インタビュー
フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
「作り手がこうしたい」という意見が通りやすい社風
4Gamer:
これは前々からずっと気になっていたのですが,フロム・ソフトウェアさんで企画が通る,通らないの判断は,どういったあたりにあるんですか? 「特定の人に需要がありそうな濃いゲーム」を意図的に企画しないと,やはり通りにくいのでしょうか。
うちの得意な土俵は当然意識していますよ。うちでマリオみたいな企画書をだしても絶対通らないでしょうし,もし作ったとしても,しょぼいマリオができるだけで,任天堂さんのようなクオリティは出せませんから。
逆に美少女ゲームの企画とかを出したら,意外と通るかもしれません(笑)。
4Gamer:
それは意外すぎて,むしろ遊んでみたいんですが(笑)。
鍋島氏:
企画のプロセスに関しては,ほかの会社さんとあまり違いはないと思います。ACVにしてもDARK SOULSにしても,開発に2〜3年かかっているわけじゃないですか。そうなると,相当な開発費になるので,誰かの思いつきだけで作るというわけにはいきません。
4Gamer:
とくにハイエンド機向けのゲームを作るとなると,どうしても時間やコストはかかってしまいますからね。しかも,その予算に見合うようにするには,海外でも売っていかなければならない。そうなると,今度は海外の莫大な予算をかけたタイトルと,真正面からクオリティを比較されることになります。
鍋島氏:
海外の一線級のタイトルと比較されると,正直厳しいものがありますね。予算にしても開発規模にしても,違いすぎるので。
ゲームを作るということ自体がどんどん大変になっているということは,僕も強く実感しています。PlayStationの頃に比べれば,作業工程も要素も多くて,もし僕が今の時代に新卒で入ったとしても,とてもじゃないけどついて行ける気がしない。
ただ,売れる売れないというのは別にして,フロム・ソフトウェアは作り手がこうしたい,みたいな意見を通しやすい会社だとも思っています。例えばACVでは,DLCを用意するのですが,僕は一番最初に「単純に性能が高いようなパーツは絶対に出したくない」という話をしていて,実際,それをやる予定はありません。
4Gamer:
「パーツを買った人が強い」みたいなバランスになるのは,ACの場合嫌がるプレイヤーが多そうですよね。
鍋島氏:
ええ,そういうのは僕もやりたくないんです。
4Gamer:
でも,会社的に「いや,やろうよ」みたいな話にはならないんですか? ドライなことを言ってしまうと,やれば利益になりますよね,きっと。
鍋島氏:
「売れるからやれ」みたいな話にはなりませんね。とはいえ,そこのバランスは難しいです。出したら売れるのは分かっていますし,昔みたいにゲームが何十万本,何百万本と売れる時代ではないので,ビジネス的に言えば,客単価を上げていかなければ儲けを出せないという議論になりがちです。
それでも長いスパンでみたときに,お金をたくさん使うコアな人だけしか残らないものになってしまうのなら,やっぱりそれは「やるべきではない」と思うんです。
4Gamer:
言い方がとても難しいのですが,フロム・ソフトウェアさんって,どちらかというと悪い意味で商売っ気がないとは思うんです。ビジネスの原則として,キッチリとお金が回ることによってサービスの質を高めていけるというのはあるわけじゃないですか。
鍋島氏:
それは多分,「僕らのアイデアが足りていない」ってことなのだと思います。今の例でいうと,「DLCでしか買えない性能の高いパーツ」というストレートな手段は,メリットもあるけどデメリットもあるわけじゃないですか。ということは,これは“ベストの方法”ではないってことなんですよ。
僕らも当然,お金儲けしたくないわけではないので,より良い方法を考えているんですけど,それをまだ思いつけてはいないだけなんですよ。
4Gamer:
確かにフロム・ソフトウェアさんの場合は,長年付き合ってくれるようなファンを軸とした商売ですし,その人達を満足させながらも客単価の上がるコンテンツというと,相当難しいですよね……。
鍋島氏:
誤解を招く言い方かもしれませんが,僕らも「基本無料です」みたいな新しい仕組みを考えなきゃいけないのだと思います。だって無料で遊べるという仕組み自体は,すごいアイデアじゃないですか。
4Gamer:
ACをFree-to-Playスタイルにしたいということですか?
鍋島氏:
いえ,そうではなく,ACをこれからも盛り上げていくには,「基本無料のような新たな仕組みのアイデア」が必要だと思うのです。
だから,例えば「どんなDLCを出しましょうか」と考えて利益を出すのではなく,ファンの期待を裏切らないような「もう一段上の仕組み」を考えて,それを実現してゲームを盛り上げていかなければならないのかなと。とはいっても,なかなか良いアイデアは思いつきませんが……。
ACVはプラットフォームの垣根を越えた“遊び”にしたい
4Gamer:
では,これも興味本位で聞いてみますが,フロム・ソフトウェアさんがソーシャルゲームを作る予定はあるのでしょうか。
鍋島氏:
うーん,会社としてどうかはともかく,僕個人としては単純にソーシャルゲームを作るということ自体には、あまり興味はないですね。
というのも,純粋に僕らがソーシャルゲームを今から作って出しても,あまり意味はないと思っていますから。いくら流行っていてるとはいえ,ヒットしているのはごく一部であって,売れない可能性のほうが高いですし,そこにうちがタイトルを出したとしても,失敗するか,よくてもそこそこで終わってしまうのではないかと思っていますし。
4Gamer:
なるほど。最近,各社さんがいろいろなIPを使ってソーシャルゲームに参入しているので,フロム・ソフトウェアさんはどうなのか気になっていました。
鍋島氏:
ソーシャルゲームではなく,スマートフォン向けのアプリは作っているんですけどね。ACV用の図鑑みたいなアプリなんですけど。
※2012年1月25日現在,Android向けアプリ「FROMSOFTWARE」が公開されている。
4Gamer:
遊びの幅を拡張できるようなアプリならアリ,ということですか?
