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「UO」のリードデザイナーRaph Koster氏が新たなMMOの制作スタジオを設立。現代にUOのようなサンドボックスタイプのMMOは通用するのか?
本作の制作陣と言えば,ロード・ブリティッシュことRichard Garriott(リチャード・ギャリオット)氏,ブラックソーンことStarr Long(スター・ロング)氏,そしてリードデザイナーだったRaph Koster(ラフ・コスター)氏を思い起こすのではないだろうか。
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そのKoster氏が,2019年10月にGameindustry.bizにて“MMO”の制作スタジオであるPlayable Worldsの設立を発表し,合わせてインタビューに答えている。そのテーマは,昨今のMMOがUOや「Star Wars Galaxies」などから受けた,“正しい教訓”と“間違った教訓”についてだ。
Gameindustry.biz「Raph Koster氏インタビュー」原文(英語)
興味や愛着があるからその世界に戻る
Koster氏はUOの制作に携わっているとき,ゲーム中にクラフト(生産)システムがあることを他社にからかわれたそうだ。しかし,今ではどこにでもクラフト要素は取り入れられている。同様に,ほかのゲームからMMOに取り込める教訓もあるのだと話す。
例えばMMOは1回のプレイが重く,2時間は必要になるような作品でなければならないという印象がある。しかし,奥深く魅力的なモバイルゲームやインディーズゲームを見れば,何時間もかけて遊ぶ必要がないことが分かるとしている。
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そして,ゲームを作っている多くの人々が“古いMMO”から間違った教訓を取り入れたとKoster氏は述べる。それは「エンゲージメント」,要はプレイヤーに継続的なログインを促す仕組みについてだ。
氏はゲームの設計時に,どのようにして毎日ログインしてもらうかということは考えず,「その人が来月に戻ってきてくれればいい」というアプローチを取っていたそうだ。そのため,一定の活動を推進するような施策(デイリー報酬などがそれに当たるだろう)は行わず,架空の世界に興味や愛着を持ってもらい,プレイヤーが戻りたいと思えるようにしたのだという。
また,ルートボックス(ガチャ)訴訟やゲーム障害に関する議論にからめて,「サービスとしてのゲーム」はすべて「コミュニティを構築」「長期にわたっての構築(運営)」「プレイヤーとオペレーターとの信頼関係の構築」するという考えに基づいて行われる必要があるKoster氏は述べる。ルートボックス周りの法律や訴訟に発展している事実は,どこかで間違った方向に進んだことを示しているのだという。
「UO」はどのようなゲームだったのか
さて,このインタビューの中でKoster氏は,いまのMMOが「パーティを組んで,モンスターを倒してレベルアップ。これを繰り返す古いテンプレートに組み込まれている」と話す。RPGとして当たり前のシステムではあるが,確かにMMOは「EverQuest」以降,「World of Warcraft」から「ファイナルファンタジーXIV」まで,このシステムがほぼ基本となっている。
しかし,複数の世代が「Minecraft」などのサンドボックスタイプのゲームを体験して成長している今,オンラインゲーマーはハックアンドスラッシュでレベルを上げていくゲームよりも,“豊かな異世界(alternate worlds)”を望んでいるのだとKoster氏は指摘する。つまり,UOのような“仮想世界”を指しているのだろう。そして,それがPlayable Worldsで構築しようとしている作品となるようだ。
Koster氏がどんな世界を構築しようというのか,いろいろと気になるところだが,そもそもUOはどのようなゲームだったのだろうか。ここで,MMO黎明期であり比較的初期(1998年〜2000年)のUOの状況を少し思い返してみたい。
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ゲームとは,プレイヤーが何らかのゴール/クリアを目指して目的を1つずつ進めていくものだ。しかし,UOではそうした目的が提示されることはない。唯一,目的があるとすれば,それは“その世界(ブリタニア)で生きること”だろう。
もちろん,ステータスやスキルを成長させてキャラクターを強くしたり,お金を稼いだり,家を建てたりといった個人の目標は自身で設定できる。しかし,いずれも必須ではなく,ブリタニアから去るタイミングも含めて,ほぼすべてプレイヤー次第となっている。
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ただ,その自由さゆえに,不便なことがいろいろと存在した。当時のゲームではありがちだが,サービスが始まったばかりのUOにはチュートリアルといった気の利いたものは何もない。
