企画記事
La MirageのAmie氏とROBINのまんがコーナーのROBIN氏を招いた座談会「MMO今昔物語」。「UO」「EQ」「WoW」……MMOの黄金時代を駆け抜けたプレイヤーたち
今回はそんなUOの20周年を記念して……というわけではないが,MMORPGの黄金時代と言われる1990年代後半から2000年代前半にMMORPGを遊び,その面白さを世に発信していた“あの人たち”を招いた座談会を実施した。ちなみに,10周年のときには元ゲームマスターによる座談会を実施している。
1人目は「鉄拳」シリーズや「サマーレッスン」などのチーフプロデューサーで,4Gamerでは不定期連載「原田が斬る」でお馴染みの原田勝弘氏。ご存じの人もいるかもしれないが,原田氏はLa Mirageというギルドのマスターであり,活動の様子を面白おかしく綴ったギルドサイトと共に,当時のMMORPG界隈でMirageの管理人Amie(エイミー)で名を馳せた人物だ。
2人目は「ROBINのまんがコーナー」というサイトでUOのマンガ「BRITANNIAの勇者たち」と「EverQuest」のマンガ「みんなNorrathの空の下」を描いていたROBINこと一柳宏之氏。「エースコンバット04」のディレクターを務め,その後のシリーズでもプロデューサーを務めている。現在は漫画家として,自身のサイト「うぃろーず漫画製作所」(外部リンク)で活動している。
さらにMMORPGにも造詣が深いライターの徳岡正肇氏にも加わってもらい,凄まじく濃いメンツでの座談会を行ってもらった。そのコンセプトはずばり「MMO今昔物語」だ。
当時の昔話やPK談義に留まらず,未来のMMOのあり方や,理想のカタチまでが語り尽くされた濃厚な座談会となった。書くのに困る話も多かったが,同時代を過ごした往年のプレイヤーには懐かしく,当時を知らないプレイヤーには新しく感じてもらえるだろう。どんな話題が飛び出すのか,ROBIN氏の描き下ろしマンガもあるので,ぜひ楽しみにしながら読み進めてもらえれば幸いだ。
なお,今回の座談会では最終ページに最低限の用語集を用意したので,読み進める一助になれば幸いだ。
「Ultima Online」――すべてはここから始まった
本日はありがとうございます。念のため説明しておきたいのですが,4Gamerももともとは,編集長のKazuhisaさんが立ち上げた個人サイトで,Ultima OnlineやEverQuestなど往年のMMORPGは大好物だったんですよ。いまでこそ総合ゲームサイトになってますけど,昔は洋ゲーやMMORPGなどの記事をメインに掲載してたんですよね。
そういった経緯もあって,今回,昔を懐かしむことをテーマにした座談会をしようという話になったわけです。
小難しいテーマがあるわけでもなく,「Ultima Online」が20周年ということで,MMORPGというか,オンラインゲームを含めた昔話をしようという主旨の座談会ですので,よろしくお願いします。
ということで,やっぱり皆さん,「Diablo」(※このタイトルはMMOではない)からオンラインゲームを始めた感じですか?
