国内で最も遊ばれている環境と,国内の開発者が選ぶ環境が食い違っている。人口2億7000万人を超える市場が目の前にありながら,彼らはそこを一番の狙いにしていない。
その食い違いの理由を含め,同国のゲーム産業の現在地を説明する場が,2026年8月14日に「Busan Indie Connect Festival 2026」の会場で持たれた。インドネシア共和国 通信・デジタル省(Komdigi)の担当者を囲む合同インタビューである。
質問に答えたのは,同省でゲームエコシステム開発(Game Ecosystem Development)のチームリードを務めるティタ・アユディティア・スルヤ(Tita Ayuditya Surya)氏と,そのチームで競争力・能力開発(Competitiveness and Capabilities Development)のリードを務めるダニ・ハディ・サプトロ(Dani Hadi Saputro)氏だ。
ここにBIC審査分科委員長で順天郷大学 韓国文化コンテンツ学科のイ・ジョンヨプ教授が同席し,韓国側の視点から補足を重ねた。イ教授は,この日発表された韓国・インドネシア共同事業の研究責任者でもある。
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会場でインドネシア勢がまとまっていたのは,通信・デジタル省が構えた「GAMES FROM INDONESIA」のブースだ。BICの展示ホールの一角に,同省のロゴを掲げたカウンターと,各スタジオの展示台が並んでいた。
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展示台に出ていたのは,Glory Jamが手掛けるアクションRPG「Grim Trials」や,鍛冶屋を営むシミュレーション「Smith's Chronicles」といったタイトルだ。いずれも試遊台が置かれ,来場者が順に触っていた。
「Grim Trials」はSoft Sourceがパブリッシングを担当し,Steamでは2026年8月20日の配信を予定している。
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インドネシアのゲーム産業は急速に伸びており,国内のゲームスタジオはおよそ200社にのぼる――スルヤ氏はまずそう説明した。その200社が,地域とグローバルの両方で存在感を得ようとしている。
BICへの参加は,そのスタジオたちがゲーム市場と産業により深く関わる足がかりになるという。
インドネシアの人材は育ってきているが,市場のほうが大きい。国内の需要を国内のスタジオが満たせるようにしたい,というのが同省の立場だ。
その顔ぶれについて,イ教授が韓国との違いを補足した。韓国のゲーム産業協会には主に大企業が集まっているが,インドネシアゲーム協会に集まっているのは小さなスタジオが多い。規模の大きいところはAgate,Toge Productions,Mojikenあたりでほぼ全部であり,残る大半は5人以下のスタートアップだという。だから育成に力を入れることになる。
人件費が抑えられることから,韓国企業が外注という形で現地に入る動きもすでにある。イ教授が挙げたのは,同じ日にBICで登壇していたビジュアルダートのイ・ジェフン氏の例だ。同社はジャカルタに支社を構え,現地で50人以上の規模で運営しているという。
プラットフォームの比率についても質問が出た。市場としてのインドネシアがモバイル主導であることは同省も認めるところで,最近はPCの利用者にも伸びが見られる。ただし,インディー開発者に限ると話が逆になる。彼らを牽引しているのはPCの開発者だ,というのがスルヤ氏の答えだった。
インドネシアのインディー開発者は国内市場だけを狙っておらず,最初からグローバル市場を見ている。だからプレミアム,つまり売り切り型のセグメントが今も彼らの主戦場になっている。ただし,その比率を数字で押さえたことはまだない,とも付け加えた。
プレイヤー数やモバイルとPCの内訳,年齢層・性別といった全体の統計については,同省が「Indonesia Game Ecosystem Mapping 2024」として調査結果を公開しており,誰でも参照できるという。
イ教授によれば,インドネシアゲーム協会に加盟している企業のうち,およそ半数がモバイルゲームの会社だ。
そのモバイルの中身は基本プレイ無料に広告などのビジネスモデルを載せたものが多い。購買力がまだ高くないため,韓国のようにヘビーユーザーを狙う設計のゲームを持ち込んでもかみ合いにくい。
