インタビュー
今年,新タイトルを続々投入するカプコンのオンラインゲーム事業戦略とは? COGのキーパーソンである小野義徳氏と杉浦一徳氏にインタビュー
COGと言えば,長らく「モンスターハンター フロンティアG」(PC / PS3 / Xbox 360 / Wii U / PS Vita)を主軸に据えた展開を続けてきた印象だが,ここに来て新たなタイトルを続々投入する理由や狙いは何だろうか。
今回,4GamerではCOGのキーパーソンであるカプコンの執行役員 CS第二開発統括 小野義徳氏と,CS第二開発統括 第二開発部 部長 杉浦一徳氏にインタビューを実施し,2015年のオンラインゲーム事業戦略やモバイル分野への展開,さらにその先に見据えているものについて話を聞いてみた。
カプコンオンラインゲームズ(COG)公式サイト
2015年はカプコンが培ってきた
オンラインゲームノウハウの集大成に
4Gamer:
本日はよろしくお願いします。
今回は,2015年におけるCOGの戦略や狙いといったところをお聞きしたいと思っていますが,まずは2014年を振り返っていただけますか。
2014年は「だいぶ走ったな」という印象です。なかでも,2013年から継続してきた「モンスターハンター フロンティアG」(以下,「MHF-G」)のマルチ展開が大変でした。
さらに「モンスターハンター メゼポルタ開拓記」(以下,「メゼポルタ開拓記」)のサービスインや,モバイルゲームのリリースもあり,2014年を総括すると,COGとして展開できそうな分野におおむね進出できたと思います。その中で良いところも悪いところも吸収できましたので,2015年はもうちょっとタイトルの幅を広げていく段階に入ります。
4Gamer:
2015年は,具体的にどのようなタイトルを展開していくのでしょうか。
小野氏:
「MHF-G」は,主軸タイトルとして引き続きアップデートを重ねていきます。また,1月末に発表した「Dragon's Dogma Online」が非常にいい仕上がりを見せており,開発チームと運営チームとの歯車も噛み合ってきていますので,年内にリリースできそうです。「MHF-G」と並ぶCOGのヘヴィオンラインゲームの看板になってほしいタイトルですね。
4Gamer:
御社が「Dragon's Dogma Online」に相当期待を寄せていることがうかがえます。
小野氏:
ええ。ただ,2012年にリリースした「Dragon's Dogma」(PS3 / Xbox 360)はオンライン要素があると言っても,基本的にはシングルプレイ中心のタイトルでした。その世界観が好きというファンの皆さんもたくさんいらっしゃいます。そうした状況の中で,いかにしてオンライン要素を融合させるのか,「Dragon's Dogma」ファンのフォローをどうするのかといった課題が生じています。
つまり,2015年は単にタイトルラインナップを増やすだけでなく,どうお客様と向き合っていくのか。常にキャッチアップしながら,その結果をきちんとお客様に返していくことが必要になると考えています。
4Gamer:
なるほど。
小野氏:
「Dragon's Dogma」はコンシューマ機向けにリリースしましたが,お客様をオンラインゲームに引き込める可能性の高いIPです。その一方で,我々もこれまでに蓄積した経験とノウハウから,よりお客様の期待に添うサービスを提供できるはずだと。したがって,2015年は実際に展開し,その手応えを確かめたいと思っています。
我々は「オンラインゲームは人と人とをつなげてナンボ。そのつながりを広げてナンボ」だと考えています。それを実践するときが来たという感じですね。
4Gamer:
それではモバイル分野はいかがでしょうか。COGでは,2013年からスマートフォン向けのゲームに注力していますね。
小野氏:
モバイルに関しては「どこまで本気でゲーム作りができるのか」という段階に入っています。その意味では,「モンスターハンター エクスプロア」(以下,「エクスプロア」)が一つの試金石になるでしょうね。COGを含めてカプコンがこれまでにリリースしてきたモバイルゲームのダメだったところに再挑戦できるのではないかと。
とはいえ,我々は研究のために「エクスプロア」を作っているわけではありません。これまでのカプコンのモバイルゲームの良かった点を生かし,かつ悪かった点を改善することで,「カプコンが作るスマートフォン向けのゲームとは」という問いに答えを出したいですね。