「Meridian 59」なんかは会社で眺めてましたけど,本格的にプレイヤーとして始めたのは僕はDiabloかなぁ。
一柳宏之氏(以下,ROBIN氏):
Diabloは会社のみんながやってて,その話を聞いて興味があったんですけど,僕がやろうと思ったときはみんな「Ultima Online」を始めてたんです。そのタイミングで僕もUOを始めました。その後にDiabloもやったんですけど,初めてというならUOでしたね。
4Gamer:
ある意味で幸せな,もしくは不幸な初体験ですね(笑)
仲間と一緒にダンジョンに潜ったり,殺されて装備を根こそぎ取られたりっていうDiabloの話を聞いて,そんなゲームは聞いたことがないと。その人たちがUOを始めるっていうから,ちょうどいいタイミングだなと思って。
原田氏:
僕とROBINさんは会社が一緒だったんですよ。当時はWebでマンガを描いてるあのROBINさんだってことは知らなかったんですけど。
ROBIN氏:
そうそう。原田くんとは部署が違ったから,あまり接点もなかった。
原田氏:
フロアも違うんでエレベーターでたまに会うくらいでした。僕は「エースコンバット」シリーズが大好きだったんで,そのディレクターとしては一柳さんを知ってたんですけど。
ROBIN氏:
僕も「鉄拳の原田くん」としか知らなかった。
原田氏:
お互いそうでしたよね。
社内でオンラインゲームのブームが起きたのが「Diablo」で,当時のゲーム業界って若いので,良くも悪くもいろいろとゆるかったんですよ。
朝,会社に来てない奴が「アイテム回収できません」って電話をかけてきたり(笑)。普通の会社なら怒られると思うんですけど,僕たちは「大変だ! 助けに行かないと!」って,つい思ってしまうわけなんです。
ROBIN氏:
優しいよね(笑)。アイテムの価値をみんなが理解してるからだろうけど。
うちの部署ではゲームの中に上司が現れて「会社に来い」って言われたりした。
原田氏:
デジタルに対する価値観の問題なんですよね。デジタルデータの価値観がちゃんと一般化したのは「電子マネー」の普及以降だと思ってるんですけど。当時,そういう価値観を共有してる人には「アイテムが回収できません」っていうのがちゃんと「駅に財布を忘れてきました」とか「財布落としました」と同じ話に聞こえる(笑)。
4Gamer:
なるほど。
原田氏:
デジタルデータの価値感,それこそ貨幣換算できるレベルでの価値観を世間より先に知ることができたのは,クリエイターとしてすごく大きかった。みんながSuicaを使い始めて,「ようやく世界が追いついた」って思いましたよ(笑)。
4Gamer:
当時は意識していなかったですけど,確かにそうかもしれません。
原田氏:
ハマってる頃って一日中ゲームをするわけじゃないですか。それこそ年末年始で実家に帰ったときでも。家族は「ただ面白いからやってるんでしょ! いい大人なのに!」っていうけど,そうじゃないと。「自分の家を正月3日空けて,帰ってきたときに知らない人が勝手に住んでたらどうするんだ!」って話なんですけど,デジタルの価値感がないと,これはちょっと理解できないんですよね。
(一同笑)
原田氏:
俺は遊んでるんじゃない,自分の資産を守ってるんだよ!
徳岡氏:
UOの不動産って,現実の不動産的な価値観でしたからね。
僕はLake Superiorっていう,βテスターが一番多いサーバーでやってたんですけど。そこの不動産相場が高かった。
4Gamer:
お,LSですね。
原田氏:
そう。LSです。LSって聞いてみんなの頭の中でつながるってすごいですよね(笑)
今思えばですけど,UOってどこに住んでるかでヒエラルキーがありましたよね。
ROBIN氏:
わかるわかる。
原田氏:
現実世界で駅前一等地とか白金あたりに住んでる感じで。LSだとVesper近くに住んでると田舎者扱いされたり,逆にTrinsicの南に住んでる人はセレブみたいな。
徳岡氏:
Trinsicは綺麗ですからね。
ROBIN氏:
Minocの周りは物騒だったよね。
原田氏:
