インタビュー
[SPIEL'19]ボードゲーム版「Europa Universalis」が完成間近。どんなゲームとして仕上がったのか,デザイナーに聞いた
このうち「Crusader Kings」はすでに販売されているが,開発中の「Europa Universalis」については,昨年のSPIEL'18の段階で言えば,かなり複雑なルールがあったり,特定の行動に明らかな不利が見られたりと,粗さが目立つ状態だった。
今回のSPIEL'19のParadox Interactiveブースには,再びEuropa Universalisがお目見えしており,試遊卓は常に盛況だ。果たしてボードゲーム版Europa Universalisはどんなゲームとして仕上がりつつあるのだろうか。ゲームデザイナーのEivind Vetlesen氏に話を聞いた。
「Europa Universalis: The Price of Power」公式サイト
[SPIEL'18] これぞまさにボドゲ版“パラドゲー”。25年の時を経て生まれ変わった「Europa Universalis: The Board Game」を会場で遊んできた
アナログゲームへの進出を進めるParadox Interactiveが,フラグシップタイトルとして開発している「Europa Universalis: The Board Game」のインタビューとプレイレポートをお届けする。2019年のローンチを目指し,開発が続けられているという同作だが,そのプレイフィールはいかなるものか。SPIEL'18の同社ブースで体験してきた。
4Gamer:
昨年も「Europa Universalis: The Board Game」をこの場所で見たのですが,あれから何が変わったのでしょうか。
Eivind Vetlesen氏(以下,Vetlesen氏):
まず正式なタイトルが決まりまして,「Europa Universalis: The Price of Power」(以下EU:PoP)となりました。もちろん,それ以外にもたくさん変更が加えられています。なにせあれから7か月にわたってテストプレイと修正を繰り返しましたので。
もっとも大きく変化したのは,VP(勝利得点)システムです。VPは各国ごとに割り当てられたミッションから得られますが,これ以外にも「目標(マイルストーン)を最も早く達成した国」にVPが与えられたり,技術を開発することによってVPが得られたりします。
とりわけマイルストーンは,ゲームのプレイフィールを大きく変えたと感じています。国境線を接していない国家同士でも,マイルストーンを競うという形で接点ができましたので。
4Gamer:
なるほど,それは大きいですね。地図の東端と西端にある国だと,ゲームが終わるまでプレイヤー同士が話すことがなかったりしましたし。
Vetlesen氏:
多くのイベントカードはA/B式で,カードを取ったプレイヤーが,2つのイベントのどちらが起こるかを選択できます。加えてイベントカードには公開のものと非公開のものがあり,非公開のカードを取るというギャンブルも可能です。
イベントカードは,特定の国に対して良いことや悪いことが起こるものですので,自国にとって良からぬことが起こるカードを避ける工夫が必要になります。あるいは,カード内の選択肢に自国にとって良からぬことが起こるイベントがあるなら,そのカードを率先して取って,もう1つのイベントを起こす,といった戦略が基本ですね。
4Gamer:
SPIEL'19での試遊卓を見て,手応えはいかがですか。
Vetlesen氏:
今年のほうが,昨年よりもプレイヤーがルールを理解しているという気がします。もっとも,最近は「重たいゲーム」がよりプレイされますので,多くのプレイヤーがこういうゲームに慣れてきたのかもしれません。
4Gamer:
参加人数として1〜4人という話を聞いたのですが,ソロでもプレイもできるようになったんですね。
Vetlesen氏:
はい。ゲームデザイナーのDavid Turczi氏(SPIEL'19には「Rome & Roll」を出展。ヒストリカルゲームのデザイナーとしてはSPIEL'16に「Days of Ire: Budapest 1956」を出展した)がシングルプレイモードを作ってくれました。とても良くできています。ちなみに,Table Top Simulator版もリリースしますので,それを用いたオンラインマルチプレイも可能です。
4Gamer:
プレイ時間はどれくらいになるでしょうか。
Vetlesen氏:
シナリオによります。4人のプレイヤーで2つのAge(時代)をプレイするといったシナリオなら,4〜5時間というところです。最大6人プレイヤーで4つのAgeをプレイできますが,その場合は10時間は見たほうがいいですね。
4Gamer:
長時間プレイするゲームで,軍事要素もありということになると,プレイヤーが他国に攻め滅ぼされて脱落する可能性もあると思います。そのあたり,何か対策はありますか。
Vetlesen氏:
実を言いますと,これまでのテストプレイで国家が滅んだ例はありません。全力で他のプレイヤーを潰しにいっても,それほどの利益がないんです。PC版のEuropa Universalisがそうであるように,「戦争して占領」だけを考えてゲームを進めるのは良いアイデアではありません。
4Gamer:
昨年まではかなり細かいルールがたくさんありました。ルールの難度的にはどの程度にまとまりましたか。ルールブックは結構厚く見えますが……。
Vetlesen氏:
ルールブックは40ページありますが,そのうちルールが書かれているのは8ページめから15ページめまでです。図版類がたくさん含まれており,分かりやすいものになったと思います。とはいえ,今もまだルールブックをブラッシュアップしている最中ですが。
11月7日にはKickstarterのキャンペーンページでルールブックがダウンロードできるようになる見込みです。期待してください。
