主人公が灯台。そんな一文を目にすれば,多くの人が「何かの間違いでは」と思うかもしれない。しかし
「Keeper」(
Xbox Series X|S /
PC)は,まぎれもなく灯台を操作するアクションアドベンチャーだ。
タイトルを字面通りに受け取れば「守護者」だが,中世城郭の主塔(Keep)のイメージを重ねているのでは………などとついイメージを広げてしまうのは筆者だけではないはず。
2025年10月17日にリリースされた本作は,「Psychonauts 2」(
PC /
Xbox Series X|S /
Xbox One /
PS4)などで高い評価を受ける,Double Fine Productionsが開発した作品だ。
大きな特徴は,登場するキャラクターにセリフがないこと。それどころか,世界観や状況を説明するナレーションもなく,プレイ中は文字による手がかりが一切存在しない。にもかかわらず,画面の中からは確かに“感情”が伝わってくる。
プレイヤーが操作するのは,なぜか脚を生やして歩き始めた灯台。そして彼(彼女?)は,緑色の鳥のような相棒「トゥウィグ」と旅に出る。
ふたり(?)の関係性は推し量るしかないが,灯台が行先を照らしたり,ときにはトゥウィグが先導したりと,互いが互いを頼りにしているようにも思える。
なおこの灯台,よく見ると顔がある。いや,正確にはライトのあたりが顔のように見えてくる。ライトのすぐ上に緩やかなカーブを描く部品がふたつあり,まるで眉のようでもある。
また,壁のひび割れや塗装の色褪せが口に見えなくもない。見ているうちに「あ,今ちょっと笑った」「だいぶがんばってるな」などと感じてしまうほど,実に“表情豊か”なのだ。
操作はシンプルで,主に灯台を歩かせたり,光を照らす方向を調整したりするだけ。光を当てた先では,草が芽吹いたり,生き物が眩しそうに隠れたりと,何かが起こる。そして,さらなる発展がありそうな場所に「焦点を合わせる」と……。
このインタラクションこそが「Keeper」のコアとなる部分だ。光を照らすという行為が,単なる照明ではなく,世界の姿を変えるトリガーになっている。
トゥウィグに頼んで遠くの仕掛けを動かしたり,暗い洞窟の奥を照らして進んだりと,照らすこととアクションの組み合わせもいろいろなパターンを楽しめる。「次はどうしよう?」などと軽く考えつつ,テンポよく先に進んでいけるのだ。
洞窟,荒野,森,山道――と,舞台は変化に富んでおり,そのいずれでも絵になる風景が待ち受けている。迷うような広さではなく,移ろいゆく光景を楽しむ旅という印象だ。このあたりは,ルーカスアーツの流れを組むスタジオの作品らしいところ。
特筆しておきたいのは,なかなかほかに類を見ないグラフィックスだ。リアルタイム3Dで描かれているにもかかわらず,筆で描いたような毛先の流れを感じさせるタッチが印象的で,まるでコンセプトアートの中に入り込んだような気持ちになる。
この記事に使用している画像には,一見コンセプトアートのように見えるものも混ざっているが,じつはすべて実際のプレイ映像から切り出したものだ。
色彩と光のグラデーション,そして画面全体を包むような空気の揺らぎ,そのすべてが「灯台」というモチーフにふさわしい。
なぜなら,我々の住むこの世界とは,光とその反射によってその姿を浮かび上がらせているものだから。「照らすこと」そのものがゲームプレイだけでなく,その裏にある哲学的なテーマとして貫かれているようにも感じられる。
ちょっと硬めの話になったので,ここで少し一息。登場するヘンな生き物たちも本作の注目ポイントのひとつ。主人公自身もそうだが,人工物や化石などに数本の脚がついた,なんだかヤドカリめいたカワイイやつらなのである。
そんな“ヤドカワ”たちを眺めていると,一体彼らのどこまでが生き物で,どこからがヤドなのだろうと考えてしまうことも。宿っているのは生き物なのか,それともモノなのか……。とても気になる。
プレイを始めた直後の印象は,「のんびりした観光アドベンチャー」だった。難しすぎない謎,プレイヤーを急かさないゆるやかなテンポ。寝る前のリラックスに丁度いい,ほどよい遊び応えとでも言うべきか。
だが,最後まで遊ぶとその印象は大きく覆される。それまで見た光景が別の意味を帯び,プレイヤーの認識ががらりと反転する。これは言葉を使わないゲームだからこそ「効いてくる仕掛け」だろう。
終盤は,文字通り驚きの連続になる。そんな言葉ではまだ物足りないほどだが,ネタバレを避けるため定型句に頼らざるを得ないのが悔しいところだ。
ちなみにDouble Fine Productionsといえば,「Grim Fandango」「Broken Age」「Psychonauts 2」といったタイトルで知られる,アメリカ西海岸の老舗スタジオだ。
つねに奇抜なアイデアと遊び心を両立させることで知られるが,「Keeper」もまさにその系譜に連なる作品だった。
言葉のない世界で,プレイヤーはただ光を放ち,歩き続ける。
それは,光によって物の姿が浮かび上がるこの世界そのものにも似ている。プレイすることで完成するゲームというメディア(表現形態)もまた,光と世界の関係のように,プレイヤーによって照らされてはじめて形や意味をなすのだから。
旅の終着点でプレイヤーを待っているものは何なのか。それを確かめるだけの価値はあるので,ぜひプレイしてみてほしい。