インタビュー
「モンスターハンター3(トライ)」アシスタントプロデューサー小嶋慎太郎氏に聞く,「モンスターハンターフェスタ」の裏話と今後の展開
細かい部分までこだわって作られた
イベントを彩るさまざまな造形物
4Gamer:
フェスタではさまざまな造形物が展示されていました。こういった造形物って,何を作るのかは,どういったプロセスで決めていくんですか?
一番最初にフェスタで作った造形物って,大剣のタクティクスなんですね。
フェスタをやるときに展示物が欲しいねって話になったときに,やっぱり象徴する何かっていったら,でっかいモンスターを狩るにはでっかい武器が必要だねということで,実物大の大剣を作りたいなと。まずはここが原点なんですよね。あと,今回は展示してなかったですけど,けっこう大きめの翼を広げたリオレウスのフィギュアも作りました。
4Gamer:
2回目の開催の目玉となる造形物は何だったんでしょうか?
次の年やるときに,また武器とか同じ物だったら,最初に大剣を見たときほど感動はないよね,というところで,レウス装備のハンターの登場ですね。やっぱり大剣があったらハンターが欲しいよね,っていうのがもともとのスタートで。
4Gamer:
総重量は30kgくらいあると聞きましたが。
小嶋氏:
ありますね。これは重かったです。暑いし(笑)。
これもデザイナーの神戸が工房まで行って,「鱗は奥に向かうにつれて小さくなるんです,なぜならこの部位を使っているからです」とか,細かいところまですべてチェックしているんです。
4Gamer:
なるほど。そういえば,以前から展示はされていましたけど,今回のラギア装備は実際に着られるのにびっくりしました。
ラギアクルスの鎧に関しては,「3(トライ)」でデザインがかっこよかったので欲しいな,発売記念イベントもあるし,ということで作っちゃいました。
「3(トライ)」でいえばチャチャがいますけど,チャチャの着ぐるみはちょっと怖いなと思ったんで。アイルーの着ぐるみなら動いていても可愛いんですけど,チャチャは頭身的にどうしても頭がでかくなっちゃうんで,そんなのが出てきたら子供が泣くぞみたいな(笑)。なのでチャチャは,薬局とかに立っていそうな可愛らしいフィギュアにしました。
4Gamer:
そういう経緯があったんですか。そういえば,チャチャのフィギュアは2008年の東京ゲームショウとか,けっこう早い段階で展示されていましたよね。当時はいっさい説明がありませんでしたが……。
小嶋氏:
そうなんですよ。「こいつなに?」って聞かれても当時はまったく説明できませんでしたけど(笑)。
4Gamer:
そういった造形物って,製作期間はどのくらいかかるんですか?
小嶋氏:
ものによりますけど,もろもろ準備を考えていくと半年はみてますね。
4Gamer:
ちなみに,これは小嶋さんにこそお聞きしたいんですけど,レウス装備って,着るのにどれくらい時間がかかるんですか?
小嶋氏:
慣れてくると30分くらいですかね。ラギア装備は鎧の形状もあるんですけど,だいぶ着やすくなりましたね。素材を変えたり,パーツ割りもちょっと変えてみたんで,装着はだいぶ楽になりました。あと軽くなりました(笑)。
造形物はただ作るだけじゃ面白くない
“見ているだけで楽しい”ワクワクできるものに
2009年のフェスタでいうと,東京大会で展示されていたラギアクルスの頭骨標本はものすごいインパクトがありました。
小嶋氏:
ラギアクルスの頭骨は,「恐竜2009 ― 砂漠の奇跡」とのコラボが決まった時に,すぐに決めましたね。コラボする以上はなんか要りますよねって話が出てきたんで「化石でしょ」って。ついでにフィギュアも作っちゃいましたけど(笑)。
「化石作るから骨格の絵を書いて」ってデザイナーの神戸に頼んで,忙しいのに無理やり描いてもらいました。
4Gamer:
ラギアクルスの爪が大阪会場で展示されていましたよね。「こんなのも作ってたんだ!」って隠し玉にびっくりしたんですけど。
ラギアクルスの爪は大阪で初めてじゃなくて,恐竜2009で展示していたんですよ。
幕張メッセの東京大会で1日だけラギアクルスの頭骨を置かせてくださいって話で,その時に爪を恐竜2009のほうに置いたんです。そして頭骨は恐竜2009に戻っていって,大阪では爪を展示することになったんです。
あと実は,リオレウスの爪とティガレックスの爪を作ろうという話もあったんです。ラギアクルスって水中のモンスターじゃないですか。空を飛ぶモンスターのリオレウスと,地を這うモンスターのティガレックスで,それぞれ爪の形状や特徴が全部違うんですよね。並べたら面白いかなと思っていたんですけど,タイムオーバー的な(笑)。
4Gamer:
それは見てみたかったですね。造形物はただ作るだけでなく,いろいろと趣向が凝らされているんですね。
小嶋氏:
そこは気を付けています。前のこれがあるから次はこうしたほうがいいでしょう,今回はコラボあるからこうしたほうが面白いよねとか。やっぱり,ただ作るだけじゃ面白くないんですよね。
1年目と2年目のフェスタで飾っていたモンスターサイズ比較表なんかは大きい会場に向いていて,「うわっ! こいつこんなでかかったんだ」とか「こいつちっちゃ!」とか,見ているだけで楽しいものじゃないですか。
僕は子供の頃,恐竜博とかに行ったとき,足跡とか大きさ比較表みたいなのを見るだけでワクワクしましたし,子供ながらに楽しかったことって大事なので,そういうのは入れていますね。
4Gamer:
今回はモンスターサイズを動画でやっていますが,それについて苦労した点はありますか?
