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[インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう
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印刷2024/10/15 08:00

インタビュー

[インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

TGS 2024の「Phantom Blade Zero」ブースは,かなり混み混み
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 東京ゲームショウ 2024で,ちょっと画面が暗くて,でも派手な剣技アクションが繰り広げられていたブースを覚えてる人はいるだろうか。
 それこそが「Phantom Blade Zero」PC / PS5)で,中国のデベロッパーであるS-GAMEの新作アクションゲームだ。
 見た目も雰囲気もソウルライクで,方向性は「SEKIRO: SHADOWS DIE TWICE」,だけど遊び口は「黒神話:悟空」といった感じの本作だが(楽器のTGS記事からそのまま拝借),歯ごたえありまくりのアクションゲーム大好きな来場者には結構な人気で,ずっと待ち行列を作っていた。

 6月のSummer Game Festでも7月のBilibili Worldでも,そして9月の東京ゲームショウでも記事にしたが(8月のgamescomでも展示されていた模様),TGSのタイミングでS-GAMEの社長が来日するという情報を得たので,コンタクトを取ってみたところ,無事にインタビューが成立。しかも,アートディレクターであるMichael Chang氏も同席してくれるという。
 とはいえ,お互いに予定がパツパツで,TGSが始まる前日の夜に,幕張のホテルの一室でこっそり(?)お会いすることに。


 何も知らない状態で見ると,ポッと出のコアでダークなアクションゲームにしか見えないかもしれないが,その実態は,S-GAMEの社長である梁其伟(Liang Qiwei,リャン・チーウェイ)氏が,学生時代から長きに渡って作ってきた「Rainbloodシリーズ」の最新作にあたる。

 エリート暗殺者の「ソウル」が主人公のこのシリーズは,「Rainblood: Town of Death」(2008年)に端を発する。当時イェール大学にいたLiang氏がリリースしたこのゲームは,1日で10万件以上のダウンロードを記録して,最終ダウンロード数は400万という驚異的なタイトルになったのだ。
 その後,処女作を作ったチームの協力のもと,音楽やグラフィックス,ゲームシステムなどすべてをパワーアップした「Rainblood 2: City of Flame」を2011年にリリース。リリースと同時にLiang氏は自分の会社である「S-GAME」を設立した。

 さらに2013年には「Rainblood Chronicles: Mirage」をリリース,そこからだいぶ空いて10年後の2023年に,モバイルに参入したS-GAMEは「Phantom Blade: Executioners」をリリースした。そしてそれはモバイルゲームとして十分な収益をもたらし,今作の「Phantom Blade Zero」へと続いている。

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[2013/11/20 10:00]

「Phantom Blade: Executioners」ダウンロードページ

「Phantom Blade: Executioners」ダウンロードページ


 インタビューは,4Gamerがミーティング用として使っている大きい部屋で行った。しかし部屋が広いだけあってそこら中に電源コンセントがあって,しかもなぜかいくつかは通電してなかったりして,テストプレイ用のPS5の電源を入れるまでが一苦労。なんだかんだと一悶着ありながらも暗くなるころには準備も完了し,夜も更けた幕張のホテルで,インタビューはゆるゆると始まった。

 ゲームの話はほとんどしていないが,Liang氏の思想や方向性など深い部分にまで切り込んで聞けたので,興味深いインタビューに仕上がったと思う。これからの時代に「ゲーム開発」をしようと思っている人にこそ,ぜひ読んでほしい。
 ここに“正解”は書いていないかもしれないが,あなたの気持ちの,何かの足しにはきっとなるはずだ。

 なお本人達の希望により,いつもとは違って「S」「Michael」と敬称略で書かせてもらうことを,予めご了承いただきたい。

S-Game CEO / 「Phantom Blade Zero」プロデューサー
梁其伟 Liang Qiwei(Soulframe)
通常自分のことを「S」と呼び,社名の「S-GAME」もそこからきている
画像集 No.003のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

S-Game VP / 「Phantom Blade Zero」アートディレクター
Michael Chang(MichaelCTY)
日本語が話せるMichael。アジア圏の開発者は国を問わず,実は日本語を使える人が結構多い
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4Gamer:
 まだ東京ゲームショウも始まっていない前日のタイミングで,お時間もらえてありがとうございます。
 しかもさっき聞いたんですが,このインタビューのために,さっき日本に着いたばかりなのに東京からわざわざ幕張に移動してくださったとか……光栄です。ありがとうございます。

SoulframeことLiang Qiwei氏:(以下,S)
 いえいえ。こちらこそ,呼んでいただけてありがとうございます。

4Gamer:
 私,SGFにもgamescomにもBilibili Worldにも行っていないので,実は作品自体をまだ遊んだことがありません!

S:
 じゃあまずプレイしてみて,終わったらインタビューしましょう。

4Gamer:
 いや……僕びっくりするぐらいアクションゲームが下手だから,まずお手本プレイをちゃんと見せてもらおうかな。ちゃんと生で見たことがないので。

S:
 OKです(笑)。

#30分くらいプレイしてしまった

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S:
 ……というわけで,見てもらったとおりとてもハイペースなプレイフィールです。これらのアクションは全部,香港や上海のプロのモーションアクターを使って,モーションキャプチャしました。
 一人の敵を殺したときに隣にも敵がいる場合,“連殺エフェクト”が発動したりしますし,敵に爆弾を投げられても,完璧なタイミングで避けるボタンを押せば投げ返すこともできます。そういったスペシャルなアクション要素もありますよ。

4Gamer:
 あぁ,そういうの含めて,見てるだけでもすごく楽しかったですね。

S:
 実際のプレイも難しくはなく,慣れれば遊びやすいですし。例えば今持っている刀は,さっきのボスが手にしていた武器です。

4Gamer:
 お,ボスの武器を奪えるのか。

S:
 そう,ボスから武器を奪える設定があります。攻撃中に異なる武器に切り替えることによって,異なるペースや戦闘リズムを体験できるわけです。


4Gamer:
 そういうところが難しく見えちゃうのかも?

