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「Sky」のthatgamecompanyが,岡山の高校にむけて特別ウェビナー。ジェノバ・チェン氏&水谷 立氏がつながり合えるゲーム作りを語る
チェン氏についてはもはや説明はいらないだろうが,氏は南カリフォルニア大学の映画学部在籍時に新設されたインタラクティブ・メディア学部において,学友たちとともに「Cloud」(2005年)を開発した。
卒業後は,在学中に手がけた作品を含む計3タイトルのパブリッシングに関して,ソニー・コンピュータエンターテインメント(現ソニー・インタラクティブエンターテイメント)との契約にこぎ着けたことにより,仲間たちとthatgamecompanyを創設することになる。
そうして生まれたのが,「flOw」(2006年),「Flower」(2009年),そして「風ノ旅ビト」(2012年)という,言語や文章に多くを頼らない独特のゲームプレイやアートスタイルを持った一連の作品群であり,これらの契約満了をもって同社が開発し始めたのが,約7年もの月日をかけて完成した「Sky 星を紡ぐ子どもたち」(2019年)だった。
[インタビュー]Skyとそのコミュニティ運営について,Jenova Chenが語る―――コミュニティは家族です。良かれと思ったことがうまくいかない時でも、お互いが愛し合っているということは変わりません
3年前,「Sky 星を紡ぐ子どもたち」ローンチ直後のタイミングに,創作について熱く語ってくれたゲームクリエイターJenova Chen氏が,久々に来日した。巨大なIPへと成長したSkyについて,彼は日々何を思っているのだろうか。
もう片方,水谷 立氏がthatgamecompanyに参加したのは2016年のこと。彼については東京ゲームショウ2022のインタビュー記事で詳しく紹介しているが,日本国内のゲーム会社において12年にわたり経験を積んだのち,アメリカに行って同社のサウンドチームを率いるようになった。
それだけでなく,少ない人手をカバーするかのように日本向けの広報活動も担当するなど,マルチな才能を開花させている人物だ。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」水谷 立氏にインタビュー。音のペンキを世界に塗るオーディオデザイナーの満足度は,まだ20%
thatgamecompanyの「Sky 星を紡ぐ子どもたち」に関して,リード・オーディオ・デザイナーの水谷 立氏にインタビューを行った。音へのこだわりはもちろん,思い一つで海外インディゲーム会社に飛び込んだ話も興味深い。
thatgamecompanyにアプローチした
津山高校の“SSH”プログラム
さて,ゲームカンファレンスなどで近年引っ張りダコのチェン氏と水谷氏が,なぜ岡山の高校の学生たちにウェビナーを行ったのか。
筆者としても大いに興味が沸くところであり,実際,配信がつながるとチェン氏は開口一番,「これまで大学生からトークの要請を受けたことはあるけれど,高校生からメールが来るなんて思ってもみなかった。連絡してくれた生徒さんの行動力はスゴいね」と話した。
筆者もライターとして,こんな話は過去に聞いたことがない。
しかも,ゲーム開発のカリキュラムを専門とするような学校ならまだしも,県立の高校生らが,ゲーム業界ではもはやレジェンドの域に達しつつあるthatgamecompanyに直接連絡したというのだから,その行動力や活動にはただただ驚くばかりであった。
津山高校は,文部科学省にSSH(スーパーサイエンスハイスクール)として認定されている学校の1つである。SSHの教育現場では科学技術系人材の育成のため,各学校で作成した計画に基づき独自のカリキュラムによる授業を行ったり,各界の専門家と交流を行ったりすることで視野を広げ,国際性とコミュニケーション能力を積極的に育んでいる。その取り組みの一貫として,今回のウェビナーが企画されたという。
ただし,今回同席していた同校のSSH 海外研修担当教員,草加翔一氏がすべきプランニングは本来,アメリカでの研修旅行を計画したうえで,現地の名門大学の教授らからレクチャーを受けさせてもらったり,科学に関する研究施設を見学させてもらったりすることだという。
しかし,ここ数年はコロナ禍により,生徒たちが渡航する機会が奪われてしまい,今年に関してもそれが叶わなかった。
そこで(当時)2年生の参加生徒たちに,彼・彼女らが興味を覚える,医療,恐竜学,VRテクノロジー,社会学,宇宙学などのテーマを選ばせ,各界隈で活躍している権威らに,それぞれの生徒たちに自主的に連絡を取らせて,特別なセッションを実現してきたとのこと。
なぜ学生らにわざわざ連絡をさせるのかについて草加氏は,「教員が準備をするのではなく,生徒自ら動くことで主体性や行動力を身に着け,返信をいただけた喜びや,返信をいただけなかったり,お断りされたりする悲しさ悔しさを糧に成長してほしい」とした。
そうしてこれまでもIT企業のCEO,NASAの宇宙飛行士らにオファーを出してきたが,そのリストにthatgamecompanyのチェン氏および水谷氏の名もあったことで,今回の取り組みが承諾されたわけだ。
