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[TGS2022]日本ならではのVRゲームが世界市場で勝つためには? Meta主催のVRゲーム開発者ラウンドテーブル聴講レポート
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印刷2022/09/17 15:24

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[TGS2022]日本ならではのVRゲームが世界市場で勝つためには? Meta主催のVRゲーム開発者ラウンドテーブル聴講レポート

 東京ゲームショウ2022の2日目,ビジネスミーティングエリアにあるMetaブースにて,「Meta ラウンドテーブル ”Conversation with Developers”」と題したラウンドテーブルが行われた。
2022年2月に,Quest Storeにおける売上が10億ドルを超えるなど,VR産業の市場は着実に成長しており,日本の開発会社からも続々とチャレンジャーが出現している。このラウンドテーブルは,すでにVR市場で成功を収めた開発会社からゲストが招かれ,これから日本発のVRゲームが世界市場で成功していくための知見を交換する場となった。

 イベントの登壇者は,CharacterBank 代表取締役の三上航人氏,Thirdverse 取締役/CBOの大野木勝氏,Meta Reality Labsでストラテジックコンテンツパブリッシング 日本・韓国市場統括を担当する池田亮氏の3名だ。Meta Reality Labs広報の吉本妙子氏が努めた。

ラウンドテーブルの登壇者。左から三上航人氏,池田亮氏,大野木勝氏
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 ラウンドテーブルの内容を紹介する前に,登壇者のプロフィールをまとめよう。

●三上航人氏
CharacterBank 代表取締役の三上航人氏
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 2020年にVR人狼ゲーム「ANSUZ」をリリースし,「QUESTが選ぶ,ベストオブ2021年 日本版」の無料ゲーム部門に選出される。7月にリリースした「RUINSMAGUS 〜ルインズメイガス〜」はクラウドファンディングで300%の出資を集め,Bitsummit THE 8th BITで4Gamer.net賞を受賞した(関連記事)。

●大野木勝氏
Thirdverse 取締役/CBOの大野木勝氏
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 2012年にgumiに入社して,2015年からVR事業に携わる。2020年10月に,Thirdverseへ正式に入社。これまでの知見やネットワークをもとに,VR関連企業と連携を取りつつビジネスやマーケティング,コンテンツクオリティなど様々な側面から経営に参加している。8月には「ソード・オブ・ガルガンチュア」チームによる新作「ALTAIR BREAKER」をリリースした。現在は,北米スタジオで新作VRシューター「X8」のエグゼクティブ・プロデューサーを務める。

●池田亮氏
Meta Reality Labs ストラテジックコンテンツパブリッシング 日本・韓国市場統括 池田亮
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 モバイル・ソフトウェア業界で20年以上にわたり活躍する。現在は,Metaのベイエリア本社にDeveloper Relationsチームの一員として在籍しており,開発者やパブリッシャのサポートに加えて,開発者コミュニティの育成にも従事している。

●吉本妙子氏
モデレーターを努めたMeta Reality Labs広報の吉本妙子氏
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「VRならでは」の要素は何か


 最初に吉本氏から質問として投げかけられたのは,「なぜ事業としてVRを選んだのか」という,根本的な問いだった。
 
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 これに対して三上氏は,VRが言語だけでなく,身体の動き(ジェスチャー)などもコンテンツとして取り込めることを挙げる。個人の体験として,「英語が苦手だが,ジェスチャーを用いることで海外のプレイヤーとも交流できたことに感動を覚えた」ことが,VRゲームに参入する大きな動機となったという。
 そのなかでも「Meta Quest 2」(以下,Quest 2)をプラットフォームとして選んだのは,Quest 2がケーブルレスで駆動するという点に感銘を受けたからだそうだ。
 
一方の大野木氏は,前職となるgumiの社是が「新しいテクノロジーを使ったエンターテイメント」であることを踏まえつつ,2015年のCES 2015で「Oculus Rift」を体験して,衝撃を受けたのが大きなきっかけであったと振り返る。
その上で,Metaをパートナーとして選んだのは,同社のCEOであるマーク・ザッカーバーグ氏の影響があったそうだ。ザッカーバーグ氏が,長期的,また戦略的にVRに取り込むことを示しただけでなく,その動きのひとつひとつに説得力があったことから「長く協力していく相手として,Metaを選んだ」と回答した。

さて,Quest 2とそれを取り巻く市場は,大きく開花したが,当然ながら「売れるゲーム」と「売れないゲーム」という形で成功・失敗事例も増えている。果たして,Quest Storeでは,どんなゲームが売れるのだろうか?