やっぱり,同じことやってもつまらないねっていうのが理由ですけど,表現の仕方はいろいろあるんで,「動画でどうですか?」って提案したんです。
一番苦労したのは藤岡じゃないですかね。「動画あったら面白いと思いますよね」「そやね」「ね,いま言いましたよね。じゃ,やりますか」「えっ,俺?」「ほかに誰がいるんですか」みたいなやりとりで(笑)。
モンスターの行動の差別化,陸上と水の中をどう行き来するかとか,モンスターの数が多いからサウンドの人が音を付けるのが大変だったとか,いろいろありましたね。頭を悩ませていたのは藤岡ですけど(笑)。そのおかげもあって,4分くらいありますけど面白いものになっていると思いますよ。
4Gamer:
これからのイベントなどに向けて,作りたいなという造形物ってありますか?
造形物は,誰もが知っているっていうのが大前提なんですよ。今回はアイルーの荷車をやっちゃったんで,あとどうしようかなという。もういろいろあるんですよね。肉焼き器もやっちゃったし。次のフェスタやるときになんかキャッチーなものは持ってきますけど。……狩猟船?
4Gamer:
それはいろいろと大変そうですね(笑)。
小嶋氏:
ラギアクルスの頭骨をやっちゃったんで,ないといえばないんですが,いつもなんか欲しがっちゃうんで,なにかしら出てくるとは思います。……1分の1ギィギとか作りましょうか。背中にぺとっとギィギリュックとか。これグッズになるな(笑)。
4Gamer:
そのグッズの製作について,モンハンらしさというのには気を使っていると思うんですが,グッズのアイデアはどんなときに思いつくんですか?
しっかりと座ってゲームのいろんな展開を考えたり,このタイミングでこういうのがあったらいいかな,そこからじゃあどんな素材がいけるだろうって考えたりするときもあります。
ふらりと雑貨屋さんとかアパレルとか見てたりとか,普段の生活から「これいけてるな」みたいなところから,ガッツリと現実化に持っていくときもあったりとか。パターンはいろいろありますね。
4Gamer:
最近でこれは会心の出来というグッズはどれですか?
小嶋氏:
会心の出来ですか……。今度出る武器フィギュアは,歴代の人気武器を集めてるんで,けっこうイケてますよね。あと,5周年記念のスカジャンはけっこう前から仕込んでいたネタなので,なかなかいいアイテムですね。5周年になるのは4周年のときに気づいていたんで,「ああ来年だ」と(笑)。
4Gamer:
1足すと5になるなと(笑)。
小嶋氏:
やはり,こちらが気を使わなあかんところだと思うんですよ。5周年とか。支えてくれたユーザーさんがいるから5年目を迎えることができて,ただボーっとしてなったわけじゃないですよね。
やっぱりそれに対して,こちらも面白いものを提供しなくちゃいけないとか,5周年アイテムをいろいろ考えたんですけど,ちょっと今までやっていない取り組みをしなくちゃなって。まあ5周年の“5th”って書いてあるグッズを,どんだけ出すねんちゅう話もありますけど(笑)。
4Gamer:
女性向けのカワイイ系グッズもありますけど,そちらも小嶋さんが考えているんですか?
小嶋氏:
僕が提案することもありますし,グッズの担当部署から提案されてくることもあります。スタッフと相談しつつ考えていますね。
4Gamer:
ユーザーからのリクエストで作られるアイテムはあるんですか?