ちなみに,会場での応答は生徒含め,主に英語で行われた。
世界中のゲーマーがつながり合えるゲーム作り
チェン氏は,受講した生徒たちとほぼ同じ年齢であろう,17年というthatgamecompanyの歴史を簡単に振り返りながら,同社がモットーにする「あらゆる世代の観衆に心温まるストーリーを伝え,世界中の人々のつながりを刺激する,時代を超越したインタラクティブなエンターテイメント作り」(Create timeless interactive entertainment that tells heartwarming stories for audiences of all ages and inspires human connection worldwide)について,Skyを例に紹介していった。
具体的な講義内容は,学生たちにとって特別なものになったはずなので詳しくは解説しないでおくが,4Gamerでも昨年取り上げた「GDC 2022におけるチェン氏のSkyについてのセッション」の,時間が足りなかったために話されなかった“後半部分”といったところだろうか。
[GDC 2022]「Sky 星を紡ぐ子どもたち」のクリエイターが模索する,“多くの人がプレイするゲーム作り”を行うために考えるべきこと
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」で知られるthatgamecompanyのJenova Chen氏が,GDC 2022においてリモートセッションを開催し,「ゲームで“慈悲”を体験することはできるのか」という講演を行った。なぜ映画は世代を超えて愛されているのに,ゲームは未だに“子供の遊び”と思われているのか,ゲーム開発者自身が意識を変えてこそ変化が起きるはずだと説いていた。
チェン氏からはまず,Skyのプレイヤー人口が説明される。本作は今,中国大陸,日本,アメリカ,台湾,そしてマレーシアの順にプレイヤー数が多く,アジア圏からのアクセスが非常に多いという。
とくにアジアでは“若いプレイヤー(24歳以下)”が80%を占め,そのうち66%が女性層であるという統計は興味深かった。
その後,(仕事を)引退して孤独になっていた67歳の女性が,見ず知らずの“友人”に誘われて原罪(Skyの一地方の名称)を一緒に旅をし,感動して勇気を与えられたとつづられたファンレターや,ウクライナとロシアのプレイヤーたちが近年の渦中後も,ゲーム内で争うことなく語り合い,互いの心の傷を癒しているというエピソードが紹介された。
これらは“エンターテイメント”という枠組みにあるはずのゲームが,コロナや戦争といった難しい状況下にあって,人々のつながりをサポートできるツールになり得る,といったチェン氏の表明である。
英語だけでやり取りする会場にて,チェン氏に続いて水谷氏が「感情のハーモニー: Sky 星を紡ぐ子どもたちにおけるオーディオデザイン」という講義を行っていく。
ここでは主に「サウンド効果とは,単に情報を伝えるものではなく,音楽と物語が相互作用しながらプレイヤーたちの感情とイマジネーションを“かき回す”ものなのです」と話され,本作におけるオーディオデザインの意義が解説されていった。
オーディオエンジニアという,多くの高校生らが必ずしも理解しているわけではなさそうな専門職に就く水谷氏だが,次いで「thatgamecompanyのすべてのメンバーは,誰も経験したことのないような感情的な体験を実現させることを怠りません」と語る。
異なる能力を持つスタッフが集まり,それぞれのゲーム体験の実現に挑戦しながらも,全員で同じ方向に向いて作品を作る。そうしたゲーム開発のダイナミズムについて知らされたのはよい刺激になっただろう。
講義後はチェン氏と水谷氏,参加生徒も交えた双方向のQ&Aが行われたが,二人からはやはり「なぜ高校生が,thatgamecompanyにアプローチしてきたのか?」という質問が投げかけられた。
その答えはどうやら“Skyのファンだという生徒”がいたらしく,その生徒が「このゲームは,誰もが自分の国籍やバックグラウンドを気にせずにプレイできて,困っていると誰かが手を差し伸べてくれる優しいゲーム」であることに感銘したのがきっかけだそうだ。
実際,それを聞いたチェン氏のフリに応えていく男女参加者のほとんどが,当の生徒にSkyの存在を教えてもらってプレイし始めたという。するとチェン氏は「あなたはすさまじいインフルエンサーですね!」と感心した様子で語りかけ,ゲームの改善点はないかとヒアリングするなど,ファンサービスも相まった有意義な時間を紡いでいった。
当日は「チェン氏らが生徒たちに語る」ことが主目的であったため,筆者はそれを邪魔しないよう,口出しもせずに見守っていた。
そのため補足として後日,草加氏にお願いし,今回参加した生徒たちにウェビナーの感想をうかがったので,最後に紹介しておこう。
■生徒その1:
「Sky」のプレイ経験があったこともあり、とても充実したトークセッションでした。チェンさんの「Sky」の目的も、みんながバックグラウンド関係なしに繋がれる世界をつくることと、なんとなくは分かっていたのですが、ゲームの市場データ(男女、年齢によってプレイするゲームの割合をグラフにまとめた)をもとに理論的に考えていたのかとびっくりしました。何度も“繋がり”を強調されているのもあって、その目標の真剣さを目の当たりにしました。
「Sky」をやっていたので、音もとてもきれいですごいなと思っていましたが、楽器の音にそんな細かい仕掛けが施されていたとはまさか思いませんでした。あくまでも「Sky」の王国史のものであり、現実世界にはないものを作るために、いくつもの音を合わせて、あの違和感のないきれいなメロディを生み出しているのはすごい労力がかかるんだなぁと思いました。「音」一つ取り上げても、人間の心理など予想より何倍も深く考えられていたので、グラフィックやモーションなど、他の細かい部分についても知りたいと思いました。
何よりお二人の、自身の仕事に対する情熱が伝わってきました。自分も自身の夢に対して、自信を持って全力で情熱を注げるように、今の勉強や好きなことを頑張っていきたいと思いました。
■生徒その2:
私は「Sky」を約2年間やっていて、thatgamecompanyの前作である「風ノ旅ビト」も大好きだったので、今回のトークセッションはまさに夢のようでした。ジェノバさんから「Sky」全体の、クリエイターの視点から見た老若男女に好かれる理想のゲームをプレゼンしていただいたり、水谷さんからはサウンドディレクターの視点から見たゲームをより良くするための努力などを知ったり、いち「Sky」ファンとしても海外研修の一員としてもとても楽しいトークセッションでした。
全体的にホストとメンバーの交流が盛んで、質疑応答の時も双方から質問が出たりと活気のある様子が見られました。水谷さんのお話にあった楽器の調がBGMによって変わるプログラムの話を聞いて、「Sky」の世界観を壊さないようにというチームの熱意を感じ、もっと「Sky」をプレイしようと思えました。
また質疑応答の際には、こちらからの質問に丁寧に答えていただいただけではなく、メンバーに質問を沢山していただき、ジェノバさん達も今回のトークセッションに興味を持って参加してくれているのが感じ取れて嬉しく思いました。ゲームの改善点もプレイヤーに聞いて下さり、「Sky」というゲームをプレイヤーと一緒に作りあげていこうという意志を強く読み取れました。また機会があればジェノバさん達と直接お話をしたいです。
■生徒その3:
私は今までにいくつかのゲームをプレイしてきました。ですが、正直音響のことに焦点をあてて考えたことはほとんどありませんでした。水谷さんがプレゼンテーションの中でおっしゃったように、他のゲームの多くは、アニメーションがメインで、音響はあくまでその補佐役であるくらいにしか思っていなかったので。
ですが、友達が「Sky」をプレイしている様子を見ているときに、音の奥行きがすごいと感じ、目を閉じて音だけを聞いてみたときに、情景が浮かび上がってくるような感じがしました。実際に質問をしてみて、水谷さんやチェンさんを始めとするthatgamecompanyの皆さんは、音を一層のものと考えるのではなく、アバターとの距離感やSkyだけの音の作り方にこだわっているということがお聞きできて、とても光栄でした。私も以前楽器を演奏していた経験があるので、音の重なりの大切さや一つの種類の音だけで音楽を形成するのは難しいことだと感じたことは多々あり、今回のお話もすごく共感する場面が多くありました。
そして、最後にお二人からのコメントを頂いて、自分の夢を追い求めよう、また興味のあるものをとことん突き詰めてみようと思いました。また、thatgamecompanyの皆さんがSkyで追い求めている、バックグラウンドに左右されず、皆が平等に自分の個性を出せるような社会を作っていくことは、ゲームを始め、様々な角度からアプローチできることなのではないかと感じました。ただゲームという枠組みの話ではなく、今後自分がどのような形であれ、平等な社会形成の一端を担えるのではないかと感じることができるトークセッションとなったと思います。
■生徒その4:
「Sky」は単なるゲームというだけではなくて、世界中の人がつながることのできるコミュニティでもあるのだと表現されていたのがとても印象に残っています。
音楽で感情を揺さぶり物語への没入感を高めているというお話からは特に、感情体験の共有が他者とのつながりを確かめる方法の一つになっている事がわかりました。私自身普段プレイするとき、たまたまそこに居合わせた人たちが合奏したり一緒に踊ったりしているのを目にすることもあります。国籍も性別も宗教も、現実のステータスに縛られずにすべての人が交流できる、そのための様々な工夫を知ってとても感動しました。
私も、全体を見通すことのできる広い視野を持っていたいと思います。
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」公式サイト
「Sky 星を紡ぐ子どもたち」ダウンロードページ
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