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印刷2008/03/26 12:06

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カスタネットのおじさんは……おじさん? 第38回『ジプシー 歴史・社会・文化』→ RPG

 

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『ジプシー 歴史・社会・文化』
著者:水谷 驍
版元:平凡社
発行:2006年6月
価格:819円(税込)
ISBN:978-4582853278

 

 国産コンピュータRPGに登場する職業として「踊り子」がメジャーになったのは,やはりドラクエとFF両シリーズの影響だろうか? 「ファイナルファンタジーXI」でも比較的最近の拡張「アルタナの神兵」で,きちんと踊り子が導入されている。遍歴する芸能者は,ヨーロッパ中世風のファンタジー世界や,ゲームにおける旅の設定と相性が良いのだろう。
 そうしたファンタジーRPGにおける踊り子は,インド,トルコ,中近東風の衣装/アクセサリーをまとっていることが多い。その前提としては明らかに,ジプシーのイメージが存在する。実際,「ラグナロクオンライン」における職業「ダンサー」の転生後が「ジプシー」(Gypsy)である。では我々は,本物のジプシーに関してどれほどの知識を持ち合わせているだろうか? 専門の研究者でさえ,おぼつかないレベルというのが結論のようである。

 そんな,ジプシーをめぐる論点や研究史を整理したのが,水谷 驍氏の『ジプシー 歴史・社会・文化』だ。15世紀のヨーロッパ各地に姿を現す,「エジプトの公爵」に率いられた巡礼団としてのジプシーの姿,また,ルーマニアにおけるジプシーの奴隷化と,その解放に伴う19世紀半ばの「カルデラリの大侵攻」で,ヨーロッパ全域およびアメリカに拡散していったことなど,比較的確かな記録と経緯に依りつつ,ともすれば偏見と“オリエンタリズム”的単純化を伴う旧来のジプシー観を批判していく。

 その使用言語の系譜から,ジプシーはインド起源の社会集団であるとの説が有力であり,各地で受けた差別や奴隷化の歴史も,カースト制度下の所属身分に由来するという説まであるくらいだ。しかし著者はこれを,提起以来200年を経ても未だ仮説の域を出ない話であり,当たっていたとしても,ごく一部の集団の出自を説明できるにすぎないと見る。
 一方,ジプシーと呼ばれる集団が,トルコ/中東地域を経てヨーロッパに現れたのはほぼ確かなようで,前述の「エジプトの公爵」のエジプトは,小エジプトと呼ばれたトルコ/アナトリア半島を指す。実際ジプシーに関する記録は中欧/西欧に現れるよりも早く,12世紀のビザンチン(東ローマ)帝国で見いだせるという。
 十字軍の企てが終了したのち,オスマン帝国の伸張やヨーロッパ全域に広がる戦乱と社会的混乱の中で,東欧から中欧さらに西欧へと,枝分かれしたり一部定着したりしつつ,身過ぎ世過ぎで移動しながら暮らした貧民/流民集団の一部が,のちにジプシーと呼ばれたと,著者は捉えている。
 しかし,それを例えば民族の大移動などといった,定方向/一過性の動きと見ることには否定的だ。なぜなら西欧にまで姿を現したジプシーは,それぞれの街でどのように身を処すべきかをきちんと弁えており,一方迎え入れる街の住人側にも,対応に迷っている様子がないからである。定住民を顧客としつつ遍歴する職人集団や,巡礼の集団は,中世ヨーロッパにおいてごくありふれた存在なのであり,むしろそれが異端視/卑賤視されていく過程こそ,ジプシーの誕生過程と考えるべきなのだ。

 「タダゲージプシー」などという俗流表現ともシンクロするが,ジプシーの大きな特徴は遍歴生活である。近代に向かうヨーロッパ諸国が国民(となりつつある人々)に求めるようになったのは,キリスト教・定住生活・勤勉な賃労働であって,近世/近代初期にはこの流れに乗れなかった人々の貧窮化が,次第に深刻な社会問題になっていく。
 この事態への対処策には追放/弾圧もあれば福祉もあったわけだが,とにかく近代国家に包摂されなかった移動生活者の一部こそが,遍歴するジプシーではないのか。そうであるとすれば,それは近代市民の鏡像であって,近代国家こそがジプシーを生み出したのではないかという,ミシェル・フーコー的,再帰的結論をこの本は導いている。

 ジプシーの使用言語から見たアイデンティティの問題など,なおも謎は残るのだが,少なくとも西欧と東欧におけるジプシーのあり方の違いを,個別の経緯を超えたレベルで説明し得る点で,この説は魅力的だ。近代ヨーロッパはジプシーを,例えば文学の素材として過度にロマンティックに捉えたり,あるいはもっとポピュラーに危険な異邦人として捉えたりしてきたものの,そうした「見る側の問題」を自覚してみたというわけである。まあ,RPGへの登場は多分にイメージの産物であろうから,なかなか複雑な論点をはらんでしまうのだが。

 最後に,エジプト人という意味の言葉を由来に持つ,ジプシーなる呼称について。著者も序論で述べているとおり,現在日本ではジプシーを「ロマ」と言い換えることが定着しつつある。しかし,ロマという呼称はジプシー全体を指すものではないし,ジプシーという言葉に差別的ニュアンスがまとわりついているという考えは,すべてのジプシー集団に共通する見解ではない。むしろ,ジプシーという言葉から派生した自称を肯定的に用いる集団もある。
 「カルデラリの大侵攻」で,ヨーロッパ全域およびアメリカに進出して行ったのが主にロマニ系と呼ばれるジプシー集団であったことを,きちんと押さえつつ言葉の意味を考える必要があるだろう。ジプシーという言葉の射程に対する認識すらおぼつかない状況にあって,安易な言い換えで問題の所在を隠蔽してしまうことについてだけは,書き手として自戒したいものだ。

 

カルメンが帰るべき故郷って?

それは,世界史的な問いかけなのです。

 

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■■Guevarista(4Gamer編集部)■■
無駄な読書の量ではおそらく編集部でも最高レベルの4Gamerスタッフ。どう見てもゲームと絡みそうにない理屈っぽい本を読む一方で,文学作品には疎いため,この記事で手がけるジャンルは,ルポルタージュやドキュメントなど,もっぱら現実社会のあり方に根ざした書籍となりそうである。
  • 関連タイトル:

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    ファイナルファンタジーXI アルタナの神兵

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