氏はHoloeyesXRの今後の展望として,医師達がVRを使って知識の交換をする場になること,さらに言えばソフトウェア開発におけるGitHubのような存在になることを挙げた。また個人的にはロボットにも興味があるが,まだ少し時期が早いと考えているそうだ。

谷口氏:
 実はHoloeyesの企業形態も,マイルス・デイヴィスのバンドみたいにしようと考えています。マイルスは若手など見どころのあるミュージシャンにいきなり「お前,来週からツアーに行けるか?」と声をかけ,自分のバンドに入れていろんな才能をミックスしながら新しい音楽を作り出していったんです。この会社も,そんな感じでいろんな才能のある人を集め,どんどん新しいことをやっていきたいですね。

岸本氏:
 最初に「医療の世界でUnity、VRが使われている」と聞いたときはその意外性に驚きました。是非取材したいと谷口さんを訪問しました。インタビューでも最初「造船、アニメ」などの話が出てどう繋がるのだろうと思っていたのですが,話を聞くとなるほどと思いました。谷口氏の仕事の選び方は「3Dプログラムがやりたい」「面白いことがやりたい」と一貫していて,すべて繋がっていたんです。
 ゲーム業界では当たり前の技術である3DCG,ゲームエンジン,VR・AR・MRなどは、ほかの業界からみると最先端のテクノロジーです。その技術がほかでも活用されていくと素晴らしいですし,それがゲーム産業全体の成長・拡大に繋がっていくと考えます。谷口氏が次に何をやるのかも楽しみです。

Holoeyes公式サイト

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