 これについて,池田氏は,Metaが作品の開発支援をするにあたり,重視するポイントが2つあるという。1つは「新規性」だ。これは,現在のQuest Storeに見られない,新しい機能や技術を採用している作品とのこと。
 もう1つは「VRならではの独自性」で,VRならではの遊び方やアイデア,工夫があり,ユーザーがQuest 2を購入する理由になる作品だという。とりわけ,「VRならでは」の要素が大きなキーポイントになるようだ。

 では,開発会社はこの「VRならでは」というポイントを,どう考えているのだろうか?

 三上氏は,根底にあるモチベーションとして「日本から世界に売る作品を作る」ことがあるとしたうえで,「これまで自分が遊んできた,日本のファンタジー世界を再現する」ことを目指しているという。

 また,VRゲームは,従来のゲームにおいて一般的な表現技法をそのまま使えないが,そのかわりに「舞台劇や演劇の演出が使える」ことや,「キャラクターのやりとりに対し,いち参加者になれる」といったアプローチが取れるという。これはVRならではの表現方法と言える。

 加えて,プレイヤーが「いかに『なりきり』ができるか」も重視しているという。「片手に盾を構えながら,もう一方の手で魔法を撃つ」といった。プレイヤーが自らを俯瞰して,「カッコイイ」と思える体験を作ることが重要というわけだ。

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 大野木氏は,「VRならでは」という問題について,スマートフォン向けゲームの開発においても「スマホならでは」が,常に課題だったと指摘する。「スマートフォンが,従来のゲーム環境に比べて,異なる制限と特徴を有しているように,VRもまたこれまでにない制限と特徴がある」と語った。
 
 なかでも「360度の世界に入る」ことと,「情報のインプット手段が自分の身体になる」ことは,大きな違いととなる。
 また,オブジェクトに対して,プレイヤーが直接的にアクションできるのもポイントと言えよう。それによってオブジェクトが壊れたり,変形したりという体験も2Dのスクリーンでは得難い体験だ。その上で大野木氏は,「ジェスチャーをどうゲームメカニクスに結びつけるかが重要」だと述べる。

 そのほかに,サウンド面についても「日常ではあり得ないような体験を演出することが大事」と語った。この「いままでしたことがない体験」と「日常ではあり得ない体験」という2点は,Thirdverseが手掛ける「X8」でも重視しているとのこと。
 先行作品が大量に存在するVRシューターというジャンルに挑戦するうえで,鍵となるポイントのようだ。


「日本ならではのVR」とは何か


 「VRならでは」の要素は,VRゲーム全体にとって重要だが,市場のなかで日本企業のコンテンツが勝ち抜いていくには「日本ならでは」の部分も重要だ。

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 この点について池田氏は「世界に向けてゲームを販売するからと言って,欧米のゲーム会社が作るような作品を作らないでほしい」と話す。
 また,「難しいことなのは分かっているが,日本ならではの強みを活かしたコンテンツがほしいと思っている」と明言する。

 実際のところ,グローバル市場では,現状においても「日本のVRゲームは特徴的だ」と評価されているという。その特徴とは,どこにあるのだろうか?

 三上氏は「言葉からイメージされるものが,日本と欧米で違う」ことを指摘する。たとえば「ファンタジー」と言ったとき,日本ではいわゆる「中世ファンタジー」が想起されることが多い。その一方で,欧米だとハリーポッター的な世界が想起されやすい。こういった形で,ある単語から連想される「常識」の違いが,「日本らしさ」につながっているというわけだ。
 また,三上氏の友人曰く,ストーリーの展開にも特徴があるそうだ。「シリアスな場面でもギャグが混じるのは日本的」なのだという。

