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開発を手がけるのは,アクチリことアクロバティックチリメンジャコ(Acrobatic Chirimenjako)。京都を拠点とする3人組の開発チームだ。
本作は,集英社ゲームズが運営するゲームクリエイターの発掘・支援プロジェクト「ゲームクリエイターズCAMP」で2021年に実施されたゲームコンテスト「GAME BBQ vol.1」で企画が大賞を受賞し,制作がスタート。アクロバティックチリメンジャコのデビュー作としていよいよリリースされる。
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今回は,そんな本作を手がけるアクロバティックチリメンジャコのAchabox氏,入交星士氏,ame氏,集英社ゲームズのシニアプロデューサーである林 真理氏に話を聞いた。
さて「シュレディンガーズ・コール」だが,言葉で説明しすぎると,それだけで大事なところに触れてしまうゲームだ。
なので本稿では,ゲームの内容を細かく紹介するのではなく,この作品がどんな人たちによって,どんな思いで作られてきたのかに目を向けている。
ゲームそのものについては別記事のレビューで紹介しているので,雰囲気やプレイ感が気になる人は,そちらもあわせて読んでみてほしい。
![]() Achabox氏 |
![]() 入交星士氏 |
![]() ame氏 |
![]() 林 真理氏 |
世界が終わる21ナノ秒前,少女は電話越しの“最後の話し相手”になる。「シュレディンガーズ・コール」レビュー
世界が終わる21ナノ秒前,少女・メアリのもとに,心残りを抱えた魂たちから電話がかかってくる――2026年5月28日に発売される「シュレディンガーズ・コール」は,終わりを迎える世界で,電話越しに誰かの心へ触れていく一作だ。最後までプレイしたうえで,ネタバレを避けながらその魅力を紹介しよう。
そもそもアクロバティックチリメンジャコってなに?
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。林さんは昨年の「違う冬のぼくら」×「都市伝説解体センター」対談企画以来(リンク)ですね。
「違う冬のぼくら」×「都市伝説解体センター」クリエイター&パブリッシャ対談。個人開発とチーム開発,それを支える出版系パブリッシャの話
TGS 2025で講談社ゲームラボが配布した「ゲームラボマガジンVol.2」巻頭特集の“延長戦”。ところにょり氏とハフハフ・おでーん氏に加えてパブリッシャとして関わる片山裕貴氏と林 真理氏に参加してもらい,関西インディー,インディ―ゲームの個人&チーム開発の違い,パブリッシャの考えなどを話してもらった。
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- 企画記事
- インタビュー
- 編集部:Junpoco
- 編集部:だび
- TGS 2025
- 東京ゲームショウ
アクチリの皆さんにこうしてじっくり話をうかがうのは初めてなので,まずは自己紹介を……というところなんですが,その前に20分くらい話し込んじゃいましたね※。
林氏:
そうそう。気がついたらね。ゲームの話をしなくて大丈夫なのかなーとは思った(笑)。
Achabox氏:
ああっ,時間は大丈夫ですかね……。
4Gamer:
ああいえ,インタビューで聞きたい話だったので! そのあたりは記事では違う形で触れるとして,あらためて自己紹介をお願いします。
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Achabox氏:
よかったです。で,あっ,自己紹介ですね。
Achabox(アチャボックス)といいます。アクロバティックチリメンジャコでディレクターとアートを担当しています。映像やアニメーションを作ったりもしています。
ame氏:
ame(アメ)です。エンジニアを担当していて,ほかに一部のサブシナリオや音楽なども制作しています。
入交星士氏(以下,入交氏):
入交星士です。メインシナリオや音楽,演出などを担当しています。
4Gamer:
で,さっそくなんですが。何百回と聞かれていると思うんですけど,まずはこれを聞かなくちゃという質問がありまして。
……どうしてアクロバティックチリメンジャコというチーム名に?
