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中国語のみでリリースされた「三国群英傳8」はどんなゲームなのか。そして,なぜSteamのセールス世界1位になれたのか
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印刷2021/02/09 12:00

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中国語のみでリリースされた「三国群英傳8」はどんなゲームなのか。そして,なぜSteamのセールス世界1位になれたのか

 2021年1月12日,Steamでリリースされた「三国群英傳8」(Heroes of the Three Kingdoms 8)が世界セールスランキングのトップに立った。
 この作品はローンチから現在(記事執筆時)に至るまで,中国語(繁体字・簡体字)のみをサポートしている。つまり,ほぼ中国使用者の売上だけで世界1位を獲得したということだ。

「三国群英傳8」
画像集#021のサムネイル/中国語のみでリリースされた「三国群英傳8」はどんなゲームなのか。そして,なぜSteamのセールス世界1位になれたのか

 2021年1月の発表(※リンク)によると,Steamにおける使用言語の割合は中国語が約19%だ。これは英語に次ぐ第2位である。その意味では,今回の状況は決して不可解というほどではない。また,中国本土の開発会社とパブリッシャが手を組んでリリースされたゲームが世界市場のトップに立ったというケースと言えば,直近でも「Dyson Sphere Program」のような傑出した例がある。

※早期アクセス開始から1週間のセールスが35万本を超えたというSFシミュレーションゲーム。Steamの評価は「圧倒的に好評」(Steamストアページ)。

 だが,「三国群英傳8」に関しては,「Dyson Sphere Program」とは状況が異なるようだ。というのも,同作のSteamにおける評価は「賛否両論」(56%が肯定的)であり,8000件以上のレビューが集まっていることを踏まえると,「わざわざ低評価を投稿したくなるくらい,大きな失望を覚えた人」が半数近くもいたということになるからだ。「素晴らしいゲームだ」という口コミが,さらなる口コミを呼んで大ヒット……という定番の構図は,この数値からは読み取れない。

「三国群英傳8」
画像集#023のサムネイル/中国語のみでリリースされた「三国群英傳8」はどんなゲームなのか。そして,なぜSteamのセールス世界1位になれたのか

 では,なぜ「三国群英傳8」は(一時的とはいえ)Steamのセールスランキングの頂点に立てたのか。
 本稿では「三国群英傳」シリーズを古くから遊んでいた関 涛氏に,シリーズの過去作と最新作「8」を簡単に紹介してもらうとともに,現代の中国ゲーム市場における購買行動の特徴についてレポートしてもらった。氏は中国広東省深圳市に生まれ,高校卒業後は日本の大学に留学。現在は筆者と同じくアトリエサードに在籍している,コアな歴史ゲーマーである。






「三国群英傳」とはどんなゲームなのか


 中国の三国時代をテーマとした「三国群英傳」シリーズの第1作は,1998年に台湾のゲーム会社・奧汀科技により開発された。筆者(関)が最も長く遊んでいたのは第1作と第2作だが,このシリーズの特徴はおおむねこの段階で決まっていたと言える。

 本作において,プレイヤーは最初に好きな君主を選び,君主がいる本拠地から中国全土の制覇を目指す。
 ゲームとしては戦闘重視のストラテジーであり,内政面の要素は薄い。実際,第1作と第2作において,内政のメニューは「武将の探索」(人材探し),「築城」(拠点のレベルアップ),「開発」(拠点の収入を増やす)という3つの機能しかなかった。どのコマンドも実行させる武将を選べば,その場ですぐに結果が出るというシステムだ。
 拠点で得られる収入は金銭のみで,これが唯一の資源となる。金銭には徴兵と,外交指令で「礼を送る」という使い道しかなかった。
 とはいえ,「三国群英傳」はあくまで戦闘重視のゲームなので,この程度の内政要素であっても,当時のプレイヤーはほとんど気にしていなかったと思う。

「三国群英傳」
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 そして事実,戦闘システムは内政と比べて,とても充実していた。
 まず,戦をするには武将と兵が必要となる。
 武将は2つの能力値(武力と知力)を持ち,武力は武将の体力(HP)や攻撃力に影響を与え,知力は主に内政の効果と武将の技力(MP)に影響を与える。また武将ごとに設定された必殺技の威力は,それぞれに武力依存・知力依存が設定されている。

