インタビュー
ファイナルライブは膝をついてでも歌いきりたかった。「デュエル・ギグ!vol.3」CDリリース記念「バンドやろうぜ!」対談企画・OSIRIS編
アニプレックスとソニー・ミュージックが贈る,青春×バンドリズムゲームアプリ「バンドやろうぜ!」(iOS / Android。以下,「バンやろ」)の最新アルバムCD「デュエル・ギグ!vol.3」「DUEL GIG RIVALS」「DUEL GIG EXTRA」の3タイトルが,2018年11月21日に同時発売されます。それを記念して,4Gamerでは各バンドのボーカルと制作陣を迎えた全4回の対談企画を実施しました。その第1回として,リアルバンド活動でタイトルを牽引したOSIRISチームの対談をお届けします。「バンやろ」といえば,アプリやCD展開のみならずリアルライブ活動にも力を入れていたことは,情報を追い続けていたファンならばご存じのことでしょう。なかでもOSIRISは約2年もの間,リアルライブ活動でタイトルを牽引し続け,活動の幕を閉じた8月のファイナルライブまで全力で駆け抜けたバンドです。OSIRISチームがどのような想いを込めて楽曲を制作し,ライブに臨んでいたのか,収録の振り返りやリアルバンド活動のエピソードを交えて話を聞いてきました。
■対談参加者
小林正典氏(OSIRISボーカル・高良 京役)
大塚剛毅氏(OSIRIS楽曲の作詞作曲ほかご担当)
足立和紀氏(「バンドやろうぜ!」プロデューサー)
安谷屋光生氏(「バンドやろうぜ!」音楽制作ディレクター)
小林正典氏(OSIRISボーカル・高良 京役)
大塚剛毅氏(OSIRIS楽曲の作詞作曲ほかご担当)
足立和紀氏(「バンドやろうぜ!」プロデューサー)
安谷屋光生氏(「バンドやろうぜ!」音楽制作ディレクター)
「バンドやろうぜ!」公式サイト
小林氏の声量にマイクが耐えられない?
思い出の曲や今だから言える制作秘話
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。これまでに個別やコンビでのインタビューを行われたことはあるかと思いますが,こうしてみなさんが揃って話をされるのは今回が初めてですね。まずは,簡単に自己紹介からお願いします。
足立和紀氏(以下,足立氏):
「バンドやろうぜ!」プロデューサーの足立です。本日はよろしくお願いします。
安谷屋光生氏(以下,安谷屋氏):
「バンドやろうぜ!」音楽制作ディレクターの安谷屋です。
大塚剛毅氏(以下,大塚氏):
OSIRIS楽曲の作詞作曲,あと一部編曲を担当しています大塚です。
小林正典氏(以下,小林氏):
OSIRISのボーカル・高良 京のキャラクターボイスを担当しています小林です。
4Gamer:
この対談企画はCDの発売を記念したものです。これまでリリースした楽曲やライブを振り返るというテーマで,今だから話せるエピソードや思い出など,ざっくばらんにみなさんで話していただければと。
今回のCDに初めて収録される楽曲があるから,まずはそのあたりから振り返りましょうか。「デュエル・ギグ!」はvol.1,2とOSIRISの系譜をたどってきて,今度のvol.3ではわりと後期の楽曲が収録されています。……と言いつつ「Dreams」は結構前のもので,実は5番目に作った曲なんだよね。
安谷屋氏:
2年くらい前でしたっけ?