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林 真理氏(以下,林氏):
まあ,そうだよね。初めましての場所だと,まずはそこからだ(笑)。
Achabox氏:
簡単に説明すると,「GAME BBQ vol.1」に応募するときに,チーム名が必要だったんです。
締め切りがあるから急いで決めなきゃいけなかったんですけど,全然浮かばなくて。そんな時期に,家で悩みながらちりめんじゃこのパックを開けようとしたら,すごい勢いでバンッとなって,部屋中に飛び散ってしまって。
その様子がアクロバティックだったので,あっ,これだと。
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4Gamer:
ほかのメンバーは有無も言わさずで?
ame氏:
僕はそのときまだチームにいなかったんです。星士さんはどう相談されたんですか?
入交氏:
相談はされてなかったよ。
Achabox氏:
いやいや,しました。しましたよ。
入交氏:
そうだったっけ。なんか,「アクロバティックチリメンジャコってよくない? これで登録したから」みたいな感じじゃなかったかな。だから,ああそうなんだというか。
林氏:
お笑いコンビやバンドが,ライブやオーディションの登録のために軽く決めたらその名前のまま行かざるを得なくなるみたいな。典型的なパターンですよね。
4Gamer:
分かります。私もライターネームを「必要だから」っていわれて「ああじゃあ,えーっと,これ」って感じで付けたので。
林氏:
そういうので悩んでいる人,もう一人知ってるよ。ハフハフ・おでーんさん。
Achabox氏:
えー? いやいや,ないない。あの人はネタ的にそう言ってるだけですよ。
林氏:
それが,地元の新聞に名前が載ったとき,同級生から「お前,ハフハフ・おでーんって名前でやってるの?」って言われたことがあったみたいで。
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4Gamer:
ああ,そういうパターンが。アクチリもゲームが正式リリースされたら,国内外でこれまで以上にたくさん聞かれるようになりますよ,きっと。
入交氏:
もうすでに始まってますよ。ブラジルでも聞かれました。「この意味を教えてくれ」と。
日本語に興味がある人からは,「『ちりめんじゃこ』という言葉は分かりました。そこに『アクロバティック』が付くのはどういう意味でしょう」って。
4Gamer:
真摯に考えてくれているっ。でも,それだけインパクトがあって,一度聞いたら忘れない名前ですよね。
あと,アクチリって略称もいいなと思っていて。呼びやすいしフルネーム込みで広まりやすそう。
入交氏:
レッチリ感もありますしね。
4Gamer:
響き的に(笑)。
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コロナ禍の「誰かに話を聞いてほしい」から始まった
4Gamer:
ここからは,あらためてゲームの始まりを聞かせてください。
もともとはAchaboxさんの,コロナ禍でコミュニケーションが取りにくくなった時期の経験がきっかけだったという話を聞いています。
Achabox氏:
はい。コロナ禍のときに,私の周りで辛い出来事が重なっていたんですね
でも,状況的に,誰かに相談したり,話を聞いてもらったりする機会がなかなかなかったんです。誰かに話を聞いてほしいという気持ちがすごく強くありました。
そのころ広がっていたZoomやDiscordなどの通話ツールで,友だちやコミュニティの人に話すようになったんです。全然知らない人に身の回りのことや身内の相談をしたら,「私も実は同じような状況で」と話してくれることもあって。
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4Gamer:
友人からあまり会話したことがないコミュニティの人まで,皆それぞれに抱えているものがあった。
Achabox氏:
ええ。この“顔の見えない誰か”に話を聞いてもらうことで助けられた経験が大きかったんです。
電話で誰かを助けるゲームを作りたい。そう思ったとき,メインビジュアルにつながるイメージが頭の中に浮かんで,そこから企画書を作りました。
4Gamer:
それで「GAME BBQ vol.1」に応募し,大賞に。林さんは初めて見たとき,どう感じましたか?
林氏:
まずコンセプトアートが印象的でしたね。それでいまAchaboxさんが話していた,コロナ禍での経験や自分の身に起きたことに対して,電話がある種の救いとなったという体験をゲーム化したいというところがすごく面白いと思いました。
応募は企画書のみなので,正直ゲームとしてどうなるかはまだ見えていなかったわけです。でも,これはうまく形にできれば,相当面白いものになるんじゃないかという可能性を強く感じましたね。
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4Gamer:
その時点からメンバーは3人だったんですか?