4Gamer:
PCブラウザゲームの展開についてもお願いします。
小野氏:
おかげさまで「鬼武者Soul」(ブラウザ / PS3 / iOS / Android)は継続して好調ですし,先ほどお話したように「メゼポルタ開拓記」のサービスもスタートしました。我々としては,一定の成果が出ている状況で,お客様のキャパシティ(受容力)に対しても一つの基準が見えてきました。2015年は,それらをもっとサービスに生かさなくてはならないと考えています。
その一方で,PCだけでなくモバイル向けにもリリースする「ブレス オブ ファイア 6 白竜の守護者たち」(以下,「ブレス オブ ファイア 6」)をどういった位置付けにするのかという課題もあります。PC向けブラウザゲームとモバイルゲーム,双方を展開してきた中で培った経験とノウハウをミックスさせて,いかに昇華できるのかという挑戦になりますね。
4Gamer:
COGにとって,2015年はこれまでの集大成になりそうですね。
小野氏:
daletto(ダレット)時代を含めると,我々がオンラインゲームを扱い始めて8年以上になりますが,過去の経験や失敗を踏まえて,もう一つ上を目指したリスタートの1年になるのではないでしょうか。その軸となるのが「Dragon's Dogma Online」であり,「エクスプロア」であり,「ブレス オブ ファイア 6」であるということです。
COGのタイトルはすべて社内開発に移行
カプコンならではのゲームを提供する
4Gamer:
杉浦さんには,2012年にソーシャルゲーム事業参入に関してお話をうかがいました(関連記事)。あれから3年が経過しましたが,カプコンのソーシャルゲームに対するスタンスにはどのような変化がありましたか。
一番大きいところでは開発体制が変わりました。当初は他社さんとの協業が多かったのですが,今はCOGのすべてのタイトルが内製になっています。今年リリースする「エクスプロア」や「ブレス オブ ファイア 6」「ストリートファイター バトルコンビネーション」(以下,「ストバト」)もすべて社内開発です。
4Gamer:
協業が多かったことには,何か理由があるのでしょうか。
杉浦氏:
まず,社内に「ソーシャルゲームに挑戦したい」というスタッフが少なく,またスタッフの余裕もなかったんです。その背景には,当時ソーシャルゲームの大手パブリッシャがベテラン開発者を大量採用していたという状況がありました。したがって,3年前のカプコンはソーシャルゲームのノウハウがなくて,どう作ればいいのか,よく分からないという状態でした。
そこで他社さんとお付き合いする中で,いろいろ学んでいこうと。今だから言えることですが,協業先の社長さんに「ソーシャルゲームの開発と運営を教えてください」と直談判したこともありました。あるタイトルでは,リリース前後の数週間,先方のオフィスにカプコンのスタッフを出向させて勉強しましたね。
4Gamer:
本当にゼロからのスタートだったんですね。
杉浦氏:
ただ,そうやっていく過程で「近い将来,市場がスマートフォンのネイティブアプリに移行していくだろう」ということが見えてきました。そこで社内的には,ブラウザ型ソーシャルゲームではなく,ネイティブアプリを中心にした開発体制を整えていったんです。それでも最初は人材を集めるのに苦労しましたが……。
4Gamer:
どのように人材を募集したのですか。
杉浦氏:
まずは社内にいたスタッフの中から「ネイティブアプリを勉強したい」「挑戦してみたい」という人材を募ったんです。
ところがカプコンに入社するのは,「アクションゲームを作りたい」「本格的なパッケージゲームを作りたい」という人がほとんど。そういう開発者が,ネイティブアプリのランキング上位を占めるパズルゲームやクイズゲームなどを作れるかというと,なかなか難しいだろうと。実際に挑戦してはみましたが,その仕上がりは正直厳しいものでした。
4Gamer:
そこから,どのように立て直したのでしょうか。
「モンスターハンター エクスプロア」 |
カプコンはもっと本格的かつリッチなゲームでないと,スタッフのノウハウを生かすこともできないと判断しました。そこで,根本的に体制を見直して,2014年は「みんながもともとやりたかったことをやろう」と方針を転換したんです。
