このイベントでは,KRAFTON傘下のクリエイティブスタジオReLU Gamesのスタッフが,AIをゲーム開発に活用する取り組みと,その具体例となるPC向けホラーゲーム「MIMESIS」の開発などに関するセッションを行った。
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「MIMESIS」は,プレイヤーに擬態するAIと対峙する4人協力型ホラーゲームだ。ポイントとなるのは「信用できない存在との協力」で,生き残るためには仲間との協力が不可欠な半面,「そばにいる仲間が実は人間ではないかもしれない」というジレンマに直面する。
AIベースで行動するNPC「MIMESIS」は,プレイヤーの動きや声をリアルタイムで模倣し,仲間のなかへ自然に溶け込んでいく。そのためプレイ中は,協力と疑念が入り混じる心理戦が続くこととなる。
本作は,2025年10月のアーリーアクセス開始以降,Steamで200万本セールスを達成し,多くのプレイヤーから支持を受けている。
AIを単なる道具で終わらせない。「AIゲームデザイン」の構築と3つの原則
ReLU Gamesで,AI Creativeチームリーダーを務めるイ・ギムン氏によるセッション「1週間に3〜4本のプロトタイプが生まれるスタジオ」では,同スタジオのAI活用手法が紹介された。
それによると同スタジオは,過去にインターネットがオンラインゲームを誕生させ,スマートフォンがモバイルゲームに新しい体験をもたらしたように,AIもゲームに新たな文法を提示すると考えた。そこで,今のように誰もが生成AIを使えるようになる以前から,ゲーム開発にAIを活用する取り組みを始めていたという。
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しかし現在の世間一般では,AIは主に道具としてしか使われていない。たとえばカメラを使うにはレンズや光学の知識が必要だが,それだけではよい映画は作れない。よい映画を作るには,よい話を作る手法を学ぶ必要がある。
AIとゲーム開発の関係も同じで,単にAIを道具としてゲーム開発に活用するのではなく,どのようにAIを使えばゲームに新しい面白さをもたらすことができるか,すなわちAIゲームデザインについて考える必要があり,それに取り組んでいるのがReLU Gamesというわけである。
ゲーム開発には,レベルデザインや戦闘デザイン・バランス,UIデザインなどさまざまなノウハウがこれまで蓄積されている。しかしAIゲームデザインは,これまで誰も取り組んでこなかったため,自分たちで率先してチャレンジし,実際にできたゲームをプレイして,面白さや手触り感などを確認する必要があった。
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ReLU Gamesでは,AIゲームデザインによる面白さを見つけるために3つの原則を設けている。
1つ目は「Bottom-upで作る数多くの成果物」で,スタッフの誰であってもゲームを自分で作り,配布し,修正できる。
2つ目は「アイデアではなくSeedから」で,新しいゲームを作るときは企画書などのアイデアベースではなく,実際に面白さをプレイして体験できるよう「Seed」と呼ばれるプロトタイプを作成する。
3つ目は「職務の境界を越え,問題の解決に集中」で,AIを活用することにより,従来の職種にとらわれることなく課題の解決に取り組む。
それら3原則を実現するために,ReLU Gamesは独自ツール「Nolan」を開発した。
このツールは,スタッフ各自が自身の作ったSeedのソースコードをアップロードすると,AIがそれを誰もがプレイできる状態にして(ビルド&デプロイ)スタジオ内に公開する。
それをプレイした別のスタッフは,単にどこを修正すればもっとゲームがよくなるかをコメントするだけでなく,AIエージェントを用いてソースコードの改善を図れる。どんな修正を施したかは履歴に残り,改善したソースコードはAIによって再びビルド&デプロイされ,それをプレイしたスタッフが改善……というサイクルが生まれる。
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ここで重要なのは,「Nolan」上でAIがやっているのはソースコードをビルド&デプロイすることだけで,改善案自体は人間自身が考えていることにある。
またビルド&デプロイをAIに任せることにより,サーバーエンジニアなどの手を煩わせることがなくなるうえに,スタッフ各自が短時間でより多くのSeedを公開できるというメリットも生じる。
さらにSeedの改善案を実際にプレイできる状態で示せるため,元のSeedとの比較もやりやすい。
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会場では,アートディレクターが作った「『MIMESIS』をプレイしたいが,3D酔いのために遊べない人のためのゲーム」というSeedが紹介された。このSeedには586のコメントが寄せられ,さまざまな派生バージョンが生まれたそうだ。