小林氏:
いや,もっと前ですね。
足立氏:
ゲームがリリースされる前に各バンドで5曲ずつ,ストーリー第1章の曲を作ったんですよ。だからもう3年くらい前になるのかな。
大塚氏:
個人的には「Dreams」が最後の曲,というイメージが強いですね。これ以上は作らないのかなと思って,あれでいったん全部出し切っていたんですが,さらに続きがあったという(笑)。
4Gamer:
今おっしゃっていた最初の5曲は,「Voice」「Darkness」「Way of Light」「Cross Wish」,そして「Dreams」ですね。
大塚氏:
あとから生まれた楽曲の中には,すでに作った曲より前の時系列を想定していたのもあります。例えば「Into the Madness」は,「Voice」より前の時系列の設定で作っていたので。
足立氏:
「Into the Madness」は,「Voice」のCDカップリング曲的な立ち位置で作ろうって話をしたんですよね。
安谷屋氏:
ですね。だからあれはM6(※Mナンバー=作品番号)だけど……。
大塚氏:
個人的にはM1である「Voice」の次,M1.5的なイメージです(笑)。
4Gamer:
いくつか,シングルのB面的なイメージで作られた楽曲があったんですよね。
足立氏:
そうです。M1〜5まではいわゆるA面曲というか,キャッチーで分かりやすい曲を順番に形にしていったんだけど,そろそろマニアックな曲をやりたいよねと(笑)。それで各バンドともM6にあたる曲はM1のB面曲のイメージで,少し荒削りな感じの曲を作ったんです。
最初の5曲を作ったあとは,どんどんみんなの趣味が出てきましたね。もちろん全部真面目に作ってはいるんですけど,どれだけ馬鹿になれるかみたいな。大塚さんとよく,「これキー設定大丈夫かな?」「大丈夫大丈夫!」って話してました(笑)。
大塚氏:
あとになるにしたがって,曲の難度もどんどん上がっていきました。そのしわよせが全部小林さんに行くという。
小林氏:
(笑)
足立氏:
1回「Dreams」で区切りがあって,少しして安谷屋と大塚さんの趣味が全開になった「Bloody Masquerade」で,「Dreams」の難度を越えたんだよね。さらにそのあと「Heavenly Breeze」が来るんだけど,自分としてはやっぱり小林くんの歌唱力の底知れなさに,いろいろチャレンジしたくなってしまって。
安谷屋氏:
「Dreams」も大変だったと思いますけど,「Bloody Masquerade」を歌ったときは,どうでした?
小林氏:
最初の「Voice」も難しかったですけど,正直「Darkness」の時点で急に難度が上がったなと思ってました(笑)。
OSIRISのボーカルが小林さんに決まったとき,いろいろ調べたんですよ。そしたらめちゃくちゃ上手に歌ってるし,高音も出るしで,これはちょっと無茶させたほうがボーカルが活きるんじゃないかと思ったんです。
小林さんの歌を,もっといろんな人に聴いてもらいたいという想いが強くなってしまって。そのせいでどんどん難度を上げてしまうんですよ。
安谷屋氏:
小林さんがすごいのは,どんな曲でも歌えちゃうところなんですよ。嫌な顔ひとつしないし,実際は大変でも,簡単そうに聴こえてしまうというか。だからこっちもちょっと麻痺してたところはあります(笑)。
小林氏:
僕自身,歌うのはすごく楽しかったですよ。レコーディングも毎回楽しみで仕方なくて「今日はどんな難しいことを要求されるんだろう?」って。でもそうやって難度が高くなっていくなかで,「Dreams」は初めて「ライブで歌えないかもしれない」って身構えました。
安谷屋氏:
「Endless」はどうでした?
小林氏:
「Endless」は曲の難しさもありましたけど,レコーディングのときに花粉症で声がでなくて2回もリスケしてしまったんですよね。まさに“Endless”,これは終わらないぞと思いつつ,ご迷惑をおかけしているのが申し訳なくて,早く復活させなきゃって焦りも感じていました。今だから言えるんですが,3回目のレコーディングも正直怖かったです。
安谷屋氏:
ちょうどライブも重なっている時期でね。でもそれがあったから,最後の曲にふさわしいものにしようと気合が入ったところもあったなと。
小林氏:
OSIRISの楽曲って,曲の後半になるにつれてさらにキツくなる仕様で安谷屋さんがディレクションするんですよ(笑)。
大塚氏:
曲をそういうふうに作っていますしね。同じメロディでも,同じような繰り返しにはしたくなくて,最後のほうは変化をつけることが多かったので。
安谷屋氏:
ちょっとテクニカルな話をすると,小林さんの歌声ってパワーがありすぎて,機材が耐えられないことがあるんですよ。
4Gamer:
それは物理的にということですか?