たとえば,「エクスプロア」には「マルチプレイを搭載して,モバイル版MHF-Gと言えるくらい,ガッツリ遊べるものにしてほしい」と指示しました。
同じように「ブレス オブ ファイア 6」では「本格的なJRPGのオンラインゲーム化を目指してほしい」。そして「ストバト」には「演出をリッチにして,格闘ゲームが苦手な人でも“ストリートファイター感”を体験できるように」と頼んでいます。
4Gamer:
言わば「カプコンのタイトルだからこそ」という部分を強化していったわけですね。
杉浦氏:
ええ。そういった体制にしたところ,スタッフからたくさんのアイデアが出るようになり,開発もいい方向に進みました。
その反面,この体制では開発期間が非常に長くなり,場合によってはコンシューマ向けタイトル1本分の期間と人材が必要になることもあります。たとえば,マルチプレイを実装するとなると1年近くかかりますし,コンテンツによっては30人から50人近い人材が必要です。
4Gamer:
よく言われる「スマホアプリなら,短期間・少人数でヒットが狙える」という話とは正反対です。
杉浦氏:
あとは多少開発に時間がかかったとしても,時が経つほどに端末のスペックが上がりますから,よりリッチなコンテンツを楽しめる環境が整うという目論見もありました。
また,ビジネスモデルに関しては,ガチャ一辺倒になるようなもの──たとえば売上の9割をガチャが占めるようなケースは避けたいと考えました。そういった部分も含めて,コンシューマゲームのプレイヤーが遊んだときに,ほかのスマートフォン向けゲームとは違うと感じていただける内容を目指してきました。
4Gamer:
開発体制を見直したことで,全体的にいい方向に進んでいるようですね。
杉浦氏:
ただ,2014年にリリース予定だったタイトルのほとんどが,2015年に移行してしまったので,上司には相当怒られました。そのリスクは計算に入れていましたが,やはりタイトル数の面で会社には迷惑をかけてしまったなと。
とはいえ,これだけのタイトルをすべて社内で開発できる体制を整えられたのは,非常に大きな収穫だったと思います。
4Gamer:
「Dragon's Dogma Online」をはじめ,各タイトルとも開発は順調ということでよろしいですか。
小野氏:
まあ,ゲームの開発ですから,その最中には何かしら喧々諤々はありますが,「モンスターハンター フロンティア オンライン」を開発していた2005年から2006年頃と比べれば穏やかなものです。あの時期は本当にカオスでした(苦笑)。今は,とにかくコンテンツやサービスに集中できる状況になっています。
4Gamer:
小野さんとしては,安心できる状況だと?
小野氏:
いやいや,安心はできないですよ! オンラインゲームのサービスを長く続けていると,開発にも運営にも停滞感やマンネリ感が生じますからね。クリエイターならもっと違うこともやってみたくなるだろうし,運営スタッフならノウハウを別のゲームに投入したら,どういう反応があるのか,もっと面白いことができるのではないかという気持ちが出てくる。格好良く表現すると「どんな化学反応が起きるか試したい」という欲求ですね。そういう意味で,2015年はかなりハラハラして過ごすことになるでしょう。
それと同時に新しいタイトルを次々にリリースできますので,ワクワクしている面もあります。
ビジネスモデルはゲームの内容次第
遊んでから何を有料にすべきかを決定する
4Gamer:
「Dragon's Dogma Online」や「エクスプロア」,「ストバト」のビジネスモデルはFree-to-Play(基本プレイ無料)と発表されています。「ブレス オブ ファイア 6」は未公表ではありますが,今後,COGのタイトルはFree-to-Playが中心になるのでしょうか。
小野氏:
その質問の回答は,少し表現が難しいところです。と言うのも,月額料金とFree-to-Playを明確に分けることは簡単ではないと思っていますので。たとえばFree-to-Playを謳っていても,実際にプレイをするうえで毎月500円を払わないと満足に楽しめないのであれば,それはもう月額料金と同じですよね。