Minocは僕でさえ「え! よくあんなとこ住んでるね!」って思わず言ってました。
ROBIN氏:
あそこ殺されるんだよね。
原田氏:
Britainの周りにみんな住みたがるけど,「あそこは烏合の衆とミーハーが住むところ」だとか「リスクを分かってないやつが住んでる」とか言われるし。
ほんとそういうのがあったんですよ! ○○に住んでる人は戦う力も財力もないから逃げてきたんだなとかすぐ言われちゃう。恐ろしいことに仮想世界でも社会が構築されていく過程で,そういうヒエラルキーというかレッテル貼りが現実社会の如く生まれるというのを目の当たりにしました。
ROBIN氏:
辺境に住む人は,リコール使えない人達とか言われてたりね。
原田氏:
僕は「鍛冶職人の富とプライドを示すんだ!」とか言って,BritainやVesperの中間地点にあるクロスロードにタワーを建ててました。PKも商人も,何もかもが通る危ない場所で通称「スナイパーストリート」とか呼ばれていた場所なんですけど。「俺は財力も力もあるからあえてここにタワー建ててるんだ!」みたいな。
(一同笑)
原田氏:
UOって人間のイヤなところが出る側面がありましたよね。実際の社会に近いというか。現実の戦国時代や中世時代の身分制があったときとかって,こういう感じだったのかな? と思うこともしばしばありました。
ROBIN氏:
人間に場所と道具を与えると,現実と似たようなことになるって思うよね。
原田氏:
過程や意図は違っても,似たような光景になるんですよね。
PKにモノを取られたくないから,取られてもいいような装備で木こりや鉱夫をすると,同じような格好で同じような価値観のコミュニティができていく。僕は意地でもロールプレイしたくて,鉱石を掘りに行くときも必ず白馬を連れて,きれいなドレスを着て,お金持ちオーラを出してました。
ROBIN氏:
でも襲われるよね。それ。
原田氏:
もちろん,襲われます。
だから襲われないようにいろいろやるんですよ。PKKギルドのマスターとICQで連絡を取ったり。
徳岡氏:
ICQ! 懐かしいですね。
その裏ではPKギルドの人たちとも仲良くなって,鍛冶屋だったから両方に武器を売るんです。そうすると,両方から襲われない状況ができるわけですよ。野良のえげつないPKに襲われたときは,PKKギルドとPKギルドの両方に賞金渡して復讐してもらうっていう,ホントに自分のイヤなところが全部出たゲームでしたね。
現実世界では絶対やらないようなことや発想が出てきちゃうんですよね。
徳岡氏:
一種の社会実験みたいなところまで行ったのはUOが最初で最後だったのかなと思います。ファンタジーの世界に人間が暮らすとこうなると。
原田氏:
社会実験! なるほど,させられてた(笑)。
ROBIN氏:
UOは今に至っても特異な存在ですよね。UOで初めてオンラインゲームに触れた自分にとっては,ゲームではなくて,もう1つの世界というか。
原田氏:
本当の意味でのロールプレイングですよね。
ROBIN氏:
いい年した大人が毎晩,あそこに遊びに行こうぜってBritainの銀行前に待ち合わせたりとか。レアアイテムを手に入れたりとかって目的もないのに,ふらっと遊びに行くんだよね。
原田氏:
あのときはゲームデザイン上でのレアアイテムも大してなかったですからね。ステータス的に失うものはあったりしましたけど,リカバリーできるんで死のリスクはあまり高くなかった。時間を失うことが最大のリスクだったかな。
ROBIN氏:
そうだね。
原田氏:
冒険に行っても「怖い」って言ってるだけで全然奥まで進まなかったり。何か月怖いって言い続けてるんだと(笑)
ROBIN氏:
街から出るのも怖くて,僕が外に出たのは始めてから2〜3か月経ってからだった。
原田氏:
僕もそうだったんですけど,その間,街で何やってたんでしょうね。
ROBIN氏:
銀行前でずっと釣りしてた(笑)。釣りでスキル上げたり,木偶を殴って何かを上げたりっていうのが楽しかったんですよね。
徳岡氏:
あの頃は新鮮さもあって面白かったですね。
ROBIN氏:
何が面白いのかというのをゲーム開発者の目線でも考えてみたんですけど。UOって画面の端を人が通るじゃないですか。その人がNPCじゃなくて世界のどこかでプレイしてる人間ってだけで,今自分のことを見たかもしれないし,街を出たら殺してやろうと思ったかもしれないって想像しちゃうんですよね。人間の意識が存在する世界だからよかったんです。NPCだとそこまで想像が膨らまないから。
徳岡氏:
Britainの銀行前の釣り場は,たしかガードエリア外でしたよね。
原田氏:
そうでしたね。ガードエリア外っていうメッセージが出るだけですごい緊張する。
ROBIN氏:
釣った魚を積んでおくと,誰かがスッと盗るんですよね。「どうぞ」っていうとお礼を返してくれることもあって。そういうのが起こるだけで,生の世界の感動があるんですよ。
原田氏:
律儀にお金を払おうとする人もいるし。
徳岡氏:
いましたね。UOってそういうところが野放図というか「こういうゲームにしよう」っていう意図があまり見られないから,いろんなことが起こって面白かった。
ROBIN氏:
その後に出たゲームだと,レベル上げのためにあっちに行くんだろうとか,目的が絞れちゃうんですよね。
徳岡氏:
目的がハッキリしてるので,予見の可能性が上がってますね。
ROBIN氏:
UOは本当に無限に広がってるというか,リチャード・ギャリオットはゲームではなく世界を作りたかったんだなと感じたものでした。
原田氏:
昔,UOのプロトタイプがエレクトロニクス系のショウに出展されたときのテレビを見たことがあるんです。たしか大学生のときだったかな。そこでリチャード・ギャリオットは「これからのRPGは悪人も,商人も,その辺のおじさんも,みんなプレイヤーになる」って言ってたんですよね。
僕は昔からUltimaシリーズのファンだったんですが,当時はインターネットも整備されてない時代だったんで「何言ってんだろう?」と思ってちゃんと理解できなかった。UOが出てきたときに「これか! なるほど!!」って。僕は中二病的な感じで,当初はPKのロールプレイってカッコイイかも! と思っていたんですけど。
(一同笑)
原田氏:
鉄拳とかも悪人ばっかり出てくるじゃないですか。それもあって「俺はUOで悪人になるぜ!」って思って最初やってみたんですけど,人ってなかなか悪人になれないんですよ。
ROBIN氏:
あー,うん。怖いんだよね。悪事って。
原田氏:
それもありますよね。僕は怖いより先に正義感が出ちゃったんです。
会社の先輩が斬られるのを見て「冗談じゃない! なんでこんなことされなきゃいけないんだ! 悪人死すべし!」って。あれ?どうやら自分には悪人を演じる素養がなさそうだと。
初期のUOは相手がPKかどうかも分からないシステムだったんですけど,取引はたくさん起こるんですよね。魔法の秘薬を買ったりだとか,集めた素材を売ったりだとかで,どうしても誰かと関わる必要があった。
そういう当時の状況である事件が起きたんです。
ある日,森の中でローブを着た人に出会って「この武器直せる?」「街に戻ったら直せるよ」っていうやり取りをして,街に戻ることになったんです。
街に戻るためにはリコールの魔法を使うんですけど,そいつは間違ってファイアボールを唱えちゃって。「何やってんだ!」って凄い警戒したら,相手は「間違えた!」って言ったんですけど,焦ったのか,さらにファイアボールを唱えちゃったんです。僕らはそいつがPKかもしれないから,「ああっ! やられる前にやるしかない!」ってなって焦って殺しちゃった。
あとになって彼が本当に間違えて唱えてたことは分かったんですけど,つまるところ僕らは殺意のない人を殺めてしまったわけですよ。
4Gamer:
不幸な事故としか……。
原田氏:
でもそのときの罪悪感が凄くて。当然相手は凄く怒ってましたし,謝り倒しました。
殺しちゃったことの罪悪感はとにかく凄かった。次の日ログインするのも気が重かった。「俺は今日も誰かを殺すハメになるかもしれない」って。まさにウォーキング・デッドだとかの終末世界にいるような感覚に陥って。あんな感覚がゲームであったのは僕の中では後にも先にもUOだけですよ。実際MMOとしては世界初の体験をみんなしていた時期だったし。
