インタビュー
「ハースストーン」の開発ポリシーや今後のeスポーツ展開について,それぞれのキーマンに話を聞いた
本選手権の会期中,ハースストーンの開発者と,eスポーツ関係の担当者にインタビューをする機会を得た。前者では拡張パック「爆誕!悪党同盟」や「ドラゴン年」の展開について,後者では「グランドマスターズ」や「スペシャリスト形式」の導入経緯などを中心に話を聞いたので,本作のプレイヤーは一読してほしい。
カード環境が激変するなかでの世界選手権
4Gamer:
「爆誕!悪党同盟」がリリースされてから2週間が経過しましたが,現在のゲームバランスに対する感想はいかがですか。
リリース直後は爆弾ウォリアーが猛威を振るいましたが,その数日後にテンポローグやトークンドルイドが台頭するなど,いろいろなデッキが登場しています。また,多くのプレイヤーが実験的なビルドを模索しており,こういった状況に対し開発者として手応えを得ています。
4Gamer:
AoE(全体攻撃)が少なくなり,ミニオンで戦うことが増えた印象を受けますが,これは開発チームにとっての想定通りですか。
アヤラ氏:
ミニオンで戦わせる機会が増えるのは,個人的には良い傾向だと考えています。
ただ,その要因は悪党同盟の実装というより,スタンダード・ローテーションの影響が大きいでしょうね。悪党同盟が追加された一方で,3つの拡張パックがスタンダードから外れましたから。それらのカードのなかに,「心霊絶叫」など強力なAoEがいくつか含まれていたので,そういった印象を受けるのだと思います。
4Gamer:
今後のカードバランス調整について,現時点で話せることはありますか。
アヤラ氏:
拡張パックのリリース直後は環境がめまぐるしく変化します。仮に強力なアーキタイプが台頭しても,プレイヤー間でメタが生み出されることもあるでしょう。今回の世界選手権でトッププレイヤーが採用したデッキも,今後の環境に影響を及ぼすかもしれません。
このようにしてメタが自然に回ることは,とても良いことです。同時に,こういった自然な流れがある中で,安易にゲームバランスを調整するのは極力避けるべきだと考えています。もちろん,本当にカードバランスに問題があるときは調整を行いますが,少なくとも現時点ではその判断を下せないですね。
4Gamer:
それにしても,環境がめまぐるしく変化するなかで開催される世界選手権は,観戦する側は見応えがあっても,出場選手は大変だろうなと思います。
アヤラ氏:
ええ,確かに(笑)。しかし,デッキ提出日などのプレイ環境は全員同じです。また,さまざまな制約があるなかで実力を出し切る能力も,トッププレイヤーに求められる素質のひとつだと思うんですよ。
データよりもプレイ体験を重視
4Gamer:
話は変わりますが,HSReplayに代表されるデータ分析を行う外部ツールやサイトに関する質問です。データが赤裸々になることで,ゲームの面白さを削ぐという意見もあると思いますが,開発チームはどのように受け止めていますか。
アヤラ氏:
確かに開発チーム内でも,おっしゃる懸念が挙がったことはありまね。ただ,HSReplayもハースストーンの情報交換を行うひとつのコミュニティです。コミュニケーションを行う場があること自体は,前向きに受け止めています。
4Gamer:
HSReplayを利用するプレイヤーと,そうでないプレイヤーとの間で,情報量の格差が生じるという見方に対してはどうでしょうか。
アヤラ氏:
デッキ構築やマリガンなどの参考用にデータを活用したい人にとって,HSReplayは便利なサービスでしょう。しかし,それらに頼らず遊びたいという人だっているはずです。
開発チームはHSReplayを推奨しているわけではなく,使う使わないの判断は個人の自由です。それが格差だとは考えていませんね。
データは,あくまでも“データ”にすぎません。そして私たちは,ゲームでもっとも大切なのは“楽しさ”だと考えています。
たとえば,ゲームの楽しさを数値で表すことはできないですよね。実際に開発チーム内でカードバランスを考えるときも,データよりもプレイ体験を重視することが多いですよ。
4Gamer:
プレイ体験,ですか。そういえば海外の配信や大型大会に接すると,英語版のカード名称やフレーバーテキストに普段から触れられたらいいのにと思います。たとえば,ゲーム中にCtrlキーを押すことで一時的に表示言語を切り替える機能があれば,ターンの待ち時間などに時折チェックすることで,国外の配信などを楽しみやすくなると思うのですが。
トンプソン氏:
それはユニークなアイデアですね! この場で実装するとは断言できませんが,英語圏の我々からは生まれないアイデアだと思うので,ぜひ参考にさせていただきます。私も,その機能を使って日本語を勉強してみたいですね(笑)。
