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印刷2026/07/06 19:47

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「AIを使うこと」はもう差別化にならない?IVS2026で語られた,理論と実装の落差[IVS2026]

 2026年7月1日,スタートアップカンファレンス「IVS2026」で,セッション「How Frontier Models, Consumer Scale, and Strategic Capital are Activating Real-World AI Agents」が開催された。

 登壇者は,Antlerのベンチャーパートナーであり,日本でマッチングサービス「ゼヒトモ」を創業したJordan Fisher氏「FarmVille」などを生んだZyngaの共同創業者で,現在はAIゲーム企業Playable Intelligenceを率いるJustin Waldron氏「EVE Online」を23年間運営し続けるFenris Creations(旧CCP Games)のCEO,Hilmar Veigar Petursson氏。そしてヘルステック特化VC「Healthier Capital」を創業し,Amazonに約39億ドルで買収された「One Medical」の元CEO,Amir Dan Rubin氏だ。

 投資家と起業家,ゲームとヘルスケア。異なる現場を知る4人が,AIエージェントの「今」を語り合った。

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 議論の口火を切ったのはPetursson氏だ。同氏によれば,「EVE Online」は世間から「ゲーム」と呼ばれてきたが,開発陣は一貫してこれを「世界を作ること」だと考えてきたという。1990年代末にアイスランドでNeal Stephenson的なメタバース構築に挑んだチームが,「より単純なものを」という発想でたどり着いたのが,2003年リリースのMMORPGだった。

 EVE Onlineのハードコアなプレイヤーにとって,ゲームは人生の大半を占める存在だ。人々はゲームを通じて友人を作っており,友人の数は健康・幸福・寿命を予測する指標にもなっている。同氏らが作ってきたのは,仮想世界のなかでプレイヤーが自らの意思で判断し,行動できる場所――すなわち人間が「主体性」を発揮できる場所だ。であれば,その世界のなかでAIエージェントが主体性を持って動くという発想も,そう遠い飛躍ではない。話はそう運ばれた。

 ここでPetursson氏は,言語モデル以前の系譜を持ち出した。Google DeepMindは囲碁の「AlphaGo」,次いで「AlphaZero」,そして「StarCraft」をプレイする「AlphaStar」を作ってきた。
 「StarCraft」の事例が興味深いのは,隠された情報があるために,対戦相手の心的モデルを構築せねばならない点だ。同氏はDeepMind創業者のDemis Hassabis氏と10年ほど前,「AlphaEVE」を作ろうと語り合っていたという。

 両者が合意したのは,もしゲームに「最終ボス」がいるとすれば,それは「EVE Online」だ,という趣旨の見立てだった。オンラインで数百万人がプレイするこのゲームを打ち負かせるAIができたなら,それは究極のAGI評価になる,と。

 この視点を,モデレーターの大久保義春氏が説明した。そもそもLLMはGoogle DeepMindが生んだ技術であり,Hassabis氏は科学の領域でこれを応用して「AlphaFold」を作り,ゲームの領域では「StarCraft」を攻略し,その次に「EVE Online」を見据えている。

モデレーターを務めた大久保義春氏
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 「StarCraft」は24時間つなぎっぱなしのリアルタイム性を持つゲームではないが,「EVE Online」ではほぼゲームのなかで現実の生活が営まれている。すでに「StarCraft」を攻略したGoogleが,次にこの「EVE Online」という最難関へ挑もうとしている。だが,これはまだ入り口にすぎない。こうしてゲームで鍛えられたエージェントの技術は,今後数年のうちに,そこから派生したさまざまな応用へと広がっていくのではないか。大久保氏はそう読む。

 もっとも,現時点で「EVE Online」上にエージェントが存在しないと問われれば,話はそう単純ではない。Petursson氏いわく,あらゆるMMOにはセカンダリー取引――ゲーム内通貨や資源をeBayで売買する行為――がリリース初日からあり,それゆえbotの存在は常に大きな話題であり続けてきた。

