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ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」
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印刷2009/01/24 11:00

インタビュー

ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」

昨年末にリリースされた「ニコニコ広場」。ニコニコ動画のユーザー同士でチャットが楽しめる
画像集#017のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」
 毎年,年末年始を無為に過ごしてばかりいる筆者なのだが,昨年末に何をしていたかというと,ビールを飲みながら「ニコニコ生放送」の大晦日イベントを視聴していた。
 イベント時の同時接続者数は数十万人。これは,ネットサービス全般を見わたしても,間違いなく“最大級の規模”と言えるオンラインイベントなわけだが,ここ最近のニコニコ動画では,「ニコニコ生放送」や「ニコ割ゲーム」など,ライブ感や同報性を重視する傾向が目立ってきている。
 会員数1000万人突破,総動画投稿数200万件以上,総再生数84億ビュー以上と,いまや日本における代表的なWebサービスの一つになったといっても過言ではないニコニコ動画だが,年明け早々,そんなニコニコ動画を運営するニワンゴに,昨年末に追加された新サービス「ニコニコ広場」についての取材を試みた。
 
 ……というわけで,今回4Gamerでは,同サービスの運営長である中野真氏にインタビューを実施。「ニコニコ広場って,オンラインゲームっぽいと思うんです」という中野氏に,同サービスが目指す理念やその考え方など,いろいろな話を聞いている。
 「テキストベースで“群衆を表現”するにはどうすればいいか,日々考えている」と語る中野氏は,動画共有サービスという枠を超え,何を目指していくのだろうか?

動画の上にコメントを表示させられるという,ユニークな機能を持つ「ニコニコ動画」。国内最大規模の動画共有サービスだ
画像集#002のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」


ニコニコ広場は,テキストベースで“群衆を表現”する挑戦


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。
 今回は,ニコニコ広場についてのお話しをうかがえればと思うのですが。

ニコニコ動画の運営長を務める中野真氏
画像集#003のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」
中野真氏(以下,中野氏):
 ええ。今回は,ニコニコ広場についていろいろとお話をできればと思います。我々としては,ニコニコ広場は「オンラインゲームっぽい要素があるなぁ」と考えているのですが,「オンラインゲームといえば,4Gamerさんですよねぇ」ということで,ちょうどよかったなと。来て頂いてありがとうございます(笑)。

4Gamer:
 では,早速本題に入りたいと思いますが,簡単に言って,ニコニコ広場って何を目指したサービスなんですか?

中野氏:
 大枠で言ってしまうと,「テキストベースで“群衆”を表現したい,再現したい」という感じですね。

4Gamer:
 ただ,いきなりこんなお話をするのは失礼かもしれませんけれど,私自身,いまいちニコニコ広場の使い方というか,面白さが分からなかったんです。「これは,どう使う機能なんだろう?」というのが正直な感想でした。まずは,現状のニコニコ広場の機能について教えて頂けますか?

中野氏:
 いえ,おっしゃることはよく分かります。ユーザーの皆様からも同様の質問を頂いておりますし,実を言うと,リリース前にこうなる(使い方がよく分からない)のも折り込み済みでした。
 ですから,「分かっていながらなぜリリースしたのか」というお話や,ニコニコ広場の狙い,あるいはやってみたいことなど,一度ちゃんと説明する機会がほしいなと。

4Gamer:
 なるほど。

中野氏:
 ともあれ,先に現在のニコニコ広場の機能についてご説明しますと,現状では,

  ・常時,バックエンドでニコニコ広場と接続状態にある
  ・シームレスに,動画ページとニコニコ広場を行き来できる
  ・そこで大勢の人とチャットができる
  ・動画ページ側のコメントも,一部広場に“漏れ聞こえてくる”


といった感じになっていますね。まぁ私が言うのもアレなんですけれど,現状では,ニコニコ広場で出来ることは,そんなに多くありません。

4Gamer:
 バックエンドで常につながっているというのは,ページを見ているときに,動画サーバーやWebサーバーとは別で,メッセージサーバーなどと常にデータをやり取りしていると考えてよいのですか?

中野氏:
 そうですね。サーバープログラムの仕様としては,動画の視聴ページを開いているときだけですけど,うしろでニコニコ広場のサーバーに接続して,いろいろな情報を受け取る形になっています。

4Gamer:
 なんか,いわゆる「Webサービス」という概念からすると,それってかなり特殊ですよね。メッセンジャーや,あるいはオンラインゲームでもいいですけれど,通常のアプリケーションに近いというか。
 いろいろなデータって,具体的に言うとどんなデータになるのでしょうか?