「MHF-G」では,さまざまな有料サービスを数日間から1か月単位で提供していますが,それを通じて,どのような形でお客様にサービスを販売すればいいのかを把握しています。Free-to-Playと表現してしまうと,衣装やアイテムに課金するイメージが強いと思いますが,COGではそうではなく,お客様が必要とされるサービスを提供していこうと考えています。
「ストリートファイター バトルコンビネーション」 |
4Gamer:
つまり,今後リリースするタイトルでは,「MHF-G」における有料コースのようなビジネスモデルが中心になるということですか。
小野氏:
まったくアイテムを販売しない。まったくガチャがないという話ではありませんよ。ただ,我々はそれとは違うやり方で,オンラインゲームビジネスを成立させてきました。逆に「これを買わなくてはプレイできない」という要素があったために,うまくいかなかったケースも経験しています。その経験を生かして,Free-to-Playでありながら,一般的に認知されている少額課金制とは違った形を目指そうと思っているんです。
杉浦氏:
実際に「MHF-G」の売上を見てみると,ガチャタイプのアイテム販売はそれほど大きな比率を占めていません。ガチャのアイテム,有料コース,そしてガチャではないアイテムの販売がほぼ均等になっていて,いずれかが一時的に落ち込んでもほかでカバーできるので,安定した利益につながっています。
ガチャが9割を占めるタイトルの場合,ガチャの売上が落ちた途端にタイトル自体のKPI(Key Performance Indicators,重要業績評価指標)も下がってしまう。そうなると,開発チームの目線は「ガチャをどうするか」というテーマだけに向けられることになります。しかし,そんな開発者を育成しても,3年後,5年後の発展は見込めないでしょう。
4Gamer:
それもまた,これまでの8年間で培ったノウハウの一つなんですね。
小野氏:
オンラインゲームビジネスで重要なことは,短期集中で回収することではなく,いかにしてお客様に長く滞在していただくのかです。そのために我々ができることといえば,まずはクライアントを無償で提供することです。最初に6800円でパッケージを購入する必要があるとなると,多くのお客様をふるいに掛けて落としてしまいます。
クライアントは無料,そのうえでどこまで無料で遊べるようにするのかというバランスを検討する。そして,どのようなサービスを用意すれば「500円なら払う」「1000円払ってもいい」,あるいは「3000円でもいい」と思っていただけるかという部分を考えていこうと。
杉浦氏:
実は発表済みの新規タイトルの中には,どのようにマネタイズしていくのかをまだ決めていないものがあります。実は,過去に成功したと言われるタイトルには,マネタイズを後から決めているケースが多いんですよ。
それに倣って,まずはゲームを作り,その内容を見てから「ここはお金をいただこう」「ここはお金を取っちゃいけない」という判断をするようにしています。つまり,まだゲームの全容をお見せできない段階,あるいは私がちゃんとプレイしていない段階で,「ビジネスモデルはF2Pです」と言い切ってしまうことは,本来できないんです。
4Gamer:
先日,松川さん(「Dragon's Dogma Online」のプロデューサー 松川美苗氏)にお話をうかがった際,マネタイズについては何も決まっていないとのことでした。
杉浦氏:
松川と木下(「Dragon's Dogma Online」のディレクター 木下研人氏)には,「マネタイズに関しては私が引き受ける。だからゲームをきちんと作ってください」とお願いしました。ゲームを実際に遊んでみて,「悔しいけど,ここならお金を払える」「ここにはお金を払えない」といった判断をするからと。
4Gamer:
ゲームを遊んでみて,その内容によって課金要素を決定するということですね。
杉浦氏:
それから,私がよく言っているのは「最初からお金をいただくことを意識し過ぎないように」と。それよりも,ローンチ当初はお客様に残っていただくことのほうが大事ですから。
もちろん,「お金を払ったからこそ,ゲームを続けたい」という先行投資型のお客様がいるのも事実です。それでも,ゲームを始めた直後に高額のお金をいただく必要はないと思っています。
4Gamer:
先ほど小野さんが言われたように,まずは長く滞在してもらうことが重要だと?