小嶋氏:
アンケートを取らせていただいているんで,そこから足りない部分や伸ばしたい部分の参考にすることはありますね。あとはユーザーさんに聞くこともあります。年齢に関係なく,率直な意見って響くものがありますから。
たとえば小さい男の子がかっこいいモンスターが好きだといったら,その子が買える値段のものを用意してあげなくちゃなって考えることもありますし。僕は子供のとき「100円までならいいよ」って買ってきたものってすごい嬉しかったりしたんで,やっぱりそういうのって大切だなって。
平均的な値段のものや,ちょっとコストがかかって値段は高いけどいいものとかを用意してニーズに応えるというか,ユーザーさんが欲しいものをできるだけ提供したいなと考えていますね。グッズ開発の部署が面白い企画を立ててきて現実化してくれるので,僕も楽しみです。皆さんも楽しみにしててください。
「3(トライ)」のオンラインイベントや
「モンハン部」「モンハンラジオ」など,今後も積極的に展開
4Gamer:
小嶋さんはWebラジオの「モンハンラジオ」でパーソナリティを担当していますよね。第4回で内容がかなりアカデミックになっていましたが,今後はそちらの方向に進んでいくんでしょうか?
それはないですよ。開発の人間をもうちょっと出していきたいなって思ってるんですよ。ゲーム好きの人でゲーム業界に入りたいなって人達も聞いていると思うんで,「デザイナーってどんな仕事なの?」とか「プランナーってどんな仕事なの?」というようなところも入れつつ,モンハンの魅力について進めていけたらなと。
今回,骨の専門家の伊藤さんに来てもらって。僕もモンスターの担当はしていたんですけど進行役なんで,今回はデザイナーの神戸を出したんですが,まーしゃべるしゃべる。でも,長すぎるんで半分くらいカットしました(笑)。
4Gamer:
聞いていて盛り上がっているなと感じたんですが,それでも全体の半分くらいなんですか。
小嶋氏:
そうなんです。非常に興味深い話ではあったんですけど。「マニアックな質問してもよろしいでしょうか?」って聞く以前からマニアックな質問をしているのに気づいていないという展開でした(笑)。次の回はメインプランナーが出るんですけど,どういった展開になるか楽しみだったり不安だったりしますね(笑)。
4Gamer:
ゲーム業界に入りたい人にとってはためになるだろうなあと感じました。
小嶋氏:
今回の伊藤さんの回に関しては,ガチで骨格の話とかをしているんで,同業者も勉強になると思うんですよ。ただ,やっぱりマニアックではありますんで,たまにはいいですけど毎回アカデミックなのは避けたいですね。
4Gamer:
では,これからもモンスターハンターシリーズに関わった,いろんな部署の人が登場する可能性があると。
小嶋氏:
呼べたら呼びたいなっていうのはありますね。モンハンの曲ってどんな感じで作っているのとか,モンスターとかハンターの動きってどうやって決めているのとか,ほかにも面白いところはいっぱいあるんで。
4Gamer:
モンハンラジオは,これからもしばらく続いていくんですよね?
小嶋氏:
そうですね。どこまでやるかっていうのは考えていこうかなと思うんですけど,ありがたいことに出たいっていってくれるモンハン好きの方がまだいらっしゃるので。
4Gamer:
それはすごいですね。
タレントさんとかに限った話じゃないんですけど,いろんな人が思い思いに遊んでくれて,それでコミュニティが広がっていってるんでうれしいんですよ。今回のフェスタでも,狩王決定戦の大阪地区大会に出て3位を取った二人は,オンラインで知り合って会場で初めて会ったとか。
4Gamer:
それは「3(トライ)」だからこそ生まれたエピソードですね。
小嶋氏:
ポータブルなら面と向かって遊べる良さもあると思うんですけど,ネットだと近場にいない人とも遊べるっていうのはすごい魅力だと思います。
4Gamer:
ちなみに小嶋さんは,ふだん「3(トライ)」をどのように遊んでいるんですか?
小嶋氏:
僕は発売してからフェスタの準備とか出張が多くて,ネットワークモードではあまり遊べてないんです。基本,モガの森でまったりしています。手前味噌ですけど,今回は村のストーリー性があるんで,シングルモードがすごく楽しいですね。
僕はやっていると楽しくなって止まらなくなっちゃうんで,睡眠不足には気をつけないといけないんですけどね。ほどほどにしないと。
4Gamer:
「3(トライ)」ではどの武器や防具を使っているんですか?
