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「2020年,eスポーツのこれから」,開発段階からeスポーツを意識したゲームデザインが語られた講演をレポート
「どうぶつタワーバトル」,ヒットの裏にはなにがあったのか。開発にまつわる苦悩と喜びが語られた講演をレポート
2020年1月12日に,京都府とポノスがeスポーツイベント「京都eスポーツサミット2020 Winter」を開催した。会場では「どうぶつタワーバトル」の開発者であるYuta Yabuzaki氏が登壇し,ブレイク前の苦悩やeスポーツ展開への意欲などを語った。
モデレーター
・トンピ?氏(ポノス eスポーツキャスター)
パネリスト
・倉持由香さん(G-STAR.PRO 「G-STAR GAMING」プロデューサー)
・ACQUA氏(ブシロード プロデューサー)
・富永彰一氏(BitSummit実行委員会 理事長)
・谷田優也氏(ウェルプレイド 代表取締役CEO)
eスポーツがブームとなる中,盛んに言われるのが観戦層のさらなる拡大だ。そのためには,eスポーツやビデオゲームに対する知識があまりなくても盛り上がれるタイトルが必要となる。
このパネルディスカッションでは,女子eスポーツチーム「G-STAR GAMING」のプロデューサーである倉持さんと,「ストリートファイターV」のJeSUプロライセンスを持つACQUA氏といった選手側,そしてキュー・ゲームスのクリエイティブディレクターである富永氏,eスポーツ大会を主催するウェルプレイドのCEO谷田氏が集結。選手,開発者,オーガナイザーというそれぞれの立場から,eスポーツとして盛り上がるゲームについて話し合った。
谷田氏が盛り上がるタイトルの条件として挙げるのは,知識のない人が観戦の仕方を教わりやすいということだ。eスポーツ観戦で盛り上がるのは,選手が観客の想像を超えたプレイをしたとき。そのためには観客がタイトルについて理解し,選手が何を考えているか(=次にどんなプレイをしようとしているか)を想像しやすい必要がある。
当然ながらその競技についての知識がなければ,見所も分からないし,選手の動きを想像することもできない。となれば盛り上がるときに盛り上がることができないというわけだ。そこで「教わりやすい」というのが重要になる。
現在のeスポーツシーンで盛り上がっている格闘ゲームは,こうした条件をすでに満たしているのではないか,とACQUA氏は指摘する。画面では2人の大きなキャラクターが対戦し,HPゲージも出ているため,決着の条件と有利不利が一目で分かる。
つまり,HPゲージが減っていれば,試合がもうすぐ終わりそうであるということで,これはそのまま見所となる。そして,こうした場面で生まれる逆転劇は“観客の想像を超えたプレイ”の分かりやすい例と言える。
観客に試合を伝える側もさまざまな工夫を凝らしている。デジタルTCGはルールや駆け引きが複雑になりがちだが,中継ではカードの効果や選手のHPを画面に挿入することで試合を分かりやすくしている。
こうした観戦環境が整っているほど,タイトルを知らない人にも試合の状況が伝わりやすくなるのだ。こうした工夫に加え,ゲームシステムを開発する時点から,eスポーツの観客に寄り添うことを考えるタイトルがあっても良いのではないか……と,トンピ?氏はeスポーツキャスターとしての立場から提案した。
富永氏は,「ゲーム開発における意識を変えていく必要性」を開発者としての立場から指摘する。これまでのゲームではプレイヤーのエモーション(感情の動き)は設計できていたが,観客のそれについては特に意識されていなかったという。
しかし,今後eスポーツ観戦を意識したタイトルを作るなら,観客がどこでどのように盛り上がるかを開発の段階で考えていかなければならない。これまでとは違った角度での設計が必要になるということだ。
また,会場で選手の姿もあわせて観戦するのと,そうでないネット対戦の中継では,同じeスポーツ観戦でもその体験が大きく異なる。今後の開発シーンでは,ネット対戦が中継されることも強く意識していかなければならない,と富永氏は語った。
そうした中で見やすさを定義するのであれば,「選手がすごいことをしているのが分かりやすい」ということではないか,と谷田氏は総括する。例えばフィギュアスケートを観戦する際,ジャンプの種類や名前が分からなくても,選手が飛んでいる姿を見れば問答無用ですごさが伝わる。
富永氏の発言とあわせて考えると,選手が卓越したプレイを行った際に演出を入れるといった開発サイドの工夫も一般的になっていくのではないか,と個人的には感じられた。
では,競技として盛り上がっているタイトルの共通点はどういったものだろうか。ACQUA氏は「逆転性や意外性が高いこと」,谷田氏は「野球に例えるなら,皆がプロ入りを目指すのではなく,バッティングセンターで楽しむなど,遊び方を選ぶ自由があること」,倉持さんは「しっかりとしたマッチングなど,オンライン対戦の環境が整っていること」を挙げる。
逆転性があれば最後まで目が離せずに熱中して観戦できるし,遊び方を選べ,オンライン対戦が気軽にできるなら,プレイヤー層が厚くなっていき,それは選手が生まれる土壌になるというわけで,いずれも理にかなった意見と言えるだろう。
そうした中で,eスポーツ選手はどのようにしてタイトルを選んでいるのか……という疑問に答えたのは倉持さんだ。倉持さんが率いるG-STAR GAMINGは,選手がどのタイトルを選ぶかは自由意志に任せているものの,プロデューサーの立場から選手に勧めるのであれば,やはり人口の多いタイトルだという。人口が多いということは仕事も多いということで,「好きだから」「面白いから」という以外のファクターでも選ぶ,プロの世界の厳しさが感じられた。
今後eスポーツを一般化するためには,既存タイトルが盛り上がるだけでなく,開発の時点からeスポーツを強く意識し,プレイヤーのみならず観客の感情を考慮したゲームデザインが必要。そのうえでは,観戦していて見所が分かりやすい演出や,試合の駆け引きについて他の観客から教わりやすいようなルールが求められる。
今回のパネルディスカッションは,eスポーツを意識したゲームに賞を与える「京都eスポーツゲーム大賞」(関連記事)を開催する,京都eスポーツサミットらしい視点であると感じられた。今後は,既存のタイトルを「eスポーツで盛り上がるか否か」という観点から選別するのではなく,企画や開発の段階でeスポーツとの親和性を考慮した,いわばeスポーツネイティブとでもいうべきタイトルが必要になるというわけで,開発者も新たなフェイズに突入したという印象を受けた。
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