インタビュー
フロム・ソフトウェアってどんな会社ですか。プロデューサー鍋島俊文氏を通して見えた「ARMORED CORE V」を作れた理由
オーバード・ウェポンは「ギリギリの戦いを象徴する武器」としてデザインされた
4Gamer:
βテスト後もいくつか新情報が公開されましたが,中でもオーバード・ウェポンはインパクトがありました。最初に公開されてから,なかなか情報が出てこなかったこともありますが。
鍋島氏:
あの後に大きく方針が変わったので,次に情報を出すタイミングを失っていただけだったりします(笑)。
4Gamer:
数字の「アーマード・コア 5」のときに出た情報でしたから,ACVになって削除されたのかと思っていました。
鍋島氏:
それ,ユーザーさんからもよく言われました。「格好良かったのに,なくなっちゃったんですよね」って。
4Gamer:
オーバード・ウェポンは,「対戦でどう使われる」みたいなイメージはあるんですか? 一撃必殺の武器というと,対戦でのバランスがどうなるのかは気になります。
鍋島氏:
かなりデメリットの大きな武器ですね。戦闘中に1回しか使えない,一度起動すると止まるまで外せない,非常に長いチャージが必要,発動中にダメージを食らうなど,どれも非常に使いづらい性能になっています。
うまくハマれば一瞬で勝てるかもしれませんが,それを使い続けたからといって高い勝率を維持できるわけではないと思いますよ。
4Gamer:
使うとすれば,チャージが必要な武器ならほかの3機で守って戦う,といった感じになりそうですね。
鍋島氏:
それが一番オーソドックスな使い方になるかもしれません。ACVはオペレーターがいたり,戦闘開始前に演出で敵の機体を見られたりするので,だいたい何を装備しているのかが交戦前にバレるんですよ。それが分かっている時点で,実戦で使うのはかなり難しいと思います。
4Gamer:
それはそれで,「敵を一撃で粉砕するのはロマンだ!」とかいう理由で,極めようとするプレイヤーがいっぱいでてはきそうですが(笑)。
ところで,今回はACが実在する機械のようなデザインになっていますが,オーバード・ウェポンのデザインは異形なイメージですよね。これはどういった意図によるのでしょう。
鍋島氏:
単純に絵的なインパクトを出そうしてはっちゃけてみた,というのはあります。
それともう1つ,世界観に合わせてこうなった部分もありますね。ACVの世界は文明が滅びかけていて,洗練された機械や技術は,残っていても自分では作り出せなくなってしまった,というイメージなんです。
4Gamer:
たしかAC自体もこれまでのシリーズのように企業が作っているのではなく,「荒廃以前に作られた詳細不明の兵器」という設定なんですよね?
鍋島氏:
ええ,そうです。それに対してオーバード・ウェポンは,ゲームの世界の現在の人たちが,ACという機械の構造を把握できないまま強引に作り上げた兵器なので,デザインが洗練されていないのです。イメージ的には,設計されたものが工場できちんと生産されているのではなく,鍛冶屋さんみたいな人がガレージで作っている感じですね。
4Gamer:
なるほど。あの無理やり搭載している雰囲気は,そういう理由からなのですね。
あとは,ACVの世界では,抑圧された社会で独裁者のような敵を倒すため,レジスタンスが「死んでもいいから勝ちたい」という戦いを繰り広げています。そこでは,いろいろなものを犠牲にして,それでも勝利を目指す人々がいるわけですが,その在り方はACのパーツに似ていると僕は思っているんです。
ACのパーツは,パラメータが基本的にトレードオフになっているので,何かを手に入れようと思ったら何かを捨てなければいけませんから。その究極の形みたいなもの,ギリギリの戦いを象徴するもの,自分の命を削りながら相手を殺すためのものとしてデザインした結果,あんな見た目になりました。
4Gamer:
そう言われると,余計にオーバード・ウェポンが格好良く感じられますね。使いたくなります。
あと,武器まわりの話では,性能が変化して,ショップに流通させられるというのも大きなトピックですよね。あれは性能変化の方向性を選択できるだけで,最終的な性能は完全に運任せになるんですか?