さらに「Nolan」に残された履歴からは,別のSeedでどのような改善案が出てきたか,その改善案を応用できるかといったノウハウを抽出することもできる。
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ReLU Gamesは「MIMESIS」のほかに「魔法少女☆可愛いラブリー★ずきゅんどきゅんばきゅんぶきゅん☆ルルピン」や「Uncover the Smoking Gun」などいくつかのタイトルをリリースしているが,その裏側には10倍以上の数のSeedによる試行が存在したという。
短期間で多くの試行を繰り返したのは,AIゲームデザインの可能性と仮説を確認するためだ。
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ReLU Gamesの中でも,イ氏がリーダーを務めるAI CreativeチームはSeedによる成果物をレポートと捉え,AIの可能性を研究するチームだ。
レポートの中にはAIゲームデザインに関するものもあり,残念ながら大半はゲームとして面白くないという。その場合,なぜ面白くなかったのか,プレイヤーがAIに対してどのような反応を示したのか,スタッフがどう対応したかも記される。
そういったレポートを活用することで,そのあとのSeedがより面白いものになる可能性が高まるというわけである。
スタジオ内で公開されたSeedは,これまでに114件。いずれもAIエージェントのスペシャリスト1人が5日以内で作ったものだ。
また通常のプロトタイプはフルサイズのゲームを開発するために作られるが,Seedはレポートすることが目的なので,作成の手段は問わない。ハイエンドのGPUを駆使してもいいし,既存のゲームのModでもいい。場合によっては,AIをまったく使わなくてもOKだ。
そうやって作ったSeedを実際にプレイして,面白さの根拠を確認したうえで,本格的なゲーム開発に着手する。AIを活用したゲーム開発はまだ技術的に難しいため,少人数で作成・検討できるSeedの段階でしっかり予算を投じ,方向性や可能性を追求しておくことが重要となる。
イ氏は,今後もReLU Gamesが以上のようなAIを活用したゲーム開発を行っていくと意気込みを見せた。
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開発中止の判断から200万本の大ヒットへ
「MIMESIS」のディレクターを務めるアン・ジェホン氏によるセッション「お蔵入りになったプロトタイプは,いかにして200万本販売のゲームに生まれ変わったのか」では,「MIMESIS」を記事冒頭に記したような人気タイトルに仕上げていった過程が紹介された。
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「MIMESIS」のプロトタイプ「ドッペルゲンガー」は,上記のセッションで紹介されたAIゲームデザインプロジェクトの1つだった。
このゲームは3人のプレイヤーが3体のドッペルゲンガーと対戦するハードコア脱出アクションゲームで,ドッペルゲンガーがプレイヤーの戦闘スタイルを模倣することが最重要コンセプトだった。
テストプレイでは,戦闘を模倣するドッペルゲンガーにより,新しい面白さが生まれるかどうかがチェックされた。
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最初のテストプレイで得られたフィードバックは,主に「新しいAI技術が導入されたのは分かるが,ゲーム自体が面白くない」「ゲームは面白いが,AI技術を用いなくとも作れるのではないか」という2つだ。
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そこで「戦闘を模倣する」という部分を明確にするため,戦闘を複雑化することを考えたが,それはゲームとしての面白さを作り出すためではなく,戦闘を模倣するというコンセプトを説明するための試みに過ぎなかった。
結局,このコンセプトでは面白いゲームになる可能性が低いとされ,2024年8月に開発中止の判断が下され,新しいプロジェクトを模索することとなった。
当時のReLU Gamesの状況は安定しておらず,限りあるリソースを用いて短期間で成果を出す必要があったことも,「ドッペルゲンガー」の開発を中止する理由の1つだった。開発中止の判断が早くなければ,同じコンセプトのもとでさまざまな試行錯誤がなされ,多くの時間を費やした可能性があったとアン氏は語る。
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アン氏らは,当時のSteamで協力プレイのホラーゲームにコミカルな要素を組み合わせたジャンルの人気が高まっていたことに着目。このジャンルには,ほかのプレイヤーが恐怖に襲われて驚いたり失敗したりしたときの反応を,笑いながら楽しむという文化があった。
