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印刷2022/09/29 12:00

インタビュー

thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた

 東京ゲームショウ2022の会場で,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」Nintendo Switch / iOS / Android / OTHERS)で知られるthatgamecompanyでアートディレクターを務めるセシル・キム(Cecil Kim)氏にインタビューを行った。そこで,現在同社が進めている新しいプロジェクト「Sky Animation Project」について聞いてきたのでご紹介しよう。

画像集 No.002のサムネイル画像 / thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた

 学生プロジェクトとして「flOw」を公開して以降,「Flowery」「風ノ旅ビト」と多くの人の印象に残るヒット作を生み出してきた,ジェノヴァ・チェン(Jonova Chen)氏率いるthatgamecompany。彼らの最新企画が「Sky 星を紡ぐ子どもたち」をアニメ化するという「Sky Animation Project」だ。TGS 2022に合わせて新たなトレイラーも公開されており,すでにチェックした人も多いだろう。


 そんな「Sky Animation project」を率いるキム氏と言えば,「ファイナルファンタジーIX」のコンセプトアートを始め,「God of War」の初期3部作や「God of War: Ascension」など,数多くのAAA級タイトルのアートに携わってきた経歴の持ち主だ。その後,独立して自らのスタジオを立ち上げ,2019年8月には「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の発売から間もないthatgamecompanyに参加。現在は同社のアートディレクターとして活動している。

「Sky 星を紡ぐ子どもたち」公式サイト



「ゴッド・オブ・ウォー」から「Sky 星を紡ぐ子どもたち」へ


4Gamer:
 本日はよろしくお願いします。まず,thatgamecompanyに参加することになった経緯からお話しいただけますか?

セシル・キム(以下,キム)氏:
 私が参加したとき,thatgamecompanyの多くのアーティストはすでにそれまで長い年月を「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の開発に費やしていたため,作品のアートディレクションそのものはすでに確立していました。
 ですから,私に求められていたのは,進行中のプロジェクトに対してのマネージャー的な役割ではなく,彼らのキャリアを育て,得意なことにフォーカスさせてあげて,会社とともに未来の道筋を見出す手助けをしてあげることだったと思います。私もこの業界は長いですから,thatgamecompanyが成長するにあたって私の経験やコネクションも役立てられたのではないでしょうか。

thatgamecompanyのアートディレクター,セシル・キム氏。7年間にわたるゲーム開発でバラバラになりかけていたアートチームをまとめ,アーティストであることの責任を追求する企業文化を定着させていった。その彼の肝入りプロジェクトが「Sky Animation Project」だ
画像集 No.001のサムネイル画像 / thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた

4Gamer:
 「ゴッド・オブ・ウォー」のような,ある意味過激なバイオレンスをウリにする作品を長らく手掛けていたキムさんが,“優しいゲーム作り”を行うthatgamecompanyに参加することになったときの心境はどのようなものだったのでしょう?

キム氏:
 「ゴッド・オブ・ウォー」は私のキャリアにとって非常に大切な作品であり,偉大なゲームシリーズですが,やはり4作も同じものを作っていると,アーティストとしての自分がぬるま湯に浸り過ぎているような気分になっていました。私自身もバーンアウトし始めていたのかもしれません。当時,PlayStationプラットフォームはインディーズにも力を入れ始めていた頃だったのですが,そんな彼らの作品を気分転換でプレイしていて触発されたのも,独立する動機になったと言えます。
 独立後もSanta Monicaスタジオのためにコンセプトアートを描き続けており,ActivisionやGearbox Softwareなどのメジャーな作品にコンセプトアートを提供したりといったことをしていましたが,まったく異なるアートスタイルに挑戦したいという願望は常にあり,その点で新しいスタイルに挑戦できている今のthatgamecompanyの環境には満足しています。

4Gamer:
 アーティストとして影響を受けた人や出来事があれば教えてください。

キム氏:
 独創的な世界観を提示したという意味ではメビウス(フランス人作家ジャン・ジローのペンネーム)ですね。それからピカソは,彼の作品量という意味で,私がアーティストとしてどれだけ怠け者であるのかを常に知らしめてくれる存在です(笑)。
 私が学生時代に描き始めたアートは暗いものが多かったのですが,世界そのものを作り出していくのが好きだったんです。グランド・キャニオンのような大自然を目の前にすると,自分の小ささが分かるじゃないですか。そんな風に,絵画を通して自分の存在を考えさせるようなアーティストになりたいと思っていました。


「Sky 星を紡ぐ子どもたち」の世界にさらなる息吹を与えたい


4Gamer:
 それでは,現在thatgamecompanyが手掛けている「Sky Animation Project」(以下,Animation Project)についてお聞きします。まず,この企画はどのようにスタートしたのでしょうか。