杉浦氏:
ええ。そうしてサービスを続けていけば,お客様のほうから「こういうアイテムやサービスがあれば,お金を払ってもいい」と,ご意見をいただけるようになります。だから,最初から課金要素をすべて決める必要はないんです。どうせ10個用意しても,2〜3個しか利用されず,残りは死んでしまいます。それだけの課金要素を用意する手間があれば,ゲーム内のコンテンツを1つ作ることもできますよ。
4Gamer:
確かにプレイヤーの立場からは,利用しない課金コンテンツよりも遊べるコンテンツのほうが嬉しいです。
「Dragon's Dogma Online」 |
杉浦氏:
もちろん,これがすべてのオンラインゲームやモバイルゲームに当てはまるとは考えていません。ガチャで利益を上げているタイトルも,世の中にはたくさんあります。ただ,カプコンという会社,ここにいるスタッフにとっては,最初にきちんとゲームを作るという手法が合っているということです。
4Gamer:
長らくゲーム開発を続けてきたカプコンだからこその手法なんですね。
杉浦氏:
これは持論ですが,ゲームの開発においてクリエイターが新しいバトルシステムを作り出すように,課金プランナーがまったく新しいマネタイズを生み出してもいいと思います。それが,次のトレンドとして市場に広まるかもしれません。そのため,「おそらくFree-to-Playという形になるとは思うけれども,マネタイズはゲームを遊んでから考えよう」というアプローチを取っています。
ただし,プログラマーには嫌がられますね(苦笑)。彼らは初期設計の段階で,いろいろと固めておきたいでしょうから。
4Gamer:
ここまでの話をまとめると,Free-to-Playと表現していても,COGでは一般的な意味合いとは違うものになるかもしれないということでしょうか。
杉浦氏:
ええ。私個人の考え方ではありますが,最終的にはガチャで何万円も注ぎ込んで狙ったカードを1枚入手するようなスタイルよりも,月に数千円を払うことでゲーム内のインセンティブを受けられるサービスのほうが,多くのプレイヤーに受け入れられるのではないかと考えています。
ただし,そのビジネスモデルはゲーム自体が面白くなければ成立しません。開発者にとってはハードルが高いと言えます。「いかにガチャを回すゲームを作るか」ではなく,「いかにコンテンツをプレイしてもらえるか」というFree-to-Playを目指したいんです。
その代わり,ガチャ以外のさまざまな部分の企画や開発を手がけられるので,カプコンのようにヘヴィなゲームを作ってきた会社と,そのスタッフには向いていると思います。
Free-to-Playの場合,パッケージゲームとは異なり,カジュアル層からコア層まで幅広いプレイヤーがターゲットになります。そうなると,クリエイター特有の「オレのアイデンティティを見てくれ!」といった部分が,うまく噛み合わない状況が出てきます。実際,「MHF-G」ではそのあたりの折り合いを付けるのに時間がかかってしまいました。
しかし,今では杉浦をはじめ,チーム全体がなぜそうなったのかを理解しています。また「Dragon's Dogma Online」の開発チームは,「MHF-G」と比べるとかなり早い段階でそのギャップを解消することができました。その意味では,今のCOGはあらゆるお客様を受け入れる体制が整っていると言えるのではないでしょうか。これが,2015年を「リスタートの1年」と表現したもう一つの理由です。
もっとも,いざ走り始めたら「あれ? 全然違ったなあ」となるかもしれませんが(笑)。
2013年の反省を受けて
2014年は次に来るトレンドに備えた体制を整えた
4Gamer:
先ほど社内の開発体制が変わったとお聞きしましたが,もう少し詳しく教えていただけますか。
杉浦氏:
現在,COGのタイトルを手がける第二開発部は,東京と大阪,韓国,台湾と4か所に拠点を置いています。それぞれの得意分野をうまく生かしたいと考えていて,「Dragon's Dogma Online」のように大阪を中心に開発することもあれば,別のタイトルでは韓国や台湾と共同開発をしているといった形です。ただし,HQとしての運営面に関しては東京に集約しています。
4Gamer:
そのような体制にした理由とは?
