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[GDC 2014]MMORPGが生き残る秘訣は,あきらめないこと。GDC講演を控えた「新生FFXIV」プロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏への合同インタビュー
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印刷2014/03/20 00:00

インタビュー

[GDC 2014]MMORPGが生き残る秘訣は,あきらめないこと。GDC講演を控えた「新生FFXIV」プロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏への合同インタビュー

 Game Developers Conference 2014の3日目にあたる2014年3月19日に,「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」PC / PS3 / PS4)のプロデューサー兼ディレクターである吉田直樹氏の講演が行われる。その前日となる18日に吉田氏への合同インタビューが行われたので,本稿ではその模様をお届けしよう。
 3月27日の実装を間近に控えたパッチ2.2の詳細から,吉田氏が考える“MMORPGが生き残る秘訣”まで,幅広い内容となっているので,ぜひ読んでほしい。

画像集#002のサムネイル/[GDC 2014]MMORPGが生き残る秘訣は,あきらめないこと。GDC講演を控えた「新生FFXIV」プロデューサー兼ディレクター吉田直樹氏への合同インタビュー

「ファイナルファンタジーXIV:新生エオルゼア」公式サイト



──本日はよろしくお願いします。吉田さんがGDCに参加されるのは,今回が初めてでしょうか。

吉田直樹氏(以下,吉田氏):
 デベロッパとしていろいろなセッションを見て,ワークショップに参加して……というのはもう5回くらい経験があります。FFXIVに関わってからは,忙しくて参加できなくなってました。だからスクウェア・エニックスの中では一番,GDCに来てるんじゃないかな。

──久々に参加されてどうですか。

吉田氏:
 本番は明日から()ですが,世界中から真剣にゲームを作っている人がやってきて,成功も失敗も赤裸々に語って,もっといいゲームを作ろうとしている――というのを見るだけでも価値がありますね。自分も初めて参加したときに衝撃を受けたので,周りの人にも「行った方がいいよ」と勧めています。

※インタビューはGDC2日目の現地時間2014年3月18日に行われた。GDC会期の前半はチュートリアルやワークショップといったセッションが多く,著名なクリエイターの登壇は後半に組み込まれることが多い

──今回FFXIVのチームから参加している人は何人くらいですか。

吉田氏:
 僕一人です。

──ちょっと意外ですね。

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吉田氏:
 実は,来年のGDCをFFXIVで埋め尽くそうと思っていたんですよ。いろいろなことを経験したタイトルですから,プロデュース,マネージメント,サウンド,グラフィックス……といった感じで。それに現在中国でのローンチも控えていますから,来年はその成績も持って……と。
 ですが,GDC側から「話してもらえないか」という依頼が来て,光栄な話ですから,僕のセッションだけ今年に,ということですね。

──そのセッションで,吉田さんがFFXIVを引き継いでからの約3年の経験を1時間で話されるわけですが,吉田さんがこの3年で一番重視してきたことは何でしょうか。

吉田氏:
 状況を正直にお話しして,やることを1個1個約束して,1個1個こなすことですね。「PS3版は必ず出します」「PC版と同時に出します」「PS3のパワーを使い切った究極のものを出します」といった約束を1番大事にしてきたので,ローンチできたときは,約束を守れたということに一番ほっとしました。
 たくさんのプレイヤーが集まってくださっていることはもちろん嬉しいですが,MMORPGとしてはスタートしたばかりですし,上はいくらでもいます。まだまだシェアは広げたいですし,コンテンツにも足りない部分はあるし……で,「よかったね!」みたいな雰囲気はなくなっちゃいましたね。
 
──とりあえず離陸はしたけど,飛行はこれからという感じですか。

吉田氏:
 そうですね。即着水しなくて良かったなと(笑)。
 
──PS4版のβテストが行われていますが,現時点までのプレイヤーの反応はいかがでしょうか。

吉田氏:
 ちょっと意外だったのは,解像度がフルHDになったことに,喜ばしいという声はもちろんありましたが,一方でUIなどが小さくなって見づらくなったという意見もあったことですね。

──ああ。なるほど。

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吉田氏:
 「PS3版と同じにしてくれ」という声が多く寄せられて,解像度が高くなるというのはいいことばかりでもないんだ,慣れってすごく大きいんだなと思いました。4月4日にβ2をオープンしますが,そこにPS3版と同じように見えるサイズのUIを実装しています。標準をこちらにして,小さくしたければできる,という仕様です。
 それも,UIのグラフィックスを単純に拡大するとボケてしまうので,ギリギリの境界線を探るといったような作業がありましたし,ゲームパッドでプレイするときのクロスメインコマンドについても別に実装しています。