キム氏:
画像集 No.003のサムネイル画像 / thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた
 thatgamecompanyは,常に自分達の作品について高い目標を掲げており,その目標の1つが「ゲームが芸術である」ことを実践するというものです。多くのゲーマーや一般の皆さんが,いつか「ゲームは単なるデジタルエンターテイメントではなく,芸術の一種なのだ」と認めてくれる日を目指して頑張っています。
 そうした願いは我々のゲームコミュニティにも伝わっており,いつもソーシャルメディアで「Sky 星を紡ぐ子どもたち」に関するアートを掲載してくれる人達の中に,優れたアーティストが多く存在することも知りました。そこで,さらに多くの皆さんにとっての刺激になるように,この世界にさらなる息吹を与えるべきだと考えたのです。私が最初に話を持ち出したのは,まだ入社して間もない2019年のことでしたが,thatgamecompanyが持つ才能なら実現できると思いました。

4Gamer:
 新しいアート形態への挑戦と言えますか?

キム氏:
 いえ,アーティストにとってメディアの違いはそれほど大きなことではありません。アニメーションとゲームに,明確な違いは感じていないのです。
 当たり前のことですが,ゲームは芸術とテクノロジーの微妙な関係によって成り立っていますよね。ゲームプレイのメカニックが必要であり,ツールを作ってゲームエンジンに落とし込み,インタラクティブなメディアを構築していかなければなりません。しかし,アートワークそのものは非常に静的なものであり,我々アーティストができることは,そのアートからストーリーを伝えていくことです。Animation Projectでは,それがうまくできると考えています。

画像集 No.012のサムネイル画像 / thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた

4Gamer:
 Animation Projectの成功に必要なものは何だとお考えですか。

キム氏:
 我々はすでに多くのファンに受け入れられているIPと,その世界観を持っていました。これをさらに拡張するために,インタラクティブなメディアではないアニメに必要なものは直接的なナラティブ(物語)です。
 そこで脚本チームを編成し,「我々が提起したい物語や視聴者に伝えたいことは何か」「ゲームと同じように,キャラクターにはセリフを持たせないほうがいいのか」「ゲームを知らない視聴者層にゲームと同じアートスタイルがアピールするのか」,そして想定される予算の中で「我々の理想とするものが,どこまで満足できる完成度になるのか」など,さまざまな議論を続けました。
 その結果として,皆さんにAnimation Projectの存在を提示することで,どのような反応を示していただけるかを見てみることにしたのです。

4Gamer:
 その発表の場として,2022年3月に開催されたAnimeJapanが選ばれたわけですね。

キム氏:
 ゲームではなくアニメーションとしての新しいプロジェクトですし,何よりその聖地とも言える日本でのイベントでしたから,タイミング的にも非常に良かったと思います。

4Gamer:
 2020年に開催された「GDC Summer」というオンライン開発者会議で,thatgamecompanyでコンセプトアートを担当した田邊裕一郎氏のセッションをレポートしました。その時,彼らが描き出した原案の多さにびっくりしましたが,その中にゲームでは使用しなかったものの,Animation Projectで世界観を拡張するために使えそうなものはありましたか?


キム氏:
 もちろんです。ゲームの世界観が存在しない頃から,ユイ(田邊氏のニックネーム)やほかのアーティスト達は何枚もの原案を描き,7年間という長い開発期間の中で何度も新しいものを描いたり,調整したりしていたわけです。ユイは,その中でも多大な貢献をしたと言えるでしょうね。
 当然,使われなかったスケッチも多いのですが,それは新しいインスピレーションを生み出す源泉でもあるので,一枚として無駄ではなかったのだと思います。その中から,「これはSkyっぽい,これは違うかな」というものを選考して,Animation Projectに活かしています。

4Gamer:
 それは田邊氏を含む皆さんにとって,楽しいプロセスかもしれませんね。

キム氏:
 確かに。そうして採用したコンセプトアートから新しいキャラクターや建物を作り出し,アニメの世界を生き生きとしたものにしていくことが重要です。ゲーム世界とはまったく別物になるかもしれない新しい世界を構築していくわけで,これは我々アーティストにとってはリフレッシュできる,良いアプローチになっていると思います。「なぜ空はこんな色合いなんだ?」というようなことを話し合って決めていき,その中から言葉を使わないストーリーテリングが生み出されていくんです。
 「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のファンなら,そうしたアートワークの細部もしっかり見てくれるはずで,そこに我々も幸せを感じています。少し哲学的かもしれませんが,これは一人のキャラクターの旅路ではなく,ゲームやアニメの枠を超えた1つのユニバースを我々みんなで共有する体験になるはずなのです。