キャラクターを作成してログインすると宿屋の前にポツンと出現するが,目的が提示されないため,多くのプレイヤーはここで「何をすれば……」と困惑してしまう。ゲームを始めた瞬間からある意味で自由だったわけだが,何をしてもいいと言われるとかえって困ってしまうものだ。
そうして「とりあえず,街の外に出て戦うか」と考えて森へ足を踏み入れると,赤い名前の人達……PKに襲われる(実はNPCという場合もあったのだが)。のちに初心者用の街や,初心者にアドバイスするコンパニオンといったボランティア施策(※)が追加されたものの,基本的にはプレイヤー自身が考えて遊び,トラブルも当事者間同士で解決しなければならない。そんな初心者の保護などは何も考えられていない,過酷な……ある意味で現実的な世界だったのだ。
※UOではGM(ゲームマスター)のほかに,一般プレイヤーからボランティアとして募ったカウンセラーなどがユーザーサポートを行っていた。
現世代の作品の多くは,家をインスタンス化したり,インスタンスゾーンに購入できる土地が用意されたりと,できるだけ多くのプレイヤーがハウジングに触れられるような仕組みを用意している。当時の土地争いの様相を考えれば,当然の帰結といったところだが……仮想世界として考えれば,やはり家はその世界の中で持ちたいとも思ってしまう。悩ましいところだ。
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それにしても,なぜそんな過酷な世界で筆者は夢中になって遊んでいたのだろうか。自分自身もそうだと思うのだが,当時のプレイヤー層を考えると,まだPCの所有が当たり前ではなかった時代に(Windows 95/98の)PCを所有していて,インターネットにも接続できる,まだまだ狭い範囲の人達だった。日本に限れば,さらに深夜帯(テレホタイム)に遊べて,しかも日本語に対応していない洋ゲーを手に取るようなフロンティア精神を持つ人達でもあったのだ。
UOは,そんな人達の前に現れた未知の存在だった。だからこそ目を輝かせて「何かよく分からないけど,とりあえず何かをやってみよう」と開拓し,コミュニティを築いていったのだと思う。
だが,時間が経ち,日本語のサポートが厚くなっていくとプレイヤー層も変わり始め,ネガティブな要素を嫌う傾向が強くなる。筆者自身もPKなどのネガティブな存在は疎ましく感じるほうだったが,その存在をゲームとして否定はしなかった。しかし結果的に,PKができない世界とできる世界に分けられてしまう。何だかんだ言っても遊びやすいほうに流れてしまうのは,人の性(さが)というもの。その後どうなるかは,想像に難くないだろう。
今からサンドボックスタイプの“MMO”は楽しめるのか?
そんな経緯もあって,MMOは遊びやすさや分かりやすい目的を好むプレイヤーに向けたものが主流となっていく。つまり,のちにサービスが始まる「EverQuest」のようなレベル制,かつクエストで進むようなタイトル(いわゆるコンテンツ主導型)だ。誤解を恐れずに言えば,より“ゲーム的なMMO”が求められるようになったのだと思う。もっともEverQuestは,UOとは別の意味で過酷なゲームではあったが,その後継となる作品群は,より遊びやすいものへと洗練されていった。
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もちろん,UOのようなタイトルを制作しようという動きもなかったわけではない。しかし,結局のところ明確に「UOの後継」と呼べるサンドボックスタイプで,成功したと言える作品は登場していないし,そんな話が出てきてはいつの間にか立ち消えていた。何より,これだけ遊びやすさなどが洗練されたゲーム,エンターテイメントが多く登場してきたなかで,制作する側も遊ぶ側も「UOのようなもの」を選ぶハードルがかなり高くなっているのは間違いないだろう。
Koster氏の言うように,確かに昨今はサンドボックスタイプのゲームが人気となっており,それに触れたゲーマーも多い。しかし,その中で不特定多数の他者との競争が明確に存在するタイトルは多くないと思う。実際にプレイヤーとしては,自分の世界の中で邪魔されず,自由にクラフトし,生活したいと思うのではないだろうか。
例えば,自分の世界を作ったその先で他者との交流があれば,それは楽しそうだ。しかし,最初から他者と同じフィールドで世界を作っていくのは,結構なストレスを感じてしまうのでは……と思ってしまう。
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そうした懸念が考えられる現状で,どのようなサンドボックスタイプのMMOをKoster氏が制作しようとしているのか。Koster氏の発言を鑑みれば,新作は現世代に即したような,比較的に短時間で遊べて,かつプレイヤーのコミュニティが主導していく世界を持つサンドボックスタイプという予想はできるが,それは今のプレイヤーに受け入れられるのか。ともあれ,筆者の懸念を払拭する作品が登場することに期待したい。
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