──それは嬉しいですね。一方でPC版のプレイヤーであれば,「(PS4版でも)画面を広く使いたい」という人もいるでしょう。

吉田氏:
 PS4版はコンシューマ機向けという性格をより強めて,初期状態ではUIを大きくし,上級者は自分でカスタマイズしていってくださいという感じですね。β2でまたフィードバックをしていただければ。発売までもう少し粘ります(笑)。
 
──発売日の4月14日まで,そう時間もないですが。

吉田氏:
 マスターアップはしているので,当日のパッチで対応します。

──なるほど。PS4版のプレイヤーは,やはりPS3版から移行してきた人が多いのでしょうか。

吉田氏:
 いえ,そんなこともないですよ。そういえばPS4のSHARE機能での配信を皆川(リードUIアーティストの皆川裕史氏)と観ていたら,目の前にクエストがあるのに,プレイヤーが戻ってしまって「え,そっちのに行くの?」みたいなことがありましたし。
 どうもクエストを受けまくるんじゃなくて,ToDoリストに入っているものを,まずはこなさなくちゃいけない,という意識があるみたいだと分かりました。

──それはたしかにPS4で初めて触れた人ですね(笑)。

吉田氏:
 とはいえ,クエストに番号を付けたり,進むべき方向の道が光るようなガイドを付けたりするのもなあ……とか,次に新しい土地を実装するようなときのために,いろいろと考えさせられましたね。でもそういう動きがとても新鮮で,プレイヤーの皆さんも楽しそうに遊んでいたので,新たなモチベーションになりました。

──そういった感じで,PS4で初めてFFXIVに触れるプレイヤーも多くなってくると思うのですが,現時点で旧FFXIVからのプレイヤーと,新生FFXIVからのプレイヤーで,反応に違いはありますか。

吉田氏:
 旧FFXIVで全クラス全ジョブカンストしているようなプレイヤーは「もう少しコンテンツがほしい」という反応をされていると思います。それくらいのプレイヤーになると,新生で用意されているものを飛び越してしまっている部分もあるので。パッチ2.2では,そういった人達向けに,じっくり遊べるものを用意しています。

──PS4版をLogitech(日本ではロジクール)の「G13 Advanced Gameboard」や「G600 MMO Gaming Mouse」といった周辺機器に対応させる予定はあるでしょうか。

吉田氏:
 そこはSCEさん次第ということになりますね。専用のドライバが必要なものはNGだと言われています。なので,メーカーさんや,SCEさんなどに皆さんの声を届けていただければ。これからPS4専用の製品みたいなものも出てくるんじゃないかと思っています。

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──以前,吉田さんから「FFXIVは日本だけではいけない,北米を取ったうえでグローバルも取る」というお話を聞きましたが,これまでの北米のプレイヤーの反応はいかがですか。

吉田氏:
 フィードバックに関しては日本とそれほどの違いはないというか,むしろ日本のほうがFFXIVに慣れていないんじゃないか,という感触があります。
 北米ではやはり「World of Warcraft」(以下,WoW)の影響が強いです。WoWで当然のことはFFXIVでもほとんどできるので,そこに関しての突っ込みというのはあまりありません。
 
──考え方がWoWベースなんですね。

吉田氏:
 WoWを知っていると,初期のころにプレイヤーが「何でこうなっているの」と感じていたかもしれない部分も,長く続けているうちに理解できてくるんですよ。逆にWoWを知らない日本のプレイヤーは,そこに疑問を持ち続けてしまいます。反応で違いがあるのはそこじゃないでしょうか。
 
──なるほど。

吉田氏:
 もう1つ付け加えると,北米のプレイヤーは以前よりもサブスクリプションモデル(月額課金制)に対して,何と言ったらいいか……現実主義的な見方が強くなっている気がします。

──現実主義,ですか。

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吉田氏:
 Free to Playというモデルがないときはそのまま受け入れていたと思うんですが,Free to Playが一般化してしまった今では,「来月遊ぶ“かもしれない”もの」にお金を払うサブスクリプションモデルに抵抗があるようで,「今月払える分だけ払いたい」「遊んだ分だけ払いたい」という意見が多くなっている気がします。ストレートに「このアイテム売ってくれ」と言ってくるプレイヤーが多いのも北米ですね。
 