Achabox氏:
3人ではありますが,ameさんはまだ加入前でエンジニアは別の人でした。
立ち上げ時のエンジニアは「ことだま日記」でご一緒していたroom6のKoheiさんだったんですが,ほかのタイトルの制作で忙しくなって抜けることになったんです。
林氏:
Koheiさんは素晴らしいクリエイターで,みんな彼のことが大好きなんですけどこれはしょうがないと。
Achabox氏:
それでKoheiさんが参加できなくなってしまい,新しいエンジニアを募集することになりました。
林氏:
ゲームクリエイターズCAMPのポータルサイトに募集欄があるんですよ。
それを使って声掛けをして。10人くらい応募が来て,面接もしたよね。
4Gamer:
そこにameさんが。どういうきっかけで応募されたんですか。
ame氏:
まったく違う業種で,ゲーム開発の経験はなかったんですが,ゲーム業界に身を投じてやってみたいという気持ちがすごく強かったんです。
それでゲームクリエイターズCAMPを見ていたら,この募集を見つけて。
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入交氏:
話を聞くと,缶バッジの会社でかなり責任ある立場だったんです。しかも,このために仕事を辞めて参加すると。
プログラミングも独学だったんですよ。すごいですよね。
4Gamer:
フルタイムの開発者に。相当な覚悟が。そこから今の3人体制になったと。
林氏:
そうですね。メンバーが固まって,次は仕事をする場所も必要になった。
それまではroom6に間借りしていたんですが,チームとして動くなら場所がいるわけですね。
ちょうどそのとき,Skeleton Crew Studioの村上さん(同スタジオ代表でBitSummit理事も務める村上雅彦氏)が使っていた場所が空くことになって,支援も兼ねて使っていいよと声をかけてくれて。それが今のオフィスです。
4Gamer:
なんか,インディーらしい横のつながりを感じますね。
そもそもAchaboxさんはroom6でデザイナーをされていたんですよね。ほかの2人と違ってゲーム開発の経験もあって。
Achabox氏:
そうなんですが,では最初からゲームだったかと言ったらそうではなくて。もともとはフリーで映像制作のディレクションや撮影,あとイラストの仕事をしていました。
4Gamer:
そこからどうゲーム開発にいったんですか?
Achabox氏:
きっかけはBitSummit 3です。
私は映像の仕事で,クリエイターさんのメイキングやインタビュー映像を撮るために参加したんですね。そこでインディーゲームの世界を知って,私も作りたいと思いました。
もともとゲームは好きで,子どものころはスーファミや64で遊んで,「任天堂でゲームを作るんだ!」と思っていたんです。それで大学でデザインやイラストを学んだんですが,広告のほうが面白くなって,ゲームを作る夢をどこかに置いてきてしまいました。
それがBitSummitで,クリエイターさんたちが自分のゲームのことをすごく楽しそうに語っているのを撮影して,「私も作りたい!」と思ったんです。
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4Gamer:
きっかけはBitSummitだったんですね。そこからroom6,Skeleton Crew Studioとつながっていくところに,関西のインディーゲームシーンのつながりの強さを感じます。
以前の企画で,墓場文庫との開発合宿の話を聞いていましたが,当時から関西インディーのコミュニティみたいなのも強かったんですか?