 一方,興味深いことに,武将の能力値は兵の戦闘力に対して影響を与えない。
 兵士の種類は計11種(第1作の場合。第2作は13種)あり,それぞれ相克の関係を持っている(弓兵は槍兵に有利,槍兵は蛮族兵に有利といった具合だ)。
 それぞれの武将が指揮できる兵士の種類は固定だ。例えば劉備は必ず弓兵を率い,これを鉄鎚兵に変更するといったことはできない。
 武将と兵,両方の戦闘力に影響を与える要素としては「陣形」という概念がある。陣形は兵の攻撃力や防備力に一定の影響を与えるほか,武将の必殺技にも影響する。

「三国群英傳2」
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 戦闘画面は2D横スクロールになっていて,戦闘が始まると両軍の武将1名と,その武将が率いる兵がそれぞれ敵軍に向かって突撃していく。
 武将の必殺技は,このシリーズの大きな特徴だ。戦闘画面には武将の気力値というパラメータが設置されており,敵軍がいる方向に進むと気力値が上がり,後退すると減少する。気力値が最大まで溜まったら,強力な必殺技を繰り出せる(気力値を消費する)。

 戦闘を繰り返し,一つの勢力を滅ぼしたら,捕虜になった敵将を登用するか,斬首するかの選択もできる。運が良ければ,敵将からレアな道具を手に入れることもある。道具の種類は多くないが,どれも非常に有用だ。

 このようにして戦略地図の色塗りをしていき,天下統一を果たせばゲームクリアとなる。シリーズ作品を重ねていくうちにグラフィックスや音声といった表現力のレベルアップがなされ,またRPGの要素を取り入れたこともある(神獣や妖怪などを倒し,神器を手に入れるなど)。しかし,ゲームのコア的な部分は変わることなく,同シリーズはあくまで一騎当千の武将による戦闘を中心としたストラテジーゲームとして発展してきた。


「三国演義」の夢を実現したゲームとして


 「三国群英傳」は中国で大きな人気を博したが,その理由を特定するのは難しい。あくまで個人的な経験による見解として,以下にいくつかの理由を挙げてみたい。
 まず,初期の作品がリリースされた当時,中国のゲーム産業はまだあまり発展しておらず,三国時代が題材のゲームも少なかったという点が挙げられる。光栄(現:コーエーテクモゲームス)の「三國志」は好評だったが,多くの人にとっては高価で手が出なかった。そのため,中国の多くのゲーマーが初めて触れた三国志ゲームは「三国群英傳」だったのだ。同シリーズは今なお,古参プレイヤーの心の中で大きな地位を占めている。

 また,ゲームのルールが簡単で,スタートするとすぐに遊び方が分かる,という強みもあった。チュートリアルが不要なくらい,シンプルなのだ。とはいえ,天下統一への道は決して簡単ではなく,敵軍の動向をつぶさに観察しながら,どのように自軍を動かしていくべきか,しっかりとした戦略を立てていく必要があった。

「三国群英傳8」
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 さらに中国人にとって「三国志」より「三国演義」のほうが馴染み深い,という点もある。「三国演義」は個々の武将の武勇伝を重視して描かれている。したがって,「三国演義」を読んで育った中国のプレイヤーは,三国時代がテーマのゲームとなれば,好きな武将が戦場で大活躍するところを見たいのだ。
 三国時代のゲームが少なかった時期に,プレイヤーの趣味とぴったり合致している「三国群英傳」が現れたのだから,プレイヤーがこの作品を愛さない理由もない。当時としては十分な品質のサウンドとグラフィックスを有しており,「武将が必殺技を放つと敵のHPが一気に減り,周囲の兵士もふっ飛ばされる」といった形で,プレイヤーが望む絵が画面の中にあったのだ。
 「三國無双」がまだなかった時代,プレイヤーの手で三国統一の夢を果たし,さらには三国の英傑達の一騎当千ぶりを再現してくれたゲームは,「三国群英傳」シリーズくらいしかなかった。


「三国群英傳8」はどんなゲームになのか


 最新作の「三国群英傳8」もまた従来のシリーズ作品と変わらず,プレイヤーは三国時代の君主となって天下統一を目指す。

「三国群英傳8」のメインメニュー
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シナリオを選ぶメニュー画面
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 内政の要素が強化されているものの,なんのかんので戦闘が中心というバランスはそのままであり,キーボード+マウス操作に則したUIも基本的には変わらない。だが,全体的に見ると,良くも悪くも「新しい作品」になっていることが分かる。

 最初に気が付く変化は,やはりグラフィックス面の強化だろう。ゲームの基本画面ともいえる戦略地図は美しく仕上がり,冬だけとはいえ季節の移り変わりも表現している。エフェクトもなかなか豪華だ。