4Gamer:
具体的な発売日はいつ頃になりそうでしょうか。
Vetlesen氏:
確定ではないのですが,余裕を持って2020年の9月頃と言っておきます。Kickstarterのバッカーには先行での販売となります。
4Gamer:
お話を聞く限り,ゲームはほぼ完成しているようですが,ここまで一緒にParadox Interactiveの人々と仕事をしてきてどうでしたか。仕事はしやすかったですか。
Vetlesen氏:
もちろん! とてもたくさんの面で助けてもらえました。SPIELはもちろん,PDXCONでも一般の来場者を相手にテストプレイさせてもらえましたし,GenConにも行きました。
私自身は彼らとEU:PoPを遊べてはいないのですが,Paradox Interactiveのスタッフがこのゲームを遊んでいるところを写真に撮って送ってきてくれたりもしましたよ。
4Gamer:
EU:PoPは,もともとEuropa Universalisシリーズが巨大なゲームだったこと,そして初代はボードゲームだったこともあり,デザインにあたってさまざまな苦労があったと思います。中でも印象的な出来事はなんでしょうか。
Vetlesen氏:
そうですね……たくさんあります(笑)。やはりゲームをシンプルにし続けるには大きな苦労がありました。そのうえで,Europa Universalisのプレイフィールは保たなくてはならないし,かといって「紙のコマでPCゲームを遊んでいる」だけになってもいけません。このあたりのバランスは難しかったですね。
個別のシステムでいえば,交易システムは完成までに時間がかかりましたし,イベントシステムも現在の状態になるまでには多くの苦労がありました。なにしろ,イベントシステムが完成したのは今年の夏でしたからね。さっきも言いましたが,「マイルストーン」のアイデアはゲームに大きな前進をもたらしてくれました。あれもまた,非常に苦労したポイントです。
4Gamer:
同じ時期のヨーロッパを扱ったゲームとしてGMT Gamesの「Here I Stand」(2006年)があります。これは間違いなく傑作で,Vetlesen氏もお好きだということですが,EU:PoPと「Here I Stand」との最大の違いはなんでしょうか。
Vetlesen氏:
EU:PoPのほうがより「歴史のサンドボックス」となっています。つまり自由度が高いんです。御存知のとおり「Here I Stand」は歴史的な展開に強く依存するシミュレーション要素の強い作品です。その結果として,特定の勢力のプレイヤーは本当に特定のことしかできず,他のプレイヤーとのインタラクションがほとんどない,ということも起きます。
4Gamer:
「ひたすら聖書を書き続けるルター」などですね。
Vetlesen氏:
私も何度か「Here I Stand」はプレイしているのですが,一緒にゲームを遊んでいるプレイヤーを相手に「どうやら君と僕で遊んでいるゲームがまったく違うようだな」という感想を抱くことがありあります。それはそれで楽しいので,いいんですが(笑)。
ともあれ,EU:PoPではVPを得る手段が多彩に存在しますので,ある意味,4Xゲームのようなテイストで楽しむことが可能です。とはいえ,国家によって得意,不得意が違いますので,なんの制限もないサンドボックスではありません。例えばスペインが最初から神聖ローマ帝国に対して大きな影響力を行使するのは難しいですし,オーストリアが大航海時代に率先して乗り出していくのも困難です。
4Gamer:
なるほど。宗教改革はどのような形で表現されていますか。
Vetlesen氏:
プロテスタントの広がりはイベントとして処理しています。それに対して各国プレイヤーが新教を広めるのか,それとも広めないのか,あるいはどこに広めていくのかといったことをコントロールする形になります。
イベントカードですのでランダム要素はありますが,完全にランダムに新教が広がっていくというわけではなく,プレイヤーが関与できることは多いですね。
4Gamer:
ちょっと先の話になってしまいますが,拡張セットなどの予定はありますか。Europa Universalisの魅力の1つとして,全世界を舞台にプレイができるということがあります。
Vetlesen氏:
作りたいと思っています。今でも小マップとして世界の他の地域を扱えるようになっていますが,ヨーロッパを小マップにした他の地域のゲームも作りたいですね。また,可能であればそれらを連結して遊べるようにしたいと考えています。
4Gamer:
「オペレーション:ジャガーウォーリアー」にも期待できますね。
Vetlesen氏:
ちょっと待って。その「オペレーション:ジャガーウォーリアー」というのはなんですか。
4Gamer:
昔読んだ「Europa Universalis II」のプレイレポートで,「アステカがアメリカ大陸全体を統一し,スペインに侵攻する」というものです。これを読んでEuropa Universalis IIがいっぺんに好きになりました。
Vetlesen氏:
なるほど,それはすごい(笑)。ちなみにEU:PoPでは小さな国家をプレイするシナリオもありますよ。
4Gamer:
というと,例えば神聖ローマ帝国を構成している残念な小国をプレイできたりするわけですか。
Vetlesen氏:
そんな感じです。したがって,オリジナルのシナリオを作れば,小国プレイヤーと大国プレイヤーが入り乱れてプレイを楽しむことも可能です。
4Gamer:
なるほど! 俄然興奮してきました! ですがその場合,ゲームバランスはどうなりますか。
Vetlesen氏:
そういうプレイが好きなコアプレイヤーであれば,ゲームバランスよりもゲーム体験のほうが重要なのではないでしょうか。
4Gamer:
そのとおりです。とても素晴らしい情報を聞けました。本日はお忙しい中,ありがとうございました。
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