中野氏:
 コメントのテキストデータは当然として,例えば,見ている動画の情報やユーザーの属性情報であったり,ユーザー同士の距離というか……そういうものになりますね。まぁ現状では,まだそれらのデータをすべてやり取りしているわけではないんですけれど。
 ただ,そうしたデータを使って,動的に話の合うユーザーをマッチングさせていくとか,根本部分の仕様として,そういう使い方に耐え得るものを念頭に開発されています。

4Gamer:
 マッチングというのは,例えば,ゲーム系動画をよく見ている人同士だとか,アニメ系動画をよく見ている人などが,ニコニコ広場で自動的に集められるということですか?
 現状のニコニコ広場ですと,それぞれが好き勝手言っているだけの状態といいますか,あまりに接点や共通の話題がないので,コミュニケーションを取るという観点からすると,少し使いづらいのかなというのは感じていました。

中野氏:
 現状では,動画でのコメントも広場のほうに流れていったりもしていて,そもそも話が噛み合うような設計にまだなっていないんですよね。ほとんどは時報のときと,あとはニコ割ゲームのときに使われるのみという状態だと思います。……とはいえ,ニコ割ゲームで広場コメントありにしちゃうと,ゲームが成立しなくなっちゃうんですけど。

4Gamer:
 確かに。まぁ時報だと,みんなで「時報うぜえっ!」みたいな発言で盛り上がるわけですけど(苦笑),逆にあれはあれで共通の話題として成立していますよね。

中野氏:
 そうですね。今のニコニコ動画って,同時接続者数ベースでいうと,20〜30万人という規模のユーザーさんが常時何かしらの動画を見てくださっているんですが,これっていうのは,Webサービス,あるいはオンラインゲームを含めたネットサービス全体と比較しても,最大級の規模だと思うんですよね。

4Gamer:
 そうだと思います。

中野氏:
 ニコニコ広場のコンセプトというのは,そういう何十万人という人に対して,一斉に一つの話題を提供したら,いったいどうなるんだろう? どういう反応がわきおこるんだろう? これは面白い仕組みになるんじゃないか? というところなんです。

4Gamer:
 通常のWebサービスで「情報をプッシュできるサービス」ってほとんどありませんからね。規模が大きいものとなるとなおさら……。何かありましたかねぇ。


同期の良さ,非同期の良さ。ニコニコ動画が目指すWebサービスのあり方とは?


4Gamer:
 しかし「多くの人に同時に一つの話題」というと,いわゆるWebサービスというよりは“ライブ”ですよね。
 ちょっと話はニコニコ広場から離れてしまうかもしれませんけど,最近のニコニコ動画って,「ニコニコ生放送」や「ニコ割ゲーム」など,そんな“ライブ的な要素”をかなり重視していますよね。これって何か意図があってのことなのでしょうか?

画像集#006のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」
中野氏:
 凄くそもそも論からお話をすると,ニコニコ動画ってもともとは「ライブでやりたかった」んですよ。アーティストのライブコンサートやスポーツのスタジアムだとか,「ああいった雰囲気をネット上で再現したい」という部分が,ニコニコ動画の最初のスタートだったんです。

4Gamer:
 それっていつくらいの話ですか?

中野氏:
 えーと,2006年の夏……とかだったかな。

4Gamer:
 じゃあ,ほんとにニコニコ動画の企画段階というか,そういう時期ですね。

中野氏:
 ええ。

4Gamer:
 しかし,ニコニコ動画が一定の成功を収めてから,その成功要因について,いろいろな分析が論じられていたと思います。代表的なところで言えば,「ニコニコ動画って,Webメディアの特性にマッチした」という話があったじゃないですか。4Gamerでもインタビューした濱野さんの言葉を借りれば,「非同期」云々ということです。つまり,ニコニコ動画のコメント機能は,いつ見ても「盛り上がってる臨場感」を体験できる,非同期型のメディア(Webメディア)にマッチした仕組みになっている……という。
 この観点からすると,最近のニコニコ動画の方向性は,そうした「Webメディアならではの良さ」とは正反対の方向に進んでいるようにも思えるのですが,この点についてはどうお考えなのでしょうか?