また同じマップと同じモンスターでも,プレイヤーによって反応が異なり,面白さにも差異が生じる。さらには実際にプレイしなくとも,そうしたプレイヤーの姿を動画で見るだけでも楽しい。
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このとき思い出したのが,「ドッペルゲンガー」に用いた模倣のアイデアだった。
モンスターが戦闘スタイルではなく目の前にいる仲間の動きと声を模倣することにより,ほかのプレイヤーが仲間本人なのかモンスターなのかを疑うことが新しい面白さにつながるのではないか,ひいてはプレイ中の行動にも影響を与えるのではないかと考えたのだ。
アン氏は,これが新たなプロジェクト「MIMESIS」への転換点だったと語った。
しかし「仲間を模倣するアイデアが新しい面白さを生み出せるかどうか」「AIモンスターを本当に人間らしく行動させられるか」という2つの課題があった。AIで動くMIMESISがプレイヤーのように行動し,言葉を発するようにすることは技術的に難しく,その面白さを検証するには時間がかかるため,そのぶんリスクも大きくなる。
そこでAI技術を用いる前に,MIMESIS1体とモンスター1体が登場するプロトタイプを作成し,コアとなる面白さを先行して確認することにした。
プロトタイプの社内テストプレイでは,プレイヤーが仲間かMIMESISを見つけたとき,それがどちらであるかを見極めるためにどれだけ時間を費やすかを確認。結果として,2秒以内の確認時間が不信感につながり,その後緊張感と笑いのあるプレイが長く続くことが判明した。
しかし社内テストプレイは,MIMESISの存在とゲームのコンセプトを知っているスタッフが行っているため,何も知らない人がプレイして同じ反応を示すかどうかは不明だ。そのためアーリーアクセス実施前に,Steam Next Festに参加してデモ版を配信し,実際のプレイヤーの反応や動画の共有・拡散が行われるかどうかを確認することにした。
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デモ版「MIMESIS」の開発期間は3か月で,アートの方向性とゲームの流れを新たに定義することを踏まえると,多くのコンテンツを用意することは無理だった。
そこでデモ版には,短いプレイでもMIMESISと遭遇したり仲間への不信感を抱いたりする状況が十分に起こるよう,事件の密度を高めた専用のバランスを施した。
デモ版の開発中,デバッグチームから評価を得るのは簡単なことではなかった。そこでデバッグチームのスタッフ各自がプレイ後に話題にしたり,動画を共有したりしたシーンについて詳細な調査を行った。さらにこの段階からAI技術を用いてMIMESISの挙動をコントロールするようになったとのこと。
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2025年1月に開催されたSteam Next Festで配信されたデモ版は,多くの人にプレイされ,彼らによって動画が配信されたことにより,会期中にグローバルでもっともプレイされたデモの第4位を記録した。
アン氏らにとって重要だったのは,デモ版の公開により「プレイヤーが仲間に不信感を抱き,プレイ中に緊張と笑いが起きること」「その様子を他人に見せたくなること」の2つを確認できたことだった。
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次に待っているのは,3か月後に始まるアーリーアクセスの準備である。デモ版では短時間の強烈な体験を用意したが,プレイするたびに同じことが繰り返されたため,プレイヤーはパターンに慣れてしまった。
そこでアーリーアクセスでは,反復プレイを前提に新しいシチュエーションを提供できるよう,プレイの構造とコンテンツを広げることになった。
そのためには,MIMESISがプレイヤーと一緒に行動したり声をかけたりするなど,疑われる状況の設計を多様化し,MIMESISをより人間らしく行動させることが重要だった。
小規模言語モデル(SLM)を用いて会話を自動生成するアイデアも出たが,よりプレイヤーにMIMESISが人間であると錯覚させるために,実際の仲間の声を使うことを選択。しかし仲間の声であっても行動などでプレイヤーは仲間ではなくMIMESISだとすぐに見抜いてしまうので,デバッグチームのテストを通じてプレイヤーが相手を見極めるためにどのくらいの距離を保とうとするのか,相手のどの部分をチェックするのかをあらためて調査した。
改善を施されたMIMESISは,より人間らしく行動するようになっていったが,それは最新技術を用いるだけでは実現できなかったとアン氏は語る。実際には,プレイヤーに違和感を抱かせる手がかりを1つずつ潰していく地道な作業の繰り返しだったという。