──いま話に出た「払った分だけプレイ可能」とか「遊んだ分を後払い」といったプランの追加はできないのでしょうか。

吉田氏:
 難しいんですね。とくに後払いは踏み倒される危険性が(笑)。現状,クレジットカードですらそういうリスクはありますから。もちろんいろいろな支払い方法を用意することは重視していて,Steamウォレットで支払いが可能になっているのもその一環です。

──PS4の普及ペースなどを考えると,今後ますます北米のプレイヤーが増えそうですよね。北米と日本のプレイヤーのニーズに違いがあるときなどは,どのように対応するのでしょうか。

吉田氏:
 アップデートの内容は,プレイヤーの数から単純に導き出すものではないので。そもそもニーズの違いにしても,いまちょっと思いつかないくらいなんですが,何か日米で違うものってありますか。

──例えば「こどもの日」とか「ひなまつり」は,北米では馴染みがないのに,FFXIVではイベントがありますよね。逆に「セントパトリックスデー」のような北米の祝日は日本でそれほど知られていないのでイベントがないと思うのですが,北米のプレイヤーが大半を占めたとき「何でセントパトリックスデーのイベントがないんだ」みたいなことにならないかなと。

吉田氏:
 北米のプレイヤーは,「日本で作っているゲーム」ということに敬意を払ってくれているので,「イベントが自分の国と関係ない」とかいう意見はほとんどないですよ。もちろんグローバルに展開しているタイトルなので,イースターとかハロウィンなどのイベントは開催していますし,ある国で祝日だけど,別の国では不幸な日として位置づけられているものは,日付をずらすなど配慮しているので,そういったクレームはほとんどないですね。
 
──Free to Playとサブスクリプションについて,GDCのセッションでも話されると思うのですが,今後もサブスクリプション1本という方針に変わりはないのでしょうか。

吉田氏:
 どちらが正しいというのではないんですが,2005年ごろから,いわゆる大型のMMORPGは,ほぼすべてサブスクリプションで始めているんです。それはなぜかというと,瞬間的な収入よりも,安定した収入を選んで,安定した開発チームを持ちたいからだと思うんです。結局のところ,長く遊んでもらえるかどうかは,アップデートで追加されるコンテンツが面白いかどうかですから。
 
──確かにFree to Playなら,ある月の収入ではサブスクリプションを上回るかもしれませんが,安定はしないですね。

吉田氏:
 Free to Playになると,基本プレイ無料ですからコンテンツではお金が取れないんですよ。お金をいただくのはアイテムや時間短縮といったところになります。
 そうなると,コンテンツの開発をしたいのに,アイテムや,アイテムを売るお店を作らなくてはいけない。でもそれってゲームの面白さには直接関係しない部分なので,何のために開発をしているのか……ということになります。

──それは辛いですね……。

吉田氏:
 一方で,じっくりプレイする大作MMORPGではなく,気軽にプレイが始められて,すぐにハイボルテージの体験が味わえて,ちょっと遊んだら終了というタイトルを好む人もいます。そういったタイトルにはFree to Playが合うと思います。PvPがメインの「League of Legends」とか「World of Tanks」などは,まさにそうですよね。
 ビジネスモデルは,どんな運営をするか,プレイヤーにどんな体験を与えたいかなどによってチョイスするべきものなんです。そして,ゲームが面白くなければ,どのモデルを選択しようが,プレイヤーはお金を払ってくれません。

──なるほど,では先ほどの話に出た北米のプレイヤーからの「アイテム売って」という声にはどのように答えますか。

吉田氏:
 そのアイテムがゲームバランスに影響を与えないもので,ARPU(ユーザー1人あたりの課金額)を上げるためではなく,プレイヤーのニーズに対して届けられるものであれば,売ると思います。

──キャラクターの見た目を変える「幻想薬」は,その条件に合うアイテムだと思いますが……。

吉田氏:
 はい。なので販売してもいいと思います。

──そうすると,今後はハイブリッドモデルになるということですか。

吉田氏:
 そうですね。リテイナーの追加とともに,有料でのサービス提供を行います。

──パッチ2.2の内容について,かなり明らかにされていますが,プレイヤーの反応はいかがでしょうか。

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吉田氏:
 装備の見た目を変える「ミラージュプリズム」について,いわゆる青ネームの武器は投影できないという話がどこからか出てきているんですよ。そんなことはないんですが,某掲示板に「吉田が言ってた」とか書かれてて(笑)。

──(笑)。

吉田氏:
 ほかにも「投影した武器はなくなってしまうんですか」という意見もあって。こちらもなくならないですが,なぜか皆さん厳しめに考えているみたいです。あとは……ちらっと話した「ゾディアックウェポン」に対する反応が多いですね。