中野氏:
 先ほどもお話ししたように,ニコニコ動画の企画の根底には,「ライブ会場をネットで再現する」という部分があったんですが,じゃあそれをするにはどうすればいいのかと考えたとき,みんなが盛り上がれるコンテンツが必要だという話になりますよね。
 ただ例えば,定点カメラでどこかの大通りの映像を流すだとか,ライブハウスの様子を映すみたいなものでは,集客という観点からすると,非常に難しいだろうなと考えていました。

4Gamer:
 それはそうですね。

中野氏:
 かといって,インフラだけ用意しても,アーティストさんや映像コンテンツを持っている事業者さんに使ってもらえません。また「生で何かをやる」とはいっても,そのためには「その瞬間にお客さんにいてもらわないといけない」わけで。まずは,とにかく人を沢山集めるというところから始める必要があったんです。

4Gamer:
 それで動画配信を?

中野氏:
 まぁ,「ライブ会場を再現する」というコンセプトは良いとして,「じゃあどうするのか」というのをあれやこれやと考えていったわけですが,Webメディアの良さというのは,おっしゃるように,まさに非同期的な部分……いつでも好きな時間に見られるとか,コンテンツがアーカイブされていて,それを検索して自由に探し出せるとか,そういう部分ですよね。
 今のニコニコ動画の原型っていうのは,そうした部分を踏まえたうえで,手始めに「本物のライブじゃないけど,ライブっぽい雰囲気を味わえるサービス」がいいんじゃないかって話から出来たものなんです。で,そのための手頃なコンテンツが,当時は動画だったという。

4Gamer:
 ああ,そもそもの生い立ちからして「動画配信サービス」というスタートではなかったんですね。

中野氏:
 まぁ最初は,YouTubeの動画にコメントを付けるというだけのサービスでしたしね(笑)。
 当時,動画というとYouTubeがすでに圧倒的な立ち位置を持って,コンテンツも数え切れないほどアーカイブされている状態でした。ネタになるような動画がすでに沢山あって,Webメディアの良さを活かすという意味でも,動画(YouTube)はうってつけのサービスだったんですよね。

4Gamer:
 ふむふむ。

中野氏:
 まぁ動画にコメントを付けられるというサービスは,おかげ様で大きな成功を収めることができて,常時数万,数十万人というユーザーさんを抱える規模に成長しました。そこでようやく,次のステップとして「ライブ的な機能」を実装することができた……という感じなんですよ。
 実験的にスタートさせた生放送機能も,今では数万人というキャパシティを支えられるまでになり,本当に有り難いことだと思っています。

4Gamer:
 なるほど。動画配信サービスの延長としてライブ配信があったわけではなく,ライブコンテンツの一分野として動画があると。そう考えると,2008年にニコニコ動画に追加された,さまざまなサービスの意図が理解できる気がします。「動画を見るためのサービス」としては,明らかに異質な機能がたくさん追加されていたので,なんだろう? とは思っていたのですが。

中野氏:
 まぁ面白そうなことであれば,なんでもやっちゃってますからね……。
 ともかく,ニコニコ広場の話に戻すと,ニコニコ広場っていうのは,生放送の次のステップのサービスとして考えているんです。生放送は,時報とかで呼びかけはしますけど,能動的に「そこへ訪れる」必要がありますよね。つまり,それだけで「ネタを共有する人数」が絞られてしまうわけです。
 ですが,ニコニコ広場が目指すものは,もっと自然な形で「30万人をつなげてしまう,共有させてしまう」というところなんです。今はまだ機能が整っていないので,夢物語みたいな話に聞こえてしまうかもしれませんけど,目標としては「そういうもの」なんです。

4Gamer:
 巨大なネタ共有装置……,要するに「ライブ会場のようなもの」ということですか。

中野氏:
 ええ。


Web上のプッシュメディア,ライブコンテンツ……ニコニコ動画をビジネス的な視点で考えてみる


4Gamer:
 ライブ会場をネット上で再現すると面白いかも,という視点は良いとして,ビジネス的にこれを考えた場合はどうでしょうか?
 例えば,ニコニコ動画を「広告媒体」として捉えた場合,このような同報性や,先ほど話に出た「情報をプッシュできる」というのは,非常に強力な売りになり得る要素だと思います。このあたりは,経営的な側面からのアプローチでもあったりするんでしょうか?