戦略地図。冬になると雪景色になる
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 一方で「これはどうなのか?」と思わされるグラフィックスの変更点も存在する。それは武将の顔だ。「8」の武将の中には,どんなに控えめに言っても西洋人にしか見えない顔立ちの人物が相当数含まれている。「流行の絵柄による再解釈」と言えなくもないが,この点は中国本土でも違和感を感じるプレイヤーが多いようだ。

武将の顔立ちが西洋風。なかでも関羽に違和感を覚えるプレイヤーが多いようだ
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 とはいえ,本作はストラテジーゲームであり,「グラフィックスなんて二の次なんだよ」というプレイヤーも少なくないはず。このあたりは意見が分かれるところだろう。


強化された内政システム


 さて,「8」では内政面が強化されたと述べたが,ここからはゲームシステムを見てみよう。
 まず,注目すべきは「君令」というパラメータだ。これは命令を行うことで消費されるもので,上限を増やすには領地を拡大する必要がある。武将の探索や計略の実施など,武将を派遣する仕事のほとんどには君令を要するため,これを使い切っているときには命令済みの任務が完了するのを待つしかない。

 内政は一見すると複雑だが,実際にプレイしてみると,かなり簡易であることが分かる。プレイヤーがするべきことの基本は,自軍の拠点に対して内政の適性を持った武将を幕僚として配置することだけだからだ。自軍の拠点には「農業」「商業」「兵役人口」といった数値が存在するが,幕僚に任せておけばこれらは自動的に上がっていく(ただし,成長速度は速くない)。

幕僚(画面下部)を任命したところ
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 拠点の管理画面では,建物の管理もできる。土地を開墾して,6種類の建築物から選んで建てるという方式だ。
 建物には農地(兵糧生産),市場(資金生産),技術工場(拠点の技術値を増やす。または後期の新兵器や新兵種の開発を行う),兵舎(徴兵命令の兵士数を増やす),住宅(人口上限を増やす),治安所(治安を維持)があり,条件を満たすと建物のアップグレードもできる。
 また,拠点(=城)のアップグレードは「農業」「商業」「技術」の項目が一定以上になれば可能だ。拠点の等級が上がると新兵器や新兵種がアンロックされ,城内の建物もさらにアップグレードできるようになる。

建物は6種類あり,アップグレードが可能
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 軍隊の管理も拠点で行う。代表的なコマンドは「出征」と「徴兵」だろう。出征時,兵士は予備兵(=兵役人口)から各武将に補充される(予備兵の数は季節ごとに自動的に増える)。予備兵が足りないと感じたら「徴兵」によって増やせるものの,拠点の「民怨」というパラメータが上がり,治安が悪化してしまう。
 また,同じ画面から「計略」も実行できる。「計略」は主に敵勢力,敵拠点,自拠点という3種類に分かれているが,とくには面白いのは自拠点への計略だ。「敵の間者の排除」といったあたりは珍しいものではないが,「拠点の武将数が多い」「拠点の武将数が少ない」ように敵に見せかけるというものもある。
 拠点の武将数を多く見せれば,敵が攻撃を仕掛ける可能性を下げられる。反対に拠点の武将数を少なく見せれば,敵からの攻撃を誘えるというわけだ。これは従来のシリーズ作品にはなかったもので,戦略の幅を広げている。

計略にはユニークなものも。工夫のしがいがある
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 そのほかにも兵のアップグレード(20段階ほどある)や武将のスキル育成など,国家の経済力が軍の強さにつながるようなデザインが随所にあり,簡易ではあるが内政の重みはなかなかのものと言える。

兵を強化していくのも重要だ
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キャプション:行商人からアイテムを買うこともできる。現状はお金が貯まりやすく,行商人への支払いが支出の大半を占めることも
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問題の大きい外交システム


 三国時代をテーマとした現代的なストラテジーゲームであるため,本作には外交システムも用意されている。だが,それには残念ながら粗が目立つ。史実における同盟や敵対関係が,外交システムに反映されていないのだ。
 例えば「反董卓連盟」が成立してもなお,全国の勢力が互いに争う乱世が続いたりする。ヒストリカル・ウォーゲームにおいて「歴史の再現性」は大きな悩みどころ(史実どおりにしかならないとゲームを遊ぶ意味がなく,史実からかけ離れてしまうと,この時代でゲームを遊んでいる意味が分からなくなる)だが,さすがにこれは首をかしげるしかない。