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会場では,「MIMESIS」の今後の展開も示された。大型アップデート「MIMESIS 3.0」では,プレイヤーがMIMESISだけでなくゲーム全体に不信感を抱くような拡張を目指すとのこと。具体的にはMIMESIS(AI NPC)がアップデートされ,新コンテンツや新モードが追加される。またプラットフォームとしての拡張も検討しているそうだ。
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LLM(大規模言語モデル)は使わない。「MIMESIS」がこだわる“人間らしい”AIの作り方
イベントの後半では,会場に集まったメディアの代表者による,イ氏とアン氏への質疑応答セッションが設けられた。以下にその模様をお伝えする。
──「MIMESIS」は,日本だとプレイの実況配信をきっかけとしてブレイクしました。日本でヒットしたことに対する感想などをお聞かせください。
アン・ジェホン氏(以下,アン氏):
私が開発に関わったゲームが日本で実況配信されたのはほぼ初めてだったのですが,プレイに集中してくださっている印象を受けました。
「MIMESIS」は定められた目標を達成するよりも,過程を楽しむゲームとして作ったのですが,日本の配信者の皆さんは些細なことで冗談を言ったり,お互いにからかったりしていてすごく楽しんでいるように見えました。
またプレイ中に起きた面白い状況をファンアートにしてSNSに投稿してくださった方もいて,本当に嬉しかったです。
──ReLU Gamesの開発に関して,プロトタイプであるSeedのほとんどが面白くないというお話でしたが,印象に残っている失敗作や,そこから得られた知見を教えてください。
イ・ギムン氏(以下,イ氏):
AIに関しては何年も前から可能性を模索していて,たくさんの失敗作を出してきました。単に面白くないだけでなく,意図したとおりのものができない,ゲームとしては面白くともAIを用いなくてもいいなど,いろいろありました。
ただ,考えていたものと実際に出てきたものとで体験にギャップがあるケースでは,プレイの事例を見て,それをモチーフにした新たなトライを繰り返すとよい結果につながることもあります。
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──Seedは製品化されることを前提にしているのでしょうか。それともアイデア重視で実験的なものでもいいのでしょうか。
イ氏:
一番重要なことは,ゲームのコアとなる部分だけを切り抜いてプレイヤーに体験させることです。細かい部分まで作ってしまうと,ゲームのコアに時間を費やすことができなくなるんです。そのため製品化を前提にすることは可能ですが,あえてそこまでは作らないということになっています。
──いわゆる企画書を必要とせず,いきなりプロトタイプを作ってスタジオ内に公開するという手法はあまり例がないと思うのですが,どのような過程を経てそのスタイルに行き着いたのでしょう。
イ氏:
求めているのは,企画書を作るプロセスの省略だけではありません。たとえば1つ1つのシードの派生は,それほど大きな差がないことも多いです。獲得経験値のバランスを少し変えただけということもあります。
重要なのは,Seedが積み重なっていくことが,より深くディテールにこだわることにつながっていることです。すなわち,より具体的な目的を持ってゲームを作っていることを意味します。
これはゲーム開発全体の中でピンポイントにAIの機能とつながる部分で,私たちは「行動化」と呼んでいます。
実は書類を作ることも少なくないんです。私はAI Creative チームのリーダーとして,1つのSeedの作者に対して非常に長いインタビューをします。どういう決定をしたのか,なぜこの数のポイントに絞ったのか,どうしてこの要素をこのタイミングで出すのか……といったことを聞き出し,膨大なテキストの書類にまとめて残しています。
アン氏:
結局,チームとしてゲームを作っていくためには企画書のようなものが必要になるんです。ただ言葉で説明すると,人によって異なる解釈をしたり,フォーカスするポイントが違ったりします。
そこで,どういうゲームを作るのか,どんな面白さを追求するのかを最初から明確にするために,実際にプレイできるプロトタイプを用意するというわけです。
この手法はすべてのプロジェクトに適用できるものではなく,Seedが基本的に1人で作るプロトタイプだからこそ合っていると捉えています。
──今後のReLU Gamesの成長のために,Seedを通じて試行錯誤しているという感じでしょうか。
イ氏:
そのとおりで,現在は一種のワークフローシステムだと捉えています。生成AIはまだ新しい存在で,何ができて何ができないのかを蓄積している段階です。今後,何か大きなヒントが得られたら,それをもとにした発展を目指したいです。