もっとも,その購買力自体はここ数年で着実に上がってきていたが,最近は停滞している。理由は為替の変動にあるという。
為替さえ正常化すれば,インドネシア国内でゲームを買う動きは速やかに戻るだろう,というのがイ教授の見方だ。
今回のインタビューで説明された共同事業は,韓国国際協力団(KOICA)の市民社会協力事業を枠組みとするものだ。
韓国側はBICと順天郷大学,インドネシア側は通信・デジタル省,インドネシアゲーム協会(Asosiasi Game Indonesia),ビナ・ヌサンタラ大学(Binus大学),そして同国で最も売上の大きいゲーム会社であるAgateが名を連ねる。すでに協約は結ばれており,2027年1月から実施に入る予定だという。
背景にあるのは,インドネシア政府の大統領規則だ。ゲーム産業の振興を国として掲げたもので,そのなかにインディーゲーム開発者を1200人ほど育てるという目標が置かれている。今回の事業は,その目標の一部を引き受ける形になる。
注目したいのは,最初に手を付ける場所が首都ジャカルタではないことだろう。選ばれたのはバンドンだ。イ教授の説明によれば,バンドンは人口で3番目にあたる都市だが,ゲーム系のスタートアップが非常に多く集まっている。売上首位のAgateもバンドンにあり,ArsanesiaやGlory Jamのように知られた開発会社も同地に拠点を置く。
その理由の1つは,インドネシアでは地域ごとに最低賃金がかなり異なり,バンドンで作れば人件費が抑えられることだ。インドネシアゲーム協会自体もバンドンにある。最適な条件のそろった場所を探した結果として,事業の第一歩をここから踏み出すことになった。
最初に育てる職種も具体的だ。教育の段階でまず対象にするのは,グラフィックスの外注とQAの人材である。すぐに現場へ投入できる見込みが立つ職種から入る,という判断だ。
BIC側にとっては,この事業は数年がかりの助走の先にある。BICはこれまで台北ゲームショウやBitSummit,WePlayといったイベントとブース交換などの交流を続けてきた。
それをインドネシアにも広げるべきだという共通認識が昨年生まれ,BICと順天郷大学は昨年から今年にかけてインドネシアを何度も訪れている。
今年の訪問では通信・デジタル省に加え,教育省,さらにゲーム課を持つ創造経済省(Ekraf)の局長とも会い,両国の交流をもっと厚くする必要があるとの認識を共有したという。
インドネシア作品とBICの縁自体は,それより前からある。イ教授が挙げたのはMojikenだ。
同スタジオの「She and the Light Bearer」はBICで受賞歴があり,イ教授自身が深く感銘を受けて遊んだ作品として「A Space for the Unbound 心に咲く花」の名前も挙がった。今回の協力校であるビナ・ヌサンタラ大学も,BICのルーキー部門にここ4年ほどほぼ毎年ゲームを送り込み,入選を重ねてきている。
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インドネシア最大のゲームイベントであるIGDX(Indonesia Game Developer Exchange)は,通信・デジタル省とインドネシアゲーム協会の2団体が主催してバリで開かれている。会場のブースに掲げられていた告知によれば,次回はBali Beach Convention Centerで2026年10月21日から23日にかけて,Bali Tech Week 2026の一部として開催される。KOICA事業を進めるにあたり,そのIGDXとBICが共同で1つのセッションを運営し,韓国・インドネシア合同の形で両国のゲーム協力を後押しする催しを開く構想も進んでいるという。
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インドネシアでゲームを展開するときに何に気をつければいいのか。女性キャラクターの露出はどうか,ガチャは通るのか,宗教の絡む線引きはどこか――韓国人記者からそうした質問が出た。
スルヤ氏が挙げた規制は2つだ。1つは,インドネシア国内で電子的なサービスを提供する事業者に義務づけられている,電子システム提供者としての登録である。もう1つがIGRS(Indonesia Game Rating System),すなわちデジタルゲームを年齢層と内容によって区分するレーティング制度だ。
ただしIGRSは昨年立ち上がったものの,現時点では制度の見直しのために停止している。停止に至った理由まではこの場で説明されなかったが,制度が止まっている今も配信そのものは可能だという。
