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カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望
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印刷2015/12/29 00:20

インタビュー

カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望

スマートフォンゲームの運営スタイルは,オンラインゲームのそれに近づいていく


4Gamer:
 さて,杉浦さんはMHXR,酒井さんは「ファンタシースターオンライン2 es」iOS/Android 以下,PSO2es)と,それぞれスマートフォン向けタイトルを手がけています。運営のスタンスとしては,オンラインゲームと何か違いがあるのでしょうか。

「ファンタシースターオンライン2 es」iOS/Android)【公式サイト】【プレイヤーズサイト
画像集 No.054のサムネイル画像 / カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望

酒井氏:
 PSO2esに関しては,純粋にスマホゲームとして楽しめますが,PSO2の補助ツールとしての側面もありますので,とくに違いを意識したことはないですね。実際,後者の使われ方が多いので,PSO2の延長という意識で運営しています。
 そのため,新規ユーザーを獲得しづらいというデメリットを実感しているところもあり,今後は単体のスマホゲームとしての色も強くしていこうと考えています。たとえば,武器を擬人化した「ウェポノイド」はPSO2es独自の要素なんですが,かなり好評をいただいています。また補助ツールとしても「クイック探索」を導入したことで,だいぶ使い勝手が向上しました。
 PSO2esはサービスインから1年半以上経過して,ようやく方向性も固まりつつあり,利益的にも見通しが立ってきたので,両方の面をうまく伸ばしていきたいですね。

4Gamer:
 一方,MHXRはスマホ向けの独立した新作タイトルですね。

杉浦氏:
 ご存じのとおり,カプコンはずっとスマホゲームのヒット作を出せていないので,上司の小野からは「ラストチャンスだぞ」と相当プレッシャーをかけられています(苦笑)。
 MHXRは,「モンスターハンタースマート」として2013年9月に発表したものを,約2年掛けて大幅に作り直してきました。担当部署が変わって,私が手がけることになってからは「ソーシャルゲームではなく,オンラインゲームだと思って作りましょう」とスタッフに話しています。
 私が考えるに,運営のスタンスは,プラットフォームやデバイスの違いではなく,ゲーム性によって変えていくべきでしょう。ですから,MHXRもMHF-Gと基本的には変わらないスタンスで運営に臨んでいます。

「モンスターハンターエクスプロア」iOS/Android)【公式プロモーションサイト
画像集 No.055のサムネイル画像 / カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望
4Gamer:
 というと,MHF-Gの運営ノウハウがMHXRにも活かせると。

杉浦氏:
 そのとおりです。実際,MHXRのチームは,6〜7年前にMHFチームが体験したのと同じところで悩んだり,つまづいたりしています。なので,両チームのコミュニケーションが密になるように心がけているのですが,どうしても当事者にならないと分からないことが出てくるんですね。
 今後,スマホゲームに遊び応えが求められようになると,オンラインゲーム型の運営が必要になるタイトルも増えていくのではないでしょうか。

4Gamer:
 オンラインゲームの運営経験者は,すぐにスマホゲームに馴染めるものでしょうか。

杉浦氏:
 どうでしょうね。私自身,MHXRではないスマホゲームの若い開発者と話す機会もあるんですが,「売上=正義」みたいなところがあって驚きました。彼らは平然と「(お客さんから)お金を巻き上げる」という表現を会議で使ったりしているんです。そういった表現は,私の手がけるタイトルのチームでは厳禁です。普段からそういう考えに染まっていると,何かのはずみでそれが出ますから。

4Gamer:
 馴染めるかどうかはともかく,文化の違いのようなものは存在すると。

杉浦氏:
 実際,ソーシャルゲームの運営を経験してからカプコンに入ったスタッフの中には,そういう文化の違いに付いて来られずに辞めていく人もいます。でも,将来的なことを考えると,スマホゲームのリッチ化が進むにつれて,私達のような考え方のほうが主流になっていくと思いますけれどね。私達は,今のポリシーのまま,堅実により良くしていくことだけを考えています。

酒井氏:
 コンシューマゲームがこれまで20年30年かけてたどってきた歴史を,スマホゲームやソーシャルゲームが今ものすごいスピードで駆け抜けている感はありますね。
 今のスマホゲーム運営は,コンシューマゲームで言うとファミコン時代くらいの感じでしょうか。グラフィックス的にはPS3レベルのものも出てきているけれど,まだファミコン的な意識が混在しており,カオスな状態になっています。その先どこに向かうか,というとそれほど選択肢はないように思います。

