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数万本売り上げたADV「シロナガス島への帰還」のセッションをレポート。個人開発タイトルをヒットさせるために大切なこととは
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印刷2021/08/23 15:23

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数万本売り上げたADV「シロナガス島への帰還」のセッションをレポート。個人開発タイトルをヒットさせるために大切なこととは

 2021年8月21日に開催されたインディーズデベロッパ向けのオンラインイベント「Indie Developers Conference 2021」。その中で「シロナガス島への帰還」の作者・鬼虫兵庫(おにむし・ひょうご)氏のオンラインセッション「個人開発ADV「シロナガス島への帰還」を数万本売り上げた超実践的戦術!」が行われた。

 「シロナガス島への帰還」は,Steam等で6万本以上を売り上げた人気アドベンチャーゲームで,テキスト,ビジュアル,プログラムなど,音楽以外のすべてを1人で作り上げた「個人制作」であることも話題となった作品だ。いったい鬼虫氏はどのような方法で,「シロナガス島への帰還」をヒットへとつなげたのだろうか。

画像集#001のサムネイル/数万本売り上げたADV「シロナガス島への帰還」のセッションをレポート。個人開発タイトルをヒットさせるために大切なこととは

 冒頭,鬼虫氏は自身の作った「シロナガス島への帰還」を「だいぶ古いタイプのポイント&クリック型アドベンチャーだ」と一刀両断する。だが正真正銘,自分の欲望に素直に作ったゲームであることは確かで,そんな作品を世に広めるための戦い方があると続ける。

 鬼虫氏はかつてコミックマーケットで小説を頒布していた時期があり,当時,ゲームを頒布しているサークル群を見ていて「楽しそうだな」と感じていたのだという。それがゲーム制作をはじめたきっかけだった。
 そして,ゲームサークルを観察するうちに,ブースの設営や,ゲームのパッケージ等のデコレーションに労力やお金をかけ,作品を高単価で販売するサークルと,ほぼ個人で制作を行い,包装なども簡単に済ませ,安価に作品を販売しているサークルの2種類に分かれていることに気づいたそうだ。

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 それを見た鬼虫氏は,「その中間にこそ,独自の立ち位置があるのではないか」と考えたという。もしパッケージがしっかりしたゲームを,安価で売れれば,コミケで注目を集めるのではないだろうか。そう考えた氏は,商業作品を参考にパッケージを作り,ブースの設営方法も大手サークルを参考にして工夫し,コミケに臨んだ。
 結果的には開発は間に合わず,体験版を販売する形となったが,それでも午前中のうち,用意した100本を売り切ることに成功したという。

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 また,面白い作品を求めてイベントに足を運ぶような人は,それぞれ情報発信力を持っている可能性が高い。彼らの目に止まれば,自分の作品が紹介される機会も増える。実際に「シロナガス島の帰還」も,とある人物が主催する同人ゲームオブイヤーを受賞できたことで,話題になったそうだ。

 本作は完全版の発売までに,体験版や途中までのバーションなど,こまめなリリースを続けている。
 Steamでは,そもそもの知名度がない作品はどうしても埋もれてしまいがちで,最初の1週間の売上がそのソフトの最終的な売れ行きを大きく左右するとも言われるため,仮に面白い作品を作ったとしても,いきなりSteamでリリースするのは成功しない確率が高い。「シロナガス島への帰還」がSteamで6万本の売り上げを達成したのも,こまめなリリースを繰り返したことが,完全版の発売時にブレイクするための,知名度の下地となっていたと鬼虫氏は振り返っていた。

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 イベントに参加する以外の方法でも,作品や作者の知名度を高める取り組みは可能だそうだ。例えば,身近なところだと,Twitterで開発状況を発信し続けるだけでも,フォロワーは増えていき,知名度は上がっていくものだそうで,有効活用することを勧めていた。逆に秘密主義で開発し,完成後に急にリリースするのはおすすめしないとのこと。

 なお,Twitterで作品の認知やフォロワーを増やす際に,強いコンテンツはイラストだそう。
 もちろん,インフルエンサーと呼ばれる人々が最大の影響力を持っているのは確かだが,ことインディーズゲームに興味を持つ可能性のある人へのアピールは,魅力的なイラストがもっとも有効なのだという。
 イラストを描く人自身には発信力があるだけでなく,描く人同士の横のつながりも生まれるため,想像以上に大きな影響力が生まれると鬼虫氏は語る。

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 イラストが効果的なもうひとつの理由は,ゲームシステムや物語の魅力よりも,キャラクターの魅力のほうが拡散しやすいものだからだ。
 それは「Undertale」や「Helltaker」など,すでに成功しているタイトルにも当てはまる話で,魅力的なキャラクターは,二次創作のイラストを見る機会も多く,そこから興味をもつユーザーも多い。
 さらに鬼虫氏は,Skebなどのサービスを利用し,キャラクターのイラスト制作を有償で依頼することもしていたそうだ。もっともそれは作品の宣伝としては完全に採算度外視の「趣味的なもの」だそうで,改めて計算してみると依頼費は約256万円ものぼるそうだ。

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 なお,作品名を決める際にも覚えやすさだけでなく,Googleで検索したときにヒットしやすい「ググラビリティ」を意識することが重要だという。作品名を検索したときに別のものがヒットしてしまうようだと,口コミやファンコミュニテイも広がりにくい。
 それは作品名だけでなく作者名にも言えることで,たとえば東方ProjectのZUN氏や,「ひぐらしのなく頃に」の竜騎士07氏など,話題作に紐付いて記憶されている作者は,ほかの活動をする際にも注目を集めやすい。

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 そして話は動画配信についても及んだ。「シロナガス島への帰還」は個人による二次創作や動画配信をほぼすべて許可しているが,それによって売り上げが伸びたかといえば,ほぼ影響はなかったそうだ。
 しかし,配信者がゲームを楽しんでくれた場合,その配信者や動画を見た人は確実に作品のファンになってくれるし,作品の知名度が上がることにもつながる。
 すでにファンの多いシリーズや大手メーカーの作品に関しては,機会損失につながるかもしれないが,まだ認知度の高くないタイトルにとってはメリットは計り知れない。
 たとえストーリーの核心に関わるネタバレがあったとしても,それをきっかけに作品に興味を持つタイプのユーザーもいるため,ほぼ気にする必要はないと考えているそうだ。

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 鬼虫氏のセッションでは一貫して,作品を周知していく大切さ,そのための工夫が紹介されていたが,同時にインディーズゲームは「尖っていてナンボ」であることも強調していた。

 人はつい損得勘定で動いてしまい,流行を追ってしまいがちだ。しかし,本当は自分の欲望を素直に出していくことが大切で,それが結果として,周囲から見ても面白い作品が生まれることにつながっていく。
 また個人制作のゲームはそれ自体に希少価値があり,それだけでも作品や作者に注目を集めるファクターとなりうる。「たとえ少し拙い出来になったとしても,一度は完成させてみる価値はある」とのこと。

 なお「シロナガス島への帰還」は8月28日までの間,Steamでセール中だ。価格も250円と安価なので,鬼虫兵庫氏の考え方に興味を持った人は,ぜひ一度触れてみてはいかがだろうか。

「シロナガス島への帰還」公式サイト

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