ROBIN氏:
街から出て,初めて殺したり殺されたりしたときも,世界のリアルさを強く感じた瞬間でした。本当に手がガタガタ震えるほど怖いんですよね。
徳岡氏:
僕も初PKのときは手が震えましたね。
ROBIN氏:
でも殺す方もいろいろ考えてて面白かった。
部署の先輩の話でマンガにも描いたんだけど,道にパンがずーっと落ちててさ,それをもしゃもしゃ食べながら進むと,その先にPKが待ってたとか。
原田氏:
ギャグみたいなことが起きるんですよね。毎晩遊んでた会社の先輩の話ですけど,道にゴールドがずーっと落ちてて,それを拾いながら歩いてたんですよ。当然,途中で罠に違いないと気づいてたんですけど,ゴールドの量がどんどん多くなるから止められなくて。そしたら,案の定,奥の屋敷からデーモンを連れた人が出てくるわけですよ(笑)。
ROBIN氏:
そこまでゴールド拾いを楽しめたなら,もう騙されてもいいよね(笑)。
徳岡氏:
殺されて本望というか(笑)。
ROBIN氏:
でもそういうのって,後半は笑えるようになったけど,始めたばかりの頃は心の底から怖かった。普通の対戦ゲームはルールが決まっててヨーイドンで戦うけど,UOはそうじゃなくて,相手が何者かもわからない。わからないからこそ,「ちょっとまった! 見逃してくれたらあとでいいものあげる!」とか,交渉で何とかなることもあるんだよね。
徳岡氏:
そうですね。
ROBIN氏:
恐怖映画とかホラーゲームでよく使われる手法なんですけど,自分が絶対に逃げられない状況だと,恐怖を感じないんですよね。まだ逃げられる場所があるから怖い。
原田氏:
望みがあるから,ですね。
ROBIN氏:
意図していたのかはわかりませんけど,初期の「バイオハザード」ってそれができていたんですよね。上を押したら前に進むっていうラジコン操作だったじゃないですか。初めてやる人は操作がまごつくと思うんですけど,逃げられる希望があるうえでのまごつき具合が恐怖を増幅させるんですよね。
UOもただ殺されるだけだと怖くないけど,逃げる道があったり,交渉で何とかなっちゃったりするから,本当に怖い。トークで何とかなったときは自分をすごく褒めてあげたくなるし。
原田氏:
PKにもいろんな奴がいて,木こりだけを狙うような最低なヤツも中に入るんですよ。先輩が木こりで,そういう輩から身を守るために8人くらいで作業してましたね。
ある日,あまりにも殺されるから腹が立って,復讐することにしたんです。いかにも「カモ」って格好をして,そいつが来たときに,秘薬を盗んで魔法を封じて,一斉に鎧を着て攻撃したんです。そいつは逃げたんですけど,崖に追い詰められて,それをみんなで囲んで素手で延々と殴り続けて。
そしたら相手は死ぬ間際に「I'm sorry」って言ったんですよ。
(一同笑)
原田氏:
冷静に考えると彼が「I'm sorry」なんていう必要ないんですよね。匿名社会なんだし,サブキャラクターかもしれないし,そもそも許されるわけないだろうし,許してもらう必要もない。でもその言葉でそのPKが凄く人間的だと感じたんです。自分に向けられる大勢の敵意に罪悪感を感じたのか,恐怖を覚えたのか,わからないですけど,画面の中で繰り広げられる因果応報の光景にショックで思わず「I'm sorry」って心の底から出た言葉だったんだろうなと。その話は今でも語り草です。
PKにまつわる逸話は本当に事欠かないですよね。
これは聞いた話なんで盛ってる可能性はあるんですけど「ヌーディストパーティージェノサイド事件」っていうのがあってですね。当時,日本人がUOを始めるのが遅かったんで,海外勢に狩られる立場だったんですけど,それに業を煮やした日本人が結託して復讐することにしたんです。
「ヌーディストパーティーをやるよ!」っていうチラシを配って,それでパーティーにたくさんの人が集まって,良い雰囲気になったときに,完全武装の精鋭4人が入り口を塞いで皆殺しにする。
原田氏:
ひどい(笑)。でもあったんでしょうね。あり得る話です。
ROBIN氏:
それって集まったのは悪人なんですよね?