Achabox氏:
そうですね。墓場文庫とは,ゲームを作り始めてすぐのころから関わりがありました。
墓場文庫の事務所にいろいろな個人開発者が集まって,情報交換したりボードゲームをしたりして交流していたんです。
それこそおでーんさんと企画で対談されていたところにょりさんもですね。今活躍している人たちもいて,そのころからつながりがありました。
4Gamer:
去年のBitSummitで,“レペゼン”じゃないけど……みたいな話を林さんとおでーんさんとしたんですが,当時の関西インディゲームシーンはいろいろ話を聞きたくなりますね。
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[インタビュー]「都市伝説解体センター」ハーフアニバーサリー。墓場文庫×集英社ゲームズに聞いた,半年の歩みとインディー的カルチャーの話
ゲーム開発チーム・墓場文庫が制作し,集英社ゲームズがパブリッシャを務める「都市伝説解体センター」がリリースから半年を迎えた。2025年の話題作となった本作のいまとこれから,そしてインディーのカルチャー“的”な話を,ハフハフ・おでーん氏と林 真理氏に聞いたインタビューをお届けしよう。
“言葉にならない感覚”まで共有できる,3人の開発環境
4Gamer:
アクチリのチームでの開発について聞きたいのですが,ゲームをプレイしていて気になったのが,これどうやって作ったんだろうということで。
ノベルゲームのようではあるけれど,いわゆるテンプレート的な土台が見えない。どこを誰がどこまで担当しているのかも見えにくいことでした。
林氏:
外部のデザイナーさんにお願いする部分もありますが,絵は基本的にAchaboxさんがずっと手で描いています。
ディレクションの中心もAchaboxさんです。コンセプトや最終的な判断やチェックもですね。
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Achabox氏:
シナリオは星士さん。その星士さんが作業するためにベストな環境を作るのがameさんで。
ame氏:
星士さんはシナリオを書きながらスクリプトを書いて,映像を作って,音も作れるんです。だから自分のタイミングに合わせて,演出も音も調整できる。
制作環境も少し特殊で,キャラクターのセリフがあって,分岐があって,動画が出て,音楽が出て,というものが,全部ひとつのテキストファイルに入っているんです。それをみんなで投げ合って,書いたり修正したりしています。
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Achabox氏:
こういうタイプのゲームって,普通はノベルゲーム用のエンジンを使うと思うんですけど,星士さんがやりやすい環境に合わせて,ameさんが原型を留めないくらいカスタマイズしてくれました。
4Gamer:
なるほど。自分がプレイしていて“型が見えない”と感じた理由が分かった気がします。
なんか話を聞くと一つのスタジオの人が分業しているというより,一人ひとりがスタジオみたいな。
林氏:
そのイメージはあると思いますよ。ameさんもエンジニアとしてだけではなく,一部シナリオや音楽もやっているし。
表現したいものを考えながら,それを作る環境も同時に作っていく。50人規模の開発だとそれはできないけれど,3人だからこそできることですね。
4Gamer:
この作り方って作家性が共有できる一方で,知らないところでここが変わってるぞとか,直っている一方で違うところが先祖返りしている,みたいなことも起きそうですよね。
Achabox氏:
しょっちゅうです。仕様ごと変わることもよくあって,前まで動いていたプログラムが動かなくなるんです。
ame氏:
星士さんがけっこう特殊な作り方をするんですね。
ハッキングみたいな方法というか,普通この仕様でそんな使い方はしないよね,というところを「こういう画面を作りたいから」と作り替えるんです。バグを見つけたと思ったら,それが演出だったりもして。
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林氏:
そんなふうに開発が始まったわけですが,アクチリというチームとして初めてのゲームで,メンバーもゲーム開発の経験がほとんどない。