画像集 No.057のサムネイル画像 / カプコン・杉浦一徳氏×セガゲームス・酒井智史氏によるプロデューサー対談。両氏が語るオンラインゲームの運営やポリシー,そして今後の展望
杉浦氏:
 カジュアルなゲームであれば,この先もそれほど複雑な運営はいらないと思います。
 その一方で,増加しつつあるMMOやMO型のゲームは,最終的にはMHF-GやPSO2のような運営をしないと生き残っていけないのではないかと感じますね。とくにガチャのないMHXRのようなゲームは,オンラインゲームの運営テクニックが非常に重要です。

4Gamer:
 逆にスマホゲームの台頭で,運営において意識するようになったことはありますか。

杉浦氏:
 良くも悪くもKPI(重要業績評価指標)という単語です。それまでも,ツールなどを使って「このタイミングで多くの人がゲームから離脱している,止めている」「ログイン数が少ない」といったことは確認していましたが,少なくともMHF-GチームではKPIという呼び方はしていませんでした。
 ただ,クリエイターはKPIを示しても,簡単に納得してくれない人が多いんです。理屈では分かっているんだけど,そのゲームを遊んでいない人にデータを見せられても気持ちがついて来ない。「それが正論なのは分かるんだけどね……」と。ですから,MHF-Gチームの採用面接では,「きちんとゲームを遊んでくれますか。愛してくれますか」と確認するようにしています。

4Gamer:
 他社のタイトルの話ですが,データを見て,なぜそういう結果が出たのか,実際にプレイヤーとなってログインして,検証しているという話を聞いたことがあります。

杉浦氏:
 データについて私が考えるのは,きちんと分析をしているのか,それとも数字遊びで終わっているのか。その境界線を引くということです。数字遊びとは,単なる集計に過ぎない状態のことで,分析がなされていないので役に立たないんですよ。その数字だけでは分からない因果関係までを引き出せて,初めて分析なんです。もっとも,それができる人はほとんどいませんし,仮にできるのであれば,別の業界に就職しているんでしょうけど(笑)。
 そうした意味において,私自身はデータをゲームクリエイターとのコミュニケーションツールだと捉えています。彼らは基本的に自分の作りたいものを作るので,周囲が何を言っても簡単には納得しません。そうしたときにデータを使い,きちんと説明すれば「じゃあ,やってみましょう」となることが多いです。

4Gamer:
 PSO2のチームでは,そうしたデータをどの程度重視していますか。

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酒井氏:
 当然,重視はしています。PSUまではそこまで細かくデータを取っていなかったのですが,PSO2のサービスイン前のタイミングで上司がソーシャルゲームなどを手がけてきた瀬川(現セガゲームス コンシューマ・オンラインカンパニー オンライン研究開発本部 本部長 瀬川隆哉氏)に替わってからは,KPIを見つつ,お客さんの意見を取り入れていくという方針になりました。
 一口にKPIと言ってもいろいろありますが,PSO2ではお客さんの動向をかなりの部分で見られるようにしており,どこで離脱が起きているかなど,かなり細かくチェックしています。そうやって問題が起きている部分を特定し,より効果のある施策を打ち出しています。
 全般にはお客さんの意見と,自分達が実際にゲームを遊んで感じたこと,そしてデータを付き合わせて問題を解決しています。そこにスケジュールとコストを入れて,優先順位を付けていく感じですね。

杉浦氏:
 正直なところ,お客様の意見は偏っていることがあります。たとえばMHF-Gでは,「ガンランスを強くしてほしい」という意見が非常に多く寄せられるのですが,データを見るとガンランスの使用率は全武器種中,ほぼ最下位です。このとき,データだけをもとに判断すると,優先度が極めて低くなってしまい,リクエストをくださったお客さんは待たされることになってしまいます。そこで酒井さんのおっしゃるように,お客さんの意見とデータ,そして自分達の経験などを加味して判断していく必要があるというわけです。