反董卓連盟結成のイベントが発生した直後,自軍(公孫瓚)と他勢力の外交状況。すべての勢力に対し,外交状態が敵対のままになっている
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 この「史実が反映されていない」という問題は,人間関係にも及んでいる。公孫瓚でプレイして,劉備の勢力を滅ぼしたので,真っ先に劉備を登用したときのことだ。その後,劉備を派遣して関羽と張飛を引き入れようとしたものの,何度も何度も失敗が繰り返された。
 これだけなら「そういうこともあるかもしれない」で済む話だが,関羽と張飛を登用するときに「お勧めの人物」として推薦されたのが劉備ではないとなると,さすがに疑問符が頭に浮かぶ。


肝心な戦闘システムにはさらなる問題が……


 さて,いよいよ「三国群英傳」シリーズのメインディッシュ,戦闘に焦点を当ててみよう。……しかし,残念ながら本作の戦闘システムには特に問題が多い。

 まずは戦闘の流れだ。敵味方の軍が遭遇すると,戦闘準備の画面に移行する。ここでは陣形の調整,出陣の順番,そして軍師技(開戦時に発動す全軍へのバフスキル)の設定ができる。

戦闘開始前の準備段階
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 一度に戦場に投入できる部隊は5つまで。1人の武将が倒れたら,予備の武将とその部隊が出ることになる(前の武将が率いていた部隊は下がらない)。
 それぞれの部隊に対して設定できる陣形は3種類しかなく,やや少なく感じる。また,全軍の陣形そのものはプレイヤーが自ら配置しなければならない。これまでは陣形を選ぶだけで自動的に形成されたので,自由度が上がったと言えなくもないが,毎回配置するのはいささか面倒に感じられる。

全軍の布陣を手動で行う
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 準備が終わったら,いよいよ実際の戦闘だ。最初に軍師技が発動すると,すぐに戦闘は混戦状態に突入する。手間をかけて配置した陣形は10秒も維持できない。「陣形」とは言ったものの部隊の位置を決められるだけであり,魚鱗や鶴翼,雁行といった陣を敷いたとしても,それが実際に利益をもたらすことはほぼない。
 なお,戦場のテンポは非常に速く,数十秒で合戦が終わることも珍しくない。

戦闘画面には迫力があるが,エフェクトが入り乱れて状況が把握しにくくなることも
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 武将の操作方法には自動と手動があり,前者は各武将が自動的に前へ前へ突撃することになる。ただ,必殺技はプレイヤーがクリックしないと発動しない(スマホゲームではしばしば見られるシステムだ)。
 一方,手動に設定すると武将5人のうち,1人を直接操作できる。手動モードでは必殺技だけでなく,すべてのスキルの発動を自分で行う必要がある。

必殺技を発動すると,特別なカットインが入る。カットインはオフにすることも可能
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 この手動モードのUIには,かなり大きな問題がある。敵将への攻撃指令がとても出しにくいのだ。敵将を攻撃しようとクリックしたら,自分が操作している武将がクリックした地点に移動して,何もしないで突っ立っていることがある。それどころか,そのまま何の反応もなく立ち続けて,敵将に斬り倒されるといったことすら起こる。
 確かに,非常に繊細な操作を行えば,前述の状況は回避できる。ただ,現状ではその繊細な操作をあまり良好とは言いがたいレスポンスのもとで行うしかないため,自動なら簡単に勝てる戦闘であっても,手動にするとあっさりと敗れてしまう。

 もっとも,手動戦闘における問題は改善されるかもしれない。というのも,リリース直後においては大きな(そして不可避の)問題だった一騎打ちの仕様が,現在はパッチで修正されているからだ。
 本作の一騎打ちはQTE(クイックタイムイベント)で行われる。しかし,AIが異様な精度でQTEを決めてくるため,文官と武官の一騎打ちという状況ですら,AIが操る文官に武官が敗れるということが頻発したのだ(一騎打ちは自動モードでもプレイヤーが操作することになるため,致命的な問題だった)。

 それが前述のパッチにより,QTEの判定をスキップできるようになった。スキップの場合,武将のステータスによって判定が行われる。
 なお,パッチ適用後にQTEでの一騎打ちを挑んでみたが,それ以前と大きな差を感じられない(パッチノートによれば「易しくなった」らしいが)ので,「スキップ」は最低限の修正ではある。ただ,今回のスピーディな対応を考えれば,必要十分であると評価できるだろう。現状では問題が大きい手動戦闘も,パッチによって改善されることを期待したい。

一騎打ちのQTEはかなりシビアなので,現状ではスキップすることをおすすめする
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「補票(补票)」による購買ブースト