でも,コンセプトとしてやりたいことはしっかりある。そこは僕も心配していませんでした。ちゃんと核になるものはあるなと。
では,それをどうゲームとして形にしていくのか。そこからが,ものすごく長かったんです。
Achabox氏:
長かったですね……。
林氏:
できなくて時間がかかっていたという話ではなくて,むしろその逆。この3人はとにかく急ピッチに成長していくんですよ。
だから先週作っていたものより,今週のもののほうが絶対に良くなる。でも,先週のものをまるまる捨てるから前に進まない。それをずっと繰り返しながら作っているんですよ。
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入交氏:
林さんから「積み重ねだから!」というのは100万回言われました。
ゲームは家を作るようなもので,何度も土台からやり直していたら進まないよと。
林氏:
最初にビルドを見て,「ここはこうしたほうがいい」「こうしてみたら」とアドバイスを出すじゃないですか。それに対して翌週に出てくるものが,全然違うものなんです。
1週間の中で相当成長しているから,別のアイデアが形になっている。それはすごいんだけど,「でも先週のアドバイスは?」となりますよね。で,さらにその翌週にはそれがまたまったく違うものになっていると(笑)。
Achabox氏:
2022年の春先にスタジオができて,プロジェクトが正式にスタートしたんですが,そこから1年半くらいは,どういうゲームになるのかが誰の頭の中にも確定していなかったんです。
だからこういう,作っては捨ててを繰り返し……どんなゲームになるのかを模索する1年半でしたね。
入交氏:
そもそも,電話で人を救うってどういうことなんだろう,どうしたらゲームとして成立するんだろう,というところからで。シンプルに進んでいない,みたいな時期もありました。
1週間おきにビルドも仕様も変えて,これはだめだ,じゃあもう1回,というのを繰り返して。2023年8月に「ルーシービルド」という,今の第1章の原型みたいなものができるまで,かなり長いこと作って壊してをしていましたね。
4Gamer:
ゲーム作りというよりアートの話というか,アーティストが「これじゃない!」と何度も作品を捨ててやり直す,みたいな感じがありますね。
それがあってのこの作風なんだなとは思いますし,ものづくりとしてはすごく理想的にも見えます。でもプロデューサーとしては,どこまで作家性を守りながら完成に向かわせるかが大変そうですね。
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林氏:
集英社ゲームズとしては,さっき入交さんが言っていたルーシービルドで,「これでいけるな」という未来が見えたんです。
そのビルドを社内で何人かにプレイしてもらったとき,社員のひとりが本気で泣いたんですよ。忖度ではなく,本当に感動して泣いていた。
それを見て,これはちゃんと響く人たちがいるぞと,集英社ゲームズとしては掴めるものがあったんです。
4Gamer:
これでいけると。
入交氏:
そう。ただ,そこから地獄が始まりました。
4Gamer:
えっ。集英社ゲームズ側もアクチリ側も「いくぞ」となったと思ったら,地獄……?
入交氏:
ルーシービルドって,ゲーム性の模索のなかでシナリオ重視のノベルゲーム的な路線を定めて,それをまとめて提出したものなんですね。
集英社ゲームズさんは,林さんの言ったように,そのときに“勝ち筋”が見えたみたいなんですよ。でも僕らはまだ見えていなかったんです。
そのあと2024年5月に全章のシナリオを重視したα1を提出し,2024年7月にはBitSummitで初出展しました。外から見ると順調に進んでいるように見えたかもしれませんが,開発側はずっと試行錯誤していて。
Achabox氏:
1話のあと,2話ではどう変化をつけるべきなのか。3話は,4話は,と考えていく中で,3人で喧々諤々しながら作っていました。
4Gamer:
物語の流れや最後は,その時点でもう定まっていましたよね。
大変だった要素って,どこにあったんだろう。
入交氏:
全体のプロットはあったけど,でも最終的に伝えなければいけないのは感情なんです。
