インタビュー
「百英雄伝」は,“トラディショナルなJRPG”を追求し,新たなRPGの形を作り上げる作品に。制作チームの中心人物にオンラインインタビュー
「幻想水滸伝」シリーズを手掛けたクリエイター陣が制作メンバーとして集結したことで注目を集める本作は,“JRPGのトラディショナルなスタイル”を追求し,今だからこそできる新たなJRPGの形を生み出す作品となるという。
そんな「百英雄伝」について,開発スタジオ「Rabbit & Bear Studios」の中心メンバーである村山吉隆氏,河野純子氏,小牟田 修氏,村上純一氏にオンラインでインタビューしたので,その模様をお届けしよう。
プロジェクトのリーダーで,「幻想水滸伝」シリーズの生みの親としても知られる村山吉隆氏。主に脚本とゲームデザインを担当する |
キャラクターデザイン担当の河野純子氏。「幻想水滸伝」では,1作目のキャラクターデザインのほか複数の作品に係わっている |
システムデザインおよびディレクションを担当する小牟田 修氏。「幻想水滸伝ティアクライス」や「Rhapsodia」といった「幻想水滸伝」関連作品を制作 |
アートディレクションとプロデューサー担当の村上純一氏。「キャッスルヴァニア 〜暁月の円舞曲〜」や「OZ-オズ-」などの制作で知られる |
「百英雄伝」公式サイト
「百英雄伝」情報まとめ。現在分かっているゲームの世界観やシステム,クラウドファンディングの現状や今後の情報公開についてチェックしよう
Kickstarterにて開始2時間で目標額を達成し,正式に開発されることが決まった「百英雄伝」の情報をまとめた。現在分かっているゲームの世界観やシステム,クラウドファンディングの現状や今後の情報公開など,「幻想水滸伝」の制作者が集まったことで注目を集める話題の新作RPGの詳細をチェックしよう。
世界規模の盛り上がりとなったクラウドファンディング
4Gamer:
「百英雄伝」については気になることばかりですが……まずは国内外で大きな話題となっているKickstarterについて,目標金額を達成した今の気持ちからお聞きしたいと思います。
村山氏:
いやあ,勢いがすごすぎてテンションがおかしくなるくらいで……。
4Gamer:
Kickstarterのサーバーがダウンするほどの支援者が集まり,開始2時間でPC版制作の目標額を達成しました。Kickstarterの状況とともに村山さんのTwitterもチェックしていましたが,かなりの熱狂ぶりでしたね。
「百英雄伝」のクラウドファンディング,開始2時間で目標額の50万ドルを達成。村山吉隆氏や五十嵐孝司氏が登場する日本語版トレイラーを公開
「幻想水滸伝」シリーズを手がけたメンバーが開発に参加している,新作RPG「百英雄伝」。そのクラウドファンディングキャンペーンが,本日1:00にKickstarterで開始され,すでに約1億3000万円近い支援が集まっている。また,本作の開発スタッフが登場するトレイラーの日本語版が公開された。
村山氏:
今回のKickstarterって本当に始まるまでどうなるか分からないという心境だったんですが,開始15分くらい前に「大丈夫かな。何の反応もなかったらどうしよう」と,急に不安な気持ちが強くなって。
そんな不安が頂点に達したときにKickstarterが始まって,支援金額の数字がグングン伸びていったわけですから,もう,感情の反転がすごすぎて相当ヤバい状態ではありましたね。
4Gamer:
ほかの皆さんはどのようにKickstarterの状況を見届けていたんですか?
河野氏:
みんなそんな感じですよね。以下同文ですよ(笑)。
小牟田氏:
Kickstarterページの(支援額の)カウンターがグググッて上がる感じを見ていると,ちょっとおかしくなりますよね。
河野氏:
日本だと深夜1:00スタートでしたが,目標額を達成しても「どうなるんだろう」って朝方まで張り付いていました。そのあと昼になっても気になって見ちゃいましたし,ここ数日はフラフラです(笑)。
村上氏:
でも私は,村山さんのTwitterのおかげで少し冷静になれました。テンションの高いツイートを見ていたら,なんだか面白くなってきて。
一同笑
※こちらが話題に挙がった,“ヤバい状態”だったとき(?)の村山氏のツイート(の中の一つ)ふいいいおおおおお!!!!