安谷屋氏:
そうなんです。けっこういいマイクが小林さんの声量に耐えられないって,どんな歌声なのよっていう(笑)。100万円くらいするマイクでも耐えられないってありえないですからね。
小林氏:
自分では声が大きいとは意識したことがなかったんですけど,今回のアルバムに入っている後半の曲は,一度歌ってマイクを試して,やっぱり別のに変えましょうってほぼ毎回言われましたね。
大塚氏:
エンジニアさんも「声量が日本人じゃない」って言っていました(笑)。
安谷屋氏:
「Endless」も,ラスサビの前の一番上がるところで機材が耐えられなくて。
大塚氏:
音がひずんだ感じに聴こえちゃってるんですけど,それがむしろいいんです。
安谷屋氏:
狙って出せるものではないので,本当に毎回力を出し切ってもらっていたなと思います。
足立氏:
今回のCD収録曲の「Dreams」から「Endless」までって,レコーディング期間で言ったら2,3年空いているんですよね。「Desire」「for you…」「Re:incarnation」「Beyond the Limit」は,時期がちょうどよくバラけている楽曲なのでひとつひとつに違いが感じられると思います。
小林氏:
「Desire」なんて制作としてはかなり初期の頃でした。「Darkness」のカップリング曲のイメージって言われていましたし。
足立氏:
「Desire」は世に出ている順番ではM8ですけど,制作側の感覚ではM2.5ぐらいですね。
大塚氏:
2,3年の年月を経ているからこそ,楽曲の仕上がりも長く活動しているバンドの前期,後期ぐらい差がありますよね。
足立氏:
最初の曲の「Voice」とラストの「Endless」には歌詞につながりがあるんですが,大塚さんはいつからあの仕掛けを考えていたんですか?
大塚氏:
あれは「Voice」ができるより前,それこそ「バンやろ」の楽曲制作のお話をいただいたときに,帰りの電車であのフレーズが浮かんでいたんです。そのときから,これはいつか必ず答えを出さなきゃいけないと思っていました。
足立氏:
でも「Dreams」ではあえてその“答え”を使わなかったんですよね。
大塚氏:
ずっと考えていたんですけど,そのときはまだ自分の中でも答えが見つかっていなかったんです。詳しい話はCDのライナーノーツにも書いてあります(笑)。
4Gamer:
「Endless」は今回のCDに収録されますが,これまでに配信もされていなかったので,OSIRISのライブかライブビューイングを観た方しか,フルでは聴いていない楽曲ですよね。これからCDで初めて聴く方も多いと思います。
小林氏:
初めて「Endless」の歌詞を読んだとき,「『Voice』のあれはここにつながるのか!」って鳥肌が立ちました。だから僕はあの曲をライブで歌ったとき,そのフレーズだけ分かりやすく聴こえるようにすごくはっきり歌っていたんですよ。
足立氏:
このつながりはもうファン感涙というか,僕も初めて聴いたときにいい意味で「こいつ,やりやがったな!」って思いました(笑)。でもそう考えると,大塚さんは本当に“高良 京の中の人”感あるよね。
小林氏:
僕自身も歌いながら,頭の中に京が歌っている姿が浮かぶので,大塚さんってすごいなって。
大塚氏:
でも僕が曲を書くときは,小林さんのことを考えてるんですよね。僕の中の“高良 京”は,小林さんの歌だったりするので。
安谷屋氏:
両思いじゃないですか(笑)。
小林氏:
めっちゃうれしいです(笑)。
4Gamer:
高良 京のビジョンは小林さんと大塚さんのお2人で構築されていったともいえそうですね。
みなさんが好きなOSIRIS曲,実は……?
足立氏:
ちょっとベタな質問だけど,みんなが一番好きな曲って何? アーティストとして,制作として,ぶっちゃけた個人的な好みでもいいんだけど。
大塚氏:
僕はOSIRISというかソロ曲なんですけど,「Desert Hope」(高良 京のソロ曲)ですね。
一同:
おお〜!
