連載
レトロンバーガー Order 76:「フライングパワーディスク」がフランスで人気を得て,アメリカで注目を集めて,28年ぶりに戻ってきたぞ編
(Ability is nothing without opportunity)
フランス帝国の皇帝,ナポレオン・ボナパルトはこう述べました。中華料理のシェフをファストフード店の厨房に置いても真価を発揮できませんし,ファストフード店の調理チーフに創作料理を作らせてもまずうまくいきません。ジョン・ランボーがトラウトマン大佐に「国に戻ってみれば駐車場の係員にもなれないんだ!」と言ったり,ビッグボスがソリッド・スネークに「私もお前も戦場でこそ希少価値だが国へかえれば不器用なデクだ」と言ったりもしていましたが,そんな感じです。
ゲームも同じです。かつて隆盛を誇ったゲームおよびIPでも,現行のプレイ環境が無ければ“思い出話”以上のものにはなりません。男色ディーノさんの連載で「十三機兵防衛圏」や「真・女神転生V」などについて述べられるのはちゃんとした話になりますが,当連載で筆者が「アトラスのゲームはおもしれえよな〜〜〜〜『ブレイゾン』とか『ポラックス』とかよォ〜〜〜〜」とか言ったら,“思い出話”すら置き去りでゴーイング路地裏トラッシュトークです。「プレイしたけりゃミカドやHeyに行け!」と言っても首都圏外の人には難しいですし。なお「ブレイゾン」開発元のエーアイは,ゲームボーイアドバンスやPSPといった携帯機向けの「スーパーロボット大戦」シリーズを開発されていたそうで,筆者的にはじわじわと笑いが込み上げてきます(路地裏トラッシュトーク)。
……「ポラックス」はともかく「ブレイゾン」はマジで好きなんだよな……まあ「ポラックス」もそれはそれで開発元の韓国・Dooyongについて機会があれば掘り下げてみたいもんだけど……NMKとも縁が深いそうだし……あとAfegaとかPhilkoとかに関しても……こう,マトモなゲームじゃ味わえない,サイコホラーとブラックコメディを一度に味わうようなゾワゾワした愉快さってもんが,やっぱクソゲーならではといったところでな?(路地裏トラッシュトークII)
ただ“機会”はどこにあるのか分からないものです。日本で知られるバウムクーヘンは,出生の地・ドイツではむしろマイナーな存在。逆に,日本で1970年代にいっとき流行した紅茶キノコは,欧米でコンブチャ(Kombucha。名前の由来である昆布茶とは当然ながら別物)として現在進行形で支持を得ています。
そのように,アメリカンな雰囲気のゲームが日本で作られることもありますし,その日本産ゲームがフランスで新生してワールドワイドでデビューすることもあるってなもんです。というわけで今回は,2022年1月20日にフランスのDotEmuから発売された「Windjammers 2 - フライング・パワー・ディスク」(PC / PS5 / PS4 / Xbox One / Nintendo Switch。以下,Windjammers 2)でやっていきましょう。
風が語りかけます――うまい うますぎる
今は亡きデータイーストがSNKのNEO・GEOに参入し,MVS向けに「フライングパワーディスク」(英題は「Windjammers」)や「ファイターズヒストリーダイナマイト」,「ダンクドリーム」などをリリースしたのは1994年のこと。SNK的には1993年に「餓狼伝説SPECIAL」,1994年に「竜虎の拳2」や「THE KING OF FIGHTERS '94」などをリリースし,自社IPの展開に一定の区切りが見えてきたところだったので,恐らくソフトメーカー各社に改めて参入を呼びかけたのでしょう。ちなみに1995年にはサンソフトやテクノスジャパン,ハドソンなどがNEO・GEOへのソフト提供を開始します。
本連載では過去に3回くらい触れた気もしますが,当時は「バーチャファイター」の登場に代表されるアーケードゲームの変革期で,恐らくデータイースト的にも“次のハードウェア”を模索していた頃。また,「ウルフファング 空牙2001」や「ザ・グレートラグタイムショー」などでCPUにMC68000を使っていたこともあり,同CPUを採用したNEO・GEOには乗り換えやすかったかと思います。ちなみにデータイーストは,「キャプテンアメリカ・アンド・ジ・アベンジャーズ」「アベンジャーズ・イン・ギャラクティックストーム」「キャノンダンサー」などに使用した自社開発基板ではARM系CPUを使ってみたりもしていますね。まあ,アーケードビデオゲーム市場自体が1990年代後半には一気に冷え込み,「根本的にハードウェア,とくに一枚基板からは撤退する」のが正解だったわけですが……。
「フライングパワーディスク」の出回りは,けっこう良かった印象があります。「ゲームセンターにNEO29筐体が3,4台あったら,うち1台には入ってる」くらいだったというのが筆者の感覚です。「真SAMURAI SPIRITS 覇王丸地獄変」や「ワールドヒーローズ パーフェクト」みたいな花形タイトルや,「メタルスラッグ」や「ソニックウィングス3」みたいな燻し銀タイトルには譲るものの,“脇を固めるには好適”といったニッチのタイトルでした。