— 村山吉隆(Yoshitaka Murayama、BluemoonStudio) (@BmsMurayama) July 27, 2020
小牟田氏:
本当に今までにない経験でしたよね。会社に所属してゲームを作っているときも発表会みたいなものはありますが,ここまでダイレクトに熱を感じられたのは初めてです。SNSもコメントの嵐で,「世界規模で盛り上がっている。すごいなあ」ってなりました。
村山氏:
数字の向こうにものすごい数の人たちがいることを実感できる“熱さ”みたいなものがあったよね。
村上氏:
どれくらいの人たちに興味を持っていただけるか不安でしたが,始まったらあの勢いなので本当に驚きました。
COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の影響で世界的に大変な状況が続いているなか,ここまで期待していただき支援を決めていただいた皆さんには感謝しています。
4Gamer:
Kickstarterの開始トレイラーには五十嵐孝司さんが参加されていましたが,目標達成後になにかやりとりはありましたか?
村山氏:
本当に申し訳ないことに,目標達成後のさまざまな業務に追われてまだ連絡できていないんです。実施前から応援していただいていたので,早くお礼を伝えたいのですが……。
村上氏:
私は個人的に連絡をいただきました。元上司のような方ですので,Kickstarterについてはよく話を聞きに行っていたんです。本当にいろいろとアドバイスをいただきました。
Kickstarterの「百英雄伝」クラウドファンディングキャンペーンページ
「百英雄伝」クラウドファンディング日本語版ミラーページ
“制作者とファンの双方が望む形のRPGを作るため”のプロジェクト
4Gamer:
あらためて「百英雄伝」のプロジェクト立ち上げについて聞いてみたいのですが,スタートはいつだったのでしょう。
村山氏:
相当な紆余曲折があるので,どこをスタートとするか難しいですね。
この4人だと,数年前から顔を合わせては「そろそろ自分たちのやりたいことをきっちりやった方がいいよね」という話はしていました。
村上氏:
プロジェクトとして動いたとなると,去年(2019年)の夏くらいでしたね。その時もああだこうだといった雑談からでしたが。
4Gamer:
そもそも皆さんは,それぞれいつぐらいからの付き合いになるのでしょう。
村山さんと河野さんは「幻想水滸伝」の1作目で,河野さんと小牟田さんはフジゲームスの「アルカ・ラスト 終わる世界と歌姫の果実」(iOS / Android)をともに制作されていますが,(KONAMIの)在籍時期や担当タイトルって微妙に異なりますよね。
「アルカ・ラスト 終わる世界と歌姫の果実」インタビュー。“終わり”を描く重厚な世界観を,フジゲームス独自の多面展開で多くのプレイヤーへ届ける
フジゲームスが2019年夏にリリース予定のスマホ向けRPG「アルカ・ラスト 終わる世界と歌姫の果実」。豪華クリエイター陣の参加でも注目を集める本作だが,今回開発のキーマンたちへインタビューを実施し,タイトルの魅力をたっぷりと語っていただいた。
村山氏:
私と河野さんは同期入社で,「幻想水滸伝」の1作目で一緒になる前にも2人で仕事していたくらいなので,20年以上というかなり長い付き合いになります。
村上氏:
私も2人と同じくらいの時期に中途採用で入社したので,同世代といった感じなんです。河野さんは昔からの飲み仲間でもあります。小牟田くんとは同じ部署だったこともありますね。
小牟田氏:
そうですね。KONAMIに入社して初めて配属されたのが河野さんのチームだったんです。
村山氏:
その後,それぞれ異なる環境でゲーム制作に携わってきましたが,ここ数年は「幻想水滸伝」関連のオーケストラやイベントなどがあって,会う機会が増えていました。そういうところから,今回のプロジェクトにつながる話も出てきていたんです。
4Gamer:
小牟田氏:
はい。会社設立前からある程度は進めていました。ただKickstarterを始める前は,それこそ雲を掴むような話の段階でしたから,自身の仕事をしながら「このアイデアをどう実現しようか」といったことを話し,少しずつ形にしていったという感じですね。
村上氏:
最初のころは本当にこの4人しかいなかったので,企画書から絵素材まですべて自分たちで作っていましたね。
4Gamer:
みなさんそれぞれ,シナリオが書けて絵が描けて,ディレクションできて……みたいな印象があるのですが,何かがバッティングするようなことはなかったのですか?