再稼働すれば,インドネシア市場に出すすべてのゲームがIGRSのレーティングを表示しなければならなくなる。だが今この時点で必要な手続きは,電子システム提供者としての登録だけである,というのがスルヤ氏の答えだった。
キャラクターデザインについても質問が重ねられた。これはレーティング制度の話につながる,とスルヤ氏は答えている。
IGRSはゲームの内容を見る制度なので,特定の見た目を持つキャラクターがいれば,年齢区分を得る過程でそれが評価・判定の対象になる。
またゲームに大きな変更を加えた場合には,年齢区分が変わるかどうかを見るために再分類が必要になる。韓国でレーティングを扱うゲーム物管理委員会と考え方はほぼ同じだ,とイ教授が補足している。
そのうえでイ教授は,インドネシアの社会そのものはかなり寛容だと付け加えた。最初に事業のためにインドネシアを訪れて驚いたのは,カトリックの聖堂のすぐ隣にイスラムのモスクが建っていて,それでいて宗教的な紛争がほとんど起きないことだったという。
もてなしを土台に持つ文化で,多文化・多宗教が溶け合っている社会だ。韓国のゲーム会社が入っていくうえでは比較的やりやすく,社会的な慣習も広く許容されている,世俗的なイスラム社会である。中東で知られるような厳格なイスラム社会とは方向が違う,というのがイ教授の説明だ。
人口が多く若い層が厚いことも合わせれば,ゲーム会社にとって環境は非常に良い。ただし,為替の変動と多少の政治的なリスクは残る。それらさえ乗り越えられれば潜在力の高い国だ,と結んだ。
インドネシア発のゲームとして海外で知られている作品が芸術性の高いものに寄っているのはなぜか,という質問もあった。
イ教授は,Steamで出たMojikenの作品群はToge Productionsがパブリッシングしたものであり,同社はインドネシアのなかでも例外的に芸術性の高いゲームを最も多く作ってきた集団だと説明した。
イ教授は所属する開発者たちを本当に尊敬しているとしたうえで,それは同国の主流ではない,と付け加えた。
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両氏にとってBICへの参加は今回が初めてだ。会場を見た第一印象も質問された。
世界中からインディーゲームが集まり,投資家やパブリッシャと同じ会場で会い,経験を共有できる。それは産業にとって必要とされているものであり,開発者にとっては生きた学びの機会になる――スルヤ氏はそう答えた。
作ったものを見せるだけの場ではなく,ネットワーキングを通じて勢いを得る場でもある。BICはグローバルなインディープラットフォームの先頭に立つところまで成長しており,その一部になれたことを光栄に思うという。そして,これはインドネシアでも再現できるのではないか,とも述べた。すでにIGDXがある以上,BICで得た学びと価値を持ち帰れるという考えだ。
サプトロ氏はそこに補足を加えている。会場を歩いてみて,IGDXとBICは同じ精神を土台にしていると感じたという。インディー開発者が育つように後押しするという点である。もう1つ目に留まったのは,アカデミーや大学のブースが多いことだ。
将来の人材がそこから供給されることを思えば,これは非常に良いという。取材が行われたのは会期初日のビジネスデイであり,翌日は一般日となる。もっとにぎわうだろうと期待している,とサプトロ氏は語った。
持ち帰る側だけでなく,出ていく側から見たインドネシアの価値についてもイ教授が触れている。
インドネシアという場所は,市場そのものだけが価値なのではない。購買力の高い国が周囲に多く,域内での行き来も盛んだ。インドネシアゲーム協会の関係者はフィリピンやシンガポールの協会ともつながっており,ハブとして申し分のない条件がそろっている。
BICがインドネシアに手を伸ばしている理由の1つはそこにあるそうだ。ここを通じてBICが海外に出ていき,成果が上がればブース交換にとどまらず,東アジアのインディーゲームショウ同士で協議体のようなものを作る,という長期的な構想も視野に入るという。
中国側にも同じような動きがあり,BICはうまくやっているから一緒に組もう,という話がいくつも寄せられている状況だそうだ。インドネシアゲーム協会とも開発者コミュニティとも,そうした関係はすでに結んでいる。
ただし,その協議体の構想についてはまだBIC内部で少しずつ議論している段階で,確定したものではない――イ教授はそう断りを入れてインタビューを締めた。















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