徳岡氏:
いやいや。そういうわけでもなくて,純粋にパーティーを楽しもうと思って参加した人もいると思うんですよ。
ROBIN氏:
あー……。
原田氏:
要は日本勢の存在感を見せつけるためだけのジェノサイドだったと。
徳岡氏:
パーティーの趣旨に賛同して集まった粋な人たちを皆殺しにするという。お前たちの復讐の刃はいったいどこを向いてるんだと(笑)。
原田氏:
面白いことに,そういう事件会場にあとから裸で駆け込んでくる,まったく関係ない人もいるんですよね。俺も入れろ! って。
徳岡氏:
いますね(笑)。
原田氏:
お前はいったい何者なんだと(笑)。
ROBIN氏:
PKに手が震えるほど恐怖する段階を過ぎると,今度は死ぬことや殺すことを楽しむ方向になるんですよね。別にリアルで死ぬわけでも,財産を失うわけでもないし,PKができるんだったら,こんな風に楽しもうって人が出てきて,自分もそれに乗っかる。殺されるくらいなら自爆して死のうとか。殺す人も殺し方を工夫してくれるというか。
徳岡氏:
さっきのゴールドのPKみたいな。
原田氏:
有名なPKとかは特にそうでしたよね。雑魚は狙わないとか,よく観察してみるとポリシーがあることが分かる。憧れを抱かれてたり,怖がられていたりと,変な魅力がありました。
4Gamer:
PKって普通には見かけないですからね。
ROBIN氏:
有名なPKは「お化け屋敷のオバケ役」をやってくれる人みたいな。
一同:
あーなるほど。
原田氏:
本に自分の名前を書いて渡すやつとかいましたよね。
ROBIN氏:
いたいた!
UOって会話ができるし,そのうえでトラップボックスで爆殺とか,毒薬で毒殺とか,爆弾で殺したりとか。人を殺す,殺されるというのをいかに楽しくできるか,みたいなのばっかりだったよね。なんなのあのゲーム(笑)。
原田氏:
これは前にも話したことあるんですけど,PKが職人を拉致して武器を作らせるとかもありました。PKは街に入ることができなくて,武器を修理できないんですよね。
当時はPKした履歴もアカウント共通で,別キャラでも街に入れなくて,プレイ環境を整えるのもコストが高い時代だったんで,セカンドPCの別アカウントでやるっていうのも稀な時代で。で,彼らPK集団が最後に取った行動が「職人を拉致する」ってことだった。でもこれってすごくないですか?
徳岡氏:
そういう選択肢も選べるというのが,UOの自由度の高さを表わしてるとも言えますね。
原田氏:
今だったら絶対できないですよね。ついてこいって脅されても「何言ってんだバーカ!」ってブラックリストに入れて終わり。守られてるじゃないですか。でも当時のUOはそうじゃなかった。ゲームメカニズム的にも拉致できるだけの仕組みになっていた。
ROBIN氏:
原田くんもそうだと思うけど,ゲームを楽しもうという気持ちのほかに,開発者の目線でどうせやるなら楽しませようって思いがあったんだよね。
自分が描いてたマンガにも「すべてのBRITANNIAの勇者たちよ,エンターテイナーであれ」っていう気持ちを込めてて。そういうメンタルでいれば殺されても悔しくないじゃない。
それでも持ってる財産にあまりにも価値があれば怒るし,嫌な気にもなるけど。
原田氏:
悔しいですよ。何か月もかけてみんなで建てたタワーが玄関前に隠れてたコソ泥に鍵をすられただけで「はい! お前のタワー人質! 身代金払え!」ってなって,そりゃ「殺してやるー!」ってなる。
ROBIN氏:
最初の頃は鍵をスられただけで,家が盗まれるレベルの大惨事だったよね。後にBANコマンドが出来たりしたんだけど。
原田氏:
それまでなかったですもんね。
ROBIN氏:
人の善意に頼るしかなかった。
原田氏:
システムでほとんど保護されてないし,そもそも安定性も高くなくて。ぶっちゃけPK以前の問題ですよ(笑)。
サーバーがダウンしたときなんかは「何日間巻き戻るんだろうなぁ」って考えてた。
徳岡氏:
ロールバックが当たり前でしたからね。
原田氏:
30分とか1時間だとマシな方で,6時間とか普通にあった。本当にひどいときは数日間巻き戻ったり。自分が鍵をドラッグして家のドアを開けようとしたところにロールバックしてて,ログインしたら玄関に鍵が落ちてたことがありました。「あっぶねー!」ってすぐに拾いましたけど(笑)。