小牟田氏:
役割分担はきれいに分かれていました。それぞれ自身が担うところを進めながら,ほかの人をうまくカバーして……という。
河野氏:
みんなキャリアがあっていろいろな経験をしているので,変なところで出しゃばると「船頭多くして船山に上る」になっちゃうことは分かっていましたから。自分のできることをしっかり守って取り組もうというのはありましたよね。
村山氏:
ぶつかり合って喧嘩して云々みたいなのは十分に経験してきましたから(笑)。
4Gamer:
Kickstarterのページがオープンした際,詳細なゲーム情報に加え,かなりしっかりしたゲーム画面やショートムービーが公開されましたよね。どれくらいの人が参加し,最終的に何人くらいが制作に関わったのでしょう。
村山氏:
最終的には10人くらいですね。ティザーとしてはもちろんですが,私たち自身のためにもリファレンスとなるものは作らなければならない。そう思って数人集めて実験的なものを作り,Kickstarterでの資金調達の道が見えた段階で会社として立ち上げ,「より良いものを作らなきゃ」となってさらに協力してくれる人を募りました。
それぞれゲーム制作のコネクションはたくさんあるので,声を掛けたのはそのあたりのつながりがある人です。とはいえ,それこそショートムービーなんかは,徹夜もしながらけっこう自分たちで作りました。
小牟田氏:
村上さんもドットを打っていましたね。
村上氏:
作業時間や人数が限られていて,あれ以上のものを作れなかったっていうのもあるんですよ。だからムービーは短いんです。すみません。
4Gamer:
いえいえ。街の移動とバトルのショートムービーは十分に妄想が捗る内容でした。
制作メンバーと言えば,楽曲制作に桜庭 統さんとなるけみちこさんの名前があるところは,かつてのJRPGで育った世代にはかなり響くものがあります。桜庭さんとなるけさんの参加はいつごろ決まったのでしょう。
村山氏:
サウンドをどんなものにするかについてはいろいろ意見があり,決まったのは相当後ろの方でしたね。kickstarterに間に合うだけのものをという形で楽曲を依頼しました。
小牟田氏:
とくに桜庭さんへのお願いが,実は結構ギリギリなタイミングでして,こういう状況なので直接お会いすることもできずリモートでのやりとりだったのですが,仕上がったものを聴いたときは感動しましたね。
村山氏:
一発で決めてきましたからね。最初に聴いて「バッチリです。ではこれで」と。さすがだなって。
村上氏:
2人ともKickstarterの反響をものすごく喜んでくれていて。
村山氏:
どのようなものをお願いするかは実際に開発が始まってからになるのですが,引き受けていただき本当に光栄です。
“JRPGのトラディショナルな形”を選択した理由
4Gamer:
ここからはゲームの制作についてお聞きしたいと思います。あらためてですが,なぜクラウドファンディングでの資金調達を選択したのでしょう。
村山氏:
最大の理由が「ゲームに関するさまざまな権利をクリエイターの手元に残した状態で制作したい」という点です。
スタートに“自分たちが作りたいものを追求したい”という思いがあるので,それが実現できるような形を考えた結果,クラウドファンディングという選択に至りました。
例えばミニゲーム一つとっても,制作者以外にそれを決める権利が行ってしまうと,どうしても自分たちがやりたかったことと違う要素が入ってきてしまうんです。
4Gamer:
あまりよい表現ではないですが,横槍を入れられるようなことがないようにしたいと。
村山氏:
何より自分たちが作りたいものは,ファンの皆さんに喜んでもらえる,面白いと思ってもらえるゲームですから。それを実現する意味でも,ゲームファンの皆さんの力を借りて,私たち開発側とゲームファンの双方が望む形のゲームを作るという形が「百英雄伝」にとっては最良だと。
4Gamer:
戦争を描く物語や100人を超える登場人物による群像劇,3D背景で動く2Dキャラクターにターン制バトルと,公開された「百英雄伝」の情報やゲームシーンは,PlayStation時代の「幻想水滸伝」2作品を想起させるものでした。なぜこの形になったのかを知りたいです。
村山氏:
まず,戦争をテーマとした物語や群像劇についてですが,これは個人的に,幻想水滸伝からこれまでずっと追及しているものなんです。最近だと「アライアンス・アライブ」がありますし,世に出なかった作品にもそれはありました。
4Gamer:
幻想水滸伝1作目の当時と比べて,戦争を描くうえで変わったことや難しくなったことはありますか?