 このようにいくつかの問題を抱える「三国群英傳8」だが,中国本土ではやはり厳しい評価になっている。以下,特徴的なレビューを紹介したい。

 遊ぶ前「俺の青春が戻ってきた!」
 遊んだ後「俺の青春はもう終わった」




 三国志が題材のゲームが好きな人なら,買って損のない値段。しかし,シリーズのファンであれば,買う前によく考えたほうがいい。これまでの作品とは違い,今作はまったく新しいシリーズとして受け入れる必要がある。



 普通のゲームとして遊べなくもないが,シリーズのファンとしては,ちょっと心の準備が必要。発売までもっと待っても良かったから,より良い「8」が欲しかった。開発会社がこれからも頑張ってくれることを祈ります。

 「満を持してリリースされたゲームが,どうにも微妙な完成度だった」というのは,ゲームの歴史そのものと言ってもいいくらい頻繁に発生してきた出来事だ。しかし,本作は「どうやらこれは微妙だぞ」という評価が広まってもなお,Steamのセールスランキングが世界1位になるまで売れた。これは一体,なぜだろう?

 その背景には,中国のゲーマー特有の「補票(补票)」(ぶーぴゃう)という行為があると思われる。
 「補票(补票)」とは直訳すると「以前,買わなかったチケットを改めて別の方式でお金を払って買う」という行為だが,現代ではその意味が拡張されて,適用される範囲が広くなった。
 昔は中国の経済水準が低く,一般人が映画を見たい,あるいはゲームを遊びたいと思ったら,安価な海賊版が選ばれるケースが多かった。しかし,現代では中国の経済水準が上がり,国民の購買力も強くなった。加えて,版権に対する法的な意識も強まっている。その結果,映画館で映画を見たり,正規版のゲームを買ったりすることが,ごく普通のことになった。

 このように購買行動が変化するなかで,特徴的なパターンが出現した。かつて海賊版で遊んだゲームがリメイクされて,新作としてリリースされる。あるいは,そのシリーズの続編がリリースされると,海賊版を遊んでいたプレイヤーが積極的に購入するというパターンだ。これが広義における「補票(补票)」である。

 今回の「三国群英傳8」では,まさにこれが当てはまると思われる。
 「三国群英傳8」の宣伝活動では「十数年ぶりの続編」などといった言葉が使われ,シリーズのファンの興味を惹いた。そして発売直前には,Steamにおいてシリーズ作品の販売が開始された。これらを通じて,プレイヤーに「諸君の青春が帰ってきたぞ」という信号を発したわけだ(PVでもその点は強調されている)。

 このような宣伝を見て「懐かしい」と感じたプレイヤーは,ゲームが発売されるや否や,評判を調べることもなく「補票(补票)」した――つまり,お金を払って購入した。プレイヤーの多くにとっては「今作だけに対して払ったお金ではなく,青春時代に海賊版を遊んだ過去作に対して払ったお金でもある」というわけだ。
 やはり「三国群英傳8」のリリース直後,セールスが世界1位になったのは「非常に優秀な作品だから」という理由ではない可能性が高い。実際,多くのプレイヤーがゲームを触ってみたことで,返品を決める(Steamでは一定以下のプレイ時間なら返品ができる)というケースも多発している。

関 涛
1993年生まれ,中国広東省深圳市出身。高校を卒業後,日本へ留学。新潟大学法学部を卒業し,現在はアトリエサードに在籍。ゲームや映画などのエンターテインメントが好きで,子供の頃からずっとゲームを遊んできた。特に歴史系や,さまざまなハードコアのゲームが好み。日本の歴史も,その多くはゲームで学んだ。



 今回,「三国群英傳8」において見られた「補票(补票)」的な購買行動は,今後,南アジアや南アメリカといった地域でも起こり得るように思える。つまり,「現時点では海賊版が圧倒的なシェアを誇っているが,社会全体を見ると著しい経済成長を続けている国」である。
 そのうえで,Steamにおける「三国群英傳8」の評価が「賛否両論」であるように,「補票(补票)」したからといって評価まで甘くなるわけではない,という点には注意が必要だ。「思い出補正」はむしろ,リメイクや続編に対する辛口の評価を産みやすいというのは,なにも日本市場に限った話ではないのだろう。

 かつての大人気ゲームのIPを掘り起こし,再展開するというビジネスはさまざまなパブリッシャ/デベロッパが行っている。そこにどれくらいの可能性があり,またどんな危険性があるかという点について,「三国群英傳8」がもたらした知見はけして小さくはない。

地図には日本の九州や瀬戸内海まで含まれる。シリーズの過去作では卑弥呼女王が登場したこともある
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    三国群英伝8

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