鍋島氏:
そうですね。最初は「時間をかけて1本を練っていく」「自分の究極のものを作る」要素として考えていたのですが,運次第にしてしまいました。
4Gamer:
最初は自分で選べる仕様だったんですか。好みのパラメータにいじるというのも,それはそれで楽しそうなんですが。
鍋島氏:
武器の性能変化は,コミュニケーション要素の1つとして位置付けているんです。僕らとしては,有名なプレイヤーや有名なチームを生み出したいという意図があるのですが,アクションゲームはどうしても腕の良い人が有名になりがちですよね。
ただ,へたでも好きだからずっと遊んでくれている人にも,名を売るためのチャンスをあげたかった。自分だと識別できるような名前を付けて,「あの武器を作ったのは俺なんだ」と言えたら喜んでもらえるかなと。
4Gamer:
またバランスの話になってしまいますが,完全に運となると,対戦でどうなるのだろう,とは思ってしまいます。
鍋島氏:
そこは僕らも楽しみにしています。結局のところ,はやり廃りがあると思いますよ。これまでのACでも,「レーザーライフルが最強」みたいな話をさんざんしていたのに,次の週になったら「レーザーライフルは時代遅れだ」「ミサイルが強すぎる」という話になって,その翌週にはまた違う武器,ということはありましたから。
いずれACVでも,「最終的にはこのカテゴリの武器はこの型で決まり」という話になるかと思いますが,人気のある武器はショップに残り続ける仕組みになっているので,このゲームの最終形みたいな頃にはうまいことバランスも取れているのではないでしょうか。
ソロプレイ,Co-op,対戦……
とにかくいろいろな要素を盛り込んだ
4Gamer:
そういえばACVで個人的に嬉しかったのが,シングルプレイ用のミッションを二人で遊べることだったりします。
鍋島氏:
全部のミッションをCo-opに対応させたいという話は,「アーマード・コア 5」の頃からしていました。「アーマード・コア フォーアンサー」のときに,一部のミッションでCo-opをできるようにはしてあったのですが,中途半端になってしまったので。
4Gamer:
友達を誘って遊ぶのに,対戦はハードルが高いですけど,Co-opなら気軽に誘いやすいので,楽しみにしています。
鍋島氏:
対戦そのものが人を選んでしまいますからね。オンラインプレイ自体にハードルを感じている人にとって,対戦は怖いというイメージもあると思います。今回のCo-opは,そういう人がオンラインに足を踏み入れるきっかけになるのでは,と思って実装しました。
4Gamer:
Co-opで遊ぶ場合は,二人プレイ用の難度になるんですか?
鍋島氏:
いえ,難度は一人でプレイする場合と一緒です。ACは難しいと言われるゲームなので,一人では勝てないという人に,救済的な要素も必要かなと。
もちろん,今までどおりシングルプレイを楽しみたい人は,ソロで挑戦してもらってもかまいません。内容的にもボリューム的にも充実させたつもりなので,仮にオンラインに興味がなくてシングルプレイしかやりたくない人であっても,絶対に損はさせませんよ。
4Gamer:
今回って,プレイ人数の幅がすごく広がりましたよね。一人でシングルプレイができるし,Co-opもあるし,最大10人で対戦もできる。強力な敵に複数人で挑む「エクストラミッション」なんてものも,情報が公開されていますし。
鍋島氏:
そうですね。今回はオンラインという環境にみんなが入ってこられるように作りましたが,それぞれの人達が自分に合った遊び方で楽しめるよう,時間をかけて考えられるあらゆる要素を盛り込みました。1つのチームの中には,アクションがうまい人も苦手な人もいますし,今回から始めた人も15年前から遊んでいる人もいますから。
むしろ要素が多すぎて,マニュアルに書ききれませんでしたよ。60ページもあるのに,全然説明できていない。
4Gamer:
60ページって……何を書いたらそれだけ分厚くなるんですか?