それを文章で説明するのではなくて,プレイヤーにボタンを押して進めてもらう体験として作らなければいけない。自分たちの手持ちのカードも少ないので,カードを増やしながら完成を目指していくしかありませんでした。
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Achabox氏:
BitSummitのあと,12月にα2を出したのですが,全章を出してみて,「これはやりなおしだよね」と集英社ゲームズさんから言われて。
自分たちでも,これはだめだよな,やっぱりそうだよね,という感じでした。もう無理かな,打ち切りかな,という空気もあって。みんなすごく暗いムードになりました。
4Gamer:
えっ。打ち切りなんて雰囲気にもなったんですか。BitSummitのあとに。
林氏:
僕と福田(チームに所属するアシスタントプロデューサーの福田 匠氏)が,一瞬あきらめそうになった日がありました。どうしようと会議室で暗くなって,ふたりでしょぼんとして。
Achabox氏:
私たちもどよーんとしていました。でも,そこからでしたね。
入交氏:
α2くらいまでは,集英社ゲームズさんと僕らの見えているものにズレがあったんですよ。
集英社ゲームズさんは,ルーシービルドで見えたから,あれでやってほしいと思っていた。でも僕らはまだ自分たちの中で納得できていない部分が多くて,原初の模索を引きずっていました。
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4Gamer:
これはプロデューサー側としても難しいですよね。
作家性を信じているからこそ,自分たちの表現を突き詰めてほしい気持ちがある一方で,完成させて世に出す責任がある。
林氏:
そう。プロデューサーとしては,世に出して問うところまでやらなきゃいけないと思っています。
これが学校の課題なら,完成しなくても「成長したね」で終えられるかもしれません。でも商品として出す以上,最後まで作り切って,ユーザーさんに良いも悪いも評価してもらうところまで行かなければいけない。
だから,完成させるためにはある程度ゴールを作っていかなければいけない。
2023年8月の段階で,こちらにはそのゴールが見えた。そこからは,彼らのやりたいことを理解しながらも,徐々に手綱を引くというか,ときに強引にこっちを向かせることもありました。
4Gamer:
走っていく方向を,ゴールに向けてあげるという。
林氏:
そうですね。止めようとしても勝手にやる人たちだということも分かっていました。
だから「ここを変えたい」と言われたとき,スケジュール的ここまでやるのは大変になるよ,それでもやるなら頑張って,と委ねる。そうしながら,「こっちですよ」と顔の向きを変える役割だったのかなと思います。
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「どこで何を感じてほしいのか」を見つめ直す
Achabox氏:
そこから2025年4月にα3を出しました。α2までとはだいぶ変わったんです。
シチュエーションや起伏,ここではこういう感情になってほしいという表を共有して,集英社ゲームズさんからアドバイスももらいながら作っていきました。
4Gamer:
集英社ゲームズ側に“勝ち筋”が見えたルーシービルドが2023年8月。その約1年半後に,アクチリ側も「これなら」と見えてきた。
Achabox氏:
α2でめちゃくちゃ失敗したこと,ここはできていなかったよねという反省点がちゃんと見えました。その反省を生かせたα3では,自分たちでもすごい伸び幅があったなと思いました。
入交氏:
そのあたりで,ゲーム作りって家を作ることなんだとやっと理解できたんです。
それまでは,もっとできる,まだやれると思っていました。でもそれを振り返ってみると,家を作らなきゃいけないのに,ずっと違うことをやっていたんだなと気がつけた。
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4Gamer:
入交さんは映画や演劇,音楽など,ゲーム以外の分野でもものづくりをされてきましたよね。
ゲームを作る中で,ほかの表現と違うと感じた部分はありますか?