S:
 数回プレイして慣らせばよいので,難しくはないですよ。
 まぁでもたしかに「スーパー難しいモード」もあります(笑)。そのモードでは,AIがプレイヤーの行動を判断して攻撃してくるので,あれはたしかにちょっと格ゲー気味です。

4Gamer:
 プレイヤーの腕前次第で,難易度がいかようにでも変えられるんですね。

Michael Chang氏:(以下,Michael)
 僕らは,みんながプレイできるようなゲームを作っています。実際,そこまで難しくないようにしてます。

4Gamer:
 でも真面目な話,さっきも言ったように僕はアクションゲームがめっちゃ苦手ですけど,ゲームはすごく楽しそうに見えます。スピード感もそうだけど,なんというか,画面がとても見やすい。
 こういうアクションゲームって,攻撃のエフェクトとか敵キャラとかスキル発動エフェクトとか背景とかがゴチャゴチャになって,画面がすごく見づらいんですよね……。アクションゲーム慣れしてないと,全然分からない。縦シューみたいな。

S:
 あぁ,そういうところには気を遣っています。
 気を遣うだけじゃなくて,ビジュアル表現自体にすごくこだわっています。さっき言ったような一番難しいモードを,もしYouTuberとかすごくゲーム慣れしたうまい人がプレイすると,本当にカンフー映画の大作のように見えますよ。

Michael:
 きっかけは,昔の香港の武侠映画ですしね。そういったきれいな“構え”にインスピレーションされてこれを作りました。


カルチャーの差異を埋めるために「カンフーパンク」というテーマを作った


4Gamer:
 「カンフーの動きを取り入れました」というゲームはたくさんありますが,確かにこれはすごく生々しく動きますね。

S:
 ええ,僕らもカンフーをテーマにしたゲームをいっぱい見てきました。
 昔のカンフーテーマのゲームはどんな特徴があるかというと,武術の動きが1種類しかなくて,“それっぽい”アクションを見せるだけでした。僕たちが目指しているのは,見た目がカンフーのように見えるだけではありません。

4Gamer:
 というと?

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S:
 ゲームプレイの操作や対戦時の考え方が,本物のカンフーの攻防の駆け引きの哲学になるようにしたいです。適切なタイミングで敵の型を崩し,背後から攻撃を行う,といったアクションは,本物のカンフーです。
 ディフェンスをするときに相手の動きに応じた防御をするのは,すごく中国式武術の特徴です。ディフェンスしながらも攻撃をしています。
 例えばほかの武術だと,ディフェンスはただ単にブロックするような動きをするわけです。攻撃をする人もシンプルにこのように(と,両手を高く上から切る仕草)。でも私たちの対戦は,二人がお互いにこのように(同じ水平で切り合う)します。これこそが,すごく香港武侠的なものなんです。

4Gamer:
 確かにすごくそれっぽいです。
 でも,僕はカンフー映画とか武侠とか割と好きなのですごく刺さりますが,これ欧米の人にはいまいち理解しづらいこだわりじゃないですかね,カルチャーとして。

S:
 そこはまったく同じ問題を考えていたので,そのカルチャー面の問題については「カンフーパンク」というテーマで作りました。

4Gamer:
 カンフーパンク。言葉でなんとなく分かりますが,どんなものを指してます?

S:
 カンフーパンクは,カンフーや武侠をコアの魅力として使いながらも,現代の流行を融合した表現で,グローバルの流行文化を身にまとった表現です。
 分かりやすい例では「マトリックス」がありますが,あれは未来を舞台にしたSFだけど,作中での戦闘の動きは,すごく純粋に中国の武術アクションです。キアヌ・リーヴスは,ユエン・ウーピンの武術指導まで受けたくらいですから。


※香港の映画監督,武術指導。「マトリックス」のほかにも「グリーン・デスティニー」や「キル・ビル」の武術指導を担当した。

4Gamer:
 あぁなるほど。マトリックスは分かりやすいです。

S:
 私たちは中国のクリエイターとして,それと似たような融合処理を行いました。
 ストーリーの背景は,あまりカルチャーの壁がないフレームワークを設定して,戦闘においては中国式武術を使って攻撃します。実際,いままで6月のロス(SGF)でも,その後のケルン(gamescom)でも,欧米プレイヤーの良いフィードバックを得られました。

4Gamer:
 おお,ゲーム大国であるアメリカとドイツでいい感じだったんですね。

S:
 ええ。確かに彼らはこのカルチャーに対して理解はないかもしれませが,ゲームを見たファーストインプレッションは「クールで爽快で,いままでとは違う戦いの体験を提供してくれる目新しい作品」だと評判してくれています。
 気付いているか分かりませんが,現在の世界中のゲームプレイヤーがもっとも馴染んでいる武器のゲーム表現は,突き詰めると2種類しかありません。一つは欧米の大剣で,もう一つは日本の,武士の刀または忍者の短刀です。

4Gamer:
 言われてみれば中国の武器はそんなに目にしません。

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S:
 私たちはその固定概念の枠を外して,よく見かける表現とは別に,ハイペースの中国式アクションを見せました。なのでプレイヤーが見た印象として,ちょっと懐かしいけどいままでのものとは違う,スピード感にあふれて,技のバラエティが多彩なものとなります。
 この手の感覚はカルチャーを理解する必要はなく,「おっ,カッコイイ!」というビジュアル的な体験なので理解されやすいわけです。

4Gamer:
 なるほど。最初からグローバルで売ることを念頭に作られたデザインである,と。

S:
 そうです。最初からグローバルに向けた展開を想定したデザインにしています。


グローバル向けなのに,なぜわざわざ分かりづらいテーマを?