鍋島氏:
それが,要素を順番に並べただけなんです。それでも,ものによっては操作方法ぐらいしか掲載できていません。一応,Webサイトで詳細はフォローしますが,できればせっかくチームがあるので,分からないところはお互いに教え合ってもらえると嬉しいです。皆さんへのお願いになってしまいますけど。
ロボット好きの男の子すべてにアピールしたい
4Gamer:
それにしてもACVを見ていてると,「ある種の理想のゲーム」という感覚を持っていらっしゃるユーザーさんはいるのではと思うのです。「ロボットで戦争ごっこがしてみたい」と思っていた人は大勢いると思いますが,それを実現してくれそうなタイトルなんですよね。
鍋島氏:
結局,ロボットってニッチなジャンルですよね。だからこそ,ロボットが好きな人にとって「これが俺の理想」と思ってもらえるゲームを目指しました。
なんというか,ロボットに興味があるのにACをやらない男の子がいることが許せないので,素養のある層を全部捕まえたいんですよ。
4Gamer:
「間口を広げたい」ではなく,「ニッチなところをすべて捕まえたい」というのは興味深いですね。
鍋島氏:
だって,ロボットゲームで間口を広げるのは限界がありますからね。例えばACは,どうやっても女の子にはウケないんですよ。なんせ男女比99.8:0.2ですから。
これは僕自身が以前ショックを受けた話なんですが,ACのデザイン画2枚を,たまたま会社の女の子に「どっちが好き?」って見せたことがあるんですよ。そしたら,「違いが分からない」って言われてしまって(苦笑)。
4Gamer:
え,それはそれぞれ違うデザインの機体なんですよね?
鍋島氏:
そうですよ。だから僕からすると,「なぜ違いが分からないのかが,分からない」という。その時,「あ,絶対に無理な層がいるんだ」と割り切りました。もちろん,ビジネス的に新規プレイヤーを捕まえたいという気持ちはありますが,そこはもう仕方がない。
立地が悪いお店みたいなものですよね。その代わり専門店として,ロボットに興味のある男の子すべてにアピールできるよう,ちょっと足を伸ばすだけの価値がある商品にしよう。そう考えて,特化した作品を作ったつもりです。
4Gamer:
はい。とてもよく分かります。
鍋島氏:
……やっぱりウチはラーメン二郎なのかな。ほとんど女の子がいないあたりがとくに(笑)。
4Gamer:
二郎のボリュームは女の子には厳しいですね(笑)。それでは最後に月並みですが,発売を間近に控えての,読者への一言をお願いします。
鍋島氏:
まず,長いこと本当にお持たせしてしまったユーザーの皆さんに,ここまで待ってくれてありがとうと言いたいです。それと,こんな機会でないとあまり言えないので,すごく大変な思いをして長期間頑張ってくれたうちの開発スタッフにも,ありがとうと言わせてください。
時間をかけた分,やれるだけのことはやったつもりなので,ぜひ楽しんでください。それに加えて,せっかくチームの仕組みがあるので,お友達を誘って一緒に遊んでもらえると嬉しいです。ぜひよろしくお願いします。
4Gamer:
ありがとうございました。
フロム・ソフトウェアのゲームには,どこか筋が通った,ほかのメーカーのゲームにはないユニークさを感じる。そう思っているのは筆者だけではなく,ACシリーズやDemon's Souls,DARK SOULSをプレイした人であれば,同意してもらえるのではないだろうか。
今回はその秘密に迫ってみようと,フロム・ソフトウェアという会社について鍋島氏に質問をしてみたわけだが,その独特の考え方や着眼点,そしてその結果生まれるフロム・ソフトウェアらしいゲーム制作へのアプローチなど,いくつかのポイントが拾えたのではないかと思う。
意識を共有したスタッフによる軸のぶれない開発体制へのこだわりが,良質かつコアなゲームを生み出す原動力になっているのかもしれない。
ともあれ,3年という開発期間を経たACVをプレイできる日も,いよいよすぐそこまで迫っている。鍋島氏が言うように,すべてのロボット好きの(男の子の)心を捕らえられるような1本になっているのかどうか,早く実際に遊んで確かめたいところだ。
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「ARMORED CORE V」公式サイト
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