ドラゴン年の1年を通じて繰り広げられるストーリー
4Gamer:
悪党同盟のリリースと合わせてドラゴン年が開幕しましたが,この1年におけるビジョンを聞かせてください。
トンプソン氏:
これまでは,ひとつの拡張パックでストーリーが完結していました。しかしドラゴン年は,その年に登場する3本の拡張パックを通じて,ストーリーが綿密に結びついています。
ドラゴン年の第1弾として登場する「爆誕!悪党同盟」では,ラファームらの悪党同盟による魔法都市ダラランの襲撃がメインテーマとなっています。今後,このテーマにちなんだ新たなPvEコンテンツも実装予定です。
しかし,それでストーリーが終わるわけではありません。続いて登場する第2,第3の拡張パックもダラランを舞台としており,新たなキャラクターも登場するなか,さまざまなストーリーが展開します。
4Gamer:
これはネタバレではないと思うので聞きますが,「Warcraft III」のキャンペーンなどで描かれるWarcraftの史実では,アントニダスやダエリン・プラウドムーア(ジェイナの父親)らが,ダラランの守護者として活躍しますよね。
ええ。彼らは“キリン・トア”と呼ばれる,ダラランに居を構える組織のメンバーです。これからリリースされる拡張パックなので詳細はまだ明かせませんが,悪党同盟にとって,ダラランの攻略は一筋縄にはいかないと思いますよ(笑)。
4Gamer:
もっというと,アーサスが召還したデーモンのアーキモンドにより,ダラランは壊滅します。これらのWarcraftの史実は,ハースストーンにどこまで影響を及ぼしているのでしょうか。
トンプソン氏:
確かにそのとおりですが,Warcraftの史実と同じストーリーがハースストーンで繰り広げられるとは限りません。
ハースストーンはWarcraftのパラレルワールドといいますか,if物やジョークなどを交えた自由な発想で展開しています。私たちがかつて,メディヴの塔をディスコ会場にしたことをお忘れなく(笑)。
4Gamer:
ハースストーンの拡張パックは,シリアスとギャグの間を大胆に行き来していますが,これはどういった方針で決めているのですか。
トンプソン氏:
たとえば「ワン・ナイト・イン・カラザン」は,誰が見てもジョークだと分かるじゃないですか。ハースストーンでは,ジョークやオマージュであることが分かるようにしていれば,史実や常識にとらわれないアレンジを積極的に行っています。また,Warcraftシリーズのファンなら,そのギャップも醍醐味のひとつになるでしょう。
4Gamer:
日本では「World of Warcraft」がローカライズされていないこともあり,WarcraftのIPとしての認知度が,他国と比べてどうしても落ちます。このIPが日本で広まれば,ハースストーンはもっと盛り上がるのに……,と私はよく考えてしまいます。
トンプソン氏:
おっしゃることはよく分かります。Blizzardという会社は担当者によって話せる範囲が分けられており,ハースストーンの管轄である私は,Warcraftシリーズの展開に関して公式に話すことができません。もちろん,そういったフィードバックがあることは真摯に受け止めていますよ。
より多くのプレイヤーにeスポーツの魅力を届けるべく,スペシャリスト形式を導入
4Gamer:
ブレイスウェイトさんはハースストーンのeスポーツを担当されているとのことですが,今回のHCT世界選手権を振り返られて感想はいかがですか。
これまでの世界大会では,拡張パックのリリース後,ゲーム内の環境が固まってから開催していました。しかし今回のHCT世界選手権は,あえてドラゴン年の開始直後に開催しています。環境が固まっていないなかデッキを構築するのも,トッププレイヤーとして求められる能力の一部だと考えたからです。
蓋を開けてみると,これが大成功でした。今回のHCT世界選手権を制する選手は,プレイングだけでなくデッキ構築でも世界一を誇れるでしょう。
4Gamer:
ハースストーンのeスポーツにおけるレギュレーションも,ドラゴン年の開幕に伴い大きく変わります。これらの変更を行った経緯と,現在のeスポーツの方針をあらためて聞かせてください。
ブレイスウェイト氏:
2018年におけるハースストーンのeスポーツ展開を振り返ると,多くのチャレンジを行いました。ツアーストップ,プレイオフ,世界選手権,大学対抗戦など,毎週なにかしらの形でイベントが行われていたくらいです。そして,あまりにも多くのイベントが開催されたことで,何がもっとも重要なのかが,よく分からなくなっていました。
また,コンクエスト形式のルールにもいくつかの問題がありました。たとえば4〜5種類のヒーローやアーキタイプに熟達せねばならず,普段は1〜2種類のデッキでランク戦を楽しむような人に,ハードルを感じさせていたんです。
4Gamer:
観戦するだけなら面白いですけど,いざコンクエスト形式に参加するとなると,ちょっと躊躇してしまいますよね。
ブレイスウェイト氏:
ハースストーンが今後もeスポーツとして盛り上がり続けるには,競技プレイヤーの人口を増やすことが必要不可欠です。そのためには,参加するためのハードルを極力低くする必要がありました。その点を踏まえて,1種類のデッキ+派生デッキで挑むスペシャリスト形式を考えたんです。
4Gamer:
すでにラスベガスで,スペシャリスト形式によるマスターズ予選が始まっていますが,手応えはいかがですか。
ブレイスウェイト氏:
多くの人にハースストーンのeスポーツに触れてほしいというコンセプトは,早くも結実しつつあります。すでに240回のオンライントーナメントが行われており,その大半で募集枠が完全に埋まっています。登録者数は10万人に達する勢いで,この機会に初めてハースストーンのeスポーツに触れたという人も多いです。
今後予定されているラスベガスのマスターズでは,350人のプレイヤーが一堂に会してしのぎを削ります。今からとても楽しみですよ。
4Gamer:
とはいえ,スペシャリスト形式にも気になる点があります。たとえば,ヒーロー間で決定的な能力差が生じ,サイドボードを変更する程度では太刀打ちできないと萎えてしまいますよね。
ブレイスウェイト氏:
確かにその懸念はあります。今度のラスベガスのイベントの開催後,ヒーロー間のバランスやデッキの多様性が実現できているか,再調査を行います。その結果やプレイヤーのフィードバック次第では,サイドボードで変更するカードの枚数など,スペシャリスト形式のルールを調整する可能性もあります。
4Gamer:
今後リリースされる拡張パックにより,ゲームバランスがどうなるのか,誰にも分かりません。にもかかわらず,1ヒーローに絞るレギュレーションを採用するのは,開発チームに対する絶大な信頼があるのだろうなと思いました。
ブレイスウェイト氏:
まったくそのとおりです。ベン・トンプソンやディーン・アヤラたちの開発チームは,拡張パックを出すたびに新たな試みを盛り込んでいます。それでいて,デッキの多様性やバランスが保たれており,こういったタイトルのeスポーツを担当していることに誇りを持っています。
グランドマスターズでは競技とアピールのバランスを模索
4Gamer:
続いて,マスターズ形式の最上位ティアである,グランドマスターズに関する質問です。出場選手の選定条件をあらためて確認させてください。
ブレイスウェイト氏:
リージョンによって16名の選手枠があります。そして「生涯獲得賞金総額」と「2018年におけるHCTポイントの獲得数」の2つの条件で,14枠が占められます。そして残りの2枠は,人気ストリーマーなどプレイヤーへの影響力が高いプレイヤーを,“Legend Spot”枠として用意しています。
4Gamer:
各選手の実績を見比べると,国によって若干のばらつきのようなものを感じます。国によって出場枠の数を最初に決めているのが理由なのかと憶測しているのですが。
ブレイスウェイト氏:
そう感じる人がいるのも無理のないことだと思います。個人的には,16枠ではなく32枠を用意して,実績のある選手を全員選びたかったのです。しかし,仮に32枠を用意したとして,自分たちが目指すビジョンを実現できるのかと考えたとき,解決策が見つけられなかったのです。
4Gamer:
先ほどおっしゃった,多くの人にeスポーツに参加してもらうことのほかに,どういったヴィジョンがあるのでしょうか。
ブレイスウェイト氏:
グランドマスターズの出場選手には,大会などの競技シーンで活躍するだけではなく,その国を代表するようなスター選手になってもらいたいと考えています。たとえば配信に出演したり,関連サイトに登場したりと,いろいろな活動を通じてハースストーンの魅力を広く伝えていってほしいんです。そのためにふさわしい振る舞い方などを,選手に対してレクチャーするプログラムなども実施していきます。
4Gamer:
ハースストーンのグランドマスターズがショウではなくeスポーツを謳うのであれば,競技に徹してほしいという声もあるかと思いますが。
ブレイスウェイト氏:
その点は把握しており,現在は解決策のひとつとして,グランドマスターズの下位2選手に対しての入れ替えを検討します。また,グランドマスターズのレギュレーションそのものも現在の仕様で確定しておらず,状況を見ながら調整を行いますよ。
4Gamer:
期待しています。本日はありがとうございました。
「ハースストーン」公式サイト
キーワード
(C)2017 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.
(C)2017 BLIZZARD ENTERTAINMENT, INC.