画像集#013のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」
中野氏:
 ニコニコ動画の収益の柱の一つとして広告がある以上,もちろんそこを考えないわけではありません。広告媒体として見たWebメディアの弱点は,興味のない人にも振り向かせる力がないというか,そういう部分じゃないですか。
 ニコニコ動画にも,現在はバナーの広告が入っているわけですけれど,これだけだと,既存のWebサービスと同じ価値でしかないわけで。ほかのWebサービスとの差別化という意味からも,情報をプッシュできる機能などは,大きな売りになり得るだろうとは考えています。

4Gamer:
 まぁ,とはいえ……。

中野氏:
 そうなんです(笑)。
 とはいえ,安易にそれをやってしまうことへのリスクも少なくありませんよね。Web上では,そういう文化自体(情報がプッシュされること)がありませんし,ユーザーの反応がどうなるのかは予測がつきません。

4Gamer:
 確かに。

中野氏:
 まぁまずは,Webサービスで情報がプッシュされること自体に慣れてもらう必要があるだろうな,とは思いますね。これだったらウザくない,あるいは仕方ないよね,って線を見極めていく必要はあるでしょう。

4Gamer:
 またちょっとビジネスつながりで聞いてしまうのですが,ニコニコ動画って,動画配信のサーバーを全部自前で抱えている形ですよね。今の規模のユーザーを支えるインフラコストは,それこそ莫大なものになるかと思います。
 YouTubeも同じ形ですけれど,あれは今やGoogleという巨大なパトロンがいるから良いとして,ニコニコ動画では,このあたりについてはどうお考えですか? 例えば,一時期P2P的な動画配信技術もいくつか出てきたわけですけれど,そういうものも検討していたりとか。

中野氏:
 P2Pを使った動画配信については,もちろん検討しました。しかし,いろいろなシミュレーションを行った結果,「P2P技術は,大規模な配信には向かない」という結論に落ち着きました。

4Gamer:
 それはどういう理由で?

中野氏:
 一つには,サービスの品質を保証できない,というところですね。ユーザーさんから「重くて見られない」という苦情が来たときに,自社で抱えている回線/サーバーであれば,増強することで対応が可能ですけれど,P2Pを使ったサービスでは,そこはどうしようもありません。
 インターネットに精通された方に対しては,「接続した他のユーザーとの相性が……」みたいな説明で納得してもらえるかもしれませんが,より多くの,つまりはあまりネットに慣れてない方のことも考えると,そういうワケにもいきませんからね。

4Gamer:
 そうですね。理解できます。

中野氏:
 もう一つは,これはちょっと大きな話になってしまうのですが,日本の回線インフラを考えた場合……というか,そういう話ですね。

4Gamer:
 というと?

中野氏:
 ここ最近,ネット業界でたびたび議論されている「ISPの設備投資のコスト」を誰が支えるのか」みたいな話ですね。近年,ネット上で行き交うデータ量は飛躍的に増大していて,それに対応するための設備投資が必要になっているわけですけど,一方で,一般のお客さんが「ネットを使う料金」は,ずーっと変わってないわけですよね。これではやっていけないよね,という。

4Gamer:
 いわゆる「Webサービスのインフラただ乗り」議論ですか。これは,確か北米でも問題になっていますよね。

中野氏:
 そうです。ニコニコ動画には,現時点で1000万人を超えるお客さんに来ていただいているわけですけれど,じゃあ,この人数に動画を配信するのに,P2P技術を使ったらどうなるか。やっぱりそれは問題になると思うんですよね。
 これまでにも,いくつかの会社さんが「インフラのリソースを無駄に使いやがって!」と糾弾されてきたわけですが,ウチがそれをやった場合,それよりももっと酷いお叱りを受けるんじゃないかなと。
 P2Pって,配信者側がインフラを持たなくて良いというメリットはあるのですが,デメリットとして「無駄なトラフィック」を膨大に生んでしまう点が挙げられますよね。数千人規模に配信する程度ならば,それもまだ許されるのかもしれませんけど,1000万人がそんなことをしたら,それこそ「ニコニコ動画さんのトラフィックは差し止めさせていただきます」みたいな話になってしまう。

4Gamer:
 まぁ,何事もタダで回っているサービスなんてありませんからね。

中野氏:
 真に大規模な動画配信サービスというものを考えていくと,どうしてもIDC(インターネットデータセンター)さんなりISPさんなりとの共存関係を考えていかなくちゃいけないし,そこで無駄な軋轢を生んでしまうのも不毛じゃないですか。それも含めた諸々の要素を考えていくと,「P2Pは向かない」という話になったんです。

4Gamer:
 なるほど。いや,それは確かにおっしゃるとおりかもしれませんね。

中野氏:
 ただ,P2Pという技術を否定しているわけではないんですよ。単に現時点ではウチに向いていないというだけの話であって,特定の条件下であるとか,あるいは技術が進化していく前提条件で今後を考えてみると,利用について再度検討する価値は十二分にあるとは思います。


ニコニコ広場はオンラインゲーム的なるもの?