 ただし,それらは自意識を持たない,かなり原始的なものだ。MMOの世界で数十年かけて精巧にはなったものの,そこにLLMベースのエージェントを走らせるのはROI(投資利益率)を損なう,というのが同氏の実感だ。

 DeepMindやほかのフロンティアラボとテストを重ねてきたが,DeepMindは画面のピクセル情報から直接プレイでき,ゲームの世界モデルをすでに備えた「SIMA」を持つぶん優位にある。とはいえそれ以外では,エージェントにプレイさせるのは性能面でも芳しくなく,何より非常に高くつく。フロンティアラボが接触してくる状況について同氏は,好むと好まざるとにかかわらず起きることであり,ならば先手を打つほうがいいと語っている。

※SIMA(Scalable Instructable Multiworld Agent)。DeepMindが開発した,画面のピクセル情報から直接ゲームを操作できる汎用ゲームエージェント。

 一方,Rubin氏が語るヘルスケアの現場は,また別の手触りを持っていた。
 同氏のファンドが探すのは,人々が実際に抱える問題を解く企業であり,「AIかどうか」は問題ではない。とはいえ,ヘルスケアの課題を需要側(消費者や支払者が抱える問題)と供給側(医師・看護師・病院をどう連携させ,情報やネットワークをどう束ねるか)に分けたうえで,AIによってより低コストな解き方ができる場面は多いのだとか。

 だが問われるのは技術そのものではなく,流通させられるか,経済モデルは成り立つか,そして現場のワークフローに収まるか,である。病院や看護師,医師に売り込むにしても,彼らが仕事の手を止めてまで,新しいインタフェースをいくつも覚え込むことはない。
 既存の電子カルテ企業や電話,請求,保険のシステムと関係を築けるのか。イノベーションの多くは,こうした地に足の着いた「インタフェース」の領域にあると同氏は論じた。

 具体例としてRubin氏が挙げたのは,ファンド1号の初号案件,11か月で(シリーズAで)エグジットした企業だ。全身MRIスクリーニングは通常1.5時間ほどかかり,1万ドルを要する。この企業のAIは撮像時間を短縮し,最速で全身を22分でスキャンする。医療機器としてFDAの規制を通過し,予防スクリーニングとして消費者向けに展開する。

※FDA(Food and Drug Administration)。米食品医薬品局。医薬品・医療機器の認可を管轄する米国の規制当局。

 MRI装置を保有せず放射線科医も雇わず,既存の画像診断センターと契約して画像補正付きの短時間スキャンを走らせるという,うまく組まれた経済モデルだった。3年目を迎えたこの会社は,腎機能の検査を手がける別企業と組み,いまや売上4億ドルに達している。

 ただし,消費者への直販は顧客獲得コストが高く,容易ではない。供給側の例としては,病院向けの会話AIエージェント「Hyro」が挙げられた。
 これは予約の電話で「犬を連れて行ってもいいか」「どこに駐車すればいいか」といった問い合わせに応じる仕組みだ。LLMを使いつつ,確定的な回答が必要な場面のために知識グラフや小規模言語モデルも構築する。整形外科の予約なら事前に画像が要るかもしれず,循環器科なら絶食に関する質問が要るかもしれない。したがって,文脈を理解する力にこそ価値があるという。

Amir Dan Rubin氏
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「AIを使うこと」が差別化にならない時代の戦い方


 後半,議論の焦点はgo-to-marketへと移っていく。口火を切ったWaldron氏の主張は明快だった。いまAIを使ったゲーム開発では,いわゆるバイブコーディングで作られたゲームが無数に湧いて出ており,誰もがこんなに簡単に何かを作れることに驚いているという。

※go-to-market,市場投入戦略。プロダクトを顧客に届け,売るまでの一連の戦略を指す。

 だが,ソフトウェア構築で最も難しいのは昔からgo-to-market,つまり人々の前にプロダクトを届けることだ。
 もはやエージェントで「作る」だけでは足りない。2026年のまともなゲームスタジオがAIを使うのは当然の前提であり,使っていない相手はそもそも競合ですらない。真の競合は,これらのツールをうまく使いこなす者だけだそうだ。