 このようにすでに個性を獲得している日本のVRゲームだが,一方で「Quest Storeにおけるプレゼンスは低め」だと吉本氏が語る。

 この理由について大野木氏は,「日本にはVR専門の開発会社がとても少なく,世界市場における競争を浴びた経験が薄い」ことと,「日本の大手ゲーム開発会社が本格的にVRへの参入を行っておらず,結果としてメジャーなIPがないため,マスへの広がりが起こっていない」ことを指摘した。
池田氏も,市場としてVR市場はまだまだ新しいことを踏まえ,例えばコンソールゲーム市場などに比較し「柔軟なコミュニケーション能力や,素早い対応能力が重要になる」と述べた。

 このように大いに盛り上がったラウンドテーブルだったが,最後に三上氏と大野木氏から今後の展望が語られた。
 三上氏は「新作となる『RUINSMAGUS』はソロのゲームだが,コミュニケーションが重要になるマルチプレイのゲームも作っていきたい」とアピールする。
 マルチプレイに対する情熱は大野木氏も同様で,「Thirdverseはメタバースを作りたいと思っており,その第一歩としてゲームから着手している状態。今後もVRゲームの開発会社として,またパブリッシャとして頑張っていきたい」と表明して,ラウンドテーブルを締めくくった。


Quest 2の値上げの影響は? 質疑応答から特徴的な質問をピックアップ


 ラウンドテーブル後に,質疑応答時間が設けられたので,特徴的なものをいくつかご紹介したい。

Q:VRゲームを制作するに当たって,従来のゲームより試行錯誤が多いかと思う。この試行錯誤を円滑に行う方法はあるか。

A:
三上氏:自分たちも,VRゲームは企画書だけで先に進められるものだとは考えていない。「体験して壊す」ことを前提とした社内文化を作っている。

大野木氏:弊社も同じ文化を育てている。RPGやFPSといった根本的なゲームモデルは,VRゲームにも転用できるが,実際のゲーム体験をより良くするには,試行錯誤するしかないからだ。ただ,ゲーム内で用いられる同じ動きに対しては,過去作の知見を転用できるので,その知見を積み上げていくことが会社独自の強みになる。

Q:
価格改定でQuest 2の値段が上がったが,影響は?

A:
吉本氏:引き続きQuest 2は独自の優位性がある製品だと考えている。価格改定したから遅れをとるとは思っていない。

三上氏:正直つらいと思う部分はある。ただ,無理して安値販売を続けられるより,価格を上げることでMetaが継続的にVRに対し投資し続けられるなら,そのほうが良い。特に弊社はVRをメインの商売にしているので,MetaがVRから撤退ということになると非常に困る。

大野木:自分は北米で働いているので日本の状況はちょっと把握しきれてないが,アメリカはインフレが進んでいるため値上げのインパクトが日本ほどない。とはいえ,ほかのデバイスと比較されるようになったら,大きな問題になるかもしれない。たとえば,PSVR2がすごく安かったら,Metaは大変になるのではないか。いち開発者としては,魅力ある作品を作っていくのみだ。

Q:
Quest Storeからは,ユーザーのデータをもらえていると思うが,それによってゲームが改善されたといったことはあるか?

A:
大野木:ユーザーフィードバックが得られるのはとても大きい。弊社では剣戟アクションを2作品出している。先行作品となったソード・オブ・ガルガンチュアは,リアルな剣戟を重視した。その結果,ユーザーからは「難しすぎる」という反応が多く,どうやら「コアにいくよりは,カジュアルにいくべきだ」という判断がくだせた。

Q:
さきほど「ゲームモデルは転用できるが体験は無理」という指摘があったが,これはつまり知見の転用は効くということかと思う。日本の開発会社を増やすにあたっては知見の水平展開が必要になると思うが,この点についてはどう考えるか。

A:
大野木:社外向けのセミナーは継続的に行っており,知見の共有はオープンにやっていこうと思っている。ただ,これまで共有してきた知見の多くはマーケティングに関するものだったので,これからは技術に関しても積極的に行いたい。
 実際のところ世界的に見ても,VRゲームの開発会社は,競合するというより,一緒に市場を大きくしていこうという意識が強い。

三上:弊社でも,技術を社内にとどめようとは思っていない。技術発信はどんどんやっていきたい。

4Gamerの東京ゲームショウ2022特設ページ

  • 関連タイトル:

    Meta Quest(旧称:Oculus Quest)

  • 関連タイトル:

    RUINSMAGUS 〜ルインズメイガス〜

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    X8

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