──あれは何なんですか。

吉田氏:
 レリック(武器の)強化ですが,かなりハードです。コンテンツ的にハードなのではなくて,時間的にですが。

──つまり,コツコツやればたどり着けると。

吉田氏:
 そうですね。ただ,パッチ2.2だけで終わるものではなくて,その後も続いて,完成まで数パッチかかります。昔,僕がエクスカリバーと呼んでいたシステムがこれです。
 これまで最高レベルの武器には,大迷宮バハムートのような最難関コンテンツを突破して得られるものと,アラガントームストーンを集めて得られるものがありましたが,それにもう1つ軸が加わるということですね。

──パッチ2.2以降でもアイテムレベルの引き上げはあると思うのですが,現時点で95,防具は90が最大レベルですよね。周りにいるプレイヤーに聞くと,レベルのインフレが気になるというのと,(アラガントームストーンの)哲学がいっぱい集まるけど無駄ではないか,という意見が多いようです。

吉田氏:
 数日後にプロデューサーレターライブがあるので答えづらいですが,哲学は撤廃になるので,神話と交換してください。ダークライト装備は普通にダンジョンドロップになります。

──おお,そうなんですか。

吉田氏:
 インスタンスダンジョンのハイレベルで取れるのがアイテムレベル75のダークライト装備,80はクリスタルタワー装備,90は神話装備……となっていきます。

──そのままスライドする感じですね。

吉田氏:
 今までの日本のプレイヤーが持っている成長のイメージは,「レベルキャップが上がる」という感じだと思います。ですが,これはレベルのインフレーションなんですよ。僕らは,アイテムが成長することがメインジョブの成長だと考えています。
 レベルキャップの開放をしすぎるとオーバーパワーになって,最後はバランスが取れなくなってしまいます。なので,その開放のタイミングは拡張パックのようにフィールドが追加されるなどして,成長させる要素が整ったときだと思っています。

パッチ2.2は3月27日実装
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――最近,SOE(Sony Online Entertainment)の社長が「コンテンツ主導型のMMORPGは持続不可能だ」とコメント()したことが話題になりました。これは,ユーザークリエイトコンテンツを意識した発言だと思いますが,それに対して和田会長がFacebookで「いまの段階でユーザーに委ねるのは難しい」とコメントしていました。吉田さん自身はどのような見解を持っているでしょうか。

http://smedsblog.com/2014/02/11/the-sandbox-mmo/(リンク先は英語)

吉田氏:
 そもそも,その2人がやり合っているのが面白くて(苦笑)。
 ただ現場としては,コンテンツを作るのはそんなに単純な話ではないですし,極端な意見は正しくないと思っています。すべてがコンテンツ主導型じゃなく,すべてをプレイヤーに委ねるわけでもなくて,どちらもがあっていいんじゃないでしょうか。
 それに,持続した成功例としてWoWがあります。僕は,WoWはギブアップしなかったからこそ成功したんだと思っているんですよ。9年目を迎えた今でこそ化け物みたいなタイトルになっていますが,スタート時からそうだったわけじゃなくて,「大丈夫かBlizzard」と思ったくらいのバランスでした。「Blizzardの開発者こそが最高のゲーマー」と威張っていたのが,プレイヤーの声を聞くようになったり,イギリスの新聞にディスクを付けたりと,いろいろな努力を積み重ねてきたんです。

──確かに最初から爆発的にヒットしたわけではなかったですね。

吉田氏:
 メディアさんもプレイヤーさんも,FFXIVとWoWを戦わせていますが,WoWも「EverQuest」と比較されて,「足りない」「バランスが悪い」と言われた時期がありました。それでもあきらめずにコンテンツを作り続けたんです。僕はこれこそがMMORPGが生き残る最大にして最後のポイントだと思っています。
 成功例がまったくないなら別ですが,ある以上,そこに向かって頑張るほうが好きですね。

──吉田さんのロールモデルはWoWなんですね。

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吉田氏:
 僕は次世代のMMORPGを作るつもりはなくて,現世代最後のMMORPGを作ろうとしています。旧FFXIVを引き継いでなんとかしようと頑張ってきた開発チームですから,誰も観たこともないようなMMORPGを作るのは厳しいです。それなら日本人が安心してプレイできるMMORPGとして,WoWを追いかけてみたい。
 または,FFXIVを開発しているうちに,いつのまにか次世代MMORPGを作っていた,というのがいいですね。

──ありがとうございます。

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