なので「知らんゲームにはとりあえず100円入れよう」主義の筆者的には「遊んだことがない」はずは無いものの,実のところプレイの記憶は超希薄。何でだろう……と思ってアレンジ移植版の「フライングパワーディスク:Windjammers」(PS4 / PS Vita / Nintendo Switch)をプレイしてみて,思い出しました。
このゲーム,「とっつきやすくて,分かりにくい」んだ。
8方向キー+2ボタンという簡単操作ながら,ボタンは入力タイミングによって発動するアクションが変化。「相手側のゴールにディスクを投げ込んだら得点」というエアーホッケーや「PONG」のような単純ルールながら,得点ショットを叩き込むための立ち回りがけっこう難解。ゲームシステムを把握するまで「キャラクターを動かせるのに勝てない」という状況が続きます。
とりあえず「ディスクとの接触直前にレバーニュートラル+A(NEO・GEO上のボタン)で発動するレシーブ」からの必殺シュートを覚えれば,いちおうCPUとは戦えるようになる(戦略や戦術はさておいて)ものの,この基本テクニックであるレシーブがけっこう難しい。最近のタイトルで言えば,「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」(PC / PS4 / Xbox One)の“弾き”システムみたいなもんです。全世界2000万人のSEKIROプレイヤーが一度はヤケクソでチャキチャキチャキチャキとガードを連打した,あの感じです。「フライングパワーディスク」のAボタンは投げ・スライディング・レシーブに使いますので,SEKIROで言ったら攻撃・ステップ・ガードがワンボタンみたいな話です。頭がこんがらがります。
現代ならゲーセンミカドのYouTubeチャンネルで講習会の動画アーカイブを観てプレイ方法を学ぶこともできますが,1990年代にゼロから自力で習熟するのは,なかなか難しいことでした。まして小学生にとっての100円を投じるかってなると……。
あれから20余年。上記の動画などを観て,改めてやってみると……ノリのいいBGMとサクサク進行する小気味良いプレイフィール。ああ! 今ようやく! 「フライングパワーディスク」の遊び方が分かった! 20余年を経て! ……やっぱ分かりにくいよコレ!!
というわけで「格ゲー勢が箸休め的にプレイしているのは度々見たけど,コレ専門でガッツリやってる人は見たことねえな……」な感じだった「フライングパワーディスク」。でも,これが海外市場ではマッチし,今になって「Windjammers 2」が作られることに……と思っていたんですが,調べてみるとそういう話でもなさそうなんですよね。
IGNの特集記事によると,フランスに小さいものの熱狂的な「フライングパワーディスク」のプレイヤーコミュニティがあり,DotEmuが移植の検討を始めたのも,そういったローカルなニーズを受けた面が大きかったようです。プレスリリースでも「カルト的名作」と呼ばれていますが,その人気はまさに局所的なものでした。
ただ,その新生「Windjammers」が,リリース予定日と会期が近かったためか「EVO2017」のPlayer's Choice候補に選出され,意外なほどの脚光を浴びることになります。言わずもがなですが,EVO(Evolution Championship Series)は国際大会と言ってもアメリカのイベントです。
「EVO2017」のメイン競技タイトルが本日発表。お馴染みのタイトルに加え,「BBCF」「KOF XIV」「Injustice 2」が選出。9番目の枠は寄付額にて決定
2017年7月14日から16日の3日間,アメリカ・ラスベガスで開催予定の格闘ゲームフェスティバル「Evolution 2017」。そのメイン競技タイトルが本日(2017年1月25日)発表となった。「ストV」などおなじみのタイトルに加え,今年は「BBCF」「KOF XIV」「Injustice 2」などの新顔が加わっている。
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改めて見てみると,「ちょっと大会の第一線からは落ちるが……」というタイトル群に,旧作枠の「スーパーストリートファイターIIX」,ネタ枠の「Nidhogg」に挟まれて,旧作枠かつネタ枠の「フライングパワーディスク」が存在しているのは,確かに目を惹きつけられます。最終的に選抜されたのは「ULTIMATE MARVEL VS. CAPCOM 3」でしたが,もし「フライングパワーディスク」が選ばれていたらどんな戦いが繰り広げられていたのか,気になるところです。データイーストのゲームは尖った個性を重視していましたが,それが20余年を経て(妙な形で)発揮されたわけです。
日本のゲームがフランスで人気を得て,20数年後にアレンジ移植されることになり,アメリカの大会を機に世界から注目された……という謎の“流れ”が生じ,「Windjammers 2」のプロジェクトが立ち上がりました。筆者視点では「ゲーセンで脇を固めてんな〜とっつきやすくて分かりにくいな〜」と思っていたゲームが,欧米を経由して世界的なゲームになったわけです。イギリスの聖職者および歴史家であるThomas Fullerは「ロバが旅をしても,馬になって戻ってくるわけではない」(if an ass goes a-travelling, he’ll not come home a horse)と述べたそうですが,「フライングパワーディスク」は欧米を経由することで,「Windjammers 2」というマッチョロバになって28年ぶりに帰ってきました。