大塚氏:
あれは初めに作った曲のなかの1つだったんですよ。でも結局寝かせることになって,キャラソンの話が来たときに思い出したんです。あの曲を作ったとき,OSIRISにそっくりな4人がキャラバンを作って砂漠で立っているイメージがあったんです。彼らが何を目指して旅しているんだろうと考えたときに,頭の中に流れてきたのがあのメロディでした。
安谷屋氏:
かっこいい! すごく作家っぽいですね。いや,作家さんなんですけど(笑)。
足立氏:
その曲を京のキャラソンに持ってきたのもすごい。
大塚氏:
内容的に,OSIRISとも少し違うかなと思ったんですけどね。「Voice」から始まって「Dreams」でいったん区切りがつくんですが,「Dreams」には“きらめく星が夜空に降りそそぐ”っていうフレーズがあり,「Desert Hope」には“星を道標に”というフレーズがあります。僕のなかでは,最後にOSIRISがたどり着いた世界の中心がつながってクロスするイメージだったんです。
そこまでイメージされていたんですか……。レコーディングのときに曲の大まかなイメージを聞くようにしていたんですけど,大塚さんはこうやって後出しするんですよね(笑)。
大塚氏:
でも小林さんが歌詞から受け取ったOSIRIS感や物語は,それはそれで正解なんですよ。僕自身,それぞれの曲のなかでストーリーは考えているけど,曲を聴いたみなさんが受け取って,思い浮かべるイメージも1つの正解ですから。
4Gamer:
聴き手によって感じ方や想像するイメージは異なるものですもんね。
大塚氏:
今までは,“頭の中のOSIRIS”が頭の中で活動していたんですが,それが「Endless」でいったん終わって,今度は僕の知らないところでOSIRISのメンバーが活動しているイメージに変わっていきました。OSIRISの曲を聴くたびにそれを感じいて,これも正解なのかなって。レコーディングのときにいろいろ言わなかったのは,小林さんのOSIRISも聞きたかったから,というのもありますね。
4Gamer:
まさに今だから言える話ですね。では小林さんの好きな曲はいかがですか?
小林氏:
僕は2曲あって,1曲は「Bloody Masquerade」なんですよ。あの曲はいろんな意味で,自分の見ている景色を変えてくれたなと。そして,もう1曲は「Voice」です。
一同:
へえ〜!
小林氏:
「Voice」はやっぱり,最初に聴いたときの印象が忘れられなくて。歌詞にある「どれだけの想いに この声は応えられるか」っていうフレーズがずっと頭の中にあったんです。この想いを忘れずに,これまでレコーディングもライブもやっていました。
僕は,“京の言葉を代弁している人”みたいな感覚を持っていたので,「Endless」の歌詞で京が1つの答えを出せたことに,親心のようなもので「良かったねえ……」と思っていました。どの曲も本当に好きなんですけど,始まりである「Voice」はやっぱり特別ですね。
安谷屋氏:
僕も2曲あって,「Bloody Masquerade」と「Darkness」です。音作りという面で「Voice」は,そこまでがっつりとOSIRIS感を入れずに作っていたんです。でも次の「Darkness」で,OSIRISというものが“見えた”んですよ。小林さんの歌唱力もそうだし,演奏も,作詞作曲も含めてすべてにおいて,僕のなかのOSIRISがスタート地点に立てたのがこの曲でした。「Bloody Masquerade」はまた別の思い入れがありますね。この曲はみんなといろいろ話し合って生まれたものなので。
4Gamer:
話し合いは制作している最中ですか?
安谷屋氏:
曲を作る前も,作る過程でもですね。大塚さんと話していて,どんどんお互いの趣味が出てきたんですよ。
大塚氏:
あのときのテンションはおかしかったですね(笑)。
安谷屋氏:
お酒が入ってないのに,飲んでるようなテンションでした。それで足立さんに,途中で「やりすぎですか? やばいですかね?」って聞いたら,むしろもっとやっていいよと言われて「いいんですか! じゃあ……」みたいな流れになって。ついでにどんどんキーも上げちゃいました(笑)。
今挙げた2曲でどちらかを選べと言われたら「Darkness」ですけど,「バンやろ」プロジェクトそのものやライブも含めて考えると「Bloody Masquerade」ですね。
小林氏:
確か,ゲームがリリースされて最初のイベントがハロウィンイベントだったんですよね。リリースから比較的すぐのタイミングでプレイヤーのみなさんに「Bloody Masquerade」を聴いてもらったので,僕としては「この曲以上のものが今後求められのか……」というプレッシャーがありました。
足立氏:
「バンやろ」の楽曲は,制作した順番どおりにリリースしていなかったので,そこでお客さんと作り手側で意識の乖離が生まれないように気をつけていましたね。
「Bloody Masquerade」は,ゲームリリース後に突き抜けて話題になった瞬間だったなと。あれを聴いたみなさんが「今度出たゲームにものすごいバンド曲があるらしい」って拡散されていった印象があります。
4Gamer:
足立さんのお好きな曲はいかがですか?