 ゲームはコンテンツの一形態であり,「EVE Online」は極端な外れ値だという。自身が作った「FarmVille」は10年ほど続き,サービス型ゲームとしては長寿だったが,「EVE Online」は別格である。
 そして,人々の関心が無数のコンテンツへと細かく分散し,誰もが何でも作れてしまう世界で,いったい何を作るのか。「2億ドルで『GTA 6』が作れるようになったから作ってみる」といった発想では足りない,と同氏は釘を刺す。

 Zyngaが人々の心を長く掴んだのは,単に流通と収益化を解いて金をかけたからではなく,友人とインターネット上でその種のゲームを,状態を保持しながら遊ぶ体験が,それまで存在しなかったからだ。

 Hassabis氏はDeepMind以前に「Theme Park」を作っていたが,それをダウンロード不要のWebブラウザに載せ,状態を保存し,MMOのように扱ったのはZyngaが最初だった。だからこそ,まだ誰も体験していないものを作れ,というのが同氏のメッセージである。25〜30年前から存在する「話しかけられるAIキャラクター」程度では,もはや驚きも喜びも生まない。同氏はそう続けた。

 Waldron氏は,推論コストが高いうちは,この種の技術をスケールさせて収益化する設計を見つけるのが難しい,とも指摘した。AIサービス事業の世界では,ユーザーが推論(AIに考えさせる処理)に直接対価を払っており,そこで収益の98%が生まれている。だがゲームの場合,AIが生成し続けるコンテンツの裏で膨らむ推論コストを,消費者がすすんで負担してくれるのかどうかは,まだ見えていない。

 この認識は,Fisher氏によってさらに補強される。同氏が投資判断でみるのは,AIで何かを10倍良く,安く,速くやり,実在する問題を解いているか,という一点だ。

 AIによってプロダクト構築コストが劇的に下がり(かつてAWSがWebサービスの構築コストを下げたように),この1年でAIは「考えられるもの」から「実際に行動できるもの」へと移った。エージェントの登場である。

 だが同時に,コンテンツは指数関数的に増え,ノイズも増えた。参入障壁が低いなかで,膨大なノイズのなかから価値あるものを見極め,それをユーザーのもとへ届け,一度触れたら手放せなくなるようなものをいかに作るか。実在する問題を解くことと,意味のある流通チャネルを持つこと。この二点が決定的に重要だ,と同氏は説く。

Jordan Fisher氏
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 そのうえでFisher氏は,日本にいるからこそ,と前置きしてPhysical AIに触れた。
 日本はハードサイエンスやディープテックで優れた科学者を輩出してきた,長い歴史を持つ国だ。ロボティクスや倉庫の自動化,エネルギー,データセンターといった,かつては大きくなかった産業が新たに立ち上がりつつある。急成長するTAMを見れば,日本の「勝つ権利」が浮かび上がるという。

※TAM(Total Addressable Market),獲得可能な最大市場規模。ある事業,技術が理論上到達しうる市場全体の大きさを指す投資用語。

 アメリカでは再工業化が語られるが,日本はそもそも脱工業化していない,というのが同氏の見立てだった。Physical AIやハードテックこそ,日本の最良のエンジニアたちが数十年にわたり身を置いてきた場所なのだという。

 新規と既存の企業では,AIとの向き合い方が違ってくる。この論点で再びマイクを取ったWaldron氏は,既存企業の場合,その事業設計が「AIが進歩するほど自社も強くなる」という好循環にそもそも組み込まれておらず,作り替えるには手遅れなことがあると語った。