鍋島氏:
そんな感じです。コンシューマゲーム機というフィールドにとって,向いている部分と向いていない部分は,はっきりあると思うんですよ。例えば,ACVはチームを作って遊ぶにあたって,コミュニケーションを重視していますが,「オフィシャルパートナーシップ」みたいなゲームが介在しないSNSは,外部に置いたほうが使いやすいのではないかなと。
4Gamer:
SNSならゲーム機とテレビの電源入れて……とやるよりは,もっと気軽に見たいですからね。見るのが面倒だと,そもそもSNSを利用する気がなくなってしまいますし。
鍋島氏:
そうですよね。アプリも,そういった外部に置いて使いたいものの一環として作っています。SNSやアプリなどを全部ひっくるめたものを指して“ACVという遊び”になれば良いなと思うのです。
今のところアプリは,パーツのカタログを見られるってだけなんですけど,「これでアセンブルしたい」という要望をよく言われるんですよ。そういう遊び方ができるのも良いかもしれません。
4Gamer:
なるほど,それはいいですね。外でアセンブルいじくれるって,便利そうです。
鍋島氏:
まあ,何をするにせよ,時間は掛かってしまうと思いますけどね。やっとACVが完成して,長い戦いが終わったところですから。むしろ,ACVはオンラインゲーム的な部分もあるので,ローンチ後が始まりみたいなところもありますし。
CBTへの反響はPS3とXbox 360で明確な違いが
4Gamer:
発売間近ということで,ACVの細かなお話も聞いていければと思いますが,クローズドβテストの反響や,寄せられた意見にはどういうものがあったんですか。
鍋島氏:
クローズドβテストはたくさんの方に参加していただけて,皆さんから意見を積極的にいただけたので,本当にありがたかったですね。
先ほどうちが「真面目な感じがすると言われる」という話をしましたが,面白いことに,どういうわけかファンの皆さんもすごく真面目なんですよ。「このゲームをもっと良くするんだ!」という意気込みを感じるといいますか,ものすごくきちんとレポートを送ってくださる方がたくさんいて,びっくりしました。
4Gamer:
レポートで印象的だったものはありますか?
鍋島氏:
PlayStation 3とXbox 360でテストを実施した結果,プラットフォームごとに意見の傾向が違っていたのが印象的でした。PlayStation 3版のテスターは,コミュニケーション部分の利便性や,ゲームの分かりやすさに対して,とても沢山の意見を言ってくれたんですよ。
一方で,Xbox 360版のテスターは戦略についてや,オペレーターやバランスの話といった,ゲームの中身への意見が多かったんです。
4Gamer:
国内のXbox 360ユーザーというと,コアなゲーマーが多そうですし,おそらくプレイヤー層にも違いはあるのでしょうね。
鍋島氏:
そうだと思います。いただいた意見は僕らなりに消化して,できる限り製品版に反映したつもりです。とくにロビーでのコミュニケーション面や領地の取り合いには,かなり手を入れました。
4Gamer:
ロビーというと,テキストチャットの実装とかですか? クローズドβテスト時はボイスチャットでしかコミュニケーションが取れずに,なかなか厳しかった覚えが……。
鍋島氏:
そうでしたね,テキストチャットは実装しています。最初から入れるつもりではいたので,反応は予想はしていましたが,βテストでたくさんの方から要望をいただきました。
ボイスチャットはどうも嫌がる方が多いんですよね。単純に声で話したくないというだけでなく,家族が横で寝ているので環境的にできない,という人もいます。開発チームの中でさえ「ボイスチャットなんて無理です。絶対にテキストチャットを入れてください」なんて声もあるぐらいです。
4Gamer:
日本人はシャイですよね。北米の人とボイスチャットで会話すると,それこそ歌い出すぐらいの勢いなんですが。
鍋島氏:
それもどうかとは思いますけどね(笑)。
チャットといえば,傭兵の仕様については意見が完璧に分かれてしまって,我々も悩みました。今は,傭兵はボイスチャットもテキストチャットも一切聞こえないし,送ることもできない仕様なんですが,僕は聞こえるのもアリかと思っていたんですよ。
4Gamer:
聞こえたほうが作戦も立てやすいですからね。
鍋島氏:
ええ,なのでβテストの意見を元に決めようかと思っていました。そうしたら,アンケートの結果が綺麗に50%ずつに分かれてしまったんです(苦笑)。結局,βテスト時のままチャット不可にしましたが,どちらがいいかというのは世代やプレイスタイルでかなり違うみたいですね。
4Gamer:
それはつまり,若い世代のほうがボイスチャットに抵抗がないってことですよね?
鍋島氏:
はい,そうです。
4Gamer:
4Gamerのアンケートでもそうでしたが,友達とゲームを遊ぶ層って,社会人か学生かではっきりと分かれるんですよ。社会人になった瞬間に,ソロプレイの割合がグっと高くなるんです。
鍋島氏:
昔は,基本的にゲームは一人で遊ぶものでしたから,とくに年齢の高い世代は誰かと一緒にプレイすることに慣れていないのでしょうね。
いちおう傭兵に関しては,積極的にコミュニケーションを取りたい人向けに,雇った側が雇われた側にショートメッセージを送れるようにはなっています。ただ,そのメッセージは意識して見ようと思わなければ見られないところにあえて設置しているので,どうしても孤高の傭兵でいたい人は,見ないという選択もアリです。
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