村山氏:
あまりありませんね。ストーリー面では普遍的なテーマを扱っているので。時代によって使用される道具や兵器は変わってきますが,そこで起きていることや,登場人物がそれをどう考えるかというところの本質は変わらないと思っています。
4Gamer:
2Dのドットアニメーションについて,Kickstarterのページに“意図的に使用を決めた”という表現がありましたが,このあたりはなにかこだわりがあって2Dキャラクターに決めたのですか?
村山氏:
このテイストでっていうのは最初からで,すんなりと決まった感じがありますね。こだわりというほど固くはないかもしれませんが,「やっぱりこの形だよね。面白いよね」と。
ドット絵のキャラクターたちの表現力や演技力というのはまだまだ追求できるものがあると思っていて,そのあたりでできることへの期待は大きく持っています。
村上氏:
現実に近いストレートな表現だと3Dが上ですが,“許される幅”みたいなものの広さは2Dが強いと思います。
2Dだからこその表現力というのは今もしっかり存在しますし,想像力を掻き立てるものを3Dより表現できると私は考えていて,あえて昔ながらの2Dに戻り,そこから進化させていったら面白いなと。
4Gamer:
2Dのゲームを作るうえで,昔と今とで変わったと感じるところや,大変だと感じるところなどはありますか?
村上氏:
ドットを打てる人,ドット絵を描ける人というのがだいぶいなくなってしまったなというのが,これからどうしていこうかと悩んでいる点ではあります。
あと,高解像度になったため,昔の感覚でドットを打つと,絵がものすごく小さくなってしまいます。だからといって解像度に合わせてドットを打つと,普通にきれいな絵に仕上がってしまうんですね。このあたりのバランスを見ながら,昔ながらの味わいあるドット絵キャラクターが作成できるラインを探るのはすごく大変でした。
4Gamer:
今はツールも充実していますし,少しは楽になったのかと思っていましたが,今なりの苦労があるわけなんですね……。
村上氏:
ある程度のスケールを決めてポンっとはできなくもないですが,それでも技法が要りますし,高解像度になったことによって時間がかかるところもあります。何より手打ちでやらなければいけないわけですから,手が死ぬんです(笑)。
小牟田氏:
プログラムの話だと,3D背景に2Dキャラクターを動かす上でのパースの計算などは苦労しますね。
本作は背景やエネミーなどベースは3Dで作られているため,プログラマーは3D空間上に正しく表示されるよう計算してるんです。
村上氏:
2Dキャラクターを綺麗に描いたつもりが,パーセンテージの違いなどでドットが崩れ,キレイに表示されないということもありました。
小牟田氏:
ドット絵キャラクターはこれ以上大きく表示するとおかしな見え方になるというラインがあるため,このあたりを気にしながら違和感が出ないよう補正を施すなどして対応しています。
ここがしっかり調整できていないと,リアルな風景にウソの絵を置いているような見え方になるので,そこは気を遣うところですね。
村上氏:
いまもいろいろと苦労しています(笑)。少しずつ解決していますし,これからどんどん良くなると思いますけどね。
4Gamer:
ターン制のコマンドバトルを選んだ理由はどこにあるのでしょう。
村山氏:
これはバトルに限らずですが,あまり奇をてらわず,形としてはオーソドックスなRPGにしたいというのがあります。
これが初めてプレイするRPGだという人でも最後までクリアできるものにしたい。そういう意味でバトルも,ある程度はスタンダードなものにと考えてこの形になりました。
4Gamer:
ショートムービーを拝見しましたが,仲間が入れ代わり立ち代わりで敵を攻撃していくところは,PS時代の幻想水滸伝2作品を彷彿とさせるものがありました。カメラワークは当時にはない角度や動きがあり,このあたりも期待が高まります。
村山氏:
カメラワークについては,視覚的にもバトルのテンポをよくしたいという考えがありました。小牟田くんや村上さんには「こう,カメラがぐるっと回り込む感じで」みたいな,抽象的な話をして困らせちゃったのを覚えています(笑)。