4Gamer:
 こないだも別なとこで話したんですが,例えば日本の「時代劇」とあなた方の「武侠」は同じようなものだと思っていて,どちらも欧米にはちょっと理解されづらいですよね。
 単なるサムライとかニンジャとかそういうのではなくて,根底に流れるものも含めて「カルチャーとして」の話です。

S:
 なるほど。言わんとしていることは分かりますよ。

4Gamer:
 我々は,その根底にあるものをすぐ理解できますけど,欧米の人にはちょっと理解できない。まぁそこはお互い様でしょうけどね。でも,そんな難しいテーマをあえて選んでグローバルに打って出る理由はなんですか?

「西遊記」をベースにした「Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)」は,アクション部分はともかく,カルチャーにまつわる真意を理解するのはなかなか難しいだろう
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S:
 最近の作品を例にすると,「Black Myth: Wukong(黒神話:悟空)」PC / PS5)は,カルチャー面において私たちのゲームよりよほど(世界に打って出る)ハードルが高いと思います。あれは,完全に中国のクラシックな文学作品ですから。

4Gamer:
 そこはまったくそうですね。日本では「悟空」は色んな意味で名が知られてますが,欧米だとどうだろう……。

S:
 なので,彼らもいま話しているようなカルチャーが理解されない問題に出会うかもしれません。
 僕の認識では,ゲームにおいてのクオリティと体験は,すべての基礎となるものです。クオリティと体験をちゃんと作れれば,テーマの難しさは逆にプラスになると思います。

4Gamer:
 マイナスでなく?

S:
 そう。マイナスではなく,プラスだと思います。ゲームを面白く作れば,馴染みのないテーマが,逆に目新しいテーマとして認識されます。

Michael:
 もっと深く掘りたいと,逆に探索欲を誘うんです。

S:
 そうですね,これは検証済の結論だと思います。特に最近は同業者(Wukongの開発会社であるGame Science)のそういった素晴らしい成果を見ることができました。
 ゲームにおいて一番大事なことは,面白さ。面白くて素晴らしい体験のゲームであれば,没入するようにプレイでき,そこにある新しいテーマに興味が湧きます。

Michael:
 もっと知りたい,と。

S:
 別の例を出してみましょう。
 私たち中国のプレイヤーが西洋文化や日本文化を知っているのも,入口としてとても面白い西洋のゲームや日本のゲームがあったからです。徐々に馴染んできました。中国のプレイヤーも,最初はきっと日本の武士をよく知らないし,興味もなかったでしょう。いいゲームがたくさんあったから,今のようにポップなテーマとして認知されています。
 なので繰り返しですがゲーム自体が面白ければ,テーマに感じる距離感は,壁ではなく逆によいものになり得ます。より多くのプレイヤーを引き寄せてくれる,すごく強いプラスになるものだと思います。

4Gamer:
 うーん,なるほど。納得できます。

S:
 納得ついでに,一点補足させてください(笑)。
 テーマや背景は目新しいけれど,ストーリーは共通な部分も多いです。異なるテーマだとしても,その中で語られているストーリーの内容は同じものなのです。友情,愛情,リベンジ,または忠誠……このような,人間の基本的な感情は同じなのです。

4Gamer:
 確かにそうですね。そういうところで決定的に違う何かを見せつけられることは,あまりない気がする。

S:
 テーマは外側の“皮”として新鮮感を与えつつ,その内側にある核となる感情や,人々を感動させるようなものは,障壁なく誰でも理解できる同じものです。
 なので僕は,我々の選んだこのテーマで敷居が高いと思われる心配はしていません。

4Gamer:
 ふふ,望み通りの答えが聞けました(笑)。


ここへきて中国がコンソールシフトしている本当の理由


4Gamer:
 しかし,今までの中国は“コンソール不毛の地”だったわけです。
 本土でのコンソールマーケットのシェアがあまりにも小さいという理由もあるだろうけど,それにしてもこれだけいろんなものを作れるのに,コンソールはなぜかグローバルに通用するものが出てこなかったわけです。出てこなかったのか,出さなかったのか,分かりませんが。

S:
 うん,なるほど。

4Gamer:
 でもここへきて「Wukong」が出て来て,あなたたちの「Phantom Blade Zero」が出てきて,2作続けて,しかもどちらもすごくカルチャー要素の強い作品が,世界に向けて踏み出しているという。こういうのって,何かきっかけみたいなものがあるんですか? コンソールゲーム市場に挑戦するようになった,何かトリガーみたいなもの。
 もちろん以前から中国でも,コンソール好きな人達の手によって作品は作られてきていましたが,ここへきて流れの潮目が変わったなという印象があります。

Michael:
 きっかけ……かどうか分かりませんが,私たちはやはりコンソールが好きなのです。

S:
 うん,そうですね。

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Michael:
 日本や欧米のコンソールゲームにすごく影響を受けてきたので「こういうゲームを作りたい」とみんな考えていると思います。
 ただ,昔は市場も技術も成熟していなかったので,作れなかったというだけなのです。

4Gamer:
 あぁ,なるほど。環境が整ったのはありますね。

Michael:
 そうです。いまは条件が整ったので,技術的にも能力的にも,作れる状況になってきました。
 僕たちもWukongに触発されたところもありますし,そんな感じでコンソールを開発している会社が複数あって,お互いに激励して,いい作品が作れるようになってきたんじゃないかなと思います。

4Gamer:
 何かがトリガーを引いてこうなったわけではなく,以前からこうしたかったけど,環境が整ったのが今このタイミングなのである,と。

Michael:
 はい。中国の開発者が,みんなこのタイミングに示し合わせて,一緒にコンソールを出しましょうとなったわけでなく,元から私たちはこういう作品を作りたかったんです。そしてそれが,ちょうどいまのタイミングで,みんながこういうクオリティで出せるようになったというわけです。

S:
 いまMichaelが話してくれたのは,僕たちの“初心”にまつわる部分です。こういうゲームが好きで僕たちの夢でもあるというのは,これを作る一つの理由です。
 なので僕は,現実的側面からも理由を補足したいです。