足立氏:
みんなが「Bloody Masquerade」について語っているのであえてそこを外すと,まずは「Heavenly Breeze」ですね。それまでの曲作りでは,僕から曲のお題やリファレンス曲を出していて,上がってきた曲は「そうそう,そういうことだよね」っていう,言ってみれば想像できる範囲のものができあがっていました。
でも「Bloody Masquerade」で思っていた以上のものが生まれたので,小林くんの歌唱力も含めて“OSIRISの限界”を知りたくなってしまって,「とにかく難しい曲を作ってくれ」というオーダーのもと生まれたのが「Heavenly Breeze」だったんです。
安谷屋氏:
ちょうど月2回のペースでライブをやっていた時期ですね。リハ中に小林さんの歌えるキーのチェックをしたりして。
小林氏:
僕,今でも覚えてますよ。ライブリハの休憩中に安谷屋さんが近づいてきて「このキー出ます?」って,アプリのキーボードで音を出したんです。それで声を出してみたら,安谷屋さんが「うん,出ましたね! 大丈夫ですね!」って,目を輝かせたんですよ(笑)。
足立氏:
Cure2tronと出演した,ハロウィンライブイベント「Halloween GIGS!」の頃かな。
4Gamer:
「Halloween GIGS!」というと,ゲームリリース後初めてのイベントで,代官山UNITで行われたライブですよね。そうするとかなり前の話だったと。
「Bloody Masquerade」を作ったのはリリースよりも前だったのでそうなりますね。「Heavenly Breeze」はもうひとつ,“白OSIRIS”というお題も出してました。そこまでの楽曲が黒っぽいイメージでずっと作っていたのと,リリースが想定されていたホワイトデーらしく白のイメージで。
安谷屋氏:
そう! お題をもらって,僕は小林さんのファルセット(裏声)が聴きたいと思ったんですよ。それまでの楽曲ではやってこなかったので。
小林氏:
ファルセットが苦手なことを覚えていてくれたんですよね(笑)。
安谷屋氏:
覚えてました。だから“挑戦”という意味でキーの高い曲にしたのに……地声で出せてしまったという(笑)。
小林氏:
本当は,最初から最後までファルセットで歌う予定だったんですよ。でも,レコーディングで試しに歌ってみたら「そのままいきましょう!」ってなったんです。
安谷屋氏:
そうやって現場でパッと生まれたものほど楽しいものはないので,逃したくないんですよ。「Heavenly Breeze」はレコーディングもすぐ終わりましたよね。ラスサビの難しいところも早く録り終えていた記憶があります。
小林氏:
僕自身は完璧に歌えた自信がなくて,レコーディングが終わったあとも「ちゃんとライブで歌えるんだろうか」って心配だったし,何かの機会があったら今度は完璧にやってやろうと思っていました。あとからアコースティックバージョンを録り直すことになったので,「絶対歌いこなす!」って意気込んでレコーディングに向かいました。
足立氏:
あらためて「Voice」と「Endless」を聴き比べたら,小林くんの歌のレベルが全然違うよね。「Voice」は最近聴いてる?