小牟田氏:
最初に話を聞いたときは,村上さんと「えっ? どういうこと?」ってなりましたね。
村上氏:
本当に抽象的過ぎて,最初のころはなに言ってるか分からなかった(笑)。
話をしていくうちにだんだん理解できて,「こういうことかな?」と考えていろいろ作っているうちに自分でも楽しくなって,結果あの形に仕上がりました。
小牟田氏:
そのころは新型コロナの影響もあって完全リモートで作業していたのですが,「こういうことですか?」と,画面共有で話をしながらその場で作ることもありましたね。ミドルウェアの充実によってアウトプットが格段に早くなったのも大きかったです。
4Gamer:
英雄たちの人数はなぜ100人なのでしょう。作品に多くの人物を登場させることについて,なにかこだわりはあるのでしょうか。
村山氏:
100人というのは,群像劇を描くうえで“いっぱいいるよ”というのが分かりやすい数字だったというのがありますね。
なぜ多くの人物が登場する作品にしたのかと言えば,「いろいろな考えを持つ人物を登場させたい」「プレイヤーに好きなキャラクターを見つけてほしい」という考えがあるところが大きいです。
こだわりというものとは違うかもしれませんが,「幻想水滸伝」のころから持っている考えですね。
4Gamer:
キャラクターデザインや人物像の描き方について知りたいです。100人の登場人物となると,デザインもですがそれぞれの関係性を構築するのも大変そうです。
河野氏:
幻想水滸伝のときもそうでしたが,メインキャラクターの場合は村山さんから文字情報をもらってデザインを数案出し,「どっちが近い?」といった感じでリレーしながら絞っていき,その間に私の好みを入れたり,ほかのメンバーからもらったアイデアを反映させたりしつつ固めていくという形で作っています。
村山氏:
河野さんの絵を見てから考えることも多いんですよ。「彼はこんな感じの性格で,こんなことを考えそうだなあ」とか。中には「忍者がほしい」くらいのものもあったりするんですが(笑)。
河野氏:
「忍者を描いてよ」「は,はぁ……」みたいな感じで始まることはありますね(笑)。
キャラクター同士の関係性は,ある程度仕上がったキャラクターイラストを並べて「この2人はなにか関係がありそうに見える」というところから広げていくことが多くて,自然発生的なところや偶発的な楽しさがあるんです。
4Gamer:
仕上がったキャラクターは,どのようにシナリオに組み込んでいくのでしょう。
村山氏:
シナリオはストーリーにキャラクターを当てはめるというより,まずはその人物が“戦争という状況下でどう動くか”を想像して書き始めます。
シナリオの書き方は人それぞれだと思いますが,私の場合は大枠となる世界の状況と出来事を決めて,そこに人を投入し「こういうタイプの人間は,こういう状況だとなにをどう考え,どう行動するんだろう」というのを考えながら,ストーリーを作り上げていきます。
4Gamer:
100人の人物を動かすのも相当なことだと思いますが,「幻想水滸伝」では街の人たちなどのNPCとの会話も世界観の深みを生むものとなっていました。「百英雄伝」ではどうなるのでしょう。
村山氏:
戦争の話を描くためには,英雄たちの物語を描くことはもちろん,戦火の中で生きる人たちの生活を描くことも重要なファクターだと考えています。これまで幸せに暮らしていた人たちの生活が,戦争によってどう変わったのか。彼らは戦争に対してどう考えているのか。このあたりは「百英雄伝」でも重視しています。
「幻想水滸伝」の1作目と2作目は自分で街の人の会話まで書いていましたが,さすがにさすがにそこまではしないと思います。あれをやっていたころは本当に大変で,頭がおかしくなりそうだったので(笑)。
4Gamer:
気が早いなとは思うのですが,英雄たちには個別のシナリオがあるのかとか,仲間になる英雄の中には時間制限など特定の条件がある者はいるのか,マルチエンディングはあるのかなど,気になる点は多いですよね。どうなんでしょう?