4Gamer:
 ぜひお願いします。

S:
 「Black Myth:Wukong」が登場する前でも,登場したあとでも,中国ゲーム市場はPCを含めると……これ実はちょっと興味深い話題なんですが,コンソールとPCを合わせて考えると,中国は世界で一番大きいコンソール&PCゲーム市場です。もちろん中国はまだPCメインですけどね。

4Gamer:
 あぁ……中国の人も韓国の人も,割と「PC&コンソール」っていうまとめ方をしますよね。そこが日本と全然違うのが,とても興味深い。まぁ出自が根強いんでしょうけど。

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S:
 ええ。いまの大作ゲームは,ほぼ必ず複数のプラットフォームに出します。コンソールでもPCでも,要は同じゲームなのです。
 そして5,6年前の時点で,すでに中国は最大のシングルゲーム市場で,「Black Myth:Wukong」が登場する前であっても,日本や欧米の大作ゲームの,そのほとんどの作品の30〜40%の売り上げは中国からです。
 その作品が中国テーマかどうかは関係ありません。「サイバーパンク2077」や「ELDEN RING」,「パルワールド」や「Needy Girl Overdose」なんかもそうです。中国が安定して30〜40%の売り上げを占めているのは,歴然とした事実です。これは消費側の話です。

※売り上げの約9割を日本以外で稼いだ…日本発のアクションRPG『エルデンリング』が海外で大ヒットしたワケ(President

4Gamer:
 うんそうですね。そこは理解しています。

S:
 では作る側の視点で見てみましょう。
 技術面で言うなら中国は,コンソールの開発経験,もしくはPCのシングルゲームを開発した経験は,あまりありません。そこは事実です。しかし中国は,過去の十数年間のモバイルゲームの開発を通じて,モバイルゲームの開発経験を十分に積みました。このモバイルでの経験が,いまPCシングルゲームの開発に生かされています。
 あと,中国のアーティスト,美術の下請け,モーションキャプチャ,3Dスキャンニング……これらの供給は,実際問題として各国のAAAゲーム開発のサプライヤーになっていたわけです。昔はただ下請けとして,10年20年とやっていただけですが,工業のパイプライン自体はすごく成熟しました。
 僕たちはただ,これをもとに,僕たちの主導で,僕たちのアイデアで,デザインやクリエーションに手をつけます。すでに成熟したファクターを利用して,コンソールゲーム開発向けに運用しています。

4Gamer:
 なるほど。中国という国全体のゲーム開発が,下請け時代に着々と腕と剣を磨いていたわけですね。素晴らしい。

S:
 市場も技術も十分に成熟した状況で,誰かが襖を外すのを待ってただけでした。
 Wukongや我々のような作品が出てきて,もっと良い作品が増えて,このような状況が認知されて,僕が知っている限りでも,たくさんのコンソールプロジェクトが動かされています。
 うん,新しい時代が来ると思いますよ。夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう。

※物事を明るみに出すこと

4Gamer:
 すごく状況が理解できました。


世界で理解されやすい“二次元”をなぜテーマにしないのか


4Gamer:
 僕も2004年からずっとChinaJoyに行ってて,もう20年くらい中国ゲーム業界を見てきました。その中でも,ここ数年はとりわけ動きが激しいと思います。
 今あなたが言ってたように,やりたいことをやるだったり,新しい時代を作るだったり,そういうのはすごく理解できるし素晴らしいと思うんですが,そういうことを言う人たちが,誰も二次元のゲームを作らないのがちょっと面白いなと思ってます。今は,二次元が一番“カルチャーの壁”を越えやすいと思いませんか?

S:
 なるほど,そういう視点(笑)。

4Gamer:
 アメリカでもフランスでもイタリアでも日本でも韓国でも中国でも通じるテーマって,そんなにないですよね。あえてそれを“使わない”というのが,すごく興味深いというか,なんというか。

S:
 おっしゃるとおり二次元は,中国ではモバイルゲームでよく使われているテーマですね。miHoYoもそうですし,多くの上海のデベロッパーも二次元をテーマにしたゲームを開発しています。
 しかし僕の考えでは,いまの中国のコンソールゲームは,段飛ばしの発展をしています。いくつかの,あるべき段階を飛び越えているわけです。

4Gamer:
 言い得て妙ですね。それはすごくイメージに合致します。

S:
 本来であれば,一歩一歩,小規模の開発から始まって,徐々に規模を大きくして……進んでいくはずなんです。
 しかし今中国で見える状況は,小さいチームは,より規模が小さいインディゲームの開発をやっていて,大きいチーム……僕たちやGame Science(Wukongの開発会社),またはほかの大手メーカーなんかは,いきなり多くの予算を張って大作を作ります。それは確かに,この時代の特徴かもしれません。

4Gamer:
 しかも先ほどの話では,そこまでの積み重ねも相当ありますしね。

S:
 ええ。ほかのところは非常に成熟していて,とくにモバイルゲームはかなり成熟したので,シングルゲームの開発を始めるときにはもうみんな,ハイレベルなリアル感がある作品や,複雑なゲームシステムを持つAAAレベルの作品を開発するようになっていますね。うん,現状は確かにそうです。

4Gamer:
 段飛ばしで状況が進んでいるので,腕試しをかねて二次元ではないゲームを作っている?

S:
 いや……もう一つの可能性として,相対的に規模が小さいアニメ調の二次元の作品を作るのであれば,創作表現においても,経済効果においても,それが最適な選択ではないから,かもしれません。だったらそのまま,二次元のモバイルゲームを開発したほうがいいんです。
 最終的に,モバイルゲームかマルチプラットフォームのゲームか,どちらかを開発することにたどり着くと思うんですが,モバイルゲームに二次元がとりわけ多いのはそういう理由かもしれません。

4Gamer:
 ははぁ,なるほど。
 規模を大きくしようと思ったら,突き詰めると必然としてコンソール/PCにたどり着く?