入交氏:
映画や演劇,アニメはリニアなので,お客さんはそれに乗って進んでいきます。
基本的には作り手の物語で引っ張っていけますよね。
でもゲームの場合は,お客さん次第で進まない。ボタンを押してくれるか,押したくなるかが,細かいところに関わってくる。お客さん,プレイヤーという存在なしには作れない。それがまったく違いますね。
4Gamer:
ただボタンを押すだけじゃなく,押したくなるようにしなければいけない。
入交氏:
そうです。映像では「セリフで説明するな」と教わります。演劇ではセリフで説明することもある。
じゃあゲームはどうなのかというと,ユーザーに自分で感じ取ってもらえるようにしなきゃいけない。
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4Gamer:
感じ取ってもらうための誘導も大変そうです。
テキストで説明しすぎると,作風にも関わってきますし。
Achabox氏:
まさにそうなんです。ボタンを押して進めてもらわなきゃいけない。でも,それを明確に示しすぎると違ってしまう。
だから導くにしても,すごく抽象的なものになってしまうんですよね。
4Gamer:
「シュレディンガーズ・コール」は電話がテーマなので,間もすごく重要ですよね。
ただ,間を大事にしすぎると,プレイヤーが退屈してやめてしまうかもしれない。電話の会話の間や沈黙をゲームとして成立させるのはかなり難しかったんじゃないかと思いました。
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Achabox氏:
基本電話をして座っているだけで,場所を移動できるわけでもない。ずっと部屋にいるだけです。
演出や背景の変化で絵変わりさせたり,電話相手の物語を見せたり,緩急を持たせることは意識しまけど,間をどう描くかはやっぱり大変でした。
入交氏:
参考にではないけど,電話を題材にしたドラマや映画はすごく見ましたね。
でも映画は2時間くらいですし,ドラマもずっと電話の会話だけというものはそうそうない。電話の周りで事件が起きたり,外の世界に物語があったりする。だから,あまり参考にはならなかったんです。
Achabox氏:
そう。電話しながら何かをやっているし,何かが起きるんですよ。
電話は絡んでいるけど,外の世界に物語があって。
4Gamer:
電話だけでやるからこそ,シーンの間や画面の変化を,試して,確認して,また変えていく必要があった。
ame氏:
その点では,星士さんは文章を書きながらスクリプトで演出を入れて,映像や音楽も同時に入れられる人で。開発環境もそういう仕組みですから,総合的にそのシーンを作って見られるというのは大きかったですよね。
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4Gamer:
テキストだけ,絵だけではなく開発中もシーンとして確認できる。感覚的な部分の共有がしやすい。
Achabox氏:
はい。たとえばメアリと電話相手のふたりが並んでいるシーンがあって,何か違うよねとなったときに,その場で背中合わせにしてみたりするんです。
それだけで雰囲気が変わる。そういうことをすぐに試せました。
ame氏:
別々に作っていたら,ここまで間や感情の表現はできなかったと思います。音が瞬時に入って,「ここでこの音が来るから感動する」ということを作れるのは,このチームの個性だと思います。
4Gamer:
音で言うと,電話のベルの音が印象的でした。ヘッドホン推奨というのも分かります。
あのベルの音は,わざと少し強めにしているんですか。
Achabox氏:
そこも,星士さんやameさんとずっと聞いて調整してきたところです。
ベルの音自体がガンッと来る音なので,もう少しまろやかなものも用意してもらったこともありました。
でも私は,最初の一発目でドキッとしてほしかったんです。だからオプションで音を調整できるようにしながらも,もう少し生っぽくしてほしいと言って今の形になりました。
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4Gamer:
電話がかかってくることの不安や,知らない相手から呼ばれている感じが出ていますよね。
電話のベルの「ジリリッ!」って響く音は,ざわついたりひりついたりするものがある。
入交氏:
そのストレス感は大事なんですが,そこも映画や映像とは違って難しかったですね。
映画で電話のベルが鳴るシーンは,場面が流れていくからそのストレスを許容できる。でもゲームでは,それがゲームそのものへのストレスになるかもしれない。
4Gamer:
不快でやめるきっかけにもなりかねない。
Achabox氏:
そうなんです。ちょっと怖いし,ドキドキする。それがこのゲームでは大事な部分なんですね。
でも,その大事な表現の結果プレイヤーが離れてしまったらどうしよう,という怖さもありました。
私たちが過剰に気にしすぎているのかもしれないんですが,でもそう思ったときに林さんに聞けるのは大きかったです。
林氏:
プロデューサーとしては,僕と福田の2人が主に関わっています。でもやっぱり2人でも視点が偏ることもあると思うんですよ。
でも集英社ゲームズでは,ほかのプロデューサーたちもビルドを見てくれるんです。ちょっとしたコメントだけではなく,長文で返してくれる人もいる。いろいろな視点が入るのは良かったと思います。
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相手の話を聞くことと,自分の気持ちを受け止めてもらうこと
4Gamer:
最初の着想はコロナ禍の孤独や,「誰かに話を聞いてほしい」という感覚から生まれたものだと思います。
ただ,そこから数年が経ち,世の中もだいぶ変わりました。当初込めていたものが,開発中に変化した部分はありますか?