徳岡氏:
マウスでアイテムを掴んでるときに落とされると,アイテムが地面に落ちる仕様だったんですよね。
原田氏:
そういうのがきっかけになって,家に入り込まれた人の記事が当時あったんですよ。僕はそれを見て大爆笑したんですけど。
知らない外人が勝手に住み着いて,部屋の手帳に日記を書くんです。家主はその日記に「頼むから出て行ってくれ」って伝言を書くんだけど,住み着いた奴は「嫌だ,俺はここが気に入った。ところで昨日は毛皮をたくさん取ってきたね」とか書いてきて,変な交換日記になってたらしいです(笑)。
そういうひどい居候の話があったんですけど,そういうのってシステムが穴だらけだったから生まれたドラマなんですよね。
ROBIN氏:
システムで保護されないところでは,人の善意がほんとに貴重なんだよね。
原田氏:
詐欺師とか普通にいましたからね。
ROBIN氏:
詐欺られたときの忌々しさたるや。
原田氏:
システムは穴だらけでしたけど,ゲームマスター(以下,GM)がエンターテイナーでしたね。
4Gamer:
あの頃はそうでした。ゲームマスターがイベントを企画して,役者として動くということもしてましたし。
原田氏:
床に置いたアイテムが消えたことがあったんでGMを呼んだら,羊の姿で現れて玄関をノックして「やぁ! さっき話した僕だよ!」って。床下に潜ってアイテムを拾ってくれて「気づいてなかったかもしれないけど,こんなモノも落ちてたよ!」ってたくさん床に並べてくれてね。帰り際も「アディオス!」って,わざわざ火柱の中に消えるという徹底ぶりでした。
ROBIN氏:
GMコールひとつとっても楽しませようとしてくれてたよね。
原田氏:
取調室や牢屋とかもありましたよね。過ぎた暴言をまき散らす人とかは牢屋に放り込まれてた。僕も暴言を言われたことがあって,通報したら事情聴取のために取調室に連れていかれたことがあって。容疑者と別々の部屋で聴取されて,最初は彼も認めてなかったんだけど,最終的には認めたんですよね。そしたらGMが「彼が言ったことを認めたよ。彼を許すかい?」って。
また会うこともあるだろうから「二度と言わないなら許す」って言うと,「それが一番いい解決方法だね」って,隣の取調室まで連れていかれて「ここで仲直りしてください」って言われて,お互い「*shakehands*」ってチャットして仲直りです。
ROBIN氏:
面倒見いいよね。
原田氏:
今ってメールで運営とやり取りするだけで,規模的にもなかなかこんなことできないじゃないですか。当時,暴言を言われたときは凄く腹が立ったんですけど,あそこまでGMにやってもらえると逆に良い思い出になる。
システムに穴があったからこそ,ああいう手厚いサポートをしなければいけなかったという面もあるんでしょうけどね。
ROBIN氏:
UOのあとってレベル上げとかアイテムとかで人を引っ張ってくるゲームばかりになっちゃって,UOみたいなゲームってほとんどなかったんですよね。「Second Life」とかはそうなのかな?
原田氏:
Second Lifeもちょっと違う気がします。ロールプレイの種類が違うというか。
徳岡氏:
強いていうなら「EVE Online」がそうなのかなと。ほかにごく最近の例でいえば,MMOとはちょっと違うんですが「ARK: Survival Evolved」(PC / PS4 / Xbox One)が一時期のUOを彷彿とさせましたね。
ROBIN氏:
なるほど,あったんですね。
徳岡氏:
UOって自由度が非常に高くて,ロールプレイも含めて本当に何でもできたんです。仲良くみんなで楽しんでる人がいる一方で,PKもいるし詐欺師もいる。そういう人たちが居たからこそ,スリルがあって面白かった。
ほとんどのプレイヤーにとってUOが「初めて遊んだMMORPG」だったから,というのもあるんでしょうけど,未知の体験だからこそ,酸いも甘いも全部受け入れて試行錯誤して遊んでいましたよね。
- 関連タイトル:
ウルティマ オンライン
- この記事のURL:
キーワード
(C)2014 Broadsword Online Games, Inc.
(C)2018 Electronic Arts Inc. All Rights Reserved.