小林氏:
けっこう聴いてますよ。最初の頃は,良くも悪くも歌い方に癖が少ないなと。とくに「Voice」はすごくストレートに歌っていて,それ以降はだんだん癖を入れていきました。
大塚氏:
まだ2〜3年しか経っていないけど,今聴くと最初の曲は「若いな!」って思いますよね。
小林氏:
自分でも聴き比べしますけど,違いが分かりやすいのが「Voice」「Bloody Masquerade」で,あと後半の楽曲で言うと「Beyond the Limit」はまた全然違うなと思います。
安谷屋氏:
根本的に声の太さが違いますよね。狙ってやったところもありますけど。
小林氏:
「Beyond the Limit」は基本のメロディが低めで,サビで高く抜ける曲です。音源データをいただいたときから,突き抜ける声をスパーン! と一発で出したい気持ちがあって,すごく練習しました。ライブでもそれはずっと意識していましたね。
足立氏:
曲を通して成長するさまは,京自身のストーリーと上手くシンクロしているところもあったと思います。
思えば,「Re:incarnation」あたりから曲作りへの意識が変わっていました。例えるなら,大御所バンドが10年かけて積み上げていったものを,OSIRISはデビューしてたった1〜2年で,その要所を押さえながら駆け抜けていったんです。それが「for you…」でピークに達したなと思ったので,「Re:incarnation」を発注するときには,ちょっと貫禄が付きすぎたからもっと尖らせたい,インディーズっぽい曲を作ってほしいってお願いしていました。
4Gamer:
洗練されてきたところをあえて崩したわけですね。
安谷屋氏:
「for you…」は僕らのなかでもひとつの区切りでした。イメージどおりに順調に曲を作っていって,次はどうしていこうかと。曲の作り方自体は変わってはいないんですけど,メジャー感とか,インディーズ感とか,そのへんのバランスはすごく難しくて,音ひとつひとつにこだわりながら作っていました。「Beyond the Limit」もレコーディングで試行錯誤した曲なんですよ。
小林氏:
「Beyond the Limit」は先に歌を録って,あとから演奏を入れたんでしたよね。そういう楽曲はほかにもいくつかありました。「Silent Crisis」も確かそうです。
安谷屋氏:
「Silent Crisis」もいい曲ですよねぇ……(笑)。
4Gamer:
話がつきませんね(笑)。
大塚氏:
歌を録って,演奏を録って,それからいろいろ変えることもけっこうありましたね。3日後に渡さなきゃいけないのにギリギリまで作業したり。
安谷屋氏:
バンドというものを意識したかったので,OSIRISのレコーディンは基本ノープランでやってました。現場ではミュージシャン,例えばリアルバンドのメンバーでもあるカゴメ(ベース担当)の力を借りたりもして。彼らのライブを見て「そういうアプローチもあるんだ!」って,次のレコーディングに活かすこともあったなと。
歌声と歓声と涙が渦巻いた
OSIRISファイナルライブを振り返る
4Gamer:
OSIRISといえばリアルライブを積極的に行っていましたよね。ぜひそのあたりの話もお願いします。
足立氏:
ライブはもう本当に……お疲れ様でした(笑)!
小林氏:
こちらこそありがとうございました(笑)。
足立氏:
OSIRISとしてこれだけライブをしない期間はここ数年なかったと思うけど,禁断症状とか出てない?
月1以上でやっていましたからね。そういう意味では,OSIRIS曲はたまに聴いちゃってます。カラオケでは歌わないようにしているんですけど……あっ,でも1回だけ「Bloody Masquerade」を歌ったことがありました。さっき声量の話題が出ましたけど,それまでは意識したことがなかったのに,カラオケで歌ったら自分の声が大きすぎて演奏がまったく聴こえなかったんですよ!
安谷屋氏:
もう専用マイクを持つしかないですね(笑)。
小林氏:
OSIRISの楽曲を家でたまに聴くんですけど,気持ち的に「Endless」だけは聴いてないですね。曲を聴いてるとそれこそ一曲ごとにいろんな光景が見えるし,あまりにも思い入れが強すぎる曲は,まだ……。
安谷屋氏:
思い入れという意味ではどれが一番ですか?
小林氏:
「Cross Wish」ですかね。あれは単純にゲーム内だけの話だけじゃなくて,僕自身も思うところがあった曲なんです。そういう曲は,まだあまり聴けないですね。
足立氏:
「LAST GIG-finale-」の最後の曲でもあるもんね。「-finale-」といえば,1曲目が「Heavenly Breeze」ってのもすごかったけど。
小林氏:
最初にセットリストを聞いたとき,「1曲目って……!」って思ったんですけど,やってみたらすごく良かったなと。
でしょ? あれを越えたらすごく楽でしょ(笑)?
