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[GDC 2023]メタバース時代の現実と倫理を,法の専門家が語る。失敗を繰り返す前に考えておくべきこと
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印刷2023/03/22 17:14

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[GDC 2023]メタバース時代の現実と倫理を,法の専門家が語る。失敗を繰り返す前に考えておくべきこと

 GDC 2023の初日(3月20日)に開催されたFuture Realities Summitで,「より良いデジタル倫理と法を作る: 現実世界とメタバースの出会い」(Building Better Digital Ethics and Law: Meatspace Meets Metaverse)と題したパネルセッションが行われた。

 Future Realitiesは,VRやARを含む広い分野で近未来的に発展していくであろう新しいテクノロジーを包括するサミットで,今回の現地でパネルセッションに参加したのは,カナダを拠点にして4000件以上のデジタルプロダクトの同意文を書いているというライアン・ブラック(Ryan Black)氏と,知的財産権を専門分野とするクイーン・メアリー大学法学部のガエタノ・ディミタ(Gaetano Dimita)氏の2名だ。
 ハーバード大学で“インターネットと社会の関係”を研究し,TED(Technology Entertainment Design)のフェローでもあるミカエラ・マンテーニャ(Micaela Mantegna)氏は,都合によりアルゼンチンから渡米できず,ビデオメッセージによる参加となった。

法律事務所DLA Piperに所属し,ピーター・A・アラード法学スクールで教鞭にも立つライアン・ブラック氏(左)と,知的財産権を専門分野とするクイーン・メアリー大学法学部のガエタノ・ディミタ(Gaetano Dimita)氏
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 マンテーニャ氏は,「もうメタバースというバズワードは聞き飽きてしまっているかもしれないけど,今だからしっかりと未来について考えておくべきなのです」と,今回のセッションの意図を説明する。
 「これまでの世代のインターネットは,すでに手が付けられないほど破壊されてしまっている」とマンテーニャ氏は続け,罵詈雑言に満ちたソーシャルネットワークやオンラインハラスメントなど,現代のインターネット社会が抱える問題を反面教師とし,“メタバースを構築していく側の人間”が来たるメタバースの時代に備えて準備しておく必要があると持論を展開した。

会場のテクニカルな事情によりオンラインとオフラインを並行するセッションができなかったため,まるでほかの2人に話しかけているような事前録画メッセージで参加して笑いを取っていたミカエラ・マンテーニャ氏。超有望な研究者である氏は,その身なりからも分かるように「Cyberpunk 2077」の大ファンでもある
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 ブラック氏は,これまでの“2Dインターネット”で培われてきた法律をもとに,「少なくともメタバースはまったく何もない状態からスタートするわけではない」と語るものの,そもそもメタバースという定義そのものが定まっていないのが現状だ。
 ディミタ氏も,空間的ウェブのことなのか,仮想世界で具体化したインターネットなのか,もしくはインターネットの3D版というだけなのか,実際に次の世代を担う新しいものなのかなど,人によって定義が異なるものであり,そこに法整備を図るというのは難しいと言及する。

 マンテーニャ氏は,「作業中の定義」(Work in Progress)としてメタバースを3つの要素に分けて考えているという。

(1)VR/AR,ブロックチェーン,AI,5G,IoTなど様々なテクノロジーの結合体であること。

(2)ゲームやソーシャルネットワークなど社会的現象であること。

(3)非現実という現実であること。

 最後については分かりにくいが,「これまで消費者が購入したものは消費者に帰属する」という当たり前のことが,「デジタルライセンス」というものに置き換わる,「キャピタリズムの進化系」であるとも話していたのは興味深い。

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 アメリカでは,こうしたデジタル世界での法整備を行っていくため,俗に「セクション230」と呼ばれる審議会「電子フロンティア財団」(Electronic Frontier Foundation)が10年ほど前に発足している。
 その発起人の一人であるジョン・ギルモア(John Gilmore)氏は,「そもそもインターネットもディセントラリゼーション(分散化,分権化)を念頭にした,自由な意見の交換の場所だった。しかし,今ではセンサーシップや行動監視を行う,人類史上最大の監視システムになってしまった」と嘆いたという。

 これらを踏まえてマンテーニャ氏は,現状のメタバースや関連テクノロジーが企業主導によって行われていることを憂慮していたようで,ディミタ氏も「Digital Exhaustion」(デジタル化による疲弊)という用語を上げ,「誰がメタバースをコントロールするのか」という大前提について述べている。

商業主義,トキシティ(病んだ利用者),監視システムなどでWeb 2.0を破壊してしまったIT企業が,こぞって新しいWeb 3.0に目配せしているような状況ではある
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 メタバースが,それぞれの企業が運営するメタバースの連合体,つまり複数形の「メタバーセズ」であるとするなら,その1つ1つのメタバースは企業が完全にコントロールし,その幹線的な部分だけを政府が法整備することになるのか。
 そもそも,自分の画像所有権を管理するために,現状では多大な電力を消費する分散型サーバーを運用するとなると,間接的とはいえ環境破壊に手を貸すことにさえなると,ブラック氏は現状のメタバースの不条理についても警告する。

 メタバースを誰が作り,それがどのようにコントロールされ,社会や権利面でどういった作用をもたらすのかなど,倫理面から考えていくべきことは山積みだ。

 ブラック氏はまた,アメリカ最高判事の一人であるエレナ・ケイガン判事が,セクション230の活動に関連して,「我々9人の判事は,こうしたこと(メタバースなどの最新技術)についての判断ができるエキスパートではないのです」と笑いを取っていたという記事を紹介しつつ,今後は企業間での擦り合わせも行う「Legal Inter-operability」(法的相互運用性)の必要性についても語っている。
 もちろんアメリカだけでなく,さまざまな国家が協力せずしてメタバースは存在し得ないのであって,まだまだ越えなければならない山は多い。

メタバースには法整備の前に解決しておかなければならないことが多く,企業のエンジニア,立法府,そして専門家や学者が国境を越えた共通認識を作り出さなければならない
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 今回のセッションも,テクノロジーの進歩についていけない「ミートスペース」(現実)の状況を改めて認識させる内容であり,企業による思惑と政府による不自由な法律にまつわる課題は今後もさらに表面化していくことになるだろう。その中で,消費者の正義として前線に立つ専門家や学者たちの奮闘に期待するばかりである。

ブラック氏が話していた,「こんなメタバースは嫌!」な例。肌に密着している衣装が国によって許可されなかったり,「この森は我が社にサポートされています」というロゴが表示されていたり,「この路面のテクスチャは特定のネットワークプロバイダ専用です」という警告文が出ていたり……。たしかにこんな未来は避けてほしい
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