「Windjammers 2」のゲームシステムは,基本的な部分は前作を踏襲しつつ,ジャンプや必殺技の任意発動機能などが追加されています。ざっくり言えば,「とっつきやすくて,分かりにくい」ぶりもパワーアップ。例によって「ディスクとの接触直前にレバーニュートラル+Aで発動するレシーブ」を覚えれば戦えるようにはなりますが,触感としては“スルメゲー”のそれで,「今のオンラインマッチ」よりか,「1年後の大会」が楽しみなゲームです。
海渡る 風渡る 懐かしさは不思議な力を持っています
それにしても,フランスでの「フライングパワーディスク」人気は奇妙に感じられます。
でもまあ,これは“仮に”の話なんですが――同列に並べるべきものではないし,有り得ない仮定だというのは重々承知ですが――EVOのチャリティ企画で,投票式の種目選抜に「ファイナルソード DefinitiveEdition」がエントリーされていたら,日本から怒涛の投票があることは想像に難くありません。昨年末の「RTA in Japan Winter 2021」でも大盛りあがりでしたし。て言うか筆者もいくらか出します。
それに,アメリカのMicroGraphic ImageがAtari 400/800やCommodore 64にリリースした「Spelunker」(スペランカー)が,ファミリーコンピュータ移植版から日本でのカルトな支持を集め,ファミリーコンピュータ版から26年を経た2009年に実質的なリブートである「みんなでスペランカー」シリーズがスタート,派生作品「スペランカー先生」がアニメ化,一二三書房によるノベライズ,2021年7月の「元祖みんなでスペランカー」(PS4 / Nintendo Switch)発売などと続いていることも,考えてみるとよく分かりません。日本人はどうしてこのアメリカ産ゲームが好きなんでしょうか。
弊誌編集長も大ファンである「Wizardry」は,やたら日本人ウケするタイトルです。オリジナルシリーズはアメリカのSir-Techによるものですが,アスキーやスターフィッシュによる派生作品がバチバチ作られ,ベニー松山氏による小説「隣り合わせの灰と青春」があったり,松竹富士によるOVA版があったり,去年はGame*Spark PublishingがSteamで「Wizardry外伝 五つの試練」をリリースしたりして,「むしろWizardryって和ゲーじゃね?」くらいの雰囲気を感じます。日本人には“カシナートの剣”や“ボーパルバニー”などのギャグ要素が通じなかったため,「これは個性的かつ,しっかりしたファンタジー作品だ」と,言ってしまえば“都合良く”受容されたのだ……という話を聞いたりはしますが,それにしても不思議です。
ちなみに筆者は,双葉社(アクションコミックス)から1991年に刊行された「ウィザードリィ 4コマまんが王国」で初めて“ゲーム関連書籍”というものに触れたので,もし「Wizardry」が存在しなかったら筆者がゲームメディアに携わってなんかいろいろやったりすること(最近の表に出たものではにゃるら氏にインタビューしたり)も無かったかもしれません。また,にゃるら氏の「NEEDY GIRL OVERDOSE」は,さまざまな日本製ゲームのミームに支えられているタイトルですが,中国でのセールスが非常に好調なのだそうです。
どこで,何が,どういう形で支持を得るのか,どういう影響を与えるのか,どういう現象を招くのかは,ほとんど予測不可能です。つい先日「インディーズ的な世界では人気を博しても商業メディアでそれをやったらそりゃタコ殴りにされるわ」というケースも他社の媒体で見ましたし……まあアレはどっちかっつうと担当編集のせいだと思いますが……。当然至極とは思いつつ“明日は我が身”も有り得ると戦々恐々な今日この頃です。微熱でS.O.Sです。
そんな世の中で生き抜くには,いろいろな可能性をキープし続けることが一番です。「一度成功を得られたら二度とそこから動かないこと」という消極的な方法論もありますが,くたばるまでの時間をいくらか引き伸ばすだけのチキン戦略を取ったって,先細りで犬のクソほども面白くありません。うん,こういうことを言ってると危険が起こりうる。
そういった可能性の意味では,次はやっぱり「トリオ・ザ・パンチ」のリメイクが必要だと思うんですよね。可能性の塊としか言えないタイトルじゃないですか。そのリメイクを,すっげえフォトリアルなグラフィックスで。オープンワールド形式のアクションアドベンチャーで。筆者の脳内に今あるビジョンは「POSTAL 4」をシュールにした感じなんですけど。そういうので。「トリオ・ザ・パンチ」のリメイクを。開発は日本でも,フランスでも,ヨーロッパでも中南米でもシンガポールでもアメリカでも(ゲーマデリックのテーマ)。
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