 ピッチデックに「AIを使ってゲームを作っています」と書かれていても,それは完全に無関係だ――いまやAIエージェントを使わない者は,そもそも会社を起こすべきですらないという。
 同氏が本当に問うのは,その会社が「以前は作れなかったもの」かどうか,そしてAIが良くなるほど会社も良くなるかである。モデルが良くなるたびに「収益が倍になる」「ユーザーの作るコンテンツの質が倍になる」と思える設計こそが,先述した好循環にあたる。

 マーケティングやセールスにAIを使うことも同じであり,そこに差別化はもうない。相手に接触する前に,公開情報からその企業を組み込んだデモを作って送る,話す前に価値を示すやり方――これこそが「AIエージェント・ネイティブなマーケティング」だというのが,同氏の主張だ。

 Rubin氏はあえて挑発的にと断ったうえで,結局のところ問題は「解決策を届けられるか」に尽きる,と論を戻した。飛行機で隣り合った,1億ドル超の売上を持つAI画像診断企業のCEOは,「共同創業者と数人を連れて,ソフトウェアスタック全体を静かに作り直している」と語ったという。
 LLM登場直前に作られたデジタルヘルス企業の多くは,コロナ禍の反動と,多数のソフトウェアエンジニアを抱える高い間接費に苦しんだ。乗り越えた企業は,人員配置を見直し,ダウンラウンドも辞さずに厳しい決断を下した企業だった。

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 ここからRubin氏はB2B,とりわけヘルスケアで巨大な論点となるAIガバナンスへと踏み込む。
 たとえば,病院内で1000ものエージェントが患者データを読み,医師に情報を差し出す状況を考えてみよう。それらのAIは本当に正しく動くのか,自院のデータで学習させた結果いつのまにか挙動がずれていないか,誰がアクセスできるのか,暴走したときにどう止めるのか,動作を監視する仕組みはあるのか――問われる点は山ほどある。
 しかも,こうした管理にどこまで慎重さを求めるかは,用途によって大きく変わる。たとえば英語から日本語への翻訳であれば多少の誤りは許されるが,外科医に「ここを切れ」と指示するとなれば,わずかな誤りも許されない。
 こうしたリスクの高低に応じて,ヘルスケアには従来2つの道が用意されてきた。ひとつは,最終的な判断を人間が下すことを前提とした意思決定支援(電子カルテなどがこれにあたる)。もうひとつは,ソフトウェア自体を医療機器とみなし,規制の枠組みで管理する道だ。

 だが,この2つの道はいずれも世に出す前の審査を前提としている。基盤モデルが週単位・月単位で更新されていく時代には,事前審査だけでは変化に追いつけない。そのため規制の重心は,市販後――つまり世に出したあとの継続的な評価と追跡へと移っていくというのが同氏の見立てだ。

 アメリカでは各州が独自の規制を持ち,医師の免許も州ごとだ。たとえばユタ州は,一部の自律型AIエージェントに医薬品の処方権を含む「医療ライセンス」を初めて与えたという。AIは医師のように免許を得るのか,医療機器のように扱われるのか,それとも人間を介した意思決定支援にとどまるのか――現時点ではこの3つの道が並存している,というのが同氏の整理だった。

 続くPetursson氏の話は,レガシーコードという主題で会場の関心を引いた。
 同社の存在理由は「仮想世界を現実の人生よりも意味あるものにする」という,20年前に書き留めた一文にある。「EVE Online」をリリースした当時,世界の上位500に入るスーパーコンピュータを自前で構築せねばならなかったという。

 以後20年,ビッグデータ,機械学習,そしてコーディングエージェントと技術が移ろうなか,「EVE Online」のコードは1000万行を超えるまでに膨らんだ。
 これは約30年をかけて延べ2000人が作り上げた,無数の機能とテクニカルデット,そして書いた本人が去って久しい「みなしごコード」の堆積である。

※テクニカルデット,技術的負債。短期的な都合で書かれたコードが後の開発を圧迫する状態を指す。

 そこにエージェントを投じる意義を,Petursson氏はこう語った。人間はコードから文脈を掘り起こす作業を概して嫌う。だが今,「ここには近づくな,ドラゴンがいる」と印の付いた領域にようやく足を踏み入れられるようになった。エージェントはそうした文脈の把握が驚くほど得意なのだ。