足立氏:
最後に難曲が控えている恐怖とどっちがいいかって話だよね。「Heavenly Breeze」は,安谷屋が最初のツアーのころからずっと1曲目でやりたいって言ってたなと。
安谷屋氏:
いきなり“白”から始まるのもありだと思ってたんですよ。それこそ,最初に天使が降りてきて……みたいなイメージで。単純に僕がずっと見てみたかったんです。それにしても,「-finale-」のセトリはすごいですよ。演奏もですけど,あれを全部歌いきるって,相当な実力がないとできないです。
小林氏:
今だから言えますけど,ライブが終わってから2日間声が出なかったです。でもそういう意味では全力でやりきれたんじゃないかと思っています。その証拠に,ライブが終わったあと足立さんに「やり残したことはない?」って聞かれたときは,ひとつも思い浮かばなかったです。
とはいえ,ライブ終盤で「Endless」を歌っているあたりとか,もうぶっ倒れそうでした。でも僕はいち歌い手として,膝をついてでも倒れずに最後まで歌い切りたい意地があったので,ライブ中は倒れてしまいたい気持ちと戦っていました(笑)。
大塚氏:
ステージで命尽きるくらい……みたいなイメージで曲も作ってましたね。
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足立氏:
「-finale-」後に,メンバーも含めて朝まで飲んだんだよね。まさか全員残るとは思わなかった。
安谷屋氏:
朝までいて,みんな仲良く電車で帰ってましたね(笑)。なんか本当にバンドっぽかった。
足立氏:
最後のライブだったけど,しんみりもしてなくて,逆にみんなすごく楽しい空気だったよね。大塚さんはじめゲストの人たちも参加してくれて。でも,ライブの最中はグッとくるものがあったでしょ?
小林氏:
僕は歌っているときって,無感情じゃないけど常にフラットな状態なんですよ。俯瞰でステージを見るというか。だから,歌いながら感情が揺さぶられては駄目だって思っていたんですけど,MCで一気に感情の波が来ました。「早い,まだ泣くところじゃない!」って。
4Gamer:
後半の,手紙を読んだところですか?
小林氏:
そのころはもうぼろぼろだったので,それより前です(笑)。バンやろ曲のカバーを演奏する前で,ここから盛り上げる流れなのにいろんなことを思い出しちゃって。
足立氏:
今ここにいる僕らは見られていないんだけど,「-finale-」のライブビューイング会場では,ほかのメンバーもアップでカメラに抜かれてて,バタヤン(ドラム担当)が涙してるシーンとかで,劇場は大号泣だったらしいよ。
小林氏:
どの曲だったか忘れてしまったんですけど,間奏で後ろを向いてバタヤンのほうに寄って行ったんです。そしたら目が合ったんですけど,それまで抑えていたであろう何かが決壊したのか,演奏しながらバタヤンが泣き始めちゃって。「えっ,今この瞬間泣くの!?」ってビックリしました。
足立氏:
バタヤンもあとから,「大丈夫だと思っていたけど,小林くんと目が合った瞬間にもう駄目だった」って言ってた。
小林氏:
だからか,カゴメと瑠(ギター担当)は目を合わせないんですよ(笑)。僕ともほかのメンバーとも。
安谷屋氏:
ああ,もう泣くって分かっていたんでしょうね。
小林氏:
ライブ中にバタヤンとカゴメの目が合った瞬間,カゴメがふっと目をそらしてました(笑)。そのときのカゴメもやっぱりキテたみたいで,それを見てバタヤンがさらに泣くという。
安谷屋氏:
あいつ一番泣いてたんじゃないですか(笑)。さすがバンマス……。
足立氏:
大塚さんは最初期からずっと現場に足を運んでライブを見てくださっていましたけど,活動を見続けてどうでした?