杉浦氏:
私達は,日本だけでなく世界に向けてもサービス展開を準備しています。そのため,アジアにもいくつかの拠点が欲しいと考えたからです。
理由はもう一つありまして,技術面において国ごとに得意分野は違うからです。たとえば,サーバーなら韓国はWindowsが得意ですが,日本はLinuxサーバーのほうが得意。一方,台湾はUnityの技術力が高いプログラマーが揃っています。
4Gamer:
それでは,新規タイトルのプラットフォーム戦略はいかがでしょう。現在,COGのタイトルはPCやコンシューマ機,スマートフォン向けに展開されていますが,今後はどの分野を強化していく予定ですか。
「ストリートファイター パズルスピリッツ」 |
近い将来,モバイル端末のスペックが上がり,PCと遜色ないゲームを楽しめる時代が来ると考えています。モバイル端末をPC用ディスプレイにつなげて,ハイスペックなゲームを楽しむ……なんてこともあるかもしれません。それこそ「deep down」のようなタイトルが,そのままモバイルで遊べるようになるだろうと。
そのようにデバイスが一つに集約される,あるいは似たような性能になっていくのであれば,「PCしかやらない」「コンシューマ機しかやらない」という展開は,自分達の首を絞めることにしかならないでしょう。仮にPC市場が縮小したとき,モバイルのノウハウがないからやりたくてもできない。逆にモバイルのスペックが上がったとき,PCやコンシューマ機のノウハウがないからハイスペックなゲームが作れないのでは,どうしようもなくなります。したがって,今後も特定のプラットフォームやデバイスにこだわるということはないですね。
4Gamer:
なるほど。今,お話されたモバイル分野では,2014年に「モンハン いつでもアイルーライフ」や「ストリートファイター パズルスピリッツ」(Android版のみ配信中。iOS版は今冬配信予定)などがリリースされていますが,あまり積極的ではなかった印象を受けました。2015年はどのような戦略を立てているのでしょうか。
杉浦氏:
スマホゲーム市場の初期であれば,多くのタイトルを投入する戦略というか,数撃てば当たるでもアリだったのでしょうが,現在の市場は,もはやそのような戦略が通用する状況ではありません。
ご存じのとおり,カプコンは2013年度(平成26年3月期)にモバイル分野などで55億円近い,大きな特別損失を計上しています。それは,当時の体制のままではうまくいかないだろうという,上層部の厳しいけれど勇気ある判断であり,カプコンがモバイル分野では芳しくないという結果を厳粛に受け止めています。
4Gamer:
しかし,2014年は目立った動きがありませんでした。
杉浦氏:
2014年度になり,私のほうでモバイル分野を再構築するにあたり,いろいろと見直しました。今のトレンドを追いかけながら何かを作っても,完成してリリースする頃には次のトレンドに移っているかもしれない。そこで2014年度は,その次のトレンドに向けてゲームを作ることにしたんです。
その結果,近い将来のスマホゲーム市場では本格的なゲームが求められるだろうと。それはカプコンという会社の得意分野とマッチする流れです。つまり,市場と会社が相思相愛の状態ですから,今はその方針を推し進めているところです。
もし2年前であれば,ちょっと先走り過ぎていると言われかもしれませんが,2014年は「剣と魔法のログレス いにしえの女神」(iOS / Android)がヒットしました。スマートフォン向けであっても,MMORPGのような本格的なゲームが成功することは証明されています。
4Gamer:
今のところ,狙いどおりに進んでるということですね。それでは,社内ではどのような変化があったのでしょうか。
長らくオンラインゲームを手がけてきた私達,第二開発部がモバイル分野の開発チームを一手に引き受けることになりました。当初は,まだ外部開発のタイトルが多かったのですが,先ほどお話したとおり,再構築してすべて開発を社内に集約させています。
私の元での新体制がちゃんと動き出したのは2014年4月頃なので,まだ1年にも満たないです。しかし,まだそれだけしか経っていないことが不思議なくらい,元々のメンバーとモバイルチームとの意思統一が図れるようになりました。
4Gamer:
とくに大きな問題もなく?
杉浦氏:
そうですね。ただ,問題というわけではありませんが,何というか開発者は真面目なんですよ。決して「不真面目になれ」と言いたいのではなく,もっと反骨心を持ってもいいんじゃないかと。たとえば外野から「売上はガチャで稼げ」と言われると,真に受けてしまうんです。
実は,2014年4月時点で初期の「エクスプロア」,当時は「モンスターハンタースマート」という名称でしたが,ほとんどできあがっていたんです。ただ,ガチャで武具を入手するシステムを採用していました。そこで,私が「モンハンは武具を生産することが,遊びのメインじゃないのか。武具のガチャは止めるべきじゃないのか」と提案したら,みんなも「そう悩んでいました。変更しましょう」となったんです。