オンラインゲームでは新たなサービスを作り出し,長く続けていくことが重要


4Gamer:
 それでは,お互いのタイトルの開発・運営方針などについて,印象をお聞きしたいです。

酒井氏:
 僕はPSO2を始める前に,ほかのタイトルではどうやってお客さんとコミュニケーションを取っているのかをリサーチしたのですが,そのときはMHFがその手腕に最も長けていたんです。そこで,PSO2では「その上を行こう」と生放送を始めましたし,アップデートごとに必ずムービーや告知ページを作ると決めました。その意味では,杉浦さんのこと,杉浦さんのタイトルはロールモデルとして大変参考にさせていただきました。杉浦さんの発言にもすべて目を通しましたよ。

杉浦氏:
 それは光栄です(照)。

4Gamer:
 PSO2はアップデートが非常に頻繁ですよね。

酒井氏:
 MO型のゲームは,ゲーム内のトレンドを作るのが大事で,お客さんが集まる場所を作って盛り上がりを演出しないと飽きられやすいんですよ。そこで大型アップデートの谷間にも,季節に合わせたクエストを用意して「今,これが旬ですよ」と伝えること意識しています。

4Gamer:
 なるほど。杉浦さんはいかがでしょうか。

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杉浦氏:
 もちろん,私もPSO2をプレイしてるんですが,酒井さんのように研究という視点はないですね。研究という意味では,むしろ異業種の事例を参考にすることが多いです。
 チームのメンバーに対して,よく異業種の話をしています。例えばスーパーマーケット。一番買ってほしいものは目に付くところに置き,チラシは分かりやすく作る。あるいは,スーパーで献立のレシピのようなものを配布していれば,ゲームにも応用できないかと考えてしまいます。休日に家族で外出していても,そんなことばかり考えていますね。そして休み明けに,使えそうなアイデアをメンバーにメールで送りつけています。

酒井氏:
 ゲームを作っている人間には,少なからずそういうところがありますよね。確かに僕も,ゲーム以外で得た「あれ,すごかったな」と思う経験を,できるだけゲームに応用するようにしています。今夏の「アークスダンスフェス」も,実は某テーマパークのダンスイベントに参加したことがきっかけになりました。ゲーム以外のことを知れば知るほど,ゲームの面白さに厚みが出せるんじゃないでしょうか。

4Gamer:
 それでは,最後にお二人の今後の目標を教えていただけますか。

杉浦氏:
 日本のゲーム業界には,まだサービスを新しく作るという考え方が浸透していませんよね。海外のゲームでは,それをきちんとやっているケースも多いのですが,日本だとスマホゲームならガチャがあって,フレンド機能があって……といった感じで,既存の要素を揃えるだけに留まっている。
 これから手がけるタイトルでは,ガチャをはじめとする当たり前となっている部分からの離脱にこだわり,新しい感動体験を生み出せないかを模索していきます。
 まず,MHF-Gではすでに大胆なリファイン計画を私主導で進めていて,年明けの1月中には詳細を発表します。来年2月19日からは「ブレス オブ ファイア 6 白竜の守護者たち」PC/Android版を対象にした「ムラオサ先発テスト」(先行テスト)を実施し,2月24日にはPC/Android版の正式サービスを開始します(iOS版の正式サービスは3月末開始予定)。年明けからカプコンはフルスロットルで頑張ります。

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関連記事:「ブレス オブ ファイア 6」,2016年2月24日にPC版/Android版,3月にiOS版のサービスがそれぞれ開始。2月19日からの「ムラオサ先発テスト」実施も発表


酒井氏:
 僕は作れる限り,オンラインゲームを作り続けたいです。先ほども触れましたが,スマホゲームやソーシャルゲームは,今のままだといずれやっていけなくなるときが来ます。僕らはガチャを含めたビジネスモデルを構築していますが,すでに限界を感じているところもあり,次にどうしていくべきかを考えているところです。オンラインゲームとしてPSO2を始めたからには,お客さんに対してもビジネス的にも長くその場所を守っていくことも,僕らの使命ですから。
 サービスも4年5年続いていくと,さまざまな部分が停滞していきます。それを打破して,PSO2を10年続けていくことが当面の目標です。そのために手始めとして,次回の「EPISODE4」では従来のイメージを全部ぶち壊すようなことをやりますので,楽しみにしてください。

関連記事:EPISODE4は近未来の地球が舞台に! さまざまな新情報が明かされた「ファンタシースター感謝祭2016」レポート


4Gamer:
 今後のお二人の活躍に期待しています。本日は長い時間ありがとうございました。

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