大塚氏:
ライブはすごく勉強になりました。ライブを意識して曲を作ることってなかったんですけど,OSIRISで初めてその経験をして,ほかのプロジェクトで曲作りをするときもライブのことを考えるようになりました。お客さんがどういう反応をするかとか,どう動くかとか,曲作りに活きていますね。
あと,最初から見ていて感じたんですが,OSIRISはある時を境にバンドとしてのレベルが上がって,別ものになった瞬間がありました。
足立氏:
そういう意味ではライブもいくつかのターニングポイントがありましたよね。まずお客さんの入り方が最初とぜんぜん違うし。
小林氏:
あの急速な増え方に僕自身がついていけないんじゃないかと思うくらいでした。フロアに人が溢れる景色は,ステージからだとこんなふうに見えるのかって。最初にZirco Tokyoが満員になったときはさすがに気圧されて,あのときはお客さんに負けてました。
安谷屋氏:
OSIRISのライブはお客さんにすごく助けられました。今小林さんが言った話もそうですけど,「おまえら本当にこのままでいいのか?」って。ライブ慣れしていなかった瑠くんもそうですけど,パフォーマンスも含めてすごくいろいろ話し合いました。
足立氏:
瑠くんはめちゃくちゃ成長したよね。
大塚氏:
テクニックはあるのにステージに上がるとそれを全部活かせていなかったのが,あるときから歌心を感じさせるギターになったと思います。
安谷屋氏:
1週間1人で練習するより,ライブを1回やってお客さんの反応を見ながら演奏したほうが成長しますよね。それをすごく実感しました。
小林氏:
ライブの影響はすごくありましたね。「Re:incarnation」はレコーディングのとき,ライブのお客さんを思い浮かべながら歌っていました。ライブ活動にすごく助けてもらったなと思います。
4Gamer:
CDは11月21日の発売ですが,そのあとには2018年4月1日に行われた「ドリームマッチ・デュエルギグ2018 春∞宴[炎]」の上映イベントもありますね。
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足立氏:
そうですね。小林くんも来る(笑)? ライブ当日は来られなかったもんね。
小林氏:
確かにちょっと観たい気はするので検討してみます(笑)。
4Gamer:
それでは最後に,ファンのみなさんへ向けてメッセージをお願いします。
安谷屋氏:
バンドによって楽曲を制作する作家さんも違えば作り方もそれぞれ異なっているので,バンドごとにさまざまな魅力があると思います。自分で作っておいてあれですけど,OSIRISはもちろんどのバンドも捨て曲が1曲もないと自負しています。スタッフの思い入れのある曲をぜひ噛み締めて聴いていただけたらと思います。
小林氏:
僕もみなさんと一緒のタイミングで「Endless」を聴こうと思います(笑)。本当に,早くフルで聴いてほしいですね。あれを聴くと,OSIRISはここに生きているんだって感じられると思うので,ぜひ。
大塚氏:
「Endless」は僕もいろいろな想いを込めすぎて,当時の記憶がだいぶ曖昧なので,あらためてCDで聴いて思いを馳せたいと思います。何回も聴くと,新たな発見もあるかもしれません。
足立氏:
OSIRISに関しては,やっぱり小林くんの成長や大塚さんの曲の違いとか,vol.3のCDだけでも歩みや変化を感じられるのではないかなと。曲を聴くと,ライブで小林くんが歌っている姿とか,ゲームでOSIRISやいろんなバンドのメンバーたちがわちゃわちゃ騒いでいるところを,いつまでも思い出せるはずです。曲があるかぎり,彼らはずっとみなさんの胸の中に残り続けますし,存在がこれからも生き続けます。ぜひ,お手にとっていただけたら嬉しいです。
小林氏:
OSIRISはボーナストラックのオリジナルボイスドラマ「遠き日のrecollection」も面白いですよね。僕もシナリオを読んで,めちゃくちゃ驚きました。
オリジナルボイスドラマ
「遠き日のrecollection」の試聴はコチラ
足立氏:
すごく「バンやろ」っぽいよね。ゲームの後日談的なストーリーなんですが,衝撃的なエピソードが待っています。なんと,高良 京が……!?
小林氏:
みなさんびっくりして思わずガタッと席を立つくらいだと思います。
大塚氏:
このなかで僕だけ内容を知らないんですよ(笑)。すごく楽しみです。
足立氏:
ぜひ最後までお聴きください。
4Gamer:
本日はありがとうございました!
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