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S:
 シングルゲームを開発すると決めたら,チームが小さければ,自分たちのスタイルを表現できるインディーゲームを開発することになります。資金集めができるチームなら,もっと大がかりなゲームを作ることになります。
 それらの間にある部分については,モバイルゲームを作った方が断然効率がいいわけですが,そのような考えがあるのかもしれません。

Michael:
 そうですね。二次元を作るなら,AAAを目指すのではなくてそのままモバイルゲームを作れば,より安定的な市場があります。そういう状況です。

4Gamer:
 経済面を見るなら,モバイルゲームで二次元を作った方がいいというのは,全くその通りだと思います。でもそこで聞きたいんですが,たぶんあなたはクリエイター兼社長ですよね。

S:
 そうですね。

4Gamer:
 僕自身も,規模こそ全然違いますが社長兼編集長なので分かるんですが,クリエイターの視点と社長の視点って,利益相反しませんか? そういうのは,どうやって自分の中でケリをつけてるんでしょう。

S:
 すごくいい質問だと思います。
 確かに僕たちには創作的な属性があります。同時に,商業的な属性もあります。この二つは必ずしも,衝突したり相反したりするようなものではないと思います。
 いまのタイミングでは,僕たちがAAAゲームを開発するのはクリエーション面の考えだけではなく,ビジネス面の考えからもそうするようにと背中を押されています。
 もっとコアの部分で言うなら,自分がやりたいことや,自分の得意な作品を作らなければ,この市場において競争力のある作品を生み出すことはできず,ましてやこの市場で勝ち残って商業的な成功を得ることはできないでしょう。

4Gamer:
 なるほど。商業的にもコンソールで作るのが必然であるのだ,と。

S:
 そうです。繰り返しですが僕たちは,十数年間にわたってモバイルゲームを開発してきたのです。
 そしてモバイルゲーム出身だからこそ分かります。モバイルゲームは「儲かる」とか「商業的な成功が大きい」とか思われているけども,このマーケットがだいぶ成熟するにつれて,いわゆる「広い市場」にはなったけれども,この競争に加わって肩を並べることが,より難しくなっています。

4Gamer:
 それは本当にそうですね。日本も同じです。

S:
 モバイルゲーム市場には,すでにトップメーカー,トップシリーズ,トップタイトル……そういったトップランナーたちが固まっています。市場のパイの取り分けがすでに固定している状況なのに,この市場は新しいものや小さなチームにたくさんのチャンスを残してくれているのだと勘違いするのであれば,大変悲惨な死を迎えると思います。
 これが,モバイルゲーム……少なくとも中国のモバイルゲーム市場の競争の現状です。

4Gamer:
 異論はありません。基本的には,真っ赤っかなレッドオーシャンですもんね。

S:
 そうでしょう? なのでビジネス面からの考えからしても,レースのレーンを変えて,中国最初の大型コンソールゲーム開発のプレイヤーとして率先して加わるのは,逆にまだブルーオーシャンです。
 十分に我々の創作欲を満たしますし,この市場はまだ競争するような状況になっていないので,まだまだ広くてバージンテリトリーで,より成功の可能性が高いです。これが二つ目の観点ですね。
 話してるうちに3つ目も思い付きました(笑)。

4Gamer:
 ぜひ続けてください(笑)。

S:
 もう一つ,なぜシングルゲームのほうが,クリエーション面において,モバイルゲームより完成度が高い,十分なものだと考えられるか。
 長い間モバイルゲームの開発を行ってきたから言えますが,クリエーションには二つの大切な要素があります。一つはストーリー,もう一つはキャラクターです。

4Gamer:
 分かります。

S:
 しかしこの二つの要素は,モバイルゲーム,もしくは運営型ゲームでは,運営モデルの制限があって十分に表現できません。
 まずストーリーですが,モバイルゲームは長期的に運営され続けるものです。アップデートするたびに,何かの祝日やその時に合わせたイベントを行わないといけないので,欠片でしかないストーリーが次々に出されていきます。

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4Gamer:
 そうですね。毎回アップデートのたびに違う話を書き続けるのはすごいなと思います。

S:
 しかも数年間ずっと続くストーリーを書かないといけないので,欠片のようなものが無限に続くストーリーしか生み出せません。なんなら,最終的にちゃんとした完結を迎えない可能性すら高いです。

Michael:
 完成度がないから完成しないんですよね。

S:
 そう。状況がそんな感じなので,引っかけのあるような凝ったサスペンスを書くことはできないし,どんでん返しみたいなプロットや,クラシカルで心を動かす,感動的な結末のあるストーリーなんかを書くことも,難しいです。
 例えば映画を観たあとには結末がありますよね。この結末となる最後のシーンが,何か響くものを残したまま映画が終わります。このような余韻は,運営型のゲームには実現できません。これが,一つ目のストーリーの話です。

4Gamer:
 確かに,スマホゲームでストーリーを作り上げていくのは結構難しいですよね。だから逆に「ストーリーがいいスマホゲーム」は大きな話題になるわけで。

S:
 もう一つのキャラクターについてです。モバイルゲームの中のキャラクターは,ご存知のように,ガチャ(編注:余談だがそのまま日本語で「Gacha」と言ってた)のために捧げられます。
 キャラクターを登場させるときは,プレイヤーがガチャを回してくれるような,魅力的なキャラクターを作る必要があります。それは,プレイヤーが欲しがるような,ゲームで使えるような方向で作ることに繋がります。
 しかもこのキャラクターは,登場するときには既に,このキャラクターがもっとも完成体に近い状態で出すことになります。