4Gamer:
 Animation Projectの時間軸は,ゲームよりも遥か昔のことになるとアナウンスされていますね。

キム氏:
 そうです。我々が見たゲームの世界は,(アニメの世界よりも)何百年もあとのことです。アニメはそんな昔のことや世界の循環について想像し,何が世界のバランスを保っているのかを考えられる,ファンの皆さんにも喜んでいただけるものになると思います。

画像集 No.005のサムネイル画像 / thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた


アーティストとして,常に新しいものを作り出していく


4Gamer:
 今回,新しいトレイラーが公開されていますが,3月にリリースされた初めての映像は半分以上がラフスケッチでした。先ほど,ファンの反応を見るためというお話をされていましたが,まだ完成まで時間がかかりそうな印象です。

キム氏:
 そんなに長くはかからないと思いますので,もう少しご辛抱ください。


4Gamer:
 最初のトレイラーでは,主人公らしきキャラクターが地下坑道でトロッコのようなものに掴まっているスケッチシーンがあり,ゲームとはかなり異なる印象を受けたのですが。

キム氏:
 無理なアクションがあるようなシーンはトーンダウンするよう努めていますが,アニメはインタラクティブではない分,見ている人の興味を持続させるだけのエキサイトメントが必要になります。これまでゲームを触ったことがない人がアニメを見る機会もあるでしょうし,そうしたエキサイトメントがゲーム版を知らない人をゲームに誘う役目も担っているんです。

4Gamer:
 確実に言えることは,Animation Projectは我々の知るユニバースを拡張していくであろうということですが,ファンが期待している世界観を維持するうえでのチャレンジはありますか?

キム氏:
 やはり,我々が「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のユニバースをどこまで理解し,それを共有できているかに尽きると思います。それは,物の形であったりテクスチャであったりといった細部も含みます。
 ゲームはすでに3年めのサービスに入っていますが,例えば2022年初頭にあった「深淵の季節」というシーズンイベントでは,海底というこれまで描かれていなかった世界を作り出しました。ですから,たとえAnimation Projectでこれまでとはまったく異なる環境を描くことになったとしても,プレイヤーの皆さんに受け入れられるものになると確信しています。

4Gamer:
 近年はゲームからアニメや小説,ボードゲームなどが作られる“トランスメディア”が1つのトレンドになっていますね。

画像集 No.014のサムネイル画像 / thatgamecompanyのアートディレクターに,現在進行中の新企画「Sky Animation Project」について聞いた
キム氏:
 そのようですね。「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のアニメ化にとって何より重要なのは,我々はゲームとアニメの2つを完全に異なるものであるとは考えていないということです。ゲームをこれまでプレイしていなかった人,アニメをそれほど見ない人が出会えるユニバースを創造するのが狙いなのです。

4Gamer:
 ゲームのシーズンシステムが軌道に乗り,アニメの制作も進めているということは,今はthatgamecompanyは新しいゲームプロジェクトに手を付けていないのでしょうか?

キム氏:
 いえいえ。私達はアーティストであり,新しいものを作り出していくことに生き甲斐を感じています。冒頭で話したことに帰結しますが,変わり映えのしないものを描き続けていると飽きてしまう性分なのです。
 「Sky 星を紡ぐ子どもたち」については,大勢のコミュニティの皆さんが楽しんでいるこの世界をさらに拡張していきたいと思いますし,ディズニーランドが70年にもわたって新鮮さを失わないのと同様に,我々もこの“遊び場”を守っていこうと思います。Animation Projectも,その一環であるのは間違いありません。

4Gamer:
 これからプロのアーティストを志す,若い人に向けてのメッセージはありますか?

キム氏:
 アートには,それに触れる人に「何が重要なのか」を伝達する力があります。これは絵画でも小説でもゲームでも同じことでしょう。テレビや新聞のニュースのような直接的な表現ではなくても,我々アーティストは見る人達にメッセージを伝える能力を持ち,当然そこには責任が生まれます。その責任を取れる人が増えていけばいいと願っています。

4Gamer:
 本日はありがとうございました。


 現段階では「Sky Animation Project」がどのようなストーリーになるのかなど,細かい部分までは聞けなかったが,多くのファンに親しまれるだけでなく,新しくゲームに興味を持つ人を増やしてくれるようなアニメになるのは間違いなさそう。キム氏の言う「そう長くはかからない」という公開時期に期待しつつ,彼らが「口のないキャラクター」を使ってどのようなアニメ作品を作り上げたのか,その全貌が明らかになる日を楽しみにしておこう。

公開されているトレイラーには,奇妙なデザインのクリーチャーが登場する。果たして,どのような世界での冒険が描かれるのだろうか?
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