インタビュー
「Ghost of Tsushima」開発者インタビュー。Sucker Punchは鎌倉時代の侍をどう描いたのか
本作について,Sucker Punch Productionsのアート・クリエイティブディレクターであるJason Connell氏に話を聞けたので,本稿ではその内容をお届けしよう。
「Ghost of Tsushima」公式サイト
4Gamer:
「Ghost of Tsushima」では,「鎌倉時代」の元寇(げんこう)における,対馬侵略が描かれていますが,この出来事を題材にした理由を教えてください。
社内で新しいIPを作ろうという話になったとき,私を含めた複数のディレクターが侍をテーマにしたゲームを作りたいと思ったんです。時代劇の漫画を読んで好きだったという人もいますし,私の場合は時代劇の映画が大好きだったので,この題材に非常に興奮していました。そこで,物語の題材になるような日本の歴史上の出来事を探していたところ,元寇の蒙古襲来の話を見つけたんです。
圧倒的多数のモンゴル軍に対して,対馬の武士団はわずか80騎で挑みました。おそらく死ぬと分かっていたはずです。それでも挑んでいったというストーリーにヒロイズムを感じまして,そこから我々独自のストーリーが作れるのではと考えたのです。また,戦国の世や江戸時代をテーマにした作品はたくさんある一方で,この時代に焦点を当てた作品は珍しく,競合が少ないというのも理由の1つですね。
4Gamer:
ストーリーは史実に基づいて展開されていくのでしょうか。
Connell氏:
もちろん史実は参考にしているのですが,ストーリーや登場する人物はオリジナルです。ただ,当時の出来事や後世に語られる伝説を紐付けている部分もあります。例えば風(※)は,嵐が元軍を襲って大きな打撃を与えたという伝説をモチーフにしています。また風に関していえば,黒澤映画で風が効果的に使われているところに触発された部分もあります。
※本作は目的地までの視覚的なガイダンスとして,その方向に風が流れる演出が用意されている。
4Gamer:
黒澤映画というワードが出てきましたが,ほかに参考にした作品はありますか。
Connell氏:
まず黒澤映画は演出とカメラワークが素晴らしいので大いに参考にしました。ほかにも多くの映画を参考にしたのですが,1つ挙げるとすると「十三人の刺客」です。オリジナルはもちろん,三池崇史監督のリメイク版も良くできていて,時代劇というものを別の角度から捉えた作品です。変わったところでは,ゲーム内で対馬の環境を作ったスタッフは,日本の旅行ガイドも参照していましたよ。旅行ガイドはほかとは違った角度から日本の風景を捉えているので,風景の捉え方という点でとても参考になるのです。
あと,直接取り入れたわけではありませんが,上田文人さんの「ワンダと巨像」で感じられるミニマルで規律のある雰囲気作りというのは,本作を描くうえで個人的にガイドにしていました。
4Gamer:
鎌倉時代の対馬をそのままゲームに落とし込もうとすると,ただ広いだけのオープンワールドになりそうなイメージですが,実際はどうでしたか。
Connell氏:
対馬への取材旅行で受けた印象は,とにかく山が多く,ほとんどが森林で覆われているというものでした。あとで調べたところ,現在の対馬はその80%以上が森林で覆われているそうです。おっしゃるとおり,それをそのままゲームに落とし込もうとすると,馬で動きづらいですし,ひたすら山と森の中を歩くという,ゲームとしては辛いものになってしまいます。
したがって,忠実性を保ちつつもゲームとして楽しいものにするという部分では,とても苦心しましたね。
結果的には,当時の対馬とは違った対馬を作ることになりました。本作では,ストーリー上の理由や一部の制限を除いて,目に見える場所はほぼ歩いて行けるようにしたかったのです。そうするためには,忠実に対馬を再現するよりもゲームとして楽しくするほうがベストだと考えました。
4Gamer:
プロローグが終わったあと,すぐにボスのいる金田城に行けるようになってますが,その気になれば攻略もできるのでしょうか。
Connell氏:
金田城はストーリーにおいて重要な場所であり,序盤でも語られるように正攻法では勝てません。本作では金田城を攻略するための過程を,ストーリーとしてしっかりと描きたいというのもあり,そこは制限させてもらっています。先ほどの話とも関係しますが,こういう部分はオープンワールドのゲームを作るうえで非常に悩ましいところですね。
4Gamer:
仁を描くうえで何を意識しましたか。
Connell氏:
仁は歴戦の強者である侍なので,戦士としての感覚だったり,自信や技量だったりというものを説得力のある形で描く必要がありました。ただ,感情を動かさない戦士にしてしまうと共感しにくいキャラクターになってしまうので,しっかりとプレイヤーが共感できる部分も作っておきたかったんです。
仁は,長年信じてきた侍の道を離れて,「冥人(くろうど)」という邪道な戦い方をする戦士になるのですが,それは彼の故郷である対馬や,そこにいる人々,そして動物などを守らなければならないという思いからの変心です。そういった彼の葛藤がプレイヤーに伝わらなければならないので,ちゃんと感情移入できるキャラクターになるよう意識して作りました。
4Gamer:
Sucker Punch Productionsの代表作である「inFAMOUS」では,正義か悪かというプレイスタイルの概念があり,物語の展開も異なっていました。本作では武士道は正義,冥人は悪といった形で描かれますが,プレイスタイルに応じて物語が変化することはありますか。
Connell氏:
inFAMOUSとの大きな違いはそこにあります。inFAMOUSにはカルマがあり,プレイヤーはヒーローにもヴィランにもなれました。ただ,本作には仁の葛藤という明確に描きたいものがあります。したがって,inFAMOUSのようにストーリーをマルチに展開していくよりも1つに絞ったほうが,本作の世界を深堀りするのに集中できますし,そうするためのサイドストーリーなども充実させられます。
世界の多くの人にとって見慣れない対馬をしっかり楽しんでもらうため,本作では1つの物語と道筋をしっかりと描いています。
4Gamer:
そろそろお時間のようです。本日はありがとうございました。
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