4Gamer:
 え,そうですか? ……あ,分かりました。そりゃそうですよね。ちゃんとカッコよかったり可愛かったりしなければ,お金を払ってもらえません。

S:
 それなんです。キャラクターが一番強いとか,一番きれいとか,とにかく一番いい状態で出さないと,誰も課金してくれません。しかしこれをやると,キャラクタークリエーションにおいてとても大事な,キャラクターカーブが損なわれて,キャラクターの成長と変化が見られなくなります。
 ここが難しいのです。そのため,キャラクター作りもガチャというビジネスモデルによって制限されます。結局ほとんどのキャラクターは……なんていうか,フラットな紙ぺらのような状態になってしまいます。ただのポーズ(静体)でしかありません。

4Gamer:
 ただのポーズでしかないというのは,いい表現です。ソシャゲのキャラは多くがそうなってしまうのは,なるほどそういう理由なんですね。

S:
 出すときに「このキャラクターは弱いけど,3か月育てれば,成長して強くなりますよ!」とは言えないし,じゃあこのキャラを回さなくていいじゃん,となります。これも一つの衝突です。
 まとめると,ストーリーと人物というクリエーションにおいて二つの大事な要素は,モバイルゲームの運営モデルによって大きく制限されてしまうわけです。


我々は「ゲーム」ではなくて「IP」を作っている


4Gamer:
 しかし,ストーリーとキャラクターにこだわって……いや,こだわってというか,それを綺麗に作り上げたくてシングルゲームを選んでいるということですが,ストーリーとキャラクターって,要は「IP」というやつですよね。
 もしかしてS-GAMEは「商業としてゲームを作っている」というより「IP」を作っている?

Michael:
 その通りです。

S:
 そうです。それこそが,もっとも根底にあるものだと思います。
 ちょっと言葉を変えましょう。なぜ日本がこんなにたくさんの成功しているモバイルゲームを作れるかというと,より早い段階で,日本のエンタメ産業はアニメと漫画で大量のIPを蓄積していたからです。日本のモバイルゲームは,既にあるIPをマネタイズする手段なのです。

画像集 No.015のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう
4Gamer:
 おお,同じ考えの人がいて嬉しいです。IPを再利用する装置という側面が強いんですよね,日本のスマホゲームは。

S:
 もちろん中国も,日本のIPやほかのIPを利用してモバイルゲーム化するケースが多々あります。僕の考えとしては,僕たち(中国)はIPを生み出す段階を経ていなくて,そのままIPを消費する段階に入ってしまいました。なのでいま僕たちは,戻って……。

Michael:
 飛ばしてきた「IPを生み出す」という前段階をちゃんとやります。

S:
 言われた(笑)。
 戻って僕たちのIPを作ります。キャラクターやストーリーを作り出すのです。

Michael:
 ただ単に,既存のIPを消費するのではなく。

S:
 消耗ではだめです。もしかして将来的には,僕たちのシングルゲームシリーズがちゃんと維持されて,ストーリーとキャラクターがキチンと創り上げられたとしたら,その中のキャラクターを使ってモバイルゲーム化するのは,筋の通った進み方かなとは思います。

「Phantom Blade Zero」のキャラクターコンセプト
画像集 No.019のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

4Gamer:
 そういう例っていままであります?

S:
 実際のところ,中国でちゃんとIPまで形成できたケースは少ないですね。なぜなら最初からモバイルゲームにしているから。モバイルゲームはマネタイズの手段であって,商業的に利益を上げる手段です。
 僕たちがやりたいのは,そこから一歩下がりたいです。いまのようにみんながみんなモバイルゲームを開発するという状況から一歩下がって,日本の80年代,90年代のような,創作とIPの蓄積の時代にやっていたようなことをやります。

4Gamer:
 中国のゲーム業界は,20年前から比べると確実にレベルアップしていて,開発者の腕は上がり,テクノロジーは進化して,モバイルもPCも最新のコンソールもすべてが縦横無尽に使えるようになっていて。
 ありとあらゆるものが進化してきたけど,唯一IPだけは持ってませんでした。でも,それを作る世代がついに現れたということですね。

三国志と聞けば,ゲーマーであれば無意識にコーエーの「三國志」のキャラクターが浮かぶのでは
画像集 No.020のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう
S:
 そうですね。中国の開発者として,お恥ずかしい限りです(笑)。
 例えば,今一番素晴らしい三国志ゲームを出しているのは,ご存じのように日本です。コーエーテクモゲームスの「三國志」と「三國無双」であって,これは,中国のゲームクリエイターが,あまりうまくできていない部分だと思っています。
 ……昔の中国の産業に対するイメージは製作(プロダクション)メインの,工業的イメージです。中国のことを工業国家と呼ぶ見方もあるくらい,グローバルに対して生産供給をする国でした。

4Gamer:
 メイド・イン・チャイナを嫌う日本人も大勢いましたが,逆に中国で作られてないものって何があるの? というくらい席巻していました。

S:
 エンタメ業界においても,中国の役割は実際のオペレーティングや下請けのような,オーダーに従う工業的な役割でした。このような時期を長く積み重ねてきたので,きっとどこかで変化が起きて,ターニングポイントを迎えるのです。

4Gamer:
 その「変化」を起こしてる張本人が,この会社なんですね。

S:
 そうありたいです。
 ターニングポイントと共に新世代のクリエイターが現れて,根底からIPを作りたい,自分のストーリーを作りたい,中国のカルチャーを掘り起こしたい……という人は必ず出てきます。
 中国のカルチャーはすごく豊富で,掘り起こされていないものがまだまだたくさんあります。僕たちはいま,ちょうどその変革のターニングポイントに立っているかもしれません。

Michael:
 昔僕たちは,日本の影響を受ける側でした。日本の漫画が好きで,それで日本に来たくらいです。しかし,日本の影響を受け続けているこれが,ただの慣性なのかもしれません。リードされて,引っ張られる側といいますか。