村山氏:
そのあたりは本格的に開発が始まってからですね。
“時間制限のある仲間”の話ですけど,あれってそもそも「プレイする人はわざわざ仲間を全員集めはしないだろうな」って思って入れたものなんです。作り手がニヤニヤしながら入れたであろう“隠し要素”が好きで,そいういう意味で「仲間を全部揃えなくてもいいし,仲間にするのが難しいのがいてもいいだろう」と入れたものでした。
私自身がプレイヤーとして何かをコンプリートするという要素が苦手で,ほかのプレイヤーもそこまでコンプみたいなのはしないだろうと思って入れたら……という(笑)。
4Gamer:
なるほど。では「百英雄伝」も,そのあたりは“作り手がニヤニヤして入れた感じ”みたいなところに注目して待つといいかもしれないですね。
お話をうかがっていると,着地点を決めていたわけではなく,これまでやってきたことの先に現在の形があったんだなと感じました。
村山氏:
そうですね。ストーリー的にもシステム的にも,ある種ずっと追及しているものの延長上で,さらにそれぞれのメンバーの好きなことや追求したかったものが入ることで,新たなゲームの形ができるのではと考えています。
これから開発が始まるので具体的なところはまだ決まっていないですが,このあたりは今後見せていければと思います。
JRPGの持つ面白さは変わらない。まだまだ追求できるものがたくさんある
4Gamer:
Kickstarterの話に戻りますが,ストレッチゴールにゲーム内要素がありますよね。カフェテリアや料理,ミニゲームといったものがありましたが,どうしてこれらをストレッチゴールにしたのでしょう。
村山氏:
始めから導入したいと考えていた要素ばかりですが,やるならちゃんとやりたいんですよ。ファンの期待に応えられるものを作りたいというところもあって,希望のものが制作できる開発資金があるか,支援額の状況をみて導入するという形にしました。
このあたりは,皆さんの支援が直接的にクオリティアップにつながっているところなので,本当に感謝しています。
4Gamer:
地名の命名権や敵キャラクターをデザインする権利はゲームの世界観の根幹にもかかわるものだと思うので,これがリワードに入っていることには驚きました。
村山氏:
あれは五十嵐さんが「Bloodstained: Ritual of the Night」(PC / PS4 / Switch / Xbox One)のKickstarterでやっていたことを参考にしたというのがあります。
地名って,現実世界でも誰か一人が全てを決めたものではないですし,ある程度はカオスなところがあるのもいいかなと。リワードの説明書きにもあるのですが,地名とモンスターデザインのどちらもある程度は条件があって,開発側の我々とやり取りして決めるという形になっています。なので,世界観が台なしになるようなことはありません。そのあたりは心配ないかと思います。
4Gamer:
支援者自身が飼っている猫をゲームに登場させる権利というのも面白いですね。これはなぜ入れようとしたのでしょう。
村山氏:
私は犬派なので,これについては猫側の親玉である河野さんに聞いてください(笑)。
河野氏:
「えっ,普通じゃん? あれくらい」しかありませんよ。
一同笑
河野氏:
振り返ると,最初は村上さんとのやりとりからだったかなあ。「猫のドット絵を描いて」って言われたんですよ。
4Gamer:
Kickstarterのページでも使われているものですか?
村上氏:
そうです。あれは,街のシーンを作るうえで,生活感や自然な感じを出すのに動物が欲しいというのがあって,「河野さんなら間違いないな」とお願いしたものです。けっこうムチャぶりなタイミングでしたが,パパっと描き上げてくれて。
河野氏:
あれが内部で好評を博し,だんだんとクローズアップされていきましたね。
小牟田氏:
(笑)。なし崩し的じゃないですけど,これは猫もいっぱい出さなきゃって空気にはなりましたね。
村上氏:
プレイする人にも猫好きな人もたくさんいるだろうし,自分の家の猫の名前を付けられたら楽しいし喜んでもらえるだろうと。そこから猫がいるなら犬やほかの動物もいるよねとなり,では猫以外の動物の名前も付けられるようにしようと,犬派の村山さんや私が動いてリワードに加えた……みたいな流れでしたね。
小牟田氏:
名前だけではなく,毛色や柄もなるべく近づけてゲームに出したいと考えています。猫以外の動物も,できるだけ希望に応えたいです。さすがに象とかは難しいですけど(笑)。
4Gamer:
近年では,スクウェア・エニックスとアクワイアが制作した「OCTOPATH TRAVELER」(Switch / PC)が評判となり,またスクウェア・エニックスのTokyo RPG Factoryのように,JRPGのトラディショナルなスタイルを意識した作品を制作するチームも生まれています。こういった動きについてどのように感じていますか?