林氏:
最終章のコアな部分は,企画の段階からありました。そこはしっかり守られていて,実現されているとプロデューサー側としては感じています。
そこに至るまでの道のりは大変でしたが,最初からやりたかったことはちゃんと込められている。きっかけはコロナ禍かもしれませんが,やっていることは普遍的なので,そこは変わっていないと思います。
4Gamer:
国や地域に限られたものではないんですよね。
決して多くはないかもしれないけれど,世界中のどこかにきっとこれが響く人がいるというような。
入交氏:
今回の絵やコンセプトはいろいろな要素が入っていますが,どこかの地域や文化に固執したものではないんです。言語の壁はありますが,何かを限定しない。いろいろな国や地域の人に遊んでもらえるゲームなんじゃないかと思います。
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4Gamer:
いいお時間となりました。それぞれに「シュレディンガーズ・コール」を作ってきた思いや,興味を持った人,これからプレイする人に作品のことを伝えていただければと思います。
入交氏:
いろいろなジャンルでものづくりをしてきましたが,ゲームがいちばんきつかったです。
でも,すごく夢のあるジャンルでもあると思いました。日本語だけでなく,英語や中国語も含めて,同時に世界へ届けることができる。
たとえば小説なら,日本で売れて,すごい作家になって,ようやく翻訳の話が来ると思うんです。でもゲームなら,僕たちのような小さなチームでも最初から世界にリーチできる。これはゲームだけのことだと思います。
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ame氏:
体験版をプレイしてくださった方のレビューで,「傾聴のゲーム」と言っていただくことが結構ありました。そこまで伝わるんだと驚いた部分もあります。
ただ,あらためて自分でプレイしてみると,傾聴だけではないなと感じる瞬間があるんです。
相手の話を聞くことと,自分の話を聞いてもらうこと,自分の気持ちを受け止めてもらうことが,妙に融合して感じられる。
聞くことと聞いてもらうことが同居しているゲームだと思いました。それを感じてほしいですね。
Achabox氏:
そうなんです。これ,私たちもあらためてプレイして思ったことなんですよね。できていたんだ,と。
自分が話を聞いているはずなのに,なぜか自分も聞いてもらっているような感覚がある。自分たちでも,そこはうまく言葉にできないんですけど。
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4Gamer:
まさにそれが企画の最初からあった大事な部分ができていたわけですね。
この流れで最後にAchaboxさんから。
Achabox氏:
この4年間は本当に大変でした。もう無理だ,疲れた,だめかもしれないと落ち込むこともありましたし,打ち切りかもという時期もありました。でも,なぜか作り切れるという自信はあったんです。
それは,林さんや集英社ゲームズさんをはじめ,周りの人たちが支えてくれて,作品に打ち込める環境を作ってくれたからだと思います。
すごく恵まれた環境でしたし,その分プレッシャーもありました。スケジュールも過酷で,地獄と呼ぶくらい大変でした。たぶん,もう一度これをやれといわれたら,みんな絶対嫌だと言うと思うんですけど(笑)。
4Gamer:
(笑)。でも,作り切った。
Achabox氏:
はい。こうして完成させることができて,本当に皆さんに感謝しています。最後まで遊ぶとかなり味わいの違うゲームになると思うので,ぜひおしまいまで物語を見届けてほしいです。
4Gamer:
ゲームそのものの話はもちろん,初めての開発でどう完成に向かうのか,作ったものをどう人に届けていくのかという意味でも,すごく興味深いお話でした。
個人や小規模チームでゲームを作っている人,これからゲームを作ろうとしている人にとっても,どこか自分たちの制作と重ねて読める話になったのではないかと思います。本日はありがとうございました。
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![画像ギャラリー No.020のサムネイル画像 / [インタビュー]3人だからこそ作れた“誰かの声を聞く”ゲーム。開発陣に聞く「シュレディンガーズ・コール」完成までの4年間](/games/648/G064898/20260520001/TN/020.jpg)
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