4Gamer:
 常態化していたんですね。

Michael:
 社長も言ってたように,オペレーティングやサポート側の役割をやっていたわけで,それを言葉を選ばずに言うならば「惰性」です。
 この惰性で続けられた技術が成熟になって,ようやくふっと気づきます。自分たちがやりたいことは,インスパイアする側,影響を与える側なのに,現実は逆だ,と。
 いまは技術的にもタイミング的にもちょうどいいポイントに来たので,IPを作るような動きが増えてきていると思いますし,将来はもっと増えると思います。

4Gamer:
 まあでも遠い昔は,中国が日本をインスパイアする側だったので,長い目で見たら繰り返しているのかもしれません。

Michael:
 なるほど(笑)。
 僕たちが成長する段階で,「ドラゴンボール」とか「スラムダンク」とか「聖闘士星矢」とかが大好きで,その影響でゲームをやり始めたのです。自分の作品を作ろうと思ったきっかけはやっぱり,ほとんどは日本からのアニメの影響とかでしたね。日本の80年代のアニメは,僕らにとって宝物のようなもので,大いなるインスパイアを受けてました。

画像集 No.014のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

4Gamer:
 中国の人ってたまに,なまじな日本人よりよっぽど日本のアニメに詳しいですよね……。

Michael:
 そうですよ(笑)。
 しかし,そうやってインスパイアされたことが,本当にありがたいです。今は,やっぱり自分自身の手でそういう作品を作りたいですね。

4Gamer:
 昔のChinaJoyで,モンスターハンターの丸コピーみたいなゲームが出たことがありました。取材で触ったときに「すごいなこれ」「完全にパクれてる」「こういうのが作れるのか……」と思ったものです。当時の日本の中堅のゲーム会社が「モンハンを丸パクり」することは,たぶんできなかったです。
 これでIPを作る力が付いたら,日本結構やばいなぁとそのとき話してましたが,ついに。

S:
 その時の中国の典型的なパターンですね。高いアウトプット能力と生産能力があって,創造力が低い。そのため,その高い産出能力を全部パクリに使ってしまいます(笑)。

4Gamer:
 ふふ。まぁそういう時代もありましたね。

S:
 わざわざシングルゲームを開発したり,根底からIPを作ったりするのは大事なんです。
 昔の高い生産能力を考えたら,本当にいいものを作り出すまでは「あと一歩」だけなのでは,と。工業的な生産能力を使って,僕たちの考えやアイデアを取り入れてオリジナルのものを作り出せたら,それこそが,業界にある高い生産能力に対する一番合理的かつ効率的な利用になるのではないでしょうか。

4Gamer:
 冷静に,そこに気付いてしまったわけですね。

S:
 そんな高いアウトプット能力があるのに,パクリを作るのは単にもったいないです。貴重な生産能力を,ねえ? オリジナルなものに突っ込んだほうがいいでしょう,どう考えても。
 それをパクリなんかに使ってしまったら,全然おいしくないし,100のものが作れるはずが,下手したら60とか70で終わっちゃいます。

Michael:
 汚名も付きますしね。

S:
 そう,色々言われますし。
 なので,今は市場が発展して成熟してきて,中国のクリエイターたちが成長できて,ちょうどそういう段階にきました。これからも,こういう生産能力はどんどんオリジナルのものに投下されていくと思います。パクリではなく。

4Gamer:
 それを期待しています。


名高いクリエイターになりたいわけではなくて,自分は自分になりたい


4Gamer:
 そういえばあなたのバイオグラフィーをちょっとだけ調べました。どんな人なんだろうと思って。検索して出てきた文字列をパッと読んだだけだと,若い頃に同人ゲームを作って,そこからどんどんのし上がってきたイケイケの社長,という感じがありましたけど,実際にこうやって話をすると,全然印象が違いますね。むろん,良い意味で。
 僕がよく話すクリエイターでいうと,Jenova Chenに近いイメージがあります。感性とビジネスの両立のあたりとか,すごく似ています。ほかにもいろんなスタークリエイターに近い感じの雰囲気なんですが,誰かを目標にしていたりしますか?

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 「風ノ旅ビト」「Flowery」「flOw」……そして「Sky 星を紡ぐ子どもたち」。いつも優しい雰囲気で,素晴らしいBGMを備える,アーティスティックな作品を作るのがthatgamecompanyのJenova Chen氏だ。彼のゲーム観を,いろんな方向から聞いてみよう。

[2019/10/16 12:00]

S:
 そんな光栄な(笑)。スタークリエイターは僕の……なんだろう,偶像(崇拝する相手)ですね。彼らは僕の偶像だけど,じゃあ同じようになりたいかというと,やはり自分は自分になりたいです(笑)。よりよい自分に。
 彼らは仰ぎ見る相手であって,学ばせてもらうところも大変多いです。でもやはり異なる環境や異なるルートにいるから,人はみな自分の状況から自分の進むべき道を進むのが一番いいと思います。

4Gamer:
 「よりよい自分」というのを具体的に説明できますか? かなり興味深いです。

S:
 もちろんまずは,技術や経験の積み重ねです。まぁそれは,表層的な“よりよい自分”ですね。
 もっと深層にあるのは,自分が欲しいものは何なのかをはっきり分かっている状態だと思います。そして,その自分が欲しいもの/したいことに対して,合理的に自分なりの理由が付いていたり,自分なりに説明がつく行動方式があること。

4Gamer:
 自分なりの行動指針,みたいなものですかね。

S:
 そうです!
 そしてその指針は,外部からの影響で揺らぐことなく,安定したクリエイションコアとか創作心とか,そういうものを保つというのは,すごく難しいと思います。多くの場合は,外部の影響を受けてしまいますから。