村山氏:
いま例に挙げていただいたものは,どちらもただ懐かしいものを作っているのではない,いまの時代にどうチャレンジするかという方向を向いているゲームや制作チームですよね。
取り巻く環境や資金といったさまざまな理由で作りにくいという状況はあるかと思いますが,様式としてのJRPGが持つ面白さ自体は変わらず,まだまだ追求できるものがたくさんあると感じられます。
4Gamer:
そういった“かつてのJRPG”で育った世代やゲームファンに,「懐かしいだけではなく,ここが新しいから見てほしい」という点があれば教えてください。
村山氏:
被写界深度によって生まれる空気感と光源などによるイメージの見せ方や,最新の映像技術とドット絵キャラクターたちの演技力をうまく融合させ,新たな方向性を持った作品だというところを見せたいです。まずはショートムービーに織り込んで,十分すぎるほどの注目をいただけましたし。
また,そういった意図は,幻想水滸伝ファンやそれらのRPGで育った世代だけではなく,それを知らない層や若いゲームファンにも届いていると感じています。ストーリーも普遍的なものを描いているので,どの世代でも楽しめるという点もアピールしていきたいですね。
4Gamer:
最後に読者や「百英雄伝」に注目しているゲームファンにメッセージをお願いします。
河野氏:
まずはここまでの支援ありがとうございました。まだまだスタート段階で,ここから2年お待ちいただくことになりますが,開発チームのみんなで切磋琢磨し,より良いもの,より期待に応えられるものを仕上げていきます。これからもよろしくお願いします。
村上氏:
見た目重視で美男美女キャラクターばかりを詰め込んだ世界感ではなく,登場人物たちそれぞれの言葉や生き様を見て,いつの間にやら彼らにほれ込んだり心動かされたりしてしまうような……JRPGの原点にある面白さをお届けしたいです。
「幻想水滸伝」をはじめ,かつて開発メンバーが携わった作品には10年以上経ったいまも語られる作品がたくさんあります。それらに続くような作品を作りたいと思っています。
小牟田氏:
目標金額達成のときの熱狂で,マスターアップを迎えたかのような達成感を味わいましたが,ここからがスタートだと気を引き締め,しっかり開発に取り掛かります。
システムデザインやディレクションの担当として,シナリオやデザイン,キャラクターというそれぞれの魅力を,いかにいまのゲームファンに楽しんでもらえるよう,システムに落とし込むかを考えています。100人もの英雄たちがそれぞれしっかり活躍できるようにも,ですね。
ここから2年あるので,皆さんに定期的に情報を発信しなければと思いますが,そのたびに期待度が高まるようなものを見せられるよう,制作を進めていきます。現在お見せしているものを,皆さんの期待以上に仕上げていきたいです。
村山氏:
ゲームが最終的に面白いものに仕上がるかどうかには,2つの重要な要素があると思っています。それは制作に関わる人たちと,そのスタッフがどんな環境で作業ができているか。これらは制作物が「どんな企画か」以上に,クオリティを左右するものだと考えています。
「百英雄伝」は素晴らしい制作メンバーが揃いましたし,Kickstarterも皆さんの応援で素晴らしい結果を迎えられそうです。とくに制作環境については,期待して支援してくれた皆さんのおかげなので,本当に感謝しています。これからも良い状態をキープしながら,ゲーム開発に取り組みたいと思います。
4Gamer:
今後の開発状況や情報公開も注目したいと思います。本日はありがとうございました。
「百英雄伝」公式サイト
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