──「MIMESIS」で使用しているAIは,大規模言語モデル(LLM)ではなく,プレイヤーの行動単位で状況を分析し模倣する小型のニューラルネットワークのようなものだと認識しているのですが,それを採用した理由などを教えてください。
イ氏:
大きく分けると,行動パートと音声パートがあります。前者はおっしゃるとおり,自分の周りがどういう地形で,自分がどこにいて,仲間がどこにいて,所持しているアイテムはいくつで……といった多くの情報をニューラルネットワークに入力します。それら情報は累計で4000以上になるので,LLMに入力するには向いていないんですね。
またLLMが得意とするのは人類が蓄積してきた膨大な知識の領域です。「MIMESIS」は特有の情報を扱うだけなので,多くの資金を投じたLLMは必要ありません。
音声パートに関しては,よく音声合成を使っていると誤解されるのですが,実は録音した音声を使っています。音声合成だと誤解するのは,状況にあった絶妙な会話ができるためです。AIが分析した結果,誰かが何かを話したときの状況が似ていると,状況に沿った同じような言葉を発するように作っているんです。
──AIで人間らしい表現をするうえで,一番難しい部分などを教えてください。
アン氏:
「MIMESIS」の開発にあたって,人間らしい行動について3〜4か月かけてチーム内で認識のすり合わせをしました。
最初はすごく単純に考えて「モンスターと遭遇して攻撃する場合,人間はこういう行動を取るだろう」とAIに学習させたのですが,いくらやっても人間らしく見えなかったんです。そこでディープラーニングの専門家に教えを請うた結果,モンスターと遭遇したときに,ある人は戦う,ある人は逃げる,あるいはこの状況なら戦うが,そうでなければ逃げるといったようにさまざまな行動を取るのが人間らしさであることに気づきました。
そこで現在では,AIにさまざまな行動を取らせるようにしています。ただ,人間があまり取らない行動に関しては頻度を低くするといったように,違和感をなくすようにしています。
──そうした試みのなか,現在のAIではまだ難しいと思う部分があれば教えてください。
イ氏:
具体例を挙げると,ドアを通過させようと思ったら,AIにドアの幅がどれくらいあるのか教えないといけません。しかし必要な情報を与えていなかったので,AIがドアに気づかず,なかなか通過できなかったんです。
それでもAIは与えられている情報からそれらしい行動を取り,ドアに気づかないというよりも何か探っているような様子を見せていました。そういった感じで「AIはまだまだだな」というよりも,「いま,このAIはどういうプロセスにいて,何を考え,何を見て,何をしようとしているのか」を考えると,いまのAIでもうまく動かせるケースがあります。
──時間をかけて情報を入力すれば,AIができないことはそれほど多くない,と。
イ氏:
おっしゃるとおりで,結局人間が持つすべての知識と感覚を与えればいいということなんです。
ただゲームの場合はそこまでしなくとも,プレイだけうまくできればいいと私たちは捉えています。とくに私のようなエンジニアは,最適化を目的にするケースが多いので,そういう考え方になりがちですね。
アン氏:
最近は簡略化したコマンドでもうまくAIを動かせるようになったんですけれども,「MIMESIS」の開発初期は「すべて入力したはずなのに,なぜできないんだろう」と思うことが多かったんです。結局,人間が入力したデータが足りないので,AIが出す結果もよくなかったんですね。
──ReLU Gamesが取り組んでいるAIを用いたゲーム開発は,新しい遊びや面白さを生み出すことには非常に向いていると捉えています。
その一方で,RPGなどストーリードリブンのゲームは今なお世界的に人気が高いですが,AIはそういったゲームの開発に向いているのでしょうか。
イ氏:
私もストーリードリブンのゲームには大きな魅力があり,また長い歴史を持っていると認識しています。セッションで言及したとおり,カメラだけが優れていてもいい映画は作れません。私たちのゲーム開発手法が,すべてのジャンルのゲームに適用できるとは考えていません。
一方で,私は幼少の頃から手品が好きでした。手品には仕掛けがあり,誰も本当にテレポートができたり,魔力で何かを動かしたりしているなんて思っていません。手品師は言葉や動作で巧みに観客の感情を刺激して,さも魔術が実在するかのような体験を提供しているわけです。
そして私は,そうした体験こそがストーリーテリングのポイントになると考えています。手品師が何かを演出するべくツールや仕掛けを作るように,ストーリードリブンのゲームのハイライトになるような体験を作りたいけれども,これまではなかなか難しく諦めていた。
でも生成AIを用いれば,そういった体験を作り出せるかもしれない。そういう期待をしています。
──AIを用いたときのゲーム開発期間についても教えてください。最近は開発規模が大きくなり,1本のゲームがリリースされるまでに数年かかる,インディーゲームでも1年以上かかるというケースが増えてきました。