4Gamer:
 情報が多くて,自分の信念を保つことすら難しい時代ですよね。

S:
 今の流行りはああだのこうだの,ビジネス的にこうしたほうがいいだのなんだの,新しいトレンドや動向,その他よく分からない何かがあります。これらの情報は,一人の信念に対してよくも悪くも影響を与えるかもしれません。
 でも本当に,最終的に自分が自分のすべての行動に説明をつけられるような,完全に自分に属する強いシステムを作れたらと思います。どんな時も動揺しない,その時の流行りとか一過性のものに影響されない,安定的な自分の核心となるようなもの。自分の評価と行動,そして自分の言動が,ちゃんと一致するような。
 少し哲学っぽい話になってしまいたが,「穏やかな自我」がより良い状態だと思います(笑)。
 
4Gamer:
 うーん,見習いたいです……。

S:
 いやいや(笑)。

画像集 No.013のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

4Gamer:
 言葉を選ばずに言うんですが,グローバルベースでの「コンソールゲーム」というマーケットから見たとき,S-GAMEは今,片田舎の村から外に出て世界に注目されている状態ですよね。
 ここからこの人たちは一体どこに行こうとしているだろう,とちょっと気になってたんですけど,いや全然大丈夫そうですね。

S:
 はい(笑)。

4Gamer:
 でも,ちょっと話を戻しちゃっていいですか? そうやって自分の中にちゃんと自分のルールがあって,自分を律することができる人が,社長でありクリエイターでもあるわけなんですけど,きっとその思想と立場からして,会社の中のいろんなものを見ていますよね。

S:
 そうですね。それはもういろんなものを。

4Gamer:
 僕自身も,規模は全然違うけど立場が同じで,僕らの目って言うならば「サウロンの目」じゃないですか。常にいろんなものを見ている。クオリティが低すぎるものはないか,漏れている手続きはないか,スタックしている仕事はないか……。
 でもそこから漏れたりあふれたりしていくものを,どうやってハンドリングしているんですか?

S:
 それは簡単ですよ(笑)。見たら,見たものを一番よくします。見てないものはどうせ知らないです。

4Gamer:
 おお,シンプルでした(笑)。

S:
 見えてないものは知らないし,見えたものを最高な状態にできるだけでも,だいぶ素晴らしいですよ。見えないところは,まぁ正直欠けたままになるでしょうね。まあでも見えないですし? 仕方がないですね。

4Gamer:
 すごく納得するんですが,気になりませんか……? 私が気にしすぎなのかな。

S:
 もちろん,気になるのは,気になります。でもさっき言ったように,よりよい自分を作り上げるまでの修練も,とても気になりますが,それでも前へ進みます。気になってもしょうがないし,どうせ何もできないので。
 戻ってやりますか? それともこれも見るし,あれも見る? 人生は選択問題です。遺憾が残りつつも,客観的にいまの状況に対して,自分の心に従って取捨選択を行います。捨てたものはもう捨てたものです。気になったとしても,捨てたことは事実で,前に進むしかありません。

4Gamer:
 いや本当にありがとうございます。とても参考になりますし,修練します……。

(一同笑)

4Gamer:
 仕事柄いろんな業界人と話しますけど,ちょっとなんか違いますね。

S:
 具体的にどこが違っているのか,ぜひ教えていただきたいです!(笑)

4Gamer:
 ゲーム業界で作品を作るということに関わってる人達……社長とか,ディレクターとかプロデューサーとか,まぁそういう人達ですね。
 そういう人達は基本的には2タイプいて,クリエイト寄りの人と,お金儲け寄りの人。大体その2タイプに分かれます。どちらも正しいと思うし,多くの人はそのどちらかに強く寄ってるんですが,業界で名を上げるような人は,アプローチこそ人によって違いますが,やはりそのバランスが素晴らしいです。そっちの人達に近い気がしますね。

S:
 本当ですか? それは嬉しいです。
 そう,何かを取って何かを捨てて,両方のバランスを取ります。我々中国人がよく言う「現実的な理想主義者」というやつです。

画像集 No.016のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

4Gamer:
 なるほど。すごく中国ぽくていいです。

S:
 はい。中国のカルチャー的に,僕たちは現実主義なんです。実務を上に置き,物事を現実的に考えて,実際の利益からたくさんのことを考えます。
 でも実際には,伝統的に僕らはロマンな詩詞(诗词歌赋)があります,ロマンあふれる芸術や,士大夫階層(中国旧社会の上流階級)のロマンの思いがあります。このような二種類の考え方が共存するようになりました。

4Gamer:
 なにせ積み重ねが膨大ですからね中国のカルチャーは。

S:
 僕たち(中国の開発者)は,中国の伝統文化を元に,西洋文化や日本文化から影響を受けていて,僕たちの中には各種のカルチャーの融合やぶつけ合いがあったと思います。
 それで僕たちは,どっちかの世界だけを見ているわけではなくて,よりバランスの取れた考え方が出てくるのかもしれません。

4Gamer:
 その積み重ねられたカルチャーも,中国はそもそも長い歴史のそれぞれにカルチャーがあるわけじゃないですか。時代によって全然違うものが。

S:
 うん,そうですね。

4Gamer:
 例えばドラマ一つとっても,あなた方は一体いくつの時代背景を持っているんだというくらい持ってる。これはいついつの時代のもので,これは春秋です,これは戦国時代です,これは近代です,これは……。そういうのがいっぱいありますよね。中国ドラマって結構時代背景が多彩ですし。
 でも日本だと……平安時代と戦国時代くらい? あとは近現代。なので,受け入れて融合するものがすごいいっぱいあって,中国のゲーム会社がみんな,あなた方みたいにIPを作ることを目指し始めたら,それはもう相当強いんだろうなぁ,って正直思ってます。
 期待してます。頑張ってください。今日はありがとうございました。

S:
 (日本語で)アリガトゴザイマス
 楽しかったです。

4Gamer:
 光栄です!

画像集 No.002のサムネイル画像 / [インタビュー]「Phantom Blade Zero」の社長が語る,中国でわざわざコンソールゲームを作るということ―――夢がある人なら,延々とモバイルゲームを開発したいだなんて思わないでしょう

――――2024年9月25日
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    Phantom Blade Zero

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