小嶋氏:
ランスと大剣を使っていますね。斬りたいときには大剣で行って,水中系はランスで行ってという感じで。もともと一通り使って相手に合わせて武器を変えるタイプなんです。もうちょっと装備が揃ってきたら今度はハンマーにしようかなと。
防具はラギア装備ですね。本当は上位のクルペッコ装備が欲しいんですけど,ハンターランクが足りないので。
4Gamer:
開発の方同士で遊ぶことはあるんですか?
小嶋氏:
僕はあんまり遊びませんね。あまり遅くまでやっているのがばれたらイヤなんで(笑)。
4Gamer:
それは書いてもいいんですかね?(笑)
小嶋氏:
別に開発の人間とやらないわけではないんですけど,開発中にさんざん一緒にチェックとかしていたから,別にいいかなって。
正直,僕は基本的には大阪なんで,東京の友達とかいろんな知り合いとやるほうが面白いですよね。でも,僕がネットワークモードをプレイできないうちに,皆ハンターランクをすごい勢いで上げているんで,完全に置いてけぼりなんですけど。
4Gamer:
ちなみに,「モンスターハンター」シリーズでは,スタッフの方がハンターの声を収録しているとはよく聞くんですけど,小嶋さんの声は入っているんですか?
小嶋氏:
僕の声は「3(トライ)」だと14番かしら? 「2nd」の頃から入っていて,普段とは違う野太い声で参加してます。
4Gamer:
そうだったんですか。女性ハンターでプレイしていたんですが,これからは小嶋さんの声の男性ハンターを使わせてもらいます。
小嶋氏:
(笑)
ほかの人が自分の声でプレイしているのを聞くと,だいぶ気まずいんですよね。昔,モンスターのモーションを担当していた女性スタッフが,女性ボイスの10番の「てぇ〜い!」って声を担当していたんですけど,やたらとそれに人気が集まっていて,本人はすごい嫌がってましたね。
そのときはニヤニヤして「よかったじゃないですかー」って言っていたんですけど,いざ自分になるとちょっとやだなーと(笑)。ちなみに「上手に焼けました〜」もその人です。
そうだ,あと僕は大長老と教官とかもやりましたね。
4Gamer:
大長老様も教官も小嶋さんだったんですか! いつもお世話になっています。
小嶋氏:
いえいえ(笑)。
4Gamer:
ゲーム内の声はすべてカプコンのスタッフの方なんですか?
小嶋氏:
外の方と開発スタッフで半々くらいですね。ちなみに辻本,藤岡はやっていなくて,一瀬は録ったけどボツったんですよね。寂しそうでした(笑)。
4Gamer:
一瀬さんは,東京大会のモンハンラジオ公開収録でそのことをぼやいていましたね。
では時間もそろそろ押してきたので,最後の質問を。フェスタが終わってからは,「モンスターハンター」シリーズをどのように展開していこうと考えていますか?
ひとまずお休みがほしいです。旅に出たいです(笑)。
まあ冗談はさておき,まずは年内「3(トライ)」で面白いことができないか,考えてみたいなと思います。イベントだけじゃないですけどね。モンハン部も一捻り入れたいなとか思っていたり,まだ携帯コンテンツ側からのファンサービスみたいなものをやれることがあるなと思うんで。
人が実際に来るイベント以外でも,「3(トライ)」のネットワークならではのオンラインイベントもこれからありますので。まだ考えないといけないことがたくさんあるんですよ。
そのほかでは,もちろん「3(トライ)」でもやることはあるんですけど,個人的にほかの面白いネタもそろそろ考えていきたいな,と思ってみたりしています。
4Gamer:
おお,それは今後も楽しみですね。本日はありがとうございました。
というわけで,今回はちょっと趣向を変えて,「モンスターハンター」シリーズのゲーム本体以外の部分を中心に話を聞いてみたが,いかがだっただろうか。
今回とくに感じたのは,小嶋氏をはじめモンスターハンターチームの根底には,「お客さんを楽しませる」というエンターテイナーとしての姿勢が徹底しているんだなあということ。だからこそ,その集大成の一つである「モンスターハンターフェスタ」に,東京/大阪では9000人,名古屋では7000人ものファンが詰め掛けたのだろう。
全国5都市で開催されるモンスターハンターフェスタ’09は,10月4日に福岡大会,10月11日に北海道大会が開催される。入場無料のイベントなので,近郊に住んでいるモンスターハンターファンは,足を運んでみてはいかがだろうか。
「モンスターハンター3(トライ)」公式サイト
http://www.capcom.co.jp/monsterhunter/3/
モンスターハンターフェスタ’09特設ページ
http://www.capcom.co.jp/monsterhunter/festa09/
モンハン部(モバイルサイト)
http://mcap.jp/g/monhanbu/
(2009年9月15日収録)
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