4Gamer:
 すいません,なんだか話が思い切り逸れてしまいました。
 ニコニコ広場に話を戻しますけれど,そういえば,最初におっしゃっていた「ニコニコ広場ってオンラインゲームっぽい」というのは,具体的にはどの部分を指した話なのですか?

中野氏:
 えーと,ニコニコ広場の仕様的な概念のお話をさせていただきますと,ニコニコ広場には,「チャットルーム」という概念がないんですよね。なかなか説明がしづらくて申し訳ないのですが,各ユーザーは全部フラットでつながっていて,それぞれの「位置」や「発言」を,フィルタ/マッチングで寄り分けていくような仕組みなんですよ。

4Gamer:
 例えば既存のチャットツール,IRCやWebチャットサービスなどだと,お題ごとにルームを開設して,そこで会話を楽しむスタイルですよね。サッカーなら「#ワールドカップ」みたいな部屋を作って,そこにみんなで集まるという。
 ニコニコ広場のユーザーマッチング機能というのは,ユーザーを動的に「部屋に割り当てる」ような機能ではない,ということですか?

中野氏:
 そうですね。イメージとしては,チャットルーム(?)自体は巨大な一個の空間(ニコニコ広場)しかなくて,そこで「すぐ横にいる人の会話は聞こえるけれど,遠くの人の会話は聞こえない」仕組みになっているというか。そういうイメージなんです。

4Gamer:
 なるほど。

中野氏:
 IRCやWebチャットなどの既存のチャットシステムって,コミュニケーションの仕組みとしては非常に閉鎖的だと思うんですよね。そのルームでの会話は外から見えないし,「#ワールドカップ」でどんなに話が盛り上がっていても,それが伝播していく術がないじゃないですか。

4Gamer:
 まったくそのとおりですね。

中野氏:
 ニコニコ広場で目指すコミュニケーションのあり方というのは,なんというか,「もっと空間を感じられるコミュニケーション」なんです。イベント会場での会話や,街中での会話といえばいいですかね。大勢が「一つの空間/場にいる感覚」がありながらも,知り合いとの会話も成り立つみたいな。そういうイメージなんです。
 実を言うと,個人的にニコニコの広場でイメージしているコミュニケーションのあり方とは,「オンラインゲームの銀行前」のような雰囲気なんですよ。

4Gamer:
 あー,すごく分かる気がします。

中野氏が例に出した「ウルティマ オンライン」の銀行前の様子。プレイヤーキャラクターの頭上にチャットメッセージが表示されるスタイルで,ゲーム中のやり取り(会話)を第三者が見られる形だった
画像集#014のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」

中野氏:
 例えば,私は昔「ウルティマ オンライン」などを遊んでいたんですけど,ブリテイン(ゲーム内の主要都市)の銀行前というのは,ゲーム内での社交場みたいな場所になっていて,いろんな人でごった返していました。で,それぞれのユーザーが画面のあちこちでいろいろな会話をしていましたよね。

4Gamer:
 懐かしいですね(笑)。

画像集#008のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」
中野氏:
 オンラインゲームを遊んでいて,個人的に「これは面白いな」と思ったのが,情報の伝播のプロセスなんです。例えば,銀行前で誰かが「〜でPK(Player Killer)にやられちゃったよ」みたいな話をすると,それを横で聞いていた人が,自分のギルド仲間とかに「なんかPKが出たらしいよ」みたいな話をするわけです。
 まぁこれは,オンラインゲームでは割とありふれた光景なのかもしれませんけれど,コミュニケーションツールという視点で見た場合,自分と関係ない「まったく他人の会話」が見えて(聞こえて),その情報がほかへ伝わっていく仕組みというのは,実はオンラインゲーム以外ではあんまりないというか,見たことないと思うんですよね。

4Gamer:
 そう言われるとそうかもしれませんね。メッセンジャーなんかも個々のコミュケーションで完結してますし。

中野氏:
 ニコニコ広場っていうのは,ああいう情報伝達のプロセス/雰囲気を,テキストベースで再現する試みなんです。何か事件とか話題があったときに,それが自然な形で耳に入ってきて,その気があれば,すぐにその会話に参加もしていける。
 今までのWebメディアっていうと,やっぱりユーザー側が検索したりして,能動的に情報を探しにいかないといけないじゃないですか。そうじゃなくて,より多くの人に使ってもらうには,もっと受動的な,ゆるい仕組みがあっても面白いんじゃないのかなと。

4Gamer:
 現状のニコニコ広場って,会話が支離滅裂というか,何を話していいやらみたいな雰囲気がありますけれど,それは,ユーザーや会話をフィルタ/マッチングさせる機能がまだ実装されてないから,という認識でいいんですかね?