4Gamer:
なぜそのような状況になったのでしょうか。
杉浦氏:
スマホゲームは「ガチャで稼ぐ」以外にはないと思い込んでいた結果ですね。真面目なのは悪いことじゃないけれど,本質をとらえずに表面だけで成功例を真似てもうまくいかないでしょう。
4Gamer:
先ほどおっしゃっていた,ゲームに合わせたマネタイズが必要だということですね。
杉浦氏:
ええ。そうでなければ,2013年度の反省をしたことにはならないと話しました。ただ,ガチャを使うのが,今の市場では自然な流れ。その流れに逆らって,あえてガチャを使わないというのは,かなり不利です。2014年度は,みんながその部分について葛藤していた時期でした。
でもそれを乗り越えないと,マネタイズのためにコンテンツを作るというあべこべな事態になってしまいます。
今の生活環境に合っている
スマートフォンに向けてタイトルを投入する
4Gamer:
今後はモバイル分野でも本格的なゲームやリッチなゲームを中心に展開していくのでしょうか。
杉浦氏:
基本的な考え方としては,そうなります。ただ,タイトルの中にはヒットを狙うものと,どちらかと言えば研究を主眼に置いたものがあります。「パズルスピリッツ」は後者の典型で,開発チームは7人でした。
これは会社全体で本格的なゲームを志向していたとしても,まったくカジュアルなゲームを作っていないのでは,いざというときに困る可能性が高い。そこで,あえて売上を問わないプロジェクトとして発足したんです。
4Gamer:
先ほどお聞きした「新規タイトルのプラットフォーム戦略」と考え方としては近いですね。
杉浦氏:
さらに全タイトルで売上を求めると,若手の開発者が活躍できる場が減ってしまいます。確実にヒットを狙うなら,やはり経験豊富でメンタルの強いベテランがチームを率いることになりますから。
開発者がそれなりに経験を積んで一人前になるまでには,少なくとも5年から7年はかかる。しかし,その間に自分の作りたいものが何も実現できないのでは相当辛いです。そこで少人数という制限付きながら,「Unityを勉強したい」「ディレクターになるために修行したい」といった研究や練習を目的とした,若手のためのチームを立ち上げる取り組みを行っています。
4Gamer:
なるほど。それでは,モバイル分野ではどのようなプレイヤーがメインターゲットになるのでしょうか。
杉浦氏:
たとえば,パズルのようなカジュアルゲームを遊んでいるプレイヤーの中には,もっと本格的なゲームも遊んでみたいという人がいると思います。PC向けの本格的なゲームがあることを知らなかったり,実際に遊んだことがなかったりする人もいるでしょう。
そこで,そのような本格的なゲームをカスタマイズしてモバイルに向くように,たとえばオンラインゲームのような形で展開していこうというのが我々の狙いです。
4Gamer:
オンラインゲームのような形ですか。
杉浦氏:
つまり,月額課金制やアイテム以外のサービスを販売するビジネスモデルのことです。もちろん,PC向けのオンラインゲームとは料金も期間も同じようにはいかないので,そのあたりはスマホゲームのスケールに合わせて変更する必要があるでしょう。
このようなビジネスモデルはオンラインゲームの運営・開発の経験があり,一方でモバイル分野の研究も進めてきた,カプコンだからこそできることだと考えています。
「ブレス オブ ファイア 6 白竜の守護者たち」 |
4Gamer:
ということは,スマートフォンで初めてゲームに触れた人。そして,よりゲームを求める人がターゲットになると?
杉浦氏:
それは少し違います。実は,そのような層はあまり多くないんです。以前はコンシューマ機でゲームを遊んでいて,いつの間にか離れてしまったけれど,スマートフォンで再びゲームに回帰しているという層がターゲットになります。
では,その人達はなぜゲームから離れてしまったのか。おそらく皆さんの生活環境が変化したことが,最も大きな要因だと分析しています。
4Gamer:
コンシューマ機よりもスマートフォンのほうが,今の生活環境に合っている人が多くなったということですね。
杉浦氏:
実際,コンシューマゲームの人気IPを使ったスマホゲームが多数ヒットしています。そこには,スマートフォンのほうが何かと都合がいいという優位性が存在しているからです。
「エクスプロア」では,チーム内から「ギルドシステムは無いほうがいい」「マルチプレイはもっと簡素でいい」といった意見が出てきました。スマホゲームでは,そこまで本格的なものは誰も遊ばないというわけです。
しかし,私は「1年後にどうなっているのかを考えよう」と。今,はやっていなくても,1年後には簡素なマルチプレイに飽きたという人が増えるからと話し,開発を進めているところです。
新作は2015年春から順次サービスイン
「カプリンク」を介したコミュニティ施策も強化を図る
4Gamer:
現在,発表されているタイトルのサービス予定や進捗状況を教えていただけますか。
杉浦氏:
「ストバト」はAndroid版を今春,iOS版をその数か月後にリリースする予定です。「ブレス オブ ファイア 6」も春には最新情報をお伝えします。「エクスプロア」は“半袖の時期”にはリリースできるでしょう。
「Dragon's Dogma Online」は年内にサービスインを予定しているのですが,春に先行体験テストを実施しますので,最終的にはその結果を見てからということになります。
4Gamer:
2013年に発表された「deep down」は,長らく新情報が発表されていませんね。
小野氏:
「deep down」は,もう少し時間がかかってしまいそうです。巷では「開発を中止したのか」と言われているようですが,そんなことはありませんから(苦笑)。
少し先になるかもしれませんが,以前にお見せしたものとはまったく違う姿を披露したいと考えています。実は,最初に発表していたときよりも構想が大きくなっています。むしろ,以前の構想ではダメだったのかもしれません。
オンラインゲームのサービスは長期の勝負になりますから,サービスインの時点で必要な部分をきちんと作っておかないと,せっかくゲームが面白いものであってもプレイヤーは根付かないでしょう。
当初,考えていた「deep down」ではお客様が定着しないのではないか,という懸念が出てきたので,もっと時間をかけることになったんです。
「deep down」 |
4Gamer:
それでは,ポータルサイトとしてのCOGで予定している施策があれば教えてください。
小野氏:
すでに実装している「カプリンク」の機能を強化します。カプコンの場合,ほかのゲームメーカー──とくにソーシャルゲームを展開しているメーカーよりも,“濃い”お客様が多いと思いますが,そのようなお客様同士には何かしらのシンパシー(共感)があります。そのシンパシーをタイトルごとに区切るのではなく,うまくつなげたいと考えているんです。
たとえ,Facebookでそのようなコミュニティを作ったとしても,タイトルごとのものになってしまいがち。そこで,カプリンクという場を提供したというわけです。
4Gamer:
ここまでの手応えはいかがでしょうか。
おかげさまで利用者は順調に増えています。Aというタイトルのプレイヤーが,カプリンクによってBというタイトルに興味を持つ,といったところまでの動線は見えてきました。これを将来的には,COGの中だけで完結させるのではなく,FacebookなどのSNSやほかのメーカーさんのコミュニティと連動させたいと考えています。最近はメーカー間の垣根を越えて,相互にプロモーションを展開するケースが増えていますが,それをもう一歩推し進めるようなものですね。
4Gamer:
2015年にリリースする新タイトルは,すべてカプリンクに対応するということですか。
小野氏:
もちろんです。これは僕の希望ではなく,命令という形でチームに要請しています。ゆくゆくはCOGだけでなく,カプコンの全タイトルにマッチさせたいですね。対応タイトルが増えるほど,それぞれのコミュニティのつながりが増えるわけですから。
杉浦氏:
今年は新タイトルが多いので,新規登録者は例年以上に増えると予想しています。当然,カプリンクの重要度も高くなるでしょう。
たとえば,自宅で「MHF-G」や「メゼポルタ開拓記」,通勤通学の途中では「エクスプロア」や「ストバト」を遊んでいただくプレイヤーの場合,そのときカプリンクでつながっていれば,異なるタイトルであっても同じフレンドと遊べるようになります。同じ要領で,COGのお客様を「ストリートファイター」などのコンシューマ展開にもつなげていければと。
このように,COG会員がより多くのタイトルに触れられる機会を作ることが,私のやるべきことだと考えています。
僕自身が手がけている「ストリートファイター」をはじめ,格闘ゲームにはさまざまなコミュニティがありますが,それぞれが何かでつながっているかというと必ずしもそうではない。そこでカプリンクを介して,コミュニティをつなげるというのもアリでしょう。
仮に,まったく毛色が違うタイトルのコミュニティであっても,それぞれに横のつながりを持たせるだけなら,問題にはならないはずです。そのような形を目指して,2015年はカプリンクの機能を充実させていきたいですね。
繰り返しになりますが,ゲームのビジネスはお客様が「そこにいる」ということが重要です。お客様がいてくれないと,絶対にビジネスは成立しません。もちろんゲーム自体が面白いということが大前提になりますが,そういった意味でカプリンクは重要な存在になっていくと思います。
4Gamer:
今後の展開に期待しています。本日はありがとうございました。
カプコンオンラインゲームズ(COG)公式サイト
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「ブレス オブ ファイア 6 白竜の守護者たち」公式サイト
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