それに対して「MIMESIS」は非常に短期間でアーリーアクセスに漕ぎ着けています。AIの貢献や効果的だった部分を教えてください。
アン氏:
「MIMESIS」が短期間でアーリーアクセスをスタートできたのは,AIによる開発の効率化や画期的な開発工程といったことだけでなく,スタジオ内の「新しい体験や面白さを見つける」というカルチャーが大きかったと思います。
まだ実績もないスタジオで,ほかのゲーム会社と並んでゲームをリリースするわけですから,ただ面白いゲームを作るのではなく,短期間で作るというチャレンジをしました。
──「MIMESIS」はどのような国や地域で多くプレイされているのか,どんな層に人気なのかを教えてください。
アン氏:
やはり日本で一番プレイされていて,次がアメリカですね。実況動画の配信も日本が多いです。プレイヤーに関しては,Steamだと男女比の確認ができないので私たちも把握できていないのですが,ReLU Games公式YouTubeチャンネルの視聴者データを見ると10〜30代の男性が多いです。
──プレイヤー数で日本が1位になることを想定していましたか。
アン氏:
まったく予想していませんでした。しかも最初の1か月は,日本ではそんなにプレイされていなかったんです。何かのきっかけで実況配信が話題になり,切り抜きのショート動画が投稿されるようになって人気が高まりました。
──「MIMESIS」の今後について,正式リリースがいつ頃になるか,家庭用ゲーム機への展開を考えているかなどを教えてください。
アン氏:
アーリーアクセスのスタート時点で,モンスターや装備などの数,ゲームの全体的な個性がまだまだ足りないと考えていました。この1年のもっとも大きな目標は,繰り返しプレイしても面白いゲームに仕上げることだったんです。
家庭用ゲーム機への展開は私たちとしても検討していますが,もっと面白いゲームにすることができてから,具体的に公表したいと考えています。
最終的には,本当に仲間と一緒に楽しめる,楽しい時間を過ごせるゲームにしたいですね。その通過点として,この先1年くらいの計画はもちろん立てているのですが,そのとおりにやっていくよりも,プレイヤーの皆さんの反応を見て,改善の優先順位を柔軟に決めていきます。
イ氏:
DiscordやYouTube,そのほかのSNSのコメントも逐一チェックしています。今後の開発においては,皆さんのフィードバックが非常に重要です。
──まだ気の早い話かもしれませんが,次回作について今教えてもらえることがあればぜひ。
イ氏:
2026年中にもう1タイトル出そうとしているところですが,まだ何とも言えない段階です。
ここ数年,学会では「オーバーヒアリングAI」,つまり常に人間同士の会話を聞いて分析し,指示がなくとも的確なタイミングでデータや回答を示してくれるAIが注目されています。
ゲームに適用できるのはまだまだ先だと思いますが,プレイヤーを導いてくれる存在として活用できないかといったことは考えています。
──期待が高まります。ReLU Gamesをどのようなスタジオにしていきたいか,展望を教えてください。
イ氏:
私たちは,開発に至らなかったものまで含めて,これまでのAIゲームデザインをすべて記録し,それに基づいた仮説を蓄積しています。一般的なゲーム開発で用いられる書類かどうかは分かりませんが,それらには「人がこういう提案をすると,こういう反応が返ってくる」というルールが示されていると捉えています。
そういった,記録として残さないと再現できない裏側のノウハウをまとめたディープなデータベースを作りたいですね。
また現在の私たちのゲーム開発手法だと,AIとしての面白さを含めて,プレイヤーや専門家などさまざまな立場からフィードバックが寄せられると,ゲームが意図していなかった方向へ進んでしまうケースがあります。成果物としてしっかりしたゲームを作り出すというプロセスを強化していきたいと考えています。
──最後に,日本のファンに向けてメッセージをお願いします。
アン氏:
日本のプレイヤーの皆さんには多大なご協力をいただいていると捉えており,本当に感謝しています。これからも期待に応えられるよう頑張っていきます。
イ氏:
CEDEC AWARDS 2026のゲームデザイン部門優秀賞の受賞は,私にとって非常に嬉しいニュースでした。私自身はゲーム分野ではないエンジニアとして5〜6年働いてからReLU Gamesに入ったんですけれども,ゲームはずっとプレイしていたし,開発するうえでどのようなことを考えたらいいかということも勉強してきました。
もちろんCEDECのセッションも聴講して,コアとなるロジックを学んだりもしました。
それがこの度,私たちがAIを用いてユニークなチャレンジをしていることを日本市場でも認めていただけたということで,本当に感謝の気持ちでいっぱいです。今後も頑張っていきます。














