中野氏:
 現状のニコニコ広場が,本来やりたかった形では決してないんです。今回お話させていただいたようなフィルタ/マッチング機能もありませんし,正直な話をしてしまうと,未完成のまま「あえてリリースしてみた」という感じなのです。

4Gamer:
 それはなぜですか?

中野氏:
 そこは,ウチの会社特有のノリと言いますか……。去年の年末にニコニコ動画内でいろいろなイベントをやらせてもらったんですけど,そのとき「ニコニコ広場があったら,みんなどういう反応をするだろう?」という実験的な意図が大きかったんです。もう,ぶっちゃけて言ってしまうと,「ユーザーさんの反応を見てみたかった」というか。

4Gamer:
 まぁ……,ニコニコ動画らしいと言えばらしいですが。
 しかし,ニコニコ広場という数十万人規模の「共有空間」を用意したわけですが,今後はそこを意識した取り組みを重視していくのでしょうか?

中野氏:
 もちろんそのつもりです。比較的簡単にできそうなアイディアで言えば,例えば「30万人でジャンケン」とか「30万人で鬼ごっこ」とか,そういう意味不明の遊びを提案してみたら面白いんじゃないかなと考えています(笑)。

4Gamer:
 それはちょっと面白そうですね(笑)。
 そのサービスが実装される時期とかは,今の段階で言えたりしますか?

中野氏:
 えーっと,それは……今年中……とかじゃ駄目ですかね……。
 まだまだこれからって話なので,今の時点でハッキリとした時期とかはさすがに言えないです。下手なこと言って,遅れたら怒られちゃいますし。ただ,やっぱり春休みとか夏休みとか,そういうお休みのシーズンというのは,一つの狙い目だと思いますし,そこへ向けて何か面白いネタを仕込んでいきたいなとは考えています。

4Gamer:
 なるほど。分かりました。それでは,ひとまずは「30万人でジャンケン」などの完成を楽しみにしています。
 本日はありがとうございました。

画像集#011のサムネイル/ニコニコ広場が目指す次世代コミュニケーション。ニコニコ動画 運営長に聞く「テキストベースで群衆を表現する挑戦」


 さて,ニコニコ広場の話を聞くと言いつつ,ニコニコ動画全体にまで話が及んだ今回のインタビュー。ニコニコ広場の狙いや,ニコニコ動画のそもそもの企画意図など,いろいろと興味深い話が聞けたように思うが,今回のインタビューで強く感じたのは,ニコニコ動画が「単なる動画配信という枠を超えたサービス」を目指している……というところかもしれない。

 ニコニコ動画というと,北米におけるYouTubeと比較される形で,「日本発の動画配信サービス」として語られてきたサービスなわけだが,インタビュー中でも触れたように,ここ最近のニコニコ動画は,ニコ割ゲームやアンケート,そして今回のニコニコ広場など,「動画を見る」以外のサービスを立て続けにリリースしている。

 これらの動きは,単純な動画サイトという観点からだけでは説明が付きづらいわけだが,今回の話と,常にエンターテイナーたらんとする彼らの活動を見てきて,ニコニコ動画は「Web上での新しい体験の創造を目指しているのかもしれない」と思った次第だ。
 ニコニコ動画のユニークさは,なんといっても独特のコメント機能によって,“動画というありふれたコンテンツに価値を付加した”点に尽きるわけだが,ニコニコ動画を見ているすべてのユーザーをつなげてしまうというニコニコ広場もまた,サイトを閲覧するというありふれた行動に,新しい価値を見い出す取り組みなのかもしれない。
 いろいろな課題を抱えながらも,独自の切り口で前進し続けるニコニコ動画。世界でも類を見ないWebサービスの一つとして,今後とも注目していきたい。

 なお,2009年2月5日に開催されるOGC 2009(オンラインゲーム&コミュニティサービスカンファレンス2009)でも,同サービスを運営するニワンゴの代表取締役 杉本誠司氏がスピーカーとして講演する予定。ニコニコ動画に未来が気になるという人は,こちらもチェックしておくとよいだろう。


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