 同社はコードの大半をオープンソース化し,その作業を今週完了したという。狙いは,モデルの事前学習にコードを記憶させることで推論コストを節約する,いわば「ハック」だと同氏は説明する。

 ソフトウェアであるがゆえに,「EVE Online」は理屈のうえでは何でも作り変えられる――自分たちには無限ともいえる自由がある。だが自由が無限であればこそ,その自由をどう使うべきかを見極めるには,ほぼ無限の思考力が要る。人間とAIエージェントが融合したような存在になりつつあるのだ。生きるに値する時代だ,と同氏は締めくくった。

Justin Waldron氏(左)とHilmar Veigar Petursson氏(右)
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 このレガシーコード刷新の話に,Waldron氏が実感を重ねた。
 ゲーム業界では,なぜその1行があるのかを,15年前に去った書いた本人以外は誰も知らない,というコードが大量に存在している。「技術的負債を直すときが来たら,書き直そう」となると必ず起きるのは,基本機能をとりあえず動かして「8割方できた」と思い込み,実際には5%しか進んでいない,という事態だ。
 あの醜さはすべて,バグにぶつかるたびに貼られたダクトテープであり,仕様書に書かれず,現実に触れて初めて発見される制度的な知識なのだという。

 エンジニアを束ねる立場からすれば,コードベースの書き直しは20年来ずっと最悪の選択であり,ほぼ常に間違いだった。だがそれが「いま,本当に機能する」。巨大で狂ったコードベースも,正気を失わずに大規模なリファクタリングができる。
 「Zynga Poker」は出荷時に週末で書き上げたコードが仮のまま恒久化・化石化し,4度書き直そうとして失敗,1〜2年かけてもA/Bテストで元の指標に届かず諦めた――そんな悪夢が,いまや半分は一発で動く。

 Fisher氏は,ゼロから会社を始めるなら,問いは「ROIはいくらか」ではなく「なぜやらないのか」だ,と語った。
 「ゼヒトモ」ではAIは常にミッションの中核だという。多くの企業にとって,収益だけを見ればAI投資のROIは著しくマイナスだが,コーディングとカスタマーサポートという分かりやすい商用ケースは,一定規模の組織にほぼ浸透している。それ以外は,インターネットが登場したときと同じく,新しいツールの使い方を学ぶ教育コストなのだという。

 より身軽なAIネイティブのスタートアップという存在論的脅威に対して,事業を作り変えないこと自体がリスクであり,いま利益だけのためにやるべきものではない,と同氏は述べた。

 議論の終盤,Waldron氏はトークンをKPIに据える誤りを鋭く突いた。
 大企業のマネージャーの多くが,自分たちが十分にAIを使っていると証明しようとしてトークン使用量を測り始めたが,それは活用度を測るものであってROIを測るものではないという。入力ではなく出力を測れ,と同氏は釘を刺した。

 締めくくりに立った大久保氏は,あるROIレポートを引用した。FacebookやUberが予算を使い果たしているという見出しが並ぶが,深く見ればそれはトークン量をKPIとし,従業員をトークン使用量でランク付けした結果だった。トークンを多く使う上位1%の従業員は一人あたり年9万ドルを費やす一方,中央値・平均では月わずか10ドル程度しか使っていない。

 企業は価値の生み出し方をまだ見つけられておらず,いくらでもコードを吐けるが,それで金を稼ぐ方法を知らない。

 「AIは割に合わないのでは」という見出しの氾濫と,Silicon Dataによるトークン指数が20%下がったり10%上がったりする振れ幅。この二極化こそ,いまの局面を映すデータといえる。

 最後に大久保氏は聴衆へ静かな警告を残した。AIやエージェントをワークフローに組み込むべきだったと後から気づいたのでは,企業にとって手遅れになる――と。その問いを宿題として残し,セッションは幕を閉じた。

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